説明

土壌中の塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法、土壌中の塩素化シクロジエン系農薬の抽出剤、土壌のウリ類栽培適正鑑別方法および収穫するウリ類中の塩素化シクロジエン系農薬濃度の予測方法

【課題】栽培予定の土壌で成育して収穫するウリ類中の塩素化シクロジエン系農薬(例、ドリン系)残留基準値の超過を未然に防ぐために、栽培前にウリ類中の該農薬濃度を予測する方法、土壌からの塩素化シクロジエン系農薬抽出分析方法、抽出剤等を提供する。
【解決手段】種々の濃度で塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌から、含水メタノールにより該農薬を抽出し定量分析する。該土壌でウリ類を栽培し、ウリ類から溶剤により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し定量分析する。土壌中の該農薬濃度とウリ類の該農薬濃度との関係式を作成する。
ウリ類栽培予定の土壌から含水メタノールにより塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、定量分析し、分析値から該土壌中の該農薬濃度を算出し、該濃度を上記関係式に当てはめて、収穫するウリ類中の該農薬濃度を予測する。含水メタノール(含水量90容量%以下)により抽出し分析する方法、該含水メタノールからなる抽出剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中に残存している塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法、土壌中に残存している塩素化シクロジエン系農薬の抽出剤、塩素化シクロジエン系農薬残存量の観点での土壌のウリ類栽培適正鑑別方法、および、収穫するウリ類中の塩素化シクロジエン系農薬濃度の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では、ディルドリン(dieldrin)、アルドリン(aldrin)、エンドリン(endrin)、クロルデン(chlordane)、ヘプタクロル(heptachlor)などの塩素化シクロジエン系農薬は、1954年(昭和29年)頃に主として土壌害虫防除用農薬として登録され、1960〜1970年代を中心にDDT等の有機塩素系殺虫剤と共に主要な殺虫剤として全国的に大量に使用された。しかし、土壌や作物への残留性が高いため、1971年に土壌残留性農薬に指定されて使用が規制され、1975年には農薬登録が失効した(但し、クロルデンは1968年に失効した)。さらに1981年、1986には化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく第一種特定化学物質に指定され、すべての用途で製造、販売、使用が禁止された(非特許文献1、特許文献1)。
【0003】
そのため、近年では全国的に検出頻度、検出レベルとも低下傾向にあると考えられている。しかし、過去に農薬として使われていた塩素化シクロジエン系農薬、特にはディルドリン、アルドリン、エンドリンなどのドリン類やヘプタクロルは蒸気圧、水溶性が低く、難分解性であるため、土壌中に長期間残留し、近年、ディルドリンがキュウリやカボチャから食品衛生法に基づいた残留基準値を上回る濃度で検出された事例や、そのため出荷停止となった事例が報告されている(非特許文献1、特許文献1)。キュウリやカボチャなどのウリ類は、他の農作物に比べて土中の塩素化シクロジエン系農薬、特にはディルドリンなどのドリン系農薬を吸収しやすいためである。
【0004】
土壌に残留する塩素化シクロジエン系農薬、特にはアルドリン、エンドリン、ディルドリンなどのドリン系農薬は、「農薬等の環境残留実態調査分析法」に基づいて分析される。すなわち、土壌試料から塩素化シクロジエン系、特にはアルドリン、エンドリン、ディルドリンなどのドリン系農薬をアセトンで抽出し,抽出液を減圧濃縮し、減圧濃縮物に塩化ナトリウム水溶液とヘキサンを加えて振とうし、ヘキサン層を分取して減圧濃縮・乾固し、残留物をヘキサンに溶かし、アセトニトリルで抽出し,アセトニトリル液を乾固し、残留物をヘキサンに溶かしてフロリジルカラムクロマトにより精製し,GC-MS(SIM)で測定されている(非特許文献2)。
【0005】
しかし、このアセトンを用いた強制的な抽出分析方法は、土壌の種類、例えば、有機物含有量、炭素含有量を選ばないものの、その土壌で栽培されるウリ類の果実へのドリン系農薬の吸収を反映しないという問題がある。
【0006】
特許文献2の段落番号[0002],[0014]には、本発明における無機物、重金属、PCB、農薬及び有機塩素系化合物等の汚染物質の抽出液は、純水、塩酸、硝酸及び硫酸等の酸性液、苛性ソーダ、アンモニア水等のアルカリ性液、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素化合物、エチルエーテル等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、それらの混合液である旨記載されているが、ウリ類の栽培に関連して土壌に残留する塩素化シクロジエン系農薬の抽出には無意識である。
【0007】
【特許文献1】特開2005−154452号公報
【特許文献2】特開平9-72898号公報
【非特許文献1】大谷卓,清家伸康、「台木選定による接木キュウリ果実中ディルドリン濃度の低減効果」、日本農薬学会誌、32(3), p.235242, 2007(Rootstock control of fruit dieldrin concentration in grafted cucumber (Cucumis sativus),Takashi OTANI and Nobuyasu SEIKE, Journal of Pesticide Science, 32(3), P235242, 2007)
【非特許文献2】「2002年版残留農薬分析法」(ソフトサイエンス社、平成13年11月10日発行、534頁〜536頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らは、種々の炭素含有量が異なる土壌中に残留している塩素化シクロジエン系農薬、特にはディルドリン、アルドリン、エンドリンなどのドリン系農薬や、ヘプタクロルについて、ウリ類の果実への吸収を反映する量を、精度よく抽出する方法、そのための抽出剤を鋭意研究した結果、含水メタノールによる抽出が好適なことを見出して本発明に到達した。
【0009】
本発明は、種々の土壌中に残留している塩素化シクロジエン系農薬、特にはディルドリン、アルドリン、エンドリンなどのドリン系農薬やヘプタクロルについて、ウリ類の所定部位、特には果実への吸収を反映する量を、精度よく抽出し、定量分析する方法を提供することを目的とする。
