説明

土壌中の油分の分析方法

【課題】土壌中に含有する機械油等の油分を簡便で環境汚染に影響を及ぼすことがない手法で分析する。
【解決手段】土壌試料をエタノール等の水に溶解する低級アルコールと混合して土壌に含有する油分を低級アルコールに溶解させ、これをろ過したろ液に、炭酸水を添加することで低級アルコール−炭酸水の混和液から過飽和状態の炭酸ガスを発生させて前記混和液全体に亘る化学的、物理的な撹拌を行うことで溶液中での油分粒子の均一な分離を促進し、これによって析出した油分粒子の散乱状態を透光光度計を用いて測定し、油分の分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中に含有する機械油、軽油、重油、グリース、植物油等の各種油分の分析(検出)方法の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、土壌の油分汚染状況や汚染油分を浄化する場合の浄化状況を知りたい場合があり、このような場合、土壌中に含有する油分の分析をすることが必要になる。
このような土壌中に含有する油分を測定する手法として、炭素数5以下の脂肪族アルコールを土壌試料に加えて撹拌して土壌試料中の油分をアルコールに溶解させた後、水には溶解しないが油分は溶解する有機溶媒を加えて混合し、その後、水を加えて水−アルコールを主成分とする層と油分−有機溶媒とを主成分とする層とに分離させ、有機溶媒−油分とを主成分とする層に含まれる油分を定量的に分析するようにした技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−234631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のものは有機溶媒を必要にするが、この有機溶媒として二硫化炭素、n−ペンタン、テトラクロロエチレン、塩化メチレン、四塩化炭素等が例示されるが、これら有機溶剤のなかには、人の健康に対して悪影響を与える有害物質として指定され、揮発性有機溶剤のガス排出量の規制がなされているものが多く、作業環境の観点から採用には厳重な換気施設と回収施設が必要になるという問題がある。また、1987年に採択され、1989年に発効された「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」により、今後の使用が禁止される方向にある。
さらに油分の分析には、赤外分光光度計、ガスクロマトグラフィーのような実験室レベルの分析装置を用いるか、有機溶剤を蒸発させ、残った油分の重量を測定するようにしているが、前者は分析装置を持ち出すのが難しい試料採集場所での分析が難しいという問題があり、また後者は有機溶剤の蒸発を伴うため、前述した厳重な換気施設と回収施設が必要になるうえ、有機溶剤の蒸発に時間がかかり、作業性に問題がある。
そこで本発明の発明者は、土壌中の油分を低級アルコールに溶解させた後、ここに水を添加することで水−アルコールの混和液としてこの混和液中に油分粒子を析出させ、該混和液の透光度を測定することで油分の分析をすることを提唱し(特願2010−27130号)、これによって屋外において簡便に土壌中の油分の分析ができることになった。ところがこれらのものは、水を添加した後の振蕩条件で油分の析出にバラツキがあるという問題に気がついた。そしてこの振蕩は、低級アルコールに水を添加した後の人為的あるいは機械的な振蕩であって必ずしも一定でないことが要因であり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、土壌に含有する油分の分析方法であって、水に溶解する低級アルコールと土壌試料とを混合した後、該混合液をろ過したろ液に、炭酸水を添加して混合することで炭素ガスが発生した後の混合溶液の濁度を測定することにより油分の分析をするようにしたことを特徴とする土壌中の油分の分析方法である。
請求項2の発明は、塩を添加して炭酸ガスの発生を促進させることを特徴とする請求項1記載の土壌中の油分の分析方法である。
請求項3の発明は、棒状体で撹拌して炭酸ガスの発生を促進させることを特徴とする請求項1記載の土壌中の油分の分析方法である。
請求項4の発明は、加温することで炭酸ガスの発生を促進させることを特徴とする請求項1記載の土壌中の油分の分析方法である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、土壌中に含有する油分を簡便に分析するにあたり、炭酸水に過飽和状態で溶解している炭酸ガスが発生することになって水(炭酸水)−アルコール系全体での物理的、化学的な撹拌が効率よくできることになって油分の析出が迅速で確実になる。
請求項2、3、または4の発明とすることにより、炭酸ガスの発生が促進されて油分の析出が短時間で効率よく行われ、現場での分析作業がより容易化する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実験例1の測定結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明に用いられる水に対する混和度が高い低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、イソペンチルアルコールを例示することができ、これらから選択される1種類の低級アルコール、またはこれらから選択された2種以上の低級アルコールの混合物を用いることができる。
