説明

土壌および/または地下水の浄化方法

【課題】多量の有機物を添加しなくても、簡便かつ効率的に土壌および/または地下水中の嫌気的雰囲気を維持でき、微生物による土壌および/または地下水の浄化効率の向上が可能な浄化方法を提供する。
【解決手段】浄化対象地80中の汚染物質を微生物により分解させて該浄化対象地の土壌および/または地下水を浄化する浄化方法であって、液体を、気体透過性膜モジュール11を通過させて溶存酸素濃度を低下させることにより浄化用液体を調製する工程と、前記浄化用液体を前記浄化対象地中に注入する工程とを行う、浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩素化合物、硝酸亜硝酸性窒素、その他有害な有機物等の汚染物質を微生物により分解する、土壌および/または地下水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機塩素化合物、硝酸亜硝酸性窒素等の汚染物質により汚染された土壌や地下水を浄化する方法として、微生物を利用したバイオレメディエーションがある。
バイオレメディエーションとしては、バイオオーグメンテーションと、バイオスティムレーションがある。
バイオオーグメンテーションは、汚染物質を分解する微生物を培養し、該微生物を浄化対象の土壌・地下水中に注入する方法である。バイオオーグメンテーションについては、対象地に直接微生物を注入することから、高度な管理を要求される。また、もとより土壌・地下水中に存在しない微生物を注入しても、該微生物が長期に安定して生存しない場合も多い。
一方、バイオスティムレーションは、微生物を注入せず、汚染物質を分解する微生物として、もとより土壌中または地下水中に存在している微生物を利用する方法であり、該微生物を活性化するための栄養剤、微量元素等を土壌・地下水中に注入することによってその活性を向上させる。バイオスティムレーションは、微生物を注入しないため、比較的管理も容易であり、多くの現場で採用されている。
【0003】
バイオスティムレーションによる浄化対象となる汚染物質として、有機塩素化合物、硝酸性または亜硝酸性窒素等がある。
有機塩素化合物としては、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン等の揮発性有機塩素化合物が挙げられる。これらの揮発性有機塩素化合物は、高い脂溶性および不燃性から、金属加工工程における脱脂洗浄、ドライクリーニング等に用いられてきたが、生分解性が低いことから土壌や地下水の汚染原因として近年問題となっている。
硝酸性または亜硝酸性窒素は、酸化窒素のイオンの形で存在する窒素であり、通常は環境中に広く低濃度で分布している。しかし近年、過剰な施肥や家畜排せつ物の不適正処理、生活排水の地下浸透などが原因で、土壌・地下水中の硝酸または亜硝酸濃度が高くなっている。硝酸性または亜硝酸性窒素が飲料水などに多く含まれていると、血液の酸素運搬能力を阻害するメトヘモグロビン血症を引き起こすなど、人の健康を害するおそれがある。
バイオスティムレーションで有機塩素化合物や硝酸性または亜硝酸性窒素による汚染を浄化する場合、一般的に嫌気的処理が行われている。
【0004】
バイオスティムレーションにより有機塩素化合物や硝酸性または亜硝酸性窒素による汚染を浄化する場合、栄養剤として有機物を添加することが多い。具体的には、栄養剤としては、アルコール類、有機酸類、脂肪酸類、食用油類、糖類、アミノ酸類、メタン・エタン・プロパン等の炭化水素類、酵母エキス、食品残査などの有機物、およびこれら複数の混合物が用いられている。また、栄養剤には該有機物の他に、微量元素、ビタミン類、pH調整剤を添加したものも用いられている。
栄養剤として有機物を添加する目的は、有機物の好気分解による嫌気的/還元的雰囲気の造成と、嫌気代謝過程において生成する水素生成などである。これら有機物が好気性微生物によって好気的に分解される際に、土壌・地下水中の溶存酸素が消費され、土壌・地下水中が無酸素状態または嫌気的雰囲気となる。また嫌気代謝過程において生成する水素により、さらに還元的雰囲気が生成される。
嫌気的雰囲気が生成されると、脱塩素細菌が成育する。脱塩素細菌は、有機塩素化合物を電子受容体として利用可能な絶対嫌気性微生物である。
よって、汚染物質として有機塩素化合物が存在し、微生物として脱塩素細菌が存在する場合は、土壌・地下水中の溶存酸素が低下し、水素濃度が増加することにより、脱塩素細菌による有機塩素化合物の脱塩素反応が促進される。たとえばテトラクロロエチレンは脱塩素反応により、トリクロロエチレン、cis−1,2−ジクロロエチレンまたはtrans−1,2ジクロロエチレンを経て、エチレンにまで還元される。エチレンは他の微生物の作用により最終的に水と二酸化炭素に酸化されることもある。
また、汚染物質として硝酸性または亜硝酸性窒素が存在し、微生物として脱窒素細菌が存在する場合は、脱窒素細菌の作用により、硝酸や亜硝酸の脱窒素反応が促進される。脱窒素細菌は、有機物を電子供与体として、硝酸や亜硝酸を電子受容体として利用することが可能である。硝酸や亜硝酸は、最終的に窒素分子にまで還元され、土壌地下水中から大気へ気散する。
栄養剤を土壌・地下水中に注入する方法としては、栄養剤を適切な濃度に希釈した水溶液を作製し、該水溶液を、汚染範囲に設置した注入井戸等から流入させる方法が採られている。注入された栄養剤は、分子拡散作用または地下水流れによる移流作用により、汚染範囲全体に拡散する。
【0005】
