説明

土壌の新規作製法

【課題】微生物数を高レベルで維持でき、有機肥料を効率良く利用できる土壌の作製方法、及び当該方法により作製された土壌を使用する植物工場における植物栽培システムを提供する。
【解決手段】(1)原料土壌の全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比を測定する工程、及び(2)前記工程で測定された土壌に対して、全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比が100:[0.1〜18]:[0.01〜17]を満たすように副原料を添加する工程を有する土壌の作製方法、及び当該方法により作製された土壌を使用することを特徴とする植物工場における植物栽培システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土壌の作製方法及び診断方法に関する。更に、本発明は植物工場における植物栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
化学合成技術の発展により、戦後、化学肥料を用いた農法が広く行われてきた。しかし、消費者の安全・安心な農作物に対する要望の高まりや、持続可能な農業生産のため、有機農法や自然農法への転換が各地で進められている。
【0003】
また、日本の食糧自給率の低下が懸念されて久しいが、食糧となる植物を育てるために必要な化学肥料の原料(石油、石炭、リン鉱石、カリ鉱石)も海外からの輸入に依存しているのが現状である。このような状態でたとえ食糧の増産に成功したとしても、本当の意味での食糧自給率の問題が解消したとは言えない。そのため、食糧自給率の問題の観点からも、国内で自給が可能な堆肥を使用する有機農法への転換が必要と考えられる。
【0004】
堆肥中の肥料成分には、植物が直接吸収可能な形態(肥効が速効性である)、及び土壌微生物の分解作用によって植物が吸収可能となる形態(肥効が緩効性である)が存在する。植物に即効性を示す堆肥中の肥料成分は、硝酸態窒素、水溶性リン酸および水溶性カリウムであり、緩効性の肥料成分は、アンモニア態窒素、可給態リン酸、有機態リン酸、交換性カリウム、固定カリウムである。このような緩効性の肥料成分が植物に吸収されるためには、土壌微生物による分解作用が不可欠である。
【0005】
また、特許文献1〜4には、微生物を使用して大豆粕の高分子タンパク質を低分子化することで、植物が吸収可能になり、根毛増殖作用を有する植物肥料として使用できることが記載されている。特許文献5には、大豆ホエーをアルカリプロテアーゼで加水分解したペプチドを有効成分とする植物生長促進剤が記載されている。これらのことからも、有機肥料を使用するに当たっては、土壌中の微生物の存在が重要であることが分かる。
【0006】
更に、化学肥料を用いる農法において、土壌の化学分析は行われていたが、有機農法のための土壌分析法がなく、従来の堆肥は経験的に作製されている。そのため、植物肥料バランスが植物に適していない堆肥が含まれることから、有機肥料を実際の農場に用いるにはその効果が正確に推定できず、失敗する例も散見されている。
【0007】
また、有機物を大量に含む有機肥料を植物が吸収できる無機体に分解する役割を微生物が担っているが、有機肥料中の微生物数および微生物種を科学的に解析した結果に基づいた有機農法のための土壌調製法も存在していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−95468号公報
【特許文献2】特開2002−362988号公報
【特許文献3】特開2006−63023号公報
【特許文献4】特開2006−124323号公報
【特許文献5】特開2006−69917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、微生物数を高レベルで維持でき、有機肥料を効率良く利用できる土壌の作製方法、及び当該方法により作製された土壌を使用する植物工場における植物栽培システムを提供することを目的とする。更に、本発明は、微生物数を高レベルで維持でき、有機肥料を効率良く利用できる土壌についての診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、土壌中の全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比を100:[0.1〜18]:[0.01〜17]に調整することにより、微生物数を高レベルで維持でき、有機肥料を効率良く利用できることができるという知見を得た。本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の土壌の作製方法、診断方法及び植物工場における植物栽培システムを提供するものである。
【0011】
項1.(1)原料土壌の全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比を測定する工程、及び