本発明は、種々の土壌中に残留している塩素化シクロジエン系農薬、特にはディルドリン、アルドリン、エンドリンなどのドリン系農薬やヘプタクロルについて、ウリ類の所定部位、特には果実への吸収を反映する量を、精度よく抽出することができる抽出剤を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、塩素化シクロジエン系農薬、特にはディルドリン、アルドリン、エンドリンなどのドリン系農薬やヘプタクロルの濃度の点で、キュウリやカボチャなどのウリ類の栽培に適した土壌であるか否か、簡便に精度よく鑑別できる方法を提供することを目的とする。
本発明は、さらには、収穫するウリ類の所定部位、特には果実中の塩素化シクロジエン系農薬、特にはディルドリン、アルドリン、エンドリンなどのドリン系農薬やヘプタクロルの残留基準値の超過を未然に防ぐために、栽培前にウリ類の所定部位、特には果実中の該農薬濃度を予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、
「[1] 塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌から含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析することを特徴とする、塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌中の塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法。
[2] 含水メタノールの含水量が15〜75容量%であることを特徴とする、[1]に記載の塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法。
[3] 塩素化シクロジエン系農薬がディルドリン、アルドリン、エンドリン又はヘプタクロルであることを特徴とする、[1]に記載の塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法。
[4] 塩素化シクロジエン系農薬の抽出は、容器中で塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌と含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)をスラリー状態で撹拌又は振とうすることにより;抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析は、撹拌又は振とうしたスラリーから液状物を分離し、分離した液状物中の塩素化シクロジエン系農薬の定量分析によることを特徴とする、[1]に記載の塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法。」により達成される。
【0012】
上記目的は、
[5] 含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)からなることを特徴とする、塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌中の塩素化シクロジエン系農薬の抽出剤。
[6] 含水メタノールの含水量が15〜75容量%であることを特徴とする、[5]に記載の塩素化シクロジエン系農薬の抽出剤。
[7] 塩素化シクロジエン系農薬がディルドリン、アルドリン、エンドリン又はヘプタクロルであることを特徴とする、[5]に記載の塩素化シクロジエン系農薬の抽出剤。」により達成される。
【0013】
上記目的は、
[8] ウリ類の栽培を予定している土壌から含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値から該土壌中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出し、該濃度により該土壌のウリ類栽培適正を鑑別することを特徴とする、土壌のウリ類栽培適正鑑別方法。
[9] ウリ類がキュウリ又はカボチャであり、含水メタノールの含水量が15〜75容量%であり、塩素化シクロジエン系農薬がディルドリン、アルドリン、エンドリン又はヘプタクロルであることを特徴とする、[8]に記載の土壌のウリ類栽培適正鑑別方法。」により達成される。
【0014】
上記目的は、さらに、
[10] 下記の第1工程、第2工程及び第3工程からなることを特徴とする、収穫するウリ類中の塩素化シクロジエン系農薬濃度の予測方法。
第1工程:種々の濃度で塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌から、含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値から該土壌中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出する。
第2工程:
前記の種々の濃度で塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌で所定のウリ類を栽培し、収穫したウリ類の所定部位から溶剤により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値からウリ類の所定部位中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出することにより、土壌中の塩素化シクロジエン系農薬濃度と収穫したウリ類の所定部位中の塩素化シクロジエン系農薬濃度との関係式を作成する。
第3工程:ウリ類の栽培を予定している土壌から含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値から該土壌中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出し、該濃度を上記関係式に当てはめることにより、収穫するウリ類の所定部位中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を予測する。
[11] ウリ類がキュウリ又はカボチャであり、含水メタノールの含水量が15〜75容量%であり、所定部位が果実であり、塩素化シクロジエン系農薬がディルドリン、アルドリン、エンドリン又はヘプタクロルであることを特徴とする、[10]に記載の収穫するウリ類中の塩素化シクロジエン系農薬濃度の予測方法。
[12] 所定部位が果実であり、果実の代わりに幼植物の葉茎部から溶剤により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値から果実中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出ないし推定することを特徴とする、[10]又は[11]に記載の収穫するウリ類中の塩素化シクロジエン系農薬濃度の予測方法。」により達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る土壌中の塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法によると、種々の土壌中に残留している塩素化シクロジエン系農薬、特にはディルドリン、アルドリン、エンドリンなどのドリン系農薬やヘプタクロルについて、ウリ類の所定部位、特には果実への吸収を反映する量を、精度よく抽出し、定量することができる。
