説明

土壌水分測定方法及び土壌水分測定装置

【課題】被測定土壌中へのプローブの設置を簡単に行うことが可能で、特殊な機器を必要とせず、汎用の演算装置を用いて、正確に安定して簡便に土壌中の水分を測定することができる土壌水分測定方法とその測定装置を提供する。
【解決手段】被測定領域の土壌中の複数個所に金属棒からなるプローブ1を打ち込み、プローブ1に沿って1本の信号ケーブル2を配置する。複数のプローブ1の先端と信号ケーブル2の対応箇所を接続する一方、信号ケーブル2に高周波信号を出力する信号源3を信号ケーブルの端部に接続し、信号源3とプローブ1との間の信号ケーブル2に検出器6を接続する。信号源3から信号ケーブル2に高周波信号を入射したとき、各プローブ1から反射される反射高周波信号を検出して、被測定領域の土壌の水分を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ため池、フィルダムなどの堤体浸潤面の上昇・下降、或いは漏水箇所の特定、地すべり予想箇所における地下水位の上昇・下降の検知、或いは間隙水圧増加・消散の検知を目的として、土壌水分を測定する土壌水分測定方法及びその測定装置に関し、特に被測定地中へのプローブの設置を簡単に行うことが可能で、特殊な機器を必要とせず、汎用の演算装置を用いて、正確に土壌水分を測定可能な土壌水分測定方法とその測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土壌の水分濃度を測定する測定方法として、プローブを通して被測定土壌中にパルス波を出力し、パルス波の伝播速度が被測定土壌の比誘電率(水分量)に応じて変化する性質を利用する測定方法が知られている。この測定方法の装置は、被測定土壌中に同軸ケーブルに接続された棒状電極状のプローブを挿入し、その同軸ケーブルの末端を信号源となる送信器に接続し、同軸ケーブルにおける送信器とプローブとの間の一部にオシロスコープなどの測定機器を接続して被測定土壌の水分濃度を測定する。
【0003】
この水分測定装置は、基本的には、誘電率計測法における時間領域反射率法の一つであり、送信器からパルス信号をプローブに同軸ケーブルを通して出力し、パルス信号が出力された時点から、同軸ケーブルを通りプローブ先端まで進行して戻ってくる際のパルス信号(反射波)の時間tを測定する。
【0004】
そして、下記演算式
t=2L(c/√ε)
L:経路長(プローブの長さ)、c:光速、
を用いて、土壌の比誘電率εを算出する。
【0005】
続いて、予め実験により求めておいた土壌中の水分量(体積含水率)と土壌の比誘電率εとの関係式(グラフ)から、土壌中の水分量を算出する。
【0006】
この時間領域反射率法による土壌水分測定法は、1観測点について1本のプローブとそこに接続された1本の同軸ケーブルを使用して、その観測点の比誘電率つまり水分量を測定する。このため、水分量の測定の対象区域が広い範囲である場合、局部的な水分量の測定しか行うことができず、ある程度の範囲の多点観測を行う場合には多数本の同軸ケーブルとプローブを敷設する必要があり、測定機器の設置作業が非常に煩雑化し、作業工数が多くなる。
【0007】
さらに、この土壌水分測定法で使用するプローブはその長さが比較的短く、ある程度の深度で土壌中の水分量を測定しようとする場合、検出器や同軸ケーブルの敷設用に被測定個所を掘削し、さらに掘削孔にプローブを差し込む必要があり、そのために、同軸ケーブルやその接続部分が破損しやすくなる課題がある。
【0008】
ところで、ため池やフィルダムなどの貯水位変動に伴う堤体浸潤面の上昇・下降を、堤体に設置したプローブにより検知し、堤体の安全を確認するために、堤体の土壌中の水分測定が検討されている。また、堤体に生じる漏水箇所を特定し堤体の異常を検知し、或いは地すべりの発生が予想される地域の地下水位の上昇・下降または間隙水圧の増加や消散の監視を行なうために、土壌中の水分測定が検討されている。
【0009】
しかし、上記のような時間領域反射率法による土壌水分測定法を用いて土壌水分を測定する場合、広い範囲で被測定土壌の水分分布を測定するためには、多数のプローブを被測定土壌中に挿入し、それらのプローブに多数の同軸ケーブルを接続し、信号源に対し各同軸ケーブルを切り替えながら、パルス信号をそれらのプローブに出力して比誘電率つまり水分濃度を測定することとなる。このため、同軸ケーブルの切り替えと共に、複数回の信号の入射を行なう必要があり、多くの測定時間と作業工数を必要とするなど、水分量の測定作業が煩雑化し、多くの作業者、工数、時間を必要とする。
