説明

土木用有機被覆鋼材の腐食促進試験方法および腐食量予測方法

【課題】土木用有機被覆鋼材の実海洋環境における腐食挙動を再現する腐食促進試験条件を明らかにし、被覆層の剥離の進展に伴って生じる剥離した被覆層下の鋼材腐食速度の分布から鋼材腐食量の分布を予測する、土木用有機被覆鋼材の腐食促進試験方法および腐食量予測方法を提供する。
【解決手段】既知の板厚の鋼材をめっき処理を施さずに部分的に有機被覆した部分有機被覆鋼材を用い、塩水噴霧過程、乾燥過程および湿潤過程を1サイクルとして複数サイクル曝露した後に、有機被覆を施さなかった鋼材露出部の錆を取り除き、被覆層端部からの被覆層下の平均錆浸入距離と鋼材露出部の平均板厚減少量を測定した際に、前記鋼材露出部の平均板厚減少量に対する前記被覆層端部からの被覆層下の平均錆浸入距離の比が5以上80以下であることを特徴とする土木用有機被覆鋼材の腐食促進試験方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、河川および海洋等のように腐食環境の極めて厳しい条件下で用いられる有機被覆鋼材(特に、有機被覆鋼矢板および有機被覆鋼管矢板)の耐食性を評価し、将来の鋼材腐食量を予測するための、土木用有機被覆鋼材の腐食促進試験方法および腐食量予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在わが国の港湾鋼構造物には、鋼材の上にウレタンエラストマー、ポリエチレンあるいはエポキシ系の超厚膜形樹脂を被覆した有機被覆鋼材が、鋼材の防食性を確保するために用いられている。これらの土木用有機被覆鋼材は、防食コストを抑制するため、電気防食と併用することが一般的である。即ち、海中部の鋼材の防食は電気防食で担保し、干満帯、飛沫帯および海上大気部の鋼材の防食は有機被覆で担保するという考え方である。いずれにしろ、港湾施設に供するという性格上、海洋環境という極めて厳しい腐食環境において、20年から50年程度にわたる防食性能の維持が期待される。
【0003】
電気防食については長年の研究より、防食される鋼材の単位面積あたりに必要な犠牲陽極の質量が明らかになっており、所定の計算式を用いることにより、所定期間防食するために必要な犠牲陽極の質量を設計することが可能となっている。
【0004】
一方、干満帯、飛沫帯および海上大気部における鋼構造物の防食を担保する有機被覆については、各種腐食促進試験が提案されている(例えば、特許文献1、2)ものの、各種材料間の優劣を比較することにとどまり、腐食劣化機構の観点から実海洋環境を再現・促進した上で被覆鋼材の耐久寿命を予測する試験法が無いため、海洋における長期の暴露試験での実証に頼るほか無かった。
【0005】
ちなみに、特許文献1記載の技術は、塗装鋼板に塩水を噴霧する過程、紫外線を照射し散水する過程および湿潤過程を順に周期的に繰り返し、塗装の剥離・割れ・膨れ、色差、光沢度残存率、および塗膜の剥離強度を測定する腐食促進試験方法である。
【0006】
また、特許文献2記載の技術は、2種の金属と1種の表面処理鋼材を用い、様々の腐食環境を2種の金属の腐食速度の比で定義し、前記の様々な腐食環境における表面処理鋼材と1種の金属との腐食速度の比を外挿し、実使用環境における耐久寿命を推定する予測手法である。
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の技術は、建材等の屋根や外壁に用いられる塗装鋼板をその試験対象としているため、想定している腐食環境は一般的な屋外環境であり、海洋を模擬していない。また、試験後の評価基準は塗膜の劣化や外観の低下を中心としたものであるため、構造耐力(即ち、腐食後の残存板厚)によってその耐久性を評価すべき土木用鋼材への適用は不適切である。即ち、この種の建材用途に用いられる塗装鋼板の有機被覆層の膜厚は100μm程度であり、実使用環境でも容易に割れや膨れが発生するため、腐食促進試験においても塗膜の健全度が塗装鋼板の劣化指標となりうるが、土木用有機被覆鋼材では有機被覆層の膜厚が2mm以上と厚いため被覆層の耐久性が高く、塗膜の健全度よりはむしろ鋼材との接着界面における剥離の進展と剥離部における鋼材の腐食量が劣化指標となる。
