土留部材撤去方法およびこれを用いた斜面強化ブロック設置方法
【課題】この発明は、土留部材撤去時や撤去直後における地盤沈下を防止するため、土留部材撤箇所が迅速に安定状態になれるような土留部材撤去方法を提供することを目的とする。
【解決手段】上述の課題を解決するため、この発明の土留部材撤去方法は、土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、3本の土留部材に対して1本の割合で注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げ、ついで注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げることを特徴とする。
【解決手段】上述の課題を解決するため、この発明の土留部材撤去方法は、土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、3本の土留部材に対して1本の割合で注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げ、ついで注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シートパイル(鋼矢板)などの土留部材を使用した土留工事の施工後に、土留部材を撤去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中に水道管、ガス管、カルバートボックス、下水管、側溝等を埋設する工事においては、まず溝の両壁を構成すべき位置に簡易矢板、鉄板、シートパイル等の土留部材を設置して溝壁が崩れるのを防止した上で、地面を掘削して溝を形成し、溝内での水道管等の敷設作業が行われる。敷設作業が終了すると土留部材が引き抜かれる。こうして回収された土留部材は次の工事で再利用されることになる。しかし、溝内に砂や土を盛った後に土留部材を引く抜くことにより、地中には土留部材の体積分の空隙が生じることになる。この空隙を埋めるために周囲の土砂が移動し、地盤沈下などさまざまな問題が生じうることを本出願の発明者らは特許文献1〜3にて指摘するとともに、これを防止する土留工法を開示した。この他、特許文献4には、鋼矢板の引抜き時に土砂を落下させて空隙を埋めることが記載されている。特許文献5および特許文献6には「地盤圧密剤」を注して空洞を埋めることが、特許文献7には、「充填材」を注入することが記載されている。さらに、特許文献8には、土留部材を建て込む際の地盤沈下を防止する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3940735号特許公報
【特許文献2】特開2008−101373号
【特許文献3】特開2006−291701号
【特許文献4】特開昭64−58713号
【特許文献5】特開昭57−108311号
【特許文献6】特開昭57−108312号
【特許文献7】特開昭49−49404号
【特許文献8】特開2009−185494号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜8には、土留部材の引抜き跡の空隙によって生じる地盤沈下等の悪影響を防止に関連した土留工法が記載されている。しかし、特許文献4〜7においては具体的な説明はされておらず、さらに技術的に矛盾がある記載が含まれているものもあり、これらの文献に基づいてその発明が実施できるものではない。特許文献4〜7に記載の発明は実施されなかったと思われる。
【0005】
土留部材の引抜きによる空隙を生じさせない土留部材引抜き工法は、特許文献1〜3あるいは特許文献8に記載の発明に基づいて、この出願の発明者らによって初めて実施されたと考える。これによって、土留部材の引抜きによる地盤沈下や、土留部材の放置による金属汚染を防止することができる。
【0006】
しかし、この土留部材引抜き工法を様々な環境下で広く実施しようとすると、地盤沈下の起こらない安定した状態を速く実現したい場合があることが判明した。たとえば、河岸や海岸の斜面に化粧ブロックなどの斜面強化ブロックを設置する場合、この斜面強化ブロックの荷重によっても地面が沈下しないような安定状態になるべく早く到達することによって、工期を短縮することができる。また、砂地なども地盤沈下が発生しやすいため、早く安定状態になることが望まれる。
【0007】
この発明は、土留部材撤去時や撤去直後における地盤沈下を防止するため、土留部材撤箇所が迅速に安定状態になれるような土留部材撤去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、この発明の土留部材撤去方法は、土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、3本の土留部材に対して1本の割合で注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げ、ついで注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げることを特徴とする。
【0009】
また、土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、3本の土留部材に対して1本の割合で注入管を設置し、注入管は土留部材に固定せずに設置することを特徴とする。注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げ、ついで注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げることができる。あるいは、注入管が設置されている位置の土留部材およびその両隣の土留部材で構成される土留部材群において、両隣の土留部材のうちいずれかを最後に引き上げる方法であり、この最後の引き上げにおいて注入管上部へ向けたアームを有する注入管吊り上げ部材を土留部材の上に取り付け、この注入管吊り上げ部材のアームと注入管を接続し、注入管吊り上げで注入管を吊り上げながら土留部材を引き上げる。
【0010】
あるいは、この発明の土留部材撤去方法は、土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、注入後1週間経過時の一軸圧縮強度が0.20N/mm2以上0.40N/mm2以下となる2液性の注入材を使用することを特徴とする。
【0011】
ゲルタイムが30秒以上40秒以下の2液性の注入材を使用することがこのましい。
【0012】
さらに、この発明の斜面強化ブロック設置方法は上述の土留部材撤去方法を用いた方法であり、斜面の長さ方向に沿って土留部材を設置し、土留部材より下側の斜面に斜面強化ブロックを設置し、ついで注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて撤去し、注入材が所定の強度になる期間の経過後に土留部材があった位置よりも上側の斜面に斜面強化ブロックを設置する。
【発明の効果】
【0013】
この発明の土留部材撤去方法は、地中に空隙を残すことなく土留部材を引き抜くことができる。しかも、地盤沈下を生じない安定した状態を短時間で実現することができる。したがって、さまざまな土壌や地形、用途に対して広範に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】土留部材の引上げ作業を示す概念図である。
【図2】土留部材圧引抜機を示す正面図である。
【図3】同平面図である。
【図4】注入管の例を示す概念図である。
【図5】土留部材を示す斜視図である。
【図6】斜面強化ブロック設置方法を示す概念図である。
【図7】土留部材撤去方法の第2の例を示す平面図である。
【図8】同正面図である。
【図9】注入管の別例を示す概念図である。
【図10】注入材ホース保護部材を示す正面図である。
【図11】同断面図である。
【図12】土留部材撤去方法の第3の例を示す平面図である。
【図13】同正面図である。
【図14】土留部材撤去方法の第4の例を示す平面図である。
【図15】同正面図である。
【図16】土留部材撤去方法の第5の例を示す平面図である。
【図17】同正面図である。
【図18】注入管吊り上げ部材を示す正面図である。
【図19】同平面図である。
【図20】同断面図である。
【図21】単管の注入管の例を示す概念図である。
【図22】単管の注入管の設置方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。図1は土留部材の引上げ作業を示す概念図、図2は土留部材圧引抜機の例を示す正面図、図3は同平面図である。この土留部材圧引抜機1は、無騒音・無振動の杭材圧引抜機として普及している周知の装置であり、油圧によって土留部材の圧引および引き抜きを行う。
【0016】
土留部材圧引抜機1は、圧引または引き抜きの対象である土留部材xを掴むためのチャック2と、このチャック2を上下動させる昇降装置3を有する。チャック2の上部には、土留部材xが通過できる程度の小さな円形の開口部4がある。また、既設の土留部材を掴むための掴み部5を複数備えている。掴み部5によって既設杭を掴むことで、既設の杭から反力をとって、チャック2によって土留部材xを地盤に対して圧入または引抜けるようになっている。また、土留部材圧引抜機1は、既設の土留部材を伝って移動することができる。
【0017】
まず、土留部材の引き抜きに先立って、注入管6を地中に設置する。予め注入管が取り付けられた土留部材を建て込んでもよいが、ここでは、既に建て込まれた土留部材に沿って注入管を設置する例で説明する。
【0018】
図4は注入管の例を模式的に示す概念図である。注入管6は、複数の部品に分解することができ、上部より、スイベル7、中間ロッド8、吐出部9、先端部10である。
【0019】
スイベル7は直方体状の外形を有し、側面には、第1ホース取付口13と第2ホース取付口14が設けられている。このスイベル7の内部は二重管構造になっており、独立した2本の流体通路が形成されている。そして、第1ホース取付口13と第2ホース取付口14がそれぞれ本体部12の流体通路につながっている。このスイベル7は溶接によって土留部材の表面上に直接取り付けることができる。
【0020】
中間ロッド8は複数本設けられている。スイベル7と同様に内部は二重管構造になっており、独立した2本の流体通路が形成されている。
【0021】
吐出部9の側面には、吐出口15が形成されている。そして、吐出口15の近くには栓として作用する玉16がある。さらに、玉16の下にはバネ17が設けられており、玉16を上向きに押す力が加えられている。玉16の上に加重がない場合には、玉16は吐出口15へ続く流路を塞ぐ位置にある。玉16の上から強い押し下げ力が加わったときには、バネ17を押し下げながら玉16は下降し、吐出口15へ続く流路を開く。
