説明

土壌改良用資材及び土壌改良方法

【課題】 本発明は、化学薬品の使用等によって重金属に汚染された汚染土壌を、オンサイト特に掘削等を伴わない原位置にて、簡易な方法によって高効率かつ低コストに浄化改良するための土壌改良用資材と該資材を用いた土壌改良方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の土壌改良用資材は、重金属に汚染された汚染土壌を浄化改良するための土壌改良用資材であって、平均繊維径2μm以下の無機繊維を主体とした繊維層に希土類化合物を含有する重金属吸着剤を分散保持させて柱状体(中空構造のものも含む)に形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学薬品の使用等によって重金属に汚染された汚染土壌を、オンサイト特に掘削等を伴わない原位置にて、簡易な方法によって低コストに浄化改良するための土壌改良用資材と該資材を用いた土壌改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重金属(カドミニウム、シアン、鉛、六価クロム、ヒ素、水銀、銅)による土壌の汚染は世界中で進行しており、日本では上記の金属を含む土壌の環境基準が1991年に制定されている。
これに規定及び提案されている汚染物質の処理技術としては、汚染物質を管理型の埋立処理場(安定型最終処理場,ビニールシートによる遮水、浸出水の処理設備が必要な管理型最終処理場,コンクリート仕切り、腐食防止施工を要する遮断型最終処理場)に運搬して埋め立てて遮断処分する方法、汚染場所(オンサイト)で重金属を固定化、無害化して埋め戻す方法のどちらかが実施される。
【0003】
管理型の埋立処理場の場合、運搬中に汚染土壌が拡散する恐れや、最終処分場の設備が完全に長期にわたり隔離できるかどうかの信頼性に不安がある。
遮断型最終処理場の規定によると、外周(低部も含み)厚さ15cm以上のコンクリートで囲い、崩壊を防ぐため厚さ10cm以上の内部仕切りを備え、腐食防止施工の実施と維持、更に雨水流入、排出防止として屋根、覆い、囲いを備えることを要求しており、全ての汚染物質を受け入れる容量は物理的にも、財政的にも実施が不可能である。
【0004】
従って、汚染場所(オンサイト)での重金属の固定化、無害化を行うことが、汚染物質の処理技術の主流となっており、下記のようないくつかの提案がなされている。
(1)汚染土壌を全て採掘して粉砕後、液体キレートを混合し重金属を固定処理した後セメントに混ぜ、元の採掘場所に埋め戻す方法。
(2)米国で実績のある、溶融ガラス化固定法の採用。これは汚染土壌に電極を埋め込み、土壌を熔岩状に溶かし、金属以外の汚染物質も含めてガラス溶融した土壌内に閉じ込める方法。土壌1tあたり溶解固定化の費用は約10万円であるが、わが国では国土が狭く住宅や商業・工業地域など人口の密集地帯が多く、安全性の問題があり実施例はないが、原子力廃棄物の固定化法に類似しており、封じ込めとしては確実性が高い。
(3)電気浸透法。この方法による汚染土壌の無害化は、汚染土壌中に直流電流を流し陽極付近から液体キレートを流すと液体キレートは陰極側に移動し、移動中に重金属と反応して固定化する。この方法は地面を掘り起こさないので革新的で、(1)よりは大掛かりな装置を必要としないが、導入した液体キレート水を陰極付近に穴を掘りポンプ排水する必要がある。
(4)植物タンニンなどの利用による重金属吸着法(特許文献1)。植物タンニンは、樹皮、葉、種皮、根などに含まれる成分で、温水により容易に抽出されるポリフェノール類の総称であり、タンパク質・アルカロイド・金属イオンと結合して難溶性の塩を作る。この作用を利用して、重金属の固定化を図るものである。
(5)植物に重金属を捕捉蓄積させる方法(特許文献2)。遺伝子組み換え(トランスジェニック)を行い重金属蓄積能力を高めたタバコなどの植物を用い、汚染土壌で栽培して土壌浄化を図るものである。
【特許文献1】特開2004−237137号公報
