説明

土木構造物

【課題】斜面に設置するための平坦面を形成する際に撤去する土砂等の量を減少すると共に、作用する外力を減少することができる土木構造物を提供する。
【解決手段】斜面90の一部に該斜面の傾斜角度よりも大きな傾斜角度の掘削面92が形成され、掘削面92に繋がって形成された平坦面91に設置される土木構造物100は鋼製枠110を有し、鋼製枠110を形成する掘削面92に近い方の後面2が、上方になる程、掘削面92に近づく方向に傾斜している(後面傾斜角θ1>90°)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土木構造物、特に、傾斜地の斜面に設置され、土留、堰堤、擁壁等として使用される土木構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土留、堰堤、擁壁等として使用される土木構造物として、鋼製枠内に玉石や砕石を中詰材として充填したものが知られている。そして、直方体(四角形の面から形成されている)の鋼製枠を形成する鋼材の使用量を少なくする目的で、四角形の面に斜め材(ブレース)を設けず、該面を平行四辺形に変形容易にした発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−209987号公報(第3−5頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された土木構造物は、土木構造物に作用する外力の一部を中詰材のせん断抵抗力が負担する構造であるため、鋼製枠の負担が減少し、これを形成する鋼材の使用量を少なくすることができるものの、直方体であることから、斜面に設置する際、撤去する土砂の量(「余掘り距離」に同じ)が減少するものではなかった。
このため、撤去する土砂の量を減少することができる土木構造物が求められていた。また、土木構造物に作用する外力自体を減少することができる土木構造物が求められていた。
【0005】
本発明は、このような要請に応えるものであって、斜面に設置するための平坦面を形成する際に撤去する土砂等の量を減少すると共に、作用する外力を減少することができる土木構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る土木構造物は、斜面の一部に該斜面の傾斜角度よりも大きな傾斜角度の掘削面が形成され、該掘削面に繋がって形成された平坦面に設置される土木構造物であって、鋼製枠と、該鋼製枠の内部に充填された中詰材と、を有し、
前記鋼製枠を形成する前記掘削面に近い方の面である後面が、該後面と前記平坦面との交線における前記平坦面に垂直な面に対して前記掘削面側に傾斜していることを特徴とする。
(2)前記(1)において、前記鋼製枠と前記中詰材とを合計した重量の重心が、前記鋼製枠内に位置していることを特徴とする。
【0007】
(3)前記(1)または(2)において、前記鋼製枠は六面体であって、前記後面、前記後面に対向する前面、前記平坦面に当接する底面、および該底面に対向する天面に前記中詰材を通過不能にする面部材が設置されていることを特徴とする。
(4)前記(1)乃至(3)の何れか1において、前記鋼製枠は六面体であって、前記後面、前記後面に対向する前面、前記平坦面に当接する底面、および該底面に対向する天面のそれぞれの端縁によって包囲された面である端面に、ブレース材が対角線状に設置されていることを特徴とする。
(5)前記(1)乃至(4)の何れか1において、前記鋼製枠は六面体であって、前記後面、前記後面に対向する前面、前記平坦面に当接する底面、および該底面に対向する天面のそれぞれの端縁によって包囲された面である端面よりも外側に突出する継手板が、前記後面の端縁における前記底面および前記天面の位置と、前記前面の端縁における前記底面および前記天面の位置とにそれぞれ設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る土木構造物は、鋼製枠を形成する後面(掘削面側の面)が、上方になる程、掘削面に近づく方向に傾斜しているため、斜面の土砂等を撤去して鋼製枠を設置するための平坦面を形成する際、撤去する土砂等の量が減少するから、施工が迅速になり、施工コストの低廉化、および施工期間の短縮を図ることができる。
