圧力媒介による、分子または微小粒子の細胞内への輸送
【課題】生細胞による、原子、分子、または10μmよりも小さな粒子の取り込みを促進する方法を提供する。
【解決手段】(a)細胞と、原子、分子、または粒子を含む液体培地とを接触させる段階、(b)該細胞と液体培地を、封入された空間内で維持する段階、および(c)該封入された細胞と液体培地に、原子、分子、または粒子の取り込みを促進するのに十分なインキュベーション圧を加える段階を含む。哺乳動物の標的組織としては、血管組織、心臓、骨髄、結合組織、肝臓、性器ー泌尿器系組織、骨、筋肉、胃腸器官、内分泌及び外分泌器官が含まれる。実施態様としては、輸送すべき物質を含む溶液を患者の標的領域に灌流して、与圧チャンバーの中で患者に圧力をかけることにより行う。
【解決手段】(a)細胞と、原子、分子、または粒子を含む液体培地とを接触させる段階、(b)該細胞と液体培地を、封入された空間内で維持する段階、および(c)該封入された細胞と液体培地に、原子、分子、または粒子の取り込みを促進するのに十分なインキュベーション圧を加える段階を含む。哺乳動物の標的組織としては、血管組織、心臓、骨髄、結合組織、肝臓、性器ー泌尿器系組織、骨、筋肉、胃腸器官、内分泌及び外分泌器官が含まれる。実施態様としては、輸送すべき物質を含む溶液を患者の標的領域に灌流して、与圧チャンバーの中で患者に圧力をかけることにより行う。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本発明は、生細胞による細胞外の物質の取り込みを容易にすることに関する。
細胞および分子生物学の研究によって、生細胞の膜の内部には、複雑な物理学的および生化学的な環境が存在することが明らかになった。これらの膜は、さまざまな細胞型において特定の機能を果たす精巧な半透性の障壁を具備しており、すべての生細胞の膜は、生命が営まれる微小な水性空間を隔離するように働く脂質の二層構造からなる。すべての細胞は、細胞の境界となっている脂質二重膜を通過することができない大きな物質および/もしくは疎水性の物質を受動的に排除するか、または特定のタンパク質によって細胞膜を通過する分子もしくは粒子の能動的に調節された双方向性の動きによって、その内部空間の分子構成を調節している。これらのタンパク質には、結合して、細胞内への汎用的な通路を提供するか、または特定の要素だけが入るのを許す孔またはチャンネルを形成するものがある。
【0002】
原子、分子、または微小粒子を細胞の中に取り込ませることは、生物科学者および臨床医学研究者に必須の手段となっており、これをもとにして、彼らは、生物の細胞内でのプロセスを詳しく調べたり、病気を予防、診断、または克服するための薬理学的な方法を工夫することができるようになる。細胞膜は、機能的に複雑な性質をもっているため、荷電した分子または高分子を輸送することが、しばしば非常な難問となり、このために、そのような物質を細胞内に適用して用いる可能性が制約されてきた。その上、多くの複合物質は、エンドサイトーシスまたはピノサイトーシスのような細胞膜陥入作用によってのみ、細胞に取り込まれる。そして、このようにして形成された、それ以前には細胞外物質であったものを含むエンドサイトーシス小胞は、厳しい酵素的環境を含むリソソームと融合して、ほとんどの場合に、取り込まれた物質は、酵素消化によって分解される結果となる。
【発明の開示】
【0003】
発明の概要
本発明の方法は、生細胞の細胞外環境へ物質を輸送すること、細胞の周囲に封入された空間を作出すること、および、細胞による物質の取り込みを促進するのに十分なインキュベーション圧を、封入された空間内に確実に加えることを含む。この物質の大きさは低分子から微小粒子にまで及ぶことができ、それを取り込んだ細胞に対して、ある範囲で影響を与え、または、ある範囲で機能を働かせることができる。例えば、この物質は、低分子(例えば、薬物)、糖、脂肪酸、もしくは脂肪酸誘導体、またはタンパク質(例えば、抗体、酵素、もしくはホルモン)などでもよい。この細胞は、インビトロ、すなわち組織もしくは器官培養系の中で生存することができ、または、生きた生物、例えば、ヒトなどの哺乳動物の一部を構成することができる。
【0004】
このように、本発明の目的は、標的細胞もしくは細胞集団の中で、誘導しないときに予想もしくは認識されるよりも高い程度で、微小粒子種もしくは分子種の細胞内取り込みを誘導することである。したがって、この方法を用いれば、通常は少量しか取り込まれない物質を、より大量に細胞内に輸送することが容易になり、または、この方法を用いないと、細胞膜によって細胞外の環境に排除されたままになる物質を細胞に取り込ませることができるようになる。また、本発明は、標的集団における、より大きな割合の細胞に、より効率的な取り込みを行わせることができ、また、特定の器官または組織を標的とすることもできる。また、本発明の方法を用いて行われる細胞内輸送は、組織の損傷(例えば、膨脹)または外傷を惹き起こさないという点、および、細胞にとって毒性となる可能性がないという点で有利である。さらに、本発明の細胞内輸送方法は、多くの場合、リソソームへの区画化を伴うことなく、細胞の細胞質への輸送手段を提供し、それによって、輸送された物質がリソソームの酵素によって破壊されるのを防止できるようにする。この方法は、また、物質が細胞内の障壁を通って、細胞核などの空間の中に移動するのを促進することもできる。
本発明のその他の特徴と利点は、詳細な説明、図面、および請求の範囲から明らかになる。
【0005】
詳細な説明
本発明によって用いることのできる物質の種類には、(1)荷電した原子またはイオン、(2)中性の、または荷電した低分子(例えば、1,000以下の分子量をもつ分子)で、小さな核酸を除いたもの、(3)核酸以外の高分子(例えば、1,000以上の分子量をもつ分子)で、特に、タンパク質とペプチド、(4)ポリマーおよび単繊維(一般的には、最大でも10μmより小さい)、(5)無機的な原子と分子、および(6)微小粒子(一般的には、大でも10μmより小さい)が含まれる。これらの物質を、物質の種類と、それの使用目的に応じて、多様な濃度、好ましくは、1 nMから1 mMであるが、これに限定はされない濃度で、細胞の細胞外環境に輸送することができる。本発明の各応用において用いられる正確な濃度は、輸送される物質の化学、生化学、または機能的な性質に関する知識に基づいて、使用者が決定することができる。この物質は、細胞外の環境の溶液中に存在するか、または、懸濁液もしくはコロイドを含むことができる。
