説明

土壌・地下水の浄化方法および浄化効果予測方法

【課題】土壌または地下水に、デハロコッコイデス属の塩素化エチレン分解菌による浄化を行なう場合の塩素化エチレン濃度、菌体濃度等の経時変化および浄化効果を簡便にかつ精度よく予測することができ、これにより土壌・地下水の浄化を適正かつ効果的に行う。
【解決手段】
土壌または地下水のサンプルを採取して予備試験を行い、塩素化エチレン濃度、分解生成物濃度および菌濃度の経時変化を示す予備試験用予測式を解いて、前記パラメータの解を求め、シミュレーション解析を行って、予備試験の結果に適合するようにパラメータ値を決定し、このパラメータ値を入れた予備試験用予測式を、処理対象地域の地質条件に基づく設定値で補正した現地処理用予測式に基づいて、処理対象地域の地中にバイオオーグメンテーションによる浄化を行った場合の塩素化エチレン濃度およびデハロコッコイデス属細菌の経時変化を予測し、これに基づいて土壌・地下水の浄化を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化エチレン等の有害物質で汚染された土壌または地下水の浄化方法および浄化効果予測方法に関し、特にデハロコッコイデス属細菌を利用したバイオオーグメンテーション(Bio-augmentation:生物増強法)による浄化方法および浄化効果の予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩素化エチレン等の有害物質で汚染された土壌または地下水を原位置で浄化する方法として、汚染物質に対する分解活性を有する生物を利用して浄化する方法、すなわちバイオメディエーション(Bio-mediation:生物修復法)がある。このようなバイオメディエーションには、浄化対象となる土壌または地下水に生息する生物を利用して浄化する方法と、外部から植種する生物を利用して浄化する方法とがある。どちらの方法も、単純に生物を利用する方法と、さらに栄養剤を注入して生物を刺激する方法、すなわち(Bio-stimulation:生物刺激法)がある。外部から分解活性を有する生物を植種する方法は、バイオオーグメンテーション(Bio-augmentation:生物増強法)と称される。
【0003】
汚染物質の塩素化エチレンとしては、テトラクロロエチレン(PCE)、トリクロロエチレン(TCE)、シス−1,2−ジクロロエチレン(cis−DCE)、トランス−1,2−ジクロロエチレン(trans−DCE)、1,1−ジクロロエチレン(1,1−DCE)、塩化ビニル(VC)およびこれらの脱塩素化中間体などがあげられる。このうちテトラクロロエチレンやトリクロロエチレンは、嫌気状態において土着の嫌気微生物によるテトラクロロエチレンやトリクロロエチレンの還元的脱塩素化反応により分解され、シス−1,2−ジクロロエチレン(cis−DCE)が生成するが、一般細菌ではこれより先の分解は困難である。このため特にcis−DCEをさらに分解するために、塩素化エチレン分解活性を有する生物、特にデハロコッコイデス属細菌を利用して浄化する浄化方法が採用されている。
【0004】
デハロコッコイデス属細菌を利用したバイオオーグメンテーションによる浄化方法については、非特許文献1〜3に示すように、海外にて数件報告事例がある。上記非特許文献では、浄化対象となる土壌または地下水に所定量のデハロコッコイデス属細菌を含む培養液を添加しているが、添加したデハロコッコイデス属細菌および現場地下水中塩素化エチレン濃度に基づく予測方法は記載されていない。非特許文献2には、数式が出ているが、現場の塩素化エチレン濃度変化から回帰式を求めただけであり、予測方法は記載されていない。
【0005】
従来の土壌または地下水に生息する生物を利用して浄化する方法では、浄化対象となる土壌または地下水に生物が生息することを確認し、その生物の増殖に適した環境を整えることにより、原位置浄化を行う。このような生息する生物を利用して浄化する方法において、浄化効果を予測する方法として、特許文献1(特開2005−254084号(特許第4354308号))には、過去に行った現場地下水中のデハロコッコイデス属その他の細菌の量を測定し、その結果と実際に要した浄化期間の関係を示す近似式を求めて、以後実施しようとする現場地下水中のデハロコッコイデス属その他の細菌量の測定結果を代入して、以後実施しようとする現場における浄化期間を推定する方法や、設定した期間内に浄化するのに必要なデハロコッコイデス属細菌濃度を決定する方法などが記載されている。
【0006】
特許文献1では、デハロコッコイデス属その他の細菌を植種する場合にも、そのときの
細菌量を測定し、過去の平均的な数値を基に浄化期間を推定することが示されている。しかしこのような方法では、実際には現場地下水中の塩素化エチレン濃度が異なる場合や、現場地下水に阻害物が含まれている場合などにおいて、デハロコッコイデス属細菌等の活性は大きく変動するので、現場によっては予測精度が劣る結果になるという問題点がある。また特許文献1ではデハロコッコイデス属の細菌によるcis−DCEについては示されているが、塩化ビニル(VC)をさらにエチレンに分解することは確認されていない。
【0007】
特許文献2(特開2002−355055号(特許第4485099号))には、デハロコッコイデス属に属する塩素化エチレン分解細菌の検出方法、および検出された塩素化エチレン分解細菌による塩素化エチレンの分解方法が示されている。その塩素化エチレンの分解方法としては、浄化対象となる土壌または地下水で検出した塩素化エチレン分解細菌を利用してトリクロロエチレン等の塩素化エチレンを分解する方法、ならびに他の方法として、検出した塩素化エチレン分解細菌を培養し、塩素化エチレン分解細菌の検出されない汚染土壌または地下水に、栄養剤とともに注入して塩素化エチレンを分解する方法、特に塩化ビニルをエチレンにまで分解する方法におけるバイオオーグメンテーションも記載されている。しかし浄化効果の予測あるいはそれによる制御方法については示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ellisら、2000、Bioaugmentation for accelerated in situ anaerobic bioremediation. Environ. Sci. Technol. 34, 2254-2260.
