土砂地盤改良工法と注入薬液及びその施工管理方法
【課題】大量の薬液を広範囲に注入できる注入薬液とこれを用いる土砂地盤改良工法と、薬液注入後の電気比抵抗値を測定することで改良効果を簡潔に確認できる施工管理方法を提供する。
【解決手段】本発明による土砂地盤改良工法は、シリカ粒子のコロイド溶液を主材とし主材にゲル化剤を配合した注入薬液を土砂地盤に注入する土砂地盤改良工法において、主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を土砂地盤中に注入して土砂地盤を所定の液状化強度の地盤に改良するものであり、併せて地盤改良域の電気比抵抗値を測定して改良効果を確認することで、施工管理方法を簡潔に実施している。
【解決手段】本発明による土砂地盤改良工法は、シリカ粒子のコロイド溶液を主材とし主材にゲル化剤を配合した注入薬液を土砂地盤に注入する土砂地盤改良工法において、主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を土砂地盤中に注入して土砂地盤を所定の液状化強度の地盤に改良するものであり、併せて地盤改良域の電気比抵抗値を測定して改良効果を確認することで、施工管理方法を簡潔に実施している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂地盤改良工法と注入薬液及びその施工管理方法に関し、特に、大量の薬液を広範囲に注入することを可能にする土砂地盤改良工法と、シリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間と電気比抵抗値を設定した注入薬液及びこの注入薬液を注入し、薬液注入後の電気比抵抗値を測定することで地盤改良域における改良効果を簡潔に確認できる施工管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
埋立地等の軟弱地盤に建っている構造物の周辺や直下の液状化対策工法には、せん断変形抑制工法、注入固化工法、間隙水圧消散工法、地下水位低下工法等があるが、各種工法の中でも、注入固化工法が施工性に優れており、適用範囲が広い等の特徴があることで多くの施工実績が重ねられてきた。又、既設構造物直下の砂質土地盤等を対象にした地盤改良には、超微粒子シリカを分散させたコロイド溶液を主材にした薬液を用いて好成績を挙げている。しかして、注入固化工法は、注入薬液の主材であるセメント、特に高価なシリカ粒子を多量に必要とするためにコスト高を招いて経済性に劣るという欠点が指摘されている。
【0003】
このことは、従来の薬液注入工法では、「液状化強度」を確認する地盤改良の品質評価に、一軸圧縮強度を採用していたことから、一軸圧縮強度を大きくすることが液状化抵抗性の増大を促進して「液状化強度」も高められると考えて来たことに大きな影響を受けている。即ち、この考えに従うと、1.9〜9.8N/cm2以上の値が必要とされる所要強度を得るためには、一軸圧縮強度を大きくするために注入薬液の濃度を増大させることが必要になり、結果として、セメントや高価なシリカ粒子を多量に使用することになるからである。
【0004】
そこで、シリカ粒子の使用量を低減することでコスト低減を図る提案がなされている。例えば、特願平10−140973号に記載された工法では、コロイド溶液に分散させるシリカ粒子の平均径を15ナノメータとし、シリカコロイド溶液に分散させたシリカ粒子の濃度を1.9重量%〜6.0重量%に配合して主材とし、これに硬化剤を調合することによって、従来のシリカコロイド溶液のシリカ粒子濃度であった10重量%よりもシリカ粒子の使用量を低下させたことでコスト低減を果たしている。
【0005】
同様に、市販の注入薬剤パーマロック・ASF(旭電化工業(株)製、商品名)は、活性シリカ微粒子のコロイド溶液の主材ASFシリカー4(旭電化工業(株)製、商品名)に酸性塩の硬化剤ASFアクターM(旭電化工業(株)製、商品名)を配合して、シリカ濃度を3.7重量%〜7.0重量%に抑えており、シリカ粒子の平均径を小さくすることで活性シリカ微粒子の使用量を上記例よりもさらに少なくしている。しかし、いずれの場合も一軸圧縮強度を品質評価の基準にしている点で同等である。
【0006】
又、所要強度を得るために、従来の考え方に従って一軸圧縮強度の増強を図るべく注入薬液の濃度を増大させることは、施工面においても多くの問題点を生じている。即ち、注入孔から離れるに従って、薬液は地下水の影響を受けて濃度が低下し、圧縮強度が急激に低下してしまう。従って、シリカ濃度が一定の薬液を注入して所要強度を得ようとすると小口径の改良体に止まって大口径改良体の造成を不可能にしていることで、注入のための削孔数を増大させざるを得なくなっている。このために、地盤改良工事は、施工効率が悪くなって施工コストの嵩高と工期の遅延化を招来する問題点を抱えながら、これの解消がなされてないのが現状である。
【0007】
地盤改良工事における注入効果の確認は、注入固化工法の施工において最も重要な管理項目の1つである。そして、従来における地盤改良域の効果確認には、標準貫入試験が最も多く採用されている。標準貫入試験が多く採用されるのは、液状化抵抗性の増大は一軸圧縮強度の増大によるとの認識の下に、地盤改良の効果確認に一軸圧縮強度を採用しているからであり、地盤改良域の効果確認においてもこれらの認識を反映して、改良土の硬軟と締まり具合をN値の変化で判定する標準貫入試験を採用して地盤改良効果を判定している。しかるに、標準貫入試験は、改良によって地盤の強度が大きく増加することを前提にしているために、改良土における強度の増加が小さい改良域においてはN値の差が僅少になることから、地盤改良の注入効果を明確に確認するのは困難であった。
【0008】
地盤改良域の効果確認は、標準貫入試験の他に、透水係数試験等の間接的なものから、三成分コーン試験、ダイラトメータ試験等、深度方向の液状化強度を簡易に測定する方法によっても行われている。
【0009】
そして、現位置試験における上記の透水係数試験等の間接的手法もしくは三成分コーン試験、ダイラトメータ試験等の「液状化強度」を確認する手法と、「液状化強度」を詳細に確認するために室内で試験が行なわれる繰り返し振動三軸試験や繰り返し単純せん断試験等の手法では、標準貫入試験、三成分コーン試験、ダイラトメータ試験では明確に特定できない範囲についても、「液状化強度」の変化を明確に示すことが確認されている。従って、上記のような改良域においては、一軸圧縮強度を評価基準に採用してN値の変化で地盤改良域の判定をする手法と、「液状化強度」を上記試験によって直接的に確認する手法とでは、その判定において一致を見ることができないことになる。
【0010】
しかも、このような傾向は、地盤改良施工のコスト低減を図るために高価なシリカ粒子の使用量を少なくして、注入薬液の主材濃度を低下させた場合に顕著に現れてくる。即ち、注入薬液における主材濃度の低下は、当然に改良土における強度の増加が小さい改良域を形成することになってN値の差を益々僅少にするからである。
【0011】
以上の状況から、注入薬液の主材濃度を低下させた場合には、N値の変化で判定する標準貫入試験では、改良土における真の「液状化強度」を確認して、改良域の品質を判定することは困難であり、他の手法についても計測精度の点で問題点が残っている。しかるに、現状は地盤改良における施工コストの低減を図るために、注入薬液における主材濃度を低下させることが急務になっている。このような状況の中で、施工された改良土の「液状化強度」を簡便、かつ迅速に確認することで地盤改良された品質の判定を簡潔に実施できる管理方法の提案が期待されている。
【0012】
さらに、注入効果の確認における注入範囲の測定には、RIによる方法、弾性波による方法、トレーサーによる方法、磁性による方法及び電気比抵抗による方法が用いられてきた。しかるに、RI工法は、放射線を用いるために取り扱いが困難であり、弾性波工法は、剛性が大きくならない場合には適用できない。トレーサー方法は、トレーサーが土粒子に吸着して適用範囲が限定され、磁性方法は、周辺構造物の影響を受け易い等の問題があるために、電気比抵抗方法が比較的多く用いられている。
【0013】
電気比抵抗による方法は、注入前後の土中抵抗の変化からその注入範囲を特定しようとする方法であるが、電気比抵抗が時間の経過で変化したり、抵抗値の差異もあまり大きくならないことから、測定時期の設定と注入範囲の特定が困難になり、結果的に土砂地盤改良工法の施工管理が正確にできないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、以上の状況に鑑みて土砂地盤改良工法における問題の解消を図るものであり、注入薬液のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値、並びにpHを設定することで真の液状化強度を確保して、地盤改良域において大量の薬液を広範囲に注入することを可能にし、併せて注入後の電気比抵抗値を計測して注入効果確認の視点とすることで、地盤改良域の液状化強度とその範囲を簡潔に確認できるようにした土砂地盤改良工法と注入薬液及びその施工管理方法の提供を課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1、2に記載の発明である土砂地盤改良工法は、基本的に、シリカ粒子のコロイド溶液を主材とし主材にゲル化剤を配合した注入薬液を土砂地盤に注入する土砂地盤改良工法において、主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を土砂地盤中に注入して土砂地盤を所定の液状化強度の地盤に改良するものであり、注入薬液を改良する土砂地盤の土砂を用いて試験測定し、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を予め確認することを特徴としており、各数値を所定値に設定することで、低濃度の薬液を低圧、高速で注入することによって大口径の改良体を造成することができる。また、注入薬液のpHを2〜1.5の範囲に納めることにより、注入薬液の浸透距離を増加させると同時に、浸透量を増大させることに貢献する、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上にできるとともに、土砂中に含まれている貝殻に起因されると推定されるガスの発生を防止することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明である土砂地盤改良工法は、請求項1又は2に記載の土砂地盤改良工法において、注入薬液を、主材を構成するコロイド溶液に対する粒子濃度を4.5(%)以下にし、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上としてサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定することを特徴としており、上記機能を確実に達成している。
【0017】
請求項4、5に記載の発明である土砂地盤改良工法に用いる注入薬液は、主材を構成するコロイド溶液のシリカ粒子もしくは活性シリカ粒子の濃度を4.5(%)以下にし、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上としてサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下、並びにpH1.5〜2に設定しており、改良域の地盤に低圧、高速で注入することを可能にして大口径の改良体を造成することができると共に、電気比抵抗値の測定で注入後の液状化強度を確認できる。
【0018】
