説明

圧力リング

【課題】 合口部の面圧上昇を抑制し、より高性能・高負荷のエンジンに対応した圧力リングの提供。
【解決手段】 略円形状の圧力リング1で、外周面3と内周面4と略円形状を半径方向に分断する一つの合口部2とを備え、内周面3側で合口部2端面を始端とする所定周長部分に亘り切欠部4aが形成され、切欠部4a以外の部分の半径方向厚さが2.0mm〜6.0mmの間であって切欠部4aでの半径方向の厚さが切欠部4a以外での半径方向の厚さに比較して小さく、切欠部4aは合口部2端面に向かって徐々に外周面3に近づく平面状を成し、合口部2端面での半径方向厚さが切欠部4a以外の部分での半径方向の厚さの0.2倍から0.5倍未満であり、切欠部4aは外周面3の中心軸回りの中心角26.5°から14°の間に亘って形成され、合口部2端面の半径方向厚さが増加に伴い中心角が減少する圧力リングを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関用ピストンリングを構成する圧力リングに関し、特にローポイント圧力リングに関する。
【背景技術】
【0002】
圧力リングはその面圧分布により、合口部近傍の面圧が他の部分と比較して高いハイポイント圧力リングと、合口部近傍の面圧が他の部分と比較して低いローポイント圧力リングの2つに大別される。両者はその使用環境、用途によって使い分けられるが、合口部近傍の摩耗が激しい高出力ディーゼル機関等においてはローポイント圧力リングを用いる傾向がある。従来は、圧力リングのシリンダボアに対する接触面圧分布が自由時の周方向形状によって変化する性質を利用して、均一断面形状で、周方向形状を変化させることにより、所望の面圧分布を呈する圧力リングが製造されていた。
【0003】
しかし、従来の当面圧分布等の圧力リングでは、シリンダと圧力リングとの温度差による熱膨張量の差や圧力リングの内周側と外周側との温度差による熱応力等により、周方向形状が大きく変化するため、シリンダボアとの接触状態が変化し、特に合口部では温度が上昇するほど面圧が上昇して合口部端部の外周面に極端な摩耗を発生させていた。これに対して出願人は、特許文献1に示されるように、ピストンリングを構成する圧力リングの内周側において合口部の端面を始端とする所定の周長部分に亘り、内周面の一部を成す切欠部が形成されたピストンリングを開示している。
【特許文献1】特開2000−120866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の排出ガスや燃費等の規制によってエンジンの高効率化が図られ熱負荷が増大している。エンジンのダウンサイジング(過給システムによる出力向上分を排気量で減少させ同レベルの出力を保つことでサイズダウンを図ることであり、COの減少・燃費の改善を期待できるが、過給システムにより熱負荷が増大する。)によっても、熱負荷が高くなってきている。よって、合口部付近の耐高面圧等、ピストンリングを構成する圧力リングにもより高い性能が求められている。例えば特許文献1の出願時期である約10年前に比べて、現状のガソリンエンジン・ディーゼルエンジンに求められる排気量当たりの出力は約10KW/L程度上昇している。そこで本発明は、従来製品に比べて更に合口部の面圧上昇を抑制し、より高性能・高負荷のエンジンに対応した圧力リングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は、略円形状を成し、シリンダに対し摺動する外周面と、ピストンに対向する内周面と、該略円形状を半径方向に分断する一つの合口部とを備え、該内周面側において、該合口部の端面を始端とする所定の周長部分に亘り該内周面の一部を成す切欠部が形成されており、該所定周長以外の部分の半径方向厚さが2.0mmから6.0mmの間であって、該所定周長部分における半径方向の厚さが該所定周長部分以外の部分の半径方向の厚さに比較して小さい圧力リングにおいて、該切欠部は該合口部端面に向かって徐々に該外周面に近づく平面状を成し、該合口部端面における半径方向厚さが、該所定周長部分以外の部分における半径方向の厚さの0.2倍から0.5倍未満であり、該所定周長部分は該外周面の中心軸で規定される中心角26.5°から14°の間に亘って形成され、該所定周長部分の該合口部端面の該半径方向厚さが増加するに従い、該中心角が減少することを特徴とする圧力リングを提供する。
【0006】
上記構成の圧力リングにおいて、該所定周長部分の末端は該所定周長部分以外の部分との境界部分に位置し、該所定周長部分は該所定周長部分以外の部分の該境界部分における接線に沿って形成されていることが好ましい。
【0007】
また上記構成の圧力リングにおいて、該所定周長部分の末端は該所定周長部分以外の部分との境界部分に位置し、境界位置には、該外周面側に向けて落ち込んだ段部が形成されていることが好ましい。
【0008】
また少なくとも該外周面には硬質皮膜が被覆されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1記載の圧力リングによれば、合口部の曲げ剛性を低減することができる。よって合口部の面圧を低減することができ、熱負荷時における面圧上昇を抑制することにより、ガスシール性向上及び局所的摩耗を抑制することができる。
【0010】
請求項2記載の圧力リングによれば、切欠部の開き角を最も大きくすることができ、かつ合口部の厚さを薄くすることができる。
【0011】
