説明

土壌固化材

【課題】六価クロムの溶出を抑えつつ、従来に比べてより低アルカリでありながら、リサイクル成分の配合を多くできる土壌固化材を提供する。
【解決手段】本発明の土壌固化材は、高炉セメント、ペーパースラッジ灰、廃石膏(廃棄石膏ボードから採取)、及び、硫酸第一鉄、を含有する。また、高炉セメントを50質量部とした場合に、ペーパースラッジ灰は25〜35質量部、廃石膏は15〜30質量部、硫酸第一鉄は1〜2質量部、とすることができる。加えて、軽焼マグネシアを含有できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌固化材に関し、更に詳しくは、廃石膏を利用した土壌固化材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物をリサイクル利用する試みが各分野において進められており、土壌改良の分野においては、建築解体等に伴い排出される石膏ボードから採取される廃石膏と、製紙工場等から排出されるペーパースラッジの焼却灰であるペーパースラッジ灰と、をセメント系土壌改良材に配合する技術が注目されている。これら2種が配合されたセメント系土壌改良材では、セメントの水和反応の際に、廃石膏とペーパースラッジ灰とが作用してエトリンガイトが形成される。エトリンガイトが形成されることで、土壌中の水分がその水和水として取り込まれて土壌の水分量を低下させるとともに、土壌を固化できる。この廃石膏とペーパースラッジ灰とを併用したセメント系土壌改良材としては、下記特許文献1及び特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−185220号公報
【特許文献2】特開2005−344031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1及び上記特許文献2のいずれの技術も、ポルトランドセメントをセメント成分として用いるものであって、六価クロムの溶出量を十分に小さく保ったまま、廃石膏を10質量%を超えて配合することが困難であるという問題がある。また、ポルトランドセメントの配合が多いために、強アルカリ性に傾きがちであり、より低いpHでありながら、六価クロムの溶出を抑えることができ、廃石膏及びペーパースラッジ灰等のリサイクル成分の配合割合をより大きくした、環境特性に優れた土壌固化材が求められている。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、六価クロムの溶出を抑えつつ、従来に比べてより低アルカリでありながら、リサイクル成分の配合を多くできる土壌固化材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の土壌固化材は、高炉セメント、ペーパースラッジ灰、廃石膏、及び、硫酸第一鉄、を含有することを要旨とする。
請求項2に記載の土壌固化材は、請求項1において、前記高炉セメントを50質量部とした場合に、前記ペーパースラッジ灰が25〜35質量部、前記廃石膏が15〜30質量部、前記硫酸第一鉄が1〜2質量部であることを要旨とする。
請求項3に記載の土壌固化材は、請求項1又は2において、更に、軽焼マグネシアを含有することを要旨とする。
請求項4に記載の土壌固化材は、請求項1乃至3のうちのいずれかに、前記高炉セメントが、B種の高炉セメントであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の土壌固化材によれば、高炉スラグ、ペーパースラッジ灰及び廃石膏という3種もの廃棄物を有効に活用することができ、リサイクル成分の配合割合の高い土壌固化材とすることができる。更に、六価クロムの溶出を抑えつつ、従来に比べてより低アルカリとすることができる。即ち、対環境特性に優れた土壌固化材とすることができる。
高炉セメントを50質量部とした場合に、ペーパースラッジ灰が25〜35質量部、廃石膏が15〜30質量部、硫酸第一鉄が1〜2質量部である場合には、特にペーパースラッジ灰及び廃石膏の配合割合が高く、リサイクル成分の割合が大きい土壌固化材とすることができる。即ち、優れた対環境性能を得ることができる。
更に、軽焼マグネシアを含有する場合には、六価クロムの溶出を抑えつつ、更に、ペーパースラッジ灰にフッ素が含有される場合であっても、そのフッ素の溶出を抑制することができる。
高炉セメントがB種の高炉セメントである場合には、ペーパースラッジ灰及び廃石膏の配合割合を高くできるとともに、高炉スラグ量の多い高炉セメントを利用することとなり、更にリサイクル成分の割合が大きい土壌固化材とすることができる。即ち、優れた対環境性能を有する土壌固化材とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の土壌固化材は、(1)高炉セメント、(2)ペーパースラッジ灰、(3)廃石膏、及び、(4)硫酸第一鉄、を含有することを特徴とする。
