説明

土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法及び分析装置、並びにこれに用いる試料

【課題】環境基準の極めて微量な測定対象物質の溶出量を、現場で迅速に測定することができる土壌の重金属類の溶出量の分析方法及び分析装置、並びにこれに用いる試料を提供する。
【解決手段】土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法において、土壌から作成した検液に所定の割合でキレート剤を加え、このキレート剤に検液中の測定対象物質を吸着させる手順と、その検液をろ過し、測定対象物質を吸着したキレート剤を回収する手順と、蛍光X線分析装置により、回収したキレート剤が吸着した測定対象物質を定量分析し、この分析結果を検液中の測定対象物質の溶出量に換算する手順とを行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種工場跡地の汚染土壌や自然由来の汚染土壌の調査・分析、あるいは重金属類の不溶化処理等を施した土壌の品質管理を、現場で迅速に行うことができる、土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法及び分析装置、並びにこれに用いる試料に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種工場の跡地には、例えば、カドミウム、鉛、砒素や、六価クロム等といった土壌の汚染に係る環境基準(環境庁告示第46号)で汚染物質として指定された重金属類が含まれる場合がある。また、工場跡地でなくとも、自然由来の汚染土壌も存在する。上記環境基準においては、土壌から作成した検液中の各重金属類の溶出量が、規定値(以下、環境基準値とする)以内であることを環境上の条件として定めているが、公定法(JIS K0102)に定められた原子吸光光度法やICP発光分光分析法では、測定結果が得られるまでに概ね2週間を要し、かつ必要な装置が大型であるため、現場では使用できない。
【0003】
それに対し、現場でも実施可能な比較的簡便な分析手法として、例えばいわゆる比色法等がある。しかし、こうした簡易分析法は、元来、排水管理用の手法であって測定限界値が高く、例としてカドミウムや鉛を挙げても、検液1Lに対し僅か0.01mgというオーダーである環境基準の微量な測定対象物質を分析することは困難である。
【0004】
簡易分析法に類似するものとして、蛍光X線分析装置を用いた分析手法がある。この蛍光X線分析装置には、迅速かつ高精度に物質の定性分析及び定量分析ができるメリットがあり、近年では、可搬型のものも存在する。しかし、一般に、元素の定量分析を行う分析装置においては、その分解能の関係から測定可能な元素の濃度範囲に限界があり、蛍光X線分析装置においても、測定限界に関する技術的課題は同様に存在する。また、測定対象は有形物に限られており、測定対象物質が水溶液の場合は、その液滴を滴下・乾燥させて測定するのが一般的である。しかし、この場合には、土壌環境基準値レベルの低濃度の重金属類を測定することができない。
【0005】
ここで、重金属を捕捉するものとして、キレート形成性化合物があり、近年では、繊維分子中に金属又は類金属の捕捉能を有するキレート形成性化合物を結合したキレート形成性繊維が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−123379号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
蛍光X線分析装置は、一般に比較的小型で可搬型のものも存在し、現場での使用も容易であるため、これを用いて検液中の重金属類の溶出量が測定できれば、対象とする土壌が環境基準値をクリアしているか、あるいは重金属類の不溶化処理を要するのか、現場で迅速に判断することができる。
【0008】
しかしながら、各重金属類の環境基準値は、前述したように極めて微量な値である。一方、特許文献1の記載技術は、水中に微量存在する金属又は類金属のイオンの補足を目的とした材料であって、決して分析手法に関わる技術ではなく、それ自体を用いて検液中の重金属類の溶出量を測定することはできない。
【0009】
本発明は、上記の事柄に鑑みなされたものであり、環境基準の極めて微量な測定対象物質の溶出量を、現場で迅速に測定することができる土壌の重金属類の溶出量の分析方法及び分析装置、並びにこれに用いる試料を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、第1の発明は、土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法において、前記土壌から作成した検液に所定の割合でキレート剤を加え、このキレート剤に前記検液中の測定対象物質を吸着させる手順と、前記検液をろ過し、前記測定対象物質を吸着したキレート剤を回収する手順と、蛍光X線分析装置により、前記回収したキレート剤が吸着した測定対象物質を定量分析し、この分析結果を前記検液中の測定対象物質の溶出量に換算する手順とを有することを特徴とする。
【0011】
また、第2の発明は、土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法において、前記土壌から作成した検液に所定の割合でキレート剤を加えて振とうし、前記キレート剤に前記検液中の測定対象物質を吸着させる手順と、前記検液をろ過し、前記測定対象物質を吸着したキレート剤を回収し乾燥させる手順と、蛍光X線分析装置により、前記回収したキレート剤に吸着された測定対象物質を定量分析し、この分析結果を前記検液中の測定対象物質の溶出量に換算する手順とを有することを特徴とする。
