説明

土壌の浄化装置

【課題】土壌を効率よく浄化することができる浄化装置を提供する。
【解決手段】浄化装置10は、陰極電極槽12Aと、陽極電極槽12Bと、電圧印加装置14と、を含んで構成されている。陰極電極槽12Aは、弱酸性溶液20Aを収容した第1容器16A及び第1容器16Aの内部に配置され弱酸性溶液20Aに浸漬された陰極電極18Aを含んで構成されている。陽極電極槽12Bは、電解質溶液20Bを収容した第2容器16B及び第2容器16Bの内部に配置され電解質溶液20Bに浸漬された陽極電極18Bを含んで構成されている。そして、第1容器16A及び後述する第2容器16Bは、全気孔に対する直径2μm以下の気孔の割合が40%以上であり、且つ透水係数が10−4cm/sec以上10−7cm/sec以下の多孔質セラミックから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌の浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カドミウム、銅、ヒ素等の重金属や有機化合物等の汚染物質により汚染された土壌がそのまま放置されていると、土壌内に含有されている汚染物質が地下水や生物連鎖等によって拡散するおそれがある。特に、水田におけるカドミウム等の重金属による汚染は深刻であり、その対策が求められている。
【0003】
このような汚染物質で汚染された土壌を浄化する方法としては、浄化対象の土壌を掘削し、そこに電解質溶液を満たして一対の電極を挿入し、この電極間に電圧を印加することで、汚染物質を回収する方法が知られている(例えば、特許文献1〜特許文献4参照)。
【0004】
特許文献1には、土壌中に挿入する電極の周囲に通水性を有する電極槽を設け、電極槽内のpHを測定し、該電解槽内のpHが一定範囲内に維持されるように、電極槽内のpHに応じて中和剤を供給する浄化装置が提案されている。
また、特許文献2には、通水性を有する濾紙や織布で構成された電解槽内に電極を配置し、この電解槽内に電圧を印加して土壌中の汚染物質を水に溶出させて、この汚染物質の溶出された水溶液の汚染物質を吸着剤に吸着させて除去した後に、電解槽容器内に戻す装置が提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、陰極電極の周囲に通水性を有する電解槽を設け、この電解槽内にpH高緩衝能材料を充填し、陽極電極との間に電圧を印加することで、土壌を浄化する装置が提案されている。
また、特許文献4には、重金属で汚染された土壌中に錯化剤を混入して該重金属を錯化し、この錯化した重金属を含む土壌中に、吸着剤で覆われた一対の電極を配置して電極間に電圧を印加することで、錯化された重金属を吸着材に吸着させる装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−260458号公報
【特許文献2】特開2004−25149号公報
【特許文献3】特開2000−84366号公報
【特許文献4】特開2000−218261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、浄化対象の土壌中に吸着剤や通水性を有する容器で覆われた一対の電極を挿入し、これらの電極に電圧を印加しても、土壌中に含まれる粘土等の、除去対象外の成分によって、除去対象の汚染物質の電極への移動が阻害され、土壌の浄化が十分に行われない場合があった。
本発明は上記に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、土壌を効率よく浄化することができる浄化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討した結果、第1容器及び第2容器として、本発明における特有の多孔質セラミックを用いることで、土壌が効率よく浄化されることを見いだし、本発明を完成させた。
即ち、前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> 内部に弱酸性溶液を収容した第1容器、及び該第1容器内に配置され前記弱酸性溶液中に浸漬された陰極電極、を備えた陰極電解槽と、
