説明

圧入接合方法及び圧入接合部品

【課題】金属製要素部品を構成する部材同士の圧入接合に関し、接合が容易にかつ良好な環境で行われるとともに量産性及び信頼性に優れ、かつ強度的にも優れた圧入接合方法及び圧入接合部品を提供する。
【解決手段】圧入部分の断面が同一の内壁面部が形成された孔部3を有する第一の部材2と、孔部3との間に所定の圧入代が設けられる軸状の第二の部材4とを用い、第一の部材2を第一の電極6の表面部に配置する一方、第二の部材4の側面部12を複数の電極片9からなる第二の電極8で機械的に挟持し、第一の部材2の孔部3内に向けて狭持された第二の部材4を所定の圧力で押圧するとともに、これら両部材間に通電して両者の接合部に電気抵抗熱を発生させ、第二の部材4を孔部3に圧入し、第二の部材4の接合面部と孔部の内壁面部との接合部に接合界面を形成させ、かつこの接合を固相状態の接合としたことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製要素部品を構成する部材同士の圧入接合方法及び圧入接合部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等に使用される金属製要素部品を製造する場合、例えば抵抗溶接法として、スポット溶接法、プロジェクション溶接法により部材同士を接合する方法が行われている。またアイジョイントの製造方法に係り、パイプ接続孔に挿入するパイプ部の挿入側元部にビードを形成し、あるいは上記パイプ接続孔の入口側周縁にリップを形成して、アイ部とパイプ部を抵抗溶接する技術も開示されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
上記抵抗溶接法は重ね抵抗溶接法が主力であり、いずれも接合部にナゲットと呼ばれる溶融組織を形成することで接合している。この重ね抵抗溶接では、溶接を強くするためにはナゲットの数を増やす結果、接合母材の熱的劣化や寸法精度への影響が避けられない。また、上記ビード或いはリップの形成には製造工程が複雑化し、また後加工等を行う必要もある。
【0004】
【特許文献1】特開平7−40058号公報
【特許文献2】特開2001−353628公報
【0005】
これに対して、本件出願人は先に圧入接合構造を提案した(特許文献2)。この圧入接合構造は、図13に示すように、治具を用いてプレート90の孔部94に軸体92を圧入接合する。この治具は、電極としてクローム銅製の下型96と、下部に円柱状の穴部97が設けられた上型98とを有し、一方下型96の上部にプレート90を配置し、上型98の穴部97に軸体92の上部を突入保持させて圧入接合を行う。
【0006】
圧入接合に際しては、上記プレート90の孔部94内に軸体92を所定の圧力で押圧するとともに、これら両部材間に上記電極を介して通電し両者の接合部に電気抵抗熱を発生させ、上記軸体92を上記孔部94に圧入し、軸体92の接合面部と孔部94の内壁面部との接合部に接合界面を形成させ、かつこの接合を固相状態の接合とするものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、上記圧入接合では、部材同士の間に通電とともに圧入を行うため相当の電流を必要とし、このため部材と電極との接触部における電気抵抗を低減して効率的に電流を接合部に供給する必要がある。この場合、上記軸体92には電極として上型98が被着された形態であるが、軸体92を上型98の穴部97に着脱自在に配置するためには、軸体92の側面部と上型98の穴部97の内壁面との間は若干の隙間を形成する必要がある。
【0008】
このため、上型98から軸体92への通電は、軸体92の上面部及び側面部の一部で行われることになる。このとき、軸体が太身で外径が大きい場合は、軸体の上面部と上型98との接触面積が広いため通電には都合が良いが、軸体が細身で外径が小さい場合には、軸体と上型98との接触面積が狭くなりまた軸体の支持も安定しない。この接触面積が少ないと、両者の接触部の電気抵抗が大きくなって発熱量も多くなり、加えて軸体自体の電気抵抗の影響も無視できなくなり、接合部への電流の供給が妨げられるという問題がある。
【0009】
また従来、亜鉛メッキ鋼板等におけるプロジェクション溶接においては、適正溶接条件の範囲が狭くこれがナゲット生成に影響を及ぼし、また亜鉛メッキにより電極チップの消耗が激しく電極寿命が低下し、さらには裸材に比べて大電流を必要としスパッターが発生し易いなどの問題があった。このため、特にメッキ加工が施された部材の接合においてはプロジェクション溶接法或いはスポット溶接法では多くの課題があった。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、接合が容易にかつ良好な環境で行われるとともに量産性及び信頼性に優れ、かつ強度的にも優れた圧入接合方法及び圧入接合部品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の技術的課題を解決するため、本発明に係る圧入接合方法は、図1に示すように、圧入部分の断面が同一の内壁面部が形成された孔部3を有する第一の部材2と、上記孔部との間に所定の圧入代が設けられ、軸方向に向かう接合面部が形成される軸状の第二の部材4とを用い、上記第一の部材2を第一の電極6の表面部に配置する一方、上記第二の部材4の側面部を複数の電極片9からなる第二の電極8で機械的に挟持し、上記第一の部材2の孔部3内に向けて上記狭持された第二の部材4を所定の圧力で押圧するとともに、これら両部材間に通電して両者の接合部に電気抵抗熱を発生させ、上記第二の部材を上記孔部に圧入し、上記第二の部材の接合面部と上記孔部の内壁面部との接合部に接合界面を形成させ、かつこの接合を固相状態の接合としたことである。
【0012】
本発明に係る圧入接合方法は、図12に示すように、圧入部分の断面が同一の内壁面部が形成された孔部53を有する筒状の第一の部材52と、上記孔部53との間に所定の圧入代が設けられ、軸方向に向かう接合面部が形成される軸状の第二の部材54とを用い、上記第一の部材52の側面部を複数の電極片59からなる第一の電極58で機械的に挟持する一方、上記第二の部材54の側面部を複数の電極片62,63からなる第二の電極64で機械的に挟持し、上記第一の部材52の孔部53内に向けて上記狭持された第二の部材54を所定の圧力で押圧するとともに、これら両部材間に通電して両者の接合部に電気抵抗熱を発生させ、上記第二の部材を上記孔部に圧入し、上記第二の部材の接合面部と上記孔部の内壁面部との接合部に接合界面を形成させ、かつこの接合を固相状態の接合としたことである。