【0012】
これら第1及び第2の発明においては、作成した検液中の測定対象物質(重金属)をキレート剤に吸着させ、これをろ過して回収し、回収したキレート剤を蛍光X線分析装置により分析する。ろ過されたキレート剤には、検液中の測定対象物質が捕捉され濃縮されており、このキレート剤の測定対象物質濃度は、十分に蛍光X線分析装置により定性・定量分析可能な水準となる。そして、その測定結果を検液中の測定対象物質の溶出量値に換算する。このように、蛍光X線分析装置を用いて、環境基準の極めて微量な濃度の測定対象物質を測定でき、これにより、調査対象土壌中の重金属類の溶出量を現場で迅速に行うことができる。
【0013】
また、第3の発明は、土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法において、前記土壌から作成した検液に所定の割合でキレート剤を加えて振とうし、前記キレート剤に前記検液中の測定対象物質を吸着させる手順と、前記検液をろ過し、前記測定対象物質を吸着したキレート剤を回収し乾燥させる手順と、前記回収し乾燥させたキレート剤を容器に封入し、固体試料を作成する手順と、前記固体試料を蛍光X線分析装置に設置し、前記回収したキレート剤に吸着された測定対象物質を定量分析し、この分析結果を前記検液中の測定対象物質の溶出量に換算する手順とを有することを特徴とする。
【0014】
また、第4の発明は、土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法において、前記土壌から作成した検液に所定の割合でキレート剤を加えて振とうし、前記キレート剤に前記検液中の測定対象物質を吸着させる手順と、前記検液をろ過し、前記測定対象物質を吸着したキレート剤を回収し乾燥させる手順と、前記回収し乾燥させたキレート剤を容器に封入し、固体試料を作成する手順と、前記固体試料を蛍光X線分析装置に設置し、前記回収したキレート剤に吸着された、少なくとも、カドミウム、鉛、砒素、セレン、六価クロムのうち少なくとも1種の重金属を定量分析し、この分析結果を前記検液中の溶出量に換算する手順とを有することを特徴とする。
【0015】
これら第3及び第4の発明においては、作成した検液中の測定対象物質をキレート剤に吸着させ、これをろ過して回収し、回収したキレート剤を容器に封入して作成した固体試料を蛍光X線分析装置により分析する。これにより、上記同様、蛍光X線分析装置によって、土壌に環境基準レベルで微量に含まれる重金属類の溶出量を現場で迅速に行うことができる。
【0016】
また、第3及び第4の発明においては、回収したキレート剤を容器に封入することにより、特別な技能を要せず、極簡単に一定の厚みを持った信頼性の高い固体試料を作成することができる。こうした固体試料は、極めて取扱いが容易で、なおかつ持ち運びにも便利であり、試料としての再現性も極めて高く、測定結果のバラツキも生じ難い。
【0017】
また、第5の発明は、土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法において、前記土壌から作成した検液中の測定対象物質を、蛍光X線分析装置によって定量分析可能な範囲まで濃縮する手順と、前記蛍光X線分析装置の分析結果を、前記検液中の測定対象物質の溶出量に換算する手順とを有することを特徴とする。
【0018】
また、第6の発明は、上記第1乃至第4のいずれかの発明において、前記キレート剤は、繊維分子にイオン捕捉能をもつキレート官能基を化学結合させたキレート繊維であることを特徴とする。
【0019】
このように、キレート繊維は、3次元構造の細孔をもつキレート樹脂とは異なる2次元の柔構造を有しているため、環境基準の極めて微量な濃度であっても、短い振とう時間で、定量的かつ速やかに測定対象物質を吸着することができる。これにより、測定の精度及び迅速性をより向上させることができる。
【0020】
また、第7の発明は、上記第1乃至第6のいずれかの発明において、測定対象物質を所定の割合で溶媒に混合し、測定対象物質の溶出量が既知の標準液を作成する手順と、前記標準液に、前記検液に対する割合とほぼ同じ割合で前記キレート剤を加え、このキレート剤に前記標準液中の測定対象物質を吸着させる手順と、前記標準液をろ過し、前記測定対象物質を吸着したキレート剤を回収する手順と、蛍光X線分析装置により、前記回収したキレート剤が吸着した測定対象物質を定量分析し、前記標準液で得られた当該分析結果から検量線を得る手順とを有することを特徴とする。
【0021】
本発明においては、測定対象物質の溶出量が既知の標準液を作成し、その標準液を用い、測定時と同様の手順で得られた溶出量の測定結果を測定の基準とする。つまり、この標準液が標準試料となり、標準液で得られた測定結果から検量線を較正することにより、特別な標準試料を労して入手しなくても、標準液中の既知の測定対象物質量を基準に、検液中の未知の測定対象物質量(溶出量)を求めることができる。標準液は、溶媒中に自らが所定割合で測定対象物質を混入して作成したものであるため、その溶出量は確実なものであり、基準としての信頼性は極めて高く、しかも容易に作成できる。
【0022】
また、第8の発明は、土壌に含まれる重金属類の溶出量分析装置において、前記測定対象物質の溶出量が既知の標準液から得られた検量線を記憶した記憶部と、前記土壌から作成した検液に所定の割合でキレート剤を加え、測定対象物質を吸着させたキレート剤を回収して得た試料に、X線を照射するX線源と、前記X線により励起される際に前記測定対象物質から放出される固有の蛍光X線を検出する検出器と、前記検出器で検出された蛍光X線強度、及び前記記憶部に記憶された前記検量線を基に、前記検液中の測定対象物質の溶出量を演算する演算部とを備えたことを特徴とする。