【非特許文献2】Maiorら、2002、Field demonstration of successful bioaugmentation to achieve dechlorination of tetrachloroethene to ethane. Environ. Sci. Technol. 36, 5106-5116.
【非特許文献3】Lendvayら、2003、Bioreactive barriers: a comparison of bioaugmentation and biostimulation for chlorinated solvent remediation. Environ. Sci. Technol. 37, 1422-1431.
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−254084号(特許第4354308号)
【特許文献2】特開2002−355055号(特許第4485099号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、前記のような従来の問題点を解決するため、浄化対象となる土壌または地下水に、デハロコッコイデス属に属する塩素化エチレン分解菌を利用したバイオオーグメンテーションによる浄化を行う場合の塩素化エチレン濃度、菌体濃度等の経時変化および浄化効果を簡便にかつ精度よく予測することができ、これにより土壌・地下水の浄化を適正かつ効果的に行うことができる土壌・地下水の浄化方法および浄化効果予測方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の土壌・地下水の浄化効果予測方法および浄化方法である。
(1) 処理対象地域の土壌または地下水にデハロコッコイデス属細菌を利用したバイオオーグメンテーションによる浄化を行った場合の塩素化エチレン濃度およびデハロコッコイデス属細菌の経時変化を予測式に基づいて予測する方法であって、
処理対象地域の土壌または地下水の塩素化エチレン濃度および菌濃度を変数とし、菌の比増殖速度、菌体収率、基質飽和定数および阻害定数をパラメータとし、塩素化エチレン濃度、分解生成物濃度および菌濃度の経時変化を示す微分方程式からなる予備試験用予測
式〔I〕、ならびにこの予測式〔I〕を処理対象地域の地質条件に基づく設定値で補正した現地処理用予測式〔II〕を準備し、
処理対象地域から土壌または地下水のサンプルを採取して容器に収容し、塩素化エチレン分解活性を有するデハロコッコイデス属細菌の培養液および栄養剤を添加して所定期間密閉培養する予備試験を行い、容器内の塩素化エチレン濃度、分解生成物濃度およびデハロコッコイデス属細菌濃度の経時変化を測定し、
この測定結果に基づいて前記予備試験用予測式〔I〕を解いて、前記サンプルの測定結果に適合するようにパラメータ値を決定し、
決定したパラメータ値および処理対象地域の地質条件の測定結果を代入した前記現地処理用予測式〔II〕に基づいて、処理対象地域の地中にデハロコッコイデス属細菌を利用したバイオオーグメンテーションによる浄化を行った場合の塩素化エチレン濃度およびデハロコッコイデス属細菌の経時変化を予測することを特徴とする土壌・地下水の浄化効果の予測方法。
(2) 上記(1)の方法における現地処理用予測式〔II〕による予測に基づいて、設定された浄化期間に適合するデハロコッコイデス属細菌濃度を決定し、この決定した濃度となるように処理対象の土壌または地下水にデハロコッコイデス属細菌を添加して、設定された浄化期間内に、塩素化エチレンを分解することを特徴とする土壌・地下水の浄化方法。
(3) 上記(1)または(2)において、塩素化エチレンはシス−1,2−ジクロロエチレンまたは塩化ビニルであり、分解生成物はエチレンであり、デハロコッコイデス属細菌が塩化ビニル分解活性を有するデハロコッコイデス属細菌である方法。
(4) 上記(1)ないし(3)のいずれかにおいて、予備試験用予測式〔I〕は以下の数式A〜Dであり、現地処理用予測式〔II〕は以下の数式E〜Gである方法。
数式A:土壌または地下水中のシス−1,2−ジクロロエチレンの生物脱塩素化反応に伴うシス−1,2−ジクロロエチレンの経時変化を表わす数式。
数式B:土壌または地下水中の塩化ビニルの生物脱塩素化反応に伴う塩化ビニルの経時変化を表わす数式。
数式C:土壌または地下水中の塩化ビニルの生物脱塩素化反応に伴うエチレンの経時変化を表わす数式。
数式D:土壌または地下水中のシス−1,2−ジクロロエチレンおよび塩化ビニルの生物脱塩素化反応に伴うデハロコッコイデス属細菌濃度の経時変化を表わす数式。
数式E:土壌または地下水中のシス−1,2−ジクロロエチレンの生物脱塩素化反応と地下水流れによるシス−1,2−ジクロロエチレンの上流から下流への移動に伴うシス−1,2−ジクロロエチレンの経時変化を表わす数式。
数式F:土壌または地下水中の塩化ビニルの生物脱塩素化反応と地下水流れによる塩化ビニルの上流から下流への移動に伴う塩化ビニルの経時変化を表わす数式。
数式G:土壌または地下水中のシス−1,2−ジクロロエチレンおよび塩化ビニルの生物脱塩素化反応と地下水流れによるデハロコッコイデス属細菌濃度の上流から下流への移動に伴うデハロコッコイデス属細菌濃度の経時変化を表わす数式。
(5) 上記(1)ないし(4)のいずれかにおいて、現地処理用予測式〔II〕を補正する処理対象地域の地質条件が処理対象地域の地下水容量および地下水流量である方法。