請求項6に記載の発明である土砂地盤改良工法に用いる注入薬液は、請求項5に記載の注入薬液を配合するのに、平均粒子径3〜6ナノメートルの活性シリカ粒子を0.28〜2.25重量%分散させてコロイド溶液にした主材と0.1〜10.0重量%の中性塩及び0.1〜5重量%の酸性塩を混合して成るゲル化剤とを配合することで、活性シリカ粒子の濃度を4.5(%)以下にし、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上としてサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定している。
【0019】
請求項7に記載の発明である土砂地盤改良工法の施工管理方法は、液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定し、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、上記特定関連に基づいて地盤改良範囲及び液状化強度を確認しており、改良域における電気比抵抗を測定するだけで地盤改良域の範囲と品質を判定できる。
【0020】
請求項8に記載の発明である土砂地盤改良工法の施工管理方法は、液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定するとともに、薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、測定値と上記測定値とを比較照合するとともに上記特定関連に基づいて地盤改良範囲及び液状化強度を確認しており、改良域における注入前後の電気比抵抗値を測定、比較するだけで地盤改良域の範囲と品質を判定できる。
【0021】
請求項9に記載の発明である土砂地盤改良工法の施工管理方法は、薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、測定値と上記測定値とを比較照合することで地盤改良範囲を確認しており、改良域における注入前後の電気比抵抗値を測定、比較するだけで地盤改良域の範囲を判定できる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1、2に記載の発明である土砂地盤改良工法は、基本的に、シリカ粒子のコロイド溶液を主材とし主材にゲル化剤を配合した注入薬液を土砂地盤に注入する土砂地盤改良工法において、主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を土砂地盤中に注入して土砂地盤を所定の液状化強度の地盤に改良するものであり、注入薬液を改良する土砂地盤の土砂を用いて試験測定し、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を予め確認することを特徴としているので、低濃度のシリカ粒子から成る薬液を低圧、高速で長時間に亘って注入することを可能にして削孔間隔を拡大した大口径の改良体を造成することで土砂地盤改良のコストを低減し、工期を短縮できる効果を奏している。また、注入薬液のpHを2〜1.5の範囲に納めることにより、注入薬液の浸透距離を増加させると同時に、浸透量を増大させることに貢献する、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上にできるとともに、土砂中に含まれている貝殻に起因されると推定されるガスの発生を防止することができる。
【0023】
請求項3に記載の発明である土砂地盤改良工法は、請求項1又は2に記載の土砂地盤改良工法において、注入薬液を、主材を構成するコロイド溶液に対する粒子濃度を4.5(%)以下にし、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上としてサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定することを特徴としているので、上記機能を確実に達成している効果を奏している。
【0024】
請求項4、5に記載の発明である土砂地盤改良工法に用いる注入薬液は、主材を構成するコロイド溶液のシリカ粒子もしくは活性シリカ粒子の濃度を4.5(%)以下にし、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上としてサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下、並びにpH1.5〜2に設定しているので、改良域の地盤に低圧、高速で注入することを可能にして大口径の改良体を造成することができると共に、電気比抵抗値の測定で改良効果を確認できるので地盤改良の施工と管理を低コストで簡潔に実施できる効果を奏している。
【0025】
請求項6に記載の発明である土砂地盤改良工法に用いる注入薬液は、請求項5に記載の注入薬液を配合するのに、平均粒子径3〜6ナノメートルの活性シリカ粒子を0.28〜2.25重量%分散させてコロイド溶液にした主材と0.1〜10.0重量%の中性塩及び0.1〜5重量%の酸性塩を混合して成るゲル化剤とを配合することで、活性シリカ粒子の濃度を4.5(%)以下にし、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上としてサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定しているので、上記作用効果を確実に達成する効果を奏している。
【0026】
請求項7に記載の発明である土砂地盤改良工法の施工管理方法は、液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定し、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、上記特定関連に基づいて地盤改良範囲及び液状化強度を確認しており、改良域における電気比抵抗を測定するだけで地盤改良域の範囲と品質を判定できるので、地盤改良工事の施工管理を簡潔にできる効果を奏している。
【0027】
請求項8に記載の発明である土砂地盤改良工法の施工管理方法は、液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定するとともに、薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、測定値と上記測定値とを比較照合するとともに上記特定関連に基づいて地盤改良範囲及び液状化強度を確認しており、改良域における注入前後の電気比抵抗値を測定、比較するだけで地盤改良域の範囲と品質を判定できるので、地盤改良工事の施工管理をさらに簡潔にできる効果を奏している。
【0028】
請求項9に記載の発明である土砂地盤改良工法の施工管理方法は、薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、測定値と上記測定値とを比較照合することで地盤改良範囲を確認しており、改良域における注入前後の電気比抵抗値を測定、比較するだけで地盤改良域の範囲を判定できるので、地盤改良工事の施工管理をさらに簡潔にできる効果を奏している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明による土砂地盤改良工法は、シリカ粒子のコロイド溶液を主材とし主材にゲル化剤を配合した注入薬液を土砂地盤に注入するものであって、注入薬液を主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値、並びにpH1.5〜2で以て特定することを特徴にしている。地盤改良は、同薬液を低圧、高速で長時間に亘って改良域に注入し、薬液を注入された土砂地盤では、所定量のシリカ粒子が架橋してゲル化することで所望の液状化強度を発生させている。
【0030】
注入薬液は、主材を構成するコロイド溶液に対する粒子濃度を4.5(%)以下に設定しており、ゲル化剤の配合によってサンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上にして、サンドゲル状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下、並びにpH1.5〜2に設定して、所期の目的を達成している。そして、本発明による注入薬液の実施の形態としては、主材として3ナノメートル乃至6ナノメートルの活性シリカ粒子を0.28重量%乃至2.25重量%の範囲で水に分散することで粒子濃度4.5(%)以下のコロイド溶液を構成しており、これに0.1重量%乃至5.0重量%濃度の酸性塩と0.1重量%乃至10.0重量%濃度の中性塩から構成されるゲル化剤を配合させることで、ゲル化時間10(h)以上及び電気比抵抗値5(Ω・m)以下に調整されている。
【0031】
本実施の形態では、主材としてASFシリカー4(旭電化工業(株)製、商品名)を用いている。改良土砂の液状化抵抗は、上記設定によってシリカ粒子濃度にはあまり依存せずにほぼ一定であり、液状化強度も後述する実験結果で示すように所望の値を満たすことが判明している。因みに、この場合の液状化防止メカニズムは、セメントのように固結によるものでなく、土砂の粒子間に存在する水が薬液のゲル化物質によって置換され、このゲル化物質が土砂の粒子同士を繋ぎ止めるものと推考されている。上記シリカ粒子濃度は、従来のシリカ粒子濃度10重量%と比較して超微粒子を用いて低濃度に設定されているので、薬液の浸透性が改善されており低圧注入によっても、浸透距離が10.0m以上に及ぶことが確認されている。これによって、シリカの使用量を少なくして大口径改良体の造成を可能にしているので、地盤改良コストの低減を図ることができる。
【0032】
薬液のサンドゲル状態に到るゲル化時間は、ゲル化剤の配合によって調整されている。即ち、ゲル化剤中の酸性塩濃度を増大させてゆくと、酸性塩が主剤中のアルカリ成分を中和させてゲル化時間の延長を図ることが可能になり、10分から数週間にも調整できる。そして、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上にするためには、図1のようにpHを2以下にする必要があるが、pHを1.5以下にすると土砂中に含まれている貝殻に起因されると推定されるガスの発生を招くこともあることから、pHを2〜1.5の範囲に納めるようにしている。ゲル化時間の延長は薬液の浸透距離を増加させると同時に、浸透量を増大させることに貢献するので、重要な調整になる。尚、酸性塩としては、クエン酸塩、燐酸塩等の弱酸性塩も使用可能であるが、本実施の形態では、酸性塩としてASFアクターM(旭電化工業(株)製、商品名)を用いて、濃度を0.1重量%乃至5.0重量%に設定している。
【0033】
本発明による注入薬液には、改良域における注入効果の確認を容易にするために、サンドゲル状態において5(Ω・m)以下の電気比抵抗値を生じるように調整している。上述したように、ゲル化時間を延長させるために酸性塩濃度を増大させてpHを2〜1.5の範囲に納めるとすると、土砂に注入する以前の液体状態における電気伝導度は図2に示すように、4〜9(mS/cm)のように急峻になって製品ロットによるばらつきを生ずることが予想される。
【0034】
そこで、このような状態を安定した値に設定するために、本発明ではゲル化剤として酸性塩の他に中性塩を加えて調整している。中性塩としては、塩化ナトリュウム、塩化カリュウム又は塩化アルミニュウム等を用いることができるが、本実施の形態では、ASFアクターNS(旭電化工業(株)製、商品名)を用いており、濃度を0.1重量%乃至10.0重量%に設定することで、図3に示されるように、電気伝導度4もしくは6から15(mS/cm)付近の大きな値に安定させた状態で設定している。
【0035】