【0008】
上記「(1)高炉セメント」は、高炉スラグが配合されたセメントである。この高炉セメントは、高炉スラグによる潜在水硬性が発現され、ポルトランドセメントに比べて、強度特性、化学的耐久性及び水密性に優れた硬化組織(土壌中の土粒子が団粒化を促進する組織)を得ることができる。本発明に用いる高炉セメントの種類は特に限定されず、高炉セメント全体を100質量%とした場合に、高炉スラグの配合割合は5〜70質量%とすることができるが、なかでも、30〜70質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることがより好ましい。高炉スラグの割合が30質量%以上(更には40質量%以上)であることによってアルカリシリカ反応が抑制されて特に耐久性に優れた硬化組織を得ることができる。この高炉セメントとしては、具体的には、B種の高炉セメント(高炉スラグ30〜60質量%)又はC種(高炉スラグ60〜70質量%)の高炉セメントであることが好ましく、なかでも、B種の高炉セメントがより好ましい。
【0009】
上記「(2)ペーパースラッジ灰」は、ペーパースラッジの焼却灰である。ペーパースラッジは、製紙過程における主として古紙再生を行う際に発生した汚泥であり、短繊維、顔料及びタルク等が含まれる。このペーパースラッジを焼却した残渣がペーパースラッジ灰である。ペーパースラッジ灰は、ケイ素系成分(特にSiO)、アルミニウム系成分(特にAl)、カルシウム系成分(特にCaO)を多く含む。そして、ペーパースラッジ灰は、後述の廃石膏とともに水和反応によって、結晶水量が多いエトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HO)を形成できる。このため、水分量の多い土中においても土粒子の団粒化を促進しつつ、土中の水分をエトリンガイトの結晶水として取り込み、土中水分量を低下させて、土壌を高強度化することができる。
【0010】
本発明で用いるペーパースラッジ灰は、どのようなペーパースラッジ灰であってよいが、ペーパースラッジ灰にはフッ素が溶出されるものと、フッ素の溶出が実質的に無いものとがある。このうち、フッ素を溶出する性質を有するペーパースラッジ灰を用いる場合には、「(5)軽焼マグネシア」を本発明の土壌固化材に配合することが好ましい。
【0011】
この軽焼マグネシアは、炭酸マグネシウム系鉱物や水酸化マグネシウム等を仮焼(例えば、600〜900℃で加熱)して得られる成分であり、酸化マグネシウムを含む(通常、40〜85質量%、100質量%であってもよい)。軽焼マグネシアを配合することで、これを配合しない場合に比べて六価クロムの溶出をより高度に抑制するとともに、フッ素の溶出を同時に抑制できる。更に、軽焼マグネシアを配合した場合には、軽焼マグネシア自体も硬化特性を発現できる。即ち、水和反応によって炭酸マグネシウムへと変化するとともにポラゾン反応等によって土壌成分と硬化組織を形成できる。尚、本発明で用いる軽焼マグネシアは、それ自体が廃棄物であってよい。例えば、排煙脱硫に利用された廃軽焼マグネシア等を用いることができる。
【0012】
また、軽焼マグネシアに換えて、ドロマイト又はその加工品(軽焼ドロマイト、ドロマイトクリカーなど)を用いることもできる。軽焼ドロマイトは、ドロマイトを仮焼(例えば、1500〜1800℃)して得られる成分であり、また、ドロマイトクリンカーもドロマイトを仮焼(例えば、1300〜1450℃)して得られる成分であり、酸化マグネシウムを含む。軽焼ドロマイトも軽焼マグネシアと同様に作用させることができ、六価クロムの溶出をより高度に抑制するとともに、フッ素の溶出を同時に抑制できる。更に、ポラゾン反応等を伴って硬化特性を発現させることができる。また、本発明でドロマイト又はその加工品を用いる場合は、それ自体が廃棄物であってよい。
【0013】
上記「(3)廃石膏」は、石膏製品の廃棄物から採取された石膏(硫酸カルシウム・二水和物)や、その石膏の焼成物(硫酸カルシウム・半水和物)である。具体的には、廃石膏ボードから採取された石膏、各種石膏製品及びその製造過程で生じる廃棄された石膏、更には、これらの石膏の焼成物等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。本発明の土壌固化材では、石膏の配合割合を従来に比べて高くすることができるために、高炉セメントによる収縮挙動を抑制することができる。
【0014】