【0006】
組織と細胞外環境を含む密封された空間を画定すると、密封された空間の中のインキュベーション圧が確定する。好ましい態様において、この封入空間の境界は、実質的に、封入手段によって区切られているため、標的組織(標的細胞を含む組織)に等方向性の圧力がかかり、膨脹したり、外傷を受けたりしない。別の態様において、封入空間の境界は、組織によって区切られている。そして、非弾性のシースのような保護装置を組織の回りに置いて、組織の膨脹と外傷を防止する。
【0007】
特に、血管においては、密封空間を、膨らませることのできるバルーンか、紐で縛ることによって形成された閉塞部の間に画定することが好ましい。輸送すべき物質を含む溶液は、閉塞部の間にある輸送用出口をもつカテーテルによって封入空間へ輸送される。より一般的には、器官内の空間に圧力をかけることができるよう、器官の導管(例えば、血管)の中に閉塞部を作り出すことによって、封入空間を器官の中で画定する。
【0008】
細胞による取り込みを促進するために用いられるインキュベーション圧は、好ましくは、予定されたインキュベーション時間の間、予定されたレベルに維持される。インキュベーション圧は、適用用途に応じて異なり、インキュベーション時間、組織型、および輸送される分子などのパラメータが含まれる。用いられるインキュベーション圧は、例えば、大気圧よりも50 mmHgから5気圧高い圧力、例えば、大気圧よりも300 mmHgから1500 mmHg高い圧力、または、大気圧よりも0から2気圧高い圧力といった範囲に及びうるが、効果的な輸送が行われ、相殺するような傷害(a counter veiling injury)が標的細胞によって保持されないかぎり、これらより高い圧力や低い圧力を用いてもよい。
【0009】
細胞による取り込みを容易にするために用いられるインキュベーション時間は、インキュベーション圧、標的組織型、輸送される分子、および望ましい用量などのパラメータによってさまざまに変化しうる。インキュベーション圧を継続する時間は、例えば、約1秒から4時間に及びうる。好ましくは、圧力を継続する時間は、20秒から30分の間であり、より好ましくは、60秒から10分の間である。
【0010】
適当な哺乳動物の標的組織には、血管組織(特に、動脈の移植片として用いられる静脈)、心臓、骨髄、結合組織、肝臓、腎臓、性器-泌尿器系組織、骨、筋肉、胃腸器官、ならびに内分泌および外分泌器官が含まれる。本発明の方法は、器官の一部、器官全体(例えば、心臓)、または生物体全体に対して適用することができる。一つの態様において、輸送すべき物質を含む溶液を、患者の標的領域(例えば、腎臓)に灌流して、与圧チャンバーの中で、その患者に圧力をかける。本発明の適用には、異系移植片(移植患者以外の異なる個体に由来する移植片)と同系移植片(移植患者に由来する移植片)を処理することも含まれる。
【0011】
放射性標識、蛍光標識、または化学的標識によって物質を標識し、圧力促進による投与の後、この物質を標識を通して追跡することによって、本発明の各適用用途に関する条件を決定することができる。または、生物活性の測定を行ってもよい。同様に、所望の物質に化学的および/または物理的に類似した簡易標識物質の輸送を定量することによって、最適な輸送条件を実現することができる。
【0012】
上記で検討されたように、本発明の方法を用いて、分子を細胞の中に輸送するためのシステムには、少なくとも密封空間の境界部分を画定するための封入装置と、封入空間の中でインキュベーション圧を作り出すための与圧装置とが含まれる。封入空間には、標的細胞と、細胞の細胞外環境とが含まれる。カテーテルや注射器などの輸送装置を用いて、直接的または間接的(例えば、静脈内注射によって)に、細胞外環境に分子を輸送する。
【0013】
封入空間の境界は、封入装置によって、場合によっては、組織によって画定される。適当な封入装置には、その態様に応じて、与圧チャンバー、不透性のシースまたは袋、および組織内の通路を閉塞するための閉塞装置が含まれる。与圧チャンバーは、移植片または生物体全体を処理するのに特に適しており、一方、他の装置は、組織を手術中に処理するのによく適している。
【0014】
一つの態様において、封入空間の境界は、封入装置によって実質的に画定される。そして、圧力が、あらゆる方向から標的組織に均一にかけられるため、標的組織は外傷を患う危険を受けない。別の態様において、組織(例えば、標的組織)によって、境界部分を画定する。封入空間の境界の組織形成部分は、片側だけから圧力をかけられると、膨脹することがある。非弾性のシースのような保護装置を組織の回りに置いて、組織の膨脹と外傷を防ぐ。本発明の方法と輸送システムは、以下でさらに詳細に例示されている。
【0015】
図1-Aから図1-C'は、血管細胞に分子を与圧輸送する方法を図示している。図1-Aは、本発明の輸送システム11の側面図である。システム11は、輸送すべき物質を含む溶液40を保持するための貯蔵装置10と、貯蔵装置10から溶液40を放出するための輸送装置とを備えている。輸送装置は、プランジャー12と輸送用チューブ14を備えている。プランジャー12の反対側で、貯蔵装置10は、チューブ14へと開口している。チューブ14に接続しているのは、貯蔵装置10に近い順に、コック栓16、圧力計18、収縮したシース20、およびノッチ22である。シース20は、好ましくは、不透性で、弾力性がない。ノッチ22は、チューブ14の遠位の開口末端30に隣接している。コック栓16は、溶液40が貯蔵装置10からチューブ14に入らないよう、最初は閉位置にある。
【0016】