【0010】
そこで、本発明者らは、下記特許文献1において、1本の同軸ケーブルにより形成した幹伝送路に複数の分岐部を設け、各分岐部に同軸ケーブルの枝伝送路を接続する一方、各枝伝送路の先端にプローブを接続した測定用伝送路を設置し、その測定用伝送路を用いて土壌水分の測定方法を提案した。
【0011】
この測定方法は、幹伝送路の同軸ケーブルの末端に信号源となる送信器を接続し、同軸ケーブルの幹伝送路における送信器とプローブとの間にオシロスコープなどの測定機器を接続し、送信器から一定の幅のパルス信号を伝送路に出力する。このとき、各プローブの先端から反射されて枝伝送路、幹伝送路へと戻る反射波を測定機器の検出器により検出し、各プローブからの反射波の遅延時間を測定し、その反射波の遅延時間から被測定土壌の比誘電率を算出し、その比誘電率から水分濃度を求める。この土壌水分濃度測定方法は、1本の同軸ケーブルとそこに接続された複数のプローブを被測定領域に設置するのみで、比誘電率の測定を行うことは可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−133088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、この土壌水分濃度測定方法を実施する測定装置は、プローブの長さが比較的短く制限されるため、プローブの形状が小さく、被測定土壌中にプローブを所定の深度で設置する場合には、同軸ケーブルの敷設や検出器の設置のために、土壌を掘削する必要があり、測定の際、上記と同様、同軸ケーブルやその接続部分が破損しやすく、また、測定機器の設置に煩雑な作業、多くの時間、及び多くの作業工数を必要とする。
【0014】
さらに、この測定装置では、幹伝送路に複数のプローブを、間隔をおいて接続し、幹伝送路の端部の信号源からパルス信号を出力し、各プローブ先端から反射される反射波を、幹伝送路の一部に接続した検出器で検出し、その際の各反射波の到達遅延時間を一度に測定する。
【0015】
このため、幹伝送路を通して各枝伝送路にパルス信号を出力すると、各プローブ先端でパルス信号が多重反射される場合があり、多重反射が生じた場合には、各プローブ先端からの反射波の到達遅延時間を正確に測定することが難しく、多重反射が発生しないように、各プローブの幹伝送路に対する接続位置を変えるなど、多少ながら煩雑な測定作業を必要とする課題があった。
【0016】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、被測定土壌中へのプローブの設置を簡単に行うことが可能で、特殊な機器を必要とせず、汎用の演算装置を用いて、正確に安定して簡便に土壌中の水分を測定することができる土壌水分測定方法とその測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る土壌水分測定方法は、
被測定領域の土壌中の複数個所に金属棒からなるプローブを打ち込み、該複数のプローブに沿って1本の信号ケーブルを配置し、該複数のプローブの先端と信号ケーブルの対応箇所を接続する一方、該信号ケーブルに高周波信号を出力する信号源を該信号ケーブルの端部に接続し、該信号源と該プローブとの間の該信号ケーブルに検出器を接続し、該信号源から該信号ケーブルに高周波信号を入射したとき、該各プローブから反射される反射高周波信号を検出して、被測定領域の土壌の水分を測定する土壌水分測定方法であって、
該信号源から信号ケーブルに高周波信号を周波数掃引して入射する工程と、
該信号ケーブルの終端及び該各プローブから反射された反射高周波信号を該検出器に入力して検出する工程と、
該検出器で検出され合成された反射高周波信号を高速フーリエ変換して、各プローブにおける各反射高周波信号を抽出し、各プローブの各反射高周波信号の反射信号電圧と入射された高周波信号の入射信号電圧とから、各プローブの各反射高周波信号について電圧定在波比を算出する定在波比算出工程と、
各プローブの各反射高周波信号について算出した電圧定在波比情報を逆高速フーリエ変換して合成し、周波数領域の該電圧定在波比情報を時間領域の情報に変換する工程と、
時間領域の該電圧定在波比情報に基づき、被測定領域の土壌中の水分を求める工程と、