(2)前記工程で測定された土壌に対して、全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比が100:[0.1〜18]:[0.01〜17]を満たすように副原料を添加する工程
を有する土壌の作製方法。
【0012】
項2.前記工程(2)において、全リン酸に対する全窒素の重量比を0.1以上とするように添加することを特徴とする、項1に記載の方法。
【0013】
項3.土壌中の全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比 100:[0.1〜18]:[0.01〜17]を指標として用いて土壌の診断を行うことを特徴とする土壌の診断方法。
【0014】
項4.項1又は2に記載の方法により作製された土壌を使用することを特徴とする植物工場における植物栽培システム。
【発明の効果】
【0015】
本発明により作製される土壌は、高レベルの微生物数を維持できる。そして、この微生物活性によって物質循環(アンモニア酸化活性、亜硝酸酸化活性など)が促進され、有機物が効率よく植物が利用できる形態に変換されるので、有機肥料を効率よく利用できる。このように本発明により作製される土壌は、植物生長を良好とすることが可能な有機農法に適した土壌である。
【0016】
本発明の新たな指標を用いることで、再現性のある有機農法が可能となり、有機農産物の安定供給に寄与することができる。その結果、化学農法から有機農法への移行が容易になり付加価値の高い農産物を生産することが可能になる。また、真の食糧自給率の向上にもつながり得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】土壌環境におけるeDNA量−総バクテリア数検量線を示す図である。
【図2】種々の土壌及び堆肥の全CNP比と総バクテリア数の関係を示す図である。
【図3】堆肥を添加した時の土壌の全CNP比と総バクテリア数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の土壌の作製方法、診断方法及び植物栽培システムについて詳細に説明する。
【0019】
土壌の作製方法
本発明の土壌の作製方法は、(1)原料土壌の全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比を測定する工程、及び(2)前記工程で測定された土壌に対して、全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比が100:[0.1〜18]:[0.01〜17]を満たすように副原料を添加する工程を有することを特徴とする。
【0020】
・工程(1)
本発明において、原料土壌の種類は、いずれの土壌であっても良いが、例えば、水田、畑、牧場、果樹園、森林、花壇等の土壌、植物工場で使用する土壌等が挙げられる。原料土壌は環境から分離した土壌であってもよい。環境中にある土壌を用いる場合は土壌の改善方法となる。土壌中の微生物を増加させるという観点から考えると、工場の跡地の土壌が好適である。植物生長を促進させるという観点から考えると、畑、水田などの農地土壌が好適である。
【0021】
本発明において全炭素とは土壌中の無機態および有機体炭素の総和を意味する。全炭素は全炭素測定機(Shimazu)により測定することが出来る。
【0022】
本発明において全窒素とは土壌中の無機態および有機体窒素の総和を意味する。全窒素はペルオキソ二硫酸カリウム法により測定することが出来る。
【0023】
本発明において全リン酸とは土壌中の無機態および有機体リン酸の総和を意味する。全リン酸は過塩素酸分解法により測定することが出来る。
【0024】
・工程(2)
土壌中の全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比が上記範囲を満たすことで微生物数を高レベル(望ましくは2×108 cell/g以上)で維持でき、有機物が効率よく植物が利用できる形態に変換されるので、有機肥料を効率良く利用することが可能となる。全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比は、好ましくは100:[0.1〜18]:[0.01〜17]であり、理想的には100:10:1であり、この範囲であれば微生物の成育に適した土壌を作製できる。更に、全リン酸に対する全窒素の重量比を0.1以上、特に1〜20とするように添加することが好ましい。このような範囲とすることで高レベルの微生物数および叢を維持出来るということがある。
【0025】
上記副原料としては、これらに限定されるものでは無いが、堆肥、窒素、リン、及び/又はカリウム含有肥料などを添加することが挙げられる。これらは1種単独としてもよく、2種以上であってもよい。中でも、堆肥を添加することは有機土壌を作製できるため好ましい当該堆肥としては、バーク堆肥などの植物堆肥、馬糞堆肥、鶏糞堆肥、牛糞堆肥、豚糞堆肥などの家畜堆肥、海藻堆肥などが挙げられる。。