バイオスティムレーションにより有機塩素化合物による汚染を浄化する方法として、たとえば特許文献1には、有機ハロゲン化合物により汚染された土壌・地下水に酵母エキスを供給し、土着の好気性バクテリアを活性・増殖させて土壌・地下水環境を嫌気性雰囲気にすることで、嫌気性微生物により有機ハロゲン化合物を分解させる方法が公開されている。
特許文献2には、有機塩素化合物で汚染された地下土壌から揚水した地下水を、減圧状態に保持した蒸発缶または脱気缶内に供給して脱気し、この脱気処理水に嫌気性微生物の栄養剤を添加した後、該地下水の汲み上げ箇所より離れた箇所に戻す方法が開示されている。
特許文献3には、嫌気性微生物によって揮発性水溶性物質に分解される有機塩素化合物に汚染された土壌を浄化するため、該分解を促進する嫌気性微生物分解促進剤を、前記土壌中を流れる地下水の上流側に注入し、該地下水の下流側で、前記分解により生成した揮発性水溶性物質が溶解した地下水を取水し、該地下水を曝気処理して該揮発性水溶性物質を気化させる方法が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3564573号公報
【特許文献2】特許第4257781号公報
【特許文献3】特開2006−26552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の方法は、浄化効率がよいとはいえず、その改善が求められる。
たとえば有機物を添加する場合、該有機物は通常水溶液として土壌・地下水中に注入されるが、該水溶液を作製する際に腐敗が生じ、土壌・地下水中における栄養剤としての効果の低下や、作業時の悪臭発生などの問題が生じやすい。
また、有機物を高濃度で地下水中に注入した場合、初期段階においては、地下水中または栄養剤の水溶液中の溶存酸素による有機物の分解が促進されるため有機酸等の蓄積は生じにくいが、有機物の分解に伴い溶存酸素が低下すると、有機酸等が蓄積しやすくなる。有機酸等が過剰に蓄積すると、微生物活性が低下するといった問題が生じる。
また、有機物を高濃度で地下水中に注入した場合、該有機物を電子供与体として利用可能な微生物が過剰に増殖し、微生物集合体(バイオフィルム)を形成して、土壌中に存在する間隙を閉塞する問題もある。該間隙の閉塞は、地下水の流動の減少または変動を引き起こしてしまう。地下水の流動が減少すると栄養剤の水溶液を適切に拡散させることが困難になる。また、地下水の流動が大きく変動すると汚染物質を非汚染地帯にまで拡散させてしまうおそれがある。
また、上記方法では、脱塩素細菌の電子供与体として有効である水素を、有機物の分解過程にて発生させている。そのため、有機物を高濃度に供給すると、脱塩素細菌にとって適切な水素濃度を維持することが困難となる。すなわち、土壌・地下水中の水素濃度が過剰になると、脱塩素細菌による脱塩素反応が阻害されてしまい、さらに脱塩素細菌に対して競合となるメタン生成菌または硫酸還元菌などの増殖を促進してしまうといった問題が生じる。
また、特許文献2の方法は、脱気処理水の作製に大型の装置が必要であり、時間もかかる。また、一度作製した脱気処理水を全て土壌・地下水中に注入するまでに時間がかかるため、脱気処理水に酸素が再溶解して溶存酸素濃度が増加してしまう。
また、特許文献3の方法は、曝気処理に大型の装置が必要であり、時間もかかる。また、曝気に多量のガスを必要とするため、空気以外のガスを曝気ガスに用いた場合、コストがかかる。空気を曝気ガスとして用いた場合、溶存酸素濃度が増加してしまう。また、一度作製した曝気処理水を全て土壌・地下水中に注入するまでに時間がかかるため、曝気処理水に酸素が再溶解して溶存酸素濃度が増加してしまう。
有機塩素化合物の酸化分解または脱塩素還元を行う微生物のなかには絶対嫌気性の微生物も多く存在している。そのため、溶存酸素濃度の増加した水を汚染対象地、すなわち浄化を実施したい土壌・地下水中に注入すると、嫌気的雰囲気が損なわれ、絶対嫌気性微生物が失活し、汚染物質の分解効率が低下するおそれがある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、多量の有機物を添加しなくても、簡便かつ効率的に土壌および/または地下水中の嫌気的雰囲気を維持でき、微生物による土壌および/または地下水の浄化効率の向上が可能な浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、以下の態様を有する。
[1]浄化対象地中の汚染物質を微生物により分解させて該浄化対象地の土壌および/または地下水を浄化する浄化方法であって、
液体を、気体透過性膜モジュールを通過させて溶存酸素濃度を低下させることにより浄化用液体を調製する工程と、
前記浄化用液体を前記浄化対象地中に注入する工程と、
を行う、浄化方法。
[2]さらに、前記浄化用液体を、気体透過性膜モジュールを通過させて溶存水素濃度を上昇させる工程を行う[1]に記載の浄化方法。
[3]前記液体として浄化対象地またはその周縁部から揚水した地下水を用いる[1]または[2]に記載の浄化方法。
[4]前記地下水として汚染対象地から揚水した地下水を用い、該地下水に対し、溶存酸素濃度を低下させる前に、曝気処理を行う[3]に記載の浄化方法。
[5]前記浄化用液体に、有機物および/または前記微生物の生育を補助する微量元素を添加する工程を行う[1]〜[4]のいずれか一項に記載の浄化方法。
[6]前記汚染物質が、揮発性有機塩素化合物および硝酸性または亜硝酸性窒素からなる群から選択される少なくとも1種である[1]〜[5]のいずれか一項に記載の浄化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多量の有機物を添加しなくても、簡便かつ効率的に土壌および/または地下水中の嫌気的雰囲気を維持でき、微生物による土壌および/または地下水の浄化効率の向上が可能な浄化方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一の実施形態の説明図である。