【0022】
先端部10の下端には、硬い素材で作られたビット18が取り付けられている。このビット18により固い地盤であっても、土壌を切り裂いて進行することができるとともに、打ち込み時において注入管6全体にかかる負担を軽減する。
【0023】
スイベル7、中間ロッド8、吐出部9、先端部10にはネジ部が形成されており、相互に接続・分離が容易に行われるようになっている。中間ロッド8同士も接続・分離が可能になっている。
【0024】
ボーリングマシン等を用いて掘孔しながら、注入管6を地中へ打ち込んでいく。先端部10、吐出部19および土留部材xの長さをカバーできる程度の本数の中間ロッド8を接続しておく。最上部の中間ロッド8には、スイベル7の代わりに、上端部を塞ぐ栓を取り付けておき、設置中に注入管6の内部に土砂が入らないようにする。全ての土留部材xに対して注入管6を設置してもよいが、注入材が遠くまで届く場合には2本おき、あるいは3本おきのように設置してもよい。このように飛び飛びに設置する場合でも、最初に引き抜くべき土留部材に対しても注入管6を設置することが好ましい。
【0025】
注入管6の上端が、土留部材xの上端より60cmほど低い位置になるようにする。土留部材xが地上より50cm程度突き出しているとき、注入管6の上端が、最上部の中間ロッド8の上端は地表より10cm程度下に埋まることになる。
【0026】
その後、注入管6の上端が現れるまで、この土留部材xの近くの地面を掘る。注入管6の上端を掘り当てたら、栓を取り外し、スイベル7を接続する。そして、10本程度の注入管6に対して、ホース取付口13,14に短い注入材ホース44を取り付ける。この注入材ホース44は曲がりやすい柔軟なホースであり、土留部材xの上端より下の高さになるようにしておく。こうしておくことで、土留部材圧引抜機1のチャック2に干渉することが防止でき、引抜作業や注入作業などがきわめて行いやすくなる。ついで、土留部材圧引抜機1を既設の土留部材に設置し、引き抜き対象の土留部材xの位置に合わせる。ここでは図1に示すように、この土留部材x(3番)に注入管6が取り付けられているとする。この注入管6に長い注入材ホース44を継ぎ足し、注入材を供給するポンプ(図示省略)に接続する。
【0027】
図5は、土留部材を示す斜視図である。この例において使用する土留部材xは、シートパイルと呼ばれており、一般に普及している土留部材である。長方形板状の中央部21と、中央部21の両側端部に形成された長方形板状の側部22を有する。この側部22は中央部21に対して直角よりも若干大きな角度を有している。したがって、土留部材xは、略コの字状の断面を有する。側部22の端部は鉤状のカールが形成されており、セクションと呼ばれる部位が設けられている。このセクション23は隣接する土留部材同士を接続する継ぎ手の役割を果たす。また、土留部材xの上端部には、吊下げ用穴24が設けられている。この吊下げ用穴24は、吊下げ用のフックやシャックルを取り付けることができる適度の大きさを有する。なお、土留部材としては、シートパイル以外にも、H型断面のものや円筒状のものなどが使用できる。
【0028】
チャック2で土留部材xを掴む。このチャック2は、2本の細い部材を土留部材xの中央部21の表面の左右の側部に押し当てるようになっており、中央部21の中心付近には接触しない。したがって、中央部21の中心付近に取り付けられている注入管6には当たらない。チャック2の上に設けられている開口部4は、土留部材xが通るのに必要な最低限の大きさしかないが、注入管6はこの開口部4の円の範囲内におさまっている。注入材を供給するためのホースをスイベル7の第1ホース取付口13と第2ホース取付口14に取り付けられたホースを土留部材圧引抜機の中に通す。ここでは、A液とB液という2種類の液体を混合する2液タイプの硬化剤を使用する。ホースは開口部4を通って、硬化剤の供給源(図示省略)に接続される。
【0029】
チャック2で土留部材1を掴んだら、土留部材1の引き上げを開始する。引き上げながら、ホース、スイベル11および注入管10を介して注入材を導入し、地中に吐出する。1ステップで50cmの引き上げになるようにして、土留部材1を引き上げていく。
【0030】
ここで、使用する注入材の例について説明する。土留部材xの引抜き跡を迅速に充填するためには、硬化剤としては2液を混合するゲルタイムの短いものが好ましい。そこで、瞬結性の注入材の例について説明する。ここでは促進剤および硬化剤として非水ガラス系無機懸濁型の製品名YMS60tai(三興コロイド化学株式会社)を使用する。これは、硬化剤と促進剤の組み合わせになっていて、硬化剤は炭酸ナトリウムとアルミン酸ナトリウムを主成分とし、促進剤は水酸化カルシウムを主成分とする。表1に注入材の例を、表2にその注入材の物性を示す。A液の配合が異なる4種類の例を示している。表1に示す配合により、それぞれ200リットルのA液とB液を調製することができる。このA液とB液を1対1で使用する。
【表1】
【表2】
【0031】
セメントとしては、六価クロムなどの重金属の危険性が少ない高炉セメントB種を使用している。また、硬化剤および促進剤も重金属を含まず、毒物や劇物も含まない安全性の高い無公害薬剤である。したがって、これらの注入材は、いずれも環境への悪影響がない、安全なものである。
【0032】
土留部材xが引き上げられ地中に50cm残っている時点で、注入材の導入を終了する。その場で注入材を導入したホースを利用して、洗浄用の水をスイベルに供給する。こうして、注入管10の内部を洗浄する。そして、土留部材xを完全に引き抜き、レッカーで吊り上げて安全な場所に移動させる。
【0033】
土留部材xが引き抜かれた跡は、注入材によって充填されているので、地中には空隙は残らない。したがって、施工中にも施行後にも、周囲において、地盤沈下や地下水の変動などの悪影響が生じない。
【実施例1】
【0034】
この発明の第1の実施例について説明する。この例では、注入後1週間経過時の一軸圧縮強度が0.20N/mm2以上0.40N/mm2以下となる2液性の注入材を使用することを特徴とする。ここで、一軸圧縮強度としては例えばJISで規定された方法で測定した値を用いることができる。
【0035】
表1に示した4種類の注入材では、注入材2と注入材3がこの実施例に該当する。後述する斜面強化ブロック設置工事などにおいては、ブロック設置場所の地盤が、ブロックの荷重によって沈下しないような安定状態になることが求められる。ここで、河岸に斜面強化ブロックを設置する場合、ブロックによる荷重は2t/m2程度になる場合が多い。すなわち、2t/m2の荷重に耐え得る状態になれば、斜面強化ブロックの積み上げ作業を開始することができる。
【0036】
表1に示した4種類の注入材のうち、注入材1と注入材4はこの出願の発明者らが先に出願した特願2009−100673に係る土留部材撤去方法でも使用されるものである。注入材1も比較的ゲルタイムが短い注入材であるが、7日経過時の強度が0.17N/mm2であり、2t/m2の荷重に耐えるための強度には達していない。2t/m2の荷重に耐えるためには0.20N/mm2の強度が必要であるが、注入材1がその強度になるまでには2週間以上が必要である。したがって、注入材1を注入して土留部材を撤去した後に、2週間以上経過するまで斜面強化ブロックを積み上げることができない。このような待機時間は工期を遅らせ、施工費用を増大させる。また、河岸工事では、河川の水流の一部を止めることがあるが、このような工事はいつでもできるわけではなく、水量の少ない時期に限られるので、工期が短い方が有利である。
【0037】
一方、注入材4は7日経過時の強度が0.30N/mm2であり、斜面強化ブロックを積み上げる強度に達している。しかし、このようにあまりにも早く硬化する注入材4は、高炉セメントを大量に使用するので、コストが高くなるという問題がある。また、ゲルタイムが20秒以下と短時間であるが、このようにゲルタイムが短い注入材は取り扱いが難しく、注入中に作業が少しでも停滞すると、注入管の先端付近で硬化が始まって、詰まるようなトラブルも起こりうる。そこで、発明者らは検討を重ね、表1の注入材2および注入材3を開発した。
【0038】
注入材2の配合について説明する。水168.8リットル、高炉セメントB種90Kg、YMS60taiの促進剤4Kgを混合したものをA液とする。一方、水198リットルと、YMS60taiの硬化剤10Kgを混合したものをB液とする。このA液とB液を1対1で使用することにより、20℃でのゲルタイムが40秒、1週強度0.20N/mm2の注入材が得られる。
【0039】
つぎに、注入材3の配合について説明する。水166.3リットル、高炉セメントB種97.5Kg、YMS60taiの促進剤4Kgを混合したものをA液とする。一方、水198リットルと、YMS60taiの硬化剤10Kgを混合したものをB液とする。このA液とB液を1対1で使用することにより、20℃でのゲルタイムが30秒、1週強度0.27N/mm2の注入材が得られる。
【0040】
注入材2と注入材3の間になるような配合でもよい。その配合に応じて、ゲルタイムや1週強度を適宜調整することができる。
【0041】
この実施例に基づく斜面強化ブロック設置方法について説明する。図6は、斜面強化ブロック設置方法を示す概念図である。河川の堤防や海岸などの斜面に斜面強化ブロックを設置する方法に関する。ここでは、河川の堤防上の道幅を拡張するために、堤防の斜面に斜面強化ブロックを設置する例で説明する。
【0042】
図6は河川の一部および堤防の断面図となっている。この図において、堤防31の右側が川の内部になる。内側を向いた堤防31の側面は斜面32となっている。堤防31の上側には道が作られており、内向きの端部が歩道33となっている。この歩道33を拡張するために、堤防31の内側の側面32に土34を盛り、化粧パネルを取り付ける工事を行う。この堤防31は紙面に垂直な方向に長く続いている。この紙面に垂直な方向を堤防31および側面32の長さ方向とする。
【0043】
堤防の近くに土を盛って水の流れを制限し、堤防の近くに水が流れないようにする。また、斜面の長さ方向に沿って土留部材を平行に2列で建て込む。第1の列の土留部材x1は斜面32の下で川底内に打ち込む。第2の列の土留部材x2は斜面32の上部に建て込む(図6a)。先に盛られた土のうち、第1の列の土留部材x1と堤防の斜面32の間の土34aを取り除く。
【0044】
ついで、斜面の下側より土を盛るとともに、その上に斜面強化ブロックを取り付けていく(図6b)。第2の列の土留部材x2の近くまで斜面強化ブロックを設置したら、第1の列の土留部材x1と堤防の斜面32の間に土を戻し、第1の列の土留部材x1を引き上げる(図6c)。このとき、特に注入材の注入を行わなくても、川底の土砂はスムーズに移動して土留部材x1の跡を埋め、周囲の地盤状態に影響を与えない。