を含むことを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、プローブには金属棒を使用し、それらの金属棒を土壌中に打ち込むだけでよく、被測定土壌中へのプローブの設置を簡単に行うことができる。また、被測定区域に配置した1本の信号ケーブルの複数個所に、埋設した金属棒製のプローブの先端を接続し、信号ケーブルの端部に信号源を接続し、検出器を信号源とプローブとの間の信号ケーブルに接続するのみで、信号ケーブルを含む測定機器の設置を短時間で且つ少ない工数で行なうことができる。さらに、金属棒のプローブは、充分な長さのプローブを土壌中に深く打ち込むことができるので、プローブの土壌への密着性がよく、正確に土壌中の水分を測定することができる。
【0019】
また、測定時に、信号源から信号ケーブルに高周波信号を入射したとき、信号ケーブルの終端及び各プローブから反射された反射高周波信号を検出器で検出して入力し、合成された反射高周波信号を高速フーリエ変換して、各プローブにおける各反射高周波信号を抽出し、各プローブの各反射高周波信号の反射信号電圧と入射された高周波信号の入射信号電圧とから、各プローブの各反射高周波信号について電圧定在波比を算出する。さらに、各反射高周波信号の電圧定在波比情報を逆高速フーリエ変換して合成し、周波数領域の電圧定在波比情報を時間領域の情報に変換し、その後、時間領域の電圧定在波比情報に基づき、土壌の水分を求める。
【0020】
信号ケーブル及びプローブを含む信号伝送路の電圧定在波比は、信号伝送路のインピーダンスに依存し、そのインピーダンスとプローブ周囲の土壌の比誘電率とは一定の関係にあり、土壌の比誘電率は土壌の含水率に応じて鋭敏に変化する。また、土壌の体積含水率と土壌の比誘電率の関係は予め実験により求めておくことができる。このため、複数のプローブから反射される各反射高周波信号を検出し、各プローブからの反射高周波信号の電圧定在波比を算出すれば、その電圧定在波比に基づき、土壌の水分を正確に求めることができる。
【0021】
さらに、プローブは単純な金属棒から構成されるので、土壌の種類に応じたプローブの校正は不要であり、これにより、被測定領域に信号ケーブルとプローブを設置した状態で長期にわたり安定して土壌水分の測定を行なうことができ、例えば、ため池やフィルダムなどの堤体浸潤面の監視を長期間継続して行なうことができる。
【0022】
ここで、上記土壌水分測定方法では、上記各プローブが3本の金属棒から構成され、3本の金属棒を土壌中に打ち込む際、該3本の金属棒を挿入する3本のパイプを並設した位置決め用治具を使用して、該3本の金属棒を所定の間隔で被測定領域の地表から土壌中に打ち込むことができる。
【0023】
この発明によれば、各プローブを設置する場合、3本の金属棒をハンマーや電動ハンマーで簡単に且つ適性に打ち込むことができ、ボーリング作業や土壌の掘削作業などの準備作業が不要となり、各プローブを被測定領域の土壌中に簡単に設置し、信号ケーブルを含む信号伝送路の設置を簡単に効率良く行うことができる。
【0024】
一方、本発明に係る土壌水分測定装置は、
被測定領域の土壌中の複数個所に埋設される金属棒からなるプローブと、
該複数のプローブに沿って配置され、該各プローブの先端が間隔をおいて接続される1本の信号ケーブルと、
該信号ケーブルの端部に接続され、周波数を変えながら高周波信号を該信号ケーブルに入射させる信号源と、
該信号源と該プローブとの間の該信号ケーブルに接続され、該信号ケーブルに入射された高周波信号が各プローブから反射されて生じる反射高周波信号を検出する検出器と、
該検出器で検出され合成された反射高周波信号を高速フーリエ変換して、各プローブにおける各反射高周波信号を抽出し、各プローブの各反射高周波信号の反射信号電圧と入射された高周波信号の入射信号電圧とから、各プローブの各反射高周波信号について電圧定在波比を算出する定在波比算出手段と、
各プローブの各反射高周波信号について算出した電圧定在波比情報を逆高速フーリエ変換し、周波数領域の該電圧定在波比情報を時間領域の情報に変換する時間領域変換手段と、