【図2】試験例1において浄化用液体を調製した際の流量および真空度と溶存酸素濃度(DO)との関係を示すグラフである。
【図3】試験例1において浄化用液体を調製した際の流量および真空度と酸化還元電位(ORP)との関係を示すグラフである。
【図4】中空糸膜モジュールの一例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の浄化方法が浄化対象とする汚染物質は、特に限定されない。たとえば従来、バイオスティムレーションの浄化対象とされているものが挙げられる。具体的には、揮発性有機塩素化合物、硝酸性または亜硝酸性窒素、油分、ダイオキシン類等が挙げられる。これらの中でも、揮発性有機塩素化合物および硝酸性または亜硝酸性窒素からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。浄化対象の汚染物質は1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0012】
揮発性有機塩素化合物としては、一般的に土壌または地下水の汚染物質として問題とされているものが挙げられ、具体的には、トリクロロエチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、シス−1,2−ジクロロエチレン、ジクロロメタン、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン、テトラクロロエチレン、ブロモホルム、1,3−ジクロロプロペン、等が挙げられる。これらの中でも、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレンが好ましい。
【0013】
硝酸性窒素は、硝酸塩として含まれている窒素であり、水中では硝酸イオンとして存在している。亜硝酸性窒素は化合物のなかに亜硝酸塩として含まれている窒素であり、水中では亜硝酸イオンとして存在している。硝酸性窒素および亜硝酸性窒素は、それぞれ、肥料、家畜のふん尿や生活排水に含まれるアンモニア成分がアンモニア酸化細菌等の作用により酸化される等により生成し、作物に吸収されずに土壌に溶け出し、富栄養化の原因となっている。
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。
<第一の実施形態>
図1は、本発明の浄化方法の第一の実施形態の説明図である。
本実施形態は、浄化用液体の調製に用いる液体(以下、原水という。)として地下水を使用する例である。
本実施形態では、汚染物質により土壌および地下水汚染の生じている浄化対象地80に設置された注入口20と、原水源としての揚水口21と、曝気装置40と、気体透過性膜モジュール11を備える脱酸素装置10と、浄化用液体槽60と、気体透過性膜モジュール51を備える水素添加装置50と、水質モニター装置70と、を備える浄化システムを使用して浄化対象地80の土壌および/または地下水の浄化を行う。
【0015】
該浄化システムにおいて、揚水口21は、浄化対象地80の周縁部の、汚染物質により汚染されていない位置に設置されている。
揚水口21と曝気装置40を連絡する流路91上には送液ポンプP1が設置され、揚水口21で地下水を揚水し、曝気装置40に送液できるようになっている。
曝気装置40は、揚水口21と脱酸素装置10との間に設置されている。曝気装置40は、曝気用送風機41および曝気槽42を備えており、曝気槽42内の原水(地下水)を必要に応じて曝気処理できるようになっている。また、曝気槽42には汚染物質回収処理装置43が取り付けられている。
【0016】
脱酸素装置10は、気体透過性膜モジュール11と、気体透過性膜モジュール11に配管13を介して接続された真空ポンプ12とから構成され、真空ポンプ12により気体透過性膜モジュール11内を減圧することで、気体透過性膜モジュール11内を通過する地下水の脱気(脱酸素)ができるようになっている。
気体透過性膜モジュール11は、曝気槽42と浄化用液体槽60とを連絡する流路92上に設置され、同じく流路92上に設置された送液ポンプP2により、曝気槽42内の原水を気体透過性膜モジュール11に通液し、浄化用液体槽60に送ることができるようになっている。
浄化用液体槽60には、浄化用液体に対し、有機物および/または前記微生物の生育を補助する微量元素を供給するための栄養剤供給装置61が取り付けられている。
【0017】
気体透過性膜モジュール11としては、従来、水等の液体の脱気に用いられている膜モジュールが利用できる。具体的には、気体透過性膜と、該気体透過性膜を収容するケースとを備えるものが例示できる。
気体透過性膜モジュール11に用いられる気体透過性膜としては、酸素の透過性に優れ目的とする酸素除去が可能なものであればよく、形状、材質等は任意に選択することができる。
該気体透過性膜は、酸素透過量が0.03m/(m・h・MPa)以上であることが好ましい。該酸素透過量は高いほど好ましく、上限は特に限定されない。
【0018】
気体透過性膜の形状は特に限定されず、平膜、中空糸膜等、任意の形状のものを使用することが可能である。これらのうち、中空糸膜は、平膜に比べて同一容積でも膜面積が広くとれ、処理流量を大きくした場合に膜モジュールとして効率的に小型化が可能であることから好ましい。