上記「(4)硫酸第一鉄」は、アルカリ環境下においても還元剤として機能され、クロムイオンが六価へ酸化されることを抑制して三価クロムとして安定化させることができる。本発明の土壌固化材においては、セメント成分を、セメント成分よりもアルカリ度の低い各リサイクル成分(高炉スラグ、ペーパースラッジ灰及び廃石膏)を利用することで、セメント成分の割合を抑え、本来的に含有されるクロム量を低減するとともに、アルカリ度を低く抑えることができる。これによって、硫酸第一鉄による還元作用を十分に発揮させることができ、六価クロムの溶出を著しく低く抑制できる。また、上記の通り、アルカリ度を低く抑えることができるために、本土壌固化材を用いて得られる改良土壌はpHの回復が早く(pH5.5〜8.5の中性域にまで回復する間での期間が短い)、得られた改良土壌において早期に植生回復を行うことができる。
【0015】
本発明に用いる硫酸第一鉄は、どのような水和状態のものであってよい。即ち、無水和物(FeSO)、一水和物(FeSO・HO)、四水和物(FeSO・HO)、五水和物(FeSO・5HO)、七水和物(FeSO・7HO)のいずれをも用いることができ、これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、本発明に用いる硫酸第一鉄は、高純度な硫酸第一鉄を用いてもよいが、いわゆる工業用の硫酸第一鉄(以下、単に「工業硫酸鉄」という)を用いてもよい。工業硫酸鉄とは製鉄過程等で排出される酸洗排水から回収される硫酸第一鉄を含む成分などである。尚、工業硫酸鉄を用いる場合、硫酸第一鉄の含有量は特に限定されないが、通常、45〜95質量%である。
【0016】
本発明において、(1)高炉セメント、(2)ペーパースラッジ灰、(3)廃石膏、及び、(4)硫酸第一鉄の含有割合は特に限定されないが、通常、本発明の土壌固化材全体を100質量%とした場合に、(1)高炉セメント、(2)ペーパースラッジ灰、(3)廃石膏、及び(4)硫酸第一鉄を合計で90〜100質量%含有するものである。
【0017】
更に、本発明において、(1)高炉セメント、(2)ペーパースラッジ灰、(3)廃石膏、及び、(4)硫酸第一鉄の配合割合は、特に限定されないが、(1)高炉セメントを50質量部とした場合に、(2)ペーパースラッジ灰が25〜35質量部、(3)廃石膏が15〜30質量部、(4)硫酸第一鉄(純度100%のFeSOとして換算した場合に)が1〜2質量部であることが好ましい。この配合量は、更に、(1)高炉セメントを50質量部とした場合に、(2)ペーパースラッジ灰が27〜32質量部、(3)廃石膏が17〜21質量部、(4)硫酸第一鉄(純度100%のFeSOとして換算した場合に)が1〜1.5質量部であることがより好ましい。
更に、前述のように(5)軽焼マグネシアが含有される場合、(1)高炉セメントを50質量部とした場合に(5)軽焼マグネシア(純度100%のMgOとして換算した場合に)が0.1〜1.5質量部であることが好ましく、0.2〜1.2質量部であることがより好ましく、0.3〜0.7質量部であることがより好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、この発明を実施例を用いて具体的に説明する。
[1]土壌固化材の調製
〈実施例1〉
(1)高炉セメント50質量部、(2)ペーパースラッジ灰(フッ素の溶出がない)30質量部、(3)廃石膏19質量部、(4)硫酸第一鉄(純度100%のFeSOとして換算した場合に)1.2質量部となるように、各成分を秤量のうえ混合を行い、実施例1の土壌固化材を得た。
【0019】
〈実施例2〉
(2)高炉セメント50質量部、(2)ペーパースラッジ灰(フッ素の溶出がある)30質量部、(3)廃石膏19質量部、(4)硫酸第一鉄(純度100%のFeSOとして換算した場合に)1.2質量部、(5)軽焼マグネシア(宇部興産株式会社製、品名「マグガードS」)1質量部となるように、各成分を秤量のうえ混合を行い、実施例2の土壌固化材を得た。
【0020】
[2]一軸圧縮試験
(1)一軸圧縮試験(実施例1の土壌固化材を使用)
補強土壌(含水比17.08%、湿潤密度2.134g/mの粘土)に対して、上記[1]で得られた実施例1の土壌固化材を50kg/mの割合、80kg/mの割合、110kg/mの割合、で混合(ソイルミキサーで十分に撹拌混合し、直径5cmモールドにて12回3層突き固め)した3種の試験体を各々3体成形して、7日間養生したうえで、JIS A1216に準拠して一軸圧縮試験に供した。その結果、各配合による試験体の平均一軸圧縮強度は、50kg/m配合において149kN/m、80kg/m配合において413kN/m、110kg/m配合において1244kN/mであり、優れた補強効果を示した。
