説明

土留壁を用いた、建物の基礎

【課題】建物の基礎の底版の上方における土留壁に前記底版に近付く方向の水平力が作用したとき及び前記底版から遠ざかる方向の水平力が作用したときの双方において前記土留壁の変形を抑えることにより、該土留壁に地震時の水平力を確実に負担させることができるようにすること。
【解決手段】建物の基礎は、地盤の表面の下方に土留壁に対して垂直に設けられた底版と、該底版の内部に前記底版の厚さ方向の中心から上方へ間隔を置いて配置され、前記底版からその端部を経て水平方向に伸びる少なくとも1本の上方棒状部材であって先端部が前記土留壁に固定された少なくとも1本の上方棒状部材と、前記底版の内部に前記中心から下方へ間隔を置いて配置され、前記底版から前記端部を経て水平方向に伸びる少なくとも1本の下方棒状部材であって先端部が前記土留壁に固定された少なくとも1本の下方棒状部材とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の中に設けられた土留壁を用いた、建物の基礎に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の基礎には、地盤の中に設けられた土留壁を利用したものがある。前記基礎は、前記地盤の表面の下方に前記土留壁に対して垂直に設けられた底版を有する。前記底版は、前記土留壁に水平方向に隣接する端部を有し、前記基礎は、前記底版の前記端部の上に前記土留壁に平行に設けられた側壁を有する。前記側壁は前記土留壁に結合されている。前記基礎は、前記底版の内部に該底版の厚さ方向の中心から下方へ間隔を置いて配置され、前記底版に固定された、該底版から前記端部を経て水平方向に伸びる棒状部材を有し、該棒状部材の先端部は前記土留壁に固定されている(特許文献1参照)。
【0003】
前記底版の上方における前記土留壁が前記地盤から土圧と水圧とを受けたとき、前記土留壁に曲げモーメントが作用し、前記土留壁は、前記底版の前記端部における、前記中心の下方の領域から離れるように変形しようとする。このとき、前記棒状部材は、前記土留壁から引張力を受け、該引張力に抵抗する。これにより、前記土留壁の変形を抑えることができ、前記土留壁に前記土圧と前記水圧とを効果的に負担させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−147778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地震時に前記底版の上方における前記土留壁に、前記底版に近付く方向の水平力と、前記底版から遠ざかる方向の水平力とが交互に作用する。前記土留壁に前記底版に近付く方向の水平力が作用したとき、前記土留壁は前記下方の領域から離れるように曲げ変形しようとし、前記棒状部材は、前記土留壁から引張力を受け、該引張力に抵抗する。このため、前記土留壁の曲げ変形を抑えることができる。これに対して、前記土留壁に前記底版から遠ざかる方向の水平力が作用したとき、前記土留壁は前記中心の上方の領域から離れるように曲げ変形し、前記土留壁は前記下方の領域を圧縮する。このため、前記棒状部材が前記土留壁から引張力を受けることはなく、前記土留壁の曲げ変形を抑えることはできない。よって、前記土留壁は地震時の水平力を確実に負担することができない。
【0006】
本発明の目的は、建物の基礎の底版の上方における土留壁に前記底版に近付く方向の水平力が作用したとき及び前記底版から遠ざかる方向の水平力が作用したときの双方において前記土留壁の曲げ変形を抑えることにより、該土留壁に地震時の水平力を確実に負担させることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、底版の内部に該底版の厚さ方向の中心から上方へ間隔を置いて配置され、前記底版からその端部を経て水平方向に伸びる少なくとも1本の上方棒状部材であって先端部が土留壁に固定された少なくとも1本の上方棒状部材と、前記底版の内部に前記中心から下方へ間隔を置いて配置され、前記底版から前記端部を経て水平方向に伸びる少なくとも1本の下方棒状部材であって先端部が前記土留壁に固定された少なくとも1本の下方棒状部材とを有する。これにより、地震時に前記底版の上方における前記土留壁に前記底版に近付く方向の水平力が作用したときに前記下方棒状部材が前記土留壁から引張力を受け、これに抵抗し、前記土留壁に前記底版から遠ざかる方向の水平力が作用したときに前記上方棒状部材が前記土留壁から引張力を加え、これに抵抗するようにする。これにより、前記土留壁に前記底版に近付く方向の水平力が作用したとき及び前記底版から遠ざかる方向の水平力が作用したときの双方において前記土留壁の曲げ変形を抑え、該土留壁に地震時の水平力を確実に負担させることができるようにする。