【0026】
全炭素が不足している場合は、全窒素及び全リン酸と比べて全炭素の含有量が多い副原料を添加することが望ましく、そのような副原料としては例えば、稻ワラ、籾殻などが挙げられる。全窒素が不足している場合は、全炭素及び全リン酸と比べて全窒素の含有量が多い副原料を添加することが望ましく、そのような副原料としては例えば、大豆カス、魚粉などが挙げられる。全リン酸が不足している場合は、全炭素及び全窒素と比べて全リン酸の含有量が多い副原料を添加することが望ましく、そのような副原料としては例えば、活性汚泥炭化物などが挙げられる。
【0027】
本工程の操作としては、例えば、原料土壌と副原料のそれぞれの全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比を計測した後に、原料土壌と副原料を混合した後の全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比が上記範囲となるような混合比を求めて、当該混合比で原料土壌に副原料を添加して土壌を作製できる。
【0028】
土壌中には、上記副原料以外にも土壌の微生物を活性化するための栄養成分、窒素、リン、及び/又はカリウムの循環活性を有する微生物などを添加しても良い。
【0029】
土壌中の全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比が上記範囲を満たすことで、土壌中の微生物数は植物の生育に適した理想的な数である2×108 cell/g以上、好ましくは1×109 cell/g以上で維持できる。
【0030】
上記土壌中の微生物数は、対象土壌から採取した試料単位重量当たりに存在するDNA量に基づいて求めることができる。単位重量が1gである場合、その数は、対象土壌(又は試料)単位重量あたりの数(cells/g-soil又はcells/g-sample)の単位で表すことができる。なお、ここでいうDNA量とは、対象土壌から採取した試料単位重量当たりに存在するDNAの量を示す。土壌バクテリア数は、対象土壌から採取した試料単位重量当たりに存在するDNA量を、適当な手法で換算することにより求めることができる。例えば、顕微鏡等の測定手段を用いて、予め土壌中の土壌バクテリアの数とDNA量との相関関係を求めておき、採取した試料から測定されたDNA量を該相関関係に照合することによって求めることができる。
【0031】
本発明により作製した土壌は、農作物、観賞用植物、牧草、木材などを育てるための土壌として使用できる。
【0032】
土壌の診断方法
本発明の土壌の診断方法は、土壌中の全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比 100:[0.1〜18]:[0.01〜17]を指標として用いて土壌の診断を行うことを特徴とする。
【0033】
全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比の定義、及び好ましい範囲は前記と同様である。
【0034】
上記指標について診断し、全炭素、全窒素及び全リン酸のどの成分が不足又は過剰であるか、更に、その改善のために、追加成分の投入が有効か等の診断を行う。
【0035】
全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比が上記範囲にある場合は植物の生育に適した土壌と判定し、上記範囲外である場合は植物の生育に適していない土壌と判定する。
【0036】
全炭素が少ないと微生物の生育が進まず、多いと植物への窒素供給が阻害される。全窒素が少ないと微生物の生育が進まず、多いと生育を阻害する。また、全リン酸が少ないと微生物の生育が進まず、多いと生育を阻害する。
【0037】
土壌の診断には、上記以外の他の指標を用いてもよい。他の指標としては、例えば、土壌のpH、電気伝導度、溶存酸素濃度、粒度、或いは間隙率等が挙げられる。これらは公知の方法に従って測定することができる。
【0038】
植物栽培システム
本発明の植物工場における植物栽培システムは、上記の方法により作製された土壌で植物を栽培することを特徴とする。
【0039】
現在の植物工場における植物の栽培は養液栽培を主流とするものであるが、本発明の土壌を使用することで、植物工場においても植物生長が良好となり、再現性のある有機農法が可能となる。
【0040】
ここで植物工場とは、温度、湿度、光などを人工的に調整、制御しながら、閉鎖的又は半閉鎖的な空間内で植物栽培を行う施設であり、本発明における植物工場の光源・空調等の設備は公知のものを使用することができる。上記土壌を使用することを除く本発明の植物栽培システムにおける植物の栽培方法等(光量、温度や湿度条件等)は、公知の方法で行うことができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を更に詳しく説明するため試験例を挙げる。しかし、本発明はこれら試験例等になんら限定されるものではない。
