説明

土壌の脱塩方法及び土壌の脱塩装置

【課題】簡便に而も人手作業を殆ど必要とすることなく、土壌から塩分の除去を可能とする土壌の脱塩方法及び土壌の脱塩装置を提供する。
【解決手段】脱塩を実施する土壌中に棒状の土中電極1を埋設し、土壌の表面に脱塩を実施する範囲を覆う土表電極3を設置し、両電極間に直流電流を通電し、土壌中の塩化物イオンを両電極の内+電極側に移動させ、少なくとも作物の成長に必要な深さの土中から塩分を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水が浸水した田畑から塩分を除去し、土壌の改質を行う土壌の脱塩方法及び土壌の脱塩装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
津波、高潮等により田畑に海水が浸水した場合、特に、田畑が完全に海水に没水した場合等では、海水が土中に浸透し、海水が引いた場合でも、土表ばかりでなく、土中にも塩分が残留する。この場合、塩害により作物の成長が阻害される。従って、米、野菜等作物を作付けする場合、先ず、田畑から、塩分を除去する必要がある。
【0003】
現在、例えば田圃から塩分を除去する方法としては、田圃に水をはり、土を掻き回し、塩分を希釈し、その後排水する。残留する塩分が所定の濃度以下となる迄、この作業を幾度か繰返すことが行われている。斯かる作業は、費用と時間が掛り、又膨大な人手作業が必要である。
【0004】
更に、畑等では、大量の水を確保することが困難であり、水を用いて塩分を希釈して、除去する方法は実施できない。
【0005】
尚、特許文献1には、コンクリートの塩害を防止する為、コンクリート表面に電解質を浸透させると共に電流を通電し、塩化物イオン(Cl- )をコンクリート表面に設けた+電極に引寄せ、塩化物イオンを除去する方法が開示されている。
【0006】
又、特許文献2には、干拓地、海面埋立て地等を短期的に緑化土壌に改良する方法が示され、土壌改良材として、過リン酸石灰等のリン酸供給源、石膏、硫酸カルシウム等のカルシウム供給源、パーライト、粘土焼成品等の保水性の高い無機質、落ち葉、堆肥等の有機性栄養源等を土に混入し、雨水や散水程度の通水による除去が提起されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−89773号公報
【特許文献2】特開2006−219604号公報
【特許文献3】特開2003−175383号公報
【特許文献4】特開2003−27262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は斯かる実情に鑑み、簡便に而も人手作業を殆ど必要とすることなく、土壌から塩分の除去を可能とする土壌の脱塩方法及び土壌の脱塩装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、脱塩を実施する土壌中に棒状の土中電極を埋設し、土壌の表面に脱塩を実施する範囲を覆う土表電極を設置し、両電極間に直流電流を通電し、土壌中の塩化物イオンを両電極の内+電極側に移動させ、少なくとも作物の成長に必要な深さの土中から塩分を除去する土壌の脱塩方法に係るものである。
【0010】
又本発明は、前記土壌の表面の脱塩範囲に電解層を形成し、前記土表電極を+電極とし、前記電解層に塩化物イオンを捕集し、脱塩処理後前記電解層を除去する土壌の脱塩方法に係るものである。
【0011】
又本発明は、前記土中電極の先端部が+電極として機能する様に、先端部を除いて絶縁処理し、前記先端部の深さを、作物の成長に必要な深さより深くし、塩分濃度を作物の成長に必要な深さより下方に濃縮させる土壌の脱塩方法に係るものである。
【0012】
又本発明は、前記土中電極の周囲に、電気抵抗の大きい嫌電流層を形成した土壌の脱塩方法に係るものである。
【0013】
又本発明は、脱塩を実施する土壌中に埋設され、下端部が電極として機能し、下端部の位置が作物の成長に必要な深さより更に深い棒状の土中電極と、土壌の表面の脱塩を実施する範囲を覆う土表電極と、両電極間に直流電流を通電する定電流電源とを具備する土壌の脱塩装置に係るものである。
【0014】
又本発明は、土壌の表面の脱塩を実施する範囲を覆う電解層を形成し、該電解層は吸収材に電解液を含浸させて構成された土壌の脱塩装置に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、脱塩を実施する土壌中に棒状の土中電極を埋設し、土壌の表面に脱塩を実施する範囲を覆う土表電極を設置し、両電極間に直流電流を通電し、土壌中の塩化物イオンを両電極の内+電極側に移動させ、少なくとも作物の成長に必要な深さの土中から塩分を除去するので、簡便に而も人手作業を殆ど必要とすることなく、又水を使用することなく、土壌から塩分の除去を可能とすることができる。
【0016】