を備え、該時間領域の該電圧定在波比情報に基づき、土壌の水分を求めることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、プローブには金属棒を使用し、それらの金属棒を土壌中に打ち込むように埋設するだけでよく、被測定土壌中へのプローブの設置を簡単に行うことができる。また、被測定区域に配置した1本の信号ケーブルの複数個所に、埋設した金属棒製のプローブの先端を接続し、信号ケーブルの端部に信号源を接続し、検出器を信号源とプローブとの間の信号ケーブルに接続するのみで、信号ケーブルを含む測定機器のセッティングを短時間で且つ少ない工数で簡便に行なうことができる。さらに、金属棒のプローブは、充分な長さのプローブを土壌中に深く打込むことができるので、プローブの土壌への密着性がよく、土壌水分を正確に測定することができる。
【0026】
さらに、土壌水分測定装置によれば、信号源から信号ケーブル及び複数のプローブに高周波の入射信号を入射し、検出器で各プローブなどから反射される反射信号を検出し、入射信号と反射信号から各プローブの電圧定在波比を算出するので、複数のプローブに対し切替を行なうことなく、入射信号を信号ケーブルに一度入力するのみで、各プローブ近傍の土壌水分を測定することができる。また、信号源、検出器、定在波比算出手段、時間領域変換手段などは、汎用のネットワークアナライザからも構成することができるので、比較的低コストで簡便に土壌中の水分を測定することができる。
【0027】
ここで、上記各プローブは、3本の金属棒から構成され、該3本の金属棒を土壌中に所定の間隔で打ち込み、中央の金属棒の上端を上記信号ケーブルの芯線に接続し、両側の2本の金属棒の上端を該信号ケーブルのシールド線に接続することが好ましい。
【0028】
この発明によれば、単純な3本の金属棒からプローブを構成するので、運搬時や埋設時に衝撃を加えたとしても、堅固な構造で破損することはなく、土壌中の所定の深さまで簡単に打ち込むことができる。被測定領域の複数プローブの設置を短時間で少ない工数で行なうことができ、信号ケーブルへの接続も簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の土壌水分測定方法とその測定装置によれば、被測定土壌中へのプローブの設置を簡単に行うことができ、特殊な機器を必要とせず、汎用の演算装置を用いて、正確に安定して簡便に土壌中の水分を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態を示す土壌水分測定装置の構成ブロック図である。
【図2】プローブの使用状態図である。
【図3】プローブを土壌中に打ち込む際の説明図である。
【図4】被測定領域に信号ケーブルとプローブを設置した状態を示す説明図である。
【図5】土壌水分測定処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】複数のプローブから反射された複数の反射波と入射波の合成波の電圧定在波比を算出した際の、入射波の周波数に対する電圧定在波比のグラフ図である。
【図7】複数のプローブから反射された複数の反射波と入射波の合成波の電圧定在波比を算出し、電圧定在波比を逆高速フーリエ変換し、周波数領域の電圧定在波比情報を時間領域の情報に変換した際の、各プローブの電圧定在波比と時間の関係を示すグラフ図である。
【図8】任意の位置のプローブの電圧定在波比とそのプローブ近傍位置の地下水深の関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1の構成ブロック図に示すように、土壌水分測定装置は、被測定領域の土壌中の複数個所に打ち込まれる、金属棒からなるプローブ1と、複数のプローブ1に沿って配置され、各プローブ1の先端が間隔をおいて接続される1本の信号ケーブル2と、信号ケーブル2の端部に接続され、周波数を掃引して高周波信号を信号ケーブルに入射させる信号源3と、信号源3とプローブ1との間の信号ケーブル2に接続され、信号ケーブル2に入射された高周波信号が各プローブ1から反射されて生じる反射高周波信号を検出する検出器6と、を備える。
【0032】
さらに、この土壌水分測定装置は、検出器6で検出され合成された反射高周波信号を高速フーリエ変換して、各プローブ1における各反射高周波信号を抽出し、各プローブ1の各反射高周波信号の反射信号電圧と入射された高周波信号の入射信号電圧とから、各プローブ1の各反射高周波信号について電圧定在波比を算出し、さらに、各プローブ1の各反射高周波信号について算出した電圧定在波比情報を逆高速フーリエ変換し、周波数領域の電圧定在波比情報を時間領域の情報に変換する演算処理装置7と、演算処理装置7で算出された情報を表示器に表示し、或いはネットワークを通して情報を出力する出力装置8を備えている。