【0009】
土壌に含有して分析される油分としては、原油、ガソリン類、灯油、軽油、A重油、C重油、グリース、植物油、合成油、機械油、ひまし油等の油分の単独または混合物、さらにはこれら油分が酸化分解したもの、変質したもの等、前記低級アルコールに溶解する油分であればいずれの油分の分析をすることができる。
【0010】
本発明においては、油分を含有すると想定される土壌についての油分の分析をすることになるが、土壌としての制限はなく、火山灰土、洪積土、崩積土、未熟土、沖積土、集積土、粘土、砂土等の各種の土壌を例示することができる。
【0011】
本発明において、土壌試料と低級アルコールとを混合した後、該混合液をろ過することになるが、該ろ過は、土壌と低級アルコールとの混合液の濁りを除去することを目的とするものであり、このため例えばメッシュが0.45μm(マイクロメータ)のろ紙を用いることができる。
また土壌試料と低級アルコールとは振蕩による混合だけでなく気体のバブリングによっても撹拌混合することができる。
【0012】
本発明において、前記ろ過したろ液に水を加えて低級アルコールと水とを混和させることにより、低級アルコールに溶解していた油分を微細粒子として析出させ、その濁度を測定することで土壌中の油分の分析をすることを基本とするものであるが、この場合の水と低級アルコールとの混和を確実にして油分を確実且つ迅速に析出されるため、水の代わりに炭酸水を添加し、該炭酸水に過飽和状態で溶解している炭酸ガス(二酸化炭素)を発生させ、この発生した炭酸ガスが微視的な気泡となって前記混和液の物理的、化学的撹拌を行い、これによって、迅速で効率の良い均質な物理的、化学的な混和液の撹拌がなされ、油分の析出精度が高くなると共に析出効率も向上する。このように低級アルコール−炭酸水の混和液から炭酸ガスを発生させるにあたり、混和した溶液を振蕩することでも炭酸ガスが発生するが、ガラス棒や金属棒のような棒体を入れて撹拌することで刺激をし、これによって炭酸ガスの発生を促すことができ、また、食塩のような粉体(個体)を入れることで炭酸ガスの発生を促すこともできる。特に食塩のような塩を入れた場合、水がイオンリッチの状態となって有機物である油分の析出が促進される。このような塩を添加する場合、水に総てが溶解して結晶が残らないものが好ましい。因みに、この塩は、炭酸水に溶解していても同様の効果がある。
【0013】
本発明に用いられる炭酸水としては市販のものが安価に販売されており、これを入手して用いることが好適であるが、通常知られる手法で炭酸水を作成したものを用いても良い。
【0014】
また、炭酸水は炭酸ガスが過飽和状態で水に溶解しているものであるから、加熱することで炭酸ガスの発生が促進され、そこで低級アルコール−炭酸水の混合用液をヘヤドライヤーや温水等で加温しても良く、そしてこのような加温をした場合には低級アルコールの蒸発もあり、これによって水成分の割合が炭酸水を添加したときよりも過多になって油分の析出が促進される。因みに加温した状態のままでは油分の低級アルコール−炭酸水系への溶解が考えられ、このため冷水等で冷却して油分を充分に析出させることが好ましい。
【0015】
また油分の分析は、析出した油分粒子が光を散乱することによりブランク(使用する低級アルコールに同様の条件でろ過処理したものに炭酸水を添加したもの)に対して透光度(吸光度)が低下するという散乱光の測定であり、波長が250〜800nm(ナノメートル)の紫外光線または可視光線から選択される任意の一波長でよく、例えば波長が700nmの可視光線とすることができる。含有する油分が多い場合には目視による定性的な測定もできるが、油分が微量な場合、さらには定量的な測定をするには分光光度計を用いた透光光度分析とすることができ、特に現場型のものであれば土壌採集した現場でも簡単に油分の分析をすることができる。
【0016】
以下、実験例を記すが、本発明は実験例に限定されないものであることは勿論である。
【0017】
<実験例1>
集積土の一つである黒泥土1g(グラム)に、市販の軽油を0.01、0.05、0.1、0.15、0.2mL(ミリリットル)ずつ添加した軽油含有黒泥土をそれぞれ作成し、これらのものにエチルアルコールを10mLずつ添加しよく振蕩して混合させる。しかる後、これらの混合液をメッシュが0.45μmのろ紙(例えばテフロン(登録商標)製)でそれぞれろ過する。ろ液は透明であり、このろ液に、このろ液に、15mLの市販の炭酸水(サントリーフーズ株式会社製「SUNTORY SODA」)を添加した後、1分間良く振蕩して混合させるが、この間、炭酸ガスが細かい気泡となって発生する。
炭酸水を添加してから5分間放置したものについて透光光度計を用いて波長700nmの可視光で透光度を測定した。その結果を図1のグラフ図に示す。尚、横軸は軽油の添加量、縦軸は測定された透光度である。透光度は添加量に反比例するが、直線的な変化をしており、このことから、本発明を実施した土壌含有油分の分析精度は高いことが確認される。
