説明

土中埋設資材

【課題】地中に対する各種構造物の構築、調査等に用いられ、用途に応じた強度を確保しつつ、より環境負荷の小さい土中埋設資材を提供する。
【解決手段】土中埋設資材を、タケ類を水蒸気処理して得られるタケ維管束鞘由来の繊維状体を長さ方向に沿う三次元形状の成形体としたり、また、繊維状体と植物体材料を水蒸気処理して得られる粉状体を含む成形材料を熱圧して成形体としたり、繊維状体の層と粉状体の層を交互に備えを備える成形体としたりして、前記繊維状体の長さ方向に沿う三次元形状を有する、成形体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に対する各種構造物の構築、調査等に用いられる土中埋設資材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事、地盤堀削工事、地質調査、地下水調査等ために、土中に埋設される土中埋設資材が用いられている。従来、この種の土中埋設資材としては、金属製又はプラスチック製のものが用いられている。こうした土中埋設資材は、薬剤注入を意図したパイプ状であったり、一時的な補強や支持を意図した棒状であったりするなど、用途に応じた形態を備えている。土中埋設資材は、地盤補強、調査、試料採取等の用途目的を達成後は、埋め殺しされるかあるいは堀削機械等による堀削によって破壊ないし粉砕される。
【0003】
土中埋設材は、通常、再利用が意図されるものではなく、最終的には地盤改良のために埋め殺しされるかあるいは廃棄物となる資材である。したがって、こうした使用形態を考慮して、生分解性や粉砕容易性を向上させる試みがなされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−118631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、埋め殺しの場合のほか堀削土中における生分解性には依然として問題があった。また、生分解性とはいえ分解前の樹脂を主体とする資材が残存していれば、廃棄が困難となるとともに、堀削土の利用も制限されることになってしまっていた。さらに、生分解性プラスチックをバイオマスを原料として取得しえたとしても、環境に負担が大きく、CO2削減には寄与しえないものであった。
【0006】
本明細書の開示は、用途に応じた強度を確保しつつ、より環境負荷の小さい土中埋設資材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、タケ類を原材料として用いて土中埋設資材を成形体として取得することで、十分な強度、切削容易性、生分解性及び低環境負荷性を備えた実用的な土中埋設資材を提供できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本明細書の開示によれば、以下の手段が提供される。
【0008】
本明細書の開示によれば、土中埋設資材であって、
タケ類を水蒸気処理して得られるタケ維管束鞘由来の繊維状体、
を備え、
前記繊維状体の長さ方向に沿う三次元形状を有する、成形体である、資材が提供される。
【0009】
前記成形体において、前記繊維状体はその長尺方向が同一方向に配列されていてもよい。また、前記繊維状体と植物体材料を水蒸気処理して得られる粉状体を含む成形材料を熱圧して得られる成形体であってもよい。前記粉状体は、木質材料由来であってもよく、タケ類を水蒸気処理して得られる柔組織由来であってもよい。さらにまた、タケ類は、タケ、ササ及びバンブーから選択される1種又は2種以上であってもよい。また、前記成形体は、前記繊維状体の層と前記バインダの層と交互に備えるものであってもよい。前記土中埋設材は、棒状又はパイプ状であってもよい。
【0010】
本明細書の開示によれば、土中埋設資材の製造方法であって、
タケ類を水蒸気処理する工程と、
前記水蒸気処理によって得られる処理物の維管束鞘由来の繊維状体と柔組織由来の粉状体とを取得する工程と、
少なくとも前記繊維状体を加熱して前記繊維状体の長さ方向に沿う長尺の三次元形状を付与して成形体を得る工程と、
を備える、製造方法が提供される。
【0011】
本明細書の開示は、土中埋設資材及びその製造方法に関する。本明細書に開示される土中埋設資材によれば、タケ類を水蒸気処理して得られる維管束鞘由来の繊維状体を、その長さ方向に沿う長尺体に成形されているため、十分な強度を得ることができる。また、植物体の水蒸気処理物を主体とするために、生分解性、低環境負荷性を備えている。さらに、堀削機械による切削加工性においても優れている。以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