内部に電解質溶液を収容した第2容器、及び該第2容器内に配置され前記電解質溶液内に浸漬された陽極電極、を備えた陽極電極槽と、
前記陰極電極及び前記陽極電極の電極間に直流電圧を印加する電圧印加手段と、
を備え、
前記第1容器及び前記第2容器が、全気孔に対する直径2μm以下の気孔の割合が40%以上であり、且つ透水係数が10−4cm/sec以上10−7cm/sec以下の多孔質セラミックからなる、土壌の浄化装置。
<2> 前記弱酸性溶液が酢酸である前記<1>に記載の土壌の浄化装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、本発明における第1容器及び第2容器を用いない場合に比べて、土壌を効率よく浄化することができる浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施の形態に係る浄化装置を概略的に示す模式図である。
【図2】本実施の形態における浄化装置を適用した実験装置を概略的に示す模式図である。
【図3】実施例における、電圧印加日数に対する、乾燥土壌におけるカドミウム含有量を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の土壌の浄化装置の一の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
図1には、本実施の形態の土壌の浄化装置10(以下、単に「浄化装置」と称する)の一の実施態様を示す模式図を示した。
なお、本実施の形態の浄化装置10において浄化する対象の汚染土壌30は、カドミウムを汚染物質として含む汚染土壌である場合を説明するが、これに限られない。
例えば、本実施の形態の浄化装置10において浄化する対象の汚染土壌30は、汚染物質として、カドミウムの他に、銅、鉛、クロム等の他の重金属や、ヒ素、セレンなどの汚染物質を含んだ土壌であってもよい。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態の浄化装置10は、陰極電極槽12Aと、陽極電極槽12Bと、電圧印加装置14と、を含んで構成されている。
【0014】
陰極電極槽12Aは、円筒状の第1容器16A、及び第1容器16Aの内部に配置された長尺状の陰極電極18Aを含んで構成されている。第1容器16A及び後述する第2容器16Bは、少なくとも一部が互いに連通した複数の気孔を有する多孔質セラミックで構成されている(詳細後述)。
【0015】
本実施の形態においては、この円筒状の第1容器16Aの底部は、底部材24Aによって閉塞状態とされており、この第1容器16Aの内部には、弱酸性溶液20Aが収容されている。また、この円筒状の第1容器16Aにおける、底部材24Aに対向する開口側には、蓋部材22Aが設けられている。
【0016】
なお、本実施の形態において、「弱酸性」とは、pH4以下であることを示している。この陰極電極槽12A(第1容器16A)内に収容される弱酸性溶液20Aとしては、酢酸、シュウ酸、塩酸、硫酸等が挙げられるが、これらの中でも、汚染土壌30中に含まれるアニオン成分の浄化効率を向上させる観点から、酢酸を用いることが好ましい。
【0017】
一方、陽極電極槽12Bは、円筒状の第2容器16B、及び第2容器16Bの内部に配置された長尺状の陽極電極18Bを含んで構成されている。この円筒状の第2容器16Bの底部は、蓋部材22Bによって閉塞状態とされており、この第2容器16Bの内部には、電解質溶液20Bが収容されている。また、この円筒状の第2容器16Bにおける、底部材24Bに対向する開口側には、蓋部材22Bが設けられている。
【0018】
第2容器16B内に収容されている電解質溶液20Bとしては、公知の電解質溶液が挙げられ、具体的には、硫酸溶液、シュウ酸溶液、水酸化ナトリウム(NaOH)等が挙げられる。これらの中でも、陽極電極槽12B(第2容器16B)内に収容される電解質溶液としては、詳細を後述する汚染土壌30の浄化において、汚染土壌30中に含まれるカチオン成分の浄化効率を向上させる観点から、アルカリ性溶液を用いることが好ましい。
【0019】