【0023】
また、第9の発明は、土壌に含まれる重金属類の溶出量分析に用いる試料において、前記土壌から作成した検液に所定の割合で加えられ、前記検液中の測定対象物質を吸着して回収されたキレート剤と、このキレート剤を封入し、封入した前記キレート剤に照射されるX線を透過する窓を有する容器とを備えたことを特徴とする。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法及び分析装置、並びにこれに用いる試料の一実施の形態を図面を参照しながら説明する。
本発明の溶出量分析は、土壌から作成した検液中の重金属類を、キレート剤を用いて濃縮した後、この濃縮後の重金属類濃度を蛍光X線分析装置により分析し、その結果を濃縮前の検液中の重金属類の溶出量に換算する濃縮分析技術である。なお、ここで「検液」とは、平成3年環境庁告示46号「土壌の汚染に係る環境基準(溶出量)」に掲げる方法にしたがって作成した液のことである。また、本発明における測定対象物質(重金属類)としては、特許請求の範囲に記載した、カドミウム、鉛、砒素、セレン、六価クロム等が代表例として挙げられるが、これら以外にも、例えば、ニッケルや銅等といった、キレート剤により吸着可能で、なおかつ蛍光X線分析装置で分析可能な元素であれば、全て本発明の溶出量分析の測定対象物質となる。また、本発明は、主に、各種工場の土地(又は跡地)や自然界の土地の土壌に含まれる汚染物質濃度の調査を目的とした溶出量測定や、汚染物質を浄化処理(不溶化処理)した処理土の品質管理を目的とした溶出量測定に適用されるものであるが、これら以外の場合であっても、土壌中の上記測定対象物質の溶出量を測定する場合には、適用可能である。
【0025】
図1は、本発明の土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法の一実施の形態の手順を表したフローチャートであり、以下、この図1を用いてその手順を具体的に説明する。
【0026】
測定の際には、まず、ステップ10として、所定の手順(例えば公定法)で分析対象の土壌から作成した検液に対し、所定の割合でキレート剤を加える。キレート剤としては、キレート樹脂やキレート繊維等といった、金属又は類金属元素に対するキレート形成能を有するものであれば適用可能であるが、中でもキレート繊維が特に好ましい。キレート繊維は、繊維分子(一例として、セルロース繊維等の天然繊維等)にイオン捕捉能をもつキレート官能基を化学結合させた2次元的な柔構造を有するものであり、3次元構造の他の種のキレート剤と比較しても、キレート形成能に優れている。キレート官能基には、ジチオカルパミン酸基、イミノプロピオン酸基、イミノジ酢酸基、アミノリン酸基、ポリアミン系、グルカミン型、IDA型等がある。また、キレート剤の添加割合は、例えば、添加するキレート剤の測定対象物質の吸着性能を考慮して設定する。
【0027】
また、このステップ10に際し、キレート剤が添加される検液は、何等かの攪拌装置(例えばマグネティックスターラ等)を用いて均一に攪拌しておく。また、検液にキレート剤を添加する際、必要に応じ、測定対象物質の種類によって、例えば過酸化水素(H)を加える等して検液をpH調整する。例えば、鉛を測定対象とした場合、特に検液のpH調整を行わなくても、キレート剤の添加率が適正であればほぼ定量的に吸着される。一方、砒素を測定対象とした場合、3価(亜砒酸イオン:AsO)と5価(砒酸イオン:AsO)が共存することがあり、環境基準値の微量なレベルではこれらを個々に定量分析することは難しい。そのため、検液に過酸化水素を適量加えることにより3価のイオンを5価のイオンに酸化し、全体を5価のイオンとしてキレート剤に吸着させる。セレンの場合もまた、4価(亜セレン酸イオン:SeO)と6価(セレン酸イオン:SeO)が共存することがあるので、検液に過酸化水素を添加して4価のイオンを6価のイオンに酸化し、全体を6価のイオンとしてキレート剤に吸着させる。こうすれば、砒素やセレンもキレート剤に定量的に吸着される。
【0028】
続くステップ20では、キレート剤を添加した検液を所定時間振とうし、キレート剤に検液中の測定対象物質を吸着させる。振とうには、マグネティックスターラ(一例)等の攪拌手段を用い、攪拌時間は、測定対象物質に対するキレート剤のキレート形成能を考慮して設定する。
【0029】
十分に振とうしたら、ステップ30として、検液をろ過して測定対象物質を吸着したキレート剤を回収し、ステップ40として、回収したキレート剤を乾燥させる。回収したキレート剤は、自然乾燥(風乾)させても良いし、オーブンや電子レンジ等を用いて強制的に乾燥させても良い。
【0030】
キレート剤が乾燥したら、ステップ50として、蛍光X線分析装置にて分析にかける試料を作成する。ここで作成する試料は、そのまま粉末試料として分析に供しても良いし、成形する、或いは専用の容器に封入する等して取扱いの容易な固体試料としても良い。ここで作成する試料の形態を幾つか図2(a)乃至図2(g)に例示した。
【0031】
図2(a)及び図2(b)は、粉末試料の具体例を表した図で、図2(a)の粉末試料は、単に透明シート1上に乾燥させたキレート剤2を盛ったもの、図2(b)の粉末試料は、適正長さにカットしたパイプ3の一方の開口を透明シート1で塞いで受け皿状にし、その中に乾燥させたキレート剤2を盛ったものである。いずれも、透明シート1側が蛍光X線分析装置にセットされ、透明シート1を介してキレート剤2にX線が照射される。
【0032】
図2(c)乃至図2(e)は、成形した固体試料の具体例を表した図で、それぞれ丸板状、四角板状、山盛り状に成形した状態を図示してある。これらは、いずれも成形可能な熱可塑性を有する樹脂を添加し、それぞれの形状に固めたものである。これらは、透明シートを用いていないので、直接的にキレート剤にX線が照射される。
