説明

土木建築用目地シール材とそれを用いたシールドトンネル構造物のシール構造

【課題】 シールドトンネルのセグメントのようなコンクリート構造物などの目地の止水において、これに用いるシール材を装着するための凹溝を形成するスペースが比較的狭い場合であっても、火災発生時の炎や熱によっても止水機能が失われることのないシール構造を可能にする土木建築用目地シール材とそれを用いたシールドトンネル構造物のシール構造を提供すること。
【解決の手段】 長手方向に延在する水膨張性ゴムからなる止水部と、該止水部の長手方向に沿って延在する熱膨張性ゴムからなる断熱部とが接合一体化されていることを特徴とする帯状の土木建築用目地シール材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次覆工コンクリート省略型のシールドトンネルなどにおいて、火災発生時の熱によりセグメント間に装着されている水膨張性シール材が劣化し、地下水を遮断する効果が失われることを防止した土木建築用目地シール材とそれを用いたシールドトンネル構造物のシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールド工法によりコンクリート製などのセグメントを組み立てて形成されるトンネルにおいては、トンネル内に地下水が侵入するのを遮断するために、隣接するセグメントの接合面間に、トンネル内面に沿った方向に水膨張性ゴム製シール材を介在させるシール構造が採られている。
【0003】
一方、大深度地下開発における自動車専用道としてシールドトンネル工事が今後増加することが予想される。しかし、シールドトンネル工事は費用が嵩むため、二次覆工コンクリートを省略して掘削断面を小さくすることにより、搬出土量を抑え、また、掘削機械も小型化し、セグメントの外径を小さくするなどの省力化が必要である。このような二次覆工コンクリート省略型のシールドトンネルにおいては、万一火災が発生すると、セグメント間の地下水遮断用シール材が焼失したり熱による損傷を被り、トンネルのシール構造に重大な支障を来すことになる。
【0004】
シールドトンネルにおいてセグメント接合面間に装着されている地下水遮断用シール材が上述のように火災発生時に火や熱により損傷を受けて、地下水を遮断する効果が失われることを防止するため、セグメント接合面間のセグメント内面側縁部に接近した位置に耐熱性の通気遮断材を介在させたもの(例えば、特許文献1参照。)やセグメント接合端部の目地開口部にペースト状無機質材料を充填したもの(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。
しかしながら、特許文献1に示されるセグメント内面側縁部に接近した位置に形成した凹溝に無機繊維からなる通気遮断材を嵌め込んだ場合は、火災時の熱によるセグメント接合面間の隙間の変動に通気遮断材が追随できず、また、特許文献2に示されるセグメント接合端部の目地開口部にペースト状無機質材料を充填した場合は、火災時の熱の影響で充填物が脱落するおそれもある。
そのため、本出願人は、火災時の熱によるセグメント接合面間の隙間の変動にも追随でき、また、脱落するおそれもない防火部材により、火災発生時の火や熱を遮断し、シール材の機能を有効に保護することを目的として、シールドトンネル構造物のセグメントの接合面に形成した凹溝内に水膨張性ゴム製シール材を装着するとともに、シールドトンネル構造物の内空側に形成した第二の凹溝内に熱膨張性ゴム製断熱材を装着してなるシールドトンネルの耐火シール構造について提案した(特許文献3参照。)。
しかしながら、特許文献3に示されるシール構造は、セグメントの接合面において、断熱材を装着する凹溝を余分に形成するため、接合面の坑内側に設けた継手より地山側のシール材を装着するための凹溝を形成するスペースが十分に広い場合は問題ないが、セグメント桁高が小さい場合やセグメント継手金物が大きい場合には、凹溝を形成するスペースが比較的狭いため、水膨張性シール材を装着するための凹溝が地山側端縁にかなり近接して形成せざるを得なくなり、その結果としてセグメント組み込み時に悪影響が出る可能性がある。
【0005】
【特許文献1】特開2002−227594号公報
【特許文献2】特開2001−207800号公報