【0008】
本発明に係る、地盤の中に設けられた土留壁を用いた、建物の基礎は、前記地盤の表面の下方に前記土留壁に対して垂直に設けられた底版であって前記土留壁に水平方向に隣接する端部を有する底版と、該底版の内部に前記底版の厚さ方向の中心から上方へ間隔を置いて配置され、前記底版に固定された、該底版から前記端部を経て水平方向に伸びる少なくとも1本の上方棒状部材であって先端部が前記土留壁に固定された少なくとも1本の上方棒状部材と、前記底版の内部に前記中心から下方へ間隔を置いて配置され、前記底版に固定された、該底版から前記端部を経て水平方向に伸びる少なくとも1本の下方棒状部材であって先端部が前記土留壁に固定された少なくとも1本の下方棒状部材とを含む。
【0009】
地震時に前記底版の上方における前記土留壁に前記底版に近付く方向の水平力が作用したとき、前記土留壁は、前記底版の前記端部における、前記中心の下方の領域から離れるように曲げ変形しようとする。このとき、前記土留壁は前記下方棒状部材に引張力を加え、前記下方棒状部材は前記引張力に抵抗する。これにより前記土留壁の曲げ変形が抑えられる。他方、前記土留壁に前記底版から遠ざかる方向の水平力が作用したとき、前記土留壁は、前記底版の前記端部における、前記中心の上方の領域から離れるように曲げ変形しようとする。このとき、前記土留壁は前記上方棒状部材に引張力を加え、前記上方棒状部材は前記引張力に抵抗する。これにより前記土留壁の曲げ変形が抑えられる。よって、前記土留壁は地震時に水平力を確実に負担することができる。
【0010】
前記基礎は、前記底版の前記端部の上に前記土留壁に平行に設けられ、該土留壁に結合された側壁を含む。前記側壁が前記土留壁に結合されているため、地震時に前記側壁に作用する水平力を前記土留壁に確実に伝えることができ、前記水平力を前記土留壁に負担させることができる。これにより、前記側壁が負担する荷重を低減させることができ、前記側壁を薄くすることができ、建物の基礎を経済的に構築することができる。
【0011】
前記上方棒状部材の長さ寸法及び前記下方棒状部材の長さ寸法のそれぞれは前記側壁の厚さ寸法より大きい。前記土留壁は、ソイルセメントからなる本体と、該本体の内部に隣接して配置され、それぞれが上下方向に伸びる複数の鋼材とを有し、前記上方棒状部材の前記先端部及び前記下方棒状部材の前記先端部のそれぞれは各鋼材に結合されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、地震時に前記底版の上方における前記土留壁に前記底版に近付く方向の水平力が作用したとき、前記下方棒状部材は、前記土留壁から引張力を受け、該引張力に抵抗する。これにより前記土留壁の曲げ変形を抑えることができる。他方、前記土留壁に前記底版から遠ざかる方向の水平力が作用したとき、前記上方棒状部材は、前記土留壁から引張力を受け、該引張力に抵抗する。これにより前記土留壁の曲げ変形を抑えることができる。よって、前記土留壁に前記底版に近付く方向の水平力が作用したとき及び前記底版から遠ざかる方向の水平力が作用したときの双方において前記土留壁の曲げ変形を抑えることができ、前記土留壁に地震時の水平力を確実に負担させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施例に係る、建物の基礎の縦断面図。
【図2】図1の線2における建物の基礎の拡大図。
【図3】図1の線3における建物の基礎の水平断面図。
【図4】本発明の第2実施例に係る、建物の基礎の縦断面図。
【図5】本発明の第3実施例に係る、建物の基礎の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1、2に示すように、地盤10の中に設けられた土留壁12を用いた、建物の基礎14が構築されている。基礎14は、地盤10の表面16の下方に土留壁12に対して垂直に設けられた底版18を有する。底版18は、土留壁12に第1水平方向(図1における左右方向)に隣接する端部20を有し、基礎14は、底版18の端部20の上に土留壁12に平行に設けられた側壁22を有する。側壁22は底版18と土留壁12とに結合されている。底版18及び側壁22のそれぞれは鉄筋コンクリートからなる。
【0015】
基礎14は、底版18の内部に該底版の厚さ方向の中心24から上方へ間隔を置いて配置され、底版18に固定された、該底版から端部20を経て前記第1水平方向に伸びる上方棒状部材26を有し、該上方棒状部材の先端部28は土留壁12に固定されている。また、基礎14は、底版18の内部に中心24から下方へ間隔を置いて配置され、底版18に固定された、該底版から端部20を経て前記第1水平方向に伸びる下方棒状部材30を有し、該下方棒状部材の先端部32は土留壁12に固定されている。上方棒状部材26及び下方棒状部材30は底版18と土留壁12とを結合する。上方棒状部材26及び下方棒状部材30のそれぞれは、鉄筋、スタッド等である。