【0045】
さらに、第2の列の土留部材x2を引き抜く。このとき、表1の注入材2や注入材3など、注入後1週間経過時の一軸圧縮強度が0.20N/mm2以上0.27N/mm2以下となる2液性の注入材を注入ながら土留部材x2を引き上げる。こうして、土留部材x2が引き抜かれた跡の空間は注入材によって埋められるので、地中に空隙が生じない(図6d)。この注入材は、注入材4に比べて高炉セメントの使用量が少なく、コストはおさえられている。また、ゲルタイムも30秒以上あるので取り扱いやすい。
【0046】
この例の工事などにおいて、斜面強化ブロックの積み上げによる荷重は2t/m2程度であるが、注入後1週間経過時には注入材は0.20N/mm2以上の強度を有する。したがって、第2の列の土留部材x2の撤去から1週間後には斜面強化ブロックの積み上げを開始できる。斜面強化ブロックの積み上げのためには1週間程度の準備期間がかかるので、この準備が完了したころにはそのまま積み上げを開始でき、無駄な待ち時間がほとんど生じない。
【0047】
第2の列の土留部材x2があった位置よりも上側にも土を盛るとともに、その上に斜面強化ブロックを取り付けていく。斜面32の上端まで斜面強化ブロックを取り付ける。こうして、川の内側に向かって堤防31の幅が拡張され、堤防31の上の歩道33の幅も拡張される(図6e)。盛られた土34を取り除き、水の流れを元に戻す。
【0048】
以上、河川の堤防での施工例を説明したが、海岸などの斜面においても適用することができる。特に河川や海岸においては、土留部材を撤去せずに放置すると、その腐食は急速に進行し、周囲に金属成分が流出する。しかし、この土留部材撤去方法および斜面強化ブロック設置方法によれば、工事終了後に土留部材を撤去するので、環境汚染を防止することができる。
【実施例2】
【0049】
この発明の第2の実施例について説明する。図7は土留部材撤去方法の第2の例を示す平面図、図8は同正面図である。土留部材が連続的に建て込まれているが、左端から順に番号を付けて識別する。左端の土留部材(番号1)には注入管6が設置されている。これに続く2本の土留部材(番号2,3)には注入管6が設置されておらず、4本目の土留部材(番号4)には注入管6が設置されている。このように、2本飛ばしで間欠的に注入管6を設置している。
【0050】
すべての土留部材に注入管6を設置することも可能ではあるが、使用する資材や労力が増大し、コストが大きくなる。そのため、土留部材撤去にかかる費用が、回収される土留部材の価値を上回ることが判明した。土留部材を放置して周囲への汚染が発生すれば、その回復のためには多大な費用がかかるのであるが、そのような費用は考慮されにくい。しかし、この実施例では設置される注入管は3分の1の本数ですみ、土留部材がリサイクルできるメリットが上回り、この土留部材撤去方法を採用することによって短期的にもコストが削減できる。
【0051】
ここでは、図5に示すようなシートパイルを土留部材として使用している。土留部材のコの字状の溝内部で中心線に沿って注入管6は取り付けられている。土留部材の建て込み後にボーリングマシンを使って注入管6を設置してもいいが、ここでは、予め注入管6を取り付けて土留部材を建て込んでいる。
【0052】
図9はここで使用する注入管の例を示す概念図である。中間ロッドは平行に設けられた2本の円柱状のパイプ8a、8bである。それぞれのパイプ8a、8bが独立した硬化剤の流路を形成する。中間ロッドの途中にはブレ止め部材19が取り付けられる。ブレ止め部材19は略直方体状の外形を有し、パイプ8a、8bを収容するための2本の孔19a,19bが貫通している。このブレ止め部材19によってパイプ8a、8bの相互の位置関係が固定され、土留部材の建て込み時などにおけるパイプ8a、8bのブレを防止する。
【0053】
先端部10は略直方体状の外形を有し、特に最先端部の面は斜めに切り取られた形状に形成されており、建て込み時に土中を進行しやすくなっている。先端部10の上に取り付けられる吐出部9において二つの流路は合流し、それぞれのパイプ8a、8bを通ってきた液体が混合されるようになっている。側面に3つの吐出口を横方向に有する。
【0054】
以上、先端部10、吐出部9およびブレ止め部材19は略直方体状の外形を有するので、それぞれの部材において土留部材と面接触する。したがって、軽く溶接するだけで、土留部材に強固に固定される。注入管6の土留部材への取り付けは施工現場で行われるが、略直方体状の部材があることによって転がりにくく、施工現場が傾斜していても、土留部材への取り付け作業は容易である。吐出部9が土留部材の下端のやや上の位置なるように注入管6は取り付けられている。
【0055】
土留部材の引抜きについて説明する。大きな流れとしては、土留部材は端から順番に引き抜かれていく。しかし、注入管6のある土留部材は、その隣にある注入管なし土留部材の後に引き抜かれるので、部分的には引抜き順序が前後する。予め、10本程度の注入管6に対して、ホース取付口に短い注入材ホース44を取り付ける。曲がりやすい柔軟なホースを使用し、土留部材xの上端より下の高さになるようにしておく。こうしておくことで、土留部材圧引抜機1のチャック2に干渉することが防止でき、引抜作業や注入作業などがきわめて行いやすくなる。
【0056】
図7および図8の例では、1番目の土留部材に先だって、2番目の土留部材をステップアップしながら引き抜く。このとき、1番目の土留部材の注入管6−1に長いホースを継ぎ足してポンプに接続する。土留部材の除端よりも低いところを注入材ホース44は這っているので、土留部材圧引抜機の移動やチャックの作動を妨げない。この注入管6−1より注入材を注入する。注入材はたとえば表1に示したものなどが使用できる。この注入材は2番目の土留部材があった場所に充填される。図2に示すような状態で、注入材注入および土留部材引抜きを行う。こうして、注入管を有しない2番目の土留部材の引き上げ中であっても地中に空隙が発生しない。ついで、注入管6より注入材を地中に注入しながら1番目の土留部材をステップアップして引き抜く。
【0057】
ついで、3番目以降の土留部材を引き抜いていく。3番目以降では、注入管6のある土留部材(例えば4番目)とその両隣りにある注入管を有しない土留部材(例えば3番目と5番目)による3本組の土留部材群を単位として説明する。まず、両隣りにある注入管を有しない土留部材のうちのどちらか(例えば3番目)を引き抜く。この時、その土留部材群の中央の土留部材の注入管6−2より注入材を注入する。ついで、他方の注入管を有しない土留部材(5番目)も同様に引き抜く。最後に、その土留部材群の中央の土留部材を、やはり注入管6より注入材を注入しながら引き抜く。以上の手順で6番目以降の土留部材も引き抜いていく。
【0058】
ここで使用した注入管では、注入材を導入するための第1ホース取付口13および第1ホース取付口14の位置は、土留部材の上端よりも60mmほど低くなる。また、注入材を供給するためのポンプ等(図示省略)は地面付近に置かれる。そのため、注入材を導入するホースは土留部材の上端に接して折り返す状態となる。しかし、土留部材上端の角部は尖っているので、それに接すると注入材ホースが損傷するおそれがある。そこで、土留部材の上端に注入材ホース保護部材を取り付けることが好ましい。図10は注入材ホース保護部材を示す正面図、図11は同側面図である。
【0059】
注入材ホース保護部材40は土留部材xの上端に取り付けるための溝部41を有する。上部には、2基の滑車42を備えている。また、中央部には、切り欠き部43が形成されている。
【0060】
土留部材xの上端中央部に溝部41をはめこみ、注入材ホース保護部材40を土留部材xに取り付ける。落下防止のため、図10のハッチング部を溶接するなどして固定することが好ましい。注入材ホース44を滑車42の上に載せる。この滑車42によって注入材ホース44が土留部材xの上端に接触することが防止され、また、抵抗を小さくする。土留部材xの上部の中心にはフックなどを取り付けるための穴24があるが、切り欠き部43があるのでこの穴がふさがれることはない。したがって、強度の高い大型のシャックルやフックなどを取り付け、安全に吊り上げを行える。注入管は穴24の前を通らないので、吊り上げ作業は行いやすい。
【0061】
この実施例の土留部材撤去方法によれば、施工中においても地中に空隙がある状態が発生しない。したがって、砂地など不安定な地盤においても、地盤沈下などの悪影響を引き起こすことなく土留部材を撤去することができる。3本の土留部材に対して1本の注入管を使用するので、施工コストは小さく、工期も短い。
【0062】
以上、長方形の断面形状を有する注入管が取り付けられた土留部材を建て込む場合について説明したが、図4に示す円柱状の外形を有する注入管を使用する場合について説明する。ボーリングマシンを使って、土留部材のコの字状の溝内部で土留部材の中心線に沿って注入管6を設置する。
【実施例3】
【0063】
この発明の第3の実施例について説明する。図12は土留部材撤去方法の第3の例を示す平面図、図13は同正面図である。第2の実施例と類似した配列になっていて、2本飛ばしで間欠的に注入管6を設置している。左端の土留部材(番号1)には注入管6が設置され、これに続く2本の土留部材(番号2,3)には注入管6が設置されておらず、4本目の土留部材(番号4)には注入管6が設置されている。
【0064】
この実施例においては、図4に示すような円柱状の外形を有する注入管を使用する。土留部材のコの字状の溝内部で中心線に沿って注入管6が設置される。土留部材の建て込み後にボーリングマシンを使って注入管6を設置するが、土留部材に固定しないでおく。注入管6の先端部が、土留部材xの下端より50〜500mm程度下に突出すように設置することが好ましい。
【0065】
1番目の土留部材に先だって、2番目の土留部材をステップアップしながら引き抜く。このとき、1番目の土留部材の注入管6より注入材を注入する。ついで、注入管6より注入材を地中に注入しながら1番目の土留部材をステップアップして引き抜く。注入管6は土留部材に固定されていないので、土留部材のみが上昇し、注入管6は地中に残る。
【0066】
ついで、3番目以降の土留部材を引き抜いていく。注入管6のある土留部材とその両隣りの注入管を有しない土留部材による3本組の土留部材群を単位とすると、第2の実施例と同様に、両隣りの注入管を有しない土留部材を引き抜く。この時、その土留部材群の中央の土留部材の注入管6より注入材を注入する。その後、その土留部材群の中央の土留部材を、やはり注入管6より注入材を注入しながら引き抜くが、注入管6はまだ地中に残っている。以上の手順を繰り返すことによってすべての土留部材を引き抜く。そして最後に注入材を地中に注入しながらレッカーで注入管6を引き抜く。こうして、注入管6の引抜き跡も注入材で充填される。
