説明

土中埋設パイプ用パイプカバー

【課題】発泡ポリスチレンで構成され、中心軸に沿った分割切断面2により二つの分割片1a,1bに二分割された筒状をなす土中埋設パイプ用パイプカバー1について、土圧に耐え得る圧縮強度と、蛇行した土中埋設パイプに沿って屈曲させることができる中心軸方向の曲げ弾性率とを兼ね備え、断熱性にも優れたものとする。
【解決手段】中心軸方向に圧縮永久歪みを有することで、中心軸方向の曲げ弾性率が700N/cm2以下、少なくとも前記分割切断面2に対する垂直方向の圧縮強度が20N/cm2以上となっており、しかも密度が45kg/m3以下、独立気泡率が80%以上の発泡ポリスチレンで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土中に埋設されるパイプに被せ、その断熱用として用いるパイプカバーに関する。更に詳しくは、例えば、冬季の融雪や凍結防止用、夏期の周辺の降温用として、土中に配設された放熱パイプへの地下水の供給パイプの断熱などに用いられるパイプカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配管に被せてその断熱を図るためのパイプカバーとしては、発泡ポリオレフィンで構成され、中心軸方向に切れ目を入れて押し広げることができるようにした筒状をなすものが知られている。(例えば、特許文献1参照)。また、分割切断面により二つの分割片に二分割された筒状をなし、発泡ポリスチレンで構成されたものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−152090号公報
【特許文献2】特開2006−144813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発泡ポリオレフィンで構成されたパイプカバーは、柔軟すぎて、土中に埋設したときに潰れ、十分な断熱性が得にくくなる問題がある。発泡ポリスチレンで構成されたパイプカバーは、土圧に耐え得る圧縮強度を備えたものとすることができるが、屈曲性に乏しい。このため、特に土中埋設パイプが可撓性を有する場合、設置時に蛇行しがちな土中埋設パイプに沿わせて被せにくく、施工性が悪い問題がある。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、土圧に耐え得る圧縮強度と、蛇行した土中埋設パイプに沿って屈曲させることができる中心軸方向の曲げ弾性率とを兼ね備え、断熱性にも優れた土中埋設パイプ用パイプカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的のために、発泡ポリスチレンで構成され、筒状をなす土中埋設パイプ用パイプカバーにおいて、前記発泡ポリスチレンが、中心軸方向に圧縮永久歪みを有することで、可撓性が付与されていることを特徴とする土中埋設パイプ用パイプカバーを提供するものである。
【0007】
上記本発明は、前記発泡ポリスチレンの中心軸方向の曲げ弾性率が700N/cm2以下、少なくとも前記分割切断面に対する垂直方向の圧縮強度が10N/cm2以上となっていること、
前記発泡ポリスチレンの独立気泡率が80%以上であること、
前記発泡ポリスチレンの密度が45kg/m3以下であること、
中心軸に直角な断面における外形が矩形であること、
中心軸に沿った分割切断面により二つの分割片に二分割されていること、
前記二つの分割片が、前記分割切断面の幅方向の一端部側で前記二つの分割片に跨って付設されたテープをヒンジとして開閉可能となっていること
をその好ましい態様として含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のパイプカバーを構成する発泡ポリスチレンは、発泡合成樹脂の中でも剛性が高く、圧縮強度に優れている反面、曲げ弾性に乏しい特性を有する。本発明のパイプカバーを構成する発泡ポリスチレンは、中心軸方向に圧縮永久歪みを有するものとなっている。本発明のパイプカバーを構成する発泡ポリスチレンは、中心軸方向の圧縮永久歪みを有することで、いわば中心軸方向に伸縮可能な蛇腹状になっており、中心軸方向の曲げ弾性が向上されている。その一方、中心軸に対する直角方向には押し潰されていないので、中心軸に対する直角方向の圧縮強度は大きく低下せずに維持されている。これらのことから、本発明のパイプカバーを構成する発泡ポリスチレンは、蛇行した土中埋設パイプに沿って容易に屈曲させて被せることができ、しかも土圧によって潰れることがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は本発明に係る土中埋設パイプ用パイプカバーの一例を示す斜視図である