中空糸膜としては、多孔質膜、非多孔質膜、またはそれらの組み合わせのいずれであってもよい。好ましい中空糸膜として、多孔質膜と非多孔質膜とからなる多層構造の中空糸膜が挙げられ、特に、気体透過性の非多孔質膜の両面に、多孔質膜が配された三層構造の複合中空糸膜が好ましい。このような複合中空糸膜は、処理液の漏れが無く、かつ溶存気体の除去効率にも優れる。さらに、優れた機械的強度も備えている。三層構造の複合中空糸膜の具体例としては、たとえば三菱レイヨン・エンジニアリング(株)製の三層複合中空糸膜(商品名:MHF)が挙げられる。
【0019】
前記複合中空糸膜の非多孔質膜を構成する材質は、ポリマー等の有機材料であってもよく、無機材料であってもよく、好ましくは有機材料である。ポリマーとしては、ポリジメチルシロキサン、シリコンとポリカーボネートの共重合体等のシリコンゴム系ポリマー、ポリ4−メチルペンテン−1、低密度ポリエチレン等のポリオレフィン系ポリマー、パーフルオロアルキル系ポリマー等のフッ素含有ポリマー、エチルセルロース等セルロース系ポリマー、ポリフェニレンオキサイド、ポリ4−ビニルピリジン、ウレタン系ポリマー、これらポリマーの共重合体あるいはブレンドポリマー等を用いることができる。
前記複合中空糸膜の多孔質膜を構成する材質は、ポリマー等の有機材料であってもよく、無機材料であってもよく、好ましくは有機材料である。ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ3−メチルブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー、ポリスチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン等が挙げられる。
非多孔質膜を構成する材質と、多孔質層を構成する材質との組み合わせについては特に限定されず、たとえば異種のポリマーを組み合わせてもよく、同種のポリマーを組み合わせてもよい。
【0020】
中空糸膜の内径は、50〜500μmが好ましい。また、中空糸膜の膜厚は、10〜150μmが好ましい。内径および膜厚が上記範囲内にある中空糸膜を用いると、気体透過性膜モジュール内の圧力損失が低く、更に中空糸膜の振動等が起こっても、中空糸膜が破損することなく液体の処理を行うことができる。
ここで、液体を中空糸膜内部に通液して液体の処理を行う場合、内径は大きい方が圧力損失は抑えられる。しかし、内径を大きくするとケースに充填可能な中空糸膜量が制限され、処理性能の低下に繋がる。そのため、中空糸膜の内径は、100〜300μmが好ましい。
また、気体透過性膜モジュール11においては中空糸膜の外側が減圧されることから、該減圧に対する耐久性を有することが必要である。かかる観点から、液体を中空糸膜内部に通液して液体の処理を行う場合、中空糸膜の膜厚は、30〜80μmが好ましい。
更に、孔径が0.01〜1μmの多孔質膜を備える複合中空糸膜を用いると、非多孔質層が濡れにくく、気体の透過量が高くなり好ましい。
中空糸膜は、一般的に、複数本を接着剤でケースに固定した形で使用される。
【0021】
気体透過性膜として中空糸膜を用いた気体透過性膜モジュール(中空糸膜モジュール)の一例について、その概略構成を図4に示す。
この中空糸膜モジュール1は、中空糸膜2が筒状のケース3に多数本挿入され、各中空糸膜2は、一方の端部2a側がポッティング材4aを介してケース3に固定され、他方の端部2b側がポッティング材4bを介してケース3に固定されている。ケース3は、原水の流入口3aおよび流出口3bを有している。
中空糸膜2の端部2a、2bは、それぞれ、ポッティング材4a、4bの端面4c、4dに露出し、流入口3a側、流出口3b側に通じている。これにより、流入口3aから流入した液体が中空糸膜2の内部を通過し、流出口3bから流出するようになっている。
また、ポッティング材4a、4bに挟まれた空間部5は、ケース3に設けられた給排気口3c、3dに通じるように構成されており、給排気口3c、3dを介して、当該空間部5内の脱気または当該空間部5内へ気体の供給ができるようになっている。
なお、この例では給排気口を2つ有する例を示したが、給排気口の数は1つであってもよく、3つ以上であってもよい。
【0022】
水素添加装置50は、気体透過性膜モジュール51と、該気体透過性膜モジュール51に配管53を介して接続された水素タンク52とから構成される。この例において、配管53には調圧弁54が設けられ、水素タンク52から気体透過性膜モジュール51への水素ガスの供給圧力を任意に制御できるようになっている。
浄化用液体槽60と注入口20とを連絡する流路93上に気体透過性膜モジュール51が設置され、同じく流路93上に設置された送液ポンプP3により、浄化用液体槽60内の浄化用液体を気体透過性膜モジュール51に通液し、注入口20から浄化対象地80に注入できるようになっている。
浄化対象地80の、注入口20に隣接する位置にはモニタリング用井戸23が設けられている。モニタリング用井戸23内には、水質モニター装置70のセンサ71が配置され、浄化対象地80の地下水の水質をモニタリングできるようになっている。
【0023】
気体透過性膜モジュール51としては、前記気体透過性膜モジュール11と同様の構造のものを利用できる。
気体透過性膜モジュール51における気体透過性膜は、水素を透過可能で、目的とする水素添加が可能なものであればよく、前記形状、材質等は任意に選択することができる。たとえば前記気体透過性膜モジュール11における気体透過性膜と同じものを用いてもよく、異なるもの、たとえば該気体透過性膜よりも酸素透過量の少ないものを用いてもよい。
【0024】