【0033】
プローブ1は、図2に示すように、単純な形状の3本の金属棒1a,1b,1cから構成され、金属棒の長さは例えば約50cm〜約300cmに形成され、土壌中に打ち込んだとき、十分な深さの地層に達し、かつ土壌との間に十分な密着性が得られるようになっている。3本の金属棒1a,1b,1cは所定の短い間隔をおいて被測定領域の土壌中に鉛直に差し込まれ、中央の金属棒1aの先端には、信号ケーブル2の芯線2aが接続され、左右両側の金属棒1b、1cの先端には、信号ケーブル2のシールド線(網線)2bに接続され、シールド線2bはグランド接続される。
【0034】
信号ケーブル2には1本の同軸ケーブルが使用され、その信号ケーブル2の所定間隔をおいた複数個所に、上記3本の金属棒1a〜1cからなるプローブ1が各々接続される。なお、1本の同軸ケーブル(信号ケーブル)とは、物理的に連続した1本の同軸ケーブルのほか、複数の同軸ケーブルを直列に接続して1本の信号ケーブルとしたものも含む概念である。
【0035】
信号源3は、周波数掃引を行いながら高周波信号を出力するシンセサイザから構成され、例えば数MHzから数GHzの高周波信号を、連続して周波数掃引し、或いはステップ状に周波数を段階的に変化させ、基準入射信号として信号分離器4に出力するように構成される。信号源3の出力側に接続される信号分離器4は、広帯域で抵抗性の信号分離器であり、信号源3から送られた高周波信号を、方向性結合器5を通して伝送信号(入射信号)として信号ケーブル2側に出力する。信号ケーブル2に高周波の伝送信号が入射されると、信号ケーブル2の終端及び各プローブ1から反射高周波信号が反射されるが、この反射高周波信号は方向性結合器5を通して検出器6に出力されるように構成される。
【0036】
つまり、信号分離器4と信号ケーブル2の間に接続される方向性結合器5は、信号の方向性を有した結合器であり、信号源3から信号分離器4を通して入力された高周波の基準入射信号は、信号ケーブル2に伝送信号として出力する一方、信号ケーブル2の終端及び各プロープ1から反射された反射高周波信号を入力し、この反射高周波信号のみを検出器6に出力するようになっている。
【0037】
検出器6は、信号分離器4から入力した基準入射信号と、方向性結合器5から入力した反射信号を受信する受信器であり、基準入射信号及び反射信号を増幅すると共に、各信号を、局部発振回路からの周波数信号によるミキシングにより、中間周波数信号に変換し、基準入射信号及び反射信号の振幅検波及び位相検波を行なうように構成される。
【0038】
検出器6には、基準入射信号を増幅する増幅回路、増幅された基準入射信号と局部発振回路の周波数信号を混合し中間周波数信号に変換するミキサ、反射信号を増幅する増幅回路、増幅された反射信号と局部発振回路の周波数信号を混合し中間周波数信号に変換するミキサ、特定の周波数範囲のみの信号をフィルタリングする狭帯域の中間周波フィルタ、中間周波数信号を検波する検波回路などが設けられる。検出器6で受信され増幅された基準入射信号と反射信号は、中間周波数信号に変換され、ヘテロダイン検波回路で検波された後、演算処理装置7に送られる。
【0039】
演算処理装置7は、検出器6から送られた基準入射信号と反射信号を、サンプルホールド回路でサンプリングし、サンプルホールドされた信号をA/D変換器でデジタル信号に変換して、デジタル処理プロセッサに取り込むように構成される。演算処理装置7のデジタル処理プロセッサは、合成された各プローブ1の各反射信号と基準入射信号を高速フーリエ変換して、各反射高周波信号を抽出し、その反射信号電圧と入射信号電圧とから各プローブの各反射信号について電圧定在波比を算出する。
【0040】
各プローブの各反射信号についての電圧定在波比VSWRは、
VSWR=(Vin+Vout)/(Vin−Vout
in=|Vin|exp(jωτ)、Vout=|Vout|exp(jω(τ−t))
ここで、j:(−1)-1/2 ω:角周波数(rad/s) τ:時間(s)
t:遅れ時間(s)
の式から算出される。
【0041】