(土中埋設資材)
本明細書に開示される土中埋設資材は、公知の土中埋設資材の各種形態を特に限定なく有することができる。土中埋設資材は、地盤補強や改良のための薬剤注入用には長尺のパイプ状体とすることができる。また、トンネル工事などの地盤支持又は補強のためには、長尺の棒状体とすることができる。また、ボルト状であってもよい。こうした土中埋設資材は、土中に埋設後は、埋め殺し又は堀削機械や発破などによって破壊又は粉砕される。特に、トンネル用の土中埋設資材の場合、ボルト状という形態を採ることが好ましい。ボルト状体は、表面にねじ山を有するものであってもよい。ボルト状であると、維管束鞘由来の繊維状体により効果的に強度を確保できるからである。
【0013】
本明細書に開示される土中埋設資材は、タケ類を水蒸気処理して得られる維管束鞘由来の繊維状体を少なくとも有し、前記繊維状体の長さ方向に沿う長尺の三次元形状を付与して得られる成形体である。
【0014】
(繊維状体)
本明細書に開示される土中埋設資材は、タケ類を水蒸気処理して得られるタケ維管束鞘由来の繊維状体を含んでいる。こうした繊維状体は自己接着性を有しているため、加熱により互いに強固に結合される。また、適当なバインダにより一層強固に結合され一体化される。タケ類としては、タケ、ササ及びバンブー等が挙げられる。さらにタケとしては、モウソウチク、マダケ、ハチク等が挙げられる。タケ類としては、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。繊維状体の原料としては、タケ類以外の植物を含んでいてもよい。なかでも、単子葉植物が好ましい。単子葉植物は、草本植物と木本植物とを包含しているが、本発明においては、単子葉植物のなかでも、取得できる繊維状体の長さを考慮すると、タケ類以外には、高木状となる植物を好ましく用いることが好ましい。このような単子葉植物としては、たとえば、タケ類のほか、ヤシ類、イネ、ススキ、トウモロコシ、バガス、バショウ、バナナ、ササ、イグサ、サイザル等が挙げられる。これらの単子葉植物においては大量に繊維材料および粉末材料を採取できるとともに、長い繊維材料を容易に採取できるからである。ヤシとしては、シュロ、アブラヤシ及びココヤシなどが挙げられる。単子葉植物としては、各種の単子葉植物を1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、なお、タケ類やタケ類以外の単子葉植物並びにその他の植物は、その幹部又は茎部を使用することが好ましい。本発明においては、採取され未だ加工されてない状態の単子葉植物のみならず、水蒸気処理が未だ施されていない単子葉植物であれば他の用途に用いられていたものであっても用いることができる。したがって、建築用材や各種の用途に用いられていた竹やヤシなども、本発明における単子葉植物に含まれる。
【0015】
繊維状体は、タケ類や他の植物を水蒸気処理して得られる。植物を水蒸気処理することで、植物は自己接着性を発揮するようになる。これは、植物を構成するリグノセルロース構造の構成成分が水蒸気処理により分解等されたためである。繊維状体は、用いる土中埋設資材の長さによもよるが、長さが30cm以上500cm以下であることが好ましい。こうした範囲の長さであると、土中埋設資材としての用途に十分な強度を発揮するとともにその形状維持に効果的であるからである。より好ましくは、60cm以上400cm以下である。特に、トンネル用土中埋設資材に用いるときには、100cm以上400cm以下であることが好ましい。なお、地盤補強用のボルト状などの土中埋設資材はおおよそ5m以内(典型的には3〜4m程度)を単位として製造される(使用時は、連結して10mを超える状態とすることが多い)。繊維状体は、こうした土中埋設資材(単位)のおおよそ全長にわたる長さを備えることが、構造維持性や強度の点において好ましい。
【0016】
また、繊維状体は、タケ類等から分離されたままの状態(例えば、単繊維状あるいは束状等)以外の形態であってもよい。すなわち、繊維状体は、例えば、編地、織布、不織布等の構成によって、二次元あるいは三次元状の形態を保持していてもよい。また、交絡されてフェルト状あるいはマット状に形成されていてもよい。本明細書に開示される繊維状体は、自己接着性を有しているため、所望の線状構造や、二次元形態等の高次構造を容易に構築できる。
【0017】
(粉状体)