【0008】
一方、特許文献2記載の耐久寿命予測技術は、1種の金属(主として鋼)の上にもう1種の金属(例えば亜鉛合金等)がめっきされた金属板、さらにはその金属板に有機被覆を施したものを対象としており、主として鋼材にめっき処理を施さずに直接有機被覆したものを用いる土木用鋼材には適用できない。特許文献2記載の技術では、腐食の進行と共に有機被覆とめっきされた金属が完全に消失し、その後の金属板の耐久寿命は基材となる金属単体の腐食速度で決定される前提なっておるが、土木用有機被覆鋼材の海洋環境における腐食過程では、被覆層の剥離が進行し被覆層下の鋼材の腐食が進行する過程においても被覆層が鋼材上に残存するため、被覆層下の鋼材の腐食速度は、鋼材単体の腐食速度より遅くなるという大きな相違がある。
【特許文献1】特開2008−185502号公報
【特許文献2】特開2006−234802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる事情を鑑み、土木用有機被覆鋼材の実海洋環境における腐食挙動を再現する腐食促進試験条件を明らかにし、被覆層の剥離の進展に伴って生じる剥離した被覆層下の鋼材腐食速度の分布から鋼材腐食量の分布を明らかにし、土木用有機被覆鋼材の残存耐力を推定するために必要な鋼材の残存板厚分布を予測する、土木用有機被覆鋼材の腐食促進試験方法および腐食量予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は以下の特徴を有している。
【0011】
[1]鋼材にめっき処理を施さずに直接有機被覆した土木用有機被覆鋼材の海洋環境を模擬した腐食促進試験方法であって、既知の板厚の鋼材をめっき処理を施さずに部分的に有機被覆した部分有機被覆鋼材を用い、塩水噴霧過程、乾燥過程および湿潤過程を1サイクルとして複数サイクル曝露した後に、有機被覆を施さなかった鋼材露出部の錆を取り除き、被覆層端部からの被覆層下の平均錆浸入距離と鋼材露出部の平均板厚減少量を測定した際に、前記鋼材露出部の平均板厚減少量に対する前記被覆層端部からの被覆層下の平均錆浸入距離の比が5以上80以下であることを特徴とする土木用有機被覆鋼材の腐食促進試験方法。
【0012】
[2]前記[1]に記載の腐食促進試験方法を行った際に、被覆層下の錆浸入距離の経時変化から、被覆層端部から任意の距離L離れた鋼材表面において腐食が開始する猶予期間b(L)を求め、同時に、前記被覆層端部から任意の距離L離れた鋼材表面の板厚減少量の経時変化から腐食速度v(L)を求め、更に同時に、鋼材露出部の板厚減少量の経時変化から腐食促進倍率xを求めることにより、任意の曝露期間T後における前記被覆層端部から任意の距離L離れた位置での鋼材の板厚減少量δtを下記の式より予測することを特徴とする土木用有機被覆鋼材の腐食量予測方法。
δt = v(L)×(T/x − b(L))/365
【0013】
なお、上記[2]において最も好適な単位の組み合わせは、以下a)〜e)の組み合わせである。
a)被覆層端部から任意の距離L:mm
b)腐食が開始する猶予期間b(L):日
c)腐食速度v(L):mm/年
d)任意の曝露期間T:日
e)被覆層端部からL離れた鋼材の板厚減少量δt:mm
【0014】
また、本発明における「海洋環境」とは、海中環境から海浜環境、さらに、海に面することで生じる、干満帯や飛沫帯を含む環境を指す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、土木用有機被覆鋼材の海洋環境における腐食挙動を模擬・促進することが可能であり、さらには任意の時間における鋼材腐食量分布を予測できるため、土木有機被覆鋼材の残存耐荷力の算出に必要な腐食後の残存板厚分布の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
まず、本発明が対象としている土木用有機被覆鋼材とは、鋼材の上に、めっき処理を施さずに有機被覆層を被覆した鋼材で、被覆する有機被覆層は、ウレタンエラストマー、ポリエチレンあるいはエポキシ系の超厚膜形樹脂があげられる。また、有機被覆層と鋼材との密着性やその他の機能を付与するために、めっき処理を除いた表面処理(例えば、クロメート処理、燐酸鉄処理、シランカップリング剤処理、クロメート代替有機無機複合表面処理、など)を施したものも含む。