さらに、演算処理装置7は、各プローブの各反射信号の電圧定在波比を逆高速フーリエ変換して合成し、周波数領域の電圧定在波比情報を時間領域の情報に変換し、その時間領域の電圧定在波情報を出力装置8に出力するように構成される。出力装置8は時間領域の電圧定在波比情報を距離に換算して、表示器に表示し、或いはその情報を、ネットワークを通して出力するようになっている。
【0042】
なお、上記構成の信号源3、信号分離器4、方向性結合器5、検出器6、及び演算処理装置7は、汎用のネットワークアナライザにより構成することができる。
【0043】
次に、上記構成の土壌水分測定装置を使用して実施する水分測定方法について説明する。土壌水分の測定を行なう場合、被測定領域に測定機器を設置すると共に複数のプローブ1と1本の信号ケーブル2を敷設する。
【0044】
信号ケーブル2の複数個所(例えば9箇所)に所定間隔をおいてプローブ接続部を設定し、それらのプローブ接続部の位置に、各々、プローブ1の3本の金属棒1a〜1cを土壌中に打ち込む。例えば、土壌水分を測定する被測定領域がため池の堤体である場合、図4のように、信号ケーブル2と9個のプローブ1が設置される。9個のプローブ1は、図4の如く信号ケーブル2に沿ってP1〜P9の位置に配置される。各プローブ1の3本の金属棒1a〜1cは、同じ間隔で配置し同じ深さまで挿入するが、図3に示すような打込み治具9を使用することにより、3本の金属棒1a〜1cを土壌中に簡単かつ鉛直に打ち込むことができる。
【0045】
この打込み治具9は、図3に示すように、3本のパイプ9a〜9cを所定の間隔で縦に並設する形態で、枠フレーム9dに固定して構成され、縦に所定の間隔で立設された3本のパイプ9a〜9cには、各々、金属棒1a〜1cを緩く挿入可能な構造となっている。
【0046】
プローブ1を土壌に埋設するつまり打ち込む場合、このような打込み治具9を埋設箇所に載置し、そのパイプ9a〜9cに、3本の金属棒1a〜1cを上から挿入し、電動ハンマーなどで金属棒1a〜1cの先端部を打ち込めば、例えば、9箇所にプローブ1を設ける場合でも、簡単にかつ短時間でプローブ1を土壌中に打ち込むことができる。また、金属棒1a〜1cは約50cmから約300cmと比較的長く形成されるため、測定しようとする土壌中の浸潤域まで効果的に到達させることが可能である。
【0047】
このような3本の金属棒1a〜1cからなるプローブ1は、上記のように、打込み治具9を使用し、敷設された1本の信号ケーブル2に沿って複数設定された所定箇所に所定間隔で打ち込まれる。次に、図2のように、信号ケーブル2における所定箇所の芯線2aを、各プローブ1の中央の金属棒1aの先端に半田付けなどで接続し、信号ケーブル2のシールド線2bは、各プローブ1の両側の金属棒1b、1cの先端に接続する。
【0048】
このとき、1本の信号ケーブル2と各プローブ1の中央の金属棒1aの位置は容易に位置決めされるため、信号ケーブル2の被覆層を除去すれば、信号ケーブル2の所定位置の芯線及びシールド線に、簡単にプローブ1の金属棒1a〜1cを半田付けなどで接続することができる。そして、信号ケーブル2の末端は、土壌水分測定装置の方向結合器5の出力端子に、コネクタ接続し、土壌水分の測定を行なう。
【0049】
図5のフローチャートに示すように、土壌水分の測定に際し、先ず、ステップ100で、土壌水分測定装置(ネットワークアナライザ)に、入射信号の周波数掃引の方式、スタート周波数及びエンド周波数、入射信号の電圧・電流値などの基礎定数を入力し、測定開始用スイッチをオンして水分測定を開始する。
【0050】
土壌水分の測定をスタートすると、ステップ110で、信号源3から高周波信号が周波数掃引して出力され、高周波の入射信号が掃引されながら、信号分離器4及び方向性結合器5を通して信号ケーブル2に入射される。掃引する高周波の周波数は、例えば50MHz〜300MHzの範囲である。このとき、入射高周波信号の電力の一部が信号分離器4で分離され、基準入射信号として検出器6に送られる。
【0051】
入射高周波信号が信号ケーブル2に入射されると、信号ケーブル2の終端及び各プローブ1のインピーダンス不整合部分からそのインピーダンスに応じた反射高周波信号が発生し、それらの反射高周波信号は方向性結合器5を通して検出器6に入力される(ステップ120)。
【0052】
検出器6は、この基準入射信号と反射高周波信号を入力すると、基準入射信号及び反射高周波信号を増幅し、それらの信号を中間周波数に変換した後、ヘテロダイン検波を行って入射信号と反射信号を検出し、これらの信号を演算処理装置7に送出する(ステップ120)。
