説明

土壌攪拌装置

【課題】薬剤等を含む土壌を効率よく攪拌し、汚染土壌の浄化効率を向上させる。
【解決手段】水平方向に延設された回転軸11と、回転軸から放射状に延設された複数の攪拌爪12と、攪拌爪の回転半径の外側に螺旋状に配置された板状部材13とを備える土壌攪拌機構2を牽引装置3に装備した土壌攪拌装置1。板状部材によって、攪拌された土壌を機構内に滞留させ、攪拌された土壌の拡散を防止し、薬剤等を含む土壌の攪拌効率を向上させる。板状部材を、複数の攪拌爪の回転半径の外側に存在する、仮想円筒の外周面に沿って、回転軸の軸線方向に左右対称の位相となるように、複数配置することができる。回転軸の両端部の外側に、回転軸の軸線方向に対して略々垂直方向に邪魔板14を延設し、複数の攪拌爪の回転半径を各々20cm以上、牽引装置の車体の底部の地上からの最低高さHを40cm以上とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌攪拌装置に関し、特に、カドミウム等の重金属により汚染された水田等の土壌を浄化するためなどの目的で使用される土壌攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水田等の土壌が工場等から排出されたカドミウム(Cd)等の重金属により汚染されることがあり、特に、Cdに汚染された水田は、水田全体のCd含有率が低い場合であっても、玄米のCd含有率が1ppm以上となる場合が多く、そのような場合には、食品衛生法の規制により米の流通が禁止される。
【0003】
そこで、土壌改良のために他の場所から土を運び入れ、植物の生育に適した土の状態にする客土法という汚染土壌の浄化法が実施されているが、客土法を用いたとしても取り替えられた汚染土壌を何らかの方法で処理する必要がある。
【0004】
また、現在日本国内では、上述のように、米のCd含有率が1ppm以下であれば食品衛生法上問題はないが、Cdを含有する米に関する国際基準を0.2〜0.4mg−Cd/kg−玄米、と強化する傾向が強まっている。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1には、Cd濃度が0.1〜2ppmの水田土壌を、浄化対象土壌体積の1〜4倍量のカルシウム塩、有機酸、無機酸及びアミノカルボン酸から選ばれる1種以上の水溶液で洗浄した後、さらに水で洗浄するCd含有水田土壌の浄化方法が提案されている。
【特許文献1】特開2005−169381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の浄化方法等によって、Cd含有水田等を浄化することは可能であるが、土壌と薬液又は薬剤等を攪拌する際に、農業に用いられる通常の耕耘機をそのまま使用すると、土壌の攪拌効率が悪いため、浄化効率の面で改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、薬剤等を含む土壌を効率よく攪拌することができ、汚染土壌の浄化効率を向上させることが可能な土壌攪拌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、土壌と薬剤とを混合するため、該薬剤を含む土壌を攪拌する土壌攪拌機構であって、水平方向に延設された回転軸と、該回転軸から放射状に延設された複数の攪拌爪と、該複数の攪拌爪の回転半径の外側に螺旋状に配置された板状部材とを備えることを特徴とする。
【0009】
そして、本発明によれば、回転軸とともに回転する複数の攪拌爪によって土壌を攪拌するとともに、複数の攪拌爪の回転半径の外側に螺旋状に配置された板状部材によって、攪拌された土壌を土壌攪拌機構内にある程度の時間留めておくことができるため、攪拌された土壌の拡散を防止し、薬剤等を含む土壌の攪拌効率を向上させることが可能となり、汚染土壌の浄化効率の向上に繋がる。
【0010】
前記土壌攪拌機構において、前記板状部材を、前記複数の攪拌爪の回転半径の外側に存在する、仮想円筒の外周面に沿って配置することができる。これによって、複数の攪拌爪の先端と螺旋状の板状部材との間隔を均等にし、コンパクトな構成で、回転軸の軸線方向にわたって漏れなく効率的な攪拌を行うことができる。
【0011】
前記土壌攪拌機構において、前記板状部材を、前記回転軸の軸線方向に左右対称の位相となるように、複数配置することができる。前記板状部材を複数配置したため、さらに機構内における土壌の滞留時間を長く維持することができ、薬剤等を含む土壌の攪拌効率をさらに向上させることができる。また、複数の前記板状部材を、前記回転軸の軸線回りに回転対称となるように配置したため、回転軸の軸線方向にわたって漏れなく効率的な攪拌を行うことができる。