【0067】
第2の実施例では、中央の土留部材を引き抜くときに注入管6も同時に上がってきた。したがって、注入管6の中間パイプを上から順次取り外しながら、土留部材を引き上げなければならず、作業が煩雑になる点が不利であった。この実施例では、土留部材と注入管6は別々に引き上げられるので、作業が簡単になる。
【実施例4】
【0068】
この発明の第4の実施例について説明する。図14は土留部材撤去方法の第3の例を示す平面図、図15は同正面図である。第3の実施例と類似した配列になっていて、2本飛ばしで間欠的に注入管6を設置している。この実施例においても、円柱状の外形を有する注入管を使用し、土留部材に固定しないでおく。このように注入管を土留部材に固定しないことによって、注入管が設けられた土留部材の引抜きを必ずしも最後にしなくてよくなる。
【0069】
この例では、端から順番に土留部材を撤去していく。1番目の土留部材に沿って設けられた注入管より注入材を注入しながら1番目の土留部材を引き上げ、ついで、同じ注入管より注入材を注入しながら2番目の土留部材を引き上げる。さらに、4番目の土留部材に沿って設けられた注入管より注入材を注入しながら、3〜5番目の土留部材を引き上げる。以上の手順を繰り返すことによってすべての土留部材を引き抜く。注入管6は地中にまだ残っている。最後に注入材を地中に注入しながらレッカーで注入管6を引き抜く。こうして、注入管6の引抜き跡も注入材で充填される。
【0070】
この実施例によれば、端から順番に土留部材を撤去していくので、土留部材圧引抜機は途中で戻ったりすることなく、一方向に進行していく。したがって、作業がわかりやすく単純になる。
【実施例5】
【0071】
この発明の第5の実施例について説明する。図16は土留部材撤去方法の第5の例を示す平面図、図17は同正面図である。注入管を土留部材に固定しないことは、第4の実施例と同じである。端から2番目の土留部材に最初の注入管が設置され、そこから2本おきに注入管が配置される。
【0072】
2番目の土留部材に沿って設けられた注入管より注入材を注入しながら、1番目の土留部材を引き上げる。同じ注入管より注入材を注入しながら2番目の土留部材も引き上げる。ここで、注入管はまだ残っている。ついで、その注入管より注入材を注入しながら3番目の土留部材を引き上げる。このとき、3番目の土留部材の上部に注入管吊り上げ部材を取り付け、この注入管吊り上げ部材に注入管を接続し、注入管吊り上げ部材で注入管を吊り上げながら土留部材を引き上げる。6番目の土留部材を引き上げるときも同様に、注入管吊り上げ部材を取り付け、5番目の土留部材に沿って設けられた注入管を引き上げる。
【0073】
図18は注入管吊り上げ部材を示す正面図、図19は同平面図、図20は同断面図である。注入管吊り上げ部材60は土留部材xの上端に取り付けるための溝部61を有する。中央部には、切り欠き部62が形成されている。また、アーム63が備えられていて、このアーム63の先端付近にはワイヤ64が取り付けられている。
【0074】
注入管が設けられた土留部材の次の位置にある土留部材xの上端中央部に溝部61をはめこみ、注入管吊り上げ部材60を土留部材xに取り付ける。落下防止のため、点溶接等で固定することが好ましい。土留部材xの上部の中心にはフックなどを取り付けるための穴があるが、切り欠き部62があるのでこの穴がふさがれることはない。
【0075】
土留部材xに注入管吊り上げ部材60を取り付けたとき、ワイヤ64は注入管の上方当たりに位置するようになっている。このワイヤ64の下端を注入管6の上部のスイベル7に接続する。
【0076】
こうして、土留部材xの引き上げと同時に注入管6も引き上げられる。注入管6は、引き上げられる土留部材xからずれた位置にあるので、土留部材圧引抜機に干渉することなく容易に引抜きを行うことができる。土留部材xの引き上げ後にクレーンなどで注入管6を引き抜く工程が省略でき、工期を短縮することができる。
【実施例6】
【0077】
この発明の第6の実施例について説明する。土留部材や注入管の配置および土留部材の引き上げ順序は、第4の実施例に関する図14および図15に示すものと同様である。図21はこの実施例で使用する単管の注入管を示す断面図であり、図22は単管の注入管の設置方法を示す概念図である。
【0078】
土留部材のコの字状の溝内部で土留部材の中心線に沿って注入管を設置する。この注入管の地中への挿入はダブルパッカー工法に類似した手順で行う。すなわち、始めにボーリングマシンにより所定の深さに削孔し、その穴に筒状のケーシング71を挿入し(図22(a))、そのあと注入管6をケーシング71内に挿入する(図22(b))。注入管6を挿入したあとケーシング71を地中から引き抜く。以上の手順を繰り返して、土留部材3本に対して1の注入管6を地中に設置する。注入材としてセメントミルク、セメント・ベントナイトのようないわゆる非薬液系のものや溶液型でゲルタイムが5分程度のもの、或いはゲルタイムが1分程度のもの等が使用でき、さらにこれらの材料を組み合わせて順次注入することもできる。注入管6としては、たとえばインチ塩ビパイプと呼ばれる直径2.54cmの塩ビ管を使用する。先端にはキャップがかぶせられており、その少し上方の側面には注入材を吐出する吐出口が設けられている。注入管6を地中に設置したら上端にキャップをかぶせ、注入材ホース44を接続する。
【0079】
注入管6の先端付近には吐出口を設けている。さらに塩ビパイプ内で先端付近には略円柱状の栓16が設けられている。注入管6、栓11は図21(a)の位置にあり吐出口をふさいでいる。栓16とキャップの間には若干の隙間があるが、栓16の下部に設けられたOリングによって栓16は大気圧のみがかかっている状態では下方へは下がらないようになっている。したがって注入管6を地中に挿入するときには栓16によって吐出口が閉じられているので土砂が注入管6内部に入ることはない。注入管6に注入材を送り込むと栓16は注入材に押されて下降し、図21(b)の位置へ移動する。これによってそれまで栓16によってふさがれていた吐出口が開放され、注入材は地中へと吐出される(図22(c))。本例のキャップには小さな穴があけられていて栓16の下の空気を逃がし、栓16の下降を妨げないようにしてある。また、栓の上面には円錐状の凹部が設けられていて、注入材の圧力を栓が有効に受け止めるとともに、地中に放たれた注入材が上向きに送られるようにしてある。
【0080】
1番目の土留部材に沿って設けられた注入管6aより注入材を注入しながら1番目の土留部材を引き上げ、ついで、同じ注入管6aより注入材を注入しながら2番目の土留部材を引き上げる。さらに、4番目の土留部材に沿って設けられた注入管6bより注入材を注入しながら、3〜5番目の土留部材を引き上げる。以上の手順を繰り返すことによってすべての土留部材を引き抜く。最後に注入材を地中に注入しながらレッカーで注入管6を引き抜く。こうして、注入管6の引抜き跡も注入材で充填される。
【0081】
全ての土留部材を撤去した後、注入管6は地中にまだ残っている。この注入管6は、撤去することなくそのまま地中に残してよい。第5の実施例までに使用された二重管と異なり、この注入管6は安価であり、撤去しないことにより、工期の短縮およびコストの削減ができる。塩ビ管で作られているので、金属成分を流出するおそれはなく、そのまま放置しても環境へ悪影響を生じない。もし施工の後に、地盤が不安定であることが判明した場合、残された注入管6を使用して注入材を再注入することもできる。
【0082】
なお、同じ構造の注入管を塩化ビニールの代わりに自然分解性の素材で構成してもよい。このような自然分解性の素材としては、すでに紙成分を主体にしたものなどが選択できる。地中に残された注入管は分解されて土に戻るので、環境への英居がより少なくなる。
【符号の説明】
【0083】
x.土留部材
1.土留部材圧引抜機
2.チャック
6.注入管
7.スイベル
8.中間ロッド
22.中央部
24.吊下げ用穴
40.注入材ホース保護部材
42.滑車
44.注入材ホース
60.注入管吊り上げ部材
63.アーム
64.ワイヤー
【技術分野】
【0001】
この発明は、シートパイル(鋼矢板)などの土留部材を使用した土留工事の施工後に、土留部材を撤去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中に水道管、ガス管、カルバートボックス、下水管、側溝等を埋設する工事においては、まず溝の両壁を構成すべき位置に簡易矢板、鉄板、シートパイル等の土留部材を設置して溝壁が崩れるのを防止した上で、地面を掘削して溝を形成し、溝内での水道管等の敷設作業が行われる。敷設作業が終了すると土留部材が引き抜かれる。こうして回収された土留部材は次の工事で再利用されることになる。しかし、溝内に砂や土を盛った後に土留部材を引く抜くことにより、地中には土留部材の体積分の空隙が生じることになる。この空隙を埋めるために周囲の土砂が移動し、地盤沈下などさまざまな問題が生じうることを本出願の発明者らは特許文献1〜3にて指摘するとともに、これを防止する土留工法を開示した。この他、特許文献4には、鋼矢板の引抜き時に土砂を落下させて空隙を埋めることが記載されている。特許文献5および特許文献6には「地盤圧密剤」を注して空洞を埋めることが、特許文献7には、「充填材」を注入することが記載されている。さらに、特許文献8には、土留部材を建て込む際の地盤沈下を防止する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3940735号特許公報
【特許文献2】特開2008−101373号
【特許文献3】特開2006−291701号
【特許文献4】特開昭64−58713号
【特許文献5】特開昭57−108311号
【特許文献6】特開昭57−108312号
【特許文献7】特開昭49−49404号
【特許文献8】特開2009−185494号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜8には、土留部材の引抜き跡の空隙によって生じる地盤沈下等の悪影響を防止に関連した土留工法が記載されている。しかし、特許文献4〜7においては具体的な説明はされておらず、さらに技術的に矛盾がある記載が含まれているものもあり、これらの文献に基づいてその発明が実施できるものではない。特許文献4〜7に記載の発明は実施されなかったと思われる。
【0005】