また、後面に作用する外力(クーロン土圧)が減少するから、鋼製枠の大きさ(幅)を小型(幅や肉厚の減少等)にしたり、強度の低い鋼材を使用したりすることが可能になり、素材コストの低廉化を図ることができる。
さらに、土木構造物は自立するから、これを転倒不能に支持する必要がなく、施工が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1に係る土木構造物を説明する鋼製枠を示す斜視図。
【図2】図1に示す鋼製枠を示す側面図、背面図、正面図、平面図、底面図。
【図3】本発明の実施の形態1に係る土木構造物を説明する正面図。
【図4】図1に示す鋼製枠の重心を算出する方法を説明するための模式図。
【図5】図1に示す鋼製枠における余堀りを説明するための模式図。
【図6】図3に示す土木構造物に作用するクーロン土圧を説明するための模式図。
【図7】図1に示す鋼製枠の後面が鉛直となす角αと主働土圧係数Kaとの関係を示す相関図。
【図8】本発明の実施の形態2に係る土木構造物を説明する鋼製枠を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態1]
図1〜図7は本発明の実施の形態1に係る土木構造物を説明するものであって、図1は鋼製枠を示す斜視図、図2の(a)は鋼製枠を示す側面図、図2の(b)は鋼製枠を示す背面図、図2の(c)は鋼製枠を示す正面図、図2の(d)は鋼製枠を示す平面図、図2の(e)は鋼製枠を示す底面図、図3は鋼製枠に中詰材が充填された状態を示す正面図、図4の(a)および(b)は図1に示す鋼製枠の重心を算出する方法を説明するための模式図、図5の(a)〜(c)は図1に示す鋼製枠における余堀りを説明するための模式図、図6は図3に示す土木構造物に作用するクーロン土圧を説明するための模式図、図7は図1に示す鋼製枠の後面が鉛直となす角αと主働土圧係数Kaとの関係を示す相関図である。
なお、各図は模式的に示すものであって、本発明は図示された形態に限定されるものではない。
【0011】
図1〜図3において、土木構造物100(図3参照)は、枠体である鋼製枠(鋼製続枠に同じ)110と、鋼製枠110内に充填された玉石、砕石等(以下、「中詰材120」と称す)とを有している。なお、図1および図2では中詰材120の記載を省略している。
鋼製枠110は内部に中詰材120が充填される6面体であって、台形または平行四辺形の端面1a(交差部イ−交差部ロ−交差部ハ−交差部ニによって囲まれている)と、端面1aに面対称の端面1b(交差部ホ−交差部ヘ−交差部ト−交差部チによって囲まれている)と、四角形の後面2(交差部イ−交差部ロ−交差部ヘ−交差部ホによって囲まれている)と、四角形の前面3(交差部ニ−交差部ハ−交差部ト−交差部チによって囲まれている)と、四角形の天面4(交差部イ−交差部ニ−交差部チ−交差部ホによって囲まれている)と、四角形の底面5(交差部ロ−交差部ハ−交差部ト−交差部ヘによって囲まれている)とを有している。
【0012】
(端面)
端面1aは、後フレーム材11aと、底ツナギ材12a、前フレーム材13aと、天ツナギ材14aとによって枠部分が形成されている。後フレーム材11aと底ツナギ材12aとは端面継手板16aを介して接続され、底ツナギ材12aと前フレーム材13aとは端面継手板17aを介して接続され、前フレーム材13aと天ツナギ材14aとは端面継手板18aを介して接続され、天ツナギ材14aと後フレーム材11aとは端面継手板15aを介して接続されている。また、両端がそれぞれ端面継手板16a(交差部ロ)と端面継手板18a(交差部ニ)とに接続されたブレース19aが設置されている。なお、前記接続の形態は限定するものではなく、ピン接続にしてもよい。
このとき、後フレーム材11aと底ツナギ材12aとがなす角度(以下、「後面傾斜角θ1」と称す)は鈍角で、前フレーム材13aと底ツナギ材12aとがなす角度(以下、「前面傾斜角θ2」と称す)は鋭角または直角である。