【0013】
本発明に係る圧入接合方法は、上記第一の電極の表面部に、上記第一の部材の孔部と連通しこの孔部よりも大きな口径の穴部を設けたことである。
【0014】
本発明に係る圧入接合方法は、上記第一の電極の穴部内に上下移動可能な絶縁性の位置決部材84を配置し、この位置決部材に上記第一の部材の孔部を係合させて位置決めすることである。
【0015】
本発明に係る圧入接合方法は、上記第二の電極における電極片の狭持部の形状を、上記第二の部材の側面部の形状と同一に形成し、狭持したときにこの第二の部材の側面部に上記電極片の狭持部の全体又は一部が当接するようにしたことである。
【0016】
本発明に係る圧入接合方法は、上記第二の部材を狭持した状態で上記第二の電極を移動可能に、かつこの第二の部材を所定位置に位置決め保持できるように構成したことである。
【0017】
本発明に係る圧入接合方法は、上記第二の電極の電極片に、上記第二の部材の端面部を軸方向に押圧可能な押圧部46を設けたことである。
【0018】
本発明に係る圧入接合方法は、上記第二の電極の電極片の数を2個又は3個とし、かつ上記第二の部材の軸方向の端面部に上記第二の電極の一部である第三の電極10を設けたことである。
【0019】
本発明に係る圧入接合方法は、図10に示すように、上記第二の電極の電極片の上方に押圧電極部71を設け、この押圧電極部71と上記各電極片との間に所定の間隔を維持しかつ上記電極片に電流を供給するための支持電極部72,73を設け、上記第二の部材4の上部を上記押圧電極部71で押圧可能に保持する一方、上記電極片によりこの第二の部材4の下部近傍を狭持することである。
【0020】
本発明に係る圧入接合方法は、上記押圧電極部と上記第二の部材の上部との間を電気的に遮断したことである。
【0021】
本発明に係る圧入接合方法は、上記第一の部材又は上記第二の部材の表面にメッキが施されていることである。
【0022】
本発明に係る圧入接合方法は、上記メッキとして、溶融亜鉛メッキ、合金化溶融亜鉛メッキ、電気亜鉛メッキ又は合金亜鉛メッキを施したことである。
【0023】
また、本発明に係る圧入接合部品は、上記何れかに記載の圧入接合方法により製造され、上記第一の部材の孔部に上記第二の部材が接合されたものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る圧入接合方法によれば、第一の部材を第一の電極の表面部に配置する一方、第二の部材の側面部を複数の電極片からなる第二の電極で機械的に挟持し、第一の部材の孔部内に向けて狭持された第二の部材を所定の圧力で押圧するとともに、これら両部材間に通電して両者の接合部に電気抵抗熱を発生させ、第二の部材を孔部に圧入して得られる固相状態の接合であるから、通電の際には電極と部材との間の電気抵抗を低減して、良好に第二の電極から第二の部材に電流が供給され、また第二の部材が安定して保持されて精度良く孔部に圧入が行えるとともに、簡単な工程で迅速に接合が行えて量産性、経済性に優れ、また接合界面が清浄化されて接合が良好に行われて強度的にも優れている。加えてこの接合方法は固相状態の接合であるから、スパッターの発生がなく良好な作業環境が得られるとともに、電極及び接合部の熱的劣化がなく電極の耐久性、部材の仕上り精度が良いという効果がある。
【0025】
また、本発明に係る圧入接合方法によれば、第一の電極の表面部に、第一の部材の孔部と連通しこの孔部よりも大きな口径の穴部を設けたから、圧入接合したときに第一の部材の孔部の周辺が圧入方向に変形するための逃げとなり、また第一の部材と第一の電極との接触が不安定になった場合に、この接触部で発生するスパーク、爆飛などを防止するという効果がある。
【0026】
また、本発明に係る圧入接合方法によれば、第一の電極の穴部内に位置決部材を配置し、この位置決部材に第一の部材の孔部を係合させて位置決めすることとしたから、第一の部材の位置決めが正確かつ簡単に行えるという効果がある。
【0027】
また、本発明に係る圧入接合方法によれば、第一の部材の側面部を複数の電極片からなる第一の電極で機械的に挟持する一方、第二の部材の側面部を複数の電極片からなる第二の電極で機械的に挟持し、第一の部材の孔部内に向けて狭持された第二の部材を所定の圧力で押圧するとともに、これら両部材間に通電して両者の接合部に電気抵抗熱を発生させ、第二の部材を孔部に圧入して固相状態の接合であるから、上記と同様の効果が得られるとともに、第一の部材が筒状の場合についても複数の電極片で狭持する構成としたから、上記と同様、量産性、経済性に優れまた簡単な工程で製造が容易に行えかつ強度的にも優れ、仕上り精度が良いという効果がある。
【0028】
本発明に係る圧入接合方法によれば、第二の部材の側面部に電極片の狭持部の全体又は一部が当接するようにしたから、電極と部材の接触部の電気抵抗及び発熱量が低減され、このため通電が良好に行えて高精度の接合が行え、また電極及び部材表面への熱影響もなく電極の耐久性及び部材の品質にも優れるという効果がある。
【0029】
また、本発明に係る圧入接合方法によれば、第二の部材を狭持した状態で、第二の電極を移動可能かつ所定位置に位置決め保持できるように構成したから、電極が多機能に活用できて効率的であり、また圧入位置の精度が高められるという効果がある。
【0030】
また、本発明に係る圧入接合方法によれば、第二の電極の電極片に第二の部材の端面部を軸方向に押圧可能な押圧部を設けたから、第二の部材の側面部に加えて上面部が接触してさらに電気抵抗が低減され、また第二の部材の押圧も行えて部品点数の削減にも寄与するという効果がある。
【0031】
本発明に係る圧入接合方法によれば、第二の電極の電極片の数を2個又は3個とし、かつ第二の部材の端面部に第三の電極を設けたから、実用的かつ接触部の電気抵抗が低減され電気損失が少なくて効率的な接合が行えるという効果がある。
【0032】
また、本発明に係る圧入接合方法によれば、押圧電極部と各電極片との間に支持電極部を設け、第二の部材の上部を押圧電極部で押圧可能に保持する一方、電極片によりこの第二の部材の下部近傍を狭持することとしたから、第二の部材が長尺状であっても安定して支持することができ、かつ良好に圧入接合が行えるという効果がある。