土留部材の引抜きによる空隙を生じさせない土留部材引抜き工法は、特許文献1〜3あるいは特許文献8に記載の発明に基づいて、この出願の発明者らによって初めて実施されたと考える。これによって、土留部材の引抜きによる地盤沈下や、土留部材の放置による金属汚染を防止することができる。
【0006】
しかし、この土留部材引抜き工法を様々な環境下で広く実施しようとすると、地盤沈下の起こらない安定した状態を速く実現したい場合があることが判明した。たとえば、河岸や海岸の斜面に化粧ブロックなどの斜面強化ブロックを設置する場合、この斜面強化ブロックの荷重によっても地面が沈下しないような安定状態になるべく早く到達することによって、工期を短縮することができる。また、砂地なども地盤沈下が発生しやすいため、早く安定状態になることが望まれる。
【0007】
この発明は、土留部材撤去時や撤去直後における地盤沈下を防止するため、土留部材撤箇所が迅速に安定状態になれるような土留部材撤去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、この発明の土留部材撤去方法は、土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、3本の土留部材に対して1本の割合で注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げ、ついで注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げることを特徴とする。
【0009】
また、土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、3本の土留部材に対して1本の割合で注入管を設置し、注入管は土留部材に固定せずに設置することを特徴とする。注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げ、ついで注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げることができる。あるいは、注入管が設置されている位置の土留部材およびその両隣の土留部材で構成される土留部材群において、両隣の土留部材のうちいずれかを最後に引き上げる方法であり、この最後の引き上げにおいて注入管上部へ向けたアームを有する注入管吊り上げ部材を土留部材の上に取り付け、この注入管吊り上げ部材のアームと注入管を接続し、注入管吊り上げで注入管を吊り上げながら土留部材を引き上げる。
【0010】
あるいは、この発明の土留部材撤去方法は、土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、注入後1週間経過時の一軸圧縮強度が0.20N/mm2以上0.40N/mm2以下となる2液性の注入材を使用することを特徴とする。
【0011】
ゲルタイムが30秒以上40秒以下の2液性の注入材を使用することがこのましい。
【0012】
さらに、この発明の斜面強化ブロック設置方法は上述の土留部材撤去方法を用いた方法であり、斜面の長さ方向に沿って土留部材を設置し、土留部材より下側の斜面に斜面強化ブロックを設置し、ついで注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて撤去し、注入材が所定の強度になる期間の経過後に土留部材があった位置よりも上側の斜面に斜面強化ブロックを設置する。
【発明の効果】
【0013】
この発明の土留部材撤去方法は、地中に空隙を残すことなく土留部材を引き抜くことができる。しかも、地盤沈下を生じない安定した状態を短時間で実現することができる。したがって、さまざまな土壌や地形、用途に対して広範に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】土留部材の引上げ作業を示す概念図である。
【図2】土留部材圧引抜機を示す正面図である。
【図3】同平面図である。
【図4】注入管の例を示す概念図である。
【図5】土留部材を示す斜視図である。
【図6】斜面強化ブロック設置方法を示す概念図である。
【図7】土留部材撤去方法の第2の例を示す平面図である。
【図8】同正面図である。
【図9】注入管の別例を示す概念図である。
【図10】注入材ホース保護部材を示す正面図である。
【図11】同断面図である。
【図12】土留部材撤去方法の第3の例を示す平面図である。
【図13】同正面図である。
【図14】土留部材撤去方法の第4の例を示す平面図である。
【図15】同正面図である。
【図16】土留部材撤去方法の第5の例を示す平面図である。
【図17】同正面図である。
【図18】注入管吊り上げ部材を示す正面図である。
【図19】同平面図である。
【図20】同断面図である。
【図21】単管の注入管の例を示す概念図である。
【図22】単管の注入管の設置方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。図1は土留部材の引上げ作業を示す概念図、図2は土留部材圧引抜機の例を示す正面図、図3は同平面図である。この土留部材圧引抜機1は、無騒音・無振動の杭材圧引抜機として普及している周知の装置であり、油圧によって土留部材の圧引および引き抜きを行う。
【0016】
土留部材圧引抜機1は、圧引または引き抜きの対象である土留部材xを掴むためのチャック2と、このチャック2を上下動させる昇降装置3を有する。チャック2の上部には、土留部材xが通過できる程度の小さな円形の開口部4がある。また、既設の土留部材を掴むための掴み部5を複数備えている。掴み部5によって既設杭を掴むことで、既設の杭から反力をとって、チャック2によって土留部材xを地盤に対して圧入または引抜けるようになっている。また、土留部材圧引抜機1は、既設の土留部材を伝って移動することができる。
【0017】
まず、土留部材の引き抜きに先立って、注入管6を地中に設置する。予め注入管が取り付けられた土留部材を建て込んでもよいが、ここでは、既に建て込まれた土留部材に沿って注入管を設置する例で説明する。
【0018】
図4は注入管の例を模式的に示す概念図である。注入管6は、複数の部品に分解することができ、上部より、スイベル7、中間ロッド8、吐出部9、先端部10である。
【0019】
スイベル7は直方体状の外形を有し、側面には、第1ホース取付口13と第2ホース取付口14が設けられている。このスイベル7の内部は二重管構造になっており、独立した2本の流体通路が形成されている。そして、第1ホース取付口13と第2ホース取付口14がそれぞれ本体部12の流体通路につながっている。このスイベル7は溶接によって土留部材の表面上に直接取り付けることができる。
【0020】
中間ロッド8は複数本設けられている。スイベル7と同様に内部は二重管構造になっており、独立した2本の流体通路が形成されている。
【0021】
吐出部9の側面には、吐出口15が形成されている。そして、吐出口15の近くには栓として作用する玉16がある。さらに、玉16の下にはバネ17が設けられており、玉16を上向きに押す力が加えられている。玉16の上に加重がない場合には、玉16は吐出口15へ続く流路を塞ぐ位置にある。玉16の上から強い押し下げ力が加わったときには、バネ17を押し下げながら玉16は下降し、吐出口15へ続く流路を開く。
【0022】
先端部10の下端には、硬い素材で作られたビット18が取り付けられている。このビット18により固い地盤であっても、土壌を切り裂いて進行することができるとともに、打ち込み時において注入管6全体にかかる負担を軽減する。
【0023】
スイベル7、中間ロッド8、吐出部9、先端部10にはネジ部が形成されており、相互に接続・分離が容易に行われるようになっている。中間ロッド8同士も接続・分離が可能になっている。
【0024】
ボーリングマシン等を用いて掘孔しながら、注入管6を地中へ打ち込んでいく。先端部10、吐出部19および土留部材xの長さをカバーできる程度の本数の中間ロッド8を接続しておく。最上部の中間ロッド8には、スイベル7の代わりに、上端部を塞ぐ栓を取り付けておき、設置中に注入管6の内部に土砂が入らないようにする。全ての土留部材xに対して注入管6を設置してもよいが、注入材が遠くまで届く場合には2本おき、あるいは3本おきのように設置してもよい。このように飛び飛びに設置する場合でも、最初に引き抜くべき土留部材に対しても注入管6を設置することが好ましい。
【0025】
注入管6の上端が、土留部材xの上端より60cmほど低い位置になるようにする。土留部材xが地上より50cm程度突き出しているとき、注入管6の上端が、最上部の中間ロッド8の上端は地表より10cm程度下に埋まることになる。
【0026】
その後、注入管6の上端が現れるまで、この土留部材xの近くの地面を掘る。注入管6の上端を掘り当てたら、栓を取り外し、スイベル7を接続する。そして、10本程度の注入管6に対して、ホース取付口13,14に短い注入材ホース44を取り付ける。この注入材ホース44は曲がりやすい柔軟なホースであり、土留部材xの上端より下の高さになるようにしておく。こうしておくことで、土留部材圧引抜機1のチャック2に干渉することが防止でき、引抜作業や注入作業などがきわめて行いやすくなる。ついで、土留部材圧引抜機1を既設の土留部材に設置し、引き抜き対象の土留部材xの位置に合わせる。ここでは図1に示すように、この土留部材x(3番)に注入管6が取り付けられているとする。この注入管6に長い注入材ホース44を継ぎ足し、注入材を供給するポンプ(図示省略)に接続する。
【0027】
図5は、土留部材を示す斜視図である。この例において使用する土留部材xは、シートパイルと呼ばれており、一般に普及している土留部材である。長方形板状の中央部21と、中央部21の両側端部に形成された長方形板状の側部22を有する。この側部22は中央部21に対して直角よりも若干大きな角度を有している。したがって、土留部材xは、略コの字状の断面を有する。側部22の端部は鉤状のカールが形成されており、セクションと呼ばれる部位が設けられている。このセクション23は隣接する土留部材同士を接続する継ぎ手の役割を果たす。また、土留部材xの上端部には、吊下げ用穴24が設けられている。この吊下げ用穴24は、吊下げ用のフックやシャックルを取り付けることができる適度の大きさを有する。なお、土留部材としては、シートパイル以外にも、H型断面のものや円筒状のものなどが使用できる。
【0028】
チャック2で土留部材xを掴む。このチャック2は、2本の細い部材を土留部材xの中央部21の表面の左右の側部に押し当てるようになっており、中央部21の中心付近には接触しない。したがって、中央部21の中心付近に取り付けられている注入管6には当たらない。チャック2の上に設けられている開口部4は、土留部材xが通るのに必要な最低限の大きさしかないが、注入管6はこの開口部4の円の範囲内におさまっている。注入材を供給するためのホースをスイベル7の第1ホース取付口13と第2ホース取付口14に取り付けられたホースを土留部材圧引抜機の中に通す。ここでは、A液とB液という2種類の液体を混合する2液タイプの硬化剤を使用する。ホースは開口部4を通って、硬化剤の供給源(図示省略)に接続される。