又本発明によれば、脱塩を実施する土壌中に埋設され、下端部が電極として機能し、下端部の位置が作物の成長に必要な深さより更に深い棒状の土中電極と、土壌の表面の脱塩を実施する範囲を覆う土表電極と、両電極間に直流電流を通電する定電流電源とを具備するので、両電極間に通電し放電しておけば少なくとも作物の成長に必要な深さの土中から塩分を除去でき、簡便に而も人手作業を殆ど必要とすることなく、又水を使用することなく、土壌から塩分の除去を可能とすることができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施例を示す模式図である。
【図2】本発明の第2の実施例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0019】
津波、高潮等により田畑が海水に浸漬し、海水が引いた後、土中に残留した塩分は塩化物イオン(−イオン)の状態で存在している。本発明では、地表に電極を設置すると共に土中に電極を埋設し、両電極間に通電し、塩化物イオンを正電極側に引寄せ、作物の栽培に必要な範囲から塩化物イオンを排除するものである。
【0020】
先ず、図1を参照して第1の実施例を説明する。
【0021】
図1は、第1の実施例の模式図であり、土中に所定の深さとなる様土中電極1を埋設し、土表に電解層2を形成し、該電解層2の表面、又は該電解層2内に土表電極3を敷設し、前記土中電極1と前記土表電極3に直流定電流電源4を接続する。又、前記土中電極1は前記直流定電流電源4の−電極に接続し、前記土表電極3は前記直流定電流電源4の+電極に接続する。
【0022】
前記土中電極1は、材質を腐食しない金属材料(溶融して金属イオンを発生しないもの)、例えばチタン製の棒状電極とし、下端部1aのみを露出させて絶縁材料で被覆する。埋設の方法としては、例えば土中に垂直に挿入するものとする。又、電極となる前記下端部1aは、チタンそのものとしてもよいが通常の状態ではチタン表面には酸化膜(TiO2 )が形成されており、電極材料としては電解効率が悪いので、表層に白金メッキ処理する、或はルテニウムの酸化物で被覆する等が好ましい。
【0023】
更に、前記土中電極1を埋設する深さ、即ち前記下端部1aの深さは、脱塩処理する土壌の範囲、土壌の質にもよるが、目安として脱塩深さが1m程度で、10m四方とすると、5m以上の深さとするのが好ましい。従って、前記土中電極1は、5mの深さ迄挿入できる(押込み力に耐え得る)強度が要求され、φ10mm〜30mm程度のものが用いられる。前記土中電極1の埋設の姿勢は、垂直であっても斜めであっても良く、要は前記下端部1aの深さが、求められる脱塩の深さより深くなっていればよい。
【0024】
更に、土壌と前記土中電極1との間に生じるギャップは、電流流路となって、土壌中を流れる電流が減少してしまう可能性がある。従って、好ましくは、前記土中電極1の周囲の電気抵抗が大きくなる様に、該土中電極1の周囲に嫌電流層6を形成する。
【0025】
該嫌電流層6を形成する一例としては、土壌中に残置しても、作物の成長に影響のない物質、石灰石を粉砕したもの等を前記土中電極1と土壌間に投入、或は土壌に混ぜる等する。
【0026】
前記土表電極3は、脱塩したい範囲を覆う広さを有し、塩化物イオンによって腐食されない金属材料、例えば前記チタン製、或はチタンに白金メッキ処理したもの或はチタンをルテニウムの酸化物で被覆したもの等が用いられる。
【0027】
又、前記電解層2は、吸収材に電解液を含浸させたものとし、吸収材としては、例えばポリアクリル酸ナトリウムを顆粒状にしたもの等が挙げられ、厚みは数cm〜10cm程度が好ましい。又、脱塩処理後は、前記電解層2を単体で除去できる様にする。更に、電解液としては、脱塩処理後に土壌に悪影響を残さないものが用いられ、特許文献2に記載されている様な土壌改良材の成分、或は特許文献3及び特許文献4に記載されている様な塩化物イオン等の陰イオンを特異的に吸着する物質等が挙げられる。
【0028】
前記直流定電流電源4は、脱塩に必要な電流を供給するものである。脱塩に必要とされる電流密度は、1A/m2 程度とされる。尚、脱塩に最適な電流密度は土壌の質等によって変動があり、最適な電流密度については、脱塩の対象となる土壌によって決定される。
【0029】
脱塩に必要とされる電流密度は、1A/m2 として、10m四方即ち100m2 当り100Aとなる。又、1A/m2 の定電流を流す場合の電圧は、高々数Vであるので、100Vの商用電源を前提とすれば、数Aとなり、商用電源で充分賄える容量である。更に、太陽電池等の電源と併用等すると更に合理的に脱塩の電力の供給が可能となる。
【0030】
前記土中電極1と前記土表電極3間に定電流を通電すると、前記土中電極1、前記土表電極3が、不溶性電極(電極が溶けて金属イオンを発生しないもの)であるので、電極側から陽イオンの供給がなく、土中の陰イオンである塩化物イオンが前記土表電極3側に移動し、前記電解層2に捕集される。
【0031】
尚、本実施例では、電極近傍迄移動する様な条件で電解を実施するものであり、電解反応が生じない条件とする。従って、塩素ガス(有毒)が発生せず、塩化物イオンは前記電解層2に捕集され、濃縮された状態となる。所要期間通電(電解)を行い、前記電解層2を除去し、破棄することで、遺漏なく土壌中から塩化物イオンを完全に除去できる。又、前記電解層2は、吸収材で構成されているので、取扱いは容易である。
【0032】