上記浄化システムを用いた本実施形態の浄化方法は、たとえば以下の手順により実施できる。
まず、原水として地下水を、送液ポンプP1を用いて揚水口21から揚水し、曝気装置40の曝気槽42に送液する(工程(1))。
次に、曝気槽42内の地下水を、送液ポンプP2を用いて気体透過性膜モジュール11を通過させて溶存酸素濃度を低下させ、得られた浄化用液体を浄化用液体槽60に回収する(工程(2))。
次に、浄化用液体槽60内の浄化用液体を、送液ポンプP3を用いて気体透過性膜モジュール51を通過させて溶存水素濃度を上昇させた後、そのまま、送液ポンプP3を用いて、注入口20から浄化対象地80に注入する(工程(3))。
【0025】
工程(1)においては、曝気槽42に送液された地下水に対し、必要に応じて、曝気処理を行ってもよい。たとえば曝気処理により除去可能な汚染物質が該地下水中に含まれる場合は、曝気処理を行うことにより、該汚染物質を除去し、該地下水中の汚染物質濃度を低下させることができる。
特に、該地下水中に汚染物質として揮発性有機塩素化合物が含まれる場合は、曝気処理を行うことが好ましい。
曝気処理により原水から除去された汚染物質またはその分解物は、曝気槽42に取り付けられた汚染物質回収処理装置43により回収し、適宜無害化等の処理を行うことができる。
ただし曝気処理は必ずしも必要ではなく、行わなくてもよい。たとえば原水として上記のような汚染物質を含まない、または含んでいてもその濃度が低いものを用いる場合は、曝気処理は不要である。
曝気処理を行わない場合は、曝気装置40の代わりに、単に原水を貯留するだけの貯留槽を使用してもよい。
【0026】
工程(2)において、曝気槽42内の地下水は、送液ポンプP2により曝気槽42から送出され、流路92内を通過して、気体透過性膜モジュール11内に導入される。気体透過性膜モジュール11内には、導入された地下水が流通する流路と、気体透過性膜で該流路と分離された空間部とが存在しており、該空間部は、当該気体透過性膜モジュール11に接続された真空ポンプ12により減圧されて減圧状態にある。そのため、地下水が気体透過性膜モジュール11内を流通する間に、地下水に溶存している酸素等の気体が気体透過性膜を透過して、溶存酸素濃度が低下する。このようにして得られた低溶存酸素濃度の浄化用液体は、気体透過性膜モジュール11から浄化用液体槽60へと送出される。
なお、図1には、気体透過性膜モジュール11を1つ使用した例を示しているが本発明はこれに限定されず、2以上の気体透過性膜モジュール11を併用してもよい。
【0027】
気体透過性膜モジュール11内に地下水を通過させる際の流量は、特に限定されず、原水である地下水の溶存酸素濃度、目的の浄化用液体の溶存酸素濃度、原水である地下水の溶存酸素濃度、必要な浄化用液体の量、使用する気体透過性膜モジュール11の種類および数量等を考慮して適宜設定すればよい。通常、0.5〜2L/(分・m)の範囲内で設定される。
気体透過性膜モジュール11内の減圧状態は、地下水の溶存酸素濃度を低下させ得る範囲であれば特に限定されず、調製しようとする浄化用液体の所望の溶存酸素濃度、原水である地下水の溶存酸素濃度、流量、使用する気体透過性膜モジュール11の種類および数量等を考慮して適宜設定すればよい。通常、−60kPa以上の高真空に設定されるが、効率よく溶存酸素濃度を下げるためには、より高真空、例えば−80kPa以上の高真空に設定するのが好ましい。
【0028】
工程(2)で調製する浄化用液体の溶存酸素濃度は、原水である地下水よりも低ければよい。好ましくは、3mg/L以下であり、より好ましくは0.5mg/Lである。
【0029】
工程(2)においては、必要に応じて、浄化用液体槽60内の浄化用液体に対し、栄養剤供給装置61により、有機物および/または前記微生物の生育を補助する微量元素を添加してもよい。
たとえば浄化対象地80中における微生物の生育を補助する微量元素の濃度が低い場合には、微量元素を適宜添加することによって、微生物の増殖が促進され微生物による浄化をより促進することが可能となる。
微生物の生育を補助する微量元素は、微生物の増殖・活性において不可欠な元素のうち生物の体内に保持されている量が比較的少ない元素を示す。一般に、生体含有量が鉄以下の元素を指す。かかる微量元素のうち、生命活動に欠かせない元素として、亜鉛・カリウム・カルシウム・クロム・セレン・鉄・銅・ナトリウム・マグネシウム・マンガン・ヨウ素・リンが知られている。
【0030】
また、浄化対象の汚染物質が硝酸性または亜硝酸性窒素である場合には、脱窒素細菌による硝酸性および亜硝酸性窒素から窒素分子までの還元反応(脱窒反応)における電子供与体として有機物が必要となるため、有機物を添加することが好ましい。
脱窒反応における電子供与体の濃度は、バイオレメディエーションによる浄化作業条件(例えば、浄化対象の汚染物質の種類、汚染物質濃度、浄化対象土壌量、浄化対象地下水量、浄化対象地に設置した注入口20および揚水口21の数量、浄化対象土壌および地下水中に存在する嫌気性微生物の種類・量・活性度)に応じて最適な数値を選定すればよい。
また、汚染物質が揮発性有機塩素化合物である場合であっても、脱塩素細菌の増殖を促進させることを目的として、有機物を添加することも可能である。
ただし有機物を添加する場合には、前記のとおり、有機物を炭素源およびエネルギー源として利用可能である微生物が過剰に増殖することがないように、その濃度を適宜調整することが好ましい。
【0031】