【0018】
一般に、土木用有機被覆鋼材は海洋のような厳しい腐食環境において長期の耐食性を確保するため、耐候性や耐久性に優れる厚さ2mm以上のウレタンエラストマー、ポリエチレンやエポキシ樹脂等を被覆層として適用している。そのため、通常の塗装鋼板と異なり、実使用環境において被覆層自体が劣化し、割れや剥落が生じることは稀であり、むしろ鋼材の形状上不可避的な被覆層の端部から剥離が進行し、一見健全な被覆層が残存しているにもかかわらず被覆層下で鋼材の腐食が進行するというものが主要な劣化形態となる。
【0019】
また、土木用有機被覆鋼材は、その用途の特性上、経時変化による外観の劣化について問われることは少なく、むしろ厳しい腐食環境において長期に渡って耐力を保持することが求められる。
【0020】
以上のことを考慮すると、実海洋環境における土木用有機被覆鋼材の劣化挙動を再現・促進し、残存耐力、即ち、残存板厚の観点から土木用有機被覆鋼材の耐久性を評価・予測することが重要となる。
【0021】
なお、土木用の有機被覆鋼材はコスト縮減を目的として電気防食と併用することが一般的であり、この場合、海中部に露出した鋼材は電気防食によって防食される。その際、カソードに分極された鋼材表面で酸素還元反応が起こり、発生したアルカリによって被覆層が剥離する陰極剥離という現象が起こる。しかしながら、陰極剥離によって海中に露出した鋼材表面も電気防食によって防食されるため、鋼材の腐食は起こらず、腐食による鋼材の板厚減も発生しない。そのため、本発明で対象とする海洋環境とは主として電気防食の効果の及ばない干満帯、飛沫帯および海上大気部である。
【0022】
本発明の腐食促進試験で用いる試験体は、腐食促進試験後の板厚減少量を測定するため、後述する鋼材露出部と被覆部の所定の部位の板厚を予め測定しなければならない。板厚の測定方法や測定点数について、本発明で限定するものではないが、例えば、測定方法としては各種マイクロメーターや、レーザー変位計等を用いることができる。なお、腐食促進試験後に同一部位の板厚を測定して板厚減少量を求めるため、腐食促進試験前に板厚を測定した部位の位置を記録することが重要である。
【0023】
本発明の腐食促進試験に用いる試験体は、被覆層端部からの剥離の進展と、剥離部における鋼材の腐食という、実使用環境における腐食挙動を再現するため、鋼材露出部を有さなければならない。本発明では、鋼材露出部の面積や形状を特に制限するものではないが、例えば、100mm角の試験片を用いる場合には、中央部に幅20mm程度の鋼材露出部を設け、他の部分を所定の有機被覆層で覆ったものが一例として挙げられる。
【0024】
本発明の腐食促進試験は、試験体に塩分を供給する塩水噴霧過程と、実際の海洋環境における鋼材表面の濡れ/乾きを模した乾燥過程と湿潤過程を有し、塩水噴霧過程の後に乾燥過程、当該乾燥過程の後に湿潤過程という過程を1サイクルとしている。そしてこの1サイクルを、試験期間に応じて繰り返すことによって腐食を促進する試験方法である。
【0025】
発明者らは、上記の条件を満たす試験体を様々な海洋環境に曝露し、その腐食挙動を評価したところ、被覆層端部からの被覆層下の平均錆浸入距離と鋼材露出部の平均板厚減の比が5以上80以下の範囲内に収まることを明らかにした(後述の図1参照)。即ち、被覆層端部から被覆層の剥離が進展し、引き続いて剥離した鋼材面で腐食が発生するが、この被覆層の剥離を引き起こす原因は、当初から露出している鋼材面でおこるアノード(金属溶解)反応の対反応である被覆層下のカソード反応によって生成したアルカリである。したがって、被覆層下の錆浸入の契機となる剥離現象は、鋼材露出部における腐食挙動と密接な関係が有り、被覆層端部からの被覆層下の平均錆浸入距離と鋼材露出部の平均板厚減の比が5以上80以下であることが、腐食挙動の観点から実海洋環境を模擬していることの根拠となる。
【0026】