なお、キレート剤中の測定対象物質が希釈されない程度であれば、接着剤や糊等の整形剤の使用も考えられる。また、形状は図示した形状に限定されるものではない。
【0033】
図2(f)及び図2(g)は、専用の容器4にキレート剤2を封入した固体試料の具体例を表した図である。容器4は、上部が開口したプラスチック容器の底部にX線照射用の窓4aを設けてある。図2(f)の固体試料において、キレート剤2は、窓4aからこぼれないよう、透明シート1に受けられた状態で容器4に収容され、さらに、栓5で押圧された状態で蓋をされ、容器4内に封入されている。図2(g)の固体試料においては、窓4aからのキレート剤1のこぼれを防止するものとして、透明フィルム6が容器4の底部に敷いてある。透明シート1や透明フィルム6には、X線の透過率の高い材質のものを用いる。
【0034】
図1に戻り、ステップ60として、以上のように作成した試料を蛍光X線分析装置にて分析にかけ、回収したキレート剤に吸着された測定対象物質を定量分析し、この分析結果を元の検液中の溶出量に換算する。
【0035】
ここで、蛍光X線分析は相対値分析であり、定量分析の際には、検出した蛍光X線の強度を物質濃度に換算するのに、通常、基準となる検量線を得なければならない。一般に、この検量線を得るためには、未知試料と類似したマトリクス構造を有し、その含有率を他の分析手法で確認した測定対象物質の含有量が既知の標準試料を入手しなければならない。一般に、標準試料の入手は、測定対象物質の種類によって困難な場合がある。これに対し、本発明においては、検液中の溶出量を測定するため、所定量の溶媒に所定量の測定対象物質を混入し、測定対象物質の含有量(つまり溶出量)が既知の標準液を、標準試料として用いることができる。
【0036】
検量線を得る手順は、調査対象の土壌から作成した測定対象物質の含有量が未知の検液の代わりに上記標準液を用いること以外、図1のステップ10〜60の手順と同様である。すなわち、測定対象物質の含有量(溶出量)が既知の標準液中の測定対象物質をキレート剤に吸着させて回収し、回収したキレート剤を蛍光X線分析装置にて分析にかけることにより、その測定により得られた蛍光X線強度と既知の溶出量との関係から、該蛍光X線分析装置について有効な検量線を較正する。
【0037】
但し、上記の標準液を基に検量線を較正すると、検量線そのものは、使用するキレート剤の測定対象物質に対するキレート形成能(吸着率)によって異なってくる。すなわち、試料(この場合、標準液から回収したキレート剤)中の測定対象物質量は、使用するキレート剤の吸着率が分からなければ未知であるため、未知の検液から回収したキレート剤中の測定対象物質濃度を測定する場合には、得られる測定値は、未知の値を基準とした相対評価であり、必ずしも絶対量であるとは限らない。
【0038】
しかしながら、本発明において、最終的に得たい値は試料(回収したキレート剤)中の測定対象物質量ではなく、検液中の測定対象物質量(溶出量)であるため、その測定過程で得られる検量線が、必ずしも試料に含まれる測定対象物質量の絶対基準である必要はない。使用するキレート剤の吸着率が未知でも、その吸着率に応じて標準液から得られた検量線は、その較正時と同じ測定条件であれば、検液中の未知の溶出量の測定値に対する絶対基準となる。つまり、標準液で得られた測定結果から、蛍光X線強度(検出値)と検液中の未知の溶出量(絶対量)との相関関係となる検量線を得ることができる。
【0039】
このことを具体的に説明すると、まず、ある重金属αの吸着率がX1であるキレート剤β1と、このキレート剤β1よりも重金属αの吸着率が低いキレート剤β2(吸着率X2>X1)とがあるとする。そして、これらキレート剤β1,β2を用いて、上記手順で図3(a)のように検量線γ1,γ2が得られたとする(但し、これら検量線γ1,γ2は、蛍光X線強度と溶出量との相関関係ではなく、蛍光X線強度とキレート剤中の重金属αの含有量(吸着量)との相関関係である)。このとき、仮に検出される蛍光X線強度が同じであれば、試料中の測定物質濃度は検量線の傾きが小さい方が大きくなることを考慮すると、キレート剤β1,β2においては、互いの吸着率の関係がX1<X2であるから、重金属αの吸着量は吸着率の高いキレート剤β2の方が大きなるので、得られる検量線の傾きは、図3(a)のように、キレート剤β1の場合の検量線γ1よりも、キレート剤β2を用いて得た検量線γ2の方が小さくなる。
【0040】
また、重金属αのキレート剤への吸着量は、その吸着率に応じ、検液中の重金属αの含有量(溶出量)に比例して大きくなる。また、吸着率が高いほど、同じ溶出量の溶液に同量添加しても吸着量が高くなるので、上記キレート剤β1,β2の場合、互いの吸着率がX1<X2であるから、重金属αのキレート剤への吸着量と、元々の検液中の重金属αの含有量(溶出量)との相関関係は、図3(b)のように模式化できる。
【0041】
次に、図3(a)において、重金属αを含有した土壌から作成された検液を対象とし、キレート剤β1を用いて作成した試料を蛍光X線分析装置にかけた場合を考える。この場合、検出された蛍光X線強度がO1であれば、検量線γ1から、試料中の重金属αの量(すなわちキレート剤β1に対する重金属αの吸着量)はP1と測定され、吸着量P1は、図3R>3(b)から、キレート剤β1の吸着率X1を基に、元の検液中の重金属αの溶出量Qに換算される。
【0042】
これに対し、重金属αを含有した同じ土壌から作成された検液を対象とし、キレート剤β2を用いて試料を作成し、蛍光X線分析装置にかけた場合を考える。この場合、検出された蛍光X線強度がO2であれば、準検量線γ2から、試料中の重金属αの量(すなわちキレート剤β2に対する重金属αの吸着量)はP2(>P2)と測定されるが、図3(b)において、両キレート剤β1,β2の吸着率にX1<X2の関係があるので、吸着量P2は、キレート剤β2の吸着率X2から、溶出量Qに換算される。