図1-Bは、システム11に接続された血管24を示している。開口末端30は、血管24の近位の末端に置かれている。ノッチ22は、組織24の近位の末端の内側にぴったりと合わせられている。シース20は、組織24を覆うように引き下げられている。紐または結紮糸26Aが、シース20と組織24がチューブ14につながっているところで、組織24が開口末端30から滑り落ちないように、シース20と組織24に巻き付いている。コック栓16を開口位置まで回すと、溶液40がチューブ14とシース20に流入し、シース20の開口末端28から入った気体と液体をすべて流し出す。流し出した後、縛り紐26Bをシース20の遠位の開口末端28にかけて、図1-Cと図1-C'に示す防水シールを形成させる。図1-Cは、血管24の内皮を標的とする輸送を示している。図1-C'は、血管24の内皮と外側表面への輸送を示している。
【0017】
図1-Cでは、縛り紐26Bは、シース20と組織24の周囲に配置されている。縛り紐26Bは、血管24を閉塞する。コック栓16を、その開口位置まで回し、プランジャー12を押すと、輸送圧の下に、溶液40が血管24へと輸送される。インキュベーション圧になるまで輸送圧を上げてから、コック栓16を閉じる。インキュベーション時間の間、血管24をインキュベートさせた後、縛り紐26Bを外して、圧力から解放する(図示されていない)。
【0018】
密封空間の境界は、血管24の壁と封入装置とによって画定されている。この密封空間は、血管24の標的(内皮)細胞と、それらの細胞外環境を含んでいる。コック栓16が閉位置にあるとき、封入装置は、チューブ14、コック栓16および結紮糸26Bを含む。コック栓16が開位置にあるとき、封入装置は、結紮糸26B、チューブ14、プランジャー12、貯蔵装置10の壁の部分を含む。この封入装置は、封入空間の境界の少なくとも一部分を画定する。
【0019】
図1-Cに示した態様において、封入空間の境界の一部分は、血管24によって画定される。血管24の内側にだけ圧力をかけると、血管24が膨脹して、外傷を受けることがある。シース20は、保護装置として作用し、血管24が膨脹するのを防ぐ。したがって、図1-Cに示したような配置では、シース20が非弾性であることが重要である。
【0020】
図1-C'に示すように、縛り紐26Bをシース20の回りにだけ巻き付けることも可能である。この場合、血管24の標的細胞とそれらの細胞外環境を含む密封空間が、封入装置によって、実質的に画定される。コック栓16が閉位置にあるとき、封入装置は、シース20、チューブ14、コック栓16および結紮糸26B'を含む。コック栓16が開位置にあるとき、封入装置は、シース20、チューブ14、結紮糸26B'、プランジャー12、および貯蔵装置10の壁の部分を含む。
【0021】
図1-Cに示した態様において、封入空間の境界は、封入装置によって、実質的に画定される。血管24の回りの圧力は一様で、そのため、血管24は外傷を受けない。シース20が、封入装置の一部として作用するため、シース20が不透性であることが重要である。しかし、非弾性のシースを使用することで、血管24に外傷をもたらさないとはいえないので、図1-Cの配置において、シース20は必ずしも非弾性である必要はない。
【0022】
図2は、患者の循環系に連結された血管への分子をインビボで輸送する方法を図示している。チューブ14を、生きた動物の身体にまだ結合している管224の管腔の中に挿入する。シース220で管224の回りを覆い、ファスナー228(例えば、熱シール)をシート220の二つのフラップに接着させてチューブを形成させる。シース220は、保護装置として作用し、管224が膨脹するのを防止する。二つの縛り紐226Aと226Bは、シース220の周囲を覆う。縛り紐226Aと226Bは、閉塞装置として作用し、管224を閉塞させる。閉塞子226Aと226B、および、閉塞子226Aと226Bとの間の管224の壁が、管224の標的細胞とそれらの細胞外環境とを含む密封空間230を画定している。溶液40を密封空間の中に注射して、区域230をインキュベーション時間インキュベートさせる。インキュベーション時間後、閉塞子226Aと226Bを取り除き、管224を通して血液を流れさせる。
【0023】
図3-Aと図3-Bは、輸送装置と与圧装置を別々にもち、図2に示した血管に分子を輸送するのに用いられる輸送システムを図示したものである。図3-Bに示されているように、硬い管状の覆い250をシート220の回りに巻き、万力252を覆い250の回りに巻く。覆い250の円周は自由に変えることができるため、それが形成するチューブの直径はさまざまであるが、軸方向には固定しているため、その直径が変化しても、実質的には管状のままである。固定ねじ254で万力252を締めつけて、覆い250をぴったりと固定して、管224の中に圧力を生じさせる。インキュベーション時間の間、この圧力を維持した後、ねじ254のねじを緩める。
【0024】
図4-Aから図4-Dは、カテーテル314を通して血管324の管腔に輸送される物質を含む溶液を輸送する方法を図示したものである。カテーテル314を管324の中に挿入する。カテーテル314をその末端316で閉じる。カテーテル314は二つのバルーン332Aと332Bとをもち、バルーン332Aと332Bの間ににある輸送口330をもっている。まず、図4-Aに示すように、バルーン332Aと332Bを膨張させる。カテーテル314を管324の中に挿入した後、図3-Bに示すように、バルーン332Aと332Bを膨張させる。バルーン332Aと332Bは、管324を閉塞し、管324の中に密封空間334を作り出す。輸送すべき物質を含む溶液340は、輸送口330を通って密封空間334に輸送される。圧力の下に、溶液340が輸送されるため、密封空間334に圧力が加わる。インキュベーション時間が終わった後、バルーン332Aと332Bのガスを抜くと、標的封入空間334が減圧する。
【0025】
図4-Cは、本発明の代替的な輸送システムを示しており、カテーテルの上に付けたバルーンが、血管壁に輸送される物質を含む溶液を輸送するための細管をもっている。バルーン432は、バルーン432の中のカテーテル314の区域内の穴452に直接結合した細管450をもっている。圧力を加えられた溶液440が、カテーテル314を通って輸送されると、溶液440は、ホール452から出て、細管450を通って移動して、管324の壁に到達する。
【0026】