土中埋設資材は、植物体材料を水蒸気処理して得られる粉状体を含んでいてもよい。こうした粉状体を含むことにより、成形性が良好となるほか、成形体の密度や強度も向上させることができる。植物体材料は、特に限定しないが、スギ、ヒノキ等の針葉樹、ブナ等の広葉樹などの木本植物や当該木本植物に由来する木質材料であってもよい。木質材料としては、木本植物の加工物やその廃棄物であってもよい。植物体は、草本植物であってもよく、双子葉植物であっても単子葉植物であってもよい。単子葉植物の場合、原料部位を維管束鞘及び柔組織のいずれか又は双方とすることができるが、繊維状体の取得や加工容易性を考慮すると、好ましくは、柔組織である。また、繊維状体の製造を考慮すると、タケ類、特にタケ類の柔組織を粉状体の原料として用いることが好ましい。
【0018】
粉状体は、例えば、平均粒経で250μm以下の粒径の粒子であることが好ましい。こうした粒径の粒子であると、成形体を効果的に緻密化し強度を向上させることができる。こうした粉状体は、単子葉材の基本組織、すなわち、柔細胞が水蒸気処理された処理物から得ることができる。自己接着性粉末材料は、100℃以上260℃以下で少なくともその一部が軟化あるいは溶融することが好ましい。こうした熱特性を有することで、自己接着性繊維材料間を充てんして良好なマトリックスを形成することができる。より好ましくは120℃以上220℃以下である。
【0019】
粉状体は、繊維状体と同様、植物体材料を水蒸気処理して得られる。以下に、水蒸気処理工程及び繊維状体や粉状体を得るのに付随しうる工程について説明する。
【0020】
(水蒸気処理工程)
水蒸気処理に供される植物体は、水蒸気処理に先立って適当な大きさに切断されることが好ましい。例えば、水蒸気処理によって得られる繊維材料の最大長さは、水蒸気処理に供される植物の長さに依存する。繊維状体原料としてタケ類を用いることで、目的に対して十分な長さに処理した植物を水蒸気処理に供して、所望の長さの繊維状体を得ることができる。
【0021】
水蒸気処理に供する植物の含水率(乾量基準)は、120%(以下、含水率においては重量%を意味する。)以下であることが好ましい。含水率が120%を超えると、水蒸気処理によって植物中に生成する分解成分が流出しやすくなり、有効量の分解成分が処理後の繊維状体や粉状体に保持されにくくなるからである。より好ましくは、8%以上100%以下である。かかる範囲であると、植物全体を均一に水蒸気処理して分解成分を生成させると同時に分解成分の流出を効果的に抑制できて、好ましい成形性とを備える繊維状体と粉状体とを同時に得ることができる。8%未満であると、水蒸気による暴露が不均一になりやすく、このため、分解成分の生成も不均一になり、流動性の良好な熱可塑性材料を得られにくくなる。一方、100%を超えると、水蒸気処理中に植物中の自由水が遊離しやすくなり、この自由水の遊離とともに分解成分が植物から流出しやすくなり、得られる処理物のバインダ性能が低下する。より好ましくは、15%以上100%以下である。さらに、好ましくは、30%以上100%以下である。含水率は、植物を乾燥する工程においてその程度を調整することができる。逆に、含水率は、植物に対して外部から水分を付与することによっても調整することができる。
【0022】
水蒸気処理は、飽和水蒸気下で加熱するなど、各種形態で実施することができるが、好ましくは、耐圧容器内で、高圧下加熱水蒸気に植物を曝すことによって行う。また、上記したように自己接着性の繊維状体と粉状体とを取得するためには、好ましくは、本発明における水蒸気処理は、約100℃以上で加熱することが好ましく、また、上限は好ましくは約260℃以下である。100℃以上260℃以下であると、ヘミセルロースの分解を行う一方、分解縮合等の副反応を抑制することができる。好ましくは、約120℃以上約220℃以下に加熱する。より好ましくは、約180℃以上約220℃以下とする。
【0023】
加熱温度が約180℃以上約220℃以下のとき、例えば、該温度範囲内にて数分から数十分間程度処理すればよい。
【0024】
水蒸気処理を終了させるときは、徐々に圧力を下げることもできるし、一挙に大気圧まで開放することもできる。大気圧まで一挙に開放する場合には、処理装置内の植物内部の水分が一挙に蒸気化されることにより、植物内で爆発が生じて植物の組織が破壊される。この結果、植物が細分化されて繊維状や粉末状等に粉砕することができる(以下、高圧状態から一挙に圧力開放することを、爆砕という)。爆砕によれば、その後の解繊工程を省略あるいは簡略化できる。また、乾燥工程も効率的に実施できるようになる。なお、爆砕を実施する場合には、水蒸気処理における加熱温度は、180℃以上260℃以下であることが好ましい。より好ましくは、約200℃以上約230℃以下とする。