【0018】
<実験例2>
実験例1の黒泥土に軽油を0.05mL混合したものを実験例1と同様、エチルアルコールを添加し、ろ過処理後、実験例1と同様の炭酸水の15mLを添加して1分間良く振蕩して混合させる。その後、30秒間、1分間、2分間、3分間、10分間それぞれ放置後、実験例1と同様、透光度を測定した。この結果、放置時間が30秒間のものは透光度の低下が観測されたが、放置時間が1分間のものは透光度が一旦増大した。その後、2分間放置したものは透光度が低下し、3分間、実験例1の5分間、10分間放置したものは透光度がさらに低下したものの、これらのものは殆ど同じ透光度を示した。このことは30秒間の放置のものでは供給した炭酸ガスの細かい気泡が溶液中に残存していることで乱反射しこれが透光度に影響を与えたものと考えられる。
これに対し、1分間放置したものは溶液中で油脂粒子が発生途中であり、また3分間以上放置したものは、油脂粒子の発生が殆ど完了したものであると考えられる。
【0019】
<実験例3>
実験例1の黒泥土に軽油を0.05mL混合したものを実験例1と同様のエチルアルコール添加処理、ろ過処理したものに、炭酸水10mLと食塩(塩化ナトリウム)1.0gの粉末とを添加して1分間振蕩して混合させると混合直後から炭酸ガスの細かい気泡が良く発生する。
振蕩後、2分間放置したものについて透光光度計を用いて波長700nmの可視光で透光度を測定した。その結果、透光度の低下が確認され、油分である軽油の存在を分析することができた。
【0020】
<実験例4>
実験例1の黒泥土に軽油を0.05mL混合したものを実験例1と同様のエチルアルコール添加処理、ろ過処理したものに、前記炭酸水15mL添加し、30秒間良く振蕩して混合させ後、さらにガラス棒で30秒間良く掻き混ぜると炭酸ガスが細かい気泡となって良く発生する。
ガラス棒での掻き混ぜ後、2分間放置したものについて透光光度計を用いて波長700nmの可視光で透光度を測定した。その結果、透光度の低下が確認され、油分である軽油の存在を分析することができた。
【0021】
<実験例5>
実験例1の黒泥土に軽油を0.05mL混合したものを実験例1と同様のエチルアルコール添加処理、ろ過処理したものに、実験例1の炭酸水15mL添加する。このものについて市販のヘヤドライヤーで過熱する状態で1分間良く振蕩すると、炭酸ガスが細かい気泡となって良く発生する。
振蕩後、20℃の水浴に漬けた状態で2分間放置したものについて透光光度計を用いて波長700nmの可視光で透光度を測定した。その結果、透光度の低下が確認され、油分である軽油の存在を分析することができた。
【0022】
<実験例6>
機械油が含浸していると考えられる現場から採取した土壌試料の2gを、メチルアルコール:エチルアルコール:イソプロピルアルコールを1:2:3の容量割合で混合した混合アルコールの20mLに混合させよく振蕩する。このものを実験例1と同様のろ過処理をした後、実験例3と同様の炭酸水添加処理、食塩添加処理、および振蕩処理をする。振蕩処理後、2分間放置したものについて、現場型の透光光度計で同じく透光度の測定をした。透光度に明らかな低下が確認され、採取した土壌試料には機械油が含浸しているものと推定された。
【0023】
<実験例7>
C−重油が含浸していると考えられる現場から採取した土壌試料の2gをエチルアルコール:イソプロピルアルコールを1:1の容量割合で混合した混合アルコールの20mLに混合させよく振蕩する。このものを実験例1と同様のろ過処理、実験例3と同様の炭酸水添加処理、食塩添加処理、振蕩をした後、2分間放置したものについて、現場型の透光度計で同じく透光度の測定をした。透光度に明らかな低下が確認され、採取した土壌試料にはC−重油が含浸しているものと推定された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、土壌中に含有する機械油、軽油、重油、グリース、植物油等の各種油分の分析する分野に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌に含有する油分の分析方法であって、水に溶解する低級アルコールと土壌試料とを混合した後、該混合液をろ過したろ液に、炭酸水を添加して混合することで炭素ガスが発生した後の混合溶液の濁度を測定することにより油分の分析をするようにしたことを特徴とする土壌中の油分の分析方法。
【請求項2】
塩を添加して炭酸ガスの発生を促進させることを特徴とする請求項1記載の土壌中の油分の分析方法。
【請求項3】
棒状体で撹拌して炭酸ガスの発生を促進させることを特徴とする請求項1記載の土壌中の油分の分析方法。
【請求項4】
加温することで炭酸ガスの発生を促進させることを特徴とする請求項1記載の土壌中の油分の分析方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−252707(P2011−252707A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124484(P2010−124484)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】