請求項3記載の圧力リングによれば、切欠部の厚さを小さくすることができる。よって切欠部の曲げ剛性をより低下させることができる。
【0012】
請求項4記載の圧力リングによれば、硬質皮膜を被覆することにより耐久性・耐摩耗性を向上させることができる。硬質皮膜としては、アークイオンプレーティング皮膜(Cr−N系、Cr−B−N系)や、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜等を被覆することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第1の実施の形態による圧力リングについて図1乃至図5に基づき説明する。図1に示す圧力リング1はスチール製の略円形状をなし、図示せぬシリンダに対し摺動する外周面3と、図示せぬピストンに対向する内周面4と、略円形状を半径方向に分断する1つの合口部2とを有する。また圧力リング1は、その全周においてガス窒化処理がなされているとともに、外周面3においては、硬質皮膜としてCr−N系のアークイオンプレーティング皮膜が形成されて、耐久性・耐摩耗性を向上している。
【0014】
外周面3と内周面4との距離(圧力リング半径方向の厚さ寸法)がaであるが、内周面4側において、合口部2の端面を始端とする所定の周長部分に亘り、内周面4の一部をなす切欠部4a、A−Bが形成されており、該所定周長部分における半径方向の厚さが、所定周長部分以外の部分の半径方向の厚さに比較して小さく形成されている。尚、位置Bは、所定周長以外の部分である内周面4と、所定周長部分である切欠部4aとの境界位置である。
【0015】
位置Bにおけるリング半径方向の厚さはa1であり、厚さaは2.0mmから6.0mmの間であって、合口部2の端面上に存在する位置Aに向かってリング半径方向の厚さが徐々に減少し、位置Aでは厚さaの0.2倍から0.5倍未満である。平面A−Bは、外周面3の中心軸Oで規定される中心角である開き角が26.5°から14°の範囲に亘り形成されている。この開き角は、所定周長部分である切欠部4aの合口部端面の半径方向の厚さが増加するに従い、減少するように構成されている。
【0016】
ここで、中心角が14°未満では現状の圧力リングにおいて半径方向曲げ剛性低減幅が十分でなく、機関運転時に面圧上昇が発生する。一方、中心角が26。5°を越えると、切欠部4aが合口部端面から離れるに従って外周面に近づく形状となる箇所ができる為、強度が十分ではなく、折損のおそれがある。
【0017】
位置Aの厚さが位置Bの厚さaの0.2倍未満となった場合は、合口部2端部が図示せぬピストンリング溝から浮き上がりピストン外周から離間し、ガスシール性を損なう。一方、位置Aの厚さが位置Bの厚さaの0.5倍以上の場合は、曲げ剛性低減が十分でなく、機関運転時に面圧上昇が発生する。よって合口部2の半径方向の厚さが上記範囲に収まることにより、機関運転時のガスシール性の確保及び局所的摩耗、硬質皮膜のクラック、剥離等に対して優位となる。
【0018】
又、図面には示さないが、図に示された合口部2の端面に対向するもう一方の合口部端面からも、同様の切欠部4aが形成される。
【0019】
図2に示すように、シリンダ101の一部を切欠いて、シリンダ101の切欠部101a(最薄部)に歪みゲージ102を貼り、実施の形態の圧力リング1又は従来例の圧力リングの接触加重による歪みを面圧として測定した。圧力リング1を保持するピストン103の上下にヒーター104を取り付けて圧力リング1を加熱する一方で、シリンダ101の外周には冷却水Wを流してシリンダ101の冷却を行い、ピストン103からシリンダ101まで実機運転時に近い温度勾配を分布させた。ここで使用している圧力リング1は、その直径が112.0mm、厚さaが4.35mmとし、合口部2端部の厚さを従来例(切欠部無し)に比較対象の切欠部有りを加えた7水準(0.2a、0.3a、0.4a、0.45a、0.5a、0.6a、切欠部無し)で測定を行っている。この時に、切欠部4aの開き角は、上記7水準のそれぞれの厚さに対応して、図1に示す位置Bにおいて接線としたときの角度(20.5°、19.2°、17.8°、17.1°、16.3°、14.7°、0°)になる。
【0020】
図3及び図4は、冷間時及び温間時における、縦軸が面圧、横軸が合口部からの周方向角度となるグラフである。ここで「冷間時」とは、主としてエンジン始動時、未だエンジンが温まっていない(約0℃〜約40℃)状態を示し、「温間時」とは、エンジン始動後、エンジンなどが適正温度(約200℃〜約250℃)に温まった状態のことを示す。
【0021】
冷間時においては、図3に示されるように、合口部の面圧が従来例のピストンリングの面圧より低く、曲げ剛性の低下による面圧低減が実現している。この時に合口部(0°の位置)においては、切欠部無し(0.2MPa)以外で、何れも面圧が約0.04MPaとなっており、0MPaとはならず当り抜けが生じないことがわかる。
【0022】
温間時においては、図4に示されるように、各厚さにおいて面圧上昇が見受けられる。ここで合口部2端部の各厚さについて細かく考察すると、合口部から90°の位置においては、何れも厚さにおいても、面圧が約0.15MPa程度に収束している。これに対して合口部(0°の位置)においては、切欠部無しが約0.75MPaとなっているのに対し、厚さが0.5aの例では、面圧が約0.5MPaと減少しているが減少量が充分ではない。
【0023】
