説明

土壌中の石油系炭化水素含有量を測定する方法とこれに使用する測定装置

【課題】軽質留分から中重質留分まで幅広い石油系炭化水素成分を含む土壌に対して抽出液を使用することなく、且つ簡便に石油系炭化水素成分の含有量を測定する方法とその装置を提供する。
【解決手段】電気炉1a内に設けられたサンプル室2内にサンプル土壌を装填し、加熱処理して土壌中に含まれる石油系炭化水素成分を気化させ、更にサンプル室の先端部の送風路5aには酸素と窒素の混合ガスを送風して気化した炭化水素成分を酸化触媒層4が装填された反応室3に送り込み、完全燃焼させ、発生した二酸化炭素量を二酸化炭素測定部6で測定し、該二酸化炭素量より土壌中に含まれる石油系炭化水素成分の含有量を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、操作が簡便で、しかも環境に悪影響を与えないで土壌中の石油系炭化水素含有量を測定する方法とこれに使用する測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油系炭化水素とは、石油関連施設で扱っている石油製品に由来するものであり、ガソリン、灯油、軽油、A重油、C重油、潤滑油類(鉱油、合成油)、原油等を構成する炭化水素化合物類であるが、現在土地の用途変更などの際に土壌汚染調査の結果の報告が義務付けられており、その一環として土壌中の石油系炭化水素成分の含有量を調べることが多い。
【0003】
これまでの分析法としては、土壌中の石油系炭化水素成分をn−ヘキサンで抽出・分離し、n−ヘキサンを加熱により蒸発させ、残渣物の重量を測定する方法(n−ヘキサン抽出−重量法)、土壌中の石油系炭化水素成分を四塩化炭素にて抽出・分離し、四塩化炭素抽出液の赤外吸収分光分析(IR)を行ない成分含有量を測定する方法(四塩化炭素抽出−IR法)、土壌中の石油系炭化水素成分を二硫化炭素にて抽出・分離し、二硫化炭素抽出液をガスクロマトグラフィー(GC、検出装置FID)にて、分析し、チャートの面積比より成分含有量を測定する方法(二硫化炭素抽出−GC法)等が知られている。(石油汚染土壌の浄化に関する技術開発報告書 平成15年3月財団法人石油産業活性化センター発行)。また、土壌中の石油系炭化水素成分をテトラクロロエチレンにて抽出し、その抽出液のIR分析を行ない成分含有量を測定する方法(テトラクロロエチレン抽出−IR法)等が知られている。(特開2003-294617)
【0004】
また、土壌中の炭化水素簡易分析器として採取した土壌の炭化水素を抽出溶媒で抽出し、抽出液の濁度から炭化水素含有量を測定する器具が市販されている。
【0005】
なお、水中の油分を測定する方法として、水中の油分を抽出溶媒で抽出した後、油分抽出液から抽出溶媒を揮散させ、残留分を燃焼させることにより発生した二酸化炭素から油分を測定する方法が開示されている(特開2003-302316)。
【特許文献1】特開2003-294617、特開2003-302316、
【非特許文献1】石油汚染土壌の浄化に関する技術開発報告書 平成15年3月財団法人石油産業活性化センター発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの方法は何れも大気汚染或いは土壌汚染の原因となる抽出液を使用するものであり、したがってこれらの抽出液をそのまま排出すると、環境汚染の原因となる。
【0007】
また、これらの抽出液を無害化するには、多くの費用と労力を必要とする。
【0008】
これに対して抽出液を使用しない方法として、土壌中の軽質の炭化水素留分を加熱により蒸発させ、トラップし(パージアンドトラップ、PT)、それをGCにて分析し、チャートの面積比より油分量を測定する方法(PT−GC法)が知られている(前記非特許文献1)。
【0009】