以上のように、所期の電気伝導度に若干のばらつきがあったとしても中性塩の添加量を管理することによって、目的とする所望の電気伝導度に設定できるものであるが、中性塩は、コロイド液状になっているシリカ微粒子の表面に形成されている拡散二重層を破壊して、コロイド粒子同士の衝突による結合を活発にしてゲル化を促進する働きをすることから、中性塩の添加はサンドゲル状態に到るゲル化時間を短縮する傾向に作用するので、管理に当たってはその点を考慮しながら設定してゆくことが肝要である。
【0036】
尚、電気伝導度は、土砂中においては測定することができないので、土砂中のサンドゲル状態においては電気比抵抗を測定することによって注入薬液のゲル化状態と注入範囲の確認を行っている。電気比抵抗(Ω・m)は、電気伝導度(mS/cm)の逆数であり、電気比抵抗(Ω・m)=10/電気伝導度(mS/cm)の関係にある。電気伝導度は土砂中に注入されると周辺との関係で若干の変化が予想されることから、本発明ではサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定して、本実施の形態では5(Ω・m)に設定しているものであり、液状状態にあるときの電気伝導度は変化を見越して調整されている。
【0037】
以上の説明で明らかなように、本発明による土砂地盤改良工法と注入薬液は、シリカ粒子のコロイド溶液を主材とし、これにゲル化剤を配合した注入薬液を土砂地盤に注入するものであり、注入薬液として主材のシリカ粒子濃度を特定しサンドゲル状態に到るゲル化時間を大きくすることによって、地盤改良域に大量の薬液を低圧、高速で広範囲に注入することを可能にして大口径の改良体の造成と所望の液状化強度を発生させている。さらに、サンドゲル状態における電気比抵抗値を安定状態に特定することによって、注入後の電気比抵抗値を計測して注入効果確認の視点にすることで、地盤改良域の液状化強度とその範囲を簡潔に確認できるようにしている。
【0038】
尚、本実施の形態では、主材を構成しているコロイド溶液を活性シリカ微粒子の分散で形成するとして説明してきたが、本発明は、注入薬液を主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を特定することによって所期の目的を達成するものであるから、コロイド溶液を他のシリカ微粒子の分散で形成するものであっても何らの支障がないものである。
【0039】
本発明によって造成された改良体を、室内における繰り返し振動三軸試験と繰り返し単純せん断試験によって「液状化強度」を確認した。
【0040】
【表1】
【0041】
試験は、表1に示すように、配合シリカ濃度2.25%のケース1と配合シリカ濃度4.5%のケース2について実施され、図4には、それぞれの試験に供した試験体を示している。せん断試験の供試体は、三軸試験のそれに比較して小さいのでサンプリングと供試体の作成が比較的容易であり、試験は、100点の供試体を用意して液状化強度を求めている。
【0042】
図5は、繰り返し振動三軸試験の結果を示している。試験は、軸ひずみの両振幅が5%になる載荷回数をプロットし、繰り返し回数20回の応力比を液状化強度にしている。図示のように未改良域の液状化強度が0.25程度であるのに対して、ケース1の場合で0.32、ケース2の状態で0.51と地盤の改良によって「液状化強度」の大きくなったことが判る。そして、未改良砂には繰り返し単純せん断試験、繰り返し振動三軸試験を適用したが、せん断試験、三軸試験とも同様の曲線になっているように、「液状化強度」もほぼ同じ値が得られており、試験値の正しさを示している。
【0043】
図6には、未改良域(a)とケース1(b)の場合の応力−ひずみ曲線を示している。図6(a)から明らかなように、薬液の到達していない未改良域では繰り返し荷重によって、ある回数からせん断抵抗力が激減するためにひずみ振幅が急激に増加する状態を示しており、液状化破壊が発生している。これに対して、改良域では図6(b)のようにひずみは次第に大きくなっているが、急増することがなくせん断抵抗力を維持しており、繰り返し載荷によっても有限のひずみ振幅しか発生していない。
【0044】
以上の各試験によって確認されたように、本発明によって、主材を構成するコロイド溶液に対する粒子濃度を4.5(%)以下、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上及びサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定される注入薬液は、これが土砂に注入されサンドゲル状態に到って改良体を形成した場合に、充分な「液状化強度」を発揮することが明らかである。
【0045】
試験は、原位置での改良体調査でも行ったが、此処での試験は、「液状化強度」の実地試験と同時に、改良効果の確認方法を確立することを目的にしている。又、本発明による地盤改良方法はシリカ粒子濃度を低くしていることから、標準貫入試験を採用せずに、強度特性の変化に敏感に反応すると考えられる試験方法を採用して実施している。
【0046】
図7は、それぞれの試験に用いられる先端コーンを示している。図7(a)は三成分コーン試験のものであり、先端コーンを貫入させることで、貫入抵抗、周辺摩擦力、間隙水圧を連続的に測定できる。図7(b)はダイラトメータ試験の平板状ブレードであり、ぶれ土片側にあるメンブレンの膨張によって地盤を水平方向に載荷している。
【0047】
図7(c)は電気比抵抗試験に用いる先端コーンであり、上端ロッドの部分に電極を取り付けて貫入時に地盤の電気比抵抗を連続的に測定できる。本発明では注入薬液を調合して、薬液注入によって地盤の電気比抵抗を確実に変化させることで、改良効果の確認を簡便に実施できるようにしていることから、電気比抵抗を測定する試験は、地盤改良の施工管理を確実にするための確認試験である。
【0048】
以下に、各試験における計測結果を示すことで、本発明によって設定された注入薬液の注入効果の確認、特に、室内試験によって確認された「液状化強度」の追認と「改良域範囲」について確認の容易性について検討し、三成分コーン試験、ダイラトメータ試験の結果と比較して、電気比抵抗の測定による注入効果の確認が最も効率的で精度が高いことを実証する。
【0049】
図8は、三成分コーン試験の結果であり、「液状化強度」の追認と併せて改良域を特定できる可能性の確認結果を示している。図8(a)は、ケース1について三成分コーン試験を実施した結果を示している。ケース1の場合は、主材のシリカ濃度が2.25%と低いために、貫入抵抗(qa)において深度3mの部分で若干の向上が見られるものの、周面摩擦(fs)、間隙水圧(ud)では、注入前後において差異を確認できる状態にない。これに対して、主材のシリカ濃度が4.5%のケース2については、図8(b)に見られるように、注入後のGL−4.0〜−7.0m間で明らかに貫入抵抗(qa)と周面摩擦(fs)が大きくなっており、間隙水圧(ud)が小さくなっていることで改良域を形成している状態を正確に確認できる。
【0050】
図9は、ダイラトメータ試験の結果であり、図8と同様に「液状化強度」の追認と併せて改良域を特定できる可能性の確認結果を示している。図9(a)は、ケース1についてダイラトメータ試験を実施した結果を示している。この場合も、主材のシリカ濃度が2.25%と低いために、メンブレン膨張時の圧力(p1)、土質パラメータの(ID)及び変形特性を示す(ED)が共に変化を見ることができず、注入前後において差異を確認できる状態にない。一方、ケース2については、図9(b)に示すように、土質パラメータの(ID)による土質の判定結果には改良効果の影響が見られないが、メンブレン膨張時の圧力(p1)、変形特性を示す(ED)が共に薬液の注入後に大きくなっており、地盤強度の増加を推測することができると同時に、改良域の範囲を正確に確認できる。
【0051】
図10乃至16は、ケース1に関して実施した電気比抵抗試験の実施範囲と計測結果であり、水平方向について改良域を特定できる可能性の確認状態を示している。図10は、本試験を実施した調査範囲を示す平面図であり、併せて三成分コーン試験とダイラトメータ試験を実施した位置についても参考的に表示している。試験結果は、図示のように直交する形で、No.1〜No.14の位置で測定した結果を深度方向に記録している。平面内に実線で示した部分は、GL−3.9mまで掘削した後に目視によって推測された改良範囲を表示しており、電気比抵抗によって確認された改良域の範囲と一致していることが確認できる。
【0052】
図11乃至14は、各計測点における深度方向の電気比抵抗値を示す計測結果であり、改良域の確認状態を示している。試験結果について、GL−4m以深に注目すると、薬液を注入する以前は、各計測点が同様に電気比抵抗値が10〜20(Ω・m)の値を示しており、浅いほど大きくなっている。しかし、薬液の注入後は5(Ω・m)まで低下し、深さ方向にほぼ一定の値を示す層が存在することを示している。この層が注入された薬液が浸透している範囲であり、上下の浸透していない層と明確に区別することができる。
【0053】
又、その浸透状態に視点を移してみると、注入位置を中心に浸透した深さ・層厚がほぼ対象に現れており、注入の中心から離れるに従って浸透された層厚が小さくなっていることが判る。さらに、本試験の目標改良半径である1.5mよりも離れると、薬液注入前の地盤における電気比抵抗値を示すようになり、浸透していないことを表示している。
【0054】
図15、16は、本試験を実施した調査範囲を示す断面図であり、図10の平面図に相当させた各計測点の深度方向における電気比抵抗値を示す計測結果であり、深度方向について改良域を特定できる可能性の確認状態を示している。本結果は、電気比抵抗の測定から推測される改良範囲を示しているものであり、図面に表示した破線から明らかなように、両断面とも改良域の範囲は、ストレーナーを中心にして球状浸透した所望の浸透範囲(半径1.5mの球体)とほぼ一致している。
【0055】
従って、本発明による注入薬液を用いた地盤改良は、理想的な注入形態である浸透注入によって、コロイド溶液の濃度が低い場合でも所定の改良体を形成して地盤の改良を達成しているものであり、同時に注入後における電気比抵抗の計測によって、改良域の品質と範囲とを簡潔に特定出来ることが確認されたことになる。
【0056】
図17乃至19は、ケース2に関して実施した電気比抵抗試験の実施範囲と計測結果であり、水平方向と深度方向についてケース1と同様に改良域を特定できる可能性の確認状態を示している。平面内に実線で示した部分は、GL−4.2mまで掘削した後に目視によって推測された改良範囲を表示しており、電気比抵抗によって確認された改良域の範囲と一致していることが確認できる。但し、改良形状は、No.9とNo.18の方向に小さく、No.8の方向に大きくなっているが、小さくなっている方向には、中心部に比べて細粒分の多い砂質土層が確認されており、これによって浸透性の良い地盤の方向に薬液が優先的に浸透したものと推測される。
【0057】
図18、19は、本試験を実施した調査範囲を示す断面図であり、コロイド溶液のシリカ濃度が高い場合についても、各計測点の深度方向における電気比抵抗値を示す計測結果によって、深度方向について改良域を特定できる可能性の確認状態を示している。推測される改良範囲は、両断面とも改良範囲の上端が地下水位GL−3mより低いGL−4m付近になっている。試掘によると、GL−4m付近には厚さ10cm程度の薄層の粘性土が存在していることが判明した。従って、上記平面図に現れた浸透域の差異は、この粘性土によって薬液の浸透が阻まれたものと推測される。実際にもそれ以深については、浸透注入によって地盤の改良が為されており、その浸透範囲は中心から2mに達している。
【0058】
従って、本発明による注入薬液を用いた地盤改良は、コロイド溶液の濃度が高い場合でも理想的な注入形態である浸透注入によって、所定の改良体を形成して地盤の改良を達成しているものであり、同時に注入後における電気比抵抗の計測によって、改良域の品質と範囲とを簡潔に特定出来ることが確認されたことになる。