【0043】
このように、使用するキレート剤が異なると、その吸着率に応じて吸着量が変化するが、結果的に吸着率に応じた検量線が得られるので、検量線の較正時に対し、同様の(測定対象物質の吸着率が同じ)キレート剤を用い、同じ条件で実際の測定を行えば、過程で得られるキレート剤への重金属の吸着量の大小に関わらず、標準液の既知の溶出量に相対して、検液中の未知の溶出量が得られる。したがって、検量線の較正時と測定時とで同じキレート剤を用い同じ条件で測定することで、図4に示したように、検出された蛍光X線強度Oから、基準となる予め較正した検量線に相対する未知の溶出量Qの値が換算される。
【0044】
また、以上のことは、次のようにも証明できる。
例えば、重金属αを含有する検液の容量をA[L]、この検液中の重金属αの含有量をB[mg/L]、検液に加えるキレート剤の重量をC[g]、キレート剤への重金属αの吸着量(濃度)をD[ppm]、重金属αに対するキレート剤の吸着率をX[%]とすると、先の図3(b)のグラフは、重金属αの溶出量HはA×B[mg]であるので、



と表すことができる。
【0045】
一方、図3(a)のグラフは、検出される蛍光X線強度をE[cps]、重金属αに固有の定数をF,Gとし、前述したように吸着率が高いほど検量線の傾きが小さくなることを考慮すると、
E=(F/X)×D+G ・・・(式2)
と表される。
【0046】
すると、(式1)(式2)から、
(10×X/C)×H=(E−G)×X/F ・・・(式3)
という関係が成り立ち、この(式3)を、溶出量Hと蛍光X線強度Eとの関係に改めると、吸着率Xが相殺され、
H=A×B=C×(E−G)/(10×F) ・・・(式4)
という関係が得られる。
【0047】
この(式4)から、溶出量Hは、吸着率Xに関わらず、検量線から定まる定数F,G及び既知の値Cにより傾きが定まる、蛍光X線強度Eの一次式に置換できる。すなわち、(式4)は、図4のグラフの蛍光X線強度と溶出量との相関関係である検量線に相当し、この(式4)からも、吸着率に関わらず、検出された蛍光X線強度Oから未知の溶出量Qが求められることが分かる。
【0048】
図5は、本発明の土壌に含まれる重金属類の溶出量分析装置の一実施の形態を模式的に表した概略構成図である。以下に、この図5を用いて本発明の蛍光X線分析装置について簡単に説明する。
【0049】
図5において、10は試料(回収したキレート剤)、11はこの試料10にX線を照射するX線源、12はこのX線源11からX線を発生させるための高圧電源である。13はX線の照射により励起された試料10中の測定対象物質から放出される蛍光X線(特性X線)を検出する検出器、14は検出器13で検出した蛍光X線のエネルギー(波長)及び強度(計数値)を分析する分析器(波高分析器)である。なお、特に図示していないが、厳密には、検出器13は、試料10からの蛍光X線を直接検出するわけではなく、分光結晶を介し分光され入射する蛍光X線を検出し、測定対象物質の種類によって、複数設ける場合もある。
【0050】
15は検出した蛍光X線強度とそれに対応した測定対象物質の溶出量との相関関係を記憶した記憶部で、この記憶部15には、検量線の較正時の測定データ(すなわち図4に示した検量線、あるいは(式4)のような関係式)が記憶される。16は分析器14からの入力信号と記憶部15に格納した相関関係とを基に溶出量を演算する演算部、17は表示部、18は入力部で、表示部17としては、モニタ等が代表例であるが、結果表示を印刷するプリンタであっても良い。なお、測定対象物質に対するキレート剤の吸着率が既知であれば、記憶部15には、標準液で得た検量線を格納する代わりに、その吸着率を入力部18により入力し、これを基に算出した検量線を格納しても良い。このようにキレート剤の吸着率が既知の場合、キレート剤に吸着した測定対象物の絶対量も測定可能である。
【0051】
この図5の蛍光X線分析装置にて溶出量測定を行う際には、図2の各図のように作成した試料10を蛍光X線分析装置にセットし、高圧電源12によってX線源11を加圧して、セットした試料10に対しX線を照射する。この際、励起した試料10中の測定対象物質から放出され、分光器にて分光された測定対象物質に固有の蛍光X線を検出器13で検出する。検出器13からの検出信号は、分析器14を介し演算部16に入力され、ここで蛍光X線のエネルギー(波長)と強度(計数値)が演算され、記憶部15に一時的に記憶される。演算部16では、演算した蛍光X線のエネルギーから、検出された物質の種類が特定(定性分析)され、同時に、各エネルギー値の蛍光X線の強度を、記憶部15に格納された対応の検量線を基に、検液中の各物質の溶出量に換算(定量分析)する。これら分析結果は、入力部18からの入力操作に応じて、表示部17に表示される。
【0052】
以上に説明したように、本発明においては、検液中の対象の測定対象物質をキレート剤に吸着させ、測定対象物質の濃度が十分に測定可能な水準に濃縮されたキレート剤を試料とすることにより、蛍光X線分析装置により、試料中の測定対象物質濃度を測定し、この測定結果を、図4のように、検液中の測定対象物質の溶出量に換算する。そのため、環境基準値レベルの極めて微量な溶出量を現場で迅速に行うことができる。これにより、汚染土壌を対象とした場合の不溶化処理を必要とするかどうかの判定や、不溶化処理後の処理土を対象とした場合の環境基準値をクリアできたかどうかの品質管理を、現場で迅速かつ高精度に、しかも難しい操作がないため、高度な技能がなくても極簡単に行うことができる。
【0053】