【0025】
植物が水蒸気処理されることにより、当該材料中に含まれていたセルロースあるいはヘミセルロースなどのセルロース系成分が加水分解等を受けて分解成分が生成される。また、当該材料中に含まれていたリグニン系成分も変性あるいは分解され、分解成分が生成される。したがって、単子葉材を水蒸気処理して得られる処理物は、セルロース系分解成分とリグニン系分解成分とを含有する。かかる材料は、理論的に十分に解明されてはいないものの、加熱により、少なくともその一部が溶融し、可塑性を発現するため、成形体における基材のバインダとして機能することができる。
【0026】
成形材料として有用な材料を得るには、水蒸気処理によって植物中のリグニンやセルロース系成分を十分に分解させて単子葉材において十分なセルロース系分解成分および/またはリグニン系分解成分を生成させる必要がある。なかでも、植物において多量に含まれるセルロース系成分を十分に分解させる必要がある。例えば、タケ類などの単子葉植物を水蒸気処理することで、一挙に繊維状体と粉状体を得ることができる。すなわち、繊維状体として適した長さを有するタケ類を水蒸気処理することで、維管束鞘部分は繊維状体として、柔組織は粉状体として、水蒸気処理により一挙に得ることができる。また、同時に、本発明によれば、いずれにも十分な自己接着性を付与することができる。すなわち、水蒸気処理に供されるタケ類が大きくても、すなわち、熱伝導等に部位的差異があったとしても、柔細胞を主体とする基本組織中に維管束鞘が分散する構造を利用すれば、柔細胞には水蒸気処理により効果的に通熱されて分解が進み、容易に粉末状あるいは粉末状に解砕可能となるとともにおおよそ十分な自己接着性を発現させることができ、維管束においては硬い厚壁繊維の存在によってその物理的構造を維持させるとともに、その表面では自己接着性を有する分解生成物を生じさせることができるのである。
【0027】
このような水蒸気処理により得られた処理物は、これら分解成分が組織内に保持されあるいは組織から材料表面に浸出した状態となっている。処理物においては、必ずしも繊維状体と粉状体とに物理的に分解されているわけではなく、解繊あるいは解砕により繊維状体と粉状体の形態を包含した状態となっていればよい。なお、爆砕によれば、繊維状体と粉状体とに一挙に分離されている場合もある。
【0028】
(乾燥工程)
水蒸気処理後、処理物を乾燥することが好ましい。水分が多量に存在すると、成形用混合物を加熱して流動化させる際、水分が気化して成形性あるいは流動性を損なう可能性がある。また、分解成分が水分の蒸発とともに移動して流動性や成形性を損なう可能性がある。
【0029】
乾燥工程は、一般には、本材料の含水率(乾量基準)が28%以下となるまで実施することが好ましい。より好ましくは12%あるいは気乾含水率まで乾燥する。さらに好ましくは8%以下となるまで乾燥する。
【0030】
乾燥は、常温下でも高温下でも行い得るが、好ましくは、水蒸気処理の後、積極的に乾燥する。水蒸気処理後、早期に水分を蒸発させることにより、水分とともに水溶性の分解成分が離脱することを抑制して、分解成分をセルロース含有材料に多く残留させることができる。なお、積極的な乾燥とは、水分蒸発を促進するための送風および/または熱を付与しながら乾燥させることをいう。具体的には、水蒸気処理温度以下の高温下での乾燥や、常温下での送風等による乾燥である。なお、含水率は、JIS Z 2101木材の試験方法 3.2 含水率に準じて測定することができる。
【0031】
(解繊および/または解砕工程)
水蒸気処理による処理物から繊維状体と粉状体とをそれぞれ得るには、解繊および/または解砕工程を実施することが好ましい。爆砕を実施した場合であっても、解砕および/または解繊工程を実施することで繊維をほぐし、粉末を微細化あるいは凝集をほぐして使用に適した形態とすることができる。なお、既に述べたように、水蒸気処理時における単子葉植物などの植物の原型の少なくとも一部を留めるような集合形態を保持させる場合には、解繊工程や解砕工程を全く必要としない場合もある。解繊および/または解砕には、公知の解繊機や解砕機を用いることができる。解繊機としては、例えば、ゼファー化装置のほか、ビータや回転、歯や針、流体を用いたものなど各種解繊機が挙げられる。
【0032】