しかし、この方法は土壌中に含まれる石油系炭化水素成分が軽質留分である場合に適用される方法であり、軽質留分以外に中重質留分を含む場合、中重質留分については前記した抽出液を使用する二硫化炭素抽出−GC法を適用する方法(PEC法)が採用され(前記非特許文献1)、したがって軽質留分から中重質留分まで幅広い石油系炭化水素成分を含む土壌に対しては従来法では何れも大気汚染或いは土壌汚染の原因となる有機溶媒による抽出操作が用いられていた。
【0010】
そこで、この発明は軽質留分から中重質留分まで幅広い石油系炭化水素成分を含む土壌に対して有機溶媒による抽出操作を必要とせず、且つ簡便に石油系炭化水素成分の含有量を測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、上記実情に鑑み、石油系炭化水素成分を含む土壌を加熱部のサンプル室内に装填して加熱処理して土壌中に含有される該成分を気化させると共に、サンプル室に酸素と窒素の混合ガスを導入し気化された該成分を反応室に送り込んで燃焼させ、これにより発生した二酸化炭素量を測定し、該二酸化炭素量より土壌中に含まれる該成分の含有量を測定することを特徴とする土壌中の石油系炭化水素成分含有量を測定する方法を提案するものである。
【0012】
即ち、この発明では石油系炭化水素成分を含む土壌を加熱部のサンプル室内に装填し加熱処理して土壌中に含有される該成分を気化させると共に、サンプル室に酸素と窒素の混合ガスを導入し気化された該成分を反応室に送り込む。
【0013】
反応室では、石油系炭化水素成分は完全燃焼させられ、構成する炭素は二酸化炭素となり、そこで二酸化炭素量を測定し、該二酸化炭素量より土壌中に含まれる該成分の含有量を下記式(1)に基づいて計測が行われる。
【0014】
+(m+n/4)O→mCO+n/2HO (1)
【0015】
なお、この発明において酸素と窒素の混合ガスとしては空気をすることもできるが、低濃度汚染の測定において空気を使用する場合には、空気中の二酸化炭素をバックグランドとしてその測定値を補正することが好ましい。
【0016】
更に、サンプル室内に装填した土壌の加熱温度としては、200〜550℃、好ましくは250〜450℃であり、200℃以下では土壌中に含まれる石油系炭化水素成分の気化が不十分であり、550℃以上では土壌中に含まれる炭酸塩類などが燃焼し、二酸化炭素を発生させるためである。
【0017】
また、測定対象とする石油系炭化水素成分の他に、この発明の測定方法により二酸化炭素を発生する植物等に由来する炭化水素成分を含む土壌を対象とする場合には、その測定値を同一エリアの石油系炭化水素成分を含まないと判断される部位の土壌における測定値をバックグランドとして補正することが好ましい。
【0018】
一方、この発明に係わる方法に使用する装置としては、石油系炭化水素成分を含む土壌を装填し、含有する石油系炭化水素成分を気化させる加熱部内に設けられたサンプル室と、内部に酸化触媒層を装填した石油系炭化水素成分の反応室と、上記サンプル室で気化した石油系炭化水素成分を反応室に送り込む送風路と、反応室で発生した二酸化炭素量を測定する二酸化炭素測定部よりなる土壌中の石油系炭化水素含有量測定装置を提供するものである。
【0019】
ここで、反応室内に装填される酸化触媒としては、白金、鉄、パラジウム、酸化チタン等の酸化触媒を例示できるが、これらに限定されるものでなく、石油系炭化水素成分を酸化できる触媒であれば何れでも使用できる。
【0020】
更に、酸化触媒は単体触媒でも担持触媒でもよく、また形態は粉末状、顆粒状、ハニカム状、繊維状など何れでもよい。
【0021】
また、二酸化炭素測定装置としては、ガステック検知器、GC−TCD、GC−HID、赤外吸収分析装置等を例示できるが、これらに限定されるものでなく、二酸化炭素量を検知できるものであれば何れの二酸化炭素測定装置も使用することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上要するに、この発明によればサンプル室で気化された土壌中の石油系炭化水素成分を反応室に送り込んで完全燃焼させた結果発生する二酸化炭素量より土壌中に含まれる石油系炭化水素成分含有量が測定されるため、極めて簡単な操作で土壌中に含まれる石油系炭化水素成分の含有量を測定することができる。