本発明では、実環境における耐久性が未知な試験体において、上記の条件を満たす腐食促進試験を試験期間を変えて実施し、その際の鋼材露出部の腐食量の経時変化と、被覆層下に浸入したさび浸入距離の経時変化およびさび浸入部にける鋼材の板厚減を測定する。実海洋環境における一般的な鋼材の腐食速度は既知であるので(例えば干満帯では0.1mm/年程度、飛沫帯では0.3mm/年程度)、鋼材露出部の腐食量の経時変化から本腐食促進試験における腐食速度を算出し、それを実環境における腐食速度で除することによって、腐食促進試験の促進倍率xが求まる。
【0027】
次に、被覆層下への錆浸入距離の経時変化から、被覆層端部からLmm離れた被覆層下の鋼材に剥離の先端が到達し、試験開始から実際にその部位で腐食が開始するまでの猶予期間b(L)を求める。当然のことながら猶予期間bは被覆層端部からの距離Lの関数であり、距離Lが大きくなるほど腐食が開始する猶予期間bが大きくなる。
【0028】
さらに、被覆層端部からLmm離れた、錆が浸入した鋼材面における腐食量(板厚減少量)の経時変化を測定し、横軸に試験時間から前記猶予期間b(L)を除いた時間をとり、縦軸にそのときの前記鋼材腐食量(板厚減少量)をとり、そのグラフの傾きから腐食速度v(L)を算出する。端部からLmm離れた鋼材表面の、腐食開始後からの腐食速度vは距離Lの関数であり、距離Lが小さいほどその値は鋼材露出部の腐食速度に漸近し、距離Lが大きくなるほどその値はは小さくなる。
【0029】
本発明では、以上の腐食促進試験の結果を利用して、被覆層端部からLmm離れた鋼材表面の任意の時間Tにおける板厚減δtを以下の式を用いて予測するものである。
δt = v(L)×(T/x − b(L))/365
【0030】
土木用鋼材である鋼矢板および鋼管矢板の形状、初期板厚の分布の範囲、被覆範囲は製品仕様として規定されておるので、それらの値を基に、上記予測式で得られた板厚減予想量δtを差し引けば、任意の時間Tにおける残存板厚と残存断面形状が予測できるので、公知の技術を用いて鋼構造物の残存耐荷性能や耐久寿命算定に資することができる。
【実施例1】
【0031】
以下、本発明の実施例を示す。
【0032】
(板厚の測定)
板厚6mmで100mm角の鋼板を用意し、その両面の黒皮スチールブラストを用いて除去した。ブラスト処理後の鋼板表面の粗度はRZ50μmであった。この鋼板の板厚をレーザー変位計を用いて、被覆面を上にして、全面を1mm間隔で測定した。測定にあたっては、腐食促進試験前後で試験片の位置(各測定点)がずれないようにレーザー変位計のステージに専用治具を取り付け、水平方向に対して常に同じ位置で板厚を測定できるようにした。
【0033】
(有機被覆)
板厚測定完了後、鋼板中央部の表面を20mm幅でマスキングした後、ウレタンプライマー(パーマガード331プライマー/第一工業製薬(株)製)とウレタンエラストマー(パーマガード137/第一工業製薬(株)製)をそれぞれ50μmと3mm塗装し、1週間養生した。予めマスキングした所に沿って被覆層に切込みを入れ、被覆層を部分的に剥離し、鋼材露出部を作製した。試験片の側面および裏面をテープおよびシーラントを用いて防食した。
【0034】
(腐食促進試験の実施)
作製した試験片を乾湿繰替え試験機に投入し、腐食促進試験を行った。試験条件は、塩水噴霧過程を2.5時間行い、次に乾燥過程を3時間行い、その後湿潤過程を2.5時間行い、合計8時間を1サイクルとし、これを後述する試験期間だけ複数サイクル繰り返した。塩水噴霧過程では3%NaCl水溶液を用い、雰囲気温度35℃で試験を行った。乾燥過程では試験槽内を雰囲気温度60℃、相対湿度40%以下に維持し、湿潤過程では同様に雰囲気温度50℃、相対湿度65%以上に維持した。試験期間は、それぞれ30日、60日、80日、120日および180日実施した。
【0035】
所定期間腐食促進試験を行った後、試験片を取り出し、水洗・乾燥した後、裏面および端面のシールを除去した。試験片を酸洗して鋼材露出部の錆を完全に除去した後、鋼材表面の有機被覆層を除去し、被覆層下への錆浸入距離をノギスを用いて測定した。再度、試験片を酸洗して被覆層下に浸入した錆を取り除いた後に、レーザー変位系を用いて腐食促進試験後の板厚を測定した。試験前に測定した試験片の鋼材板厚の値から、腐食促進試験後のそれを差し引き、試験片の腐食量(板厚減少量)の分布を求めた。