【0012】
前記土壌攪拌機構において、前記回転軸の両端部の外側に、該回転軸の軸線方向に対して略々垂直方向に邪魔板を延設することができる。この邪魔板により、回転軸の軸方向外側に逃げようとする土壌を土壌攪拌機構内に留めることができ、薬剤等を含む土壌の攪拌効率をさらに向上させることができる。
【0013】
前記土壌攪拌機構において、前記複数の攪拌爪の回転半径を、各々20cm以上とすることができる。これによって、洗浄効率を上げるために固液比を大きくし、水深が高くなった場合でも、攪拌爪の回転半径が大きいため、攪拌効率が低下することがない。尚、固液比とは、浄化対象土壌の乾燥重量に対する水溶液あるいは水の重量の比をいう。
【0014】
また、本発明は、土壌攪拌装置であって、上記いずれかの土壌攪拌機構と、該土壌攪拌機構を牽引する牽引装置とで構成され、該牽引装置の車体の底部の地上からの高さを40cm以上としたことを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、牽引装置の車体の底部の地上からの高さをより高くすることにより、高固液比で効率よく洗浄することができるため、水洗浄回数を低減することができ、洗浄コストの削減、及び薬剤洗浄での排水率の上昇による浄化効果の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、薬剤等を含む土壌を効率よく攪拌することができ、汚染土壌の浄化効率を向上させることが可能な土壌攪拌装置等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明にかかる土壌攪拌装置1は、土壌攪拌機構2と、この土壌攪拌機構2を牽引して矢印A方向に進行する牽引装置3とで構成される。
【0019】
土壌攪拌機構2は、図2に示すように、大別して、回転軸11と、この回転軸11から放射状に延設された複数の攪拌爪12と、攪拌爪12の回転半径の外側に螺旋状に配置されたリボンプレート(板状部材)13(13A〜13D)と、回転軸11の両端部の外側に配置された邪魔板14と、牽引装置3との連結部15とで構成される。
【0020】
回転軸11は、水平方向に延設され、図示しないモータ及びチェーン等を介して矢印C方向に回転する。
【0021】
攪拌爪12は、回転軸11から放射状に延設され、図2(c)に示すように、回転軸11とともに矢印C方向に回転し、土壌を攪拌するために備えられる。この攪拌爪12は、図示の例では、回転軸11の5カ所から延設され、各攪拌爪12は、図2(c)に示すように、進行方向に向かって湾曲するとともに、図2(b)に示すように、進行方向に対して左右のいずれかの方向に延設される。また、攪拌爪12の回転半径は、20cm以上とし、高固液比、すなわち高水深に対応可能とする。
【0022】
リボンプレート13(13A〜13D)は、回転軸11にリブ16によって固定され、回転軸11とともに図2(c)の矢印C方向に回転し、攪拌爪5が土壌を攪拌した際に、攪拌された土壌が周囲に拡散しないように、土壌を土壌攪拌機構2内にある程度の時間滞留させるために備えられる。このリボンプレート13は、複数の攪拌爪12の回転半径の外側に、仮想円筒の外周面に沿って螺旋状に配置される。また、リボンプレート13Aと13C、及びリボンプレート13Bと13Dは、互いに回転軸11の軸線方向に左右対称の位相となるように位置する。
【0023】
邪魔板14は、回転軸11の左右端部の外側に回転軸11に対して垂直な面内に位置するように装着され、回転軸11の軸方向外側に逃げようとする土壌を土壌攪拌機構2内に留めるために備えられる。
【0024】
牽引装置3は、耕耘機等に通常用いられるトラクターを用いることができるが、高固液比に対応可能とするため、車体の底部の地上からの最低高さHを40cm以上とする。
【0025】
次に、上記構成を有する土壌攪拌装置1の動作について、図面を参照しながら説明する。尚、以下の説明においては、本発明にかかる土壌攪拌装置を、Cdに汚染された水田の洗浄に用いた場合を例にとって説明する。
【0026】
まず、洗浄剤を用いて土壌中のCdを抽出する。この洗浄剤には、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、ポリ硫酸鉄等の鉄塩の溶液を用いることができる。また、固液比は、2.2程度とする。
【0027】
この薬剤洗浄工程において、本発明にかかる土壌攪拌装置1を使用し、牽引装置3で土壌攪拌機構2を牽引しながら土壌攪拌機構2の回転軸11を回転させる。回転軸11とともに、放射状に延設された複数の攪拌爪12も回転し、攪拌爪12によって土壌を攪拌しながら土壌と洗浄剤とを混合する。