厚さが0.45aの例では、面圧が0.4MPaと切欠部無しに比べて約半分程度まで減少している。更に厚さが小さい例では、より面圧が小さくなっているが、厚さの減少に比べて面圧の減少が顕著ではなく(0.4a〜0.2aで何れも面圧が0.3MPa近傍)、よって合口部2端部の厚さを0.45a〜0.2a、好適には0.4a〜0.2aとすることにより温間時において過度の面圧上昇を十分抑制することができる。このような値とすることにより、従来のエンジンより高圧が要求される現状のエンジンにおいても好適にガスシール性を確保するとともに局所的摩耗を抑制することが可能になる。
【0024】
尚、本実験においては冷間時における合口部近辺以外の部分の面圧が約0.15MPa程度の圧力リングを試作し、実験を行ったが、この数値はその用途に応じて様々に設定しうることは言うまでもない。
【0025】
圧力リング1を製造する際には、図5に示される圧力リング1の基体を合口部2を切り込み箇所とした略C字形状に形成した後に、切断砥石等の回転式のカッタ10を用い切断を行う。カッタ10を用いることにより、早急かつ容易に切断加工を行うことができる。また切断時に切欠部4aを内周面4の接線に沿って設定することにより、切欠部4aの開き角を最も大きくすることができ、かつ合口部2の厚さを薄くすることができる。切断加工は放電加工やエンドミル等の切削加工または研削加工によっても行うことができ、適宜選択できる。
【0026】
本発明による圧力リングは上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲内で種々の変形や改良が可能である。例えば図6に示されるように、切欠部104a(図7)を形成時に、カッタ10の刃厚10A分内方に位置するように切断しても良い。このように切断することにより、図7に示されるように切欠部104aと内周面4との境界位置に、外周面3側に向けて落ち込んだ段部104bが形成される。このような構成を採ることにより、切欠部104aの厚さを小さくすることができる。よって切欠部104aの曲げ剛性をより低下することができる。これは厚さが大きな圧力リング1において特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る圧力リングの合口部周辺の形状を示す部分平面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る圧力リングの面圧分布の測定に用いた面圧分布測定装置を示す断面図。
【図3】冷間時における圧力リングの面圧分布を示す折線図。
【図4】温間時における圧力リングの面圧分布を示す折線図。
【図5】本発明の実施の形態に係る圧力リングの切欠部の形成方法を示す部分斜視図。
【図6】本発明の実施の形態に係る圧力リングの変形例に係る切欠部の形成方法を示す部分平面図。
【図7】本発明の実施の形態に係る圧力リングの変形例に係る合口部周辺の形状を示す部分平面図。
【符号の説明】
【0028】
1・・・・圧力リング
2・・・・合口部
3・・・・外周面
4・・・・内周面
4a・・・切欠部
10・・・カッタ
101・・シリンダ
101a・切欠部
102・・ゲージ
103・・ピストン
104・・ヒーター
104a・切欠部
104b・段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円形状を成し、シリンダに対し摺動する外周面と、ピストンに対向する内周面と、該略円形状を半径方向に分断する一つの合口部とを備え、該内周面側において、該合口部の端面を始端とする所定の周長部分に亘り該内周面の一部を成す切欠部が形成されており、該所定周長以外の部分の半径方向厚さが2.0mmから6.0mmの間であって、該所定周長部分における半径方向の厚さが該所定周長部分以外の部分の半径方向の厚さに比較して小さい圧力リングにおいて、
該切欠部は該合口部端面に向かって徐々に該外周面に近づく平面状を成し、
該合口部端面における半径方向厚さが、該所定周長部分以外の部分における半径方向の厚さの0.2倍から0.5倍未満であり
該所定周長部分は該外周面の中心軸で規定される中心角26.5°から14°の間に亘って形成され、該所定周長部分の該合口部端面の該半径方向厚さが増加するに従い、該中心角が減少することを特徴とする圧力リング。
【請求項2】
該所定周長部分の末端は該所定周長部分以外の部分との境界部分に位置し、該所定周長部分は該所定周長部分以外の部分の該境界部分における接線に沿って形成されていることを特徴とする請求項1に記載の圧力リング。
【請求項3】
該所定周長部分の末端は該所定周長部分以外の部分との境界部分に位置し、境界位置には、該外周面側に向けて落ち込んだ段部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の圧力リング。
【請求項4】
少なくとも該外周面には硬質皮膜が被覆されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一に記載の圧力リング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−30727(P2009−30727A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195611(P2007−195611)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【Fターム(参考)】