なお、本実施の形態では、第1容器16A及び第2容器16Bは、円筒状である場合を説明するが、内部に電極(陰極電極18Aまたは陽極電極18B)が配置され且つ内部に液体(弱酸性溶液20Aまたは電解質溶液20B)が収容される中空状の構成であればよく、円筒状に限られない。また、本実施の形態では、第1容器16A及び第2容器16Bは、円筒状とされ、長尺方向両端部の開口を、蓋部材(蓋部材22A、蓋部材22B)と底部材(底部材24A、底部材24B)によって封鎖されている場合を説明したが、蓋部材(蓋部材22A、蓋部材22B)が設けられておらず、長尺方向一端側(汚染土壌30への挿入方向とは反対側)が開口した構成であってもよい。また、第2容器16Bと底部材24B、及び第1容器16Aと底部材24A、の各々が一体的に構成されていてもよい。
【0020】
電圧印加装置14は、陰極電極18A及び陽極電極18Bに電気的に接続されており、陰極電極18A側が陰極、陽極電極18B側が陽極となるように、直流電圧を印加する。このため、陰極電極18Aは、電圧印加装置14から電圧を印加されることで、陰極の電極として機能する。一方、陽極電極18Bは、電圧印加装置14から電圧を印加されることで、陽極の電極として機能する。
【0021】
なお、これらの陰極電極18A及び陽極電極18Bは、陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bの各々内に収容されており、且つ電圧印加装置14からの電圧印加が可能な構成であればよいが、より効率よく汚染土壌30を浄化する観点から、陰極電極18Aは、陰極電極槽12Aの蓋部材22A側から底部材24Bに到達する位置にまで延伸した長さであることが好ましい。同様に、陽極電極18Bについても、陽極電極槽12Bの蓋部材22B側から底部材24Aに到達する位置にまで延伸した長さであることが好ましい。
【0022】
これらの陰極電極18A及び陽極電極18Bは、電極として用いうる材料であれば如何なる材料で構成してもよいが、特に、白金等のイオン化傾向の低い貴金属を用いることが好ましい。
【0023】
本実施の形態の浄化装置10によって汚染土壌30の浄化を行うときには、まず、水等の電解質溶液を加えた汚染土壌30中に、陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bを差し込み、これらの陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bが対向するように間隔を空けて配置する。なお、この陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bの、汚染土壌30への挿入深さは、浄化する対象の汚染土壌30の用途に応じて適宜調整すればよい。例えば、本実施の形態の浄化装置10によって浄化する対象の汚染土壌30が、水田等の作物を栽培するための土壌である場合には、少なくとも栽培対象の作物の根の深さを超える深さにまで挿入することが好ましい。また、浄化装置10によって浄化する対象の汚染土壌30が、水田等の作物を栽培するための土壌である場合には、栽培対象の作物の根の深さを大幅に超える(例えば、根の深さの2倍以上)深さにまで陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bを挿入する必要はないと考えられるため、陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bの小型化が図れると考えられる。
これらの陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bの汚染土壌30への挿入深さとしては、具体的には、12cm以上15cm以下の深さが挙げられる。
【0024】
また、陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bの、汚染土壌30への挿入方向における長さ(本実施の形態では、円筒状の第1容器16A及び第2容器16Bの周方向に交差する方向の長さ)は、この汚染土壌30への挿入深さ以上の長さとなるように、予め調整されていればよい。具体的には、上述の水田などの作物を栽培するための土壌を浄化対象の汚染土壌30とし、この汚染土壌30への挿入対象の深さを15cm以下とした浄化装置10とする場合には、汚染土壌30への挿入方向における長さが15cmを超える長さとなるように、第1容器16A及び第2容器16Bの長さを調整すればよい。