【0059】
以上のように、室内における繰り返し振動三軸試験と繰り返し単純せん断試験による「液状化強度」の確認と、原位置での改良体調査で行われた三成分コーン試験、ダイラトメータ試験と電気比抵抗試験による「液状化強度」の実地試験及び改良効果を確認する方法の確立によって、本発明による注入薬液を用いた土砂地盤改良工法は、地盤改良域に大量の薬液を低圧、高速で広範囲に注入することを可能にして大口径の改良体の造成を図って所望の液状化強度を発生させ、さらに、注入後の電気比抵抗値を計測することで地盤改良域の液状化強度とその範囲を簡潔に確認できることが明らかになった。
【0060】
これらの結果を踏まえて、本発明による土砂地盤改良工法の施工管理方法は、液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定し、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定し、上記特定関連に基づいて地盤改良範囲における液状化強度を確認している。あるいは、液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定するとともに、薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、該測定値と上記測定値とを比較照合するとともに上記特定関連に基づいて地盤改良範囲における液状化強度を確認している。以下に、本発明による施工管理方法の実施の形態を特定関連図に基づいて説明する。
【0061】
図20は、本発明による注入薬液を用いた試験によって予め作成した「液状化強度比」(a)と「電気比抵抗値」(b)の希釈倍率に対する特定関連図である。ここで用いる希釈倍率は、以下のように定められている。
希釈倍率=[(希釈によって加わる水の重量)+(主材の重量)]/(主材の重量)
本発明による施工管理方法は、図20に示した両特定関連図を用いて次のように実施することで、地盤改良域に所望の改良が確立していることを確認できる。
(1)注入薬液について、「液状化強度比」(a)と「電気比抵抗値」とを予め求めて上記特定関連図(a)(b)を作成する。
(2)注入薬液について、所定の「液状化強度比」を設定して、主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定する。
(3)注入薬液を所定の「希釈倍率」に希釈して地盤改良域に注入する。
(4)地盤改良域の電気比抵抗を計測する。
(5)計測された「電気比抵抗値」を特定関連図(b)に当てはめて、曲線に従って「希釈倍率」を特定し、「希釈倍率」を特定関連図(a)に当てはめて「液状化強度比」を求める。
(6)「液状化強度比」から改良域の「液状化強度」を確認する。
【0062】
以上のように、本発明による施工管理方法は、注入薬液に関する「液状化強度比」と「電気比抵抗値」とを予め求めて、上記特定関連図(a)(b)の作成を済ましておくことで、以降の管理は、注入薬液の主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定する作業と、注入後の電気比抵抗を計測するだけの作業だけで、施工管理を簡潔に実施できる。
【0063】
しかして、上記管理方法では、改良域に所望の「液状化強度」が確立しているか否かを数値的に確認しているが、上述した試験結果でも明らかなように、本発明による注入薬液は、所定の数値設定によって改良域に所期の「液状化強度」を充分に形成できることが実証されている。従って、本発明による土砂地盤改良工法の施工管理方法は、この他に、地盤改良範囲において薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を予め測定しておいて、電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を注入した後に同様の電気比抵抗値を測定して、両方の測定値を比較照合することで、地盤改良効果を確認することも可能である。
【0064】
本施工管理方法は、注入薬液に関する「液状化強度比」と「電気比抵抗値」とを予め求めることなく、施工現場における電気比抵抗値の計測のみで地盤改良効果を確認するもので、以下のように実施する。
(1)薬液注入前に地盤改良範囲における深度方向の電気比抵抗値を予め測定する。
(2)注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入した後に、地盤改良範囲における深度方向の電気比抵抗値を再び測定する。
(3)両測定値を比較照合して差異が存在することを確認する。
【0065】
以上のように、本発明による施工管理方法では、注入薬液にゲル化剤で設定した電気比抵抗値を改良地盤の電気比抵抗値と比較して大きな差異を生じるように調合している特性を活用して、電気比抵抗値の変化を観測するのみで施工管理を簡潔に実施できる。例えば、海水の電気比抵抗値が低く、真水が高いことは一般周知であり、改良対象の地盤に海水が染み込んでいるときには、薬液注入により電気比抵抗値が増加していることで、また真水が染み込んでいるときには、電気比抵抗値が低下していることで、明らかに改良域を特定することができ、容易に施工管理を達成することができる。尚、本発明による施工管理方法では、通常の地盤における電気比抵抗が大凡の数値で確認されている場合には事前の計測も省略して、薬液注入後の電気比抵抗値が予め設定した電気比抵抗値(上記実施の形態では5(Ω・m))になっているか否かを確認するだけでも施工管理を達成できる。
【0066】
以上の説明で明らかなように、本発明による土砂地盤改良工法の施工管理方法は、少なくとも電気比抵抗値を設定した注入薬液を土砂地盤に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、地盤改良域における液状化強度とその範囲を確認しており、注入薬液にサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定する作業と、注入後の電気比抵抗を計測するだけの作業だけで、施工管理を簡潔に実施できるものである。
【0067】
以上、本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明してきたが、本発明による土砂地盤改良工法と注入薬液及びその施工管理方法は、上記実施の形態に何ら限定されるものでなく、主材におけるシリカ粒子、ゲル化剤における酸性塩や中性塩の各種態様、さらには濃度等の配合値や注入薬液へのサンドゲル状態に到るゲル化時間、電気比抵抗の設定値等に関して、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明による注入薬液を特定するために調整したサンドゲル状態に到るゲル化時間とpHの相関図
【図2】本発明による注入薬液を特定するために調整した電気伝導度とpHの相関図
【図3】本発明による注入薬液を特定するために調整した電気伝導度とゲル化剤の中性塩配合の相関図
【図4】液状化強度試験に使用した供試体
【図5】液状化強度試験における載荷回数とせん断応力比の計測値図
【図6】液状化強度試験におけるせん断ひずみとせん断応力の計測値図
【図7】原位置試験に適用した各試験方法の先端コーン図
【図8】低濃度シリカ粒子のケースにおける三成分コーン試験の深度方向計測値図
【図9】低濃度シリカ粒子のケースにおけるダイラトメータ試験の深度方向計測値図
【図10】原位置試験を実施した低濃度シリカ粒子のケースにおける改良範囲の平面図
【図11】低濃度シリカ粒子のケースにおける電気比抵抗試験の深度方向計測値図
【図12】低濃度シリカ粒子のケースにおける電気比抵抗試験の深度方向計測値図
【図13】低濃度シリカ粒子のケースにおける電気比抵抗試験の深度方向計測値図
【図14】低濃度シリカ粒子のケースにおける電気比抵抗試験の深度方向計測値図
【図15】原位置試験を実施した低濃度シリカ粒子のケースにおける改良範囲の断面図
【図16】原位置試験を実施した低濃度シリカ粒子のケースにおける改良範囲の断面図
【図17】原位置試験を実施した標準濃度シリカ粒子のケースにおける改良範囲の平面図
【図18】原位置試験を実施した標準濃度シリカ粒子のケースにおける改良範囲の断面図
【図19】原位置試験を実施した標準濃度シリカ粒子のケースにおける改良範囲の断面図
【図20】地盤改良の施工管理に用いる特定関連図
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂地盤改良工法と注入薬液及びその施工管理方法に関し、特に、大量の薬液を広範囲に注入することを可能にする土砂地盤改良工法と、シリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間と電気比抵抗値を設定した注入薬液及びこの注入薬液を注入し、薬液注入後の電気比抵抗値を測定することで地盤改良域における改良効果を簡潔に確認できる施工管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
埋立地等の軟弱地盤に建っている構造物の周辺や直下の液状化対策工法には、せん断変形抑制工法、注入固化工法、間隙水圧消散工法、地下水位低下工法等があるが、各種工法の中でも、注入固化工法が施工性に優れており、適用範囲が広い等の特徴があることで多くの施工実績が重ねられてきた。又、既設構造物直下の砂質土地盤等を対象にした地盤改良には、超微粒子シリカを分散させたコロイド溶液を主材にした薬液を用いて好成績を挙げている。しかして、注入固化工法は、注入薬液の主材であるセメント、特に高価なシリカ粒子を多量に必要とするためにコスト高を招いて経済性に劣るという欠点が指摘されている。
【0003】
このことは、従来の薬液注入工法では、「液状化強度」を確認する地盤改良の品質評価に、一軸圧縮強度を採用していたことから、一軸圧縮強度を大きくすることが液状化抵抗性の増大を促進して「液状化強度」も高められると考えて来たことに大きな影響を受けている。即ち、この考えに従うと、1.9〜9.8N/cm2以上の値が必要とされる所要強度を得るためには、一軸圧縮強度を大きくするために注入薬液の濃度を増大させることが必要になり、結果として、セメントや高価なシリカ粒子を多量に使用することになるからである。
【0004】
そこで、シリカ粒子の使用量を低減することでコスト低減を図る提案がなされている。例えば、特願平10−140973号に記載された工法では、コロイド溶液に分散させるシリカ粒子の平均径を15ナノメータとし、シリカコロイド溶液に分散させたシリカ粒子の濃度を1.9重量%〜6.0重量%に配合して主材とし、これに硬化剤を調合することによって、従来のシリカコロイド溶液のシリカ粒子濃度であった10重量%よりもシリカ粒子の使用量を低下させたことでコスト低減を果たしている。
【0005】
同様に、市販の注入薬剤パーマロック・ASF(旭電化工業(株)製、商品名)は、活性シリカ微粒子のコロイド溶液の主材ASFシリカー4(旭電化工業(株)製、商品名)に酸性塩の硬化剤ASFアクターM(旭電化工業(株)製、商品名)を配合して、シリカ濃度を3.7重量%〜7.0重量%に抑えており、シリカ粒子の平均径を小さくすることで活性シリカ微粒子の使用量を上記例よりもさらに少なくしている。しかし、いずれの場合も一軸圧縮強度を品質評価の基準にしている点で同等である。
【0006】
又、所要強度を得るために、従来の考え方に従って一軸圧縮強度の増強を図るべく注入薬液の濃度を増大させることは、施工面においても多くの問題点を生じている。即ち、注入孔から離れるに従って、薬液は地下水の影響を受けて濃度が低下し、圧縮強度が急激に低下してしまう。従って、シリカ濃度が一定の薬液を注入して所要強度を得ようとすると小口径の改良体に止まって大口径改良体の造成を不可能にしていることで、注入のための削孔数を増大させざるを得なくなっている。このために、地盤改良工事は、施工効率が悪くなって施工コストの嵩高と工期の遅延化を招来する問題点を抱えながら、これの解消がなされてないのが現状である。