【0029】
チャック2で土留部材1を掴んだら、土留部材1の引き上げを開始する。引き上げながら、ホース、スイベル11および注入管10を介して注入材を導入し、地中に吐出する。1ステップで50cmの引き上げになるようにして、土留部材1を引き上げていく。
【0030】
ここで、使用する注入材の例について説明する。土留部材xの引抜き跡を迅速に充填するためには、硬化剤としては2液を混合するゲルタイムの短いものが好ましい。そこで、瞬結性の注入材の例について説明する。ここでは促進剤および硬化剤として非水ガラス系無機懸濁型の製品名YMS60tai(三興コロイド化学株式会社)を使用する。これは、硬化剤と促進剤の組み合わせになっていて、硬化剤は炭酸ナトリウムとアルミン酸ナトリウムを主成分とし、促進剤は水酸化カルシウムを主成分とする。表1に注入材の例を、表2にその注入材の物性を示す。A液の配合が異なる4種類の例を示している。表1に示す配合により、それぞれ200リットルのA液とB液を調製することができる。このA液とB液を1対1で使用する。
【表1】
【表2】
【0031】
セメントとしては、六価クロムなどの重金属の危険性が少ない高炉セメントB種を使用している。また、硬化剤および促進剤も重金属を含まず、毒物や劇物も含まない安全性の高い無公害薬剤である。したがって、これらの注入材は、いずれも環境への悪影響がない、安全なものである。
【0032】
土留部材xが引き上げられ地中に50cm残っている時点で、注入材の導入を終了する。その場で注入材を導入したホースを利用して、洗浄用の水をスイベルに供給する。こうして、注入管10の内部を洗浄する。そして、土留部材xを完全に引き抜き、レッカーで吊り上げて安全な場所に移動させる。
【0033】
土留部材xが引き抜かれた跡は、注入材によって充填されているので、地中には空隙は残らない。したがって、施工中にも施行後にも、周囲において、地盤沈下や地下水の変動などの悪影響が生じない。
【実施例1】
【0034】
この発明の第1の実施例について説明する。この例では、注入後1週間経過時の一軸圧縮強度が0.20N/mm2以上0.40N/mm2以下となる2液性の注入材を使用することを特徴とする。ここで、一軸圧縮強度としては例えばJISで規定された方法で測定した値を用いることができる。
【0035】
表1に示した4種類の注入材では、注入材2と注入材3がこの実施例に該当する。後述する斜面強化ブロック設置工事などにおいては、ブロック設置場所の地盤が、ブロックの荷重によって沈下しないような安定状態になることが求められる。ここで、河岸に斜面強化ブロックを設置する場合、ブロックによる荷重は2t/m2程度になる場合が多い。すなわち、2t/m2の荷重に耐え得る状態になれば、斜面強化ブロックの積み上げ作業を開始することができる。
【0036】
表1に示した4種類の注入材のうち、注入材1と注入材4はこの出願の発明者らが先に出願した特願2009−100673に係る土留部材撤去方法でも使用されるものである。注入材1も比較的ゲルタイムが短い注入材であるが、7日経過時の強度が0.17N/mm2であり、2t/m2の荷重に耐えるための強度には達していない。2t/m2の荷重に耐えるためには0.20N/mm2の強度が必要であるが、注入材1がその強度になるまでには2週間以上が必要である。したがって、注入材1を注入して土留部材を撤去した後に、2週間以上経過するまで斜面強化ブロックを積み上げることができない。このような待機時間は工期を遅らせ、施工費用を増大させる。また、河岸工事では、河川の水流の一部を止めることがあるが、このような工事はいつでもできるわけではなく、水量の少ない時期に限られるので、工期が短い方が有利である。
【0037】
一方、注入材4は7日経過時の強度が0.30N/mm2であり、斜面強化ブロックを積み上げる強度に達している。しかし、このようにあまりにも早く硬化する注入材4は、高炉セメントを大量に使用するので、コストが高くなるという問題がある。また、ゲルタイムが20秒以下と短時間であるが、このようにゲルタイムが短い注入材は取り扱いが難しく、注入中に作業が少しでも停滞すると、注入管の先端付近で硬化が始まって、詰まるようなトラブルも起こりうる。そこで、発明者らは検討を重ね、表1の注入材2および注入材3を開発した。
【0038】
注入材2の配合について説明する。水168.8リットル、高炉セメントB種90Kg、YMS60taiの促進剤4Kgを混合したものをA液とする。一方、水198リットルと、YMS60taiの硬化剤10Kgを混合したものをB液とする。このA液とB液を1対1で使用することにより、20℃でのゲルタイムが40秒、1週強度0.20N/mm2の注入材が得られる。
【0039】
つぎに、注入材3の配合について説明する。水166.3リットル、高炉セメントB種97.5Kg、YMS60taiの促進剤4Kgを混合したものをA液とする。一方、水198リットルと、YMS60taiの硬化剤10Kgを混合したものをB液とする。このA液とB液を1対1で使用することにより、20℃でのゲルタイムが30秒、1週強度0.27N/mm2の注入材が得られる。
【0040】
注入材2と注入材3の間になるような配合でもよい。その配合に応じて、ゲルタイムや1週強度を適宜調整することができる。
【0041】
この実施例に基づく斜面強化ブロック設置方法について説明する。図6は、斜面強化ブロック設置方法を示す概念図である。河川の堤防や海岸などの斜面に斜面強化ブロックを設置する方法に関する。ここでは、河川の堤防上の道幅を拡張するために、堤防の斜面に斜面強化ブロックを設置する例で説明する。
【0042】
図6は河川の一部および堤防の断面図となっている。この図において、堤防31の右側が川の内部になる。内側を向いた堤防31の側面は斜面32となっている。堤防31の上側には道が作られており、内向きの端部が歩道33となっている。この歩道33を拡張するために、堤防31の内側の側面32に土34を盛り、化粧パネルを取り付ける工事を行う。この堤防31は紙面に垂直な方向に長く続いている。この紙面に垂直な方向を堤防31および側面32の長さ方向とする。
【0043】
堤防の近くに土を盛って水の流れを制限し、堤防の近くに水が流れないようにする。また、斜面の長さ方向に沿って土留部材を平行に2列で建て込む。第1の列の土留部材x1は斜面32の下で川底内に打ち込む。第2の列の土留部材x2は斜面32の上部に建て込む(図6a)。先に盛られた土のうち、第1の列の土留部材x1と堤防の斜面32の間の土34aを取り除く。
【0044】
ついで、斜面の下側より土を盛るとともに、その上に斜面強化ブロックを取り付けていく(図6b)。第2の列の土留部材x2の近くまで斜面強化ブロックを設置したら、第1の列の土留部材x1と堤防の斜面32の間に土を戻し、第1の列の土留部材x1を引き上げる(図6c)。このとき、特に注入材の注入を行わなくても、川底の土砂はスムーズに移動して土留部材x1の跡を埋め、周囲の地盤状態に影響を与えない。
【0045】
さらに、第2の列の土留部材x2を引き抜く。このとき、表1の注入材2や注入材3など、注入後1週間経過時の一軸圧縮強度が0.20N/mm2以上0.27N/mm2以下となる2液性の注入材を注入ながら土留部材x2を引き上げる。こうして、土留部材x2が引き抜かれた跡の空間は注入材によって埋められるので、地中に空隙が生じない(図6d)。この注入材は、注入材4に比べて高炉セメントの使用量が少なく、コストはおさえられている。また、ゲルタイムも30秒以上あるので取り扱いやすい。
【0046】
この例の工事などにおいて、斜面強化ブロックの積み上げによる荷重は2t/m2程度であるが、注入後1週間経過時には注入材は0.20N/mm2以上の強度を有する。したがって、第2の列の土留部材x2の撤去から1週間後には斜面強化ブロックの積み上げを開始できる。斜面強化ブロックの積み上げのためには1週間程度の準備期間がかかるので、この準備が完了したころにはそのまま積み上げを開始でき、無駄な待ち時間がほとんど生じない。
【0047】
第2の列の土留部材x2があった位置よりも上側にも土を盛るとともに、その上に斜面強化ブロックを取り付けていく。斜面32の上端まで斜面強化ブロックを取り付ける。こうして、川の内側に向かって堤防31の幅が拡張され、堤防31の上の歩道33の幅も拡張される(図6e)。盛られた土34を取り除き、水の流れを元に戻す。
【0048】
以上、河川の堤防での施工例を説明したが、海岸などの斜面においても適用することができる。特に河川や海岸においては、土留部材を撤去せずに放置すると、その腐食は急速に進行し、周囲に金属成分が流出する。しかし、この土留部材撤去方法および斜面強化ブロック設置方法によれば、工事終了後に土留部材を撤去するので、環境汚染を防止することができる。
【実施例2】
【0049】
この発明の第2の実施例について説明する。図7は土留部材撤去方法の第2の例を示す平面図、図8は同正面図である。土留部材が連続的に建て込まれているが、左端から順に番号を付けて識別する。左端の土留部材(番号1)には注入管6が設置されている。これに続く2本の土留部材(番号2,3)には注入管6が設置されておらず、4本目の土留部材(番号4)には注入管6が設置されている。このように、2本飛ばしで間欠的に注入管6を設置している。
【0050】
すべての土留部材に注入管6を設置することも可能ではあるが、使用する資材や労力が増大し、コストが大きくなる。そのため、土留部材撤去にかかる費用が、回収される土留部材の価値を上回ることが判明した。土留部材を放置して周囲への汚染が発生すれば、その回復のためには多大な費用がかかるのであるが、そのような費用は考慮されにくい。しかし、この実施例では設置される注入管は3分の1の本数ですみ、土留部材がリサイクルできるメリットが上回り、この土留部材撤去方法を採用することによって短期的にもコストが削減できる。
【0051】
ここでは、図5に示すようなシートパイルを土留部材として使用している。土留部材のコの字状の溝内部で中心線に沿って注入管6は取り付けられている。土留部材の建て込み後にボーリングマシンを使って注入管6を設置してもいいが、ここでは、予め注入管6を取り付けて土留部材を建て込んでいる。
【0052】