図5-Aは、心臓などの器官124の血液の導管(血管、ならびに/または心房および心室)へ輸送するためにシステム11を使用することを図示している。保護用シース120が、器官124を包んでいる。器官124には、血液を運び込む動脈112と血液を運びだす静脈114とがついている。チューブ14を動脈112の管腔の中に挿入して、動脈112と静脈114をシース120で包み込む。縛り紐126Aを、動脈112のところでシース120の回りに巻き付け、縛り紐126Bを、静脈114のところでシース120の回りに巻き付けて、液体が器官124の外に漏れるのを防ぐ。縛り紐126Aは、チューブ14が動脈112の中に入ることができるようにしてはあるが、しっかりと巻き付けて、動脈112をシールして漏れないようにしてある。輸送すべき物質を含む溶液40を注射して、器官124をインキュベートする。インキュベーション時間経過後、縛り紐126Aと126Bを取り除いて、血液がもう一度器官124を通って流れるようにする。
【0027】
図5-Bは、器官(例えば、胃腸の器官)の入口と出口とをシールするためのバルーンカテーテルの使用を示している。バルーン552をもつカテーテル550を、器官524とつながっている第一の器官導管512の中に挿入し、バルーン562をもつ別のカテーテル560を、器官524から出ている第二の器官導管514の中に挿入する。まず、バルーン552と562のガスを抜く(図示されていない)。カテーテル550と560が、それぞれの血管の中に挿入されたら、バルーン552と562を膨らませて、導管512と514のそれぞれで閉塞を起させる。輸送されるべき物質を含む溶液540が、輸送圧の下で器官524に輸送される。
【0028】
図6は、物質を細胞に輸送するのを促進するための、与圧チャンバーの使用を図示している。皿610などの保持装置の中に、標的細胞を含む組織624が入っている。物質を含む溶液640は、皿610の中に入っている。皿610は、与圧チャンバー650の中に置かれている。チャンバー650を閉じて密封して、加圧ガス(例えば、CO2)を導管660からチャンバー650へ導入する。溶液640と組織624を、インキュベーションする間、インキュベーション圧の下に維持する。組織624には、器官全体も含まれる。
【0029】
図6に示されているような与圧チャンバーは、生物の全身に圧力をかける輸送方法に特に適している。このような方法においては、輸送されるべき物質を含む溶液は、好ましくは、患者の血管および/または器官(例えば、腎臓)の中に灌流される。患者は、与圧チャンバーの中に入る。そして、インキュベーション時間の間、与圧チャンバーをインキュベーション圧に保つ。
【0030】
圧力の下で分子に対する細胞膜の透過性が上昇することの基礎には、いくつかのメカニズムが存在する可能性がある。膜透過性が上昇するには、細胞、および/または細胞外環境の中の圧力が上昇している必要があるが、必ずしも、細胞膜を横切って圧力に勾配がある必要はない。膜貫通チャンネルを構成するタンパク質の構造が高圧で変化し、それによって、チャンネルを通って細胞質の中に入る、分子の通路が形成される可能性がある。
【0031】
用いられる正確な圧力、インキュベーション時間、および濃度は、標的とする組織によって変わる。例えば、さらに後述するように、低い圧力(約0.5気圧)での約5分間というインキュベーション時間は、ヒトの伏在静脈におけるほぼ最大のトランスフェクション効率を達成するのに充分である一方、ラットの大動脈において、80〜90%のトランスフェクション効率を達成するためには、高圧(約2気圧)で1時間を超えるインキュベーション時間が必要である。ラットの心臓については、50%を超えるトランスフェクション効率を得るためには、2気圧で30〜45分間のインキュベーション時間が必要である。一般的に、異なった組織型において、一定のトランスフェクション効率を達成するのに必要なインキュベーション時間は、分から時間までさまざまであり、インキュベーション圧力も、気圧の単位でさまざまである。ある組織型にとって適当なインキュベーション時間と圧力は、当業者によって容易に決定することができる。
【0032】
封入空間壁の組織形成部分には物理的なストレスがかかるため、外科的処置にとって止むを得ないという制限がないときには、圧力をかけられる封入空間の壁は、生組織を含んでいないことが一般的に好ましい。処置の間循環系に連結している血管組織の処置など(図3-Aと3-B参照)、外科的処置には、封入空間壁の少なくとも一部が組織によって画定される必要のあるものがある。このような場合には、保護装置を用いて、組織の膨脹を防ぐことが重要である。エクスビボで処理される移植片は、一般的に、与圧チャンバーか、同等の加圧封入空間の中でインキュベートすることが好ましい。
【0033】
本発明の方法を、核酸分子の細胞内輸送を示す下記の実験において、さらに具体的に説明する。さまざまなインキュベーション圧、インキュベーション時間、および組織型について、本発明の方法のトランスフェクション効率を評価した。下記の考察で用いられる略語のうち、CTRLは対照、ELISAは酵素結合免疫測定法、FITCはフルオロセインイソチオシアネート、FITC-ODNはFITC標識オリゴデオキシリボ核酸、IL-6はインターロイキン6、ODNはオリゴデオキシリボ核酸、PCRはポリメラーゼ連鎖反応、VSMCは血管平滑筋細胞である。「n」という文字は、各データポイント毎に評価された被験者数を表している。かけられた圧力は、大気(周囲の)圧を超えて、サンプルにかけられた正味の圧力である。
【0034】
実施例1
図1-Cで例示された方法と同じ方法によって、FITC-ODNをヒトの伏在静脈にトランスフェクトした。図7-Aは、いくつかのODN濃度について、かけられた圧力の関数としてのトランスフェクション効率を示している。効率は、蛍光顕微鏡によって、FITC-ODNを核に局在させていることが判明した血管内膜と中膜の全細胞数の割合として測定した。圧力は、50から760 mmHgに及び、また、生理食塩水内のODN濃度は、5から100μMに及んだ。n=6。
【0035】
図1-Cに図示されている方法と同様の方法を用いて、ODN濃度20μMと、50から760 mmHgの圧力で、トランスフェクション効率に対する膨満防止用シースの効果を評価した。図7-Bは、実験結果を示している。n=6。