【0033】
また、本発明に係る圧入接合方法によれば、押圧電極部と第二の部材の上部との間を電気的に遮断したから、第二の部材が長尺でステンレス鋼など電気抵抗が高く、或いは細身の形状の場合であっても良好に圧入接合が行えるという効果がある。
【0034】
本発明に係る圧入接合方法によれば、第一の部材又は第二の部材の表面にメッキが施されているものであっても、熱影響が少ないため電極とメッキとの合金化学反応を起こすこともないことから電極の耐久性が高められ、また部材の表面が良好に維持されてメッキに悪影響を及ぼすこともなく良質の接合部品が得られるという効果がある。
【0035】
本発明に係る圧入接合方法によれば、メッキとして、溶融亜鉛メッキ、合金化溶融亜鉛メッキ、電気亜鉛メッキ又は合金亜鉛メッキを施したことから、実用的なメッキ処理部材においても上記メッキを施した場合と同様の効果が得られる。
【0036】
また本発明に係る圧入接合部品によれば、上記何れかに記載の圧入接合方法により製造され、第一の部材の孔部に第二の部材が接合されたものであるから、精度良く孔部に圧入が行えるとともに、簡単な工程で迅速に接合が行えて量産性、経済性に優れ、また接合界面が清浄化されて接合が良好に行われて強度的にも優れ、加えて固相状態での接合としたことから電極への影響もなくまた接合部の熱的劣化がなく仕上り精度が良いという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明に係る圧入接合の実施の形態を図面に基づいて説明する。上記実施の形態に係り、図1及び図2は、圧入接合装置を用いワークとして孔部3が設けられたプレート2と軸体4とを用い、これらを圧入接合する機構を示している。この軸体4としては、棒状(中実)又は筒状(中空)のものがある。なお、以下の各形態に係る説明において、同一の符号を付した構成要素については同一の内容のものであるものとし、繰り返しての説明は省略する。
【0038】
上記圧入接合装置は、上記プレート2と上記軸体4間に通電する電極を有する圧入機構、この軸体を電極によって挟み、所定位置に位置決め移動させる移動機構、及び上記軸体4を押圧可能なプレス機構を有する。なお、このプレス機構は通常の抵抗溶接機に具備されているものである。また上記電極は、上記プレート2を載置可能な肉厚板状の下部電極6、上記軸体4を狭持する2個の電極片9,9に分割された上部電極8、及び軸体4を押圧する押圧電極10からなり、何れも材質はクローム銅製である。この押圧電極10は上部電極8と電気的に導通しており、その一部として機能する。
【0039】
上記上部電極8は移動機構に装備されており、軸体4は上部電極8に狭持された状態でこの移動機構により所定の位置に搬送して位置決めされ保持固定される。また、軸体4の圧入の際には、移動機構の上下移動機能により上部電極8は降下可能である。上記プレス機構は押圧電極10を押圧し、軸体4を加圧力とともに降下させる。
【0040】
上記プレート2は所定の厚さを有し、このプレート2に設けられた孔部3は断面の直径が一定の円形であり、プレート2の板面から垂直方向にこの孔部3の内壁面部が形成されている。上記軸体4は円柱状であり、円筒状の側面部12、平坦な上面部14及び下面部13を有している。上記軸体4の接合面部5の外径(直径)は、プレート2の孔部3の直径より僅かに大きく、圧入代はこれらの差となる。この圧入代により、軸体4の接合面部5の外周部位が、プレート2の孔部3の内壁面部と接して擦られて接合界面を形成し、全周に及ぶ圧入接合が行われる。
【0041】
また、上記下部電極6には、プレート2を載置支持する平坦な表面部7が形成されており、この表面部7の中央部付近には円柱状の穴部15が設けられている。上記プレート2は、その孔部3を上記穴部15の上部に中心を略一致させて配置する。この穴部15の穴の大きさ(直径)は、軸体4よりも少し大きく形成する。この穴部15は、軸体をプレート2に圧入接合したときに、プレート2の孔部3の周辺が圧入方向に変形するのでこの逃げを形成するためであり、またこの圧入接合で、軸体4が孔部3を通過して突き抜けた場合には、軸体4が下部電極6と直接接触して爆飛などを起こして不都合をきたすことがあるのでこれを防止するためである。
【0042】
上記穴部15は、プレート2に加わる荷重の加減で、プレート2と下部電極6との接触が不安定になった場合に、この接触部で発生するスパーク、爆飛などを防止する。特に、上記孔部3の下部周辺ではスパーク等が発生し易いためこれを防止する。通常上記プレート2は下部電極6とは必ずしも理想的な形で密着しない場合があり、このとき上記穴部15があると上記逃げの効果も相まって、この穴部15の周辺とプレート2とが比較的良好に密着して電流の流れが良くなり、このためスパーク等が低減され併せて下部電極6の消耗も少なくなり良好である。さらに、この穴部15は下記位置決部材84を配置することで、プレート2の位置決めにも利用可能である。以下の実施の形態に係る各下部電極6の穴部15についても、全て同様の効果が得られる。
【0043】
上記上部電極8は移動機構により保持され、この移動機構は上記軸体4の側面部12を2個の電極片9,9により所定の押圧力とともに機械的に狭持し、かつ狭持した状態で軸体4を水平垂直移動可能に構成されている。電極片の押圧力は、エアーシリンダ機構、バネ機構などにより得る。これら電極片9,9は、所定の肉厚の板片であり、軸体4を狭持する部位には軸体4の側面部12の断面形状(片半部分)と同一形状の狭持部16が形成されている。ここでは図2に示すように、軸体4の断面形状が円形であり、電極片9,9の各狭持部16の形状は、軸体4と同様な半径の半円状である。
【0044】
このように、電極片9,9で軸体4を狭持することで、接合部と電極との距離を小さくすることができ軸体自体の電気抵抗の影響を軽減できる。さらに各電極片9,9の狭持部16の形状を軸体4の側面部12(片半部分)の形状と同一にすることで、軸体4を狭持したときに狭持部16の全体を軸体4の側面部に当接させることができ、これにより両者の接触面積が広く確保できて電気抵抗の低減が図れる。また、所定の押圧力を伴って電極片9,9で軸体4を狭持することから、両者が密着して接触抵抗が低減でき両者間の通電が良好に行える。