図9はここで使用する注入管の例を示す概念図である。中間ロッドは平行に設けられた2本の円柱状のパイプ8a、8bである。それぞれのパイプ8a、8bが独立した硬化剤の流路を形成する。中間ロッドの途中にはブレ止め部材19が取り付けられる。ブレ止め部材19は略直方体状の外形を有し、パイプ8a、8bを収容するための2本の孔19a,19bが貫通している。このブレ止め部材19によってパイプ8a、8bの相互の位置関係が固定され、土留部材の建て込み時などにおけるパイプ8a、8bのブレを防止する。
【0053】
先端部10は略直方体状の外形を有し、特に最先端部の面は斜めに切り取られた形状に形成されており、建て込み時に土中を進行しやすくなっている。先端部10の上に取り付けられる吐出部9において二つの流路は合流し、それぞれのパイプ8a、8bを通ってきた液体が混合されるようになっている。側面に3つの吐出口を横方向に有する。
【0054】
以上、先端部10、吐出部9およびブレ止め部材19は略直方体状の外形を有するので、それぞれの部材において土留部材と面接触する。したがって、軽く溶接するだけで、土留部材に強固に固定される。注入管6の土留部材への取り付けは施工現場で行われるが、略直方体状の部材があることによって転がりにくく、施工現場が傾斜していても、土留部材への取り付け作業は容易である。吐出部9が土留部材の下端のやや上の位置なるように注入管6は取り付けられている。
【0055】
土留部材の引抜きについて説明する。大きな流れとしては、土留部材は端から順番に引き抜かれていく。しかし、注入管6のある土留部材は、その隣にある注入管なし土留部材の後に引き抜かれるので、部分的には引抜き順序が前後する。予め、10本程度の注入管6に対して、ホース取付口に短い注入材ホース44を取り付ける。曲がりやすい柔軟なホースを使用し、土留部材xの上端より下の高さになるようにしておく。こうしておくことで、土留部材圧引抜機1のチャック2に干渉することが防止でき、引抜作業や注入作業などがきわめて行いやすくなる。
【0056】
図7および図8の例では、1番目の土留部材に先だって、2番目の土留部材をステップアップしながら引き抜く。このとき、1番目の土留部材の注入管6−1に長いホースを継ぎ足してポンプに接続する。土留部材の除端よりも低いところを注入材ホース44は這っているので、土留部材圧引抜機の移動やチャックの作動を妨げない。この注入管6−1より注入材を注入する。注入材はたとえば表1に示したものなどが使用できる。この注入材は2番目の土留部材があった場所に充填される。図2に示すような状態で、注入材注入および土留部材引抜きを行う。こうして、注入管を有しない2番目の土留部材の引き上げ中であっても地中に空隙が発生しない。ついで、注入管6より注入材を地中に注入しながら1番目の土留部材をステップアップして引き抜く。
【0057】
ついで、3番目以降の土留部材を引き抜いていく。3番目以降では、注入管6のある土留部材(例えば4番目)とその両隣りにある注入管を有しない土留部材(例えば3番目と5番目)による3本組の土留部材群を単位として説明する。まず、両隣りにある注入管を有しない土留部材のうちのどちらか(例えば3番目)を引き抜く。この時、その土留部材群の中央の土留部材の注入管6−2より注入材を注入する。ついで、他方の注入管を有しない土留部材(5番目)も同様に引き抜く。最後に、その土留部材群の中央の土留部材を、やはり注入管6より注入材を注入しながら引き抜く。以上の手順で6番目以降の土留部材も引き抜いていく。
【0058】
ここで使用した注入管では、注入材を導入するための第1ホース取付口13および第1ホース取付口14の位置は、土留部材の上端よりも60mmほど低くなる。また、注入材を供給するためのポンプ等(図示省略)は地面付近に置かれる。そのため、注入材を導入するホースは土留部材の上端に接して折り返す状態となる。しかし、土留部材上端の角部は尖っているので、それに接すると注入材ホースが損傷するおそれがある。そこで、土留部材の上端に注入材ホース保護部材を取り付けることが好ましい。図10は注入材ホース保護部材を示す正面図、図11は同側面図である。
【0059】
注入材ホース保護部材40は土留部材xの上端に取り付けるための溝部41を有する。上部には、2基の滑車42を備えている。また、中央部には、切り欠き部43が形成されている。
【0060】
土留部材xの上端中央部に溝部41をはめこみ、注入材ホース保護部材40を土留部材xに取り付ける。落下防止のため、図10のハッチング部を溶接するなどして固定することが好ましい。注入材ホース44を滑車42の上に載せる。この滑車42によって注入材ホース44が土留部材xの上端に接触することが防止され、また、抵抗を小さくする。土留部材xの上部の中心にはフックなどを取り付けるための穴24があるが、切り欠き部43があるのでこの穴がふさがれることはない。したがって、強度の高い大型のシャックルやフックなどを取り付け、安全に吊り上げを行える。注入管は穴24の前を通らないので、吊り上げ作業は行いやすい。
【0061】
この実施例の土留部材撤去方法によれば、施工中においても地中に空隙がある状態が発生しない。したがって、砂地など不安定な地盤においても、地盤沈下などの悪影響を引き起こすことなく土留部材を撤去することができる。3本の土留部材に対して1本の注入管を使用するので、施工コストは小さく、工期も短い。
【0062】
以上、長方形の断面形状を有する注入管が取り付けられた土留部材を建て込む場合について説明したが、図4に示す円柱状の外形を有する注入管を使用する場合について説明する。ボーリングマシンを使って、土留部材のコの字状の溝内部で土留部材の中心線に沿って注入管6を設置する。
【実施例3】
【0063】
この発明の第3の実施例について説明する。図12は土留部材撤去方法の第3の例を示す平面図、図13は同正面図である。第2の実施例と類似した配列になっていて、2本飛ばしで間欠的に注入管6を設置している。左端の土留部材(番号1)には注入管6が設置され、これに続く2本の土留部材(番号2,3)には注入管6が設置されておらず、4本目の土留部材(番号4)には注入管6が設置されている。
【0064】
この実施例においては、図4に示すような円柱状の外形を有する注入管を使用する。土留部材のコの字状の溝内部で中心線に沿って注入管6が設置される。土留部材の建て込み後にボーリングマシンを使って注入管6を設置するが、土留部材に固定しないでおく。注入管6の先端部が、土留部材xの下端より50〜500mm程度下に突出すように設置することが好ましい。
【0065】
1番目の土留部材に先だって、2番目の土留部材をステップアップしながら引き抜く。このとき、1番目の土留部材の注入管6より注入材を注入する。ついで、注入管6より注入材を地中に注入しながら1番目の土留部材をステップアップして引き抜く。注入管6は土留部材に固定されていないので、土留部材のみが上昇し、注入管6は地中に残る。
【0066】
ついで、3番目以降の土留部材を引き抜いていく。注入管6のある土留部材とその両隣りの注入管を有しない土留部材による3本組の土留部材群を単位とすると、第2の実施例と同様に、両隣りの注入管を有しない土留部材を引き抜く。この時、その土留部材群の中央の土留部材の注入管6より注入材を注入する。その後、その土留部材群の中央の土留部材を、やはり注入管6より注入材を注入しながら引き抜くが、注入管6はまだ地中に残っている。以上の手順を繰り返すことによってすべての土留部材を引き抜く。そして最後に注入材を地中に注入しながらレッカーで注入管6を引き抜く。こうして、注入管6の引抜き跡も注入材で充填される。
【0067】
第2の実施例では、中央の土留部材を引き抜くときに注入管6も同時に上がってきた。したがって、注入管6の中間パイプを上から順次取り外しながら、土留部材を引き上げなければならず、作業が煩雑になる点が不利であった。この実施例では、土留部材と注入管6は別々に引き上げられるので、作業が簡単になる。
【実施例4】
【0068】
この発明の第4の実施例について説明する。図14は土留部材撤去方法の第3の例を示す平面図、図15は同正面図である。第3の実施例と類似した配列になっていて、2本飛ばしで間欠的に注入管6を設置している。この実施例においても、円柱状の外形を有する注入管を使用し、土留部材に固定しないでおく。このように注入管を土留部材に固定しないことによって、注入管が設けられた土留部材の引抜きを必ずしも最後にしなくてよくなる。
【0069】
この例では、端から順番に土留部材を撤去していく。1番目の土留部材に沿って設けられた注入管より注入材を注入しながら1番目の土留部材を引き上げ、ついで、同じ注入管より注入材を注入しながら2番目の土留部材を引き上げる。さらに、4番目の土留部材に沿って設けられた注入管より注入材を注入しながら、3〜5番目の土留部材を引き上げる。以上の手順を繰り返すことによってすべての土留部材を引き抜く。注入管6は地中にまだ残っている。最後に注入材を地中に注入しながらレッカーで注入管6を引き抜く。こうして、注入管6の引抜き跡も注入材で充填される。
【0070】
この実施例によれば、端から順番に土留部材を撤去していくので、土留部材圧引抜機は途中で戻ったりすることなく、一方向に進行していく。したがって、作業がわかりやすく単純になる。
【実施例5】
【0071】
この発明の第5の実施例について説明する。図16は土留部材撤去方法の第5の例を示す平面図、図17は同正面図である。注入管を土留部材に固定しないことは、第4の実施例と同じである。端から2番目の土留部材に最初の注入管が設置され、そこから2本おきに注入管が配置される。
【0072】
2番目の土留部材に沿って設けられた注入管より注入材を注入しながら、1番目の土留部材を引き上げる。同じ注入管より注入材を注入しながら2番目の土留部材も引き上げる。ここで、注入管はまだ残っている。ついで、その注入管より注入材を注入しながら3番目の土留部材を引き上げる。このとき、3番目の土留部材の上部に注入管吊り上げ部材を取り付け、この注入管吊り上げ部材に注入管を接続し、注入管吊り上げ部材で注入管を吊り上げながら土留部材を引き上げる。6番目の土留部材を引き上げるときも同様に、注入管吊り上げ部材を取り付け、5番目の土留部材に沿って設けられた注入管を引き上げる。
【0073】
図18は注入管吊り上げ部材を示す正面図、図19は同平面図、図20は同断面図である。注入管吊り上げ部材60は土留部材xの上端に取り付けるための溝部61を有する。中央部には、切り欠き部62が形成されている。また、アーム63が備えられていて、このアーム63の先端付近にはワイヤ64が取り付けられている。
【0074】
注入管が設けられた土留部材の次の位置にある土留部材xの上端中央部に溝部61をはめこみ、注入管吊り上げ部材60を土留部材xに取り付ける。落下防止のため、点溶接等で固定することが好ましい。土留部材xの上部の中心にはフックなどを取り付けるための穴があるが、切り欠き部62があるのでこの穴がふさがれることはない。
【0075】