栄養分として添加する有機物としては、アルコール類、有機酸類、脂肪酸類、食用油類、糖類、アミノ酸類、メタン・エタン・プロパン等の炭化水素類、酵母エキス、食品残査などの有機物、およびこれら複数の混合物が用いられ、微生物によって代謝され炭素源およびエネルギー源として利用される物質である。糖類は、グルコースなどの単糖類、種クロースなどの二糖類、ペクチンなどの多糖類を全て含む。有機酸は、乳酸、酢酸、ピルビン酸、プロピオン酸、酪酸などカルボキシル基を有する全ての有機物を含む。脂肪酸は、ステアリン酸など高級脂肪酸も含み、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸のいずれをも含む。アミノ酸としては、タンパク質を構成する全20種を含み、モノマーのみならずペプチドも含む。炭化水素としては、鎖式飽和炭化水素、鎖式不飽和炭化水素、環式飽和炭化水素、環式不飽和炭化水素いずれをも含む。酵母エキスまたはビーフエキスなど、各種成分を含む混合培地成分も微生物の栄養分となり得る。
アルコール醸造工場、製糖工場などから排出される食品残査およびそれらの生成物は、糖類など上記複数の物質を含むものであり、微生物の栄養分となり得る。
上記有機物のうち、脱窒反応における電子供与体としての有機物としては、メタノール、エタノール等のアルコール類が好ましいが、これに限るものではない。
【0032】
工程(3)において、浄化用液体槽60内の地下水は、送液ポンプP3により浄化用液体槽60から送出され、流路93内を通過して、気体透過性膜モジュール51内に導入される。気体透過性膜モジュール51内には、浄化用液体が流通する流路と、気体透過性膜で該流路と分離され、水素タンク52と連絡する空間部とが存在しており、該空間部には水素タンク52から水素ガスが供給され、水素圧力が高められている。そのため、浄化用液体が気体透過性膜モジュール51内を流通する間に、空間部内の水素が気体透過性膜を透過して浄化用液体内へと移動し、溶解することにより、該浄化用液体の溶存水素濃度が上昇する。
このようにして溶存水素濃度を上昇させた浄化用液体(低溶存酸素濃度・高溶存水素濃度の液体)は、気体透過性膜モジュール51から注入口20へと送出され、浄化対象地80中に注入される。
なお、図1には、気体透過性膜モジュール51を1つ使用した例を示しているが本発明はこれに限定されず、2以上の気体透過性膜モジュール51を併用してもよい。
【0033】
気体透過性膜モジュール51内に浄化用液体を通過させる際の流量は、特に限定されず、気体透過性膜モジュール51内を通過させる前の浄化用液体の溶存水素濃度、目的の溶存水素濃度、必要な浄化用液体の量、使用する気体透過性膜モジュール51の種類および数量等を考慮して適宜設定すればよい。通常、0.5〜2L/(分・m)の範囲内で設定される。
気体透過性膜モジュール51内の水素の圧力は、浄化用液体の溶存水素濃度を上昇させ得る範囲であれば特に限定されず、気体透過性膜モジュール51内を通過させる前の浄化用液体の溶存水素濃度、目的の溶存水素濃度、流量、使用する気体透過性膜モジュール51の種類および数量等を考慮して適宜設定すればよい。通常、5〜200kPaの範囲内で設定される。
【0034】
気体透過性膜モジュール51通過後の浄化用液体の溶存水素濃度は、原水である地下水よりも高ければよく、バイオレメディエーションによる浄化作業条件(例えば、浄化対象の汚染物質の種類、汚染物質濃度、浄化対象土壌量、浄化対象地下水量、浄化対象地に設置した注入口20および揚水口21の数量、浄化対象土壌および地下水中に存在する嫌気性微生物の種類・量・活性度)に基づき最適な数値を選定すればよい。
該溶存水素濃度は、好ましくは、0.5〜20mg/Lであり、より好ましくは1〜10mg/Lである。0.5mg/L以下では、土壌中に注入し地下水と混合したときに薄くなりすぎてしまう。20mg/L以上では可飽和となりすぎてしまい、操作中に大気揮発量も増加してしまうため、経済的に不利となる。
【0035】
上記のようにして調製された低溶存酸素濃度の浄化用液体を注入することによって、汚染対象地80の土壌および地下水中の酸素濃度が低下し、より嫌気的雰囲気へと移行する。そのため、該汚染対象地80内において、嫌気性微生物の増殖および活性化が促進される。その結果、微生物による汚染物質の分解が促進され、汚染対象地80の土壌や地下水の効率的な浄化が可能となる。
特に、該浄化用液体の溶存水素濃度を上昇させていると、汚染対象地80の土壌および地下水中の水素濃度が上昇し、より還元的雰囲気へと移行する。その結果、脱塩素細菌等の絶対嫌気性微生物の増殖および活性化が促進される。また、汚染物質が揮発性有機塩素化合物である場合には、水素が、脱塩素細菌による揮発性有機塩素化合物の脱塩素還元における電子供与体となり得る。そのため、揮発性有機塩素化合物による汚染の浄化がさらに促進される。
【0036】
ここで、還元的雰囲気とは、電子受容体となり得る物質(溶存の分子状酸素または硝酸イオン、硫酸イオンなど)が少量であり、電子供与体となり得る物質(メタン、アンモニアなど)が多量となっている状態である。通常は酸化還元電位を指標としており、酸化還元電位がマイナスの数値を示すと還元的雰囲気にあるとされる。
汚染物質が揮発性有機化合物である場合には、汚染対象地80の地下水中の酸化還元電位が、−100〜−900mVであることが望ましい。
汚染物質が硝酸性および亜硝酸性窒素である場合には、汚染対象地80の地下水中の酸化還元電位が、−100〜−200mVであることが好ましい。
【0037】