【0025】
汚染土壌30の浄化を行うときには、この浄化対象の汚染土壌30中に差し込まれた陰極電極槽12A及び陽極電極槽12B内の陰極電極18A及び陽極電極18Bに、陰極電極18Aが陰極となり且つ陽極電極18Bが陽極となるように、電圧印加装置14から直流電圧を印加する。なお、この電圧印加装置14から陰極電極18A及び陽極電極18Bに印加される直流電圧の電圧値は、電圧の印加によって陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bの間の汚染土壌30中で電気分解が生じ、これらの電極間(陰極電極18Aと陽極電極18Bとの電極間)で電気浸透流が発生し、且つ汚染土壌30中に含まれるイオン化された汚染成分が該電極間を電気泳動しうる電圧値であればよく、汚染土壌30中に差し込んだ陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bにおける該電極間の距離や陰極電極18A及び陽極電極18Bの直径等に応じて適宜調整すればよい。
【0026】
浄化対象の汚染土壌30中に差し込まれた陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bにおける、陰極電極18A及び陽極電極18Bに、電圧印加装置14から直流電圧が印加されると、陽極電極槽12B側では、水の電気分解によって水素イオン(H)が生成され、陽極電極槽12B周辺の汚染土壌30は酸性へ変性していく。一方、陰極電極槽12A側では、水酸化物イオン(OH)が生成されて、陰極電極槽12A周辺の汚染土壌30はアルカリ性へ変性していく。そして、陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bの槽間の汚染土壌30内に含まれている汚染成分であるカチオン成分(陽イオン化した重金属成分)は、陰極電極槽12A側へ電気泳動し、アニオン成分(陰イオン化した重金属成分)は、陽極電極槽12B側へ電気泳動する。例えば、汚染土壌30内のCd2+、Cu2+、Pb2+等のカチオン成分は、陰極電極槽12A側へ電気泳動し、汚染土壌30内においてアニオン成分として存在するCrO2−、Cr2−、AsO3−、SeO2−等は、陽極電極槽12B側へ電気泳動する。
【0027】
陰極電極槽12Aに到達したカチオン成分は、陰極電極槽12Aの第1容器16Aの気孔を通過して、第1容器16A内に到る。なお、第1容器16A内に到ったカチオン成分は、水酸化物イオンと反応して第1容器16Aの底部に沈殿する。
ここで、陰極電極槽12A周辺の汚染土壌30は、電圧印加装置14からの上記直流電圧の印加によってアルカリ性へ変性していくことから、第1容器16A内に上述のように弱酸性溶液20Aが収容されていることで、汚染土壌30中に含まれるカチオン成分の浄化が促進されると考えられる。
【0028】
一方、陽極電極槽12Bに到達したアニオン成分は、陽極電極槽12Bの第2容器16Bの気孔を通過して、第2容器16B内に到る。なお、第2容器16B内に到ったアニオン成分は、水素イオンと反応して第2容器16Bの底部に沈殿する。
【0029】
上記のように、電圧印加装置14から陰極電極18A及び陽極電極18Bに直流電圧が印加されることで、汚染土壌30内の汚染成分が第1容器16A及び第2容器16B内に収容されることとなる。
【0030】
ここで、汚染土壌30中には、粘土成分等の除去対象外の成分が含まれることから、陰極電極18A及び陽極電極18Bへの上記の電圧印加によって、第1容器16A及び第2容器16Bの容器内部にまで、この粘土成分等の除去対象外の成分が入りこむ場合があり、汚染土壌30の浄化が阻害される場合があった。
【0031】
そこで、本実施の形態の浄化装置10では、陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bの各々に用いられる第1容器16A及び第2容器16Bとして、多孔質セラミックに含まれる全気孔に対する直径2μm以下の気孔の割合が40%以上であり、且つ透水係数が10−4cm/sec以上10−7cm/sec以下である特有の多孔質セラミック(以下、本実施の形態の第1容器16A及び第2容器16Bに用いられる多孔質セラミックを「特有の多孔質セラミック」と称する)を用いている。