本発明に係る土壌中の塩素化シクロジエン系農薬の抽出剤は、種々の土壌中に残留している塩素化シクロジエン系農薬、特にはディルドリン、アルドリン、エンドリンなどのドリン系農薬やヘプタクロルについて、ウリ類の所定部位、特には果実への吸収を反映する量を、精度よく抽出することができる。
【0016】
本発明に係る土壌のウリ類栽培適正鑑別方法によると、塩素化シクロジエン系農薬、特にはディルドリン、アルドリン、エンドリンなどのドリン系農薬やヘプタクロルの濃度の点で、キュウリやカボチャなどのウリ類の栽培に適した土壌であるか否か、簡便に精度よく鑑別することができる。
本発明に係る収穫するウリ類の所定部位、特には果実中の塩素化シクロジエン系農薬濃度の予測方法によると、特殊な分析機器・器具を必要としないため、農業試験場といった残留農薬の分析を行うことが出来る機関であれば、キュウリやカボチャなどのウリ類の所定部位、特には果実中の塩素化シクロジエン系農薬、特にはディルドリン、アルドリン、エンドリンなどのドリン系農薬やヘプタクロルの濃度の予測が可能となる。その結果、収穫したウリ類の該農薬残留基準値の超過を未然に防ぐことにより、産地全体の出荷停止を回避することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る土壌中の塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法は、塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌から含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析することを特徴とする。
本発明に係る土壌中の塩素化シクロジエン系農薬の抽出剤は、含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)からなることを特徴とする。
【0018】
塩素化シクロジエン系農薬として、ディルドリン(dieldrin)、アルドリン(aldrin)、エンドリン(endrin)、クロルデン(chlordane)、ヘプタクロル(heptachlor)が例示される。表1に、上記塩素化シクロジエン系農薬の正式名称、外観、融点を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
土壌中の塩素化シクロジエン系農薬含有量は、過去に塩素化シクロジエン系農薬を散布した土壌中の含有量(例えば、0.01〜1.0重量ppm)が一般的であるが、その下限値より少なくても、上限値より多くてもよい。
【0021】
対象となる土壌は、過去に塩素化シクロジエン系農薬を散布した土壌であれば特に限定されない。過去に塩素化シクロジエン系農薬を散布したことがあれば、農作物を現に栽培している土壌、休耕している土壌、農作物を栽培したことがない土壌のいずれでもよい。
有機質含有量の目安となる炭素含有量は特に限定されない。炭素含有量範囲は0.1〜10重量%が例示されるが、この下限値より小さくても、この上限値より大きくてもよい。
【0022】
土壌中の塩素化シクロジエン系農薬を抽出するための含水メタノールは、ウリ類の果実への吸収を反映する量を精度よく抽出できるという点で、含水量は90容量%以下であり、好ましくは15〜75容量%であり、より好ましくは45〜55容量%である。含水量は50容量%が最良である。
かかる含水メタノールは、純粋なメタノールを水で希釈することにより容易に調製することができる。そのための水は清浄な水であればよく、純水、蒸留水,イオン交換水が例示される。
【0023】
塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌から含水メタノール(ただし、水含有量は90容量%以下である)により塩素化シクロジエン系農薬を抽出する方法は、容器に塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌と含水メタノール(ただし、水含有量は90容量%以下である)を入れて振とう或いは撹拌するという方法が、最も一般的であるが、密栓してドラムローラにかけてもよい。
【0024】
その際の塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌と、含水メタノール(ただし、水含有量は90容量%以下である)との容量比は、混合物をスラリー状態にできるような比率であればよい。例えば、「塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌」対「含水メタノール(ただし、水含有量は90容量%以下である)」が、1対3〜10である。
【0025】
その際の温度は常温(例えば、5℃、15℃、25℃、35℃)でよいが、メタノールの沸点より低い温度(例えば、40〜50℃)に加熱してもよい。抽出に要する時間は、塩素化シクロジエン系農薬の抽出限界に達すればよく、特に限定されない。常温では、1時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましく、30時間かければ十分である。
【0026】
塩素化シクロジエン系農薬の抽出操作後、塩素化シクロジエン系農薬が溶解している含水メタノールを土壌から分離する。分離方法として、ろ過、遠心分離、デカントが例示される。
【0027】
塩素化シクロジエン系農薬が溶解している含水メタノールは、土壌中の他の有機成分や無機成分を含有しているので、加熱下での減圧や温風吹きつけなどにより、濃縮又は乾固し、塩素化シクロジエン系農薬の溶解力が大きい有機溶剤で抽出することが好ましい。
例えば、減圧濃縮物に塩化ナトリウム水溶液とヘキサンを加えて振とうし、ヘキサン層を分取して減圧濃縮又は乾固し、残留物をヘキサンに溶かす。
【0028】
かくして土壌中から抽出された塩素化シクロジエン系農薬は、定法により定量分析する。
定量分析方法は、抽出物を精製して、ガスクロマトグラフ電子捕獲型検出器分析装置(略称GC-ECD)やガスクロマトグラフ質量分析装置(略称GC-MS)に供するという方法が好ましい。具体的には下記の方法がある。
【0029】
精製法:
内径15mm,長さ300mmのクロマトグラフ管に,カラムクロマトグラフィー用合成ケイ酸マグネシウム10gをn-ヘキサンに懸濁したもの,次いでその上に無水硫酸ナトリウム約5gを入れ,カラムの上端に少量のn-ヘキサンが残る程度までn-ヘキサンを流出させる。このカラムに抽出法で得られた溶液2mlを注入した後,エーテル及びn-ヘキサンの混液(3:17)200mlを注入し,溶出液を擦り合わせ減圧濃縮器中に採り,40℃以下でエーテル及びn-ヘキサンを除去する。この残留物にn-ヘキサンを加えて溶かし,正確に2mlとして,これを試験溶液とする。