【特許文献3】特願2003−298061号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消するためになされたもので、シールドトンネルのセグメントのようなコンクリート構造物などの目地の止水において、これに用いるシール材を装着するための凹溝を形成するスペースが比較的狭い場合であっても、セグメント組み込み時の偏荷重によりセグメントにクラックが発生しないよう、地山側端縁から十分な距離を置いて凹溝を形成することができ、火災発生時の炎や熱によっても止水機能が失われることのないシール構造を可能にする土木建築用目地シール材とそれを用いたシールドトンネル構造物のシール構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、シール材と断熱材を一体化することにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は、長手方向に延在する水膨張性ゴムからなる止水部と、該止水部の長手方向に沿って延在する熱膨張性ゴムからなる断熱部とが接合一体化されていることを特徴とする帯状の土木建築用目地シール材にある。
前記土木建築用目地シール材は、前記止水部と前記断熱部との間に両部の長手方向に沿って中間部が介在しているものでもよく、前記中間部は水膨張性と熱膨張性を共に有する膨張性ゴム又は水膨張性と熱膨張性を共に有しない非膨張性ゴムからなる。
また、本発明の要旨は、複数のセグメントのそれぞれの端面を互いに接合して構築されるシールドトンネル構造物のシール構造であって、前記土木建築用目地シール材が前記セグメントの接合面に形成した凹溝内に前記断熱部が前記シールドトンネル構造物の内空側に配置されるように装着されていることを特徴とするシールドトンネル構造物のシール構造にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱膨張性ゴムからなる断熱部が水膨張性ゴムからなる止水部と接合一体化されているので、熱膨張性ゴム製断熱材を用いるときの利点をそのまま活かしながらさらに改善され、複合シール材を一条用いればよいので、二条の部材を用いる場合と比較して、シール材を装着するための凹溝を形成するスペースが比較的狭いセグメントであっても、組み込み時に悪影響が出ないよう、地山側端縁から十分な距離を置いて凹溝を形成することができ、また、シール材とともに断熱材を装着する労力、時間及び費用を軽減することのできる土木建築用目地シール材とそれを用いたシールドトンネル構造物のシール構造が得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0010】
図1は本発明に係る土木建築用目地シール材の横断面図である。
図1の(a)においては帯状の目地シール材1は長手方向に延在する水膨張性ゴムからなる止水部11と、止水部11の長手方向に沿って延在する熱膨張性ゴムからなる断熱部12とが接合一体化されており、図1の(b)においては止水部11と断熱部12との間に両部の長手方向に沿って中間部13が介在している。
【0011】
図2は本発明に係る土木建築用目地シール材を用いたシールドトンネルのシール構造の一例を示す断面図である。
図2に示される本発明のシール構造は、セグメント2の接合面2a,2bの互いに対向する位置に、トンネル内面に沿った方向に目地シール材装着用の凹溝21,21を予めセグメント成形時に形成しておき、この各凹溝21内に目地シール材1を嵌合する。目地シール材1は断熱部12がシールドトンネル構造物の内空側に配置されるように装着される。
【0012】
止水部11は、トンネル内で火災が発生してセグメントの接合面間に多少の隙間が生じても、地下水を吸収して膨張する性質を有する水膨張性ゴムからなることが必要であり、クロロプレンゴムなどの合成ゴムや熱可塑性エラストマーに高吸水性樹脂や吸水性無機物を練り混んだものを帯状に成形して形成される。高吸水性樹脂を用いる場合、その配合量は、ゴムバインダー100重量部に対して50〜200重量部程度である。
【0013】
断熱部12は、トンネル内で火災が発生したときにその熱で膨張する性質を有する熱膨張性ゴムからなることが必要であり、通常、水膨張性ゴムに用いるのと同様のゴム弾性を有する物質に熱膨張性無機物を練り混んだものを帯状に成形して形成される。
【0014】
上記の熱膨張性無機物としては、加熱により膨張する従来公知の層状無機物、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛が挙げられるが、これらの中でも、比較的低温で膨張を開始する熱膨張性黒鉛が好ましい。熱膨張性黒鉛は、グラファイト粉末を強酸化剤で処理して得られる層状構造のグラファイト層間結晶化合物である。