【図2】図1に示される土中埋設パイプ用パイプカバーの分割片を半開させた状態の端面方向の拡大図である。
【図3】圧縮永久歪みと、この圧縮永久歪みの方向(中心軸方向)に沿った曲げ弾性率との関係を示す図である。
【図4】圧縮永久歪みと、この圧縮永久歪みの方向(中心軸方向)に直角な方向の圧縮強度との関係を示すずである。
【図5】圧縮永久歪みと、独立気泡率との関係を示す図である。
【図6】本発明に係る土中埋設パイプ用パイプカバーの製造に際しての圧縮永久歪みの付与方法の説明図である。
【図7】本発明に係る土中埋設パイプ用パイプカバーの製造方法の説明図である。
【図8】本発明に係る土中埋設パイプ用パイプカバーの製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の一例を説明する。
【0011】
図1及び図2に示されるように、本例のパイプカバー1は、中心軸に沿った分割切断面2により二つの分割片1a,1bに二分割された筒状をなしている。中心軸に直角な断面における内形は、土中埋設パイプ3に被せて把持することができるよう円形をなし、外形は矩形となっている。外形は円形でも良いが、矩形とすると転がりにくく、設置時の安定性が良いので好ましい。通常は正方形であるが、長方形とし、長辺側を上下方向に向けて設置することで設置安定性を更に向上させることもできる。
【0012】
二つの分割片1a,1bは、分割切断面2の幅方向の一端部側でこの二つの分割片1a,1bに跨って付設されたテープ4をヒンジとして開閉可能となっている。分割片1a,1bをテープ4で開閉可能につないでおくと、分割片1a,1bがバラバラにならず、取り扱い性が向上すると共に、分割片1a,1b間に土中埋設パイプ3を挟み込ませた後、必要に応じて分割片1a,1bの自由端側をテープ止めするだけで固定することができるので好ましい。
【0013】
本発明のパイプカバー1は、発泡ポリスチレンで構成されている。発泡ポリスチレンとしては、通常の断熱用として汎用されているものを用いることができ、押し出し発泡体でもビーズ発泡体でもよい。但し、吸水性が小さく、良好な断熱性が得やすいことから、押し出し発泡ポリスチレンが好ましい。
【0014】
本パイプカバー1を構成する発泡ポリスチレンは、中心軸方向に圧縮永久歪みが付与されたものとなっている。圧縮永久歪みは、パイプカバー1の中心軸方向の曲げ弾性率を向上させるためのもので、本発明のパイプカバー1を構成する発泡ポリスチレンは、中心軸方向に圧縮永久歪みが付与されていることにより、可撓性が付与され、中心軸方向が屈曲しやすくなっている。具体的には、この圧縮永久歪みの付与により、中心軸方向の曲げ弾性率が700N/cm2以下になっていることが好ましい。
【0015】
表1と図3に、押し出し発泡ポリスチレンについての、圧縮永久歪みと、この圧縮永久歪みの方向に沿った曲げ弾性率との関係を示す。曲げ弾性率は、幅7.5cm、厚さ2cm、長さ30cmの押し出し発泡ポリスチレンの試験片について、長さ方向に圧縮して圧縮永久歪みを付与し、その後(圧縮力を解除してから1時間後)、JIS A 9511:2006に準拠して長さ方向について測定することで求めた。また、縮永久歪みは、上記試験片の圧縮前の長さをL1、長さ方向に圧縮後常温で1時間放置後(曲げ弾性率測定時)の長さをl1とした時に{(L1−l1)/L1}×100で求めた値である。なお、試験片は、密度が40kg/m3(26.3倍発泡品)、31kg/m3(34倍発泡品)、26kg/m3(40倍発泡品)の三種類で、これらは断熱用として汎用されている密度のものである。
【0016】
【表1】

【0017】
表1及び図3から明らかなように、圧縮永久歪みを付与することにより、この圧縮永久歪みの方向に沿った曲げ弾性率を下げることができる。特にパイプカバー1として、土中埋設パイプ2が蛇行しているときでも、割れを生じることなく容易に被せることができるようにするためには、中心軸方向の曲げ弾性率が700N/cm2以下であることが好ましく、これはほぼ5%以上の永久圧縮歪みを付与することで得られることが分かる。