【0030】
[ガスクロマトグラフィーによる定量分析]
(1) ガスクロマトグラフ電子捕獲型検出器分析装置による定量分析
操作法:
試験溶液所定量を採取し、ガスクロマトグラフ電子捕獲型検出器分析装置の試料注入口に注入し、次の操作条件1又は操作条件2、あるいは操作条件1及び操作条件2で操作して塩素化シクロジエン系農薬のガスクロマトグラムを得る。
【0031】
操作条件1
カラム:内径0.25mm,長さ10〜30mのケイ酸ガラス製の細管に,ガスクロマトグラフィー用メチルフェニルポリシロキサン(メチル基95モル%、フェニル基5モル%)を0.25μmの厚さでコーティングしたものを用いる。
カラム温度:70℃で1分間保持し,その後毎分25℃で昇温する。175℃に到達後,毎分10℃で昇温し,300℃に到達後5分間保持する。
試験溶液注入口温度:230℃、検出器:300℃で操作する。
ガス流量:キャリヤーガスとしてヘリウムを用いる。例えばディルドリン、アルドリン又はエンドリンが約10分で流出する流速に調整する。
【0032】
操作条件2
カラム:内径0.25m,長さ10〜30mのケイ酸ガラス製の細管に,ガスクロマトグラフィー用メチルフェニルポリシロキサン(メチル基50モル%、フェニル基50モル%)を0.25μmの厚さでコーティングしたものを用いる。
カラム温度:80℃で2分間保持し,その後毎分30℃で昇温する。190℃に到達後,毎分3.6℃で昇温し,250℃に到達後8分間保持する。
試験溶液注入口温度:230℃、検出器:300℃で操作する。
ガス流量:キャリヤーガスとしてヘリウムを用いる。例えばディルドリン、アルドリン又はエンドリンが約10分で流出する流速に調整する。
【0033】
上記の操作条件で得られたガスクロマトグラムについて,ピーク高法又はピーク面積法により塩素化シクロジエン系農薬の定量を行う。定量値を土壌量(但し、乾燥重量)で割って、塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出する。
【0034】
(2) ガスクロマトグラフ質量分析
前記試験溶液所定量を採取し、ガスクロマトグラフ質量分析装置の試料注入口に注入し、上記操作条件1、操作条件2と同様の条件(但し、検出器の温度は230℃である)で操作し、質量分離して塩素化シクロジエン系農薬のガスクロマトグラムを得る。
ガスクロマトグラフィー質量分析処理する場合のイオン化法としては、例えば電子イオン化法(EI法)、化学イオン化法(CI法)、負化学イオン化法(NCI法)等が挙げられ、電子イオン化法(EI法)が好ましい。
【0035】
上記で得られたガスクロマトグラムについて,ピーク高法又はピーク面積法により塩素化シクロジエン系農薬の定量を行う。定量値を土壌量(但し、乾燥重量)で割って、塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出する。
【0036】
本発明に係る土壌のウリ類栽培適正鑑別方法は、ウリ類の栽培を予定している土壌から含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値から該土壌中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出し、該濃度により該土壌のウリ類栽培適正を鑑別することを特徴とする。
【0037】
定量分析値が0であるか、極小であれば、その土壌はウリ類の栽培に適していると鑑別することができる。もっとも、下記の収穫するウリ類、特には果実中の塩素化シクロジエン系農薬濃度の予測を行い、予測値が食品中に残留する農薬の基準値(残留農薬基準値)以下であれば、その土壌はウリ類の栽培に適していると、より正確に鑑別することができる。そのために使用する含水メタノール(抽出剤)は、含水量が15〜75容量%であることが好ましく、45〜55容量%であることがより好ましい。この鑑別方法は、ウリ類のうちでもキュウリ、カボチャに適しており、塩素化シクロジエン系農薬のうちでもディルドリン、アルドリン、エンドリンなどのドリン類農薬、ヘプタクロルに適している。
【0038】
本発明に係る収穫するウリ類中の塩素化シクロジエン系農薬濃度の予測方法は、
下記の第1工程、第2工程及び第3工程からなることを特徴とする。
第1工程:種々の濃度で塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌から、含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値から該土壌中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出する。
第2工程:
前記の種々の濃度で塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌で所定のウリ類を栽培し、収穫したウリ類の所定部位、特には果実から溶剤により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値からウリ類の所定部位、特には果実中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出することにより、土壌中の塩素化シクロジエン系農薬濃度と収穫したウリ類の所定部位、特には果実中の塩素化シクロジエン系農薬濃度との関係式を作成する。
第3工程:ウリ類の栽培を予定している土壌から含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値から該土壌中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出し、該濃度を上記関係式に当てはめることにより、収穫するウリ類の所定部位、特には果実中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を予測する。
【0039】
上記鑑別方法及び予測方法を実施するためには、まず、塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌からの塩素化シクロジエン系農薬の抽出に供するための土壌で、キユウリ、カボチャなどのウリ類を栽培する。
そのためには、プランター又は陶器の鉢でキユウリ、カボチャなどのウリ類、特にはキュウリを栽培することが好ましい。害虫による食害や、降雨による塩素化シクロジエン系農薬流出を避けるために、空調されたビニールハウス又は温室内で栽培することが好ましい。こうした土壌にキユウリ、カボチャなどのウリ類、特にはキユウリを撒種して、果実が十分に結実するまで育てる。或いは、パーライトなどの清浄な土に撒種して育てたウリ類の苗をこうした土壌に移植して果実が十分に結実するまで育てる。
【0040】
結実した果実を数個採取して、塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、その含有量を定量分析する。
