説明

土木用ネット状編織物

【課題】軟弱地盤の改良や盛土補強として用いられるだけでなく、コンクリート剥離落下、落石防止用等としても有用な土木用ネット状編織物を提供するものである。
【解決手段】パラ型全芳香族ポリアミド特にコポリパラフェニレン 3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドからなる繊維糸条を用いて製織された少なくとも3軸のネット状編織物とし、樹脂を特定量付着することにより、該ネット状編織物の5%伸長時の引張強力が経方向で60kN/m〜100kN/m,緯方向で20kN/m〜40kN/m、且つ経糸、緯糸各1本の最大引張強力の40%荷重下におけるクリープ伸びが10%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
土木建設用として、軟弱地盤、盛土補強用としてだけでなく、落石防止用、コンクリート剥離落下防止用等にも有用なネット状編織物を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軟弱地盤の改良や盛土補強工法として、敷網法が盛んに利用されている。この工法に利用される敷網として、経糸と緯糸からなる網目織物状基布を熱可塑性重合体でコーティングした敷網等が用いられている。こうした敷網は強度が弱く、大量の土砂や盛土を支えたり、落石防止等には用いることはできなかった。そのため高強度の土木用資材シートが検討されている。例えば特開平5−59714号公報には、基布に樹脂が被覆されたネット状編織物の15%伸長時の引張強力が経方向で2ton(19.6kN)/m以上、緯方向で1ton(9.8kN)/m以上を示し経糸、緯糸各1本の最大引張強力の40%荷重下におけるクリープ伸びが9%以下のネット状編織物が提案されている。確かにこのネット状編織物は軟弱地盤補強、盛土補強としては有用であるが、しかしながら落石防止、コンクリート剥離落下防止という耐衝撃性という面では十分なものではなかった。また高アルカリ性、低酸性下のような劣悪な環境では劣化が発生しやすいという欠点もあった。また特開2004−150003号公報では高強力のパラ型アラミド繊維を用いて高強度の土木資材用シートが提案されている。このものでも高強度シートが得られるが、しかしながらパラ型アラミド繊維の耐薬品性を高めるため、他繊維素材で被覆し、更に合成樹脂でパラ型アラミド繊維を被覆するという複雑な工程を得ること、更に耐衝撃性の樹脂を含浸してレキ等による耐衝撃性を向上させることが提案されている。しかしながらこの方法で得られる土木資材用シートは硬く、高目付けのものとなったり、安定性や歩留まりの低下という問題点があった。本発明はこうした現状に鑑み、軟弱地盤補強、盛土補強としてだけでなく、落石防止、コンクリート剥離落下防止にも同時に有用な土木用ネット状編織物を提供することにある。
【0003】
【特許文献1】特開平5−59714号公報
【特許文献2】特開2004−150003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軟弱地盤の改良や盛土補強として用いられるだけでなく、コンクリート剥離落下、落石防止用等としても有用な土木用ネット状編織物を提供するものである。
【0005】
本発明者らは落石やコンクリート剥離落下などの衝撃を吸収するためにはネット状編織物の初期伸長時、特に5%伸長時の引張強力を特定範囲の値にすることが必要であるという知見、また盛土補強等には、ネット状編織物の最大引張強力の40%荷重でのクリープ特性を所定範囲とすることが必要であるという知見に至り、これらの特性を同時に満たすネット状編織物を検討し本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、高強度繊維であるパラ型全芳香族ポリアミド特に耐薬品性に優れるコポリパラフェニレン 3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドからなる繊維糸条を用いて製編織された少なくとも3軸のネット状編織物とし、樹脂を特定量付着することにより、該ネット状編織物の5%伸長時の引張強力が経方向で60kN/m〜100kN/m、緯方向で20kN/m〜40kN/m、且つ最大引張強力の40%荷重下におけるクリープ伸びが経方向、緯方向とも10%以下とし、落石等衝撃吸収、盛土補強用耐クリープ性を同時に満たすネット状編織物とする。
【0007】