【0045】
この接触部分の電気抵抗を少なくすることで、通電時にこの部位の発熱が少なくなり、材料及び電極の熱による変質(合金化反応)、劣化等の悪影響が防止される。上記上部電極8の移動機構は、軸体4を挟み込んでプレート2の接合予定の孔部3の位置に移動させ位置決めする機能、この孔部3の上部の位置に設定・保持する機能、及び軸体4を狭持した状態で通電する機能とを有する。このように、電極で軸体を保持した状態で通電することで、軸体が正確にかつ安定してプレートの孔部に圧入できる。
【0046】
上部電極8は、軸体4の搬送を行わせるために可動の電極片9,9により構成されるが、軸体4の位置決め精度を確保するため、この上部電極により軸体4を狭持してプレート2の孔部3の上部位置に移動した後に、この位置に位置決め固定できる方式とする。他に、電極片9,9の一方を固定位置に配置し、他方を押圧可能として軸体4を狭持させることで位置決め精度を確保することもできる。
【0047】
通電は、下部電極6と上部電極8との間に行う。このとき、上記押圧電極10を上部電極8の一部として用いるので、軸体4と上部電極8との間の電気抵抗が低減され良好な電流の供給が行える。軸体4は、電極と比べて電気抵抗の大きな鋼材などからなるため、3つの電極6,8,10を用いて軸体4自体の電気抵抗の影響を少なくし、電気抵抗による発熱をプレート2と軸体4との接合部11の狭い範囲に集中させることで電気損失を低減する。また、上記上部電極8の電極片9,9は、圧入の妨げとならないよう、上記押圧電極10の下降に伴って滑らかに下方移動できるようにする。
【0048】
電極片9,9の狭持部16の形状は、軸体4などの接合物の断面の片半部分の形状と同じか、少し大きい(半径大)形状とする。例えば、接合物の断面形状が円形の場合には、電極片の狭持部の形状は、同一半径の半円形状或いはこの一部の円弧形状とし、両者の密着性を高めて接触抵抗を低減する。このため、例えば図3(a)に示すように、軸体4の断面形状が円形の場合には、電極片9の狭持部の形状は、同一半径の円弧形状(又は半円形状)とする。
【0049】
また、電極片が2個の電極の場合には、各部材の製造誤差等により、図3(c)に示すように、電極片の両端のみが軸体に当たって両者の接触が不十分な形態が想定できる。このため、上述したように電極片の狭持部の形状を軸体の側面部の外形形状と同じか、あるいは電極片の狭持部の断面半径を少し大きく形成(図3(b))するようにしても良い。また、図3(d)に示すように、電極の中間部にスリットを設けることで、狭持力によりこのスリットを広げて電極片の狭持部を開き、これにより狭持部を軸体に密着させることができる。
【0050】
一方、電極の材質はクロム銅で軟質であり、例えば軸体が鋼材からなる場合には、電極片の形状を軸体に馴染ませることも可能である。また、電極と軸体との接触面積は、圧入接合される接合部11の面積と同等か若しくはより大きく設定して電気抵抗を低くし、電気抵抗による発熱を接合部に集中させるようにする。同時に、各電極片と軸体との接触位置(通電位置)は、軸体とプレートとの接合部11に近い位置(但し圧入される高さ範囲は確保)とし、かつ等距離にあることが望ましく、また隣り合う電極片同士の間隔はできるだけ小さくし、これにより軸体自体の電気抵抗の影響を少なくし、また電極との接触面積を大きくして電気抵抗を低減する。
【0051】
上記実施の形態において、上部電極8で軸体4を狭持する構成としたことで、両者の接触面積を広く確保することができ、また接合部11の近傍に電極を設けることができて軸体4自体の電気抵抗の影響が少なくなり、通電が良好行える。また軸体4を挟んで支持することで、軸体4の保持、搬送、着脱等が効率的に行えて作業効率がアップし、作業性が大幅に改善される。
【0052】
図4は、3個の電極片20を用いて軸体4を狭持する形態を示したものである。この形態では、電極片20の狭持部21の形状が接合物である軸体4の側面部12の形状と同じであるが、各電極片20の狭持部21の窪みの程度が浅いため、電極片20は軸体4から容易に外れる。このように電極片が3個以上の場合には、上記電極片が2個の場合のように、電極片の狭持部に軸体が挟まって取り外しにくいという問題は生じない。
【0053】
上記上部電極8は、2片からなる電極片を用いて軸体の両側から挟持するものであるが、これは上述したように3個の電極片、さらには4個或いはこれ以上の電極片を持つ形態とすることができる。このうち、電極片が2個からなる電極は、電極片を狭持する機構の構成が比較的簡易であり装置の簡素化が期待できる一方、3個或いは4個の電極片を用いた電極は軸体4の支持が中心部に集中して安定し、また軸体の着脱が容易に行えるという利点がある。
【0054】
図5は、電極片22を用いて種々の軸体24(中実、中空)を狭持する場合の両者の形態(断面)を示したものである。なお、この形態は両者の狭持部位についての形態を示したものであり、軸体或いは筒体の接合部位の形状とは必ずしも一致するものではない。軸体等について、狭持部位が断面円形であって接合部位の断面が小判状の場合、或いはその逆の場合等が有り得る。
【0055】
図5(a)は軸体24の側面部が断面楕円形の形態を、図5(b)は断面が中空の楕円形の形態を示す。図5(c)は、軸体24の側面部が断面四角形状の形態を、図5(d)は、軸体の側面部が断面小判状をそれぞれ示す。この場合、(a)(b)は、各電極片の狭持部の形状を、軸体の側面部(片半部分)の形状と同一に形成し、狭持したときにこの軸体の側面部(片半部分)の全体に各電極片の狭持部が当接する形態である。また、(c)(d)は、電極片の狭持部の形状を、軸体の側面部(片半部分)の一部又は全体の形状と同一に形成し、狭持したときにこの軸体の側面部(片半部分)の約半分或いは半分以上が各電極片の狭持部に当接する形態である。
【0056】
上記図5(c)の四角形状の軸体24は、各角部の断面形状は軸体の芯を中心とする円の一部形状(円弧)である。この軸体24は、その接合部の外径(直径)がプレート2の孔部3の直径より僅かに大きく、この圧入代により、軸体24の接合部の外周部位が、プレート2の孔部3の内壁面部と接し、プレート2の孔部3に圧入した場合、軸体の角部が孔部3に接して圧入されるため一部が圧入接合される部分接合が行われる。図5(d)の小判状の軸体24についても同様に、部分接合が行われる。