(6) 上記(4)または(5)において、数式A〜Gは以下の(A)〜(G)式である方法。
数式A:
d[DCE]/dt= −Mud/Y×[DHC]×[DCE]/(Ks+[DCE]) ・・・・(A)
数式B:
d[VC]/dt=Mud/Y×[DHC]×[DCE]/(Ks+[DCE])−Mud/Y×[DHC]×[DCE]/(Ks×(1+[DCE]/KID)+[DCE]) ・・・・(B)
数式C:
d[エチレン]/dt=Mud/Y×[DHC]×[DCE]/ (Ks×(1+[DCE] /KID) +[DCE]) ・・・・(C)
数式D:
d[DHC]/dt=Mud×[DHC]×[DCE]/(Ks+[DCE])+Mud×[DHC]×[DCE]/(Ks×(1+[DCE] /KID)+[DCE]) −Kd×[DHC] ・・・・(D)
数式E:
d[DCE]/dt= −Mud/Y×[DHC] ×[DCE]/(Ks+[DCE])+([DCE]−[DCE])/V×Q ・・・・(E)
数式F:
d[VC]/dt=Mud/Y×[DHC]×[DCE]/(Ks+[DCE])−Mud/Y×[DHC]×[DCE] /(Ks×(1+[DCE] /KID)+[DCE])−[VC]/V×Q ・・・・(F)
数式G:
d[DHC]/dt=Mud×[DHC]×[DCE]/(Ks+[DCE])+Mud×[DHC]×[DCE] /(Ks×(1+[DCE] /KID)+[DCE])−Kd×[DHC]−[DHC]/V×Q ・・・・(G)
(A)式ないし(G)式中、[DCE]は変数で、シス−1,2−ジクロロエチレン(cis-DCE)濃度(μM)を示す。MudはDHC菌の比増殖速度(1/day)を示す。YはDHC菌の菌体収率(copies/μmol Cl)を示す。[DHC]は変数で、DHC菌濃度(cells/L)を示す。Ksは半飽和定数(μM)を示す。KIDは阻害定数(μM)を示す。[DCE]はDHC菌注入前のcis-DCE実測値(mg/L)を示す。Vは処理対象エリアの地下水容量(m)を示しており、設定値である。Qは処理対象エリアに流入する地下水流量(m/day)を示しており、設定値である。Kdは死滅速度(1/day)を示す。
【0012】
本発明において、処理対象となる土壌または地下水は、塩素化エチレン等の有害物質で汚染された土壌または地下水である。汚染物質としての塩素化エチレンには、テトラクロロエチレン(PCE)、トリクロロエチレン(TCE)、シス−1,2−ジクロロエチレン(cis−DCE)、トランス−1,2−ジクロロエチレン(trans−DCE)、1,1−ジクロロエチレン(1,1−DCE)、塩化ビニル(VC)およびこれらの脱塩素化中間体などが含まれるが、本発明では特にシス−1,2−ジクロロエチレン(cis−DCE)および塩化ビニル(VC)が処理対象として適している。
【0013】
本発明においてこのような塩素化エチレンの分解に用いられる生物は、塩素化エチレン分解活性を有するデハロコッコイデス属細菌であるが、特に塩化ビニル(VC)を単独で分解する活性を有するデハロコッコイデス属細菌が好ましい。塩素化エチレンのうちテトラクロロエチレンやトリクロロエチレンは、嫌気状態において土着の嫌気微生物によるテトラクロロエチレンやトリクロロエチレンの還元的脱塩素化反応により分解されるが、塩素化エチレン分解活性を有するデハロコッコイデス属細菌を用いるとその分解効果は高いので好ましい。
【0014】
本発明では、処理対象地域の土壌または地下水の塩素化エチレン濃度および菌濃度を変数とし、菌の比増殖速度、菌体収率、基質飽和定数および阻害定数をパラメータとし、塩素化エチレン濃度、分解生成物濃度および菌濃度の経時変化を示す微分方程式からなる予備試験用予測式〔I〕、ならびにこの予備試験用予測式〔I〕を処理対象地域の地質条件に基づく設定値で補正した現地処理用予測式〔II〕を準備する。これらの予測式は、微生物の増殖速度をモデル化するモノー式から上記の分解反応を数式化するように導いた式である。このうち予備試験用予測式〔I〕としては後述の数式A〜Dが用いられ、現地処
理用予測式〔II〕としては後述の数式E〜Gが用いられる。
【0015】
本発明で採用するバイオオーグメンテーション(Bio-augmentation:生物増強法)は、外部から分解活性を有する生物を植種して増強し、汚染物質を分解する方法である。この方法は浄化対象となる土壌または地下水に、汚染物質に対する分解活性を有する生物が生息しない土壌または地下水に、分解活性を有する生物を植種する場合のほかに、分解活性を有する生物が生息する場合でも、その生息数が少ない土壌または地下水に、分解活性を有する生物をさらに植種する場合、あるいは別の分解活性を有する生物をさらに植種する場合などもある。
【0016】
本発明における土壌・地下水の浄化効果予測方法は、処理対象地域の地中にデハロコッコイデス属細菌を利用したバイオオーグメンテーションによる浄化を行った場合の塩素化エチレン濃度およびデハロコッコイデス属細菌の経時変化を予測式に基づいて予測する方法であり、特にシス−1,2−ジクロロエチレンおよび塩化ビニルの濃度、ならびに塩化ビニル分解の経時変化と、活性を有するデハロコッコイデス属細菌の経時変化を予測するのに適している。この方法は密閉培養による予備試験と、シミュレーション解析の組合せにより、現地処理に適した予測を行うことができる。
【0017】