塩素化シクロジエン系農薬の抽出方法は、下記の方法が好ましいが、含有する塩素化シクロジエン系農薬を精度よく抽出できる方法であれば良く、限定されるものではない。
【0041】
果実約1kgを精密に量り,必要に応じ適量の純水を量って加え,細切均一化した後,検体20.0gに相当する量を量り採る。
これにアセトン100mlを加え,3分間細砕した後,ケイソウ土を1cmの厚さに敷いたろ紙を用いて摺り合わせ減圧濃縮器中に吸引ろ過する。ろ紙上の残留物を採り,アセトン50mlを加え,3分間細砕した後,上記と同様に操作して,ろ液をその減圧濃縮器中に合わせ,40℃以下で約30mlに濃縮する。
【0042】
これを、あらかじめ10%塩化ナトリウム水溶液100mlを入れた300mlの分液漏斗に移す。n-ヘキサン100mlを用いて上記の減圧濃縮器のナス型フラスコを洗い,洗液を上記の分液漏斗に合わせる。振とう機を用いて5分間激しく振り混ぜた後,静置し,n-ヘキサン層を300mlの三角フラスコに移す。水層にn-ヘキサン50mlを加え,上記と同様に操作して,n-ヘキサン層を上記の三角フラスコに合わせる。これに適量の無水硫酸ナトリウムを加え,時々振り混ぜながら15分間放置した後,摺り合わせ減圧濃縮器中にろ過する。次いでn-ヘキサン20mlを用いて三角フラスコを洗い,その洗液でろ紙上の残留物を洗う操作を2回繰り返す。両洗液をその減圧濃縮器中に合わせ,40℃以下でn-ヘキサンを除去する。この残留物にn-ヘキサンを加えて溶かし,正確に10mlとする。
【0043】
次いで、塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌から抽出した塩素化シクロジエン系農薬の定量分析方法と同様の方法で、果実中の塩素化シクロジエン系農薬量を定量分析する。
定量値を果実量で割って、果実中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出する。
ウリ類の果実が収穫できるまで月日を要するので、ウリ類の果実、特にはキュウリの果実の代わりに、幼植物、特にはキュウリの幼植物の葉茎部から溶剤により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値から果実、特にはキュウリの果実中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出ないし推定してもよい。後述したように、キュウリの果実中のディルドリン濃度は、キュウリ幼植物の葉茎部中のディルドリン濃度と同等であることが判明しているからである。
【0044】
次に、抽出剤ごとに、塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌から抽出した塩素化シクロジエン系農薬の濃度を横軸にプロットし、その土壌で栽培して採取したキュウリの果実から抽出した塩素化シクロジエン系農薬の濃度を縦軸にプロットして、関係式を作成する。
【0045】
次に、キュウリやカボチャなどのウリ類の栽培を予定している土壌を採取して、上記の方法で塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬量を定量分析して、分析値から土壌中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出する。塩素化シクロジエン系農薬濃度を前記関係式にあてはめると、その土壌でキュウリやカボチャなどのウリ類を栽培した時の、果実中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を予測することができる。
なお、ウリ類の種類や、同じキュウリやカボチャでも品種によって前記関係式が多少異なるので、キュウリやカボチャの品種毎に前記関係式を作製しておくことが好ましい。
なお、土壌から塩素化シクロジエン系農薬を抽出するために使用する含水メタノール(抽出剤)は、含水量が15〜75容量%であることが好ましく、45〜55容量%であることがより好ましい。この予測方法は、ウリ類のうちでもキュウリ、カボチャに適しており、塩素化シクロジエン系農薬のうちでもディルドリン、アルドリン、エンドリンなどのドリン類農薬、ヘプタクロルに適している。
【0046】
食品衛生法では、食品中に残留する農薬の基準値(残留農薬基準値)が定められている。特に、平成18年5月29日よりいわゆるポジティブリスト制度の導入により全ての農薬と作物の組み合わせに残留農薬基準値が定められた。
キュウリ(ガーキンを含む)については、アルドリン及びディルドリン:0.02ppm以下、エンドリン:N.D.、ヘプタクロル:0.03ppm以下である。
かぼちゃ(スカッシュを含む)については、アルドリン及びディルドリン:0.02ppm以下、エンドリン:0.05ppm以下、ヘプタクロル:0.03ppm以下である。
塩素化シクロジエン系農薬を吸収しやすいキュウリやカボチャなどのウリ類の残留農薬量は、告示試験法に基づいて分析される。
【0047】
食品衛生法で規定する残留農薬基準値は、上記どおりであるので、上記の予測値が上記基準値を下回っておれば、その土壌はキュウリやカボチャなどのウリ類を栽培するのに適した土壌ということができる。
すなわち、塩素化シクロジエン系農薬濃度の点で、キュウリやカボチャなどのウリ類の栽培に適した土壌であるか否か、簡便に精度よく鑑別することができる。
【実施例】
【0048】
本発明の土壌中の塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法、土壌中の塩素化シクロジエン系農薬の抽出剤、土壌の栽培適正鑑別方法、及び、収穫するウリ類の果実中の塩素化シクロジエン系農薬濃度の予測方法について、実施例と比較例を掲げる。なお、実施例と比較例中、含水メタノール(含水量90容量%、含水量75容量%、含水量50容量%、含水量25容量%)による抽出試験は実施例であり、純水(含水量100容量%)、純メタノール(含水量0容量%)、アセトンよる抽出試験は、比較例である。
【0049】
[実施例1、比較例1]
本実施例は、各種土壌中の残留ディルドリンの抽出・定量分析方法及びそのための抽出剤に関する。
[供試土壌の調製]
残留ディルドリンを含有する土壌(以下、ディルドリン残留土壌と称する。)として、褐色低地土(4点)、黒ボク土(3点)、砂丘未熟土(1点)、灰色台地土(1点)を種々の農地から採取した。これら土壌を風乾後、2mmのふるいを通して調製し供試土壌とした。
【0050】
[土壌中のディルドリンの抽出剤]
純メタノール(残留農薬分析用、純度は99.8%)(含水量0容量%、メタノール含有量100容量%)、含水量が90容量%の含水メタノール(メタノール含有量10容量%)、含水量が75容量%の含水メタノール(メタノール含有量25容量%)、含水量が50容量%の含水メタノール(メタノール含有量50容量%)、純水(含水量100容量%、メタノール含有量0容量%)及びアセトンを用意した。