1.微生物数の測定方法
・総バクテリア数解析法(eDNA法)
(1) 50 ml容遠沈管に試料1.0 gを取り、DNA抽出緩衝液8.0 mlおよび20%SDS溶液1.0 mlを加えた後,攪拌機を用いて1500 rpmで20分間撹拌した。
(2) 試料1.4 mlをマイクロチューブに取り、8000 rpmで10分間遠心した。
(3) 上澄液700μlをマイクロチューブに取り、クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1)溶液700μlを加えて緩やかに撹拌した後、14000 rpmで10分間遠心した。
(4) 上層500μlをマイクロチューブに取り、イソプロパノール300μlを加えて緩やかに撹拌した後、14000 rpmで20分間遠心した。
(5) 液を緩やかに捨てた後、氷冷70%エタノールを1.0 ml加え、14000 rpmで5分間遠心した。
(6) 液を緩やかに捨てた後,30分間減圧乾燥した。
(7) TE緩衝液50μlを加えたものをeDNA溶液とした。
(8) eDNA溶液5μlにLoading dye 1μlを混合し、全量をアガロースゲル電気泳動(100V、35分間)に供した。DNA量の指標として,スマートラダー1.5μlとTE緩衝液4.5μlを混合したものを用いた。
(9) ゲルにUV照射を行い,KODAK 1D Image Analysis softwareを用いてDNAバンドの蛍光強度測定を行い、次式を用いて試料1 g当たりのeDNA量を算出した。
【0042】
【数1】

【0043】
(10) 上記の計算式によって得られたeDNA量を図1のeDNA-微生物数検量線に当てはめ、微生物数に換算した。
微生物数(cells/ml)=eDNA量(μg/ml)×1.70×108 [R2=0.938]
【0044】
DNA抽出緩衝液 (pH8.0)
1M Tris-HCl溶液 (pH8.0) 100ml
1M EDTA溶液 100ml
リン酸ナトリウム 16.4g
塩化ナトリウム 87.7g
ヘキサデシルメチルアンモニウムブロミド 10g
上記を水に溶解せしめた後、1Lに定容し、高圧滅菌(121℃,15分間)した。
【0045】
TE緩衝液 (pH8.0)
1M Tris-HCl溶液 (pH8.0) 10ml
1M EDTA溶液 1ml
上記を水に溶解せしめた後,1Lに定容し、高圧滅菌(121℃,15分間)した。
【0046】
Loading Dye
1M Tris-HCl溶液 (pH8.0) 1.0ml
1M EDTA溶液 5.0ml
グリセロール 30ml
ブロムフェノールブルー 0.06g
上記を水60 mlに溶解せしめた後、高圧滅菌(121℃,15分間)した。
【0047】
2.窒素の定量方法
2.1.無機態窒素抽出法
(1) 試料2.0 gを遠心チューブに量り取り,1.0 M KCl溶液20 mlを加え,100 rpmで60分間振とうした。
(2) 10,000 rpmで5分間遠心し、得られた上澄液を無機態窒素抽出液として以下の実験に供した。
【0048】
2.2.無機態窒素の定量
A. アンモニア態窒素の定量(インドフェノール青法)
(1) 無機態窒素抽出液1.0 mlにフェノールニトロプルシッド溶液400μlを加えて静かに混和した。続いて次亜塩素酸ナトリウム溶液600μlを加え静かに撹拌し、45分間静置した。
(2) 吸光度(A635)を測定し、アンモニア態窒素の定量を行った。
【0049】
緩衝液
リン酸ナトリウム(Na3PO4・12H2O) 30 g
クエン酸ナトリウム(Na3C6H5O7・2H2O) 30 g
EDTA 3.0 g
上記を水1Lに溶解せしめた。
【0050】
フェノールニトロプルシッドナトリウム溶液
フェノール 60 g
ニトロプルシッドナトリウム二水和物 0.2 g
上記を緩衝液1 Lに溶解せしめた。本溶液は冷暗所に保存し、3週間以内に使用する。
【0051】
次亜塩素酸ナトリウム溶液(最終有効塩素量:0.08〜0.11w/v%)
次亜塩素酸ナトリウム 適量
1M 水酸化ナトリウム溶液 400 ml
市販の次亜塩素酸ナトリウムを水酸化ナトリウム溶液に加え、水で1Lに定容した。次亜塩素酸ナトリウムの量は市販の有効塩素量を基に最終有効塩素量が上記の範囲にあるようにした。本溶液は褐色瓶に入れ冷蔵庫で保存し、1か月以内に使用する。
【0052】
B. 亜硝酸態窒素の定量(ナフチルエチレンジアミン法)
(1) 無機態窒素抽出液1.0 mlにスルファニルアミド溶液(ジアゾ化剤)100μlを加え攪拌し、3分間室温に静置した。
(2) ナフチルエチレンジアミン溶液(カップリング剤)100μlを加え攪拌し,20分間室温に静置した。
(3) 吸光度(A540)を測定し。亜硝酸態窒素の定量を行った。
【0053】
スルファニルアミド溶液
スルファニルアミド 1.0 g
上記を10%塩酸100 mlに溶解せしめた。
【0054】
ナフチルエチレンジアミン溶液
ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩 0.1 g