なお、解繊工程や解砕工程後において、繊維状体と粉状体とを分離してもよいし、分離しなくてもよい。一方のみを必要とする場合には、分離すればよいが、両者が混合した状態において良好な成形材料であるのであえて分離する必要はなく、そのまま成形材料組成物とすることもできる。また、繊維状体あるいは粉状体のみをさらにサイズ加工や二次加工する場合には、サイズ加工等する材料を分離することは容易であり、必要に応じて分離して一方の材料をサイズ加工することができる。また、繊維状体を撚糸或いは紡績する場合には、必要に応じて繊維材料を分離することができる。なお、本発明の成形状体の製造方法は、自己接着性繊維状体と自己接着性粉状体とをそれぞれ得ることもでき、これらの材料はいずれも成形材料であるが必ずしも同時に成形材料として使用する必要はない。
【0033】
本明細書に開示される成形体の材料には、他の樹脂材料を含んでいてもよい。かかる他の樹脂材料としては、通常の熱可塑性樹脂材料、熱硬化性樹脂材料、生分解性樹脂材料を使用することができる。これらの材料の比率は、成形体若しくはその材料の全質量に対して35質量%以下である。35質量%を超えると、生分解性や低環境負荷性に支障がでるからである。より好ましくは30質量%以下である。熱可塑性樹脂材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS、塩化ビニルなどを用いることができるが、好ましくは、ポリプロピレン、ポリエチレンを用いることができる。また、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等を用いることができる。好ましくは、フェノール樹脂を用いることができる。生分解性樹脂材料を用いることにより、成形体全体としての生分解性を容易に確保することができる。なお、生分解性樹脂材料としては、ポリ乳酸、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸、ポリコハク酸ブチレン等の脂肪族ポリエステル材料から選択される1種あるいは2種以上を選択して用いることができる。これらの脂肪族ポリエステル材料は、優れた生分解性と入手容易な点において好ましい。
【0034】
成形体の材料には、さらに、強度確保や賦形性のための無機あるいは有機フィラー、可塑剤、着色剤、揮発性溶媒などの通常の成形用組成物が含有することのできる各種添加剤を含むことができる。無機フィラーとしては、ガラス、金属、炭素系材料、およびセラミックス材料からなる、チップ状、球状、針状、及びファイバー状粒子等を挙げることができる。また、無機フィラーとしては、たとえば、クレーなどの天然物を用いることもできる。有機フィラーとしては、リグノセルロース系材料(薄片、球状、不定形状粒子やファイバーを含む)、タンパク質系材料(粒子やファイバーを含む)、あるいは合成樹脂材料(粒子あるいはファイバー)などを利用することができる。
【0035】
本明細書に開示される成形体は、こうした成形材料の混合物を加熱して繊維状体の長尺方向に沿う長尺の三次元形状を付与して得られる成形体である。以下、加熱成形工程及び当該工程に付随しうる工程について説明する。
【0036】
(加熱成形工程)
加熱成形工程は、少なくとも繊維状体を含む成形材料を加熱して繊維状体の長尺方向に沿う長尺の三次元形状を付与して成形する工程である。ここで、繊維状体の長尺方向に沿うとは、実質的に繊維状体の長尺方向に沿っていればよい。例えば、繊維状体が交絡されている場合には、繊維状体が波打ち状になっていたとしても、その全体を見てその長尺方向に沿っていれば足りる。
【0037】
成形体を製造するにあたっては、成形・搬送・ハンドリングに適した形状や大きさを備えた成形前駆体とすることができる。この成形前駆体は、繊維状体の長尺方向に沿う長尺の三次元形状を備えることができる。このような前駆体は、少なくとも繊維状体を加圧することによって得ることができる。繊維状体が本来的に有する分解成分は、常温でもある程度の粘結性を有しているからである。また、繊維状体は、既に述べたように各種の高次構造を保持することができるので、そういった高次構造を有する成形前駆体とすることもできる。また、繊維状体及び粉状体の双方の接着性を利用すれば成形前駆体の形状を容易に保持することができる。さらに、成形前駆体は、繊維状体の層と粉状体の層とを交互に備える積層構造を備えることもできる。
【0038】