【特許文献2】特開2005−46082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、以上の方法は、それぞれ以下のような問題がある。
(1)の方法のように汚染土壌を全て採掘して粉砕後、液体キレートを混合し重金属を固定処理した後セメントに混ぜ、元の採掘場所に埋め戻す方法の場合、国内で使用される工業用のキレート剤は全てジチオカルバミン酸塩系であり、この化合物はアルカリ金属イオンを失うと、分解して有害な二硫化炭素を発生させる問題がある。改良されたジカリウム=ピペラジン−1,4−ジカルボジチオアート(重金属処理剤TS−275;東ソー株式会社)は二硫化炭素は検出されなかったが、他社のピペラジン系では110ppmと高濃度であり、製法によっては発生を起こす場合がある(東ソー研究・技術報告 第48巻 p55 2004)。また、キレート剤による重金属吸着条件として、土壌pHを12〜13にする必要があり、汚染土壌にアルカリ剤を混ぜる必要があり、汚染処理後の土壌から雨水などで流出する排水は中和処理設備が必要となる。また、採掘、微細化、再埋立て等の大掛かりな土木事業による費用負担が大きい。
(2)の溶融ガラス化固定法は前述のとおり、電力費用、安全性、人民・財産の保全に問題があり、日本のような住宅密集地域では実用化できない。
(3)の電気浸透法による汚染土壌の無害化でもキレート剤を使用するので中和処理設備が同様に必要となる。
【0006】
(4)の植物タンニンを用いる方法は、製材所などから出る樹皮解体材を袋に詰めて一部を地面上に出し、毛管上昇により周囲の水溶解した重金属を集める方法で有効性が期待されるが、次の点で問題がある。1つは、タンニン含有の多いモリシアアカシア、エゾヤナギを提案では推奨しているが、どちらも製材としての活用価値が少なく供給量に不安がある。モリシアアカシアはタンニンを取るために南アフリカで計画栽培されており、日本へは抽出されたタンニンのみ輸入されているのが現状で、端材の活用は期待できない。
【0007】
次にタンニンは水に溶けない縮合型と水に溶けやすい加水分解型の2種類があるが、縮合型は重金属と反応し凝集力も強いが、耐光性に弱く地面から露出した部分での重金属吸着効果が低下する。加水分解型は、耐光性はあるが、水溶性のため雨水により地中に流れ出し、袋に詰めたとしても重金属捕捉資材としての効果は期待できない。更に結合型のpHは4.2〜4.5、加水分解型のpHは2.3〜4.5であり、土壌を酸性化する問題がある。
また、樹皮解体材のサイズは網目袋に投入するので、小さくても1mm以上の大きさと推定されるが、毛管上昇を考慮すると、せいぜい10cm程度しか水は上昇しないので、乾燥に伴う長期にわたる重金属吸着効果は期待できにくい。
【0008】
(5)の植物による重金属蓄積による汚染土壌浄化方法は、研究段階であり実用化に関しては当面先であり、大規模な導入例は少ない。
【0009】
また、汚染土壌中の重金属を吸着する物質としては、活性アルミナもあるが、例えば、ヒ素を吸着させようとすると、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤、吸着・凝集用のpH処理(酸・アルカリ添加)が必要となり使用後の吸着剤、補助剤の廃棄処理が必要で管理、維持が問題となる。
【0010】
また、中性中心でかなり広いpH領域で前処理が不要な、汚染土壌中の重金属を吸着する物質として希土類化合物が知られており、砒素、フッ素、クロム、カドミウム、鉛、アンチモン等を付着する性能を有している。
具体的な希土類化合物としては、希土類の酸化物または水酸化物である,例えば酸化セリウム(CeO2・1.6H2O)、酸化サマリウム水和物(Sm23・4.1H2O)、酸化ネオジウム水和物(Nd23・4.7H2O)、酸化ランタン水和物(La23・3.0H2O)、酸化イットリウム水和物(Y23・2.1H2O)、水酸化セリウム(Ce(OH)3またはCe(OH)4)などであり、形態としては0.1〜2μm程度の微粉体として提供される。