【0018】
表2と図4に、密度が40kg/m3(26.3倍発泡品)、31kg/m3(34倍発泡品)、26kg/m3(40倍発泡品)の押し出し発泡ポリスチレンについての、圧縮永久歪みと、この圧縮永久歪みの方向に直角な方向の圧縮強度との関係を示す。幅10cm、厚さ2cm、長さ10cmの押し出し発泡ポリスチレンの試験片について、長さ方向に圧縮して圧縮永久歪みを付与し、その後(圧縮力を解除してから1時間後)、JIS A 9511:2006に準拠して厚さ方向の圧縮強度を測定すると共に、前記と同様にして縮永久歪みを求めた。
【0019】
【表2】

【0020】
表2及び図4から明らかなように、圧縮永久歪みを付与しても、この圧縮永久歪みの方向に直角な方向の圧縮強度はさほど大きく低下しない。パイプカバー1は、通常、分割片1a,1bが上下に重ねられた状態で、1〜2m程度の深さに埋設される。このことから、土中埋設パイプ2に被せて埋設したときに潰れないようにするためには、少なくとも分割切断面2に対する垂直方向の圧縮強度が10N/cm2以上となっていることが好ましく、20N/cm2以上であることがより好ましい。表2及び図4に示されるように、この圧縮強度は、密度が26kg/m3の押し出し発泡ポリスチレンに25%の圧縮永久歪みを付与し、中心軸方向の曲げ弾性率を190N/cm2としても得ることができることが分かる。
【0021】
次に、表3と図5に、密度が40kg/m3(26.3倍発泡品)、31kg/m3(34倍発泡品)、26kg/m3(40倍発泡品)の押し出し発泡ポリスチレンについての、圧縮永久歪みと、独立気泡率との関係を示す。試験片を一方向に圧縮して圧縮永久歪みを付与し、その後(圧縮力を解除してから1時間後)、前記と同様にして圧縮永久歪みを測定すると共に、ASTM D 2856に準拠して独立気泡率を求めた。
【0022】
【表3】

【0023】
表3及び図5から明らかなように、圧縮永久歪みが大きくなると、独立気泡率が低下する傾向を有する。土中埋設後に吸水して断熱性の大きな低下を生じないようにするためには、独立気泡率が80%以上であることが好ましい。しかし、表3及び図5に示されるように、この独立気泡率は、密度が26kg/m3の押し出し発泡ポリスチレンに25%の圧縮永久歪みを付与し、中心軸方向の曲げ弾性率を190N/cm2としても得ることができることが分かる。
【0024】
また、圧縮永久歪みを付与すると密度は上昇し、本発明のパイプカバー1を構成する発泡ポリスチレンの密度は、圧縮永久歪みの付与前に比して上昇する。しかし、土中埋設パイプ2の蛇行に沿って屈曲可能な可撓性を付与する程度の圧縮では、極端な密度の上昇は生じないので、パイプカバー1として必要な断熱性を十分維持することができる。高い断熱性能を得る上で、本発明のパイプカバー1を構成する発泡ポリスチレンの密度は、圧縮歪みの付与後において、45kg/m3以下であることが好ましい。
【0025】
本発明における発泡ポリスチレンの中心軸方向の曲げ弾性率は、前記のように700N/cm2以下であることが好ましく、その下限は圧縮強度及び独立気泡率の好ましい範囲の下限又は密度の好ましい範囲の上限から自ずから定まる。圧縮強度及び独立気泡率の好ましい範囲の上限及び密度の好ましい範囲の下限は、圧縮永久歪みを付与する前の発泡ポリスチレンについてのこれらの値で自ずから定まる。本発明の好ましい条件を満たす発泡ポリスチレンは、概ね5〜25%の圧縮永久歪みを付与することで得ることができる。また、弾性屈曲性、圧縮強と、断熱性及び独立気泡率のバランスのとれたパイプカバー1とするためには、中心軸方向に10〜20%の圧縮永久歪みを付与した発泡ポリスチレンを用いることが好ましく、特に押し出し発泡ポリスチレンを用いることが好ましい。
【0026】
次に、本発明のパイプカバーの製造方法について説明する。
【0027】