【0032】
本実施の形態では、全気孔に対する直径2μ以下の気孔の割合が40%以上であり、且つ透水係数が10−4cm/sec以上10−7cm/sec以下とされた特有の多孔質セラミックを、第1容器16A及び第2容器16Bとして用いることで、汚染土壌30中に含まれる粘土成分等の除去対象外の成分が多孔質セラミックの気孔を通過して第1容器16A及び第2容器16B内へと到ることが抑制され、且つ汚染土壌30中に含まれる除去対象の汚染成分が選択的に第1容器16A及び第2容器16B内へ到ると考えられる。
このため、上記特有の多孔質セラミックで第1容器16A及び第2容器16Bを構成することによって、本実施の形態の浄化装置10では、汚染土壌30を効率良く浄化することができると考えられる。
【0033】
なお、上記特有の多孔質セラミックに含まれる全気孔に対する直径2μm以下の気孔の割合は、40%以上であることが必須であるが、より粘土等の除去対象外の粘土等の成分が第1容器16A及び第2容器16B内に侵入することを抑制する観点から、該割合は、45%以上であることが好ましい。
【0034】
なお、この特有の多孔質セラミックに含まれる「全気孔に対する直径2μm以下の気孔の割合」とは、多孔質セラミックに含まれる全気孔の容積(体積)に対する、直径2μmの気孔の容積の占める割合を示している。
この特有の多孔質セラミックに含まれる全気孔における、直径2μm以下の気孔の割合は、細孔分布測定装置によって測定される。
詳細には、この、「全気孔に対する直径2μm以下の気孔の割合」は、Washburnによって提案された水銀圧入法(「表面」第13巻第10号第588頁に記載の浦野紘平著による「多孔質材料の細孔分布測定法の理論、装置及び問題点(その1)」)によって測定される。測定装置としては、具体的には、(株)島津製作所の細孔分布測定装置(商品名:オートポアIV9500)が用いられる。なお、直径2μm以外の気孔の割合についても、同様の方法で測定される。
【0035】
また、この特有の多孔質セラミックにおける、直径2μmを超える気孔の割合に対する、直径2μm以下の気孔の割合の比は、特有の多孔質セラミックの透水係数が上記範囲を満たす比率であればよい。直径2μmを超える気孔の割合に対する、直径2μm以下の気孔の割合(直径2μm以下の気孔の割合/直径2μmを超える気孔の割合)は、具体的には、1/2以下であることが好ましい。
【0036】
第1容器16A及び第2容器16Bを構成する多孔質セラミックの透水係数は、上述のように、10−4cm/sec以上10−7cm/sec以下であることが必須であるが、除去対象の汚染物質を、より選択的に第1容器16A及び第2容器16Bの内側へ到達させる観点から、10−4cm/sec以上10−5cm/sec以下の範囲が好ましく、10−4cm/secが特に好ましい。
【0037】
なお、多孔質セラミックの「透水係数」は、下記試験によって測定される。
具体的には、この多孔質セラミックの透水係数kは、JIS_A_1218(土の透水試験方法)により測定することで得られる。透水係数kの単位はcm/secである。ここで、JIS_A_1218の土の透水試験方法は、定水位透水試験と変水位透水試験の2種類であるが、本実施の形態では変水位透水試験を用いた。
【0038】
なお、定水位透水試験とは、一定の断面と長さをもつ供試体(本実施の形態では、特有の多孔質セラミック)の中を、一定の水位差の下で一定時間内に浸透する水量を測定する試験である。具体的には、越流水槽の内側に透水円筒を配置し、透水円筒の中に供試体(特有の多孔質セラミック)を配置すると共に該供試体の上下を金網、フィルター、及び有孔板で挟み、越流水槽内の水位と透水円筒内の水位との差が一定(ただし、越流水槽内の水位<透水円筒内の水位)となるように透水円筒内に注水し、時間を計測しながら越流水槽から溢れた水量をメスシリンダーで測定する試験である。
【0039】