また、本発明によれば、土壌汚染対策法(平成15年2月15日施行)における重金属の含有量測定にも対応可能である。土壌汚染対策法においては、対象物質の含有量測定は、1規定−塩酸で抽出する方法を採用しているが、これに影響されず、カドミウム、六価クロム、鉛、砒素、セレン等、各指定物質について、本発明は適用可能である。但し、六価クロムについては、酸性溶液中で三価に還元してキレート剤に吸着させ、分析にかける。
【0054】
また、公定法による検液作成と日本工業規格(JIS)K0102による測定方法により、土壌の重金属溶出量を測定する場合、測定結果が出るまでに概ね2週間の期間を要し、しかも必要な装置が大型であるため、現場での溶出量分析は困難であった。そのため、重金属に汚染された土壌を不溶化処理し、その処理土を埋め戻すといった整地作業においては、埋め戻し前に処理土の品質を確認しなければならないが、処理土の品質確認に時間がかかり、その間、処理土は現場に放置せざるを得ない。その結果、工事期間が長期化し、しかも測定結果が出るまで処理土を集積しておくための広大なスペースを必要とし、またそれに伴って管理コストも増大する。
それに対し、本発明は、現場で簡単かつ迅速に測定結果が得られるので、工期短縮、省スペース化、管理コストの削減といった多大なメリットが得られる。
【0055】
更に、通常、汚染土壌の不溶化処理の際には、事前に処理対象の土壌の汚染度を調査分析するが、実際の施行現場においては、汚染の度合によって、不溶化のための薬剤の添加量を作業を進めながら微調整することがある(薬剤添加が不要なケースもある)。具体的には、あるロットの不溶化処理に対し、その前のロットの不溶化処理における汚染土及び処理土の分析データをフィードバックする。したがって、測定結果を得るのに時間がかかるようでは、その待ち時間が累積し、作業の進捗にますます遅れが生じてしまう。
これに対しても、本発明は、現場で迅速に測定結果が得られるので、作業進捗の遅れを防止し、工期をより短縮することができる。また、即座に測定結果が得られるので、不溶化処理を行う前に土壌を細かく区画しておき、各区画において土壌の汚染度調査を行い、必要な場合にその区画を不溶化処理する、といった要領で作業を進めていけば、必要最小限の区画を不溶化処理することができ、更なる工期短縮、労力及びコストの低減、省スペース化の効果が得られる。
【0056】
また、試料が液体(溶液)の場合、蛍光X線分析装置では、その試料を滴下、乾燥させて定量分析を行わなければならず、この場合には、一滴に含まれる重金属量が微量で測定不能なため、繰り返し滴下・乾燥を行わなければならない。また、蛍光X線分析装置においては、能力上、試料の厚さをある程度要する場合があり、液体試料を滴下する方法では、信頼性や再現性が乏しい。
それに対し、本発明によれば、測定対象物質をキレート剤中に濃縮し、有形物の試料として回収するため、信頼性、再現性が十分に確保される。
【0057】
また、図2(a)及び図2(b)のように、回収したキレート剤をそのまま粉末試料として用いる場合、試料の取扱いにある程度慎重を要するが、図2(c)〜図2(g)のように固体試料を作成することにより、極めて試料の取扱いを容易化することができ、持ち運びも簡単である。特に、図2(f)及び図2(g)の固体試料は、特別な技能や経験がなくとも容易に作成でき、図2(c)〜図2(e)の固体試料のように、熱可塑性の樹脂を用いてキレート剤を成形する場合に比べても簡単に作成できる。また、蛍光X線分析装置においては、試料の厚みをある程度要するので、粉末試料の場合、測定個所によって測定結果が若干ばらつく可能性があり、また再現性の面で若干課題が生じるが、図2(c)、図2(d)、図2(f)、図2(g)のように、一定の厚みを有する固体試料の場合には、取扱いが極めて容易でることに加え、測定個所による結果にバラツキも生じ難く、なかつ再現性の面で問題はない。そのため、試料としての信頼性が極めて高い。
【0058】
また、キレート剤として、2次元の柔構造を有するキレート繊維を用いた場合、キレート樹脂等の3次元構造の細孔をもつ他の種のキレート剤を用いた場合に比し、環境基準値程度の極めて微量な値であっても、測定対象物質を短い振とう時間で定量的かつ速やかに吸着することができるので、測定精度及び迅速性をより向上させることができる。
【0059】
更に、測定対象物質の溶出量が既知の標準液を、検量線を較正するための標準試料とすることができるので、標準試料が簡単かつ確実に得られる。したがって、外部から標準試料を入手する必要がなく、それだけ分析に要する期間を短縮することができる。
【0060】
【実施例】
本発明に関し、その信頼性を本実施例にて実証した。
その手順として、まず、測定対象物質の含有量(溶出量)が既知の検液を作成し、その検液中の測定対象物質に対するキレート剤の吸着状態を確認し、次に回収したキレート剤を蛍光X線分析装置で分析し、その分析結果の信頼性を確認した。第1に、キレート剤に測定対象物質が定量的に吸着されることが確認でき、第2に、キレート剤中の測定対象物質の定量分析結果に信頼が置けることが確認できれば、本発明の信頼性が実証される。
【0061】
(1)キレート剤への測定対象物質の吸着の確認
▲1▼まず、主に、鉛、ニッケル等の重金属類や、白金等の貴金属類や希土類金属類等に対するキレート形成能に優れたキレート繊維Mを、鉛と砒素がともに等濃度の溶液に添加し、鉛及び砒素に対するキレート繊維Mの吸着を測定した。
【0062】
(実験手順)
溶液は、鉛及び砒素の濃度が同じになるよう、0.005[mg/L],0.01[mg/L],0.1[mg/L]の濃度の異なる3種類の混合溶液を用意し、各200[mL]に対しキレート繊維Mを0.1[g]添加後、1時間振とうし静置した。静置後、必要であればキレート繊維Mをろ過し、それぞれ採取した上澄み液をIPC発光分光分析法により分析し、採取した各上澄み液中の鉛及び砒素の残存量を測定した。