【0016】
土留壁12は、ソイルセメント柱列壁であり、図3に示すように、ソイルセメントからなる本体34と、該本体の内部に隣接して配置され、それぞれが上下方向に伸びる複数の鋼材36とを有する。鋼材36は、前記第1水平方向と直交する第2水平方向(図3における上下方向)に隣接して本体34の内部に配置されており、上方棒状部材26の先端部28及び下方棒状部材30の先端部32のそれぞれは各鋼材36に結合されている。上方棒状部材26の長さ寸法及び下方棒状部材30の長さ寸法のそれぞれは側壁22の厚さ寸法より大きい。
【0017】
土留壁12は、水平面に対して垂直な第1面38を有する。第1面38は、地盤10の表面16から下方へ隔てられた第1領域38aと、該第1領域の上の第2領域38bとを有し、土留壁12は、第2領域38bに間隔を置いて設けられた複数の突起40を有する。底版18は第1面38に対して垂直であり、底版18の端部20は第1領域38aに隣接している。側壁22は各突起40を受け入れており、これにより側壁22は土留壁12に結合されている。各鋼材36は第1領域38a及び第2領域38bにおいて本体34から露出しており、突起40は、鋼材36に固定されたスタッドからなる。土留壁12は、第1面38から間隔を置かれた、該第1面と向き合う第2面42を有し、該第2面は地盤10に接している。
【0018】
底版18の下面は地盤10に接している。底版18の上に建物の上部構造44が構築され、底版18と上部構造44との間に免震装置46が介在する。底版18は、図1に示した例では、土留壁12の下端部12aより高い高さに位置するが、これに代え、土留壁12の下端部12aと同じ高さに位置してもよい。
【0019】
基礎14を構築するとき、地盤10における、土留壁12の第1面38に隣接する領域を地盤10の表面16から土留壁12の下端部12a又は該下端部の上方まで掘削する。次に、下方棒状部材30を前記領域における地盤10から上方へ第1間隔を置いて、上方棒状部材26を前記領域における地盤10から上方へ前記第1間隔より大きい第2間隔を置いてそれぞれ第1面38に対して垂直に配置し、かつ、上方棒状部材26の先端部28及び下方棒状部材30の先端部32のそれぞれを土留壁12に固定する。その後、前記領域における地盤10の上にコンクリートを打設して底版18を形成する。このとき、上方棒状部材26が中心24から上方へ間隔を置かれ、下方棒状部材30が中心24から下方へ間隔を置かれるようにするために、前記コンクリートを、前記領域における地盤10から上方へ前記第2間隔より大きく前記第2間隔の2倍より小さい第3間隔を置かれた位置まで打設する。底版18の形成後、土留壁12に平行な側壁22を、該側壁が土留壁12に結合されるように底版18の上に設ける。
【0020】
地震時に底版18の上方における土留壁12に、底版18に近付く方向(図1における右方)の水平力と、底版18から遠ざかる方向(図1における左方)の水平力とが交互に作用する。土留壁12に底版18に近付く方向の水平力が作用したとき、土留壁12は、底版18の端部20における、中心24の下方の領域から離れるように曲げ変形しようとし、下方棒状部材30は、土留壁12から引張力を受け、該引張力に抵抗する。これにより土留壁12の曲げ変形を抑えることができる。他方、土留壁12に底版18から遠ざかる方向の水平力が作用したとき、土留壁12は、底版18の端部20における、中心24の上方の領域から離れるように曲げ変形しようとし、上方棒状部材26は、土留壁12から引張力を受け、該引張力に抵抗する。これにより土留壁12の曲げ変形を抑えることができる。よって、土留壁12は地震時に水平力を確実に負担することができる。
【0021】
側壁22が土留壁12に結合されているため、地震時に側壁22に作用する水平力を土留壁12に確実に伝えることができ、前記水平力を土留壁12に負担させることができる。これにより、側壁22が負担する荷重を低減させることができ、側壁22を薄くすることができ、建物の基礎を経済的に構築することができる。
【0022】
図2に示した例では、土留壁12の第1面38の第1領域38aに突起が設けられていないが、これに代え、図4に示すように、第1領域38aに突起48が設けられていてもよい。図4に示した例では、土留壁12は、第2領域38bに間隔を置いて設けられた複数の突起40(第1突起)に加え、第1領域38aに間隔を置いて設けられた複数の第2突起48を有し、底版18の端部20は各第2突起48を受け入れている。上方棒状部材26の長さ寸法及び下方棒状部材30の長さ寸法のそれぞれは、第1領域38aから第2突起48の先端部までの長さ寸法より大きい。