また、変水位透水試験とは、一定の断面と長さをもつ供試体(本実施の形態では、特有の多孔質セラミック)の中を、ある水位差を初期状態として浸透するときの水位の降下量と、その経過時間を測定する試験である。具体的には、越流水槽の内側に透水円筒を配置し、透水円筒の中に供試体(特有の多孔質セラミック)を配置すると共に該供試体の上下を金網、フィルター、及び有孔板で挟み、透水円筒の上部に真っ直ぐにスタンドパイプを配置して、スタンドパイプから透水円筒内に水を供給したときの時刻t1での越流水槽内の水位とスタンドパイプ中の水位との差h1を測定し、さらに水を供給したままで、時刻t2での越流水槽内の水位とスタンドパイプ中の水位との差h2を測定する試験である。
【0040】
本実施の形態の第1容器16A及び第2容器16Bを構成する、上記条件を満たす特有の多孔質セラミックとしては、金属酸化物系セラミック及び非酸化物系セラミックの粉体を用いて作られるものが挙げられる。金属酸化物系セラミックとしては、アルミナ、コージライト、ムライト、ジルコニア、シリカ、マグネシア等や、これらの混合物が挙げられる。非酸化物系セラミックとしては、炭化ケイ素、窒化ケイ素等が挙げられる。
【0041】
本実施の形態の第1容器16A及び第2容器16Bを構成する、上記条件を満たす特有の多孔質セラミックの組成としては、具体的には、SiO2及びAlを含んだ構成が挙げられる。
【0042】
本実施の形態で用いられる上記特有の多孔質セラミックの製造方法としては、例えば、本実施の形態で用いられる特有の多孔質セラミックの構成材料として挙げた上記材料を、泥水状として、これを澱粉等の気孔剤に含浸させ、高温(1500℃程度)で焼結させることで製造する方法が挙げられる。
【0043】
なお、この特有の多孔質セラミックの全気孔に対する直径2μmの気孔の割合や、上記透水率は、多孔質セラミックを構成する上記材料粒子の径や製造時に添加する気孔剤の添加量等を調整することで、調整される。
【0044】
以上説明したように、本実施の形態の浄化装置10では、全気孔に対する直径2μ以下の気孔の割合が40%以上であり、且つ透水係数が10−4cm/sec以上10−7cm/sec以下とされた特有の多孔質セラミックを、第1容器16A及び第2容器16Bとして用いるので、浄化対象の汚染土壌30を効率良く浄化することができると考えられる。
【0045】
なお、以上で説明した本実施の形態の浄化装置10は、通電性を有する浄化対象物であれば、土壌に限られず浄化することができ、例えば、汚染された液体についても浄化することができることはいうまでもない。
【0046】
また、本実施の形態の浄化装置10は、特定の場所の汚染土壌30に限られず、様々な場所の汚染土壌の浄化に適用される。なお、浄化装置10における陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bの形状や大きさは、浄化対象物の状態や、浄化対象領域の広さ等に応じて、適宜調整すればよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
〔実施例1〕
図2には、上記に説明した浄化装置10を用いて、汚染土壌30の浄化を実施するための実験装置50の模式図を示した。
【0049】
―実験槽の調整―
まず、容積約24L(長さ380mm、幅260mm、高さ235mm)のプラスチック製の容器40を用意した(図2参照)。そして、この容器40内に、浄化対象の汚染土壌30を深さ(容器40の底面からの高さ)12cmとなるまで満たし、さらに、4Lの水(水道水、図2中、符号32参照)を加えることで、水位(底面からの高さ)を15cmとし、実験槽42とした。なお、後述する浄化装置10による浄化処理の期間中、この水位が保たれるように、適宜水を加えて水位を調整した。
【0050】
―第1容器16A及び第2容器16Bの調整―
次に、第1容器16A及び第2容器16Bとして、下記の特有の多孔質セラミックからなる容器を用意した。
【0051】
(特有の多孔質セラミックからなる第1容器16A及び第2容器16B)
・形状:円筒状(外径30mm,内径27mm,長さ180mm)
・組成:SiO 23質量%,Al 76質量%
・気孔分布:
全気孔に対する直径1μm未満の気孔の割合 33%
全気孔に対する直径1μm以上直径2μm未満の気孔の割合 12%
全気孔に対する直径2μm以上直径5μm未満の気孔の割合 16%
全気孔に対する直径5μ以上直径10μm未満の気孔の割合 16%
全気孔に対する直径10μm以上直径20μm未満の気孔の割合 17%
全気孔に対する直径20μmを超える気孔の割合 6%