かくして本発明によれば、アラミド繊維糸条を用いて製織された基布に、樹脂が被覆されたネット状編織物において、a)該アラミド繊維糸条がコポリパラフェニレン 3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドからなる繊維糸条であり、b)該樹脂の付着量が全繊維重量に対して少なくとも30%であり、c)該ネット状編織物が少なくとも3軸からなるネット状編織物であり、d)得られたネット状編織物の5%伸長時の引張強力が経方向で60kN/m〜100kN/m、緯方向で20kN/m〜40kN/mであり、且つ最大引張強力の40%荷重下におけるネット状編織物の経方向、緯方向のクリープ伸びが10%以下であることを特徴とする、軟弱地盤補強、盛土補強としてだけでなく、落石防止や、コンクリート剥離落下防止にも同時に有用な土木用ネット状編織物を提供することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のネット状編織物は、初期伸長時の引張特性、クリープ特性が良好でかつ耐薬品性の優れたものであり、落石防止、盛土補強等の広範囲の用途に、厳しい環境下でも耐えうるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
発明において、経糸、緯糸を構成する繊維糸条は、高強度繊維である、パラ型全芳香族ポリアミド繊維、特にコポリパラフェニレン 3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維糸条であることが必要である。コポリパラフェニレン 3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドはパラ型全芳香族ポリアミドの中でも特に耐薬品性が良好で一般土木用としては最高の耐薬品性を備えている。該コポリパラフェニレン 3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドを使用することによって高強度とすることができるだけでなく、厳しい環境下でも耐えうるものとなる。
【0010】
本発明において用いられる繊維糸条は、ネットの経糸、緯糸を構成する各糸条の総デニールが1000〜200000デニールの範囲であることが望ましい。ネットの経糸、緯糸を構成する各糸条の総デニールが1000デニール未満であると、土木用繊維資材、特に軟弱地盤改良用、盛土補強用ネットとしては十分な引張強力を得る事が出来ない。又、総デニールが200000デニールを越えると、ネット状基布を製織、製編する事が困難になる為好ましくない。
【0011】
本発明において、ネット状編織物として、少なくとも3軸のネット状編織物であることが必要で、該ネット状編織物を構成する組織形態としては、格別の限定はないが例えば、平織り、からみ織り、もしゃ織り、綾織り、緯糸挿入の経編みである事が望ましい。緯糸挿入の経編みの場合には、この緯糸を織物の場合の緯糸と同じように考える。少なくとも3軸にすることにより、応力が分散できるだけでなく、交点の結着力が高まり低伸度での引張強力を高めることができる。
【0012】
本発明において用いられるネット状編織物は、粗目の物であって、隣合っている糸条との間に、約0.5mm〜30mmの間隙を有している事が望ましく、更には5〜25mmである事が望ましい。すなわち、経糸、緯糸の間に形成される間隙空間の面積は、0.25mm〜900mmである事が好ましく、更には25mm 〜625mm である事が望ましい。
【0013】
また樹脂の付着量としては全繊維重量に対して少なくとも30%であることが好ましい。30%未満であると落石防止用ネット状編織物として初期衝撃吸収に必要な5%伸長時の引張強力が低下し、また経方向、方向の最大引張強力の40%荷重下におけるクリープ伸びが10%以上となるため好ましくない。ネット状編織物の交点を結着する樹脂の量が不足するためと考えられる。また100%を超える場合は必要な引張強力を得ることはできるが、ネット状編織物全体の重量が大きく、また硬く柔軟性のないものになり、土木用としては好ましくない。また樹脂の付着形態としては特に限定はないが、ネット交点が樹脂によって被覆結着されていることが望ましい。
【0014】
また更に該樹脂としては、例えば、エポキシ系、不飽和ポリエステル系、アクリル系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、酢酸ビニル系又はこれらと硬化剤としてエポキシ系、メチロールメラミン系の樹脂を使用したものが好ましい。中でもエポキシ系、不飽和ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0015】
又この樹脂を使用して、ネット状編織物基布に樹脂加工を行う場合の加工温度が100℃未満であることが好ましい。加工温度が100℃を越えると、多軸ネット状編織物の基布に収縮が発生し、初期引張強力の低下、引張伸度の増大、特にクリープ特性の低下し、経方向、方向の最大引張強力の40%荷重下におけるクリープ伸びが10%以上となるため好ましくない。
【実施例】
【0016】
以下実施例をあげて、本発明を具体的に説明する。なお、実施例で用いた物性の測定方法は下記の通りである。
1)引張強力の測定方法:東洋ボールドウィン社製100kN引張試験機を用い、ネット状編織物の引張強力を測定した。条件・・・試料長:200mm 引張速度:2mm/min
2)クリープ測定方法:ネット状編織物の試料を300mm×50mmにサンプリングし、間隔200mmの印をつける。そして試料の一端を上部クランプで固定し、他端に一定の荷重を加え、少なくとも1000時間放置し、クリープ伸びを測定する。