【0023】
図4に示した例では、中心24と上方棒状部材26との間の間隔と、中心24と下方棒状部材30との間の間隔とが等しいが、これに代え、これらの間隔が異なってもよい。上方棒状部材26及び下方棒状部材30のそれぞれの数は、図4に示した例では、1本であるが、これに代え、図5に示すように、複数本でもよい。図5に示した例では、基礎14は、底版18の内部における、中心24の上方の領域に間隔を置いて配置された、それぞれが底版18から端部20を経て前記第1水平方向に伸びる複数の上方棒状部材26を有し、各上方棒状部材の先端部28は土留壁12に固定されている。また、基礎14は、底版18の内部における、中心24の下方の領域に間隔を置いて配置された、それぞれが底版18から端部20を経て前記第1水平方向に伸びる複数の下方棒状部材30を有し、各下方棒状部材の先端部32は土留壁12に固定されている。
【0024】
図5に示した例では、上方棒状部材26及び下方棒状部材30のそれぞれの数は2本であり、上方棒状部材26の一方と他方との間の間隔と、下方棒状部材30の一方と他方との間の間隔とが等しいが、これに代え、これらの間隔が異なってもよい。上方棒状部材26及び下方棒状部材30のそれぞれの数は、2本である図5に示した例に代え、3本以上でもよい。この場合、上方棒状部材26及び下方棒状部材30の双方が等間隔を置かれていてもよいし、上方棒状部材26及び下方棒状部材30の双方が不等間隔を置かれていてもよいし、上方棒状部材26及び下方棒状部材30の一方が等間隔を置かれ、他方が不等間隔を置かれていてもよい。上方棒状部材26及び下方棒状部材30の双方が複数本である上記の例に代え、上方棒状部材26及び下方棒状部材30の一方が複数本であり、他方が1本でもよい。
【0025】
土留壁12は、ソイルセメント柱列壁である図示の例に代え、鋼管矢板、鋼矢板、親杭横矢板等でもよい。図示の例では、建物の上部構造44は、側壁22から隔てられているが、これに代え、側壁22と結合されてもよい。この場合、側壁22は上部構造44の一部を構成していてもよい。
【符号の説明】
【0026】
10 地盤
12 土留壁
14 基礎
16 表面
18 底版
20 端部
22 側壁
24 中心
26 上方棒状部材
28 先端部
30 下方棒状部材
32 先端部
34 本体
36 鋼材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の中に設けられた土留壁を用いた、建物の基礎であって、
前記地盤の表面の下方に前記土留壁に対して垂直に設けられた底版であって前記土留壁に水平方向に隣接する端部を有する底版と、
前記底版の内部に前記底版の厚さ方向の中心から上方へ間隔を置いて配置され、前記底版に固定された、該底版から前記端部を経て水平方向に伸びる少なくとも1本の上方棒状部材であって先端部が前記土留壁に固定された少なくとも1本の上方棒状部材と、
前記底版の内部に前記中心から下方へ間隔を置いて配置され、前記底版に固定された、該底版から前記端部を経て水平方向に伸びる少なくとも1本の下方棒状部材であって先端部が前記土留壁に固定された少なくとも1本の下方棒状部材とを含む、建物の基礎。
【請求項2】
前記底版の前記端部の上に前記土留壁に平行に設けられ、該土留壁に結合された側壁を含む、請求項1に記載の建物の基礎。
【請求項3】
前記上方棒状部材の長さ寸法及び前記下方棒状部材の長さ寸法のそれぞれは前記側壁の厚さ寸法より大きい、請求項2に記載の建物の基礎。
【請求項4】
前記土留壁は、ソイルセメントからなる本体と、該本体の内部に隣接して配置され、それぞれが上下方向に伸びる複数の鋼材とを有し、
前記上方棒状部材の前記先端部及び前記下方棒状部材の前記先端部のそれぞれは各鋼材に結合されている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の建物の基礎。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−46978(P2012−46978A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190745(P2010−190745)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(591165919)株式会社新井組 (13)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】