【0007】
地盤改良工事における注入効果の確認は、注入固化工法の施工において最も重要な管理項目の1つである。そして、従来における地盤改良域の効果確認には、標準貫入試験が最も多く採用されている。標準貫入試験が多く採用されるのは、液状化抵抗性の増大は一軸圧縮強度の増大によるとの認識の下に、地盤改良の効果確認に一軸圧縮強度を採用しているからであり、地盤改良域の効果確認においてもこれらの認識を反映して、改良土の硬軟と締まり具合をN値の変化で判定する標準貫入試験を採用して地盤改良効果を判定している。しかるに、標準貫入試験は、改良によって地盤の強度が大きく増加することを前提にしているために、改良土における強度の増加が小さい改良域においてはN値の差が僅少になることから、地盤改良の注入効果を明確に確認するのは困難であった。
【0008】
地盤改良域の効果確認は、標準貫入試験の他に、透水係数試験等の間接的なものから、三成分コーン試験、ダイラトメータ試験等、深度方向の液状化強度を簡易に測定する方法によっても行われている。
【0009】
そして、現位置試験における上記の透水係数試験等の間接的手法もしくは三成分コーン試験、ダイラトメータ試験等の「液状化強度」を確認する手法と、「液状化強度」を詳細に確認するために室内で試験が行なわれる繰り返し振動三軸試験や繰り返し単純せん断試験等の手法では、標準貫入試験、三成分コーン試験、ダイラトメータ試験では明確に特定できない範囲についても、「液状化強度」の変化を明確に示すことが確認されている。従って、上記のような改良域においては、一軸圧縮強度を評価基準に採用してN値の変化で地盤改良域の判定をする手法と、「液状化強度」を上記試験によって直接的に確認する手法とでは、その判定において一致を見ることができないことになる。
【0010】
しかも、このような傾向は、地盤改良施工のコスト低減を図るために高価なシリカ粒子の使用量を少なくして、注入薬液の主材濃度を低下させた場合に顕著に現れてくる。即ち、注入薬液における主材濃度の低下は、当然に改良土における強度の増加が小さい改良域を形成することになってN値の差を益々僅少にするからである。
【0011】
以上の状況から、注入薬液の主材濃度を低下させた場合には、N値の変化で判定する標準貫入試験では、改良土における真の「液状化強度」を確認して、改良域の品質を判定することは困難であり、他の手法についても計測精度の点で問題点が残っている。しかるに、現状は地盤改良における施工コストの低減を図るために、注入薬液における主材濃度を低下させることが急務になっている。このような状況の中で、施工された改良土の「液状化強度」を簡便、かつ迅速に確認することで地盤改良された品質の判定を簡潔に実施できる管理方法の提案が期待されている。
【0012】
さらに、注入効果の確認における注入範囲の測定には、RIによる方法、弾性波による方法、トレーサーによる方法、磁性による方法及び電気比抵抗による方法が用いられてきた。しかるに、RI工法は、放射線を用いるために取り扱いが困難であり、弾性波工法は、剛性が大きくならない場合には適用できない。トレーサー方法は、トレーサーが土粒子に吸着して適用範囲が限定され、磁性方法は、周辺構造物の影響を受け易い等の問題があるために、電気比抵抗方法が比較的多く用いられている。
【0013】
電気比抵抗による方法は、注入前後の土中抵抗の変化からその注入範囲を特定しようとする方法であるが、電気比抵抗が時間の経過で変化したり、抵抗値の差異もあまり大きくならないことから、測定時期の設定と注入範囲の特定が困難になり、結果的に土砂地盤改良工法の施工管理が正確にできないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、以上の状況に鑑みて土砂地盤改良工法における問題の解消を図るものであり、注入薬液のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値、並びにpHを設定することで真の液状化強度を確保して、地盤改良域において大量の薬液を広範囲に注入することを可能にし、併せて注入後の電気比抵抗値を計測して注入効果確認の視点とすることで、地盤改良域の液状化強度とその範囲を簡潔に確認できるようにした土砂地盤改良工法と注入薬液及びその施工管理方法の提供を課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1、2に記載の発明である土砂地盤改良工法は、基本的に、シリカ粒子のコロイド溶液を主材とし主材にゲル化剤を配合した注入薬液を土砂地盤に注入する土砂地盤改良工法において、主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を土砂地盤中に注入して土砂地盤を所定の液状化強度の地盤に改良するものであり、注入薬液を改良する土砂地盤の土砂を用いて試験測定し、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を予め確認することを特徴としており、各数値を所定値に設定することで、低濃度の薬液を低圧、高速で注入することによって大口径の改良体を造成することができる。また、注入薬液のpHを2〜1.5の範囲に納めることにより、注入薬液の浸透距離を増加させると同時に、浸透量を増大させることに貢献する、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上にできるとともに、土砂中に含まれている貝殻に起因されると推定されるガスの発生を防止することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明である土砂地盤改良工法は、請求項1又は2に記載の土砂地盤改良工法において、注入薬液を、主材を構成するコロイド溶液に対する粒子濃度を4.5(%)以下にし、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上としてサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定することを特徴としており、上記機能を確実に達成している。
【0017】
請求項4、5に記載の発明である土砂地盤改良工法に用いる注入薬液は、主材を構成するコロイド溶液のシリカ粒子もしくは活性シリカ粒子の濃度を4.5(%)以下にし、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上としてサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下、並びにpH1.5〜2に設定しており、改良域の地盤に低圧、高速で注入することを可能にして大口径の改良体を造成することができると共に、電気比抵抗値の測定で注入後の液状化強度を確認できる。
【0018】
請求項6に記載の発明である土砂地盤改良工法に用いる注入薬液は、請求項5に記載の注入薬液を配合するのに、平均粒子径3〜6ナノメートルの活性シリカ粒子を0.28〜2.25重量%分散させてコロイド溶液にした主材と0.1〜10.0重量%の中性塩及び0.1〜5重量%の酸性塩を混合して成るゲル化剤とを配合することで、活性シリカ粒子の濃度を4.5(%)以下にし、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上としてサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定している。
【0019】
請求項7に記載の発明である土砂地盤改良工法の施工管理方法は、液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定し、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、上記特定関連に基づいて地盤改良範囲及び液状化強度を確認しており、改良域における電気比抵抗を測定するだけで地盤改良域の範囲と品質を判定できる。
【0020】
請求項8に記載の発明である土砂地盤改良工法の施工管理方法は、液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定するとともに、薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、測定値と上記測定値とを比較照合するとともに上記特定関連に基づいて地盤改良範囲及び液状化強度を確認しており、改良域における注入前後の電気比抵抗値を測定、比較するだけで地盤改良域の範囲と品質を判定できる。
【0021】
請求項9に記載の発明である土砂地盤改良工法の施工管理方法は、薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、測定値と上記測定値とを比較照合することで地盤改良範囲を確認しており、改良域における注入前後の電気比抵抗値を測定、比較するだけで地盤改良域の範囲を判定できる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1、2に記載の発明である土砂地盤改良工法は、基本的に、シリカ粒子のコロイド溶液を主材とし主材にゲル化剤を配合した注入薬液を土砂地盤に注入する土砂地盤改良工法において、主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を土砂地盤中に注入して土砂地盤を所定の液状化強度の地盤に改良するものであり、注入薬液を改良する土砂地盤の土砂を用いて試験測定し、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を予め確認することを特徴としているので、低濃度のシリカ粒子から成る薬液を低圧、高速で長時間に亘って注入することを可能にして削孔間隔を拡大した大口径の改良体を造成することで土砂地盤改良のコストを低減し、工期を短縮できる効果を奏している。また、注入薬液のpHを2〜1.5の範囲に納めることにより、注入薬液の浸透距離を増加させると同時に、浸透量を増大させることに貢献する、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上にできるとともに、土砂中に含まれている貝殻に起因されると推定されるガスの発生を防止することができる。
【0023】
請求項3に記載の発明である土砂地盤改良工法は、請求項1又は2に記載の土砂地盤改良工法において、注入薬液を、主材を構成するコロイド溶液に対する粒子濃度を4.5(%)以下にし、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上としてサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定することを特徴としているので、上記機能を確実に達成している効果を奏している。
【0024】
請求項4、5に記載の発明である土砂地盤改良工法に用いる注入薬液は、主材を構成するコロイド溶液のシリカ粒子もしくは活性シリカ粒子の濃度を4.5(%)以下にし、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上としてサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下、並びにpH1.5〜2に設定しているので、改良域の地盤に低圧、高速で注入することを可能にして大口径の改良体を造成することができると共に、電気比抵抗値の測定で改良効果を確認できるので地盤改良の施工と管理を低コストで簡潔に実施できる効果を奏している。