尚、電解中、塩化物イオンだけが引寄せられるわけではなく、他の陰イオン(OH- )も引寄せられるが、電極からのイオンの供給がないので、下記の変化は起らない。
4OH- →2H2 O+O2 ↑+4e-
【0033】
同様に、O2 には至らない。従って、OH- は濃化し、環境はアルカリ化が進行する。
【0034】
又、塩化物イオンや、OH- が濃化した状態で電解を終了して放置すると、外部からの電解が無い状態で、電気的中性を保つ為に、陽イオン、例えば、Na+ やK+ 等が移動してくる。
【0035】
従って、脱塩を実施する前にNaOH、KOHが生成した場合の中和剤を土壌中に混合し、撹拌しておく。中和剤としては、例えば過リン酸石灰、硫酸カルシウム等である。
【0036】
尚、事前に中和剤を土壌中に混合する為、耕耘機等により、土壌を必要とされる深さ迄混返し、撹拌することで、土壌の均質化が図れる。この為、特異的に電流が流れ易くなっている経路が崩される為、脱塩電解が均一に行われる効果も期待できる。
【0037】
次に、図1中、曲線Aは海水が浸漬後、土中に残留する塩分濃度を示している。前記土中電極1の位置(即ち前記下端部1aの位置)は、海水が含浸した最下位置より更に下方となる様に設置する。
【0038】
前記土中電極1、前記土表電極3間に通電することで、土中の塩化物イオンは+電極である前記土表電極3側に引かれて移動し、前記電解層2内に捕集され、該電解層2を泳動した状態となる。土中に通電し、塩化物イオンが前記電解層2に捕集された状態での塩分濃度は曲線Bに示される。
【0039】
尚、本実施例による脱塩をする場合に、土中の塩分濃度が0になる必要はなく、作物の成長に支障を及ぼさない程度に除去できればよい。又、作物の成長に支障ない塩分濃度は、作物によっても異なり、例えば、水田の場合、0.4%を上回ると稲の生育に支障をきたし、0.1%程度でも影響があるとされている。
【0040】
所定期間脱塩を実施した後、土中の塩分濃度が所定の値となると、前記電解層2を除去し、更に前記土中電極1、前記土表電極3を除去する。
【0041】
図2は、第2の実施例を示している。
【0042】
第2の実施例では、土中電極1を直流定電流電源4の+電極に接続し、土表電極3を前記直流定電流電源4の−電極に接続したものである。尚、第2の実施例に於いて、前記土中電極1、前記土表電極3の構成等は第1の実施例と同様であるので、以下説明を省略する。
【0043】
第2の実施例では、前記土中電極1が+電極であるので、土壌中に泳動している塩化物イオンは、前記土中電極1の下端部1aに引寄せられる。従って、塩分濃度は土中深くなる程大きくなる。図2中、曲線Aは海水が浸漬後、土中に残留する塩分濃度を示し、曲線Bは本実施例で脱塩処理を行った後の塩分濃度を示している。
【0044】
作物が成長する必要な土壌の深さDで、所定の塩分濃度以下になっておればよく、前記下端部1aの土中の深さは、深さDで所定の塩分濃度以下が得られる様に設定される。
【0045】
尚、第2の実施例の場合、電解層2は省略することもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 土中電極
1a 下端部
2 電解層
3 土表電極
4 直流定電流電源
6 嫌電流層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱塩を実施する土壌中に棒状の土中電極を埋設し、土壌の表面に脱塩を実施する範囲を覆う土表電極を設置し、両電極間に直流電流を通電し、土壌中の塩化物イオンを両電極の内+電極側に移動させ、少なくとも作物の成長に必要な深さの土中から塩分を除去することを特徴とする土壌の脱塩方法。
【請求項2】
前記土壌の表面の脱塩範囲に電解層を形成し、前記土表電極を+電極とし、前記電解層に塩化物イオンを捕集し、脱塩処理後前記電解層を除去する請求項1の土壌の脱塩方法。
【請求項3】
前記土中電極の先端部が+電極として機能する様に、先端部を除いて絶縁処理し、前記先端部の深さを、作物の成長に必要な深さより深くし、塩分濃度を作物の成長に必要な深さより下方に濃縮させる請求項1の土壌の脱塩方法。
【請求項4】
前記土中電極の周囲に、電気抵抗の大きい嫌電流層を形成した請求項1〜請求項3のいずれかの土壌の脱塩方法。
【請求項5】
脱塩を実施する土壌中に埋設され、下端部が電極として機能し、下端部の位置が作物の成長に必要な深さより更に深い棒状の土中電極と、土壌の表面の脱塩を実施する範囲を覆う土表電極と、両電極間に直流電流を通電する定電流電源とを具備することを特徴とする土壌の脱塩装置。
【請求項6】
土壌の表面の脱塩を実施する範囲を覆う電解層を形成し、該電解層は吸収材に電解液を含浸させて構成された請求項5の土壌の脱塩装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−81907(P2013−81907A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223926(P2011−223926)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】