なお、端面1bは端面1aと面対称な形状であって、端面1aを構成する各部材の符号「a」を「b」に、交差部を示す符号「イ、ロ、ハ、ニ」をそれぞれ「ホ、ヘ、ト、チ」に読み替えたものに同じであるから、説明を省略する。
【0013】
(後面)
後面2は、後フレーム材11aと、後底ビーム材21と、後フレーム材11bと、後天ビーム材22とによって枠部分が形成されている。後フレーム材11aと後底ビーム材21とは後面継手板23aを介して接続され、後底ビーム材21と後フレーム材11bとは後面継手板23bを介して接続され、後フレーム材11bと後天ビーム材22とは後面継手板24bを介して接続され、後天ビーム材22と後フレーム材11aとは後面継手板24aを介して接続されている。
そして、両端がそれぞれ後底ビーム材21と後天ビーム材22とに接続された後面材25が、所定間隔を空けて複数設置されている。後面材25は、内部に充填される中詰材120の散逸を防止すると共に、土木構造物100に作用する力を中詰材120に伝達するためのものである。なお、前記接続の形態は限定するものではなく、ピン接続にしてもよい。また、後面材25は全て同一形状であるものに限定するものではなく、一部を剛性の高いものにしてもよい。さらに、両端が後フレーム材11aと後フレーム材11bとに接続された後面材25を設置してもよい。
【0014】
(前面)
前面3は、後面2と同様の構造であって、前フレーム材13aと、前底ビーム材31と、前フレーム材13bと、前天ビーム材32とによって枠部分が形成されている。前フレーム材13aと前底ビーム材31とは前面継手板33aを介して接続され、前底ビーム材31と前フレーム材13bとは前面継手板33bを介して接続され、前フレーム材13bと前天ビーム材32とは前面継手板34bを介して接続され、前天ビーム材32と前フレーム材13aとは前面継手板34aを介して接続されている。
そして、内部に充填される中詰材120の散逸を防止するための複数の前面材35が所定の間隔を空けて設置され、その両端がそれぞれ前底ビーム材31と前天ビーム材32とに接続されている。なお、前記接続の形態は限定するものではなく、ピン接続にしてもよい。また、前面材35は全て同一形状であるものに限定するものではなく、一部を剛性の高いものにしてもよい。さらに、両端が前フレーム材13aと前フレーム材13bとに接続された前面材35を設置してもよい。
【0015】
(天面)
天面4は、天ツナギ材14aと、前天ビーム材32と、天ツナギ材14bと、後天ビーム材22とによって枠部分が形成されている。そして、両端がそれぞれ前天ビーム材32と後天ビーム材22とに接続された天面材41が、所定間隔を空けて複数設置されている。天面材41は、内部に充填される中詰材120の散逸を防止する。なお、前記接続の形態は限定するものではなく、ピン接続にしてもよい。また、天面材41は全て同一形状であるものに限定するものではなく、一部を剛性の高いものにしてもよい。さらに、両端が天ツナギ材14aと天ツナギ材14bとに接続された天面材41を設置してもよい。
【0016】
(底面)
底面5は、底ツナギ材12aと、前底ビーム材31と、底ツナギ材12bと、後底ビーム材21とによって枠部分が形成されている。そして、両端がそれぞれ前底ビーム材31と後底ビーム材21とに接続された底面材51が、所定間隔を空けて複数設置されている。底面材51は、内部に充填される中詰材120の散逸を防止すると共に、中詰材120から地盤(斜面の一部に形成された平坦面)に力を伝達させるものである。なお、前記接続の形態は限定するものではなく、ピン接続にしてもよい。また、底面材51は全て同一形状であるものに限定するものではなく、一部を剛性の高いものにしてもよい。さらに、両端が底ツナギ材12aと底ツナギ材12bとに接続された底面材51を設置してもよい。
【0017】
(継手板)
後面継手板23a、24aおよび前面継手板33a、34aは、何れも端面1aより突出し(後面材25および前面材35から離れる方向に延設されている)、また、後面継手板23b、24bおよび前面継手板33b、34bは、何れも端面1bより突出している(後面材25および前面材35から離れる方向に延設されている)。以下、説明の便宜上、かかる鋼製枠110を「Aタイプ」と称す。