【0025】
請求項6に記載の発明である土砂地盤改良工法に用いる注入薬液は、請求項5に記載の注入薬液を配合するのに、平均粒子径3〜6ナノメートルの活性シリカ粒子を0.28〜2.25重量%分散させてコロイド溶液にした主材と0.1〜10.0重量%の中性塩及び0.1〜5重量%の酸性塩を混合して成るゲル化剤とを配合することで、活性シリカ粒子の濃度を4.5(%)以下にし、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上としてサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定しているので、上記作用効果を確実に達成する効果を奏している。
【0026】
請求項7に記載の発明である土砂地盤改良工法の施工管理方法は、液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定し、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、上記特定関連に基づいて地盤改良範囲及び液状化強度を確認しており、改良域における電気比抵抗を測定するだけで地盤改良域の範囲と品質を判定できるので、地盤改良工事の施工管理を簡潔にできる効果を奏している。
【0027】
請求項8に記載の発明である土砂地盤改良工法の施工管理方法は、液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定するとともに、薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、測定値と上記測定値とを比較照合するとともに上記特定関連に基づいて地盤改良範囲及び液状化強度を確認しており、改良域における注入前後の電気比抵抗値を測定、比較するだけで地盤改良域の範囲と品質を判定できるので、地盤改良工事の施工管理をさらに簡潔にできる効果を奏している。
【0028】
請求項9に記載の発明である土砂地盤改良工法の施工管理方法は、薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、測定値と上記測定値とを比較照合することで地盤改良範囲を確認しており、改良域における注入前後の電気比抵抗値を測定、比較するだけで地盤改良域の範囲を判定できるので、地盤改良工事の施工管理をさらに簡潔にできる効果を奏している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明による土砂地盤改良工法は、シリカ粒子のコロイド溶液を主材とし主材にゲル化剤を配合した注入薬液を土砂地盤に注入するものであって、注入薬液を主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値、並びにpH1.5〜2で以て特定することを特徴にしている。地盤改良は、同薬液を低圧、高速で長時間に亘って改良域に注入し、薬液を注入された土砂地盤では、所定量のシリカ粒子が架橋してゲル化することで所望の液状化強度を発生させている。
【0030】
注入薬液は、主材を構成するコロイド溶液に対する粒子濃度を4.5(%)以下に設定しており、ゲル化剤の配合によってサンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上にして、サンドゲル状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下、並びにpH1.5〜2に設定して、所期の目的を達成している。そして、本発明による注入薬液の実施の形態としては、主材として3ナノメートル乃至6ナノメートルの活性シリカ粒子を0.28重量%乃至2.25重量%の範囲で水に分散することで粒子濃度4.5(%)以下のコロイド溶液を構成しており、これに0.1重量%乃至5.0重量%濃度の酸性塩と0.1重量%乃至10.0重量%濃度の中性塩から構成されるゲル化剤を配合させることで、ゲル化時間10(h)以上及び電気比抵抗値5(Ω・m)以下に調整されている。
【0031】
本実施の形態では、主材としてASFシリカー4(旭電化工業(株)製、商品名)を用いている。改良土砂の液状化抵抗は、上記設定によってシリカ粒子濃度にはあまり依存せずにほぼ一定であり、液状化強度も後述する実験結果で示すように所望の値を満たすことが判明している。因みに、この場合の液状化防止メカニズムは、セメントのように固結によるものでなく、土砂の粒子間に存在する水が薬液のゲル化物質によって置換され、このゲル化物質が土砂の粒子同士を繋ぎ止めるものと推考されている。上記シリカ粒子濃度は、従来のシリカ粒子濃度10重量%と比較して超微粒子を用いて低濃度に設定されているので、薬液の浸透性が改善されており低圧注入によっても、浸透距離が10.0m以上に及ぶことが確認されている。これによって、シリカの使用量を少なくして大口径改良体の造成を可能にしているので、地盤改良コストの低減を図ることができる。
【0032】
薬液のサンドゲル状態に到るゲル化時間は、ゲル化剤の配合によって調整されている。即ち、ゲル化剤中の酸性塩濃度を増大させてゆくと、酸性塩が主剤中のアルカリ成分を中和させてゲル化時間の延長を図ることが可能になり、10分から数週間にも調整できる。そして、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上にするためには、図1のようにpHを2以下にする必要があるが、pHを1.5以下にすると土砂中に含まれている貝殻に起因されると推定されるガスの発生を招くこともあることから、pHを2〜1.5の範囲に納めるようにしている。ゲル化時間の延長は薬液の浸透距離を増加させると同時に、浸透量を増大させることに貢献するので、重要な調整になる。尚、酸性塩としては、クエン酸塩、燐酸塩等の弱酸性塩も使用可能であるが、本実施の形態では、酸性塩としてASFアクターM(旭電化工業(株)製、商品名)を用いて、濃度を0.1重量%乃至5.0重量%に設定している。
【0033】
本発明による注入薬液には、改良域における注入効果の確認を容易にするために、サンドゲル状態において5(Ω・m)以下の電気比抵抗値を生じるように調整している。上述したように、ゲル化時間を延長させるために酸性塩濃度を増大させてpHを2〜1.5の範囲に納めるとすると、土砂に注入する以前の液体状態における電気伝導度は図2に示すように、4〜9(mS/cm)のように急峻になって製品ロットによるばらつきを生ずることが予想される。
【0034】
そこで、このような状態を安定した値に設定するために、本発明ではゲル化剤として酸性塩の他に中性塩を加えて調整している。中性塩としては、塩化ナトリュウム、塩化カリュウム又は塩化アルミニュウム等を用いることができるが、本実施の形態では、ASFアクターNS(旭電化工業(株)製、商品名)を用いており、濃度を0.1重量%乃至10.0重量%に設定することで、図3に示されるように、電気伝導度4もしくは6から15(mS/cm)付近の大きな値に安定させた状態で設定している。
【0035】
以上のように、所期の電気伝導度に若干のばらつきがあったとしても中性塩の添加量を管理することによって、目的とする所望の電気伝導度に設定できるものであるが、中性塩は、コロイド液状になっているシリカ微粒子の表面に形成されている拡散二重層を破壊して、コロイド粒子同士の衝突による結合を活発にしてゲル化を促進する働きをすることから、中性塩の添加はサンドゲル状態に到るゲル化時間を短縮する傾向に作用するので、管理に当たってはその点を考慮しながら設定してゆくことが肝要である。
【0036】
尚、電気伝導度は、土砂中においては測定することができないので、土砂中のサンドゲル状態においては電気比抵抗を測定することによって注入薬液のゲル化状態と注入範囲の確認を行っている。電気比抵抗(Ω・m)は、電気伝導度(mS/cm)の逆数であり、電気比抵抗(Ω・m)=10/電気伝導度(mS/cm)の関係にある。電気伝導度は土砂中に注入されると周辺との関係で若干の変化が予想されることから、本発明ではサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定して、本実施の形態では5(Ω・m)に設定しているものであり、液状状態にあるときの電気伝導度は変化を見越して調整されている。
【0037】
以上の説明で明らかなように、本発明による土砂地盤改良工法と注入薬液は、シリカ粒子のコロイド溶液を主材とし、これにゲル化剤を配合した注入薬液を土砂地盤に注入するものであり、注入薬液として主材のシリカ粒子濃度を特定しサンドゲル状態に到るゲル化時間を大きくすることによって、地盤改良域に大量の薬液を低圧、高速で広範囲に注入することを可能にして大口径の改良体の造成と所望の液状化強度を発生させている。さらに、サンドゲル状態における電気比抵抗値を安定状態に特定することによって、注入後の電気比抵抗値を計測して注入効果確認の視点にすることで、地盤改良域の液状化強度とその範囲を簡潔に確認できるようにしている。
【0038】
尚、本実施の形態では、主材を構成しているコロイド溶液を活性シリカ微粒子の分散で形成するとして説明してきたが、本発明は、注入薬液を主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を特定することによって所期の目的を達成するものであるから、コロイド溶液を他のシリカ微粒子の分散で形成するものであっても何らの支障がないものである。
【0039】
本発明によって造成された改良体を、室内における繰り返し振動三軸試験と繰り返し単純せん断試験によって「液状化強度」を確認した。
【0040】
【表1】
【0041】
試験は、表1に示すように、配合シリカ濃度2.25%のケース1と配合シリカ濃度4.5%のケース2について実施され、図4には、それぞれの試験に供した試験体を示している。せん断試験の供試体は、三軸試験のそれに比較して小さいのでサンプリングと供試体の作成が比較的容易であり、試験は、100点の供試体を用意して液状化強度を求めている。
【0042】
図5は、繰り返し振動三軸試験の結果を示している。試験は、軸ひずみの両振幅が5%になる載荷回数をプロットし、繰り返し回数20回の応力比を液状化強度にしている。図示のように未改良域の液状化強度が0.25程度であるのに対して、ケース1の場合で0.32、ケース2の状態で0.51と地盤の改良によって「液状化強度」の大きくなったことが判る。そして、未改良砂には繰り返し単純せん断試験、繰り返し振動三軸試験を適用したが、せん断試験、三軸試験とも同様の曲線になっているように、「液状化強度」もほぼ同じ値が得られており、試験値の正しさを示している。
【0043】
図6には、未改良域(a)とケース1(b)の場合の応力−ひずみ曲線を示している。図6(a)から明らかなように、薬液の到達していない未改良域では繰り返し荷重によって、ある回数からせん断抵抗力が激減するためにひずみ振幅が急激に増加する状態を示しており、液状化破壊が発生している。これに対して、改良域では図6(b)のようにひずみは次第に大きくなっているが、急増することがなくせん断抵抗力を維持しており、繰り返し載荷によっても有限のひずみ振幅しか発生していない。
【0044】
以上の各試験によって確認されたように、本発明によって、主材を構成するコロイド溶液に対する粒子濃度を4.5(%)以下、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上及びサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定される注入薬液は、これが土砂に注入されサンドゲル状態に到って改良体を形成した場合に、充分な「液状化強度」を発揮することが明らかである。
【0045】