【0023】
また、この発明では抽出溶媒等による抽出液(揮発性有機溶媒)を使用しないため、二次汚染の虞がなく、更に使用された土壌は測定終了後に現場に戻すことができる。
【0024】
なお、これまで土壌中に含まれる石油系炭化水素成分の測定について説明したが、この発明は石油系炭化水素の測定に限らず、これと同類の土壌中に含まれる炭化水素成分の測定に適用できることは勿論である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
電気炉内に設けられたサンプル室内にサンプル土壌を装填し、加熱処理して土壌中に含まれる石油系炭化水素成分を気化させ、更にサンプル室の先端部の送風路には酸素と窒素の混合ガスを導入してサンプル室にて気化した石油系炭化水素成分を酸化触媒が装填された反応室に送り込み、完全燃焼させ、発生した二酸化炭素量を測定し、該二酸化炭素量より土壌中に含まれる該成分の含有量を計測する。
【実施例1】
【0026】
以下、この発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。勿論、本発明は実施例に限定されるものではない。図1はこの発明に係わる測定装置を示すものであり、1a、1bは電気炉、2は電気炉1a内に設けられたサンプル室、3は電気炉1b内に設けられた反応室、4は反応室3内に装填された酸化触媒層、5aはその後端部をサンプル室2の先端部に接続される送風路、5bはその先端部をサンプル室2の後端部に接続し、その後端部を反応室3の先端部に接続した送風路、6は反応室3内で発生した二酸化炭素量を測定する二酸化炭素測定装置である。
【0027】
なお、この実施例では酸化触媒層4を構成する酸化触媒としてはPt0.3wt%−アルミナ担持触媒が使用され、二酸化炭素測定装置6としてはガステック検知管が使用される。
【0028】
以上の装置を使用した土壌中の石油系炭化水素含有量の測定手順としては、例えば(1)サンプル室2内には秤量採取した土壌を装填し、(2)電気炉1aによりサンプル土壌を加熱し、同時に送風路5aより酸素と窒素の混合ガスを送り込んで土壌中に含まれる石油系炭化水素成分を気化させ、(3)気化された石油系炭化水素成分を上記混合ガスと共に送風路5bを通して反応室3に導入し、(4)反応室3内では気化成分は混合ガス中の酸素により酸化され完全燃焼して、二酸化炭素が発生し、(5)発生した二酸化炭素の量は二酸化炭素測定装置6で測定され、(6)式(1)を用いて測定された二酸化炭素量より土壌中の炭化水素含有量が計測される。
【0029】
なお、上記(2)の手順において電気炉1aは予め加熱しておいても、送風路5aより酸素と窒素の混合ガスを送り込むと同時に昇温してもよい。
【0030】
次に、土壌中の含油分気化実験と本発明による測定方法と測定装置を用いて含軽油汚染土壌中の総石油系炭化水素(TPH)濃度を測定した結果を以下に示す。
【0031】
(1)
土壌中の油分気化実験
図2は土壌中の油分気化実験装置の概略図であり、容積300mlの反応管内に石英ウールを充填しその中央に土壌サンプル10g(8ml)を装填し、反応管の一端から一定量の酸素と窒素の混合ガスを送り込むとともに電気炉により土壌サンプルをそれぞれの設定温度に昇温、保持、冷却して土壌サンプル中に含まれる石油系炭化水素成分を気化させる。気化終了後、それぞれの設定温度における土壌サンプル中の油分残存量を二硫化炭素抽出−GC法で測定しその単位はmg/Kgで表した。
【0032】
1.対象土壌:含軽油汚染土壌、含重質油汚染土壌
含軽油汚染土壌は、砂に製品軽油を添加して調製した。
含重質油汚染土壌は、砂に製品C重油を添加して調製した。
2.実験条件
使用する混合ガス ボンベガス(酸素と窒素の混合ガス、酸素濃度20.9vol%)
ガス流量 2000Nml/min.
土壌量に対する GHSV15000[hr−1](土壌8ml)
昇温時間 設定温度まで15min.
保持時間 10min.
冷却 10min.