【0011】
しかしながら、汚染土壌に希土類化合物であるセリウム化合物を混合すると、形態としては0.1〜2μm程度の微粉体であるため、風による飛散や、雨水による流出が問題になり、湿潤土壌では、混合時に塊や団子状になり土壌全体に均一に分散できにくい問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上のような飛散、流出を防止して、重金属吸着効果を効率よく行うため、本発明は、重金属吸着剤である希土類化合物をそのまま使うのではなく、請求項1に記載のように、重金属に汚染された汚染土壌を浄化改良するための土壌改良用資材であって、平均繊維径2μm以下の無機繊維を主体とした繊維層に希土類化合物を含有する重金属吸着剤を分散保持させて柱状体(中空構造のものも含む)に形成したことを特徴とする。
また、請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の土壌改良用資材において、前記繊維層は、前記無機繊維を主体とした不織布シートからなることを特徴とする。
また、請求項3に記載の本発明は、請求項2記載の土壌改良用資材において、前記不織布シートは、抄紙されたシートであることを特徴とする。
また、請求項4に記載の本発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の土壌改良用資材において、前記希土類化合物が酸化セリウム水和物または水酸化セリウムであることを特徴とする。
また、請求項5に記載の本発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の土壌改良用資材を、前記汚染土壌に、立設状態に埋め込むことを特徴とする。
また、請求項6に記載の本発明は、請求項5記載の汚染土壌の土壌改良方法において、前記土壌改良用資材を、前記汚染土壌に、その上端部を地表に露出状態に埋め込むことを特徴とする。
また、請求項7に記載の本発明は、請求項5または6記載の汚染土壌の土壌改良方法において、前記土壌改良用資材に重金属捕捉機能を有する植物を植え込むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の土壌改良用資材は、土壌汚染対策法に規定される砒素、フッ素、クロム、カドミウム、鉛、アンチモン等の有害重金属物を一度に固定化できる希土類化合物を、無機繊維を主体とした繊維層内部に保持させ、なおかつ柱状体とできるようにすることで、次の利点が得られる。汚染土壌に埋設する方法では、大掛かりな土木工事をしないでも、単に埋設して所定期間放置しておくだけで、動力等も一切必要としないで毛管現象による水の移動(吸収・吸上げ・蒸散の反復動作)を利用した有害重金属物の集中と固定化が容易に実施できる。また、地面から一部を露出状態にして埋めれば、露出部位からの蒸発現象を伴うので、汚染水の吸収・吸上げ動作が持続して、土壌浄化を早めることができる。そして、有害重金属物の固定化後は、柱状体を土壌から引き抜くだけで簡単に取り除くことで安全な土壌を得ることができる。さらに、緑化による美観向上や、工場緑地拡大などの二次的な効果もある。
また、自己形状保持性のある柱状体にできるので、資材として取り扱いが良好(自立性もある)で、重金属汚染土壌からの汚染水を浄化処理する水処理システムや水処理設備などに濾過体のカートリッジとして組み込んで使用することも可能である。
更に、汚染土壌から回収した重金属物の最終的な処理方法としては、重金属物を固定化した土壌改良用資材自体を溶融する方法でよく、この方法によれば、減容率が高く(柱状体を例えば空隙率93%のガラス繊維不織布シートで構成した場合で約1/20)、しかも重金属物をガラスで完全に密閉化でき安全に廃棄することができる。