【0036】
全器官培養物におけるアンチセンスODNによるIL-6産生の阻害を測定して、本発明の方法のトランスフェクション効率をインビトロで調べた。トランスフェクションの後、静脈区域を増殖培地の中で24時間インキュベートした。図1-Cに図示されている方法と同様の方法にしたがって、5 mM、10 mM、および100 mMで10分間トランスフェクションを行った。図7-Cは、ELISAによって、アンチセンスをトランスフェクトした培養細胞の増殖培地で、IL-6タンパク質の減少が検出されたことを示している。示されている減少レベルは、トランスフェクトしなかった静脈と非特異的ODNでトランスフェクトした静脈の対照用培養細胞で見られるレベルに相応している。n=6。
【0037】
実施例2
定量的逆転写PCRを用いて、本発明にしたがって行われたアンチセンスODNトランスフェクションの結果起こるIL-6 mRNAの減少を測定した。図1-Cに図示されているようにして、ヒトの伏在静脈の標本3個にトランスフェクトして、アンチセンスでトランスフェクトした静脈区域におけるmRNAのレベルを、無処理の区域とリバースアンチセンス(対照)ODNでトランスフェクトした区域におけるレベルと比較した。3つの標本についての結果が、それぞれ図8-A、図8-B、および図8-Cに示されている。mRNAのレベルの減少は、アンチセンスODN処理の配列特異的な有効性を示している。
【0038】
実施例3
図2に図示した方法と同様の方法によって、ウサギの頚動脈をFITC-ODNによってインビボでトランスフェクトした。トランスフェクション後4時間目、4日目、7日目に、トランスフェクション効率を測定した。FITC陽性の核の割合が、時間の関数として図9-Aに示されている。n=2〜3。ルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドDNA構築物によってウサギの頚動脈をインビボでトランスフェクトした後、蛍のルシフェラーゼ遺伝子の発現を測定した。健康な動脈(正常)とアテローム性動脈硬化症の血管(CHOL/inj)を、図2で図示されているようにして、圧力の下でトランスフェクトした。対照(CTRL)の動脈を、圧力をかけずに、ルシフェラーゼ遺伝子をもつプラスミドに暴露した。5日目に動脈を回収して、ルシフェラーゼ活性について組織破砕液を解析した。解析結果を図9-Bに示す。n=2〜4。
【0039】
実施例4
図6に示されているようにして、FITC-ODNによって、ラットの血管の平滑筋細胞(VSMC)をインビボでトランスフェクトした。細胞に大気圧(正味圧力0気圧)、または2気圧のいずれかを45分間加えた。図10は、1 mMと80 mMのFITC-ODN濃度におけるトランスフェクション効率を示している。n=4。
【0040】
実施例5
図11は、図6に示されているようにして、蛍のルシフェラーゼの遺伝子を含むプラスミドDNAをインビボで灌流したラットの腎臓細胞のトランスフェクション効率に対する圧力の効果を図示している。腎臓を灌流した後、ラットに大気圧(0気圧)または2気圧を30分間加えた。トランスフェクション後3日目に腎臓を回収して、ルシフェラーゼ活性について組織破砕液を解析した。n=7。
【0041】
実施例6
図12-Aは、ラットの大動脈細胞における、トランスフェクション効率に対する圧力の効果を示している。ドナーラットから大動脈を採取して、図1-C'で図示されているようにして、生理溶液の中で、4℃で24時間インキュベートして虚血傷害を誘導した。インキュベーション溶液は、40μmのFITC-ODNを含んでいた。インキュベーションは、大気圧よりも0気圧および2気圧高い気圧で行った。インキュベーションの後、この組織をラットの大動脈の中に同系移植し、移植してから24時間後に回収した。DNAにインターカレートする蛍光性染料によって共染色した切片の蛍光顕微鏡観察によって、FITCの核局在を評価した。トランスフェクション効率は、FITC-ODNの核局在を示す細胞の、全細胞に対する割合で表されている。n=3、p<0.005。
【0042】
図12-Bは、圧力媒介によるアンチセンスPCNA ODNのトランスフェクションを用いたときと用いなかったときの、移植されたラット大動脈における、虚血によって誘導されるPCNAの発現を示している。トランスフェクションの手順は、図1-C'に図示されている手順と同じであった。生理溶液(対照)、または40μMのODNを含む生理溶液のいずれかの中で、4℃で24時間インキュベートして虚血傷害を誘導した。インキュベーションしている間、対照サンプルとODN処理したサンプルの両方に、大気圧よりも2気圧高い圧力をかけた。同種組織移植してから6日後に組織を回収し、ELISAによって、組織破砕液におけるPCNAタンパク質のレベルを測定した。n=7、p=0.02。
【0043】
図12-Cは、圧力媒介によるアンチセンスcdc-2キナーゼODNのトランスフェクションを用いたときと用いなかったときの、移植されたラット大動脈における、虚血によって誘導されるcdc-2キナーゼの発現を示している。トランスフェクション、移植、および回収の手順は、図12-Bに関して上記した手順と同じであった。cdc-2キナーゼのタンパク質レベルをELISAによって測定した。
【0044】
図12-Dは、PCNAとcdc-2キナーゼの両方に対するアンチセンスODNによる、圧力媒介トランスフェクションの結果、同種組織移植され、虚血による傷害を受けたラット大動脈の管腔の狭窄が低下することを示している。生理溶液(対照)、またはアンチセンスPCNA/アンチセンスcdc-2キナーゼのODN(それぞれ40μM)の溶液のいずれかの中で、4℃で24時間インキュベートして虚血傷害を誘導した。大気圧よりも2気圧高い圧力を、すべての組織(対照を含む)に加えた。コンピュータによる画像解析によって測定したところ、細胞周期を調節する、この2つの遺伝子の発現を遮断すると、虚血傷害を受けた同系移植片における新生内膜肥厚と管腔狭窄が抑制された。n=12、p=0.03。
【0045】
実施例7