本発明では予備試験として、処理対象地域から土壌または地下水のサンプルを採取して容器に収容し、塩素化エチレン分解活性を有するデハロコッコイデス属細菌の培養液および栄養剤を添加して所定期間密閉培養する予備試験を行い、容器内の塩素化エチレン濃度およびデハロコッコイデス属細菌濃度の経時変化を測定する。この予備試験は実際の現地処理の条件に近い条件で行うのが好ましい。
【0018】
予備試験において処理対象地域から採取する土壌または地下水のサンプルの量は限定されないが、10〜1000mL、好ましくは50〜100mLとすることができる。塩素化エチレン分解活性を有するデハロコッコイデス属細菌の培養液は、前述のデハロコッコイデス属細菌を培養した培養液、特に菌濃度10〜1012cell/L、好ましくは1010〜1011cell/Lの培養液を、菌濃度が地下水当たり10〜10copies/L、好ましくは10〜10copies/Lの範囲となるように添加する。栄養剤としては、有機酸、アルコール、糖等の有機物を、地下水当たり0.1〜10g/L、好ましくは0.5〜5g/Lの範囲となるように添加する。予備試験の温度は15〜30℃、好ましくは20〜25℃、試験時間はサンプルに含まれる汚染物質が分解するまでの時間であり、一般的には10〜60日、好ましくは15〜30日程度である。
【0019】
このような予備試験と平行して、あるいは予備試験の前後に、塩素化エチレン濃度および菌濃度を変数とし、菌の比増殖速度、菌体収率、基質飽和定数および阻害定数をパラメータとし、塩素化エチレン濃度、分解生成物濃度および菌濃度の経時変化を示す微分方程式からなる予備試験用予測式〔I〕を解いて、前記サンプルの測定結果に適合する値をパラメータ値として決定し、カーブフィッティングを行う。
【0020】
一方、前記予備試験用予測式〔I〕を、処理対象地域の地質条件に基づく設定値で補正して現地処理用予測式〔II〕を作成する。そして、上記により決定されたパラメータ値および処理対象地域の地質条件の測定結果を代入した現地処理用予測式〔II〕に基づいて、処理対象地域の地中にデハロコッコイデス属細菌を利用したバイオオーグメンテーションによる浄化を行った場合の基質である塩素化エチレン濃度、分解生成物であるエチレンおよびデハロコッコイデス属細菌の経時変化を予測する。この予測に基づいて、処理対象地域の処理条件、その他の構築を行う。現地処理用予測式を補正する処理対象地域の地質条件としては、処理対象地域の地下水容量および地下水流量などがある。
【0021】
本発明の土壌・地下水の浄化方法は、上記の方法における現地処理用予測式〔II〕による予測に基づいて、塩素化エチレンを分解する方法である。この場合、設定された浄化期間に適合しうるデハロコッコイデス属細菌濃度を決定し、処理対象の土壌・地下水に決定した濃度となるようにデハロコッコイデス属細菌を添加して、設定された浄化期間内に塩素化エチレンを分解する。上記細菌の添加には塩素化エチレン分解活性を有するデハロコッコイデス属細菌の培養液を用いることができるが、この培養液は、前述のデハロコッコイデス属細菌を培養した培養液であり、菌濃度10〜1012cell/L、好ましくは1010〜1011cell/Lの培養液を、菌濃度が地下水当たり10〜10copies/L、好ましくは10〜10copies/Lの範囲となるように添加する。栄養剤としては、有機酸、アルコール、糖等の有機物を、地下水当たり0.1〜10g/L、好ましくは0.5〜5g/Lの範囲となるように添加する。培養液および栄養剤は、処理対象地域の地下水流の上流側に設けた井戸から注入することができる。培養液の添加は1回でよいが、その後追加して添加しても良い。栄養剤の添加は1〜6月、好ましくは3〜4月間隔で繰り返し添加することができる。これらの処理操作は現地処理用予測式〔II〕に適合するように制御される。
【0022】
上記のような本発明の土壌・地下水の浄化効果予測方法および浄化方法において、予備試験用予測式〔I〕には以下の数式A〜Dが用いられ、現地処理用予測式〔II〕には以下の数式E〜Gが用いられる。
数式A:土壌または地下水中のシス−1,2−ジクロロエチレンの生物脱塩素化反応に伴うシス−1,2−ジクロロエチレンの経時変化を表わす数式。
数式B:土壌または地下水中の塩化ビニルの生物脱塩素化反応に伴う塩化ビニルの経時変化を表わす数式。
数式C:土壌または地下水中の塩化ビニルの生物脱塩素化反応に伴うエチレンの経時変化を表わす数式。
数式D:土壌または地下水中のシス−1,2−ジクロロエチレンおよび塩化ビニルの生物脱塩素化反応に伴うデハロコッコイデス属細菌濃度の経時変化を表わす数式。
数式E:土壌または地下水中のシス−1,2−ジクロロエチレンの生物脱塩素化反応と地下水流れによるシス−1,2−ジクロロエチレンの上流から下流への移動に伴うシス−1,2−ジクロロエチレンの経時変化を表わす数式。
数式F:土壌または地下水中の塩化ビニルの生物脱塩素化反応と地下水流れによる塩化ビニルの上流から下流への移動に伴う塩化ビニルの経時変化を表わす数式。
数式G:土壌または地下水中のシス−1,2−ジクロロエチレンおよび塩化ビニルの生物脱塩素化反応と地下水流れによるデハロコッコイデス属細菌濃度の上流から下流への移動に伴うデハロコッコイデス属細菌濃度の経時変化を表わす数式。
【0023】
これらの数式A〜Gは具体的には前記(A)〜(G)式で表される。これら(A)〜(G)式は、微生物の増殖速度をモデル化するモノー式から上記の分解反応を数式化するように導いた式である。このうち予備試験用予測式〔I〕としての(A)式〜(D)式は、シスジクロロエチレン⇒塩化ビニル⇒エチレンの分解反応を数式化した一般的なモノー式で、塩化ビニル⇒エチレンの反応はシスジクロロエチレン濃度の阻害影響を受けるように考慮されている。また現地処理用予測式〔II〕としての(E)式〜(G)式は、前記(A)、(B)および(D)式を、処理対象地域が完全混合のリアクターに近似するように補正して構成されている。