また、本発明の土壌改良方法によれば、重金属吸着剤は繊維層に保持されているため飛散するようなことがなく使用でき、柱状体に形成した土壌改良用資材は、汚染土壌に対して一定間隔または汚染濃度により埋め込み本数を制御して設置できるため、土壌の浄化は均一に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の土壌改良用資材は、平均繊維径が2μm以下である微細径の無機繊維を主体とした繊維層に希土類化合物を含有する重金属吸着剤を分散保持させて柱状体に形成したことを特徴とするものである。
前記無機繊維としては、ガラス繊維、セラミック繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ロックウール、スラグウール等が使用できるが、ショット含有量が少なく、比較的安価で、微細径繊維が入手し易い点で、ガラス繊維が好ましい。
前記ガラス繊維としては、例えば、耐酸性のCガラスを溶融、紡糸後、バーナの火炎で吹き飛ばして得られるCガラス短繊維、あるいは、Cガラスを溶融後、長繊維として紡糸されるCガラス長繊維を使用することができる。
また、Cガラス繊維を使用して繊維層を形成すれば、保液性が良く、人工土壌として適用することができるので、地面に出た柱状体上部に、重金属蓄積能力の高いタバコなどの植物を栽培させて浄化の一助とすることができる。また、植物を植えると、枝葉より水分の蒸発があるので、地中の汚染物質を早く吸収浄化する柱状体の機能を高めることが可能になる。
【0015】
前記繊維層を構成する無機繊維の平均繊維径を2μm以下とするのは、無機繊維の平均繊維径が2μmを超える場合は、前記繊維層が毛管現象を発現しにくくなるとともに、前記繊維層を不織布シートで形成する場合に、不織布シートの単位面積あたりの無機繊維本数が少なく不織布シートを安定して得ることができにくくなるためである。
尚、前記した「平均繊維径2μm以下の無機繊維を主体とした繊維層」とは、後述するように該繊維層を、平均繊維径が異なる複数の繊維層から構成する場合にも、「全繊維層」での平均繊維径が2μm以下であることを示している。例えば、平均繊維径0.5μmの繊維層Aと平均繊維径3.5μmの繊維層Bとを組み合わせてなる全繊維層での平均繊維径が2.0μmの繊維層も、「平均繊維径2μm以下の無機繊維を主体とした繊維層」の範囲に含まれる。
【0016】
更に、無機繊維の平均繊維径が2μm以下の繊維層で柱状体を作製すれば、約1mの高さまで、毛管現象により水分を垂直に吸い上げて移動させることができる。この柱状体を汚染土壌に埋め込むと、柱状体の周囲の土壌から重金属を含んだ汚染水が吸収され、水分は上昇し重金属は重金属吸着剤に吸着捕捉されて固定化される。
一方、取り込まれた水分は、上方に移動後、地表に露出した柱状体上端部から大気中に蒸散するので、柱状体は持続的に汚染水を土壌から吸収することができる。つまり、上端部を地表に露出状態に埋め込まれた柱状体は、汚染水の吸収、吸収水の吸い上げ・重金属の捕捉、吸収水の蒸散を反復し続けるので、土壌浄化を早めることができる。
【0017】
前記繊維層に占める無機繊維の構成比率は90質量%以上であることが好ましい。このようにすることで、繊維層の密度を低くして、空隙率や軽量性を高めることができるとともに、無機繊維の絡み合いが密となるため、柱状体の強度が高まり、自己形状保持性が高まるとともに、屋外での施工時に降雨や強風に晒されても無機繊維が飛散しにくくなる。
【0018】
前記無機繊維の平均繊維径が2μmを超える場合は、柱状体の孔径が大きくなり、垂直設置時の十分な保水性が得られなくなるとともに、毛管作用が低下し、十分な水上げ効果が得られなくなるので不適である。また、前記無機繊維の平均繊維径が1μm以下である場合は、更に十分な保水性と水上げ効果が得られるようになるため好ましい。ただし、実際には、後述するように、無機繊維の平均繊維径を小さくしていくと水の吸上げ速度が低下するなど、無機繊維の平均繊維径は、水の吸上げ速度と吸上げ高さに影響を及ぼし、水の吸上げ速度と吸上げ高さを同時に満足させるためには繊維層を1層ではなく粗密の2層で構成するという考え方も必要になるなど複雑な考え方も必要になってくるので、無機繊維の平均繊維径については、実際に土壌改良用資材に対して求められる条件に合わせて適宜設定されることになる。