【0057】
図6は、軸体と電極片との当接箇所が比較的ラフな形態のものである。図6(a)は、電極片22の狭持部の形状がV字状のものであり、この形態の電極片は種々の形状の軸体24に対応可能であり汎用性がある。図6(b)は、電極片22の狭持部に複数の突起が形成されたものであり、軸体24の側面部の形状が一定しない場合、或いは凸凹がある場合等に適用される。これは、要素部品によっては形状が複雑なものがあり、そのようなものを軸体として扱う場合に用いられる。
【0058】
図7(a)は、他の形態の上部電極30を用いた圧入接合の機構を示したものである。この上部電極30は、一対形状の電極片32,33を有しこれらの電極片で軸体4を狭持する。各電極片32,33にはそれぞれ、L字状に屈曲した押圧部34が形成されている。このため、電極片32,33は、軸体4を狭持する機能に加えて、軸体4を軸方向に押圧する機能を有する。
【0059】
この上部電極30として、例えば、図7(b)に示すコレットチャック35の形態及び締め付け具としての機能を適用することができる。これは上部電極として、クローム銅製の電極片36を3個有し、これら電極片36によりチャックの機能を用いて軸体4を狭持する。このコレットチャックの電極によれば、軸体の狭持及び移動が容易に行え位置決め精度も高められる。また上部電極として、軸体の側面部に加えて上面部が接触してさらに電気抵抗が低減され、また軸体の押圧も行えて部品点数が削減される。
【0060】
図8は、上記コレットチャック35等の締め付け具を用いて位置決めなどを行う圧入接合の機構を示したものである。これは、上部電極として電極片38,39を有しこれらの電極片で軸体4を狭持する一方、軸体4の上部をコレットチャック35で狭持保持する。そして、このコレットチャック35によって軸体4の移動及び位置決めを行ない、プレス機構によりコレットチャック35を押圧する。
【0061】
このコレットチャック35によれば、軸体4の狭持及び移動が容易に行え位置決め精度も高められる。このとき、コレットチャック35を上部電極の一部として機能させることができ、これにより電極が軸体の側面部に加えて上部及び上面部が接触してさらに電気抵抗が低減される。この圧入接合機構は、特に軸体4が比較的長尺の場合には、軸体の支持が安定して有効である。
【0062】
図9(a)は、さらに他の形態の上部電極40を用いた圧入接合の機構を示したものである。この上部電極40は、電極を電極片42,43に2分割し、この分割した電極片42,43で軸体4を狭持する。
【0063】
図9(b)に示すように、上記電極片42は、直方体状で、軸体を狭持する側には狭持部44が形成されている。上記電極片43には一定の幅で切れ込んだ溝部45が形成され、また電極片43の下部側には軸体4を狭持する狭持部44が設けられ、上部側には軸体4の上部を被う押圧部46が設けられている。このため、電極片43は、軸体4を狭持し、軸体4を軸方向に押圧する機能を有する。上記電極片42は、電極片43の溝部45に嵌め込みが可能であり、また各電極片42,43の狭持部44の形状は、軸体の側面部(片半部分)の形状と同一に形成されている。この上部電極においても、軸体の側面部に加えて上面部が接触してさらに電気抵抗が低減され、また軸体の押圧も行えて部品点数が削減される。
【0064】
図10は、特に軸体4が長尺の場合にこれを支持する上部電極70を備えた圧入接合の機構を示したものである。この上部電極70は、全体がクロム銅で形成された略枠状の形態であり、上部の押圧電極部71、左右の支持電極部72,73、及びこれら支持電極部72,73の下部からそれぞれ向かい合わせに形成された左右の電極片74,75を有する。これら電極片74,75の狭持部76の形状についても、上記電極片9,22と同様に軸体4の側面部(片半部分)の形状と一部又は全体が同一に形成されている。上記支持電極部72,73は、上記押圧電極部と各電極片との間隔を確保するため、軸体4の長さに応じた寸法の長さに形成される。このように支持電極部72,73を両側に設けることにより、電流の供給がバランス良く行えまた軸体の支持も安定し良好である。
【0065】
この上部電極70は中央部に軸体4を支持する形態であり、この軸体4の下部近傍は上記電極片74,75で狭持される一方、この軸体4の上部は、押圧電極部71との間に絶縁体77を介在させて保持されている。上記電極片74,75は、例えばエアーシリンダの圧力或いはバネ圧を利用して軸体4を狭持する。また、上記押圧電極部71の上部には板状の押圧電極78が配置され、この押圧電極78はプレス機構により押圧される。
【0066】
上記絶縁体77は、軸体4の上部を絶縁して軸体4自体に電流を流さないようにしている。社内試験においても、絶縁体77を設けないで軸体4に上部から電流を流すと、軸体4とプレート2との接合部の発熱量が低減し、接合が十分に行えないことが確認されている。特に、軸体4が長尺であり、軸体4の材料が電気抵抗の高いステンレス鋼等の場合には、この軸体4に電流を流すと軸体4自体が発熱し又接合部の発熱量が低減して好ましくない。これは、最短経路を流れるという電流の性質及び軸体4と電極との電気抵抗の差などが影響し、全体的に電流の流れが規制され接合部への供給に不都合をきたすものと推測される。社内実施によれば、軸体4が鋼製でその直径が10mm、全長が略40mm〜130mmのもの、及び軸体4がステンレス鋼製でその直径が略10mm、全長が略30mm以上のものについては、上記絶縁体77の効果が見られ、この絶縁体の介在により圧入接合が良好に行われている。
【0067】
この上部電極70では、押圧電極部71の上部の押圧電極78がプレス機構により押圧される一方、電源から押圧電極78に引加された電流が押圧電極部71を介して支持電極部72,73に供給され、この電流は支持電極部72,73を通過して電極片74,75に至り、軸体4に供給される。この上部電極によれば、長尺の軸体であってもこれを正確かつ安定して支持することができて実用的であり、また軸体における接合部の近傍から電流が供給できて軸体自体の電気抵抗の影響を受けることがなく、加えて電極と軸体との接触抵抗も低減され、また軸体の押圧も効率的に行える。
【0068】