【0024】
本発明では、上記(A)〜(D)式を解くことにより、パラメータであるMud、Y、Ks、KIDについて、前記サンプルの塩素化エチレン濃度およびデハロコッコイデス属細菌濃度の経時変化に最も近似した結果を与える数値をパラメータ値として選出する。
【0025】
現地処理用予測式〔II〕については、予備試験用予測式〔I〕の(A)、(B)およ
び(D)式を、処理対象地域の地質条件に基づく設定値として、処理対象エリアの地下水容量V、ならびに処理対象エリアに流入する地下水流量Qなどがあげられ、これらの値で補正して、現地処理用予測式〔II〕としての(E)〜(G)式を作成する。そして上記により選出されたパラメータ値および処理対象地域の地下水流速等の地質条件の測定結果を代入した現地処理用予測式〔II〕の(E)〜(G)式に基づいて、処理対象地域の地中にデハロコッコイデス属細菌を利用したバイオオーグメンテーションによる浄化を行った場合の基質である塩素化エチレン濃度、分解生成物であるエチレンおよびデハロコッコイデス属細菌の経時変化を予測する。
【0026】
このような予測として、浄化期間の設定があり、現地処理用予測式〔II〕により予測される塩素化エチレン濃度等の予測値が処理目標値に達するまでの期間を浄化期間として設定する。そして上記の設定された浄化期間に適合しうるデハロコッコイデス属細菌濃度を決定し、処理対象の土壌又は地下水に決定した濃度となるようにデハロコッコイデス属細菌を添加して、設定された浄化期間内に塩素化エチレンを分解するが、その処理操作は現地処理用予測式〔II〕の(E)〜(G)式に適合するように制御される。
【0027】
前述のように、特許文献1の従来技術は、過去の平均的な数値を基に浄化期間を推定する方法であるが、実際には現場地下水中の塩素化エチレン濃度が異なる場合や、現場地下水に阻害物が含まれている場合などにおいて、デハロコッコイデス属細菌の活性は大きく変動するので、現場によっては予測精度が劣ったものとなってしまう。また一般に現場地下水中の塩素化エチレン濃度はエリアごとに異なるため、分解試験によって各初期濃度における浄化期間を求めるには測定数を増やす必要があって、非常に煩雑である。
【0028】
これに対して以上説明した本発明の方法では、密閉培養試験と地下水容量および流量の測定を行い、予測式をシミュレーション解析によって求めることにより、予測対象地域の地中にデハロコッコイデス属細菌を利用したバイオオーグメンテーションによる浄化を行った場合の塩素化エチレン濃度およびデハロコッコイデス属細菌の経時変化を簡便にかつ精度よく予測することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、密閉培養による予備試験を行うとともに、予備試験用予測式〔I〕を解いて、予備試験の測定結果に適合するようにパラメータ値を決定し、前記予備試験用予測式〔I〕を処理対象地域の地質条件に基づく設定値で補正した現地処理用予測式〔II〕に前記の決定したパラメータ値を代入した式により予測を行うようにしたので、浄化対象となる土壌または地下水に、デハロコッコイデス属に属する塩素化エチレン分解菌を利用したバイオオーグメンテーションによる浄化を行う場合の塩素化エチレン濃度、菌体濃度等の経時変化および浄化効果を簡便にかつ精度よく予測することができ、これにより土壌・地下水の浄化を適正かつ効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1において、(A)〜(D)式のcis−DCE、VC、エチレンおよびDHC菌濃度の経時変化の計算結果をカーブで示し、予備試験の実測値をプロットで示すグラフである。
【図2】実施例1において、(E)〜(G)式のcis−DCE、VC、およびエチレンと、DHC菌濃度の経時変化の計算結果をカーブで示し、現地処理試験の実測値をプロットで示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明における浄化効果予測方法は、前記(A)〜(G)式を用い、以下の手順で行われる。
(1) 土壌または地下水のサンプルを採取し、土壌または地下水にバイオオーグメンテーションに使用する培養液および栄養剤を添加して所定期間密閉培養による予備試験を行い、デハロコッコイデス属細菌がシス−1,2−ジクロロエチレン(以下、cis−DCEと記す)を分解する時のcis−DCE、および分解生成物である塩化ビニル(以下、VCと記す)およびエチレンと、デハロコッコイデス属細菌(以下、DHC菌と記す)濃度の経時変化を測定する。
【0032】
(2) 予備試験用予測式〔I〕において、(A)〜(D)式における比増殖速度Mud、菌体収率Y、基質〔cis−DCEおよびVC〕の半飽和定数Ks、および阻害定数KIDをパラメータとする。死滅速度Kdは地下水性状によって変化しないため、パラメータとせず、一般値を用いる。
【0033】