【0019】
尚、前記無機繊維の平均繊維径は0.2μm以上であることが好ましい。前記無機繊維の平均繊維径が0.2μm未満である場合は、材料単価が高くなり過ぎ、また、前記繊維層を湿式抄造にて得る場合に濾水抵抗が高くなって生産性が低下するため好ましくないとともに、柱状体の孔径が小さくなり過ぎ、水の浸透速度(通水速度)が著しく低下し、吸収水の吸い上げ速度が著しく遅くなるため好ましくない。
【0020】
前記繊維層は、前記無機繊維を主体とした不織布シートを積層してなるものであることが好ましい。このようにすることで、柱状体の手触りが良くなるとともに、繊維層表面の毛羽立ちや繊維層からの繊維の飛散が抑えられ、柱状体の取り扱い性が良くなる。尚、前記無機繊維を主体とした不織布シートを得る方法としては、乾式法、湿式法、何れでもよいが、一般的な湿式抄造(抄紙)が好ましい。無機繊維に重金属吸着剤である希土類化合物の微細粉体を吸着・担持させるように混合抄造することで、得られた不織布シートに重金属吸着剤が略均一分散状態に保持され、柱状体の重金属吸着特性が略均一となるからである。
【0021】
前記繊維層は、少なくとも、平均繊維径の小さい無機繊維を主体とした細繊維層と平均繊維径の大きい無機繊維を主体とした粗繊維層とを前記柱状体の長軸に対して垂直な断面方向に混在させてなり、前記粗繊維層を形成する無機繊維の平均繊維径が前記細繊維層を形成する無機繊維の平均繊維径の1.2倍以上となるように構成されるものであることが好ましい。このようにすることで、前記細繊維層により保水性を良好とし、前記粗繊維層により吸水性及び通水性、つまり水の移動・拡散性を良好とし、保水性と吸水性・通水性がともに良好な繊維層を形成することができる。また、水の吸い上げ機能について言えば、前記細繊維層は、毛管が細く水を高く吸い上げる能力は優れるが吸い上げ速度は遅く、前記粗繊維層は、毛管が太く吸い上げ速度は速いが高く吸い上げる能力は低い。そこで、上記のような細繊維層と粗繊維層を混在させた繊維層に形成すると、吸水性に優れる粗繊維層が吸水した後、粗繊維層に接する細繊維層がその水を横取りする形で吸水し上方へ吸い上げる。よって、細繊維層と粗繊維層を組み合わせることで、吸い上げ高さが高く、しかも吸い上げ速度が速い繊維層に形成できる。また、粗繊維層を組み合わせることで、無機繊維の材料単価を低減する効果も有する。
尚、前記粗繊維層を形成する無機繊維の平均繊維径が前記細繊維層を形成する無機繊維の平均繊維径の1.2倍未満である場合は、両繊維層を形成する無機繊維の平均繊維径に有意な差がなくなり、前記した細繊維層と粗繊維層を混在させたことにより期待する効果が得られにくくなるため好ましくない。
【0022】
尚、細繊維層と粗繊維層が組み合わさった繊維層にあって、細繊維層がその役目を存分に発揮するには、前記した細繊維層の特長である高い保水性と高い吸い上げ高さの効果をできるだけ顕著に発揮する必要があり、そのため、細繊維層を形成する無機繊維の平均繊維径は1μm以下であることが好ましい。特に、吸い上げ高さの効果については、細繊維層を形成する無機繊維の平均繊維径が小さい程吸い上げ高さは高くなるが、実際の施工現場の条件に合わせて設定される柱状体の長さ(通常50〜200cm程度の範囲)に応じて実際に必要とされる吸い上げ高さが変動することから、細繊維層を形成する無機繊維の平均繊維径については、それに合わせて適宜適切な繊維径を設定すればよい。
【0023】
尚、前記粗繊維層を形成する無機繊維の平均繊維径は5μm以下であることが好ましい。前記粗繊維層を形成する無機繊維の平均繊維径が5μmを超える場合は、繊維の絡み合いが減少し、粗繊維層の十分な強度が得られなくなるため好ましくない。
【0024】
前記重金属吸着材としては、希土類化合物を含有するものであれば特に制限はなく、希土類化合物としては、酸化セリウム水和物または水酸化セリウムであることが好ましい。