なお、表7では、純メタノールは100%メタノール、含水量が50容量%の含水メタノールは50%メタノール、含水量が75容量%の含水メタノールは25%メタノール、含水量が90容量%の含水メタノールは10%メタノール、純水は0%メタノールと表示した。
【0051】
[土壌中のディルドリンの抽出方法]
(1)含水メタノール、純メタノール又は純水による抽出方法は次のとおりである。
ガラス製遠沈管45個を用意し、前記9種類の供試土壌各8グラムを投入した。これにより各供試土壌8グラムがはいった9個のガラス製遠沈管5セットを得た。
1セットの各供試土壌8グラム入りガラス製遠沈管9個それぞれに、同一の抽出剤40ml(固液比1:5)を投入し、密栓し、25℃の恒温槽内で24時間振とうした。次いで、ガラス製遠沈管内容物を3,000rpmで遠心分離した後、上澄み液を粗抽出液とした。
【0052】
この粗抽出液調製操作を前記5種類の抽出剤{含水メタノール(含水量90容量%、メタノール含有量10容量%)、含水メタノール(含水量75容量%、メタノール含有量25容量%)、含水メタノール(含水量50容量%、メタノール含有量50容量%)、純メタノール(含水量0容量%、メタノール含有量100容量%)、および純水(含水量100容量%、メタノール含有量0容量%)}について行った。
【0053】
上記粗抽出液調製を更に2回行って、同一供試土壌・同一抽出剤当たり3点の粗抽出液を調製した(ディルドリン濃度を3回の平均値とするため)。
【0054】
含水メタノール(含水量75容量%、メタノール含有量25容量%)、含水メタノール(含水量50容量%、メタノール含有量50容量%)、純メタノール(含水量0容量%、メタノール含有量100容量%)については、前記同様に各供試土壌と各抽出剤を投入したガラス製遠沈管を用意し、5℃あるいは45℃の恒温槽内で24時間振とうした。次いで、ガラス製遠沈管内容物を3,000rpmで遠心分離した後、上澄み液を粗抽出液とした。
上記粗抽出液調製を更に2回繰返して、同一供試土壌・同一抽出剤当たり3点の粗抽出液を調製した(ディルドリン濃度を3回の平均値とするため)。
【0055】
(2)アセトンによる抽出方法はソックスレー抽出であり、次のとおりである。
各供試土壌8グラムを円筒状ろ紙に入れてソックスレー抽出器にセットし、アセトンを入れ加熱して24時間還流し、次いで、アセトン抽出液を加熱減圧下で濃縮した。
【0056】
[抽出したディルドリンの定量分析]
内径15mm,長さ300mmのクロマトグラフ管に,カラムクロマトグラフィー用合成ケイ酸マグネシウム10gをn-ヘキサンに懸濁したもの,次いでその上に無水硫酸ナトリウム約5gを入れ,カラムの上端に少量のn-ヘキサンが残る程度までn-ヘキサンを流出させた。このカラムに上記抽出法で得られた粗抽出液2mlを注入した後,エーテル及びn-ヘキサンの混液(3:17)200mlを注入し,溶出液を擦り合わせ減圧濃縮器中に採り,40℃以下でエーテル及びn―ヘキサンを除去した。この残留物にn-ヘキサンを加えて溶かし,正確に2mlとして,これを試験溶液とした。
【0057】
上記試験溶液を2μL採取し、下記のガスクロマトグラフ質量分析装置の試料注入口に注入し、ガスクロマトグラフィー質量分析を行った。
機器:アジレントテクノロジー株式会社製ガスクロマトグラフ質量分析装置HP6890-5973N
カラム:ENV-8 (内径0.25mm、膜厚0.25μm、長さ25m)
キャリアガス(流速):ヘリウム(1mL/分)
注入口温度:250℃
昇温条件:140℃で1分保持した後、10℃/分で300℃まで昇温
イオン化法:電子イオン化法(EI法)
イオン化電圧:70ev
イオン源温度:250℃
【0058】
各供試土壌の炭素含有量は、NCアナライザーを用いて測定した。
すなわち、土壌試料0.1gを900℃に熱した反応管に入れ,空気中で2分間燃焼させ,完全燃焼させた。その結果、土壌試料中の炭素は全て二酸化炭素(CO2)に変換されたので、そのCO2量を測定した。CO2量から、炭素含有量を算出した。
【0059】
メタノール系抽出剤(含水メタノール、純メタノール)および純水による、前記9種類の土壌中のディルドリン濃度を表2に示した。アセトンによる前記9種類の土壌中のディルドリン濃度を表3に示した。前記9種類の土壌の炭素含有量(T-C%)を表3に示した。
【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
表2と表3のデータに基づき、前記9種類の土壌からのアセトンによるソックスレー抽出により得られたディルドリン濃度を100%とした場合の、振とう温度25℃で前記9種類の土壌からメタノール系抽出剤又は純水による抽出により得られたディルドリンの抽出率を算出し、表4に示した。
【0063】
【表4】

【0064】
また、メタノール系抽出剤又は純水による各種土壌中ディルドリンの抽出率と炭素含有量の関係を図1に示した。メタノール系抽出剤による各種土壌中ディルドリンの抽出率は、メタノール含有量が多いほど(含水量が少ないほど)、土壌の炭素含有量が少ないほど、高値である傾向であった。
【0065】
また、各供試土壌におけるメタノール系抽出剤又は純水による抽出により得られたディルドリンの抽出率とメタノール含有量との関係を図2に示した。メタノール含有量が多いほど(含水量が少ないほど)、抽出率は高くなった。
【0066】
さらに、表2と表3のデータに基づき、純水、含水メタノール又は純メタノールを抽出剤とする試料における土壌吸着平衡定数(LogKoc)を算出した。土壌吸着平衡定数(LogKoc)は式1で得られる。
【数1】


液相中濃度は、各供試土壌と各抽出剤の混合物の液相中のディルドリン濃度であり、純水、含水メタノール又は純メタノールで抽出したディルドリン濃度である。
固相中濃度は、各供試土壌と各抽出剤の混合物の固相中のディルドリン濃度である。アセトンでの抽出率を100%とすると、純水、含水メタノール又は純メタノール抽出における固相中濃度は、アセトンでの抽出量から純水、含水メタノール又は純メタノールでの抽出量を差し引いた値から算出することができる。
【0067】
表5に、純水、含水メタノール又は純メタノールを抽出剤とする試料について算出した土壌吸着平衡定数(LogKoc)を示した。また、純水、含水メタノール又は純メタノールを抽出剤とする試料の土壌吸着平衡定数(LogKoc)と炭素含有量の関係を図3に示した。
純水の土壌吸着平衡定数(LogKoc)は4.44〜4.79であり、下記のマッケイらによる文献のp.418-419に記載された値(3.87〜5.08)の範囲内であった。
マッケイ デー,シュー ダブリュ ワイ,マ ケーシー、「有機化合物の物理化学特性と環境中の運命の図解入りハンドブック,第5巻 農薬」、アメリカ合衆国ニューヨーク、ルイス パブリッシャー、1997年発行(Illustrated Handbook of Physical-Chemical properties and Environmental Fate for Organic Chemicals VoL.5 Pesticide Chemicals, Mackay D., Shiu W.Y. and Ma K.C., 1997, Lewis Publishers, N.Y., US)