加熱成形工程における加熱条件は、繊維状体の熱特性を考慮して決定することができる。加熱温度は、好ましくは、約100℃以上約260℃以下とすることができる。好ましくは、約140℃以上であり、より好ましくは約150℃以上である。また、炭化を考慮すると約200℃以下とすることが好ましい。加熱温度は、水蒸気処理時の温度が高い場合には、相対的に低く設定することができ、水蒸気処理温度が低い場合には、相対的に高く設定することが好ましい。
【0039】
加熱に際して、成形体の材料を加熱して可塑化後、適切な形状付与手段を適用することにより成形体を得ることができる。形状付与手段は、たとえば、型を使用したり、ダイを通過させたりする従来公知の手段を使用することができる。その後、冷却することにより、成形体を得ることができる。成形方法としては、射出成形、押出し成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、異形押出し成形、スタンピングモールド成形、スタンパブル成形、シートスタンピング法等を含むスタンピング成形等の各種成形方法に適用できる。なかでも、圧縮成形や押し出し成形等が好ましい。加熱成形工程後は、成形体を冷却することができる。
【0040】
こうして得られる成形体は、以上のように、タケ類を水蒸気処理して得られる維管束鞘由来の繊維状体を、その長さ方向に沿う長尺体に成形されているため、十分な強度を得ることができる。また、粉状体とともに、植物体の水蒸気処理物を主体とするために、生分解性、低環境負荷性を備えている。さらに、堀削機械による切削加工性においても優れている。
【0041】
また、成形体は、長尺の成形体の長尺方向に沿うように繊維状体の長尺方向が配列されていると、長尺方向に沿う強度が十分に確保される。なお、本成形体にあっては、その幅方向の強度は、タケ類の維管束鞘由来の繊維状体が本来的に有する強固な構造と成形の際の加熱による自己接着性により十分に確保されている。
【0042】
成形体においては、繊維状体の実質的に全てがその長尺方向が成形体の長尺方向に配列されていることが好ましい。こうした形態であると、長尺方向によってより確実に強度を確保できるとともに、幅方向においても十分な強度を確保しやすい。さらに、成形体は、繊維状体の層と粉状体の層と交互に備えるものであってもよい。こうすることで、緻密質な成形体を得ることができ、長尺成形体の長尺方向及び幅方向により確実に良好な強度を得ることができる。繊維状体の層が2層以上あることが好ましく、より好ましくは3層以上であり、さらに好ましくは5層以上である。
【0043】
(生分解性)
成形体は、タケ類の水蒸気処理物に由来する繊維状体を含んでいるため、条件に応じた生分解性を示す。例えば、地盤補強等により土中に埋設される場合など、補強用樹脂や土中の嫌気性により生分解性が抑制される条件下では、抑制された生分解性、換言すれば、良好な構造維持性を示す。一方、掘削機等により破壊ないし粉砕されて土中から排出されて大気に曝されるなどして生分解が促進される条件下では、良好な生分解性を示す。したがって、本発明の土中埋設資材は、生分解性と構造維持性の双方を兼ね備えることができる。一つの土中埋設資材において、生分解性も構造維持性もが求められるときに好都合である。特に、樹脂等を含まず、タケ類由来の繊維状体など植物体由来の成形材料のみから構成される場合には、生分解が促進される条件下では極めて良好な生分解性を示す。また、繊維状体および粉末状体の熱可塑性に基づいて、加熱により再度可塑性を発現させることができる。したがって、本成形体が不要となった場合において、再度加熱することにより、再び成形材料として使用できる。すなわち、そのままの組成で新たな形状を付与することもできるし、他の材料と組み合わせて新たな形状を付与することもできる。さらに、充填剤として別の用途に転用することもできる。また、使用済みの本成形体を可塑化させることにより、成形体中の他のフィラーなどの複合材料や樹脂材料と分離しあるいはこれらを回収することができる。
【0044】
(土中埋設資材の製造方法)
本明細書の開示によれば、タケ類を水蒸気処理する工程と、前記水蒸気処理によって得られる処理物の維管束鞘由来の繊維状体と柔組織由来の粉状体とを取得する工程(水蒸気処理工程)と、前記繊維状体と前記粉状体とを加熱して前記繊維状体の長さ方向に沿う長尺の三次元形状を付与して成形体を得る工程(加熱成形工程)と、を備える、土中埋設資材の製造方法が提供される。本製造方法に含まれる水蒸気処理工程と加熱成形工程は、土中埋設資材に関して説明したのと同様に各種態様で実施することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0046】