また、溶存水素濃度を上昇させた浄化用液体を浄化対象地80の土壌および地下水中に注入し、その水素を電子供与体として利用する場合、水素以外の電子供与体となる有機物を添加しない、またはその添加量を通常よりも減らすことができる。この場合、水素を電子供与体として利用できず且つ有機物を炭素源およびエネルギー源として利用可能な微生物が過剰に増殖することがなく、土壌中に微生物集合体(バイオフィルム)の生成が抑制される。微生物集合体の生成を抑制できると、土壌中に存在する間隙が該微生物集合体によって閉塞されるのを抑制でき、地下水の流動の減少または変動を小さくできる。その結果、前記溶存水素濃度を上昇させた低溶存酸素溶液を浄化対象範囲に均等に拡散させることが出来るため、微生物による浄化をより促進することが可能となる。また、地下水の流動の変動による汚染の拡大を防止できる。
前記の有機物を添加していないことによる効果は、汚染物質が硝酸性および亜硝酸性窒素であり、水素濃度を上昇させていない低溶存酸素濃度の浄化用液体を汚染対象地80に注入する場合であっても同様である。
【0038】
また、浄化用液体の原水として浄化対象地80またはその周縁部の地下水を用いることによって、土着の微生物および微量元素が有効利用できるといった利点が生じる。すなわち本浄化方法は、バイオスティムレーション技術、つまり浄化対象の汚染物質を分解する微生物として、土壌地下水中にもとより存在している微生物を利用し、該微生物を活性化するための栄養分や微量元素等を注入することによって浄化活性を向上させる技術、に基づくものであり、浄化対象地内の土壌および/または地下水に、汚染物質を分解する微生物が存在していることが前提となる。
従来のバイオスティムレーション技術においては、栄養分や微量元素等を溶解させるための液体として浄化対象地の地下水を揚水して利用する場合、曝気処理等の処理を行ったり、その処理に時間がかかる等により、該地下水中の溶存酸素が高くなる。かかる地下水を注入した場合、嫌気性微生物の増殖・活性を低下させる問題が生じる。また、コストもかかる。そのため、現在、栄養分や微量元素等を注入する場合においては水道水等が主に利用されている。しかしこの場合、注入後に、浄化対象地の土壌や地下水中に存在する微生物量や、該微生物の生育を補助する微量元素の濃度が低減していた。
本浄化方法では、原水の溶存酸素を低減させて浄化用液体として利用するため、汚染範囲の地下水を揚水し曝気処理した地下水を利用することが可能である。また、該地下水中には土着の微生物および該微生物の生育に適している微量元素が存在しているため、浄化対象地の土壌や地下水中に存在する微生物量や、該微生物の生育を補助する微量元素が低減することが無く、該微生物による浄化をより促進することが可能となる。
ただし本発明はこれに限定されず、浄化対象地80またはその周縁部に揚水口21を設置することが困難である場合、揚水口21より揚水した地下水の汚染物質除去が困難である場合などは、浄化用液体の原水として、上水、工業用水、雨水、河川水等を用いることができる。
【0039】
上記実施形態においては、水質モニター装置70により、汚染対象地80内の地下水の水質のモニタリングを行ってもよい。
水質モニター装置70による測定対象としては、酸化還元電位、pH、水温、溶存酸素濃度、溶存水素濃度等が挙げられる。
たとえば水質モニター装置70により該地下水中の溶存水素濃度を適宜モニタリングし、該溶存水素濃度が過剰となった場合には、水素添加装置50にフィードバックし、該水素添加装置50内の気体透過性膜モジュール51を通過する浄化用液体の溶存水素濃度上昇量を低減させる。これによって、汚染対象地80内の地下水中の溶存水素濃度を適切な濃度に維持することが可能となり、過剰な水素濃度に起因する問題(脱塩素細菌による脱塩素反応の阻害、脱塩素細菌に対して競合となるメタン生成菌または硫酸還元菌などの増殖等)が抑制され、脱塩素細菌による浄化をより促進することが可能となる。
浄化用液体の溶存水素濃度の上昇量の低減は、たとえば、(1)水素タンク52から気体透過性膜モジュール51へ供給する水素の圧力を低下させる、(2)気体透過性膜モジュール51の通液速度を増加させる、等の方法により実施できる。
【0040】
本発明の浄化方法の浄化対象の汚染物質として揮発性有機塩素化合物を含む場合、本浄化方法を実施する前に、脱塩素細菌等の嫌気的脱塩素反応を行う微生物が、浄化対象地の土壌および/または地下水内に存在することを確認することが好ましい。
該微生物としては、Dehalococcoides属菌、Desulfitobacterium属菌、Desulfuromonas属菌、Dehalobactor属菌等が挙げられる。
【0041】
本発明の浄化方法の浄化対象の汚染物質として硝酸性または亜硝酸性窒素を含む場合、本浄化方法を実施する前に、脱窒菌等の脱窒素反応をおこなう微生物が、浄化対象地の土壌および/または地下水内に存在することを確認することが好ましい。
該微生物としては、Paracoccus denitrificans、Alcaligenes denitrificans、Thiobacillus denitrificans、Pseudomonas aeruginosa等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
[試験例1]
脱酸素工程を行うことによる効果を確認するため、実際の地下水を用いて以下の試験を行った。
三菱レイヨン株式会社豊橋事業所内に設置された揚水井戸より揚水した地下水(水温:19.2℃)を、気体透過性膜モジュール(商品名:MHF304KMD、三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社製)に通水し、真空ポンプにより該気体透過性膜モジュール内部を減圧することにより、浄化用液体を生成した。
このとき、気体透過性膜モジュールあたりの流量を320、540、1100および2010mL/分(min)のいずれかに設定し、各流量において気体透過性膜モジュール内の真空度を−80、−90および−96kPaのいずれかに設定して浄化用液体を得た。