前記繊維層に重金属吸着剤である希土類化合物、酸化セリウム水和物または水酸化セリウムを付着する方法は、抄紙法の場合、抄紙原料に混合して粉体吸着法により均一な付着が可能であり、コーティング法を用いると表面に付着させることができる。また、繊維層の間に挟み込む方法も可能である。
【0025】
次に、土壌改良用資材の製造方法について説明する。繊維層は、傾斜抄紙機或いは長網抄紙機を用いて製造することが好ましい。以下、例を説明する。
(1)先ず、原料として、例えば、平均繊維径0.8μmのCガラス短繊維(MLF#208:日本板硝子社製)を所定量計量し、重金属吸着剤である希土類化合物の水酸化セリウム微粉体(アドセラスラリー:共立マテリアル社製)も所定量計量する。ミキサー、パルパ等の分離機により前記繊維と前記粉体を水中に均一に分散・混合する。この抄紙原料を貯蔵タンクに輸送、貯蔵する。
(2)次に、水酸化セリウム粉体をガラス繊維に吸着・担持させるため、カチオン系吸着剤(アクリルアミド系高分子凝集剤)を適量混合(50ppm程度)して、吸着させる。また、ショット等の異物除去のため、この抄紙原料を分離機にて遠心した後スクリーン・フィルタを通過させる。
(3)その後、種口弁・白水バルブで抄紙原料の供給量を制御し、ステップディフューザ等を介してヘッドボックスから抄紙原料を噴出し、走行するフォーミングワイヤ上に堆積させ、下方から脱水して、ガラス繊維シートを形成する。その後、前記ガラス繊維シートを水分乾燥させるドライヤを通過させて、一定厚さのガラス繊維不織布シートをロール状に巻き取る。
(4)このガラス繊維不織布シートを要求される柱状体サイズに合わせて裁断し、ロール状に巻回して任意直径の円筒体(中空の柱状体)を作製する。通水性を阻害しない程度に粗くガラス繊維の飛散を防止できる程度に細かい2mmピッチのガラス網シートで包み、バインダで接着して柱状体形状の土壌改良用資材を得る。
【0026】
また、前記柱状体の断面形状は、特に規定はないが、製造の容易性、取り扱い性、施工作業性等を考慮すると、円形状が望ましい。また、本発明において、柱状体は、中実及び中空のいずれも含むものとする。
【実施例】
【0027】
次に、本発明の実施例を従来例とともに説明する。
(実施例)
平均繊維径0.8μmのCガラス短繊維70質量%と水酸化セリウム微細粉体30質量%を上記の方法で湿式抄造して、熱風乾燥後、厚さ1.0mm、密度0.15g/cm3のガラス繊維不織布シートを得た。このガラス繊維不織布シートを用いて上記の方法で直径17cm×高さ75cmの中空円筒体の土壌改良用資材を得た。
深さ50cmのプラスチックバケツに中空円筒体を入れ、その後重金属成分として100ppm濃度の鉛溶解液を30リットル注入すると、中空円筒体の上端部から約55cmまでが水面上に露出する。水面上に出ている中空円筒体以外から水が乾燥しないように液面上部はポリエチレンシートで覆う。そのポリエチレンシートの上に水を吸収しない発泡スチロールで20cm高さに積む。約35cmの中空円筒体上部が剥き出しとなり、この部分からしか水が蒸発しないようにする。室内で2日放置して中空円筒体の吸上げと重金属吸着の程度を残された水中の鉛量と、中空円筒体を絞って得られた水分中の鉛量の両方を、原子吸光分析を行って求める。
【0028】
(従来例1)
平均繊維径0.8μmのCガラス短繊維100質量%を上記の方法で抄造して、熱風乾燥後、厚さ1.0mm、密度0.14g/cm3のガラス繊維不織布シートを得た。このガラス繊維不織布シートを用いて直径17cm×高さ75cmの中空円筒体の土壌改良用資材を得た。実施例と同じ条件で蒸発・吸着実験を行い、残存液と中空円筒体吸着液の2種類の鉛量を、原子吸光分析を行って求める。
【0029】
(従来例2)
重金属捕捉機能が期待される樹皮解体端材として、入手が可能なスギ樹皮端材をミキサーで粉砕し、10メッシュの篩を通過したものを、2mmピッチのガラス網シートで包み、バインダで接着して直径17cm×75cmの中空円筒体を作製した。実施例と同じ条件で蒸発・吸着実験を行い、残存液と中空円筒体吸着液の2種類の鉛量を、原子吸光分析を行って求める。