【0063】
(実験結果)
この実験の結果、表1に示すように、キレート繊維Mには、鉛がほぼ完全に吸着されたが、砒素は殆ど吸着されなかった。
【0064】
【表1】



【0065】
▲2▼次に、主に、セレン、ほう素、ゲルマニウム等の類金属(半金属)に対するキレート形成能に優れたキレート繊維Nを、鉛、砒素、及びセレンがいずれも等濃度の混合溶液(STD溶液)に添加し、鉛、砒素、及びセレンに対するキレート繊維Nの吸着を測定した。
【0066】
(実験手順)
STD溶液は、鉛、砒素及びセレンの濃度が同じになるよう、0.01[mg/L],0.05[mg/L],0.1[mg/L]の濃度の異なる3種類を1[L]づつ作成して、各STD溶液から、pH4.0,pH8.5にpH調整したものを200[mL]づつ作成し、計6種用意した。続いて、過酸化水素原液(30%)を10倍に希釈したものを、各STD溶液にマイクロシリンジで添加した。各溶液に対する添加量[μL]は、表2に示した。
【0067】
【表2】



【0068】
次に、各STD溶液に対し、メノウ乳鉢で粉砕し繊維長さを適当にしたキレート繊維Nを0.1[g]添加し、1時間振とうして静置した。静置後、上記同様の手順で、各STD溶液についてそれぞれ採取した上澄み液を、IPC発光分光分析法により分析し、採取した各上澄み液中の鉛、砒素及びセレンの残存量を測定した。
【0069】
(実験結果)
この実験の結果、表3に示すように、砒素は、過酸化水素をBパターンで添加した場合、キレート繊維Nにほぼ定量的に吸着され、セレンに関しては、過酸化水素の添加パターンに限らず、濃度が0.05[mg/L]以下の場合、ほぼ定量的にキレート繊維Nに吸着された。
【0070】
【表3】



【0071】
このように、鉛、砒素、セレンのいずれにおいても、適切なキレート剤を選択し、必要に応じて溶液のpHを調整すれば、それぞれ環境基準値レベルの測定対象物質を、定量的にキレート剤に吸着させることができた。
【0072】
(2)蛍光X線分析結果の確認
可搬型蛍光X線分析装置を用い、その信頼性を以下のように確認した。
まず、鉛、砒素及びセレンの濃度が同じになるよう、0.01[mg/L],0.02[mg/L],0.05[mg/L]と濃度の異なる3種類のSTD溶液を作成し、3種類のSTD溶液に対し、それぞれキレート繊維Mを添加したもの、キレート繊維Nを添加したものの、計6つの試料を用意した。
各試料の測定対象物質濃度と添加したキレート繊維との関係を表4に、キレート繊維に鉛、砒素、セレンを吸着させるときの条件を表5に示した。
【0073】
【表4】



【0074】
【表5】



【0075】
続いて、各試料につき、キレート繊維をろ過して回収・乾燥させたものを、蛍光X線分析装置により分析した結果を表6に示した。なお、表6中の「ND」は、「Not determined」を表し、表6を見ると、キレート繊維Mには、セレンが殆ど吸着されなかったことが分かる。また、この際の試料No.1、試料No.4について得られた定性分析チャートを、それぞれ図6及び図7に示した。
【0076】
【表6】



【0077】
次に、試料No.6を対象とし、表6に得られた測定結果のバラツキを調べた。この際、試料No.6に関し、測定個所を5個所とり、砒素及びセレンの測定値の平均値、標準偏差σ、及び、CV値[%]を測定した。CV値とは変動係数のことで、この値が10%以下の場合、測定結果として良好と評価できる。なお、この実験の際の定量分析には、一般の標準試料を使用した。
この測定の結果、表7に示したように、いずれもCV値が10%以内におさまり、表6の測定値について高い信頼性が確認できた。
【0078】
【表7】



【0079】
以上のように、本実施例によって、キレート剤に測定対象物質が定量的に吸着され、なおかつ、キレート剤中の測定対象物質の定量分析結果に信頼が置けることが確認できたので、本発明を適用した溶出量分析の信頼性は十分なものであることが実証できた。
【0080】
【発明の効果】
本発明によれば、蛍光X線分析装置を用い、環境基準の極めて微量な濃度の測定対象物質を測定できるので、調査対象土壌中の重金属類の溶出量を現場で迅速に行うことができる。したがって、汚染土壌の不溶化処理に関し、工期短縮、省スペース化、コスト削減といった顕著な効果が得られる。また、本発明の試料を用いれば、測定結果のバラツキが生じ難く、より信頼性の高い測定値を得ることができる。しかも、試料の取扱いは極めて容易で、再現性も極めて高い。
【0081】
また、キレート繊維を用いることにより、環境基準の極めて微量な濃度であっても、検液中の測定対象物質を速やかに吸着させることができるので、測定の精度及び迅速性をより向上させることができる。また、測定対象物質の溶出量が既知の標準液で得られた測定結果を基準とすることにより、標準試料の入手に労することがなく、信頼性の高い検量線が容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法の一実施の形態の手順を表したフローチャートである。
【図2】本発明の土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法及び装置に用いる試料の一実施の形態の代表例を表した図である。
【図3】蛍光X線強度とキレート剤中の重金属の吸着量との相関関係を表す図、及びキレート剤中の重金属の吸着量と検液中の重金属の溶出量との相関関係を表す図である。
【図4】蛍光X線強度と検液中の重金属の溶出量との相関関係を表す図である。
【図5】本発明の土壌に含まれる重金属類の溶出量分析装置の一実施の形態を模式的に表した概略構成図である。