3)樹脂の付着量:単位面積当りの樹脂付着量、単位面積当りの繊維質量、樹脂質量含有率、繊維質量含有率は、次式(1)〜(4)によって算出する。
=(W−W)×100
RP=[W−(W−W)]/W×100
FR=(W−W)/W×100
ここに W:単位面積当りの繊維質量(g/m
RP:樹脂質量含有率(%)
FR:繊維質量含有率(%)
:繊維試験片質量(g)
:生反質量(g)
:総質量(g)
【0017】
[実施例1]
ネット状編織物基布を構成する繊維糸条としてパラ型全芳香族ポリアミドであるコポリパラフェニレン 3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製 テクノーラ)を用いて、緯糸に1670dtexのアラミドマルチフィラメント糸を3本引き揃えた糸条、経糸に3340dtexのアラミドマルチフィラメント糸を2本引き揃えた糸条を作成した。この糸条を用いて緯糸総繊度16700dtex、経糸総繊度16700dtexで3軸の目合いが(経糸、緯糸のそれぞれ平行に隣り合っている糸条との間が1〜60mm、経糸、緯糸の間に形成される間隙空間の面積が10〜360mm のからみ織物)を作成した。このネット状織物基布に、ビニルエステル系樹脂(昭和高分子社製 リポキシ)を用いて90℃の温度でネット状編織物基布に樹脂加工し、ネット状織物を作成した。樹脂付着量は32%であった。引張特性、クリープ特性、樹脂付着量を測定した結果を表1に示す。得られたネット状織物は5%伸長強力が経方向91.9kN/m緯方向22.9kN/mであり、クリープも経方向、緯方向ともそれぞれ8.8%、8.3%であり、盛土補強用とともに落石防止ネットとしても有用であった。
【0018】
[実施例2]
使用した樹脂は実施例1同様のものを用い、付着量を50%となるように樹脂濃度を調整した以外は実施例1と同様に行った。引張特性、クリープ特性、樹脂付着量を測定した結果を表1に示す。得られたネット状織物は5%伸長強力が経方向93.8kN/m、緯方向23.6kN/mであり、クリープも経方向、緯方向ともそれぞれ8.9%、8.1%であり、盛土補強用とともに落石防止ネットとしても非常に有用なものであった。
【0019】
[比較例1]
使用した樹脂は実施例1同様のものを用い、付着量を20%となるように樹脂濃度を調整した以外は実施例1と同様に行った。引張特性、クリープ特性、樹脂付着量を測定した結果を表1に示す。得られたネット状織物は5%伸長強力が経方向58.0緯方向19.3kN/mであり、クリープも経方向、緯方向ともそれぞれ11.0%、10.8%あり、盛土補強用としても、落石防止ネットとしても不適であった。
【0020】
[比較例2]
ネット状織物を2軸とした以外は実施例1と同じ条件で行った。引張特性、クリープ特性、樹脂付着量を測定した結果を表1に示す。得られたネット状織物は5%伸長強力が経方向36.7kN/m緯方向9.1kN/mであり、クリープも経方向、緯方向ともそれぞれ10.5%、10.3%であり、盛土補強用とともに落石防止ネットとしても不適であった。
【0021】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、土木建設用、特に盛土補強用または、軟弱地盤改良用だけでなく落石防止、コンクリート剥離落下防止に好適なネット状編織物を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維糸条を用いて製編又は製織された基布に、樹脂が被覆されたネット状編織物において、a)該合成繊維糸条がパラ型アラミド繊維からなる繊維糸条であり、b)該樹脂の付着量が全繊維重量に対して少なくとも30%であり、c)該ネット状編織物が少なくとも3軸からなるネット状編織物であり、d)得られたネット状編織物の5%伸長時の引張強力が経方向で60kN/m〜100kN/m、緯方向で20kN/m〜40kN/mであり、且つ最大引張強力の40%荷重下におけるクリープ伸びが経方向、緯方向とも10%以下であることを特徴とする土木用ネット状編織物。
【請求項2】
パラ型アラミド繊維がコポリパラフェニレン 3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドからなる請求項1記載の土木用ネット状編織物。
【請求項3】
該樹脂が、エポキシ系、不飽和ポリエステル系、アクリル系、ポリオレフィン系、塩化ビニル系のうち少なくとも一種からなる樹脂である請求項1、2いずれか記載の土木用ネット状編織物。
【請求項4】
ネット状編織物の5%伸長時の引張強力が経方向で70kN/m〜100kN/m,緯方向で30kN/m〜40kN/mであり、且つ最大引張強力の40%荷重下におけるクリープ伸びが経方向、緯方向とも9%以下である請求項1、2、3いずれか記載の土木用ネット状編織物。

【公開番号】特開2007−224431(P2007−224431A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43531(P2006−43531)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】