試験は、原位置での改良体調査でも行ったが、此処での試験は、「液状化強度」の実地試験と同時に、改良効果の確認方法を確立することを目的にしている。又、本発明による地盤改良方法はシリカ粒子濃度を低くしていることから、標準貫入試験を採用せずに、強度特性の変化に敏感に反応すると考えられる試験方法を採用して実施している。
【0046】
図7は、それぞれの試験に用いられる先端コーンを示している。図7(a)は三成分コーン試験のものであり、先端コーンを貫入させることで、貫入抵抗、周辺摩擦力、間隙水圧を連続的に測定できる。図7(b)はダイラトメータ試験の平板状ブレードであり、ぶれ土片側にあるメンブレンの膨張によって地盤を水平方向に載荷している。
【0047】
図7(c)は電気比抵抗試験に用いる先端コーンであり、上端ロッドの部分に電極を取り付けて貫入時に地盤の電気比抵抗を連続的に測定できる。本発明では注入薬液を調合して、薬液注入によって地盤の電気比抵抗を確実に変化させることで、改良効果の確認を簡便に実施できるようにしていることから、電気比抵抗を測定する試験は、地盤改良の施工管理を確実にするための確認試験である。
【0048】
以下に、各試験における計測結果を示すことで、本発明によって設定された注入薬液の注入効果の確認、特に、室内試験によって確認された「液状化強度」の追認と「改良域範囲」について確認の容易性について検討し、三成分コーン試験、ダイラトメータ試験の結果と比較して、電気比抵抗の測定による注入効果の確認が最も効率的で精度が高いことを実証する。
【0049】
図8は、三成分コーン試験の結果であり、「液状化強度」の追認と併せて改良域を特定できる可能性の確認結果を示している。図8(a)は、ケース1について三成分コーン試験を実施した結果を示している。ケース1の場合は、主材のシリカ濃度が2.25%と低いために、貫入抵抗(qa)において深度3mの部分で若干の向上が見られるものの、周面摩擦(fs)、間隙水圧(ud)では、注入前後において差異を確認できる状態にない。これに対して、主材のシリカ濃度が4.5%のケース2については、図8(b)に見られるように、注入後のGL−4.0〜−7.0m間で明らかに貫入抵抗(qa)と周面摩擦(fs)が大きくなっており、間隙水圧(ud)が小さくなっていることで改良域を形成している状態を正確に確認できる。
【0050】
図9は、ダイラトメータ試験の結果であり、図8と同様に「液状化強度」の追認と併せて改良域を特定できる可能性の確認結果を示している。図9(a)は、ケース1についてダイラトメータ試験を実施した結果を示している。この場合も、主材のシリカ濃度が2.25%と低いために、メンブレン膨張時の圧力(p1)、土質パラメータの(ID)及び変形特性を示す(ED)が共に変化を見ることができず、注入前後において差異を確認できる状態にない。一方、ケース2については、図9(b)に示すように、土質パラメータの(ID)による土質の判定結果には改良効果の影響が見られないが、メンブレン膨張時の圧力(p1)、変形特性を示す(ED)が共に薬液の注入後に大きくなっており、地盤強度の増加を推測することができると同時に、改良域の範囲を正確に確認できる。
【0051】
図10乃至16は、ケース1に関して実施した電気比抵抗試験の実施範囲と計測結果であり、水平方向について改良域を特定できる可能性の確認状態を示している。図10は、本試験を実施した調査範囲を示す平面図であり、併せて三成分コーン試験とダイラトメータ試験を実施した位置についても参考的に表示している。試験結果は、図示のように直交する形で、No.1〜No.14の位置で測定した結果を深度方向に記録している。平面内に実線で示した部分は、GL−3.9mまで掘削した後に目視によって推測された改良範囲を表示しており、電気比抵抗によって確認された改良域の範囲と一致していることが確認できる。
【0052】
図11乃至14は、各計測点における深度方向の電気比抵抗値を示す計測結果であり、改良域の確認状態を示している。試験結果について、GL−4m以深に注目すると、薬液を注入する以前は、各計測点が同様に電気比抵抗値が10〜20(Ω・m)の値を示しており、浅いほど大きくなっている。しかし、薬液の注入後は5(Ω・m)まで低下し、深さ方向にほぼ一定の値を示す層が存在することを示している。この層が注入された薬液が浸透している範囲であり、上下の浸透していない層と明確に区別することができる。
【0053】
又、その浸透状態に視点を移してみると、注入位置を中心に浸透した深さ・層厚がほぼ対象に現れており、注入の中心から離れるに従って浸透された層厚が小さくなっていることが判る。さらに、本試験の目標改良半径である1.5mよりも離れると、薬液注入前の地盤における電気比抵抗値を示すようになり、浸透していないことを表示している。
【0054】
図15、16は、本試験を実施した調査範囲を示す断面図であり、図10の平面図に相当させた各計測点の深度方向における電気比抵抗値を示す計測結果であり、深度方向について改良域を特定できる可能性の確認状態を示している。本結果は、電気比抵抗の測定から推測される改良範囲を示しているものであり、図面に表示した破線から明らかなように、両断面とも改良域の範囲は、ストレーナーを中心にして球状浸透した所望の浸透範囲(半径1.5mの球体)とほぼ一致している。
【0055】
従って、本発明による注入薬液を用いた地盤改良は、理想的な注入形態である浸透注入によって、コロイド溶液の濃度が低い場合でも所定の改良体を形成して地盤の改良を達成しているものであり、同時に注入後における電気比抵抗の計測によって、改良域の品質と範囲とを簡潔に特定出来ることが確認されたことになる。
【0056】
図17乃至19は、ケース2に関して実施した電気比抵抗試験の実施範囲と計測結果であり、水平方向と深度方向についてケース1と同様に改良域を特定できる可能性の確認状態を示している。平面内に実線で示した部分は、GL−4.2mまで掘削した後に目視によって推測された改良範囲を表示しており、電気比抵抗によって確認された改良域の範囲と一致していることが確認できる。但し、改良形状は、No.9とNo.18の方向に小さく、No.8の方向に大きくなっているが、小さくなっている方向には、中心部に比べて細粒分の多い砂質土層が確認されており、これによって浸透性の良い地盤の方向に薬液が優先的に浸透したものと推測される。
【0057】
図18、19は、本試験を実施した調査範囲を示す断面図であり、コロイド溶液のシリカ濃度が高い場合についても、各計測点の深度方向における電気比抵抗値を示す計測結果によって、深度方向について改良域を特定できる可能性の確認状態を示している。推測される改良範囲は、両断面とも改良範囲の上端が地下水位GL−3mより低いGL−4m付近になっている。試掘によると、GL−4m付近には厚さ10cm程度の薄層の粘性土が存在していることが判明した。従って、上記平面図に現れた浸透域の差異は、この粘性土によって薬液の浸透が阻まれたものと推測される。実際にもそれ以深については、浸透注入によって地盤の改良が為されており、その浸透範囲は中心から2mに達している。
【0058】
従って、本発明による注入薬液を用いた地盤改良は、コロイド溶液の濃度が高い場合でも理想的な注入形態である浸透注入によって、所定の改良体を形成して地盤の改良を達成しているものであり、同時に注入後における電気比抵抗の計測によって、改良域の品質と範囲とを簡潔に特定出来ることが確認されたことになる。
【0059】
以上のように、室内における繰り返し振動三軸試験と繰り返し単純せん断試験による「液状化強度」の確認と、原位置での改良体調査で行われた三成分コーン試験、ダイラトメータ試験と電気比抵抗試験による「液状化強度」の実地試験及び改良効果を確認する方法の確立によって、本発明による注入薬液を用いた土砂地盤改良工法は、地盤改良域に大量の薬液を低圧、高速で広範囲に注入することを可能にして大口径の改良体の造成を図って所望の液状化強度を発生させ、さらに、注入後の電気比抵抗値を計測することで地盤改良域の液状化強度とその範囲を簡潔に確認できることが明らかになった。
【0060】
これらの結果を踏まえて、本発明による土砂地盤改良工法の施工管理方法は、液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定し、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定し、上記特定関連に基づいて地盤改良範囲における液状化強度を確認している。あるいは、液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定するとともに、薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、該測定値と上記測定値とを比較照合するとともに上記特定関連に基づいて地盤改良範囲における液状化強度を確認している。以下に、本発明による施工管理方法の実施の形態を特定関連図に基づいて説明する。
【0061】
図20は、本発明による注入薬液を用いた試験によって予め作成した「液状化強度比」(a)と「電気比抵抗値」(b)の希釈倍率に対する特定関連図である。ここで用いる希釈倍率は、以下のように定められている。
希釈倍率=[(希釈によって加わる水の重量)+(主材の重量)]/(主材の重量)
本発明による施工管理方法は、図20に示した両特定関連図を用いて次のように実施することで、地盤改良域に所望の改良が確立していることを確認できる。
(1)注入薬液について、「液状化強度比」(a)と「電気比抵抗値」とを予め求めて上記特定関連図(a)(b)を作成する。
(2)注入薬液について、所定の「液状化強度比」を設定して、主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定する。
(3)注入薬液を所定の「希釈倍率」に希釈して地盤改良域に注入する。
(4)地盤改良域の電気比抵抗を計測する。
(5)計測された「電気比抵抗値」を特定関連図(b)に当てはめて、曲線に従って「希釈倍率」を特定し、「希釈倍率」を特定関連図(a)に当てはめて「液状化強度比」を求める。
(6)「液状化強度比」から改良域の「液状化強度」を確認する。
【0062】
以上のように、本発明による施工管理方法は、注入薬液に関する「液状化強度比」と「電気比抵抗値」とを予め求めて、上記特定関連図(a)(b)の作成を済ましておくことで、以降の管理は、注入薬液の主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定する作業と、注入後の電気比抵抗を計測するだけの作業だけで、施工管理を簡潔に実施できる。
【0063】
しかして、上記管理方法では、改良域に所望の「液状化強度」が確立しているか否かを数値的に確認しているが、上述した試験結果でも明らかなように、本発明による注入薬液は、所定の数値設定によって改良域に所期の「液状化強度」を充分に形成できることが実証されている。従って、本発明による土砂地盤改良工法の施工管理方法は、この他に、地盤改良範囲において薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を予め測定しておいて、電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を注入した後に同様の電気比抵抗値を測定して、両方の測定値を比較照合することで、地盤改良効果を確認することも可能である。
【0064】
本施工管理方法は、注入薬液に関する「液状化強度比」と「電気比抵抗値」とを予め求めることなく、施工現場における電気比抵抗値の計測のみで地盤改良効果を確認するもので、以下のように実施する。
(1)薬液注入前に地盤改良範囲における深度方向の電気比抵抗値を予め測定する。
(2)注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入した後に、地盤改良範囲における深度方向の電気比抵抗値を再び測定する。