【0068】
【表5】

【0069】
すなわち、土壌中ディルドリンの抽出を正しく行うことが出来ていることが判明した。
図3によると、純水、含水メタノール、純メタノールにおける土壌吸着平衡定数(LogKoc)は、各含水量で炭素含有量(T-C)の大小にかかわらずほぼ同じ値であることから、24時間振とうで抽出溶媒−土壌間の平衡状態にあることが分かった。
【0070】
参考までに、各種土壌の含水メタノール(含水量50容量%、メタノール含有量50容量%)による抽出(振とう温度25℃)において、振とう時間を変えた場合のディルドリンの抽出率変化を示す図4を後記した。
【0071】
次に、土壌中ディルドリンの抽出率に対する振とう温度の影響について検討した。表2のデータに基づき、振とう温度25℃における土壌中ディルドリンの抽出率を100%としたときの、振とう温度5℃、振とう温度45℃における土壌中ディルドリンの抽出率を算出した。該検討は、含水メタノール(含水量75容量%、メタノール含有量25容量%)、含水メタノール(含水量50容量%、メタノール含有量50容量%)、純メタノール(含水量0容量%、メタノール含有量100容量%)を抽出剤とする抽出液について行った。振とう温度25℃における土壌中ディルドリンの抽出率を100%としたときの、振とう温度5℃、振とう温度45℃における土壌中ディルドリンの抽出率を、図5、図6および図7に示した。
【0072】
図5が含水メタノール(含水量75容量%、メタノール含有量25容量%)の場合、図6が含水メタノール(含水量50容量%、メタノール含有量50容量%)の場合、図7が純メタノール(含水量0容量%、メタノール含有量100容量%)の場合である。土壌中ディルドリンの抽出率に対する温度の影響は、土壌の炭素含量(T-C)の大小にかかわらずメタノールの含有量が多いほど少ない傾向にあった。
【0073】
[実施例2]
本実施例は、土壌のキュウリ栽培適正鑑別方法、および収穫するキュウリ幼植物の茎葉部、ひいては果実中のディルドリン濃度を予測する方法に関する。
【0074】
[キュウリの栽培条件]
キュウリ(品種:シャープ1)を前記各供試土壌で以下の条件にて栽培した。パーライトに種蒔して育苗したキュウリ(品種:シャープ1)を、炭素含有量とディルドリン含有量が異なる各供試土壌に定植し、グロースチャンバー内(25℃、昼14時間−夜10時間)で21日間生育した。
【0075】
[キュウリ幼植物の葉茎部中のディルドリンの抽出]
21日間生育したキュウリ幼植物の葉茎部を採取し、その重量を測定し、アセトンとともにホモジナナイズした。具体的には葉茎部30gを200mLのアセトンとともにホモジナイザー(ポリトロンPT3100,KINEMATICA社製)で5分間抽出した。
【0076】
上記抽出液20mLに、塩化ナトリウム水溶液100mlとn-ヘキサン50ml(液比100:50)を加えて振とうし、n-ヘキサン層を分取して減圧濃縮又は乾固し、残留物をn-ヘキサンに溶かした。このn-ヘキサン溶液について、土壌から抽出したディルドリンの定量分析と同様にガスクロマトグラフィー質量分析を行ってディルドリン濃度を定量した。
キュウリ幼植物の葉茎部から抽出したディルドリン濃度を表6に示した。
【0077】
【表6】

【0078】
キュウリの果実ではなく、21日間生育したキュウリ幼植物の葉茎部中のディルドリンを抽出したのは、果実を採取するのに比べ生育日数が短いので試験日数が短くてすむことと、キュウリの果実中のディルドリン濃度は、21日間生育したキュウリ幼植物の葉茎部中のディルドリン濃度と同等であることを、参考例1に示す通り確認しているからである。
【0079】
[参考例1]
本発明者らが執筆した非特許文献1の第238頁のFig.2のNon-graftedのSharp-1(カボチャ接木なしで生育したキュウリSharp-1)では、Aは果実中のディルドリン濃度45ug/kg(湿重あたり)であり、Eは茎葉部中のディルドリン濃度400ug/kg(乾重あたり)である。葉茎部の水分含量は90%程度なので、Eを1/9倍すると,44ug/kgとなり、果実中のディルドリン濃度と同等である。
Bは果実中のディルドリン濃度45ug/kg(湿重あたり)であり、Fは茎葉部中のディルドリン濃度400ug/kg(乾重あたり)である。葉茎部の水分含量は90%程度なので、Fを1/9倍すると,44ug/kgとなり果実中のディルドリン濃度と同等である。
【0080】
実施例1の表2のメタノール系抽出剤(振とう温度25℃)、純水(振とう温度25℃)およびアセトンで抽出して得た土壌中ディルドリン濃度と表6のキュウリ幼植物の葉茎部から抽出したディルドリン濃度とを下記の通り回帰分析した。メタノール系抽出剤、純水およびアセトンごとに、振とう温度25℃で抽出して得た土壌中ディルドリン濃度を横軸にプロットし、その土壌で栽培したキュウリ幼植物の葉茎部から抽出したディルドリン濃度を縦軸にプロットしてグラフを作成した。そのグラフを図9に示した。
【0081】
該グラフから回帰式{y=ax+b(式中aは傾き、bは切片)}を得た結果、キュウリ幼植物の茎葉部中ディルドリン濃度は含水メタノール(含水量50容量%、メタノール含有量50容量%)から得られる土壌中ディルドリン濃度との相関が最も良いことが分かった。なお、前記回帰式の傾き、切片、RとP値を表7に示した。
実施例1の抽出率に対する温度の影響も考慮すると、キュウリ幼植物の茎葉部、ひいては果実中のディルドリン濃度を予測する方法として、土壌中のディルドリンの抽出溶媒として含水メタノール(含水量50容量%、メタノール含有量50容量%)を用いる方法が好ましいことが分かった。
土壌中のディルドリンを含水メタノール(含水量50容量%、メタノール含有量50容量%)より抽出した場合の、キュウリ幼植物の茎葉部中ディルドリン濃度と、土壌中ディルドリン濃度との相関グラフおよび回帰式を図10に示した。
【0082】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法は、土壌中に残存している塩素化シクロジエン系農薬のうちウリ類の所定部位、特には果実への吸収を反映する量を抽出し定量分析するのに有用である。下記の鑑別方法及び予測方法に使用するのに有用である。
本発明の抽出剤は、土壌中に残存している塩素化シクロジエン系農薬のうちウリ類の所定部位、特には果実への吸収を反映する量を抽出するのに有用である。下記の鑑別方法及び予測方法に使用するのに有用である。
本発明の土壌の栽培適正鑑別方法は、塩素化シクロジエン系農薬残存量の観点での土壌のウリ類栽培適正の鑑別に有用である。
本発明の塩素化シクロジエン系農薬濃度予測方法は、栽培を予定している土壌でウリ類を栽培した場合に収穫するウリ類の所定部位、特には果実中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を予測するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】各供試土壌について、メタノール系抽出剤又は純水による抽出により得られたディルドリン抽出率と土壌の炭素含有量の関係を示す。