・透水係数:10−4cm/seccm/sec
なお、上記気孔分布は、(株)島津製作所の細孔分布測定装置(商品名:オートポアIV9500)によって測定した。
・耐圧 :100kPa
【0052】
なお、上記気孔分布、透水係数、及び気孔率は、前述の方法により測定した。
【0053】
―陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bの作製―
次に、陰極電極18A及び陽極電極18Bとして、直径10mm、長さ270mmの銅電極を1本ずつ(合計2本)用意した。
そして、この銅電極を、上記に調整した、特有の多孔質セラミックからなる第1容器16A及び第2容器16Bの各々内に、1本ずつ設置した。そして、これらの容器(第1容器16A及び第2容器16B)の各々の底部に底部材24A及び底部材24Bを設け、これらの容器の底部を封止した。
【0054】
そして、これらの銅電極(陰極電極18A及び陽極電極18B)の設置された容器(第1容器16A及び第2容器16B)内に、0.14mol/Lの酢酸溶液を満たした後に、これらの容器の開口の各々を、蓋部材22A及び蓋部材22Bで塞いだ。なお、後述する浄化装置10による浄化処理の期間中、この酢酸溶液における酢酸の濃度及び酢酸溶液の量が保たれるように、適宜酢酸を添加した。
【0055】
なお、この酢酸の添加は、図2に示すプラスチックチューブ44A及びプラスチックチューブ44Bを用いて行った。詳細には、陰極電極槽12Aの第1容器16A及び陽極電極槽12Bの第2容器16Bの各々に設けた蓋部材22A及び蓋部材22Bに、孔(図示省略)を空けて、該孔を介してプラスチックチューブ(図2中、プラスチックチューブ44A及びプラスチックチューブ44B参照)を挿入し、第1容器16A及び第2容器16B内の液体を採取したり、これらの容器内に酢酸を添加するために用いた。
【0056】
これによって、陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bに相当する2つの電極槽を作製した。
【0057】
―除去対象外の成分が多孔質セラミックの気孔を通過かするか否かの評価−
上記に調整した、特有の多孔質セラミックからなり、底部材24A及び底部材24Bによって容器の底部を封止された第1容器16A及び第2容器16Bの各々を、蒸留水中に12cmの深さまで浸漬させて、第1容器16A及び第2容器16Bの内側を−40kPa〜−60kPaに減圧し、容器内に溜まった液体を採取した。そして採取した液体について、665nmの波長の光に対する吸光度を測定したところ0.0000であった。
【0058】
次に、上記に調整した、特有の多孔質セラミックからなり、底部材24A及び底部材24Bによって容器の底部を封止された第1容器16A及び第2容器16Bの各々を、上記で調整した実験槽42の汚染土壌30に、汚染土壌30の表面から12cmの深さまで挿入し、第1容器16A及び第2容器16Bの内側を−40kPa〜−60kPaに減圧し、容器内に溜まった液体を採取した。そして採取した液体について、665nmの波長の光に対する吸光度を測定したところ、0.0022であった。
この結果から、本実施例で作製した、特有の多孔質セラミックからなる第1容器16A及び第2容器16Bでは、粘土等の除去対象外の成分は、本実施例で作製した第1容器16A及び第2容器16B(多孔質セラミック)の気孔を通過せず、重金属イオン等の除去対象の汚染成分は、該第1容器16A及び第2容器16B(多孔質セラミック)の気孔を通過したといえる。
【0059】
―実験装置50(浄化装置10)の作製―
上記に作製した陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bを、上記に用意した実験槽42の容器40内に充填された汚染土壌30内に、陰極電極18A及び陽極電極18Bの電極間距離(陰極電極18A及び陽極電極18Bの向かい合う面間の最小距離)が30cmとなるように、容器40の底面に突き当たるまで挿入した。このため、これらの陰極電極槽12A及び陽極電極槽12Bの汚染土壌30への挿入深さは、12cmであった。
【0060】