(3)両測定値を比較照合して差異が存在することを確認する。
【0065】
以上のように、本発明による施工管理方法では、注入薬液にゲル化剤で設定した電気比抵抗値を改良地盤の電気比抵抗値と比較して大きな差異を生じるように調合している特性を活用して、電気比抵抗値の変化を観測するのみで施工管理を簡潔に実施できる。例えば、海水の電気比抵抗値が低く、真水が高いことは一般周知であり、改良対象の地盤に海水が染み込んでいるときには、薬液注入により電気比抵抗値が増加していることで、また真水が染み込んでいるときには、電気比抵抗値が低下していることで、明らかに改良域を特定することができ、容易に施工管理を達成することができる。尚、本発明による施工管理方法では、通常の地盤における電気比抵抗が大凡の数値で確認されている場合には事前の計測も省略して、薬液注入後の電気比抵抗値が予め設定した電気比抵抗値(上記実施の形態では5(Ω・m))になっているか否かを確認するだけでも施工管理を達成できる。
【0066】
以上の説明で明らかなように、本発明による土砂地盤改良工法の施工管理方法は、少なくとも電気比抵抗値を設定した注入薬液を土砂地盤に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、地盤改良域における液状化強度とその範囲を確認しており、注入薬液にサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定する作業と、注入後の電気比抵抗を計測するだけの作業だけで、施工管理を簡潔に実施できるものである。
【0067】
以上、本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明してきたが、本発明による土砂地盤改良工法と注入薬液及びその施工管理方法は、上記実施の形態に何ら限定されるものでなく、主材におけるシリカ粒子、ゲル化剤における酸性塩や中性塩の各種態様、さらには濃度等の配合値や注入薬液へのサンドゲル状態に到るゲル化時間、電気比抵抗の設定値等に関して、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明による注入薬液を特定するために調整したサンドゲル状態に到るゲル化時間とpHの相関図
【図2】本発明による注入薬液を特定するために調整した電気伝導度とpHの相関図
【図3】本発明による注入薬液を特定するために調整した電気伝導度とゲル化剤の中性塩配合の相関図
【図4】液状化強度試験に使用した供試体
【図5】液状化強度試験における載荷回数とせん断応力比の計測値図
【図6】液状化強度試験におけるせん断ひずみとせん断応力の計測値図
【図7】原位置試験に適用した各試験方法の先端コーン図
【図8】低濃度シリカ粒子のケースにおける三成分コーン試験の深度方向計測値図
【図9】低濃度シリカ粒子のケースにおけるダイラトメータ試験の深度方向計測値図
【図10】原位置試験を実施した低濃度シリカ粒子のケースにおける改良範囲の平面図
【図11】低濃度シリカ粒子のケースにおける電気比抵抗試験の深度方向計測値図
【図12】低濃度シリカ粒子のケースにおける電気比抵抗試験の深度方向計測値図
【図13】低濃度シリカ粒子のケースにおける電気比抵抗試験の深度方向計測値図
【図14】低濃度シリカ粒子のケースにおける電気比抵抗試験の深度方向計測値図
【図15】原位置試験を実施した低濃度シリカ粒子のケースにおける改良範囲の断面図
【図16】原位置試験を実施した低濃度シリカ粒子のケースにおける改良範囲の断面図
【図17】原位置試験を実施した標準濃度シリカ粒子のケースにおける改良範囲の平面図
【図18】原位置試験を実施した標準濃度シリカ粒子のケースにおける改良範囲の断面図
【図19】原位置試験を実施した標準濃度シリカ粒子のケースにおける改良範囲の断面図
【図20】地盤改良の施工管理に用いる特定関連図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子のコロイド溶液を主材とし、該主材にゲル化剤を配合した注入薬液を土砂地盤に注入する土砂地盤改良工法であって、主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を土砂地盤中に注入し、土砂地盤を所定の液状化強度の地盤に改良することを特徴とする土砂地盤改良工法。
【請求項2】
注入薬液を改良する土砂地盤の土砂を用いて試験測定し、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を予め確認することを特徴とする請求項1に記載の土砂地盤改良工法。
【請求項3】
注入薬液が、主材を構成するコロイド溶液に対する粒子濃度を4.5(%)以下、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上及びサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の土砂地盤改良工法。
【請求項4】
主材を構成するコロイド溶液のシリカ粒子濃度を4.5(%)以下、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上及びサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下、並びにpH1.5〜2に設定して成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の土砂地盤改良工法に用いる注入薬液。
【請求項5】
主材を構成するコロイド溶液の活性シリカ粒子濃度を4.5(%)以下、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上及びサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定して成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の土砂地盤改良工法に用いる注入薬液。
【請求項6】
平均粒子径3〜6ナノメートルの活性シリカ粒子を0.28〜2.25重量%分散させてコロイド溶液にした主材、0.1〜10.0重量%の中性塩及び0.1〜5重量%の酸性塩を混合して成るゲル化剤から構成することを特徴とする請求項5に記載の注入薬液。
【請求項7】
液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定し、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、上記特定関連に基づいて地盤改良範囲及び液状化強度を確認することを特徴とする土砂地盤改良工法の施工管理方法。
【請求項8】
液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定するとともに、薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、該測定値と上記測定値とを比較照合するとともに上記特定関連に基づいて地盤改良範囲及び液状化強度を確認することを特徴とする土砂地盤改良工法の施工管理方法。
【請求項9】
薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、該測定値と上記測定値とを比較照合することで地盤改良範囲を確認することを特徴とする土砂地盤改良工法の施工管理方法。
【請求項1】
シリカ粒子のコロイド溶液を主材とし、該主材にゲル化剤を配合した注入薬液を土砂地盤に注入する土砂地盤改良工法であって、主材のシリカ粒子濃度、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を土砂地盤中に注入し、土砂地盤を所定の液状化強度の地盤に改良することを特徴とする土砂地盤改良工法。
【請求項2】
注入薬液を改良する土砂地盤の土砂を用いて試験測定し、サンドゲル状態に到るゲル化時間及びサンドゲル状態における電気比抵抗値を予め確認することを特徴とする請求項1に記載の土砂地盤改良工法。
【請求項3】
注入薬液が、主材を構成するコロイド溶液に対する粒子濃度を4.5(%)以下、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上及びサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の土砂地盤改良工法。
【請求項4】
主材を構成するコロイド溶液のシリカ粒子濃度を4.5(%)以下、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上及びサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下、並びにpH1.5〜2に設定して成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の土砂地盤改良工法に用いる注入薬液。
【請求項5】
主材を構成するコロイド溶液の活性シリカ粒子濃度を4.5(%)以下、サンドゲル状態に到るゲル化時間を10(h)以上及びサンドゲルの状態における電気比抵抗値を5(Ω・m)以下に設定して成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の土砂地盤改良工法に用いる注入薬液。
【請求項6】
平均粒子径3〜6ナノメートルの活性シリカ粒子を0.28〜2.25重量%分散させてコロイド溶液にした主材、0.1〜10.0重量%の中性塩及び0.1〜5重量%の酸性塩を混合して成るゲル化剤から構成することを特徴とする請求項5に記載の注入薬液。
【請求項7】
液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定し、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、上記特定関連に基づいて地盤改良範囲及び液状化強度を確認することを特徴とする土砂地盤改良工法の施工管理方法。
【請求項8】
液状化強度と電気比抵抗値との関連を特定するとともに、薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、該測定値と上記測定値とを比較照合するとともに上記特定関連に基づいて地盤改良範囲及び液状化強度を確認することを特徴とする土砂地盤改良工法の施工管理方法。
【請求項9】
薬液注入前に深度方向の電気比抵抗値を地盤改良範囲において予め測定しておいて、少なくとも電気比抵抗値を設定した、pH1.5〜2の注入薬液を地盤改良範囲の土砂中に注入し、しかる後に深度方向の電気比抵抗値を測定して、該測定値と上記測定値とを比較照合することで地盤改良範囲を確認することを特徴とする土砂地盤改良工法の施工管理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−24493(P2009−24493A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247967(P2008−247967)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【分割の表示】特願2000−53277(P2000−53277)の分割
【原出願日】平成12年2月29日(2000.2.29)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【分割の表示】特願2000−53277(P2000−53277)の分割
【原出願日】平成12年2月29日(2000.2.29)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]