【0018】
一方、後面継手板23a、24aおよび前面継手板33a、34aは、何れも端面1aより突出し、端面1bを有しない鋼製枠110(図示しない)を、説明の便宜上「Cタイプ」と称する。
そうすると、複数の鋼製枠110を並べて設置する際、Aタイプの端面1aとCタイプとを対向(または当接)させて、Aタイプの端面1a側における後面継手板23a等の突出部と、Cタイプの各ビーム材とを接合することができるから、施工作業が容易になる。
【0019】
なお、前記AタイプおよびCタイプに替えて、後面継手板23a、24aおよび前面継手板33a、34aは、何れも端面1aより突出させ、一方、後面継手板23b、24bおよび前面継手板33b、34bも、何れも端面1bより突出しない鋼製枠110(図示しない)を、説明の便宜上「Bタイプ」と称する。そうすると、複数の鋼製枠110を並べて設置する際、Bタイプのみを並べ、一方のBタイプの端面1aと他方のBタイプの端面1bとを対向(または当接)させて、一方の端面1a側における後面継手板23a等の突出部を、他方の端面1b側における後面継手板23b等の突出していない範囲に重ねて、接合することができるから、施工作業が容易になる。
【0020】
(重心)
土木構造物100は自立するものであるから、その重心Gは枠体の内部に位置している。すなわち、土木構造物100は鋼製枠110とその内部に充填された中詰材120とによって形成され、その重量の大半は中詰材120であって、中詰材120は略均一に充填されている。したがって、側面視における重心Gの位置は、鋼製枠110を示す図形の図心に一致している。以下、重心G(以下、「図心G」と称す)の位置の算出方法の一例について簡単に説明する。
【0021】
(図心の算出)
図4の(a)および(b)は、鋼製枠110の端面1aを模式的に示した側面図である。 鋼製枠110は側面視において台形であって、上辺の長さが「b0」、下辺の長さが「b4」、高さが「h」である。
そして、右側の斜辺(以下「後辺」と称す)と底辺とは鈍角である後面傾斜角θ1(°)だけ傾斜している。このとき、後面2の傾斜度を「1:n(n<1)」とすると、後面傾斜角θ1は「tan(θ1−90)=n/1=b3/h」となる。
また、左側の斜辺(以下「前辺」と称す)と底辺とは鋭角である前面傾斜角θ2(°)だけ傾斜している。このとき、前面3の傾斜度を「1:m(m<1)」とすると、前面傾斜角θ2は「tan(90−θ2)=m/1=b1/h」となる。
そして、「b4=b1+b2」および「b0=b2+b3」の関係がある。
【0022】
三角形ハニヌの面積をS1、図心G1の位置ハからの距離をc1とし、長方形ロヌニリの面積をS2、図心G2の位置ハからの距離をc2とし、三角形イロリの面積をS3、図心G3の位置ハからの距離をc3とすると、それぞれ以下に算出される。
S1=(b1×h)/2 ・・・(式1)
c1=(2×b1)/3 ・・・(式2)
S2=b2×h ・・・(式3)
c2=b1+b1/2 ・・・(式4)
S3=(b3×h)/2 ・・・(式5)
c3=b1+b2+b3/3 ・・・(式6)
そうすると、台形イロハニの面積S0と、図心G0の位置ハからの距離c0は、それぞれ以下に算出される。
S0=S1+S2+S3=(b0+b4)×h/2 ・・・(式7)
c0=(S1×C1+S2×C2+S3×C3)/S0 ・・・(式8)
【0023】
(計算例1)
ここで、前面傾斜度「1:m」を「1:0.3」にし、高さhが「4.0(m)」、上辺長さb0が「1.5(m)」、下辺長さb4が「2.3(m)」、後面傾斜度「1:n」が「1:0.1」である場合の図心G0の位置は、以下になる。
S1=(1.2×4)/2=2.4(m2) ・・・(式1)、
c1=(2×1.2)/3=0.8(m) ・・・(式2)、
S2=1.1×4=4.4(m2) ・・・(式3)、
c2=1.2+1.1/2=1.75(m) ・・・(式4)、
S3=(0.4×4)/2=0.8(m2) ・・・(式5)、
c3=1.2+1.1+0.4/3=2.433(m) ・・・(式6)、