本発明で原材料として用いる発泡ポリスチレンとしては、公知の押し出し発泡又はビーズ発泡で製造された板状のものを用いることができる。圧縮永久歪みの付与は、図6に示されるように、搬送途中の発泡ポリスチレン板5の前後をベルトローラ6,6と7,7で挟み、搬送方向上流側のベルトローラ6,6を下流側のベルトローラ7,7より早い速度で運転し、両ベルトローラ6,6と7,7の間で発泡ポリスチレン板5を圧縮することで行うことができる。このような圧縮は、搬送方向上流側と下流側に回転速度の相違する通常のローラを配置することでも行うことができる。発泡ポリスチレン板5は、製造すべきパイプカバー1の分割片1a,1b(図1、図2参照)と同じ厚さのものでも良いが、厚いものを用い、上記圧縮処理後に分割片1a,1bの厚さにスライスしても良い。
【0028】
次いで、図7に示されるように、圧縮永久歪みを付与し、製造すべきパイプカバー1の分割片1a,1b(図1、図2参照)と同じ厚さとした発泡ポリスチレン板5の片面に、パイプカバー1の内面を構成する溝8,8,…を形成する。この溝8,8,…の形成は、例えばU字形の熱線で発泡ポリスチレン板5の表面を削り取ることで行うことができる。
【0029】
更に、図8に示されるように、各溝8,8,…毎に分けて所定の幅と長さの棒状体9,9,…として切り出し、二本の棒状体9,9を図1及び図2で説明した分割片1a,1bとして組み合わせることでパイプカバー1を得ることができる。また、パイプカバー1を断面矩形とすると、前記した設置時の安定性の他、製造時の切断屑の発生量を少なくでき、切り出しも容易となる利点がある。
【0030】
なお、本発明に係るパイプカバーの一例として、中心軸に沿った分割切断面により二つの分割片に二分割された形態のものを説明したが、分割されていない筒状をなし、土中埋設パイプを一端から差し込んで使用するパイプカバーとすることもできる。また、三分割以上に分割した筒状のパイプカバーとすることもできる。
【符号の説明】
【0031】
1 パイプカバー
1a,1b 分割片
2 分割切断面
3 土中埋設パイプ
4 テープ
5 発泡ポリスチレン板
6,7 ベルトロール
8 溝
9 棒状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡ポリスチレンで構成され、筒状をなす土中埋設パイプ用パイプカバーにおいて、前記発泡ポリスチレンが、中心軸方向に圧縮永久歪みを有することで、可撓性が付与されていることを特徴とする土中埋設パイプ用パイプカバー。
【請求項2】
前記発泡ポリスチレンの中心軸方向の曲げ弾性率が700N/cm2以下、少なくとも前記分割切断面に対する垂直方向の圧縮強度が10N/cm2以上となっていることを特徴とする請求項1に記載の土中埋設パイプ用パイプカバー。
【請求項3】
前記発泡ポリスチレンの独立気泡率が80%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の土中埋設パイプ用パイプカバー。
【請求項4】
前記発泡ポリスチレンの密度が45kg/m3以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の土中埋設パイプ用パイプカバー。
【請求項5】
中心軸に直角な断面における外形が矩形であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の土中埋設パイプ用パイプカバー。
【請求項6】
中心軸に沿った分割切断面により二つの分割片に二分割されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の土中埋設パイプ用パイプカバー。
【請求項7】
前記二つの分割片が、前記分割切断面の幅方向の一端部側で前記二つの分割片に跨って付設されたテープをヒンジとして開閉可能となっていることを特徴とする請求項6に記載の土中埋設パイプ用パイプカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−132519(P2012−132519A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285928(P2010−285928)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000109196)ダウ化工株式会社 (69)
【出願人】(000137074)株式会社ホクコン (40)
【Fターム(参考)】