【0028】
攪拌爪12によって攪拌された土壌と洗浄剤は、土壌攪拌機構2の外側に拡散しようとするが、回転軸11とともに回転する邪魔板14がこの動きを規制し、土壌及び洗浄剤を土壌攪拌機構2内に留めるように機能する。これによって、土壌と洗浄剤との混合効果が促進される。また、回転軸11の左右端部から左右外側に拡散しようとする土壌についても、邪魔板14によって移動が規制され、土壌攪拌機構2内に滞留する。
【0029】
土壌攪拌装置1による土壌の攪拌後、土壌は静置され、抽出されたCdが沈降する。そこで、排出処理を行った後、水洗浄工程に移行する。
【0030】
水洗浄工程において、抽出したCd及び残留洗浄剤の希釈洗浄を行う。土壌に水を加えた後、土壌攪拌装置1を用いて攪拌する。この際にも、土壌攪拌装置1は、薬剤洗浄工程の場合と同様に機能し、Cd及び残留洗浄剤の希釈洗浄効果を高めることができる。
【0031】
土壌攪拌装置1による土壌の攪拌後、土壌は静置されてCdが沈降する。このような水洗浄を数回繰り返し、水洗浄工程を完了する。
【0032】
最後に、排水処理工程において、排水処理装置によって洗浄水中に含まれるCdを除去し、処理水を放流する。
【0033】
尚、上記実施の形態においては、固液比を2.2程度と、従来の1.5程度に比較して高く設定したため、従来よりも水深が高くなるが、攪拌爪の回転半径を20cm以上と大きくするとともに、牽引装置3の車体の底部の地上からの最低高さHを40cm以上と大きくしたため、十分に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明にかかる土壌攪拌装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明にかかる土壌攪拌機構の一実施の形態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は上面図、(c)は(a)の回転軸近傍を示すB−B線矢視図である。
【符号の説明】
【0035】
1 土壌攪拌装置
2 土壌攪拌機構
3 牽引装置
11 回転軸
12 攪拌爪
13(13A〜13D) リボンプレート
14 邪魔板
15 連結部
16 リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌と薬剤とを混合するため、該薬剤を含む土壌を攪拌する土壌攪拌機構であって、
水平方向に延設された回転軸と、
該回転軸から放射状に延設された複数の攪拌爪と、
該複数の攪拌爪の回転半径の外側に螺旋状に配置された板状部材とを備えることを特徴とする土壌攪拌機構。
【請求項2】
前記板状部材を、前記複数の攪拌爪の回転半径の外側に存在する、仮想円筒の外周面に沿って配置したことを特徴とする請求項1に記載の土壌攪拌機構。
【請求項3】
前記板状部材を、前記回転軸の軸線方向に左右対称の位相となるように、複数配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の土壌攪拌機構。
【請求項4】
前記回転軸の両端部の外側に、該回転軸の軸線方向に対して略々垂直方向に邪魔板を延設したことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の土壌攪拌機構。
【請求項5】
前記複数の攪拌爪の回転半径を、各々20cm以上としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の土壌攪拌機構。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の土壌攪拌機構と、該土壌攪拌機構を牽引する牽引装置とで構成され、
該牽引装置の車体の底部の地上からの最低高さを40cm以上としたことを特徴とする土壌攪拌装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−319747(P2007−319747A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151171(P2006−151171)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(000185972)小野田ケミコ株式会社 (58)
【出願人】(591172537)太平洋ソイル株式会社 (14)
【出願人】(597028287)埼玉八栄工業株式会社 (8)
【上記4名の代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
【Fターム(参考)】