上記熱膨張性無機物の粒度は、十分な膨張度と分散性を得るために、20〜200メッシュ程度が好ましく、配合量は、断熱部12が十分な防火性能と強度を得るために、ゴムバインダー100重量部に対して30〜300重量部程度である。
また、断熱部12のゴムバインダーには、熱膨張性無機物とともに、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムなどの無機充填剤やリン化合物などの難燃剤を適宜配合することができる。
【0015】
止水部11と断熱部12とは、別々に成形したものを接着剤で接合してもよいが、共押出成形により接合一体化するのが生産上有利である。また、必要に応じて、成形して一体化した止水部11と断熱部12を同時に加硫する。
【0016】
本発明の目地シール材1は、図1の(b)に示すとおり、止水部11と断熱部12の間に中間部13を介在させ、三層を接合一体化した構造のものとすることができる。
【0017】
中間部13は、水膨張性と熱膨張性を共に有する膨張性ゴム又は水膨張性と熱膨張性を共に有しない非膨張性ゴムからなるものが好ましく、ゴム質成分として止水部11及び断熱部12に用いられるゴム又はエラストマーを用いることができるが、異種のものを用いてもよい。水膨張性と熱膨張性を付与する場合、止水部11及び断熱部12に用いられる吸水性物質と熱膨張性物質をゴム質バインダーに練り混む。
【0018】
止水部11と断熱部12と中間部13とは、共押出成形により接合一体化することができ、必要に応じて、成形して一体化した三つの層を同時に加硫する。
【0019】
目地シール材装着用の凹溝21はセグメント2の接合面2a,2bのいずれか一方にのみ形成し、この凹溝21内に目地シール材1を嵌合して、他の接合面は平坦にしておくこともできる。
【0020】
上記のようにして凹溝21内に目地シール材1を装着したセグメント2,2を接合面2a,2b間で接合させる。これによって、対向位置の凹溝21,21内の目地シール材1,1が弾性的に接触する。
【0021】
上記のシール構造を有するトンネル内で火災が発生すると、高熱によって断熱部12が膨張して断熱性を発現し、セグメント2の接合面2a,2b間における断熱部12より内部への熱の伝播を有効に遮断するので、止水部11の遮水機能を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の目地シール材は、シールドトンネルにおけるセグメントの接合面や建築用コンクリート構造物の目地の止水に用いられる水膨張性止水材が火災発生時の熱により止水機能を失わないよう、炎や熱の伝播を熱膨張層により遮断するものであり、特に桁高の薄いセグメントや継手の構造上取り付けスペースに制約があるセグメント、コンクリート壁の薄いコンクリート二次製品などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る土木建築用目地シール材の横断面図である。
【図2】本発明に係る土木建築用目地シール材を用いたシールドトンネルのシール構造の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 目地シール材
11 止水部
12 断熱部
13 中間部
2 セグメント
2a,2b セグメントの接合面
21 凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延在する水膨張性ゴムからなる止水部と、該止水部の長手方向に沿って延在する熱膨張性ゴムからなる断熱部とが接合一体化されていることを特徴とする帯状の土木建築用目地シール材。
【請求項2】
前記止水部と前記断熱部との間に両部の長手方向に沿って中間部が介在している請求項1に記載の土木建築用目地シール材。
【請求項3】
前記中間部が水膨張性と熱膨張性を共に有する膨張性ゴム又は水膨張性と熱膨張性を共に有しない非膨張性ゴムからなる請求項2に記載の土木建築用目地シール材。
【請求項4】
複数のセグメントのそれぞれの端面を互いに接合して構築されるシールドトンネル構造物のシール構造であって、請求項1〜3のいずれかに記載の土木建築用目地シール材が前記セグメントの接合面に形成した凹溝内に前記断熱部が前記シールドトンネル構造物の内空側に配置されるように装着されていることを特徴とするシールドトンネル構造物のシール構造。

【図1】
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【図2】
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