S0=(1.5+2.3)×4/2=7.6(m2) ・・・(式7)、
c0=(2.4×0.8+4.4×1.75+0.8×2.433)/7.6
=1.52(m) ・・・(式8)、
そうすると、「b4=2.3>c0=1.52」となるから、図心G0は鋼製枠110の内に位置している。すなわち、このとき、土木構造物100は転倒しない。
【0024】
(計算例2)
また、前面傾斜度「1:m」を「1:0.3」にし、高さhが「4.0(m)」、上辺長さb0が「1.5(m)」、下辺長さb4が「1.35(m)」、後面傾斜度「1:n」が「1:0.35」である場合の図心Gの位置は、前記と同様にして、
c0=(2.4×0.8+0.4×1.25+2.8×1.77)/5.6
=1.317(m) ・・・(式9)、
そうすると、「b4=1.3>c0=1.317」となるから、図心G0は鋼製枠110の外に位置している。すなわち、このとき、土木構造物100は転倒するため、後面傾斜度「1:n」を小さくする(n<0.35)必要がある。
【0025】
(余掘り)
図5の(a)において、斜面90の一部の土砂等が撤去され、平坦面91と掘削面92とが形成され、鋼製枠110が、平坦面91に設置されている。
すなわち、斜面90と平坦面91との交点(正確には「交線」)である位置A1と、平坦面91と掘削面92との交点(正確には「交線」)である位置D1と、斜面90と掘削面92との交点(正確には「交線」)である位置E1と、を頂点とする三角形(正確には三角柱)の範囲の土砂等が撤去されている。
このとき、鋼製枠110の前底ビーム材31は、位置A1から所定の距離(以下、「後退量」と称す)y1だけ掘削面92に近い位置(後退した位置)B1に設置され、位置C1に設置された後底ビーム材21と位置D1との間には、所定の距離(以下、「余堀り」と称す)y0が空けられている。後退量y1は土木構造物100の自重およびこれに作用する力を確実に平坦面91に伝えるためのものであり、余堀りy0は、土木構造物100を設置する際に必要な作業スペースを確保するためのものである。
すなわち、平坦面91の図中の左右方向の距離(平坦面の奥行き)d1は
d1=y0+b4+y1 ・・・(式10)
となる。
【0026】
図5の(b)において、鋼製枠110の後面傾斜角θ1を90°にしたものに相当する比較鋼製枠810が、斜面90に形成された平坦面91に設置されている。
このとき、比較鋼製枠810は、鋼製枠110と同様に、前底ビーム材31は位置A1から後退量y1だけ後退した位置B1に設置され、位置C2に設置された後底ビーム材21と、平坦面91と掘削面92との交点である位置D2とは、余堀りy0だけ離れている。
すなわち、平坦面91の図中の左右方向の距離(平坦面91の奥行き)d8は、
d8=y0+b4+b3+y1 ・・・(式11)
となる。
【0027】
図5の(c)において、鋼製枠110を設置するためには位置A1、位置D1および位置E1を頂点とする三角形の範囲の土砂を撤去するのに対し、比較鋼製枠810を設置するためには位置A1、位置D8および位置E8を頂点とする三角形の範囲の土砂を撤去する必要がある。すなわち、鋼製枠110にすることによって、比較鋼製枠810を設置する場合よりも、位置D1、位置D8、位置E8および位置E1を頂点とする四角形(正確には四角柱)に相当する範囲の土砂だけ、撤去する土砂の量が減少するから、施工が迅速になり、施工コストの低減や施工期間の短縮を図ることができる。
【0028】
(クーロン土圧)
図6は土木構造物100に作用するクーロン土圧を説明するための模式図である。図6において、後面2に作用するクーロン土圧(Pa)は公知の「クーロンの公式(例えば、「道路橋示方書・同解説」社団法人 平成14年3月、p38−p40)」によって算出することができる。
【数1】

【0029】
ここで、
Pa:主働土圧強度(kN/m2
Ka:主働土圧係数
h:土木構造物100の高さ
γ:裏込め土の単位体積重量(kN/m3
φ:裏込め土のせん断抵抗角(°)
δ:後面2の摩擦角(°)
α:後面2が鉛直となす角(°)
β:斜面90が水平となる角(°)