(3) (A)〜(D)式を解くことにより、上記各パラメータ値を種々変化させるシミュレーション解析を行い、各々のパラメータ値の場合のcis−DCE、VC、およびエチレンと、DHC菌濃度の経時変化を予測する。なお、シミュレーション解析に際しては、変数について、初期値を入力する。[DCE]、[VC]および[エチレン]は、上記(1)の予備試験の培養開始時において、培養容器内の液中に含まれるシス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニルおよびエチレン濃度であり、[DHC]は、培養開始時において、容器内の液中に含まれるDHC菌数であり、これらは培養開始時に培養液を少量採取して常法により分析して測定することができる。
【0034】
(4) (1)の実測値と最も一致する経時変化が得られた時の数値をパラメータ値として選定する。
【0035】
(5) 予測式〔I〕を予測対象地域の地下水流速測定結果により補正した予測式〔II〕の(E)〜(G)式に、上記の選定したパラメータ値および処理対象地域の地質条件の測定結果を代入した式に基づいてシミュレーション解析を行い、予測対象地域の地中に規定量のDHC菌を添加してバイオオーグメンテーションによる浄化を行った場合の、cis−DCE、およびVCと、DHC菌濃度の経時変化を予測する。なお、このシミュレーション解析に際しても、変数について、初期値を入力する。[DCE]、[VC]および[エチレン]は、DHC菌注入直後において、地下水中に含まれるシス−1,2−ジクロロエチレン、塩化ビニルおよびエチレン濃度である。[DHC]は、DHC菌注入直後において、地下水中に含まれるDHC菌数であり、これらはDHC菌注入直後に地下水をサンプリングして常法により分析して測定することができる。ただし、浄化期間を設定し、設定された浄化期間に適合しうるデハロコッコイデス属細菌濃度を決定する場合、[DHC]は任意の値を初期値とする。
【0036】
この予測としては、上記のように浄化期間を設定し、設定された浄化期間に適合しうるDHC菌濃度を決定し、処理対象の土壌又は地下水に決定した濃度となるようにDHC菌を添加して、設定された浄化期間内に塩素化エチレンを分解するが、その処理操作は現地処理用予測式〔II〕に適合するように制御される。この場合、対象地域は広大で、水流も不均一になるので、観測井戸における最小濃度と最大濃度に基づき浄化期間を求めるが、式(E)〜(G)に入力する汚染濃度を2種類用いる。当然濃度が低いほど浄化期間は短くなるので、浄化期間は月単位で幅を持たせて求める。
【0037】
上記密閉培養の手順は次の通りである。まず処理対象の現場地下水100mLを採取し、155mLの密閉瓶に入れた後、栄養剤およびDHC菌を添加し、20℃で分解試験を行う。この時cis−DCE濃度が1mg/L未満の場合は、試薬のcis−DCEを添加する。またDHC菌濃度は地下水当たり10〜10copies/Lの範囲とする。
【0038】
ここで浄化期間の推定は、式(E)〜(G)に、地下水の汚染濃度と処理対象エリアにおけるDHC菌濃度、処理対象エリアの地下水流量、処理対象エリア地下水容量等すべての初期値を入力して行う。後者の場合、地下水の汚染濃度、処理対象エリアの地下水流量、処理対象エリア地下水容量は既知の値を用いて、処理対象エリアにおけるDHC菌濃度のみを様々変化させることで、予測される浄化期間を求めて、設定した浄化期間内に収まる菌濃度を推測する。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。実施例で用いたデハロコッコイデス属細菌(DHC菌)は、特許文献2(特開2002−355055号)の実施例3で用いられたcis−DCEおよびVC分解活性を有する菌株を培養した培養液である。
【0040】
〔実施例1〕:
(1)密閉培養およびパラメータの算出;
処理対象の現場地下水100mLを採取し、155mLの密閉瓶に入れた後、栄養剤およびDHC菌を添加し、20℃で分解試験をおこない、cis−DCE、VC、およびエチレンと、DHC菌濃度の経時変化を測定した。なお、試験に供した地下水のcis−DCE初濃度は60μM(約5mg/L)であり、塩化ビニルおよびエチレンの初濃度は0μMとし、DHC菌濃度は地下水当たり3×10copies/Lとした。
【0041】
(A)〜(D)式において、パラメータ値を種々変え、シミュレーション解析結果が、密閉培養で測定したcis−DCE、VC、およびエチレンと、DHC菌濃度の経時変化と一致するように、最適なパラメータを求めた。ここで、比増殖速度Mud、菌体収率Y、基質(cis−DCEおよびVC)半飽和定数Ks、および阻害定数KIDをパラメータとした。
【0042】
解析に用いたパラメータと決定した数値を表1に示す。cis−DCE、VC、およびエチレンと、DHC菌濃度の経時変化の計算結果を図1にカーブで示し、予備試験の実測値をプロットで示す。図1に示すように、計算結果を示すカーブは、予備試験の密閉培養で測定したcis−DCE、VC、およびエチレン濃度、およびDHC菌濃度の経時変化の実測値のプロットと良く一致することが確認された。
【0043】
【表1】

【0044】
(2)処理対象エリアの地下水容量および流量の設定;
処理対象エリアの帯水層厚みは10mであり、間隙率は0.3であったことから、1m×lm×10m×0.3(3m)を処理対象エリアの地下水容量と設定した。また、市販の地下水流速計を用いて測定した処理対象エリアの地下水流量は0.05m/dayであったことから、処理対象エリア断面(1m×10m)に流入する地下水流量は0.15
/dと設定した。
【0045】