(1)マダケを2m長さに切断するとともに適当に縦割したものを200℃まで加熱し200℃20分間水蒸気処理した。その後、徐々に冷却するとともに圧力を低下させ、気乾含水率まで風乾させた。乾燥物をゼファー化装置を用いて解繊して、約100〜200cmの長さの繊維状体を得るとともに、平均粒経30〜60μm程度の粉状体を得た。
【0047】
(2)上記で得られた繊維状体(約100cm長さのもの)を成形体材料として用いて成形体を製造した。すなわち、タケ類由来の材料以外には、なんら他の材料は使用しないで成形材料を構成した。また、繊維状体をその長尺方向に配列させた状態で束ねて軽く圧して成形前駆体を形成し、この成形前駆体を、ホットプレスで温度150℃、30MPaで10分間加熱して、断面が3cm×4cmで長さ100cm程度の成形体を得た。
【0048】
(3)上記で得られた繊維状体25gを成形体材料として用いて成形体を製造した。すなわち、タケ類由来の材料以外には、なんら他の材料は使用しないで成形材料を構成した。また、繊維状体をその長尺方向に配列させた状態で束ねて軽く圧して成形前駆体を形成し、この成形前駆体を、ホットプレスで温度150℃、30MPaで10分間加熱して、最終的に厚み約8mm、幅約11mm、長さ10cmの成形体を得た。得られた成形体について最大引っ張り荷重と引っ張り強さを測定したところ、それぞれ、約17kN及び200MPaであった。
【0049】
以上のことから、タケ類を水蒸気処理して得られる維管束鞘由来の繊維状体は、その自己接着性と構造特性とによって、十分に強度の高い長尺状体の成形体を構築できることがわかった。こうした成形体によれば、十分な強度と低環境負荷性を両立しうる優れた土中埋設資材として用いることできる。
【実施例2】
【0050】
本実施例では、実施例1で最終的に得られた成形体を30gの試験片を2片調製し、これらの試験片を屋外の土中に埋設して6ヶ月間に渡り質量、密度及び曲げ強さについて評価を行った。結果を以下に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
上記表に示すように、土中において、良好な生分解性を示した。すなわち、質量と密度は同程度に低下するとともに、強度はより速やかに低下した。したがって、土中に埋め殺しにした場合においては、その後の堀削や廃棄に好都合な土中埋設資材であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土中埋設資材であって、
タケ類を水蒸気処理して得られるタケ維管束鞘由来の繊維状体、
を備え、
前記繊維状体の長さ方向に沿う三次元形状を有する、成形体である、土中埋設資材。
【請求項2】
前記成形体において、前記繊維状体はその長尺方向が同一方向に配列されている、請求項1に記載の土中埋設資材。
【請求項3】
前記成形体は、前記繊維状体と、植物体材料を水蒸気処理して得られる粉状体を含む成形材料を熱圧して得られる、請求項1又は2に記載の土中埋設資材。
【請求項4】
前記成形体は、前記繊維状体の層と前記粉状体の層と交互に備える、請求項3に記載の土中埋設資材。
【請求項5】
前記粉状体は、タケ類を水蒸気処理して得られる柔組織由来の粉状体を含む、請求項3又は4に記載の土中埋設資材。
【請求項6】
前記粉状体は、木質材料を水蒸気処理して得られる柔組織由来の粉状体を含む、請求項3〜5のいずれかに記載の土中埋設資材。
【請求項7】
タケ類は、タケ、ササ及びバンブーから選択される1種又は2種以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の土中埋設資材。
【請求項8】
棒状又はパイプ状である、請求項1〜7のいずれかに記載の土中埋設資材。
【請求項9】
土中埋設資材の製造方法であって、
タケ類を水蒸気処理する工程と、
前記水蒸気処理によって得られる処理物の維管束鞘由来の繊維状体と柔組織由来の粉状体とを取得する工程と、
少なくとも前記繊維状体を加熱して前記繊維状体の長さ方向に沿う長尺の三次元形状を付与して成形体を得る工程と、
を備える、製造方法。

【公開番号】特開2012−177294(P2012−177294A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−18096(P2012−18096)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【出願人】(591140813)株式会社カテックス (11)
【Fターム(参考)】