図11は、下部電極6に配置されるプレート2の位置決めについて好適な圧入接合の機構を示したものである。これは、下部電極6に設けた穴部80内にスプリング82を配置し、このスプリング82の上部に位置決部材84を配置したものである。この位置決部材84は合成樹脂或いはセラミックス等の絶縁材料からなり、基部部86から円柱状に突起した係合部87が形成されこれらの間に段差部88が設けられている。また、上記穴部80の上部は内径が縮径した係止孔部81が形成されている。上記係合部87の外径は、上記プレート2の孔部3よりも若干小さく形成され、またこの係止孔部81の内径は上記軸体4の径よりも少し大きく形成されている。
【0069】
ここで、上記位置決部材84は、下部電極6の穴部80の係止穴部81に段差部88が係止した状態で、係合部87が下部電極6の表面部7から突出している。この状態で、上記プレート2の孔部3を、上記係合部87に嵌入して配置することで、プレート2の位置決めが正確に行える。軸体4の圧入の際には、軸体4の降下に伴って位置決部材84はスプリング82に抗して下方に移動し、接合品を除去すれば復帰する。この穴部80に設けた位置決部材により、プレート2の位置決めが簡単かつ正確に行え、加えて係止穴部81は、上記穴部15と同様にプレートの逃がし及びスパーク防止などの効果が得られる。
【0070】
上記プレート、軸体等のワークの材料としては、一般加工用鋼材、自動車用高張力鋼材、その他の金属材料、SUS(ステンレス鋼)、SUSと炭素鋼とを組み合わせたもの、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼、耐熱鋼、工具鋼、バネ鋼、鋳鉄、快削鋼、軸受鋼、一般加工用鋼材、圧力容器用鋼材、チタン、アルミニウム、マグネシウムなどの軽金属、軽金属合金等が適用可能である。
【0071】
上記圧入接合装置には図示しないプレス機構が装備され、このプレス機構は、軸体4の上部に配置される押圧電極10を押圧可能に構成され、軸体4を加圧降下する。一方、上記プレス機構とともに搬送装置としてのロボットが配置され、このロボットは腕部(マニュピレータ等)でプレート2及び軸体4を掴むことができ、これらプレート2及び軸体4を所定位置まで搬送することができる。
【0072】
ここで、上記圧入接合装置を用い、上記図1に示すように、ワークとして上記プレート2に上記軸体4を圧入接合するときの工程について説明する。
(1)ロボットを用いて、上記下部電極6の表面部7まで上記プレート2を搬送し所定位置に載置する。このプレート2は、例えば両側から狭持部材を押し当てて上記所定位置に保持固定するようにしてもよい。
(2)ロボットを用いて、上記軸体4をプレート2の孔部3の上部まで搬送し、この位置に仮置きする。
(3)上記軸体4を上部電極8の電極片9,9により所定の押圧力で狭持し、併せて軸体の位置を調整してプレート2の孔部3の中心同一上に位置決めし十分な位置精度を確保する。
(4)上記プレス機構により、軸体4の上部を押圧電極10を介して押圧し、軸体4に一定の加圧力を付勢する。
(5)上部電極8(および押圧電極10)と、下部電極6との間に通電する。すると、軸体4とプレート2の孔部3との接合部に電流が流れ、接触抵抗による電気抵抗熱により発熱しこの接合部が軟化する。
(6)この接合部の軟化により、加圧付勢された軸体4がプレート2の孔部3内に圧入される。このとき、圧入代により両部材の接合部にしごきの作用が生じて清浄な接合界面が形成され圧入接合が行われる。ここでの圧入接合は、圧入による塑性変形(熱塑性)を伴った固相接合である。そして、軸体4はプレート2の孔部3内に必要な深さまで圧入される。
【0073】
上記圧入方法では、ワークをロボットで搬送し、その後別途に上部電極で軸体を狭持してプレートに圧入接合する。この方法では、上部電極の構造のシンプル化が図れ、また上部電極を接合装置本体としての下部電極等に直接取り付けて正確かつ強固に装備できるので、位置決め精度或いは繰り返し精度が良好である。また同方法では、圧入接合中にロボットが次のワークを取得し所定位置まで搬送する作業、及び接合した後のワークを次の工程に移動する作業が、接合作業と同時に進められ大量生産が行える。
【0074】
他の圧入方法として、ロボットに電極を装備させ、このロボットが軸体を狭持した状態で接合位置まで搬送し、かつこの位置で軸体を位置決めし保持しそのままプレートに圧入接合することもできる。この方法では、例えば同一のプレートに複数の軸体を接合するような形態では、フレキシブルな対応が可能となる。また、接合装置自体の構造が簡略化でき、ワークの種類が多い場合等には好適である。
【0075】
上記圧入の工程において、接合界面には滑り方向の動きが生まれ、これにより表面の不純物質層、酸化被膜等が削り取られかつ除去され、この作用により固相接合に必須の清浄な接合表面が形成されて、両者の接合が強固に行われる。そして、通電が終了した後、プレス機構の加圧力を除荷して押圧電極10を引き上げる。併せて、上部電極8に狭持される軸体4から各電極片9,9を引き離し、軸体4を開放脱着し、圧入工程を終える。
【0076】
図12は、他の実施の形態として、軸体と筒体との圧入接合の機構を示したものである。これは、圧入接合装置を用いワークとして筒体52と軸体54とを用い、この筒体52の孔部53内に軸体54を圧入接合する形態を示している。この軸体54は、棒状(中実)又は筒状(中空)のものがある。
【0077】
この圧入接合装置についても、通電のための電極を有する圧入機構、位置決め移動のための移動機構、及びプレス機構を有する。この圧入機構は、上記筒体52を支持する支持盤56、筒体52を狭持する2個の電極片59,59に分割された下部電極58、及び上記軸体54を狭持する2個の電極片62,63に分割された上部電極64を有し、各電極は何れも材質はクローム銅製である。上記支持盤56は、クローム銅製からなり下部電極58の一部の電極としても機能する。
【0078】
上記上部電極64の電極片62には、軸体54を狭持する狭持部66が形成され、また電極片63には、下部側に電極片62と同様に軸体54を狭持する狭持部66が形成され、上部側にこの狭持部66からL形に屈曲形成され軸体54の上部を被う押圧部67が設けられている。このため、電極片63は、軸体54を狭持する機能に加えて、軸体54を押圧する機能を有する。
【0079】