【図2】各供試土壌について、メタノール系抽出剤又は純水による抽出により得られたディルドリン抽出率と抽出剤のメタノール含有量の関係を示す。
【図3】各供試土壌について、メタノール系抽出剤又は純水による抽出時の土壌吸着平衡常数と土壌の炭素含有量の関係を示す。
【図4】各供試土壌中のディルドリンを含水メタノール(含水量50容量%)により抽出した場合の、振とう時間とディルドリン抽出率の関係を示す。
【図5】各供試土壌中のディルドリンを含水メタノール(含水量75容量%)により抽出した場合の、振とう時の温度とディルドリン抽出率の関係を示す。
【図6】各供試土壌中のディルドリンを含水メタノール(含水量50容量%)により抽出した場合の、振とう時の温度とディルドリン抽出率の関係を示す。
【図7】各供試土壌中のディルドリンを純メタノール(含水量0量%)により抽出した場合の、振とう時の温度とディルドリン抽出率の関係を示す。
【図8】非特許文献1の第238頁のFig.2を示す。
【図9】25℃で抽出して得た土壌中ディルドリン濃度と、その土壌で栽培したキュウリ幼植物の葉茎部から抽出したディルドリン濃度の関係を示す。
【図10】土壌中のディルドリンを含水メタノール(含水量50容量%)より抽出した場合の、キュウリ幼植物の茎葉部中ディルドリン濃度と、土壌中ディルドリン濃度との相関グラフおよび回帰式を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌から含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析することを特徴とする、塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌中の塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法。
【請求項2】
含水メタノールの含水量が15〜75容量%であることを特徴とする、請求項1に記載の塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法。
【請求項3】
塩素化シクロジエン系農薬がディルドリン、アルドリン、エンドリン又はヘプタクロルであることを特徴とする、請求項1に記載の塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法。
【請求項4】
塩素化シクロジエン系農薬の抽出は、容器中で塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌と含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)をスラリー状態で撹拌又は振とうすることにより;抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析は、撹拌又は振とうしたスラリーから液状物を分離し、分離した液状物中の塩素化シクロジエン系農薬の定量分析によることを特徴とする、請求項1に記載の塩素化シクロジエン系農薬の抽出分析方法。
【請求項5】
含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)からなることを特徴とする、塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌中の塩素化シクロジエン系農薬の抽出剤。
【請求項6】
含水メタノールの含水量が15〜75容量%であることを特徴とする、請求項5に記載の塩素化シクロジエン系農薬の抽出剤。
【請求項7】
塩素化シクロジエン系農薬がディルドリン、アルドリン、エンドリン又はヘプタクロルであることを特徴とする、請求項5に記載の塩素化シクロジエン系農薬の抽出剤。
【請求項8】
ウリ類の栽培を予定している土壌から含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値から該土壌中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出し、該濃度により該土壌のウリ類栽培適正を鑑別することを特徴とする、土壌のウリ類栽培適正鑑別方法。
【請求項9】
ウリ類がキュウリ又はカボチャであり、含水メタノールの含水量が15〜75容量%であり、塩素化シクロジエン系農薬がディルドリン、アルドリン、エンドリン又はヘプタクロルであることを特徴とする、請求項8に記載の土壌のウリ類栽培適正鑑別方法。
【請求項10】
下記の第1工程、第2工程及び第3工程からなることを特徴とする、収穫するウリ類中の塩素化シクロジエン系農薬濃度の予測方法。
第1工程:種々の濃度で塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌から、含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値から該土壌中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出する。
第2工程:
前記の種々の濃度で塩素化シクロジエン系農薬を含有する土壌で所定のウリ類を栽培し、収穫したウリ類の所定部位から溶剤により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値からウリ類の所定部位中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出することにより、土壌中の塩素化シクロジエン系農薬濃度と収穫したウリ類の所定部位中の塩素化シクロジエン系農薬濃度との関係式を作成する。
第3工程:ウリ類の栽培を予定している土壌から含水メタノール(ただし、含水量は90容量%以下である)により塩素化シクロジエン系農薬を抽出し、抽出した塩素化シクロジエン系農薬を定量分析し、分析値から該土壌中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を算出し、該濃度を上記関係式に当てはめることにより、収穫するウリ類の所定部位中の塩素化シクロジエン系農薬濃度を予測する。
【請求項11】
ウリ類がキュウリ又はカボチャであり、含水メタノールの含水量が15〜75容量%であり、所定部位が果実であり、塩素化シクロジエン系農薬がディルドリン、アルドリン、エンドリン又はヘプタクロルであることを特徴とする、請求項10に記載の収穫するウリ類中の塩素化シクロジエン系農薬濃度の予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−38613(P2010−38613A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199462(P2008−199462)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【Fターム(参考)】