q:上載荷重(kN/m2
なお、後面2が鉛直となす角αと後面傾斜角θ1との関係は、
α=90−θ1 ・・・(式14)
となるから、後面傾斜角θ1が鈍角(θ1>90°)のとき、後面2が鉛直となす角αはマイナス(α<0°)となる。
【0030】
図7は、後面2が鉛直となす角αと主働土圧係数Kaとの関係を示す相関図である。
図7より、後面2が鉛直となす角αがマイナスであって、その絶対値が大きい程、主働土圧係数Kaの値は小さくなる。すなわち、後面傾斜角θ1が大きい程、主働土圧係数Kaの値は小さくなる。
なお、前記のように、土木構造物100は自立する必要があるから、重心位置との関係で、後面傾斜角θ1には上限値がある。
【0031】
(計算例)
例えば、h=4.0(m)高さ、γ=20(kN/m3)、φ=35(°)、δ=23.33(°)、β=0(°)、のとき、
α=0°の場合、すなわち、後面2が鉛直(θ1=90°)の場合、
Ka=0.244、
Pa=39.04(kN/m)、
となるのに対し、α=−5.71°場合、すなわち、後面傾斜度「1:0.1」である場合(θ1=95.71°に同じ)、
Ka=0.206、
Pa=32.96(kN/m)、
となる。すなわち、後面2を掘削面92側に傾斜させる(後面傾斜度「1:0.1」にする)ことによって、約16%、後面2に作用するクーロン土圧が減少する。
よって、土木構造物100の負担が減少するため、鋼製枠110(鋼材に同じ)および中詰材120(玉石や砕石等に同じ)の重量を減らすことが可能になる。よって、土木構造物100の製造コストおよび施工コストを低減することができる。
なお、以上は、ブレース19a、19bが設置されているが、本発明はこれに限定するものではなく、ブレース19a、19bを撤去して、鋼製枠110のせん断変形を容易にしてもよい。
【0032】
[実施の形態2]
図8は本発明の実施の形態2に係る土木構造物を説明するものであって、鋼製枠を示す斜視図である。なお、実施の形態1と同じ部分または相当する部分には同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
図8において、実施の形態2に係る土木構造物は鋼製枠210と、鋼製枠210内に充填された図示しない中詰材とを有している。
鋼製枠210は実施の形態1に示す鋼製枠110を上下に重ねて接合したものに概ね相当し、下側に配置された鋼製枠110(以下、「下鋼製枠110L」と称す)の天面4と上側に配置された鋼製枠110(以下、「上鋼製枠110U」と称す)の底面5とは同じ大きさである。
【0033】
このとき、下鋼製枠110Lの端面継手板15a、15bと、上鋼製枠110Uの端面継手板16a、16bとは、合体して一体の端面中間継手板61a、61bになり、下鋼製枠110Lの端面継手板18a、18bと、上鋼製枠110Uの端面継手板17a、17bとは、合体して一体の端面中間継手板62a、62bになっている。
同様に、下鋼製枠110Lの後面継手板24a、24bと、上鋼製枠110Uの後面継手板23a、23bとは、合体して一体の後面中間継手板63a、63bになり、下鋼製枠110Lの前面継手板34a、34bと、上鋼製枠110Uの前面継手板33a、33bとは、合体して一体の前面中間継手板64a、64bになっている。
なお、以上は、それぞれが合体しているが、本発明はこれに限定するものではなく、当接または近接する両者を合体させないで、両者を接合するための継手板(図示しない)を両者に跨がって設置してもよい。
【0034】
そして、下鋼製枠110Lの天面4を形成する天面材41は中央の1本のみを残して撤去され、また、上鋼製枠110Uの底面5(底ツナギ材12a、12bおよび底面材51)も撤去されている。なお、下鋼製枠110Lの天面4を形成する部材および上鋼製枠110Uの底面5を形成する部材の撤去の要領は、前記形態に限定するものではなく、鋼製枠210の剛性や強度を確保できる限り、鋼製枠210内への中詰材(図示しない)の充填、あるいは中詰材同士の力の伝達を阻害しないように適宜撤去して、軽量化を図ることができる。