上記下部電極58は、筒体52を狭持する電極として、上記上部電極64と同様に2つの電極片59,59を有している。これらの電極片59,59は、所定の肉厚の板片であり、筒体52を狭持する部位には筒体52の側面部の断面形状と同一形状の狭持部が形成されている。また、上記上部電極64は移動機構により保持され、この移動機構は、上記軸体54の側面部を2個の電極片62,63により所定の押圧力とともに機械的に狭持する。軸体54は、上部電極64に狭持された状態で、移動機構により筒体52の孔部53の上部に搬送して位置決めされ保持固定される。
【0080】
軸体54の圧入接合の際には、上記プレス機構は電極片63を介して軸体54を押圧し、移動機構の上下移動機能により上部電極64は降下可能である。圧入接合の工程は上記工程と同様であり、上部電極と下部電極との間に通電すると、電気抵抗熱により接合部が発熱し、加圧付勢された軸体が筒体内に圧入される。
【0081】
このように、2個の電極片(3個以上も可能)でワークとしての軸体及び筒体を狭持することで、両者の接触部及びワーク自体の電気抵抗の影響を低減でき、さらに電極片の狭持部の形状をワークの側面部の形状と同一にすることで、両者の接触面積が広く確保できて電気抵抗の低減が図れる。
【0082】
次に、実施の形態として、ワークとしての上記軸体、プレート、筒体及び軸体に表面処理としてメッキが施されている場合について説明する。一般に、部材を組み立て加工する場合、先ず各パーツ毎にメッキを施し、これらパーツを用いて組立て及び接合等の工程を行うのが作業の省力化が図れ好適である。このため、表面にメッキが施されたワークを用いた場合の、上記圧入接合について説明する。
【0083】
上記メッキの種類及びメッキが施された材料としては、溶融亜鉛メッキ鋼板、合金化溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、合金亜鉛メッキ鋼板、その他のメッキ鋼板等があり、このうち合金亜鉛メッキは、過熱しても錆び難く、また塗料が良く馴染むことから特に自動車部品には多く採用されている。他に、上記メッキ等の表面処理として、ニッケルメッキ、ニッケル複合メッキ、銅メッキ、錫メッキ、クロメート処理、及びリン酸処理などがある。
【0084】
ここで、上記実施の形態に係る圧入接合では、形態的に発熱箇所である接合部と電極の取付け箇所とが異なっているため、また電極と軸体、プレート等のワークとの接触部分の面積を大きく設定できることから、電極とワークとの接触部分の発熱が少なくまた固相接合から接合部の温度も一般のプロジェクション溶接に比べて低い。このため、電極と当接するメッキ材とが高熱によって合金化学反応を起こすことがなく、電極の劣化、圧潰等が防止され電極の耐久性に優れ、またワークの表面のメッキ処理の損傷、破損も殆どない。これに対して、一般のプロジェクション溶接では、重ね合わせた板材同士の接合部の両表面部に電極が配置され、かつこの電極の近くの上記接合部が抵抗発熱により溶融するため、この高熱の影響で板材の表面部が高温にさらされて電極とメッキ材が合金化学反応を起こし、電極の耐久性が低下する。
【0085】
また上記圧入接合においては、プレート及び軸体等の鋼材にメッキを施してない裸材を用いた場合と、合金化溶融亜鉛メッキ等のメッキを施した表面加工材を用いた場合とを比べると、電流量、或いは接合強度等について両者に差が生じない。これは、接合する部材の各面部同士を接合する一般のプロジェクション溶接に対して、上記圧入接合では、孔の部分に部材を圧入接合する構造上、メッキ処理による電気抵抗の影響を受ける要素がないためである。
【0086】
このように、一般のプロジェクション溶接(スポット溶接)は部材の表面部同士を接触させ、この部位を発熱溶融させて溶接することからメッキの影響を受け易い一方、上記圧入接合構造は、圧入により接合部の表面はしごかれて表面の不純物質層が削り取られた状態で接合されるため、例え軸体及びプレートの孔の内部にメッキが施されていても、圧入のしごきの際にメッキが削り取られ、メッキによる圧入接合への影響が無視できる。
【0087】
また、プロジェクション溶接においては、ナゲット等の溶融金属或いはメッキが要因となってスパッターが発生し易いが、上記圧入接合は固相接合の為部材の溶融がなく、このためスパッターが非常に発生し易いメッキが施されている場合であってもスパッターは発生しない。さらに、亜鉛メッキ鋼板に対するスポット溶接においては、裸材に比べて大電流を必要とするが、上記固相接合は裸材、メッキ材に係わらず接合時の電流は大差なく、工程管理も容易である。
【0088】
上記圧入接合方法は、自動車の要素部品等の製造に用いることができ、例えばトランスミッションのコントロールレバーコンポーネント、シフトレバーコンポーネント等、プレート部に筒体を接合した形態の部品、或いはエンジン部品等の製造に好適である。
【0089】
従って上記実施の形態に係る圧入接合によれば、2個又は複数の電極片により所定の押圧力で軸体を狭持し通電することから、電極と軸体との接触部の電気抵抗が低減されるとともに、電極を軸体の側面部に設けたから軸体自体の抵抗の影響が低減されて通電が良好に行えて接合部に好適な電気抵抗熱が確保される。またこの圧入接合では、圧入時には軸体の位置決めが正確に行えかつ安定して保持されるため、接合精度にも優れ、また固相接合により接合部の熱的劣化がなく仕上り精度が良く、加えてスパッターの発生がなく良好な作業環境が得られるという効果がある。
【0090】
さらに、接合界面が清浄化されて接合が良好に行われて強度的にも優れ、加えて固相接合としたことから、部材(母材)に与える熱影響範囲が少ないことから、高精度な接合が確保され仕上り精度が良く、後加工が殆ど不要なものとなる等の効果がある。圧入と通電のみの簡単な工程で、しかも迅速に接合が行えて製造が容易に行えて製造コストが安価で経済性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施の形態に係る圧入接合を示す図である。
【図2】実施の形態に係る軸体と電極片の狭持部との関係を示す図である。
【図3】電極片の種々の狭持部の形状(a)(b)(c)(d)を示す図である。
【図4】電極として3個の電極片を有する形態を示す図である。
【図5】軸体と電極片の形態に係り、(a)は軸体の側面部が断面楕円形の形態を、(b)は断面が筒状の楕円形の形態を、(c)は軸体の側面部が略四角形の形態を、(d)は軸体の側面部が断面小判状の形態を示す図である。
