説明

土壌DNA抽出−PCR法による土壌中ダイズ黒根腐病菌の迅速検出法

【課題】土壌伝染性のダイズ黒根腐病菌を迅速に検出する。
【解決手段】圃場の表面から深さ5cmまでの土壌から土壌試料を採取し、通風乾燥機を用いて60℃で乾燥する。乾燥した土壌試料約0.5gから土壌DNA抽出キットを用いて、全土壌DNAを抽出する。抽出した全土壌DNAをテンプレートとし、ダイズ黒根腐病菌のマーカー遺伝子(β-tubulin遺伝子)に特異的なプライマーセットを用いてPCR増幅する。増幅産物をアガロースゲルで電気泳動して、泳動ゲルのDNAバンドにより、ダイズ黒根腐病菌マーカー遺伝子を検出する。検出したDNAバンドによりダイズ黒根腐病菌の存在を検出し、バンドの濃さから菌密度を半定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌伝染性のダイズ黒根腐病菌を迅速に検出する技術であり、土壌から抽出した全DNAに含まれるダイズ黒根腐病菌マーカー遺伝子を特異的にPCR増幅させ、半定量的に検出する技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、日本各地でダイズ黒根腐病が多発している。この理由は明らかでないが、ダイズの連作により発生するケースが多い。ダイズ黒根腐病が発生すれば、ダイズの生育は強く阻害され、収量も大きく減少する。ダイズ黒根腐病に対する有効な対処技術は開発されておらず、ダイズ黒根腐病が多発すれば、ダイズ栽培を止めるしかない。ダイズ黒根腐病は土壌感染性であるため、ダイズを作付けする前に土壌中における病原菌の存在を知ることができれば、土壌消毒や作目変更等の対応が可能であるが、これまでダイズではそのような技術はなかった(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−269966
【特許文献2】特開2006−151898
【特許文献3】特開2007−202529
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
土壌試料からのダイズ黒根腐病菌の検出は難しく、定量的な解析は不可能であった。ダイズ黒根腐病菌の検出には、その土壌に生えている病徴を示すダイズ植物体試料から検出するしかなく、土壌試料を用いて迅速にダイズ黒根腐病菌を検出する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
土壌試料から全DNAを抽出し、ダイズ黒根腐病菌に特異的なマーカー遺伝子をターゲットとするプライマーを用いてPCR増幅し、増幅産物をアガロースゲルで電気泳動して、ダイズ黒根腐病菌マーカー遺伝子を検出する。
【0006】
(土壌DNAの抽出方法)
土壌試料を60℃で乾燥し、約0.5g秤量する。土壌試料をDNA抽出キット(Soil DNA Isolation
Kit,MO Bio)を用いて、土壌中の全DNAを抽出する。
【0007】
(土壌試料の採取方法)
一つの圃場から数点ずつ土壌試料を採取する。採取点数は、面積が一反(10アール)につき最低4地点から採取する。深さは表面から5cmの間とし、約500g採取する。採取した土壌試料は、解析に供するまで冷蔵保存する。
【0008】
(土壌試料の前処理方法)
土壌試料(生土)を、60℃で24時間通風乾燥する。乾燥土壌試料を、乳鉢を用いて微粉砕する。
【0009】
(土壌DNAの抽出方法)
乾燥土壌試料を、約0.5g秤量する。土壌試料を土壌DNA抽出キット(Soil DNA Isolation Kit,MO Bio)を用いて、土壌中の全DNAを抽出する。
【0010】
(マーカー遺伝子を増幅するプライマーの作成)
土壌中のダイズ黒根腐病菌を検出するためには、ダイズ黒根腐病菌が持つ遺伝子のみをPCR増幅する必要がある。ダイズ黒根腐病菌が持つ遺伝子のうち、配列表に示すようにHistone H3、およびβ-tubulin遺伝子領域を増幅するプライマーセットを設計した。
なお、プライマーセット1は配列番号1および配列番号2の組合せ、プライマーセット2は配列番号2および配列番号3の組合せである。
【0011】
(PCR増幅と検出方法)
ダイズ黒根腐病菌2菌株に対して、Histone H3、およびβ-tubulin遺伝子領域に設計した合計3種のプライマーセットを用いてPCR増幅を行った。その後、PCR増幅産物を、アガロースゲルを用いて電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色した。染色した泳動ゲルを、トランスイルミネーターで紫外線照射し、バンドを検出した。
【発明の効果】
【0012】
従来のダイズ黒根腐病菌検出方法では、時間や手間もかかり、ダイズ栽培前の検出は不可能であった。本方法を用いることにより土壌中のダイズ黒根腐病菌を短時間で検出できるだけでなく、腐病菌の半定量も可能になるため、ダイズ栽培前にダイズ黒根腐病が発生する可能性を判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】3種のプライマーセットによるダイズ黒根腐病菌の検出
【図2】プライマーセット1(β-tubulin)の検出限界
【発明を実施するための形態】
【0014】
ダイズを作付けする予定の土壌を、あらかじめ採取する。本検出法を用いて土壌中のダイズ黒根腐病菌の存在・菌密度を調査し、ダイズ黒根腐病発生の危険性の情報を得ることで、土壌消毒や作目変更などの対策をとる。
【実施例】
【0015】
(プライマーの検証)
いずれの菌株においても、安定して遺伝子の増幅が認められたプライマーセットは、β-tubulin領域に設計した2種のプライマーセット1とプライマーセット2のみであった。そこで図1に示す3種のうち、これらのプライマーセットについての検出限界を検討した結果、図2に示すようにプライマーセット1(β-tubulin)では、DNA濃度が反応液あたり5pg/μlまで検出可能であった。加えて、本プライマーセット1は、茎疫病菌、白絹病菌、菌核病菌では遺伝子の増幅が認められなかったことから、本プライマーセット1の特異性が実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌DNAを抽出し、ダイズ黒根腐病菌のマーカー遺伝子(β-tubulin)のみを特異的にPCR増幅させ、土壌中におけるダイズ黒根腐病菌を迅速検出する方法。
【請求項2】
請求項1に記載のダイズ黒根腐病菌のマーカー遺伝子(β-tubulin)のみを増幅する、配列表に示す配列番号1と配列番号2からなるプライマーセット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−147699(P2012−147699A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7527(P2011−7527)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)
【Fターム(参考)】