【0036】
その結果、図1に示すように、腐食促進試験後の、被覆層下への平均錆浸入距離に対する、鋼材露出部の平均板厚減少量の比が5〜80の範囲内に収まっているので、上記試験方法で海洋環境における腐食挙動を満足していると判断できる。
【0037】
(腐食量の予測)
図2に示すように、腐食促進試験を30日、60日、80日、120日および180日行った際の錆浸入距離の平均値を、試験期間に対してプロットした。各プロットに対して、最小二乗近似法を用いて直線を引き、被覆端部から任意の距離Lmmに位置する鋼材表面にて腐食が開始する猶予期間b(L)を求めた。
【0038】
次に、図3に示すように、複数の任意の距離L(ここでは2mm、5mm、10mmとする)における平均板厚減を縦軸にとり、横軸に試験期間から図1より求めたそれぞれの位置Lにおける猶予期間b(L)を差し引いたものをとり、データ−をプロットした。そして、最小二乗法を用いて被覆端部からの距離ごとに直線を引き、その傾きを被覆層端部からLmm離れた鋼材の腐食速度v(L)とした。
【0039】
一方、図3において、鋼材露出部の板厚減少量の経時変化から、腐食促進試験における鋼材露出部の腐食速度cを求めた。干満帯における鋼材の腐食速度は0.1mm/yであるので、促進倍率xは、
x = c/0.1
となる。
【0040】
以上の操作により求めた促進倍率x、腐食速度v(L)および猶予期間b(L)の値を用いて、被覆層端部から任意の距離Lにおける鋼材の任意の時間Tにおける板厚減少量δtを以下の式より求めた。
δt = v(L)×(T/x − b(L))/365
【0041】
表1に、被覆端部からそれぞれ2mm、5mm、10mm離れた位置での鋼材の板厚減少量の予測式と、その式から導かれる各部位で50年後に予想される板厚減少量δtを示した。
【0042】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施例において、鋼材露出部の平均板厚減少量と被覆層下への平均錆浸入距離との関係を示す図である。
【図2】本発明の実施例において、試験期間と平均錆浸入距離との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施例において、試験期間−猶予期間と板厚減少量との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材にめっき処理を施さずに有機被覆した土木用有機被覆鋼材の海洋環境を模擬した腐食促進試験方法であって、既知の板厚の鋼材をめっき処理を施さずに部分的に有機被覆した部分有機被覆鋼材を用い、塩水噴霧過程、乾燥過程および湿潤過程を1サイクルとして複数サイクル曝露した後に、有機被覆を施さなかった鋼材露出部の錆を取り除き、被覆層端部からの被覆層下の平均錆浸入距離と鋼材露出部の平均板厚減少量を測定した際に、前記鋼材露出部の平均板厚減少量に対する前記被覆層端部からの被覆層下の平均錆浸入距離の比が5以上80以下であることを特徴とする土木用有機被覆鋼材の腐食促進試験方法。
【請求項2】
請求項1に記載の腐食促進試験方法を行った際に、被覆層下の錆浸入距離の経時変化から、被覆層端部から任意の距離L離れた鋼材表面において腐食が開始する猶予期間b(L)を求め、同時に、前記被覆層端部から任意の距離L離れた鋼材表面の板厚減少量の経時変化から腐食速度v(L)を求め、更に同時に、鋼材露出部の板厚減少量の経時変化から腐食促進倍率xを求めることにより、任意の曝露期間T後における前記被覆層端部から任意の距離L離れた位置での鋼材の板厚減少量δtを下記の式より予測することを特徴とする土木用有機被覆鋼材の腐食量予測方法。
δt = v(L)×(T/x − b(L))/365

【図1】
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【図2】
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【図3】
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