【図6】軸体と電極片の形態に係り、(a)は電極片の狭持部の形状がV字状の形態を、(b)は電極片の狭持部に複数の突起が設けられた形態を示す図である。
【図7】実施の形態に係り、(a)は他の形態の電極を有する圧入接合を示す図、(b)は3個の電極片を有する電極を示す図である。
【図8】実施の形態に係り、締め付け具を用いて位置決めする圧入接合の機構を示す図である。
【図9】実施の形態に係り、更に他の形態の電極を有する圧入接合の機構を示す図である。
【図10】実施の形態に係り、長尺の軸体の圧入に好適な電極を有する圧入接合の形態を示す図である。
【図11】実施の形態に係り、プレートの位置決めに好適な電極を有する圧入接合の形態を示す図である。
【図12】本発明の他の実施の形態に係る圧入接合を示す図である。
【図13】従来例に係る圧入接合を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
2,52 第一の部材(プレート、筒体)
3,53 孔部
4,54 第二の部材(軸体)
6,58 第一の電極(下部電極)
8,64 第二の電極(上部電極)
9,59,62,63 電極片
10 第三の電極(押圧電極)
15 穴部
46 押圧部
71 押圧電極部
72,73 支持電極部
84 位置決部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧入部分の断面が同一の内壁面部が形成された孔部を有する第一の部材と、
上記孔部との間に所定の圧入代が設けられ、軸方向に向かう接合面部が形成される軸状の第二の部材とを用い、
上記第一の部材を第一の電極の表面部に配置する一方、上記第二の部材の側面部を複数の電極片からなる第二の電極で機械的に挟持し、
上記第一の部材の孔部内に向けて上記狭持された第二の部材を所定の圧力で押圧するとともに、これら両部材間に通電して両者の接合部に電気抵抗熱を発生させ、上記第二の部材を上記孔部に圧入し、上記第二の部材の接合面部と上記孔部の内壁面部との接合部に接合界面を形成させ、かつこの接合を固相状態の接合としたことを特徴とする圧入接合方法。
【請求項2】
上記第一の電極の表面部に、上記第一の部材の孔部と連通しこの孔部よりも大きな口径の穴部を設けたことを特徴とする請求項1記載の圧入接合方法。
【請求項3】
上記第一の電極の穴部内に上下移動可能な絶縁性の位置決部材を配置し、この位置決部材に上記第一の部材の孔部を係合させて位置決めすることを特徴とする請求項2記載の圧入接合方法。
【請求項4】
圧入部分の断面が同一の内壁面部が形成された孔部を有する筒状の第一の部材と、
上記孔部との間に所定の圧入代が設けられ、軸方向に向かう接合面部が形成される軸状の第二の部材とを用い、
上記第一の部材の側面部を複数の電極片からなる第一の電極で機械的に挟持する一方、上記第二の部材の側面部を複数の電極片からなる第二の電極で機械的に挟持し、
上記第一の部材の孔部内に向けて上記狭持された第二の部材を所定の圧力で押圧するとともに、これら両部材間に通電して両者の接合部に電気抵抗熱を発生させ、上記第二の部材を上記孔部に圧入し、上記第二の部材の接合面部と上記孔部の内壁面部との接合部に接合界面を形成させ、かつこの接合を固相状態の接合としたことを特徴とする圧入接合方法。
【請求項5】
上記第二の電極における電極片の狭持部の形状を、上記第二の部材の側面部の形状と同一に形成し、狭持したときにこの第二の部材の側面部に上記電極片の狭持部の全体又は一部が当接するようにしたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の圧入接合方法。
【請求項6】
上記第二の部材を狭持した状態で上記第二の電極を移動可能に、かつこの第二の部材を所定位置に位置決め保持できるように構成したことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の圧入接合方法。
【請求項7】
上記第二の電極の電極片に、上記第二の部材の端面部を軸方向に押圧可能な押圧部を設けたことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の圧入接合方法。
【請求項8】
上記第二の電極の電極片の数を2個又は3個とし、かつ上記第二の部材の軸方向の端面部に上記第二の電極の一部である第三の電極を設けたことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の圧入接合方法。
【請求項9】
上記第二の電極の電極片の上方に押圧電極部を設け、この押圧電極部と上記各電極片との間に所定の間隔を維持しかつ上記電極片に電流を供給するための支持電極部を設け、上記第二の部材の上部を上記押圧電極部で押圧可能に保持する一方、上記電極片によりこの第二の部材の下部近傍を狭持することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の圧入接合方法。
【請求項10】
上記押圧電極部と上記第二の部材の上部との間を電気的に遮断したことを特徴とする請求項9記載の圧入接合方法。
【請求項11】
上記第一の部材又は上記第二の部材の表面にメッキが施されていることを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の圧入接合方法。
【請求項12】
上記メッキとして、溶融亜鉛メッキ、合金化溶融亜鉛メッキ、電気亜鉛メッキ又は合金亜鉛メッキを施したことを特徴とする請求項11記載の圧入接合方法。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12の何れかに記載の圧入接合方法により製造され、上記第一の部材の孔部に上記第二の部材が接合されたことを特徴とする圧入接合部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2006−289527(P2006−289527A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110290(P2005−110290)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(592044732)株式会社オーハシテクニカ (32)
【Fターム(参考)】