【0053】
演算処理装置7は、基準入射信号と反射高周波信号を入力すると、それらの信号を、サンプルホールド回路でサンプリングし、サンプルホールドされた信号をA/D変換器でデジタル信号に変換した後、デジタル処理プロセッサが、合成された各プローブ1の各反射高周波信号情報を高速フーリエ変換する(ステップ130)。この高速フーリエ変換により、合成された複数の周波数成分をもつ信号から、各プローブに対応した反射信号が抽出され、その反射信号電圧と入射信号電圧とから各プローブの各反射信号について電圧定在波比が算出される。この各プローブの各反射信号について算出した電圧定在波比情報は、周波数に対するグラフとして、図6に示すように、表示される。
【0054】
次に、演算処理装置7は、ステップ140にて、上記ステップ130で算出された各プローブについての電圧定在波比情報を逆高速フーリエ変換する。この逆高速フーリエ変換により、各プローブについての電圧定在波比情報が合成され、且つ周波数領域の電圧定在波比情報が時間領域の情報に変換される。時間領域に変換された状態の電圧定在波比情報は、図7に示すように、各プローブ1に対応した電圧定在波比が極大値として表れる。
【0055】
図7のグラフの横軸は時間を表し、各プローブから反射して検出器6に到達するまでの時間、つまりその時間に電磁波の速度(光速)を乗算すれば、プローブまでの距離を示すことになる。したがって、図7において、最も左側で最初の時間に生じた、最大の極大値が、信号ケーブル2の最も元部側のP1位置のプローブ1に対応した極大値であり、左から2番目の極大値が信号ケーブル2の元部側から2番目のP2位置のプローブ1に対応した極大値であり、同様に左から3番目の極大値が信号ケーブル2のP3位置のプローブ1に対応した極大値であるように、電圧定在波比の極大値が現れる。
【0056】
次に、ステップ150で、図7に示すような、各プローブ1に対応した電圧定在波比の極大値を読み取り、次のステップ160で、これらの電圧定在波比の極大値から土壌水分濃度を求める。つまり、図7のグラフの左から1番目の極大値の読みから、P1位置のプローブ1近傍における土壌の水分が求められ、左から2番目の極大値の読みから、P2位置のプローブ1近傍における土壌の水分が求められ、左から3番目の極大値の読みからP3位置のプローブ1近傍における土壌の水分が求められ、同様な手法により、P4からP9位置のプローブ1近傍の土壌水分が、図7のグラフの極大値から求められる。
【0057】
信号ケーブル2及びプローブ1を含む信号伝送路の電圧定在波比は、伝送路に入射波を入射した際の反射波がインピーダンス不整合部分のインピーダンスに応じて発生することから、信号伝送路のインピーダンスに依存し、そのインピーダンスとプローブ1周囲の土壌の比誘電率とは一定の関係にあり、土壌の比誘電率は土壌の含水率に応じて鋭敏に変化する。また、土壌の体積含水率と土壌の比誘電率の関係は予め実験により求めておくことができる。したがって、各プローブ1から反射される各反射高周波信号を検出し、各プローブ1からの反射高周波信号の電圧定在波比を算出し、その電圧定在波比に基づき、土壌の水分を求めることができる。
【0058】
図8は本発明の効果を確認するために行なった検証例の結果を示すグラフである。この検証例では、図4の被測定領域におけるP1〜P9の位置近傍に、地下水位観測井を掘削し、そこに水位計を設置して地下水位を測定しつつ、上記の土壌水分測定方法を実施し、P1〜P9位置の各プローブ1から反射される各反射高周波信号を検出し、各プローブ1からの反射高周波信号の電圧定在波比を算出した。
【0059】
土壌水分測定の検証は、被測定領域の土壌をサンプリングし、サンプリングした土壌の含水率を実際に測定することが理想であるが、土壌のサンプリングによる水分測定は、土壌を撹乱する結果となり、連続的な計測が不可能となるため、地下水位観測井に水位計を設置しそこから地下水位を計測した。
【0060】
図8のグラフから、地下水位とその近傍のプローブから反射される反射高周波信号の電圧定在波比(VSWR)とが一定の関係を示し、地下水位の上昇つまり土壌の浸潤に応じて電圧定在波比(VSWR)が上昇することがわかる。これにより、金属棒のプローブ1を打ち込んだ被測定領域の土壌水分は、そのプローブに入射高周波信号を入射した際の、反射高周波信号の電圧定在波比を測定することにより、求めることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 プローブ