予備試験用予測式〔I〕の(A)、(B)および(D)式を、処理対象地域の地質条件に基づく設定値で補正して現地処理用予測式〔II〕の(E)〜(G)式を得た。この(E)〜(G)式に前記の選択されたパラメータ値および処理対象地域の地質条件の測定結果を代入した式に基づいてシミュレーション解析を行い、以下の予測を行った。
なお、シミュレーションに際し、地下水のcis−DCE初濃度は1.2μM(約0.1mg/L)であり、塩化ビニルおよびエチレンの初濃度は0μMとし、DHC菌初濃度は地下水当たり1.1×10copies/Lとした。
【0046】
(3)処理対象エリアにおける経時変化の予測;
処理対象エリアにおいて、帯水層10mにスクリーンを設けた井戸を設置し、DHC菌を注入した。注入直後に地下水を採取し、cis−DCE、VC、DHC菌濃度を測定した結果は表2の通りとなった。本数値を初期値として、得られたパラメータと処理対象エリアの地質条件に基づく設定値を用いて、シミュレーション解析を行った結果、cis−DCE、VC、およびDHC菌濃度の経時変化の計算結果は図2のカーブに示す通りとなった。なお、図2ではプロットで示す実測値と対比するため、cis−DCEおよびVC濃度をmg/Lに変換した。
【0047】
図2による予測として浄化期間が設定されるが、ここで浄化期間としては、cisDCEとVCが環境基準(それぞれ0.04mg/L、0.002mg/L)を下回るまでの期間として、表2では2ヶ月が設定されている。この実施例では予め浄化期間が設定されているわけではないが、表2のように2ヶ月を「設定された浄化期間」とする場合、「浄化期間に適合しうるDHC菌濃度」は1.1×10copies/Lであり、「DHC菌の添加量」は処理対象エリア(3m)に対して、3.3×10copiesであった。
【0048】
【表2】

【0049】
(4)処理対象エリアにおける現地処理試験;
上記(3)の井戸にDHC菌を注入して、現地処理試を行った。DHC菌注入後約1か月、1か月半、2か月後に地下水を採取し、cis−DCE、VC、DHC菌濃度を測定した結果、実測値は表2の通りとなった。この現地処理試験の実測値を図2にプロットで示すが、これを計算結果を示すカーブと対比すると、図2のシミュレーション結果と実測値は良く合致しており、表1で選定したパラメータ値を採用したシミュレーションにより、精度よくcis−DCE、VC、およびDHC菌濃度の経時変化を予測し、処理するこ
とが可能であった。
【0050】
〔比較例1〕:
特許文献1の従来法では、浄化微生物の定量値(x)と、TCE浄化までに要した日数(y)の近似式(1)を用いて、浄化期間を推定している。
y= −6.8Ln(x)+122 ・・ (1)
【0051】
そこで、浄化微生物の定量値(x)をDHC菌濃度に、TCEをcis−DCEに置き換えて、処理対象エリアにおける、cis−DCE浄化までに要した日数(y)を求めてみた。なお、xの単位はcells/g−soilであるが、1cellは1コピーに相当し、処理対象エリアの帯水層の含水率は約30%であったため、以下の式(2)を用いてDHC菌濃度(copies/L)を換算した。
浄化微生物の定量値[cells/g-soil]
=DHC菌濃度[copies/L]×1[cells/copies]÷1000÷0.3(mL/g)・・(2)
【0052】
処理対象エリアにおけるDHC菌初期濃度は表2に示したように1.1×10copies/Lであり、浄化微生物の定量値は3.7×10cells/g−soilとなり、式(1)より浄化期間は82日となった。ここでcis−DCE浄化までに要した日数は、cis−DCEが浄化目標濃度である0.04mg/Lに達するのに要する期間とみなすと、表2において1ヶ月後には0.02mg/Lにまで低下していることから、実際の浄化日数は遅くとも30日と考えられた。このように、従来法では実際の浄化日数と予測値が大きく異なることが分かった。これは従来法が処理対象エリアのcis−DCE初期濃度を勘案していないためと考えられる。従って、比較例1の方法では浄化期間を正しく推定することができないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
塩素化エチレンで汚染された土壌または地下水を、デハロコッコイデス属細菌を利用したバイオオーグメンテーション法により、原位置で浄化する土壌または地下水の浄化方法における浄化効果を予測する方法、ならびにそれによる土壌または地下水の浄化方法に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象地域の土壌または地下水にデハロコッコイデス属細菌を利用したバイオオーグメンテーションによる浄化を行った場合の塩素化エチレン濃度およびデハロコッコイデス属細菌の経時変化を予測式に基づいて予測する方法であって、
処理対象地域の土壌または地下水の塩素化エチレン濃度および菌濃度を変数とし、菌の比増殖速度、菌体収率、基質飽和定数および阻害定数をパラメータとし、塩素化エチレン濃度、分解生成物濃度および菌濃度の経時変化を示す微分方程式からなる予備試験用予測式〔I〕、ならびにこの予測式〔I〕を処理対象地域の地質条件に基づく設定値で補正した現地処理用予測式〔II〕を準備し、
処理対象地域から土壌または地下水のサンプルを採取して容器に収容し、塩素化エチレン分解活性を有するデハロコッコイデス属細菌の培養液および栄養剤を添加して所定期間密閉培養する予備試験を行い、容器内の塩素化エチレン濃度、分解生成物濃度およびデハロコッコイデス属細菌濃度の経時変化を測定し、