土留部材xに注入管吊り上げ部材60を取り付けたとき、ワイヤ64は注入管の上方当たりに位置するようになっている。このワイヤ64の下端を注入管6の上部のスイベル7に接続する。
【0076】
こうして、土留部材xの引き上げと同時に注入管6も引き上げられる。注入管6は、引き上げられる土留部材xからずれた位置にあるので、土留部材圧引抜機に干渉することなく容易に引抜きを行うことができる。土留部材xの引き上げ後にクレーンなどで注入管6を引き抜く工程が省略でき、工期を短縮することができる。
【実施例6】
【0077】
この発明の第6の実施例について説明する。土留部材や注入管の配置および土留部材の引き上げ順序は、第4の実施例に関する図14および図15に示すものと同様である。図21はこの実施例で使用する単管の注入管を示す断面図であり、図22は単管の注入管の設置方法を示す概念図である。
【0078】
土留部材のコの字状の溝内部で土留部材の中心線に沿って注入管を設置する。この注入管の地中への挿入はダブルパッカー工法に類似した手順で行う。すなわち、始めにボーリングマシンにより所定の深さに削孔し、その穴に筒状のケーシング71を挿入し(図22(a))、そのあと注入管6をケーシング71内に挿入する(図22(b))。注入管6を挿入したあとケーシング71を地中から引き抜く。以上の手順を繰り返して、土留部材3本に対して1の注入管6を地中に設置する。注入材としてセメントミルク、セメント・ベントナイトのようないわゆる非薬液系のものや溶液型でゲルタイムが5分程度のもの、或いはゲルタイムが1分程度のもの等が使用でき、さらにこれらの材料を組み合わせて順次注入することもできる。注入管6としては、たとえばインチ塩ビパイプと呼ばれる直径2.54cmの塩ビ管を使用する。先端にはキャップがかぶせられており、その少し上方の側面には注入材を吐出する吐出口が設けられている。注入管6を地中に設置したら上端にキャップをかぶせ、注入材ホース44を接続する。
【0079】
注入管6の先端付近には吐出口を設けている。さらに塩ビパイプ内で先端付近には略円柱状の栓16が設けられている。注入管6、栓11は図21(a)の位置にあり吐出口をふさいでいる。栓16とキャップの間には若干の隙間があるが、栓16の下部に設けられたOリングによって栓16は大気圧のみがかかっている状態では下方へは下がらないようになっている。したがって注入管6を地中に挿入するときには栓16によって吐出口が閉じられているので土砂が注入管6内部に入ることはない。注入管6に注入材を送り込むと栓16は注入材に押されて下降し、図21(b)の位置へ移動する。これによってそれまで栓16によってふさがれていた吐出口が開放され、注入材は地中へと吐出される(図22(c))。本例のキャップには小さな穴があけられていて栓16の下の空気を逃がし、栓16の下降を妨げないようにしてある。また、栓の上面には円錐状の凹部が設けられていて、注入材の圧力を栓が有効に受け止めるとともに、地中に放たれた注入材が上向きに送られるようにしてある。
【0080】
1番目の土留部材に沿って設けられた注入管6aより注入材を注入しながら1番目の土留部材を引き上げ、ついで、同じ注入管6aより注入材を注入しながら2番目の土留部材を引き上げる。さらに、4番目の土留部材に沿って設けられた注入管6bより注入材を注入しながら、3〜5番目の土留部材を引き上げる。以上の手順を繰り返すことによってすべての土留部材を引き抜く。最後に注入材を地中に注入しながらレッカーで注入管6を引き抜く。こうして、注入管6の引抜き跡も注入材で充填される。
【0081】
全ての土留部材を撤去した後、注入管6は地中にまだ残っている。この注入管6は、撤去することなくそのまま地中に残してよい。第5の実施例までに使用された二重管と異なり、この注入管6は安価であり、撤去しないことにより、工期の短縮およびコストの削減ができる。塩ビ管で作られているので、金属成分を流出するおそれはなく、そのまま放置しても環境へ悪影響を生じない。もし施工の後に、地盤が不安定であることが判明した場合、残された注入管6を使用して注入材を再注入することもできる。
【0082】
なお、同じ構造の注入管を塩化ビニールの代わりに自然分解性の素材で構成してもよい。このような自然分解性の素材としては、すでに紙成分を主体にしたものなどが選択できる。地中に残された注入管は分解されて土に戻るので、環境への英居がより少なくなる。
【符号の説明】
【0083】
x.土留部材
1.土留部材圧引抜機
2.チャック
6.注入管
7.スイベル
8.中間ロッド
22.中央部
24.吊下げ用穴
40.注入材ホース保護部材
42.滑車
44.注入材ホース
60.注入管吊り上げ部材
63.アーム
64.ワイヤー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、3本の土留部材に対して1本の割合で注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げ、ついで注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げることを特徴とする土留部材撤去方法。
【請求項2】
土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、3本の土留部材に対して1本の割合で注入管を設置し、注入管は土留部材に固定せずに設置することを特徴とする土留部材撤去方法。
【請求項3】
注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げ、ついで注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げる請求項2に記載の留部材撤去方法。
【請求項4】
注入管が設置されている位置の土留部材およびその両隣の土留部材で構成される土留部材群において、両隣の土留部材のうちいずれかを最後に引き上げる方法であり、この最後の引き上げにおいて注入管上部へ向けたアームを有する注入管吊り上げ部材を土留部材の上に取り付け、この注入管吊り上げ部材のアームと注入管を接続し、注入管吊り上げ部材で注入管を吊り上げながら土留部材を引き上げる請求項2に記載の留部材撤去方法。
【請求項5】
土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、注入後1週間経過時の一軸圧縮強度が0.20N/mm2以上0.27N/mm2以下となる2液性の注入材を使用することを特徴とする土留部材撤去方法。
【請求項6】
ゲルタイムが30秒以上40秒以下の2液性の注入材を使用する請求項5に記載の土留部材撤去方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の土留部材撤去方法を用いた斜面強化ブロック設置方法であり、斜面の長さ方向に沿って土留部材を設置し、土留部材より下側の斜面に斜面強化ブロックを設置し、ついで注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて撤去し、注入材が所定の強度になる期間の経過後に土留部材があった位置よりも上側の斜面に斜面強化ブロックを設置する斜面強化ブロック設置方法。
【請求項1】
土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、3本の土留部材に対して1本の割合で注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げ、ついで注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げることを特徴とする土留部材撤去方法。
【請求項2】
土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、3本の土留部材に対して1本の割合で注入管を設置し、注入管は土留部材に固定せずに設置することを特徴とする土留部材撤去方法。
【請求項3】
注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げ、ついで注入管より注入材を注入しながら注入管が設置されている位置の土留部材の隣の土留部材を引き上げる請求項2に記載の留部材撤去方法。
【請求項4】
注入管が設置されている位置の土留部材およびその両隣の土留部材で構成される土留部材群において、両隣の土留部材のうちいずれかを最後に引き上げる方法であり、この最後の引き上げにおいて注入管上部へ向けたアームを有する注入管吊り上げ部材を土留部材の上に取り付け、この注入管吊り上げ部材のアームと注入管を接続し、注入管吊り上げ部材で注入管を吊り上げながら土留部材を引き上げる請求項2に記載の留部材撤去方法。
【請求項5】
土留部材に沿って注入管を設置し、注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて、土留部材の引抜き跡を注入材で充填していく土留部材撤去方法であり、注入後1週間経過時の一軸圧縮強度が0.20N/mm2以上0.27N/mm2以下となる2液性の注入材を使用することを特徴とする土留部材撤去方法。
【請求項6】
ゲルタイムが30秒以上40秒以下の2液性の注入材を使用する請求項5に記載の土留部材撤去方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の土留部材撤去方法を用いた斜面強化ブロック設置方法であり、斜面の長さ方向に沿って土留部材を設置し、土留部材より下側の斜面に斜面強化ブロックを設置し、ついで注入管より注入材を注入しながら土留部材を引き上げて撤去し、注入材が所定の強度になる期間の経過後に土留部材があった位置よりも上側の斜面に斜面強化ブロックを設置する斜面強化ブロック設置方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2011−236637(P2011−236637A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108846(P2010−108846)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(504091555)
【出願人】(504092552)
【出願人】(504092563)
【出願人】(510128155)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(504091555)
【出願人】(504092552)
【出願人】(504092563)
【出願人】(510128155)
【Fターム(参考)】
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