上記を水100 mlに溶解せしめた。本溶液は褐色瓶に保存し,1週間以内に使用する。
【0055】
C. 硝酸態窒素の定量(ブルシン・スルファニル酸法)
(1) 無機態窒素抽出液200μlにブルシン・4-アミノベンゼンスルホン酸溶液100μlを加え混和した。
(2) 硫酸(水:濃硫酸=3:20)1.0 mlを加え攪拌し、冷暗所で10分間静置した。
(3) 水1.0 mlを加え攪拌し,冷暗所に30分間静置した。吸光度(A410)を測定し、硝酸態窒素の定量を行った。
【0056】
ブルシン・4-アミノベンゼンスルホン酸溶液
ブルシンn水和物 1.0 g
スルファニル酸 0.1 g
上記を16M 塩酸3.0mlに溶解せしめ、水で100 mlに定容した。
※16M 塩酸が無い場合は10M 塩酸でも良い。
【0057】
2.3.可給態窒素の定量
土壌10 gにリン酸緩衝液 (pH7.0)を50 ml加え、30分間100 rpmで振とうした。遠心後(3000G、10分間)上澄液に含まれる窒素濃度を全窒素測定機(Shimazu)を用いて測定し、可給態窒素の定量を行った。
【0058】
2.4.全窒素の定量
ペルオキソ二硫酸カリウム法
分解瓶に適当量の試料を測り取り、蒸留水で50 mlに定容した。ここにアルカリ性ペルオキソ二硫酸カリウム溶液を10 ml加え、120℃で30分間加熱分解した。室温まで冷ました後、上澄液を25 ml取り、ここに塩酸(16+1)を5 ml加えた。この溶液の220 nmでの吸光度を測定し、全窒素の定量を行った。
【0059】
アルカリ性ペルオキソ二硫酸カリウム溶液
水酸化ナトリウム 40 g
ペルオキソ二硫酸カリウム 30 g
上記を水1Lに溶解せしめた。
【0060】
3.リン酸(P2O5)の定量方法
3.1.水溶性リン酸(P2O5)の定量
(1) 試料1.0 gに200 mlの蒸留水を加え、165 rpmで30分間振とうした。
(2) 試料溶液2.0 mlを10000 rpmで5分間遠心分離し、上澄液1.0mlに100μlのモリブデン酸アンモニウム-アスコルビン酸混合溶液100μlを添加し撹拌後、室温に15分間置いた。吸光度(A710)を測定し、リン酸(P2O5)の定量を行った。
【0061】
モリブデン酸アンモニウム溶液
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物 6 g
ビス[(+)-タルタラト]二アンチモン(III)酸カリウム三水和物 0.24 g
上記を水約300 mlに溶解せしめ、硫酸(水:濃硫酸=1:2)120 mlを加えた。これにアミド硫酸アンモニウムを5 g溶解せしめ,水で500 mlに定容した。
※試料中に硝酸イオンまたは亜硝酸イオンが多量に存在しない場合はアミド硫酸アンモニウムの添加の必要はない。
【0062】
3.2.可給態リン酸(P2O5)の定量(トルオーグ法)
(1) 試料1.0 gに200 mlのトルオーグ抽出液を加え、165 rpmで30分間振とうした。
(2) 水溶性リン酸の定量の項(2)と同様に処理した。
【0063】
トルオーグ抽出液
0.5M 硫酸 2 ml
硫酸アンモニウム 3 g
上記を水1Lに溶解せしめた。
【0064】
3.3.全リン酸(P2O5)の定量
A. 過塩素酸法a
(1) コニカルビーカー(200 ml容)に試料1.0 gを取り、濃硝酸30 mlおよび濃硫酸10 mlを加え、時計皿を被せて140℃で加熱した。
(2) 煙色が白色となるまで加熱し(約4時間)、放冷した。
(3) 過塩素酸10 mlを加え、時計皿を被せて180℃で加熱し、溶液色がほぼ無色となるまで加熱し(約4時間)、放冷した。
(4) 試料溶液をろ過し、ビーカーや時計皿を洗液を合わせて水で100 mlに定容した。
(5) 試料溶液1.0 mlにモリブデン酸アンモニウム-アスコルビン酸混合溶液100μlを添加し撹拌後、室温に15分間置いた。吸光度(A710)を測定し、リン酸(P2O5)の定量を行った。
【0065】
B. 過塩素酸法 b
(1) コニカルビーカー(200 ml容)に試料1.0 gを取り,濃硝酸5 ml,濃硫酸1 mlおよび過塩素酸20 mlを加え、時計皿を被せて130℃で加熱した(約3時間)。
(2) 時計皿を取り去り、内容物がシロップ状になるまで徐々に温度を上げつつ加熱濃縮した。
(3) 放冷後、1M 塩酸30 mlおよび熱水50 mlを加え、沸騰寸前まで加熱した。
(4) 試料溶液をろ過し,ビーカーや時計皿の洗液を合わせて水で100 mlに定容した。
(5) 試料溶液1.0 mlにモリブデン酸アンモニウム-アスコルビン酸混合溶液100μlを添加し撹拌後、室温に15分間置いた。吸光度(A710)を測定し、リン酸(P2O5)の定量を行った。
※試料中に有機物が多く含まれる場合は,過塩素酸法aを用いる。
【0066】
4.カリウムの定量方法
4.1.水溶性カリウムの定量
(1) 試料1.0 gに20 mlの蒸留水を加え、100 rpmで1.5時間振とうした。