図13-Aは、圧力をかけて、または圧力なしで、FITC-ODNによってエクスビボでトランスフェクトされたラットの心臓におけるトランスフェクションの効率を示している。大動脈をクロスクランピング(crossclamping)した後、ドナーの心臓の冠状動脈の中にFITC-ODN溶液(80μM)を灌流した。心臓をFITC-ODN溶液の中に沈めて、図6に示したようにして、4℃で、大気圧よりも0気圧か、または2気圧高い気圧を45分間加えた。そして、この心臓を、受容ラットの腹大動脈と大静脈の中に異所的に移植した。トランスフェクションしてから24時間後に、DNAにインターカレートする蛍光性染料によって共染色した切片の蛍光顕微鏡観察によって、FITCの核局在を評価した。トランスフェクション効率は、FITC-ODNの核局在を示す細胞の、全細胞に対する割合で表されている。n=3、p<0.005。
【0046】
図13-Bは、アンチセンスICAM-1 ODNの圧力媒介トランスフェクションを行ったときと行わないときの、移植されたラットの心臓におけるICAM-1 の発現を示している。大動脈をクロスクランピング(crossclamping)した後、ドナーのPVG系統の心臓の冠状動脈の中に、食塩水(対照)、またはアンチセンスICAM-1- ODN溶液(80μM)のいずれかを灌流した。そして、心臓をFITC-ODN溶液の中に沈めて、図6に示したようにして、4℃で、大気圧よりも2気圧高い気圧を45分間加えた。ACI受容ラットの中に異所性移植してから3日後に組織を回収した。ICAM-1について免疫組織組織化学的に染色した切片の画像解析によって、ICAM-1陽性の領域を測定した。n=3〜6、p=0.04。
【0047】
図13-Cは、ICAM-1に対するアンチセンスODNによる、移植されたラット心臓の圧力媒介によるトランスフェクションによって、移植片受容が長期的に誘導されることを図示している。PVG系統のラットの心臓を採取して、図13-Bに関して上記されているようにして、アンチセンスICAM-1 ODN溶液(80μM)、または食塩溶液(対照)によって、エクスビボでトランスフェクトした。そして、この心臓を、ACI系統の受容ラットに異所的に移植した。移植後6日間、すべての動物に抗-LFA-1抗体を全身投与して、ICAM-1に対するリガンドを遮断した。これ以外の免疫抑制剤は投与しなかった。耐性は、異系移植片を長期的に受容していることが分かった処理動物の割合として報告されている。移植片受容は、移植片において100日よりも長く心臓の鼓動があることによって明確になった。対照のn=12、アンチセンス処理のn=27、p=0.003。
【0048】
実施例8
図14-Aと14-Bは、細胞周期を調節する遺伝子の上昇制御を阻害するように設計されたODNによる圧力媒介トランスフェクションの後に、頚動脈に移植されたウサギの頸静脈において、新生内膜肥厚の阻害が起こることを示している。
図14-Aは、無処理(対照)の移植片、および、PCNAとcdc-2キナーゼの両方に対するリバースアンチセンス(対照)ODN、またはアンチセンスODNのいずれかによってトランスフェクトされた移植片について、移植後6週間目と6ヶ月目の壁の肥厚を示している。新生内膜の形成は、6ヶ月目まで阻害されたが、高圧の動脈環境において壁にかかるストレスを軽減するために、中膜肥厚によって、適応的な壁の肥厚が起きる。図14-Bは、E2Fデコイ(decoy)のODNによってトランスフェクトされた静脈について、無処理の移植片、およびスクランブルされたODNによってトランスフェクトされた対照用移植片と比較したときの図14-Aの場合と同様の結果を示している。n=6、p<0.005。
【0049】
上記の説明には、特異的なものが多く含まれているが、それらを本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではなく、それらの特定の態様を例示したものと解釈すべきである。例えば、時間を変化させたインキュベーション圧が一般的に用いられる。実用に応じて、封入装置、保護装置、および/または閉塞装置の設計として可能なものが、当業者によって数多く考案されうる。望ましいか、ほぼ最大のトランスフェクション効率をもたらす、さまざまなインキュベーション圧、インキュベーション時間、およびインキュベーションの活性物質の用量は、それぞれの組織型について容易に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1-Aは、本発明の輸送システムを示すものである。図1-Bは、血管に輸送されるべき物質を含む溶液を輸送する前の、血管の遊離末端に接続した図1-Aのシステムを示している。図1-Cは、血管の内皮に輸送される物質を含む溶液を輸送している最中の図1-Bのシステムと血管とを示している。図1-C'は、血管の内皮と外側表面とに輸送される物質を含む溶液を輸送している最中の図1-Bのシステムと血管を示している。
【図2】図2は、圧力をかけた封入空間の境界を画定している血管部位への輸送を図示している。
【図3】図3-Aは、血管への細胞内輸送の別法を示したものである。図3-Bは、血管に機械的な圧力が加えられている、図3-Aの血管を示している。
【図4】図4-Aは、血管に輸送される物質を含む溶液を輸送するのに適合させた二バルーンカテーテルを示したものである。図4-Bは、バルーンが膨張した状態にある、図4-Aのカテーテルを示したものである。図4-Cは、血管壁に輸送される物質を含む溶液を輸送するためのバルーンと内管をもつカテーテルシステムを示している。
【図5】図5-Aは、ある器官の血管への輸送を図示している。図5-Bは、器官に圧力をかけるためのバルーンカテーテルの使用を示している。
【図6】図6は、与圧チャンバーを含む輸送システムを示している。
【図7A】図7-Aは、本発明にしたがってトランスフェクトされたヒト伏在静脈に対してかけられた圧力の関数としてのトランスフェクション効率を示している。
【図7B】図7-Bは、FITC-ODNに感染したヒトの伏在静脈のトランスフェクション効率に対する膨満防止シースの効果を図示している。
【図7C】図7-Cは、ヒトの伏在静脈にIL-6のアンチセンスODNをトランスフェクトした後のIL-6タンパク質産生阻害を図示している。