【図6】表6の測定結果のうち、試料No.1について得られた定性分析チャートを表す図である。
【図7】表6の測定結果のうち、試料No.4について得られた定性分析チャートを表す図である。
【符号の説明】
2 キレート剤
4 容器
4a 窓
11 X線源
13 検出器
15 記憶部
16 演算部
γ1,γ2 検量線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法において、
前記土壌から作成した検液に所定の割合でキレート剤を加え、このキレート剤に前記検液中の測定対象物質を吸着させる手順と、
前記検液をろ過し、前記測定対象物質を吸着したキレート剤を回収する手順と、
蛍光X線分析装置により、前記回収したキレート剤が吸着した測定対象物質を定量分析し、この分析結果を前記検液中の測定対象物質の溶出量に換算する手順と
を有することを特徴とする溶出量分析方法。
【請求項2】
土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法において、
前記土壌から作成した検液に所定の割合でキレート剤を加えて振とうし、前記キレート剤に前記検液中の測定対象物質を吸着させる手順と、
前記検液をろ過し、前記測定対象物質を吸着したキレート剤を回収し乾燥させる手順と、
蛍光X線分析装置により、前記回収したキレート剤に吸着された測定対象物質を定量分析し、この分析結果を前記検液中の測定対象物質の溶出量に換算する手順と
を有することを特徴とする溶出量分析方法。
【請求項3】
土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法において、
前記土壌から作成した検液に所定の割合でキレート剤を加えて振とうし、前記キレート剤に前記検液中の測定対象物質を吸着させる手順と、
前記検液をろ過し、前記測定対象物質を吸着したキレート剤を回収し乾燥させる手順と、
前記回収し乾燥させたキレート剤を容器に封入し、固体試料を作成する手順と、
前記固体試料を蛍光X線分析装置に設置し、前記回収したキレート剤に吸着された測定対象物質を定量分析し、この分析結果を前記検液中の測定対象物質の溶出量に換算する手順と
を有することを特徴とする溶出量分析方法。
【請求項4】
土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法において、
前記土壌から作成した検液に所定の割合でキレート剤を加えて振とうし、前記キレート剤に前記検液中の測定対象物質を吸着させる手順と、
前記検液をろ過し、前記測定対象物質を吸着したキレート剤を回収し乾燥させる手順と、
前記回収し乾燥させたキレート剤を容器に封入し、固体試料を作成する手順と、
前記固体試料を蛍光X線分析装置に設置し、前記回収したキレート剤に吸着された、少なくとも、カドミウム、鉛、砒素、セレン、六価クロムのうち少なくとも1種の重金属を定量分析し、この分析結果を前記検液中の溶出量に換算する手順と
を有することを特徴とする溶出量分析方法。
【請求項5】
土壌に含まれる重金属類の溶出量分析方法において、
前記土壌から作成した検液中の測定対象物質を、蛍光X線分析装置によって定量分析可能な範囲まで濃縮する手順と、
前記蛍光X線分析装置の分析結果を、前記検液中の測定対象物質の溶出量に換算する手順と
を有することを特徴とする溶出量分析方法。
【請求項6】
前記キレート剤は、繊維分子にイオン捕捉能をもつキレート官能基を化学結合させたキレート繊維であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の溶出量分析方法。
【請求項7】
測定対象物質を所定の割合で溶媒に混合し、測定対象物質の溶出量が既知の標準液を作成する手順と、
前記標準液に、前記検液に対する割合とほぼ同じ割合で前記キレート剤を加え、このキレート剤に前記標準液中の測定対象物質を吸着させる手順と、
前記標準液をろ過し、前記測定対象物質を吸着したキレート剤を回収する手順と、
蛍光X線分析装置により、前記回収したキレート剤が吸着した測定対象物質を定量分析し、前記標準液で得られた当該分析結果から検量線を得る手順と
を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の溶出量分析方法。
【請求項8】
土壌に含まれる重金属類の溶出量分析装置において、
前記測定対象物質の溶出量が既知の標準液から得られた検量線を記憶した記憶部と、
前記土壌から作成した検液に所定の割合でキレート剤を加え、測定対象物質を吸着させたキレート剤を回収して得た試料に、X線を照射するX線源と、
前記X線により励起される際に前記測定対象物質から放出される固有の蛍光X線を検出する検出器と、
前記検出器で検出された蛍光X線強度、及び前記記憶部に記憶された前記検量線を基に、前記検液中の測定対象物質の溶出量を演算する演算部と
を備えたことを特徴とする溶出量分析装置。
【請求項9】
土壌に含まれる重金属類の溶出量分析に用いる試料において、
前記土壌から作成した検液に所定の割合で加えられ、前記検液中の測定対象物質を吸着して回収されたキレート剤と、
このキレート剤を封入し、封入した前記キレート剤に照射されるX線を透過する窓を有する容器と
を備えたことを特徴とする試料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2004−294329(P2004−294329A)
【公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−88682(P2003−88682)
【出願日】平成15年3月27日(2003.3.27)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】