3.実験結果
含軽油汚染土壌についての実験結果を図3に、含重質油汚染土壌についての実験結果を図4に示す。
【0033】
以上の実験条件において含軽油汚染土壌については含軽油分が150℃以上で完全に気化され、含重質油汚染土壌については含重質油分が200℃以上で完全に気化された。
【0034】
(2)本発明による測定方法と測定装置を用いた含軽油汚染土壌TPH測定
含軽油汚染土壌TPH測定は図1に示す装置を用いて次のように行った。即ち、容積3.7mlのサンプル室2内に石英ウールを充填してその中央に土壌サンプル1g(0.8ml)を装填し、電気炉1aによりサンプル土壌を所定温度に加熱し、同時に送風路5aより酸素と窒素の混合ガスを送り込んで土壌中に含まれる石油系炭化水素成分を気化させ、反応室3に送り込む、一方反応室3では酸化触媒層を装填し、電気炉1bにより酸化触媒層を所定温度に加熱し、気化成分を完全燃焼させて発生した二酸化炭素をスタート時(燃焼開始時)から15分間テドラーバックに捕集してその量を測定する。
【0035】
1.実験条件
使用する混合ガス ボンベガス(酸素と窒素の混合ガス、酸素濃度20.9vol%)
酸化触媒 Pt0.3wt%−アルミナ担持触媒
触媒粒径 0.71mm〜1mm
触媒層体積(容積) 4ml (触媒重量2.05g)
触媒温度 800℃(電気炉1bの実測値)
土壌サンプルの加熱温度 400℃(電気炉1aの実測値)
ガス流量 20Nml/min.
土壌サンプル量に対する GHSV 1500[hr−1](土壌0.8ml)
触媒量に対するGHSV300[hr―1
2.発生した二酸化炭素の量 1.002×10mg/Kg
3.実験結果
ガソリン、軽油、A重油のC/Hの測定値を平均化した値に基づいて上記(1)式のm(m=1)、n(n=1.8)を求め、この実験式に基づいて上記二酸化炭素の測定量よりTPH濃度を算出した(本発明法)。含軽油汚染土壌のTPH濃度、本発明法により測定した後の土壌のTPH濃度及び本発明法により測定したTPH濃度を図5に示す。
【0036】
図5において、含軽油汚染土壌は、軽油汚染土壌中のTPH濃度を二硫化炭素抽出−GC法で測定したTPH濃度の結果を示すものであり、本発明法測定後土壌は本発明法により測定した後の土壌を二硫化炭素抽出−GC法で測定したTPH濃度の結果を示すものであり、本発明法は本発明法により測定したTPH濃度の結果を示すものである。
【0037】
これによれば、土壌中の石油系炭化水素は気化し完全に排出された。本発明法により測定したTPH濃度は、含軽油汚染土壌を二硫化炭素抽出−GC法で測定したTPH濃度と一致した。
【0038】
即ち、この発明法によれば土壌中に含まれていた石油系炭化水素は気化され、燃焼によって二酸化炭素に変換され、従って、この二酸化炭素を測定することにより土壌中に含まれていたTPHを測定することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上要するに、この発明によれば操作が簡便で、しかも二次汚染の虞のない土壌中の石油系炭化水素成分含有量を測定する方法とこれに使用する装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明に係わる測定装置の概略説明図
【図2】実施例に用いた土壌中の含油分気化実験装置の概略図
【図3】気化実験における含軽油汚染土壌についての設定加熱温度とTPH濃度との関係を示す図
【図4】気化実験における含重質油汚染土壌についての設定加熱温度とTPH濃度との関係を示す図
【図5】含軽油汚染土壌について、二硫化炭素抽出−GC法で測定したTPH濃度と本発明法により測定したTPH濃度、及び本発明法による測定後の土壌を二硫化炭素抽出−GC法で測定したTPH濃度の関係を示す図
【符号の説明】
【0041】
1a、1bは電気炉
2はサンプル室
3は反応室
4は酸化触媒層
5a、5bは送風路
6は二酸化炭素測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油系炭化水素成分を含む土壌を加熱部のサンプル室内に装填し加熱処理して土壌中に含有される該成分を気化させると共に、サンプル室に酸素と窒素の混合ガスを導入し気化された該成分を反応室に送り込んで燃焼させ、これにより発生した二酸化炭素量を測定し、該二酸化炭素量より土壌中に含まれる該成分の含有量を測定することを特徴とする土壌中の石油系炭化水素成分含有量を測定する方法。
【請求項2】
酸素と窒素の混合ガスが空気である請求項1記載の方法。
【請求項3】
石油系炭化水素成分を含む土壌を装填し、含有する炭化水素成分を気化させる加熱部内に設けられたサンプル室と、内部に酸化触媒層を装填した炭化水素成分の反応室と、上記サンプル室で気化した石油系炭化水素成分を反応室に送り込む送風路と、反応室で発生した二酸化炭素量を測定する二酸化炭素測定装置よりなる土壌中の石油系炭化水素含有量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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