(2) 10000 rpmで5分間遠心分離し、上澄液を1 M硝酸で適宜希釈し原子吸光光度計で測定した。
【0067】
4.2.交換性カリウムの定量
(1) 試料1.0 gに20 mlの1 M酢酸アンモニウム水溶液を加え,100 rpmで1.5時間振とうした。
(2) 10000 rpmで5分間遠心分離し、上澄液を1 M硝酸で適宜希釈し原子吸光光度計で測定した。
【0068】
4.3.全カリウムの定量
A. 過塩素酸法a
(1) 全リンの定量の項(1)〜(4)まで同様に処理した。
(2) 試料溶液を1M 硝酸で適宜希釈し原子吸光光度計で測定した。
【0069】
B. 過塩素酸法 b
(1) 全リンの定量の項(1)〜(4)まで同様に処理した。
(2) 試料溶液を1M 硝酸で適宜希釈し原子吸光光度計で測定した。
【0070】
5.全炭素量
土壌適当量を全炭素測定機(Shimazu)に供し、測定した。
【0071】
試験例1
滋賀県草津市周辺の水田と畑の土壌および堆肥の全CNP比と総バクテリア数の定量解析を行った(表1)。また、堆肥を添加した時の土壌の全CNP比と総バクテリア数の定量解析を行った(表2、図2)。これらの結果から高い微生物数が得られる最適なCNP比は100 : 0.1〜18 : 0.01〜8の範囲とした。上記のCNP比範囲(100 : [0.1〜18] :[0.01〜17])であれば1×109 cells/g以上の微生物数が維持できることが分かった(図3)。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
試験例2
基礎土壌としてピートモスと赤玉土を3:7(体積比)で混合したものを用いた。この基礎土壌には窒素およびリン酸量が不足しており,100:10:1のCNP比にならないため、有機肥料(堆肥)を添加することで最適比に近づけることにした。基礎土壌および堆肥が含む栄養成分濃度は表3に示すとおりである。表3の「堆肥添加土壌」は「基礎土壌」に「堆肥」を添加したもので、微生物数(添加一ヶ月後)がそれぞれ単独の時よりも増加していた。
【0075】
ホウレンソウ栽培時には通常10a当たり窒素、リンおよびカリウムをそれぞれ100gずつ施肥することが推奨されているため、堆肥の添加量はこの基準値を満たすように計算した。基準値のNPK比は1:1:1である。栽培試験をワグネルポット(1/5000a)で行うときの実際の計算値を表4に示した。表4の通りに作製した堆肥添加土壌は植物が実際に利用できる栄養成分を十分量含み、微生物数が10億個/g以上を示す肥沃な有機土壌である。
【0076】
作製した堆肥添加土壌で栽培したホウレンソウは基礎土壌に窒素、リンおよびカリウムを200 mg/potずつ化学肥料を添加した土壌と同等の生育を示した。
【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
実施例3
実際に有機農法を取り入れている田畑の土壌を採取し、土壌生物活性および化学分析を行った。土壌評価値が高いほど微生物活性が高く(評価値が高い)、硝酸態窒素、水溶性リン酸、水溶性カリウムの濃度が高いほど植物体の生育が良好であった。
【0080】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の方法は、有機農法を行っている農場およびこれから有機農法を取り入れようとする農場で適用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)原料土壌の全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比を測定する工程、及び
(2)前記工程で測定された土壌に対して、全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比が100:[0.1〜18]:[0.01〜17]を満たすように副原料を添加する工程
を有する土壌の作製方法。
【請求項2】
前記工程(2)において、全リン酸に対する全窒素の重量比を0.1以上とするように添加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
土壌中の全炭素、全窒素及び全リン酸の重量比 100:[0.1〜18]:[0.01〜17]を指標として用いて土壌の診断を行うことを特徴とする土壌の診断方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法により作製された土壌を使用することを特徴とする植物工場における植物栽培システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−182747(P2011−182747A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53617(P2010−53617)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】