【図8】図8-Aは、ヒトの伏在静脈にIL-6のアンチセンスODNをトランスフェクトした後の、一番目の被験者におけるIL-6mRNAの産生阻害を図示している。図8-Bは、二番目の被験者についての、図8-Aの場合と同じグラフである。図8-Cは、三番目の被験者についての、図8-Aの場合と同じグラフである。
【図9】図9-Aは、蛍光顕微鏡で測定した、ウサギの頚動脈のインビボでのトランスフェクションのトランスフェクション効率を示したものである。図9-Bは、蛍のルシフェラーゼをコードするDNAによって、ウサギの頚動脈をインビボでトランスフェクトした後の、対照用細胞、健康な細胞、およびアテローム性動脈硬化症の細胞についてのルシフェラーゼ活性を示している。
【図10】図10は、本発明の方法にしたがって、インビボでトランスフェクトされた、ラットの血管平滑筋細胞のトランスフェクション効率を示している。
【図11】図11は、蛍のルシフェラーゼをコードする遺伝子を含むプラスミドDNAを灌流された、ラットの腎臓のルシフェラーゼ活性を示している。
【図12A】図12-Aは、ラットの大動脈細胞における、トランスフェクション効率に対する圧力の効果を示している。
【図12B】図12-Bは、アンチセンスPCNA ODNによる圧力媒介トランスフェクションを行ったときと行わなかったときに、移植されたラット大動脈において虚血によって誘導されるPCNAの発現を示している。
【図12C】図12-Cは、アンチセンスcdc-2キナーゼODNによる圧力媒介トランスフェクションを行ったときと行わなかったときに、移植されたラット大動脈において虚血によって誘導されるcdc-2キナーゼの発現を示している。
【図12D】図12-Dは、PCNAとcdc-2キナーゼの両方に対するアンチセンスODNによる、圧力媒介トランスフェクションの結果、同種組織移植され、虚血による傷害を受けたラット大動脈の管腔の狭窄が低下することを示している。
【図13】図13-Aは、圧力を加えるか、または圧力なしで、FITC-ODNによってエクスビボでトランスフェクトされたラットの心臓におけるトランスフェクションの効率を示している。図13-Bは、移植されたラットの心臓における、アンチセンスICAM-1 ODNによる圧力媒介トランスフェクションを行ったときと行わなかったときの、ICAM-1の発現を示している。図13-Cは、ICAM-1に対するアンチセンスODNによる、移植されたラット心臓の圧力媒介トランスフェクションによって、移植片受容が長期的に誘導されることを図示している。
【図14】図14-Aは、無処理(対照)の移植片、および、PCNAとcdc-2キナーゼの両方に対するリバースアンチセンス(対照)ODN、またはアンチセンスODNのいずれかによってトランスフェクトされた移植片について、移植後6週間と6ヶ月目の壁の肥厚を示している。図14-Bは、E2Fデコイ(decoy)のODNによってトランスフェクトされた静脈について、無処理の移植片、およびスクランブルされたODNによってトランスフェクトされた対照用移植片と比較したときの、図14-Aの場合と同様の結果を示している。
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本発明は、生細胞による細胞外の物質の取り込みを容易にすることに関する。
細胞および分子生物学の研究によって、生細胞の膜の内部には、複雑な物理学的および生化学的な環境が存在することが明らかになった。これらの膜は、さまざまな細胞型において特定の機能を果たす精巧な半透性の障壁を具備しており、すべての生細胞の膜は、生命が営まれる微小な水性空間を隔離するように働く脂質の二層構造からなる。すべての細胞は、細胞の境界となっている脂質二重膜を通過することができない大きな物質および/もしくは疎水性の物質を受動的に排除するか、または特定のタンパク質によって細胞膜を通過する分子もしくは粒子の能動的に調節された双方向性の動きによって、その内部空間の分子構成を調節している。これらのタンパク質には、結合して、細胞内への汎用的な通路を提供するか、または特定の要素だけが入るのを許す孔またはチャンネルを形成するものがある。
【0002】
原子、分子、または微小粒子を細胞の中に取り込ませることは、生物科学者および臨床医学研究者に必須の手段となっており、これをもとにして、彼らは、生物の細胞内でのプロセスを詳しく調べたり、病気を予防、診断、または克服するための薬理学的な方法を工夫することができるようになる。細胞膜は、機能的に複雑な性質をもっているため、荷電した分子または高分子を輸送することが、しばしば非常な難問となり、このために、そのような物質を細胞内に適用して用いる可能性が制約されてきた。その上、多くの複合物質は、エンドサイトーシスまたはピノサイトーシスのような細胞膜陥入作用によってのみ、細胞に取り込まれる。そして、このようにして形成された、それ以前には細胞外物質であったものを含むエンドサイトーシス小胞は、厳しい酵素的環境を含むリソソームと融合して、ほとんどの場合に、取り込まれた物質は、酵素消化によって分解される結果となる。
【発明の開示】
【0003】
発明の概要
本発明の方法は、生細胞の細胞外環境へ物質を輸送すること、細胞の周囲に封入された空間を作出すること、および、細胞による物質の取り込みを促進するのに十分なインキュベーション圧を、封入された空間内に確実に加えることを含む。この物質の大きさは低分子から微小粒子にまで及ぶことができ、それを取り込んだ細胞に対して、ある範囲で影響を与え、または、ある範囲で機能を働かせることができる。例えば、この物質は、低分子(例えば、薬物)、糖、脂肪酸、もしくは脂肪酸誘導体、またはタンパク質(例えば、抗体、酵素、もしくはホルモン)などでもよい。この細胞は、インビトロ、すなわち組織もしくは器官培養系の中で生存することができ、または、生きた生物、例えば、ヒトなどの哺乳動物の一部を構成することができる。
【0004】