この測定結果に基づいて前記予備試験用予測式〔I〕を解いて、前記サンプルの測定結果に適合するようにパラメータ値を決定し、
決定したパラメータ値および処理対象地域の地質条件の測定結果を代入した前記現地処理用予測式〔II〕に基づいて、処理対象地域の地中にデハロコッコイデス属細菌を利用したバイオオーグメンテーションによる浄化を行った場合の塩素化エチレン濃度およびデハロコッコイデス属細菌の経時変化を予測することを特徴とする土壌・地下水の浄化効果の予測方法。
【請求項2】
請求項1の方法における現地処理用予測式〔II〕による予測に基づいて、設定された浄化期間に適合するデハロコッコイデス属細菌濃度を決定し、この決定した濃度となるように処理対象の土壌または地下水にデハロコッコイデス属細菌を添加して、設定された浄化期間内に、塩素化エチレンを分解することを特徴とする土壌・地下水の浄化方法。
【請求項3】
請求項1または2において、塩素化エチレンはシス−1,2−ジクロロエチレンまたは塩化ビニルであり、分解生成物はエチレンであり、デハロコッコイデス属細菌が塩化ビニル分解活性を有するデハロコッコイデス属細菌である方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、予備試験用予測式〔I〕は以下の数式A〜Dであり、現地処理用予測式〔II〕は以下の数式E〜Gである方法。
数式A:土壌または地下水中のシス−1,2−ジクロロエチレンの生物脱塩素化反応に伴うシス−1,2−ジクロロエチレンの経時変化を表わす数式。
数式B:土壌または地下水中の塩化ビニルの生物脱塩素化反応に伴う塩化ビニルの経時変化を表わす数式。
数式C:土壌または地下水中の塩化ビニルの生物脱塩素化反応に伴うエチレンの経時変化を表わす数式。
数式D:土壌または地下水中のシス−1,2−ジクロロエチレンおよび塩化ビニルの生物脱塩素化反応に伴うデハロコッコイデス属細菌濃度の経時変化を表わす数式。
数式E:土壌または地下水中のシス−1,2−ジクロロエチレンの生物脱塩素化反応と地下水流れによるシス−1,2−ジクロロエチレンの上流から下流への移動に伴うシス−1,2−ジクロロエチレンの経時変化を表わす数式。
数式F:土壌または地下水中の塩化ビニルの生物脱塩素化反応と地下水流れによる塩化ビニルの上流から下流への移動に伴う塩化ビニルの経時変化を表わす数式。
数式G:土壌または地下水中のシス−1,2−ジクロロエチレンおよび塩化ビニルの生物脱塩素化反応と地下水流れによるデハロコッコイデス属細菌濃度の上流から下流への移動に伴うデハロコッコイデス属細菌濃度の経時変化を表わす数式。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、現地処理用予測式〔II〕を補正する処理対象地域の地質条件が処理対象地域の地下水容量および地下水流量である方法。
【請求項6】
請求項4または5において、数式A〜Gは以下の(A)〜(G)式である方法。
数式A:
d[DCE]/dt= −Mud/Y×[DHC]×[DCE]/(Ks+[DCE]) ・・・・(A)
数式B:
d[VC]/dt=Mud/Y×[DHC]×[DCE]/(Ks+[DCE])−Mud/Y×[DHC]×[DCE]/(Ks×(1+[DCE]/KID)+[DCE]) ・・・・(B)
数式C:
d[エチレン]/dt=Mud/Y×[DHC]×[DCE]/ (Ks×(1+[DCE] /KID) +[DCE]) ・・・・(C)
数式D:
d[DHC]/dt=Mud×[DHC]×[DCE]/(Ks+[DCE])+Mud×[DHC]×[DCE]/(Ks×(1+[DCE] /KID)+[DCE]) −Kd×[DHC] ・・・・(D)
数式E:
d[DCE]/dt= −Mud/Y×[DHC] ×[DCE]/(Ks+[DCE])+([DCE]‐[DCE])/V×Q ・・・・(E)
数式F:
d[VC]/dt=Mud/Y×[DHC]×[DCE]/(Ks+[DCE])−Mud/Y×[DHC]×[DCE] /(Ks×(1+[DCE] /KID)+[DCE])−[VC]/V×Q ・・・・(F)
数式G:
d[DHC]/dt=Mud×[DHC]×[DCE]/(Ks+[DCE])+Mud×[DHC]×[DCE] /(Ks×(1+[DCE] /KID)+[DCE])−Kd×[DHC]−[DHC]/V×Q ・・・・(G)
(A)式ないし(G)式中、[DCE]は変数で、シス−1,2−ジクロロエチレン(cis-DCE)濃度(μM)を示す。MudはDHC菌の比増殖速度(1/day)を示す。YはDHC菌の菌体収率(copies/μmol Cl)を示す。[DHC]は変数で、DHC菌濃度(cells/L)を示す。Ksは半飽和定数(μM)を示す。KIDは阻害定数(μM)を示す。[DCE]はDHC菌注入前のcis-DCE実測値(mg/L)を示す。Vは処理対象エリアの地下水容量(m)を示しており、設定値である。Qは処理対象エリアに流入する地下水流量(m/day)を示しており、設定値である。Kdは死滅速度(1/day)を示す。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−187547(P2012−187547A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54667(P2011−54667)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】