【0021】
[3]六価クロム溶出量の評価
(1)六価クロム溶出量(実施例1の土壌固化材を使用)
上記[1]で得られた実施例1の土壌固化材について、平成3年環境庁告示第46号「土壌の汚染に係る環境基準について」に定められた試験方法{規格65.2.1に定める方法(JIS K0102のジフェニルカルバジド吸光光度法)}に基づいた六価クロムの溶出量を測定したところ、0.01mg/L未満であった。更に、前記[2]の一軸圧縮試験に供した試験体について同様の測定を行ったところ、0.01mg/L未満であった。
【0022】
(2)六価クロム溶出量(実施例2の土壌固化材を使用)
上記[1]で得られた実施例2の土壌固化材について、平成3年環境庁告示第46号「土壌の汚染に係る環境基準について」に定められた試験方法{規格65.2.1に定める方法(JIS K0102のジフェニルカルバジド吸光光度法)}に基づいた六価クロムの溶出量を測定したところ、0.01mg/L未満であった。
【0023】
(3)六価クロム溶出量(比較例の土壌固化材を使用)
比較例の土壌固化材として、住友大阪セメント株式会社製の土壌固化材、品名「タフロック3E型(TL−3E)」について、平成3年環境庁告示第46号「土壌の汚染に係る環境基準について」に定められた試験方法{規格65.2.1に定める方法(JIS K0102のジフェニルカルバジド吸光光度法)}に基づいた六価クロムの溶出量を測定したところ、0.55mg/Lであった。
【0024】
[4]フッ素溶出量の評価
フッ素溶出量(実施例2の土壌固化材を使用)
上記[1]で得られた実施例2の土壌固化材(フッ素の溶出があるペーパースラッジ灰を用いた例)について、平成3年環境庁告示第46号「土壌の汚染に係る環境基準について」に定められた試験方法{規格34.1に定める方法(ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法)}に基づいた六価クロムの含有量を測定したところ、0.38mg/L(試料1;0.53mg/L、試料2;0.43mg/L、試料3;0.17mg/Lの平均値)であった。この結果は、土壌環境基準である0.8mg/Lを十分に下回る値である。
【0025】
[5]pH測定試験
(1)実施例1の土壌固化材を用いた改良土のpHの経時測定
上記[1]で得られた実施例1の土壌固化材について、補強土壌(含水比17.08%、湿潤密度2.134g/mの粘土)に対して、上記[1]で得られた実施例1の土壌固化材を35kg/mを混合した改良土を調製した。この改良土を、容積1000mLであって底部に約5mm径の貫通孔が22ヶ所略均等に穿孔されたプラスチック容器に投入し、2ヶ月間野外放置した。そして、下記の各期間におけるpHを測定平成3年環境庁告示第46号「土壌の汚染に係る環境基準について」に定められた試験方法(規格12.1に定める方法)した。その結果、初日pHが10.0(気温25.0℃)、1週間後pHが9.6(気温23.6℃)、1ヶ月後pHが8.8(気温26.0℃)、2ヶ月後pHが7.7(気温24.8℃)であった。即ち、凡そ1ヶ月で中性域となる程にまでpHが低下し、極めてpH低下が早いことが分かった。尚、このpH測定の間、1週間目の測定までに0日の雨、1ヶ月目の測定までに0日の雨、2ヶ月目の測定までに1日の雨が、各々観察された。尚、上記雨日の日数については、日本気象協会の実測データに基づくが、実際には天候が不安定な日もあり、上記データ上では曇と記録された日においても降雨を観測した日もあった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉セメント、ペーパースラッジ灰、廃石膏、及び、硫酸第一鉄、を含有することを特徴とする土壌固化材。
【請求項2】
前記高炉セメントを50質量部とした場合に、前記ペーパースラッジ灰が25〜35質量部、前記廃石膏が15〜30質量部、前記硫酸第一鉄が1〜2質量部である請求項1に記載の土壌固化材。
【請求項3】
更に、軽焼マグネシアを含有する請求項1又は2に記載の土壌固化材。
【請求項4】
前記高炉セメントは、B種の高炉セメントである請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の土壌固化材。

【公開番号】特開2013−107966(P2013−107966A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253190(P2011−253190)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(511281947)株式会社グリーンアローズ中部 (1)
【Fターム(参考)】