2 信号ケーブル
3 信号源
4 信号分離器
5 方向性結合器
6 検出器
7 演算処理装置
8 出力装置
9 打込み治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定領域の土壌中の複数個所に金属棒からなるプローブを打ち込み、該複数のプローブに沿って1本の信号ケーブルを配置し、該複数のプローブの先端と信号ケーブルの対応箇所を接続する一方、該信号ケーブルに高周波信号を出力する信号源を該信号ケーブルの端部に接続し、該信号源と該プローブとの間の該信号ケーブルに検出器を接続し、該信号源から該信号ケーブルに高周波信号を入射したとき、該各プローブから反射される反射高周波信号を検出して、被測定領域の土壌の水分を測定する土壌水分測定方法であって、
該信号源から信号ケーブルに高周波信号を周波数掃引して入射する工程と、
該信号ケーブルの終端及び該各プローブから反射された反射高周波信号を該検出器に入力して検出する工程と、
該検出器で検出され合成された反射高周波信号を高速フーリエ変換して、各プローブにおける各反射高周波信号を抽出し、各プローブの各反射高周波信号の反射信号電圧と入射された高周波信号の入射信号電圧とから、各プローブの各反射高周波信号について電圧定在波比を算出する定在波比算出工程と、
各プローブの各反射高周波信号について算出した電圧定在波比情報を逆高速フーリエ変換して合成し、周波数領域の該電圧定在波比情報を時間領域の情報に変換する工程と、
時間領域の該電圧定在波比情報に基づき、被測定領域の土壌中の水分を求める工程と、
を含むことを特徴とする土壌水分測定方法。
【請求項2】
前記各プローブは3本の金属棒から構成され、該3本の金属棒を土壌中に打ち込む際、該3本の金属棒を挿入する3本のパイプを並設した位置決め用治具を使用して、該3本の金属棒を所定の間隔で被測定領域の地表から土壌中に打ち込むことを特徴とする請求項1記載の土壌水分測定方法。
【請求項3】
被測定領域の土壌中の複数個所に埋設される金属棒からなるプローブと、
該複数のプローブに沿って配置され、該各プローブの先端が間隔をおいて接続される1本の信号ケーブルと、
該信号ケーブルの端部に接続され、周波数を掃引しながら高周波信号を該信号ケーブルに入射させる信号源と、
該信号源と該プローブとの間の該信号ケーブルに接続され、該信号ケーブルに入射された高周波信号が各プローブから反射されて生じる反射高周波信号を検出する検出器と、
該検出器で検出され合成された反射高周波信号を高速フーリエ変換して、各プローブにおける各反射高周波信号を抽出し、各プローブの各反射高周波信号の反射信号電圧と入射された高周波信号の入射信号電圧とから、各プローブの各反射高周波信号について電圧定在波比を算出する定在波比算出手段と、
各プローブの各反射高周波信号について算出した電圧定在波比情報を逆高速フーリエ変換して合成し、周波数領域の該電圧定在波比情報を時間領域の情報に変換する時間領域変換手段と、
を備え、該時間領域の該電圧定在波比情報に基づき、土壌の水分を求めることを特徴とする土壌水分測定装置。
【請求項4】
前記各プローブは3本の金属棒から構成され、該3本の金属棒が土壌中に所定の間隔で打ち込まれ、中央の金属棒の上端が前記信号ケーブルの芯線に接続され、両側の2本の金属棒の上端が該信号ケーブルのシールド線に接続されることを特徴とする請求項3記載の土壌水分測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−191208(P2011−191208A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58378(P2010−58378)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(510071943)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(597142505)NTCコンサルタンツ株式会社 (4)
【出願人】(000142067)株式会社共和電業 (52)
【出願人】(000001177)株式会社光電製作所 (32)