なお、以上は、理解を容易にするため、鋼製枠210を下鋼製枠110Lと上鋼製枠110Uとが合体したものとして説明しているが、見方を変えて、鋼製枠110において、端面1a、1bの高さ方向の中間にツナギ材を追加して、該ツナギ材によって分割された上下の矩形範囲にそれぞれブレースを設置し、さらに、後面2および前面3の高さ方向の中間にそれぞれビーム材を追加したものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は以上の構成であるから、複数が接合された状態あるいは単体で斜面に設置され、土留、堰堤、擁壁等として広く利用することができる。なお、単体で使用する場合には、端面1a、1bに中詰材120の散逸を防止するための面材を設置することになる。
【符号の説明】
【0036】
1a 端面
1b 端面
2 後面
3 前面
4 天面
5 底面
11a 後フレーム材
11b 後フレーム材
12a 底ツナギ材
12b 底ツナギ材
13a 前フレーム材
13b 前フレーム材
14a 天ツナギ材
14b 天ツナギ材
15a 端面継手板
16a 端面継手板
17a 端面継手板
18a 端面継手板
19a ブレース
21 後底ビーム材
22 後天ビーム材
23a 後面継手板
23b 後面継手板
24a 後面継手板
24b 後面継手板
25 後面材
31 前底ビーム材
32 前天ビーム材
33a 前面継手板
33b 前面継手板
34a 前面継手板
34b 前面継手板
35 前面材
41 天面材
51 底面材
61a 端面中間継手板
62a 端面中間継手板
63a 後面中間継手板
64a 前面中間継手板
90 斜面
91 平坦面
92 掘削面
100 土木構造物
110 鋼製枠
110L 下鋼製枠
110U 上鋼製枠
120 中詰材
210 鋼製枠
810 比較鋼製枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面の一部に該斜面の傾斜角度よりも大きな傾斜角度の掘削面が形成され、該掘削面に繋がって形成された平坦面に設置される土木構造物であって、
鋼製枠と、該鋼製枠の内部に充填された中詰材と、を有し、
前記鋼製枠を形成する前記掘削面に近い方の面である後面が、該後面と前記平坦面との交線における前記平坦面に垂直な面に対して前記掘削面側に傾斜していることを特徴とする土木構造物。
【請求項2】
前記鋼製枠と前記中詰材とを合計した重量の重心が、前記鋼製枠内に位置していることを特徴とする請求項1記載の土木構造物。
【請求項3】
前記鋼製枠は六面体であって、前記後面、前記後面に対向する前面、前記平坦面に当接する底面、および該底面に対向する天面に前記中詰材を通過不能にする面部材が設置されていることを特徴とする請求項1または2記載の土木構造物。
【請求項4】
前記鋼製枠は六面体であって、前記後面、前記後面に対向する前面、前記平坦面に当接する底面、および該底面に対向する天面のそれぞれの端縁によって包囲された面である端面に、ブレース材が対角線状に設置されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の土木構造物。
【請求項5】
前記鋼製枠は六面体であって、前記後面、前記後面に対向する前面、前記平坦面に当接する底面、および該底面に対向する天面のそれぞれの端縁によって包囲された面である端面よりも外側に突出する継手板が、前記後面の端縁における前記底面および前記天面の位置と、前記前面の端縁における前記底面および前記天面の位置とにそれぞれ設置されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の土木構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−72176(P2013−72176A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209627(P2011−209627)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000231110)JFE建材株式会社 (150)
【Fターム(参考)】