なお、MHF304KMDの仕様は以下の通りである。
気体透過性膜:気体透過性の非多孔質膜の両面に多孔質膜が配された三層構造の複合中空糸膜、モジュール長:215mm、モジュール径:72mm、複合中空糸膜の膜面積:2.4m
【0043】
使用した地下水(原水)、得られた浄化用液体それぞれについて、溶存酸素濃度(DO)および酸化還元電位(ORP)を測定した。
DOは、1気圧、19.2℃における値であり、携帯用蛍光式溶存酸素計LDO HQ−10 (HACH社製)により測定した。
ORPは、1気圧、19.2℃における値であり、ポータブルORP計 RM−20P(東亜ディーケーケー社製)により測定した。
その結果、原水のDOは6.8mg/Lであり、ORPは+120mVあった。
各流量および真空度で得られた浄化用液体のDOおよびORPをそれぞれ図2〜3に示す。
図2に示すとおり、浄化用液体中のDOは、いずれの流量および真空度においても、原水に比べて低減されていた。
また、図3に示すとおり、浄化用液体中のORPは、いずれの流量および真空度においても、原水に比べて低減されていた。このORPは、水素添加を併用すればさらに低減することが可能である。
このように、脱酸素工程を行うことで、原水よりもDOおよびORPが低減された浄化用液体が得られた。したがって、該浄化用液体を、該原水を揚水した場所に注入することで、その土壌および地下水中の嫌気的雰囲気および還元的雰囲気を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明においては、気体透過性膜を用いて溶存酸素濃度を低下させた液体を浄化対象地に注入することにより、好気性微生物による酸素消費を促進させるための有機物等を多量に地下水中に注入することなく、微生物による還元反応に適切な還元的雰囲気を醸成することが可能となる。
また、気体透過性膜を用いて酸化還元電位を低下させた液体を汚染範囲地下水に注入することにより、水素発生源としての有機物等を多量に地下水中に注入することなく、微生物による還元反応において必要な還元的雰囲気を醸成することが可能となる。
さらに、気体透過性膜を用いて水素濃度を上昇させた液体を汚染範囲地下水に注入することにより、水素発生源としての有機物等を多量に地下水中に注入することなく、微生物による還元反応において必要な水素を供給することが可能となる。
このように、本発明においては、気体透過性膜を用いることにより、従来の浄化手法のように、浄化対象地に過剰な有機物を注入する必要が無くなるため、汚染物質のバイオレメディエーションにおいて不必要な微生物の増殖を抑制することができる。また、過剰な有機物によって発生するバイオフィルムにより土壌間隙が閉塞し、地下水流動が変化してしまうことを抑制することができる。そのため、バイオレメディエーション実施による土壌中自然環境の変動を小さくすることが可能となる。
また、気体透過性膜を用いることにより、浄化用液体を連続的に生成することが可能となる。そのため、浄化用液体を用時に必要量だけ生成し、即時に注入を行うことができるため、生成した浄化用液体への酸素が再溶解を防止できる。
【符号の説明】
【0045】
10…脱酸素装置、11…気体透過性膜モジュール、12…真空ポンプ、13…配管、
20…注入口、21…揚水口、23…モニタリング用井戸、40…曝気装置、41…曝気用送風機、42…曝気槽、43…汚染物質回収処理装置、50…水素添加装置、51…気体透過性膜モジュール、52…水素タンク、53…配管、54…調圧弁、60…浄化用液体槽、61…栄養剤供給装置、70…水質モニター装置、71…センサ、80…浄化対象地、91〜93…流路、P1〜P3…送液ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄化対象地中の汚染物質を微生物により分解させて該浄化対象地の土壌および/または地下水を浄化する浄化方法であって、
液体を、気体透過性膜モジュールを通過させて溶存酸素濃度を低下させることにより浄化用液体を調製する工程と、
前記浄化用液体を前記浄化対象地中に注入する工程と、
を行う、浄化方法。
【請求項2】
さらに、前記浄化用液体を、気体透過性膜モジュールを通過させて溶存水素濃度を上昇させる工程を行う請求項1に記載の浄化方法。
【請求項3】
前記液体として、浄化対象地またはその周縁部から揚水した地下水を用いる請求項1または2に記載の浄化方法。
【請求項4】
前記地下水として汚染対象地から揚水した地下水を用い、該地下水に対し、溶存酸素濃度を低下させる前に、曝気処理を行う請求項3に記載の浄化方法。
【請求項5】
前記浄化用液体に、有機物および/または前記微生物の生育を補助する微量元素を添加する工程を行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の浄化方法。
【請求項6】
前記汚染物質が、揮発性有機塩素化合物および硝酸性または亜硝酸性窒素からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか一項に記載の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−20088(P2011−20088A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169281(P2009−169281)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】