そして、この陰極電極槽12Aにおける陰極電極18Aと、陽極電極槽12Bにおける陽極電極18Bと、を、電圧印加装置14としての直流電源(株式会社 ジーエス・湯浅バッテリー社製:商品名 PXL 12050)に電気的に接続することで、浄化装置10の適用された実験装置50とした。
【0061】
<評価>
−汚染土壌の浄化の評価―
本実施例で作製した実験装置50における、浄化装置10の直流電源(電圧印加装置14)から陰極電極18A及び陽極電極18Bへ、12Vの直流電圧を印加したときの汚染土壌30中のカドミウム含有量の推移を測定した。
【0062】
詳細には、まず、実験槽42の汚染土壌30内に挿入した陰極電極槽12Aと陽極電極槽12Bとの間の領域を、陰極電極槽12A側から陽極電極槽12Bに向かって3つの領域(同じ面積)に区切った。そして、この3つの領域を、陽極電極槽12B側から陰極電極槽12A側に向かって順に、領域Ar3、領域Ar2、及び領域Ar1とした(図2参照)。
【0063】
――汚染土壌中におけるカドミウム含有量の測定――
陰極電極18Aを陰極とし、陽極電極18Bを陽極として、電圧印加装置14から直流12V(電位勾配2V/cm)の定電圧を6日間継続して印加し、該電圧の印加日数に対する、上記領域Ar1、領域Ar2、領域Ar3の各々におけるカドミウムの含有量を測定した。測定結果を図3に示した。
【0064】
なお、上記領域Ar1、領域Ar2、領域Ar3の各々におけるカドミウムの含有量は、下記方法で測定した。
具体的には、上記定電圧の印加開始前、及び電圧印加から2日毎(48時間毎)に、実験槽42内の汚染土壌30における、各領域Ar3、領域Ar2、及び領域Ar1内の各々から土壌を10g採取した。そして、各領域(領域Ar3、領域Ar2、及び領域Ar1)から採取した10gの土壌を、105℃のオーブンで2日間かけて乾燥させて、乾燥後の重量を測定した。そして、この乾燥した各領域の土壌の各々に、0.14Mの塩酸溶液20mlを加えて、土壌団粒分析器(大起理化工業社製 DIK−2012)を用いて1時間攪拌し、領域Ar1、領域Ar2、領域Ar3の各々の土壌の混合溶液を得た。
【0065】
次に、これらの土壌の混合溶液を、濾紙(ワットマン社製:No.5C)を用いてろ過し、ろ過液中におけるカドミウム含有量を、日立製作所社製、Z−5010形偏光ゼーマン原子吸光光度計を用いて定量した。
そして、上記領域Ar1、領域Ar2、領域Ar3の各々における、乾燥した土壌1kgあたりのカドミウムの含有量(mg)を求め、結果を図3に示した。
【0066】
図3に示されるように、領域Ar1、領域Ar2、及び領域Ar3の何れにおいても、電圧印加時間の増加に伴い、乾燥した土壌1kgあたりのカドミウムの含有量の減少が見られた。
【符号の説明】
【0067】
10 浄化装置、12A 陽極電極槽、12B 陽極電極槽、14 電圧印加装置、16A 第1容器、16B 第2容器、18A 陰極電極、18B 陽極電極、20A 弱酸性溶液、20B 電解質溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に弱酸性溶液を収容した第1容器、及び該第1容器内に配置され前記弱酸性溶液中に浸漬された陰極電極、を備えた陰極電解槽と、
内部に電解質溶液を収容した第2容器、及び該第2容器内に配置され前記電解質溶液内に浸漬された陽極電極、を備えた陽極電極槽と、
前記陰極電極及び前記陽極電極の電極間に直流電圧を印加する電圧印加手段と、
を備え、
前記第1容器及び前記第2容器が、全気孔に対する直径2μm以下の気孔の割合が40%以上であり、且つ透水係数が10−4cm/sec以上10−7cm/sec以下の多孔質セラミックからなる、土壌の浄化装置。
【請求項2】
前記弱酸性溶液が酢酸である請求項1に記載の土壌の浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−35161(P2012−35161A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175525(P2010−175525)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(394008846)大起理化工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】