【0030】
試験法は次のとおりである。
〈吸液高さ〉
作製した中空円筒体を5cmの深さのバットに垂直に立てるか、吊るし、メチレンブルーなどで着色した水を注水する。1日放置後、水の上昇した高さを求める。
〈残液深さ(2日後)〉
20cm深さに規定の重金属を含んだ水を30リットル注水した後、2日間放置して残っている水の深さをスケールで測定する。
〈残存鉛量〉
初期100ppmの鉛溶液(原子吸光分析用試薬)に中空円筒体を漬けて、2日間室温で放置する。残存している溶液を採取する。また、残存溶液が無い場合は、中空円筒体を絞り採取する。ろ紙でろ過して異物、中空円筒体に付着した微細物を除去して、原子吸光分析を行い、それぞれの残存鉛量を測定する。
結果は表1のとおりである。
【0031】
【表1】

【0032】
表1より以下のことが分かった。
(1)実施例の重金属吸着剤である希土類化合物、水酸化セリウムを吸着したガラス繊維主体の抄紙式シートを柱状体形状にした土壌改良材は取扱性が容易であり、吸水高さがあるため、地下にある重金属を含んだ溶液を容易に地表面に移動させることができる。また、空隙率が93%と高いので、実験の添加水量を全て柱状体内に移動させ、上部からの乾燥も行えることが確認された。
(2)従って、残存液は無いので、残存液の鉛量は0ppmとなる。水酸化セリウムに鉛が吸着固定されているかどうかを知るため、柱状体を絞り、柱状体内部の試料液を採取して、原子吸光測定を行った結果は、0.3ppmであり、柱状体内部に鉛が固定化されていることが確認できた。
(3)従来例1は重金属吸着剤を含ませずガラス繊維のみで柱状体を作製したものであるが、吸液は実施例と同等で、地中の鉛を吸取り、集めることは可能であるが、固定化できないので、絞った液には鉛が残存している。
(4)従来例2は、構成する樹皮端材の破片が大きいことと、空隙量が少ないため、吸上げ効果は少なく、2日後でも溶液が残存している。また、天然物であるため、性状に安定さを欠くためか、残存及び柱状体内液の鉛量も減少しているが、大幅な効果を得たとは言い難い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属に汚染された汚染土壌を浄化改良するための土壌改良用資材であって、平均繊維径2μm以下の無機繊維を主体とした繊維層に希土類化合物を含有する重金属吸着剤を分散保持させて柱状体(中空構造のものも含む)に形成したことを特徴とする土壌改良用資材。
【請求項2】
前記繊維層は、前記無機繊維を主体とした不織布シートからなることを特徴とする請求項1記載の土壌改良用資材。
【請求項3】
前記不織布シートは、抄紙されたシートであることを特徴とする請求項2記載の土壌改良用資材。
【請求項4】
前記希土類化合物が酸化セリウム水和物または水酸化セリウムであることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の土壌改良用資材。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の土壌改良用資材を、前記汚染土壌に、立設状態に埋め込むことを特徴とする汚染土壌の土壌改良方法。
【請求項6】
前記土壌改良用資材を、前記汚染土壌に、その上端部を地表に露出状態に埋め込むことを特徴とする請求項5記載の汚染土壌の土壌改良方法。
【請求項7】
前記土壌改良用資材に重金属捕捉機能を有する植物を植え込むことを特徴とする請求項5または6記載の汚染土壌の土壌改良方法。

【公開番号】特開2007−203251(P2007−203251A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27377(P2006−27377)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】