このように、本発明の目的は、標的細胞もしくは細胞集団の中で、誘導しないときに予想もしくは認識されるよりも高い程度で、微小粒子種もしくは分子種の細胞内取り込みを誘導することである。したがって、この方法を用いれば、通常は少量しか取り込まれない物質を、より大量に細胞内に輸送することが容易になり、または、この方法を用いないと、細胞膜によって細胞外の環境に排除されたままになる物質を細胞に取り込ませることができるようになる。また、本発明は、標的集団における、より大きな割合の細胞に、より効率的な取り込みを行わせることができ、また、特定の器官または組織を標的とすることもできる。また、本発明の方法を用いて行われる細胞内輸送は、組織の損傷(例えば、膨脹)または外傷を惹き起こさないという点、および、細胞にとって毒性となる可能性がないという点で有利である。さらに、本発明の細胞内輸送方法は、多くの場合、リソソームへの区画化を伴うことなく、細胞の細胞質への輸送手段を提供し、それによって、輸送された物質がリソソームの酵素によって破壊されるのを防止できるようにする。この方法は、また、物質が細胞内の障壁を通って、細胞核などの空間の中に移動するのを促進することもできる。
本発明のその他の特徴と利点は、詳細な説明、図面、および請求の範囲から明らかになる。
【0005】
詳細な説明
本発明によって用いることのできる物質の種類には、(1)荷電した原子またはイオン、(2)中性の、または荷電した低分子(例えば、1,000以下の分子量をもつ分子)で、小さな核酸を除いたもの、(3)核酸以外の高分子(例えば、1,000以上の分子量をもつ分子)で、特に、タンパク質とペプチド、(4)ポリマーおよび単繊維(一般的には、最大でも10μmより小さい)、(5)無機的な原子と分子、および(6)微小粒子(一般的には、大でも10μmより小さい)が含まれる。これらの物質を、物質の種類と、それの使用目的に応じて、多様な濃度、好ましくは、1 nMから1 mMであるが、これに限定はされない濃度で、細胞の細胞外環境に輸送することができる。本発明の各応用において用いられる正確な濃度は、輸送される物質の化学、生化学、または機能的な性質に関する知識に基づいて、使用者が決定することができる。この物質は、細胞外の環境の溶液中に存在するか、または、懸濁液もしくはコロイドを含むことができる。
【0006】
組織と細胞外環境を含む密封された空間を画定すると、密封された空間の中のインキュベーション圧が確定する。好ましい態様において、この封入空間の境界は、実質的に、封入手段によって区切られているため、標的組織(標的細胞を含む組織)に等方向性の圧力がかかり、膨脹したり、外傷を受けたりしない。別の態様において、封入空間の境界は、組織によって区切られている。そして、非弾性のシースのような保護装置を組織の回りに置いて、組織の膨脹と外傷を防止する。
【0007】
特に、血管においては、密封空間を、膨らませることのできるバルーンか、紐で縛ることによって形成された閉塞部の間に画定することが好ましい。輸送すべき物質を含む溶液は、閉塞部の間にある輸送用出口をもつカテーテルによって封入空間へ輸送される。より一般的には、器官内の空間に圧力をかけることができるよう、器官の導管(例えば、血管)の中に閉塞部を作り出すことによって、封入空間を器官の中で画定する。
【0008】
細胞による取り込みを促進するために用いられるインキュベーション圧は、好ましくは、予定されたインキュベーション時間の間、予定されたレベルに維持される。インキュベーション圧は、適用用途に応じて異なり、インキュベーション時間、組織型、および輸送される分子などのパラメータが含まれる。用いられるインキュベーション圧は、例えば、大気圧よりも50 mmHgから5気圧高い圧力、例えば、大気圧よりも300 mmHgから1500 mmHg高い圧力、または、大気圧よりも0から2気圧高い圧力といった範囲に及びうるが、効果的な輸送が行われ、相殺するような傷害(a counter veiling injury)が標的細胞によって保持されないかぎり、これらより高い圧力や低い圧力を用いてもよい。
【0009】
細胞による取り込みを容易にするために用いられるインキュベーション時間は、インキュベーション圧、標的組織型、輸送される分子、および望ましい用量などのパラメータによってさまざまに変化しうる。インキュベーション圧を継続する時間は、例えば、約1秒から4時間に及びうる。好ましくは、圧力を継続する時間は、20秒から30分の間であり、より好ましくは、60秒から10分の間である。
【0010】
適当な哺乳動物の標的組織には、血管組織(特に、動脈の移植片として用いられる静脈)、心臓、骨髄、結合組織、肝臓、腎臓、性器-泌尿器系組織、骨、筋肉、胃腸器官、ならびに内分泌および外分泌器官が含まれる。本発明の方法は、器官の一部、器官全体(例えば、心臓)、または生物体全体に対して適用することができる。一つの態様において、輸送すべき物質を含む溶液を、患者の標的領域(例えば、腎臓)に灌流して、与圧チャンバーの中で、その患者に圧力をかける。本発明の適用には、異系移植片(移植患者以外の異なる個体に由来する移植片)と同系移植片(移植患者に由来する移植片)を処理することも含まれる。
【0011】
放射性標識、蛍光標識、または化学的標識によって物質を標識し、圧力促進による投与の後、この物質を標識を通して追跡することによって、本発明の各適用用途に関する条件を決定することができる。または、生物活性の測定を行ってもよい。同様に、所望の物質に化学的および/または物理的に類似した簡易標識物質の輸送を定量することによって、最適な輸送条件を実現することができる。
【0012】
上記で検討されたように、本発明の方法を用いて、分子を細胞の中に輸送するためのシステムには、少なくとも密封空間の境界部分を画定するための封入装置と、封入空間の中でインキュベーション圧を作り出すための与圧装置とが含まれる。封入空間には、標的細胞と、細胞の細胞外環境とが含まれる。カテーテルや注射器などの輸送装置を用いて、直接的または間接的(例えば、静脈内注射によって)に、細胞外環境に分子を輸送する。
【0013】
封入空間の境界は、封入装置によって、場合によっては、組織によって画定される。適当な封入装置には、その態様に応じて、与圧チャンバー、不透性のシースまたは袋、および組織内の通路を閉塞するための閉塞装置が含まれる。与圧チャンバーは、移植片または生物体全体を処理するのに特に適しており、一方、他の装置は、組織を手術中に処理するのによく適している。
【0014】
一つの態様において、封入空間の境界は、封入装置によって実質的に画定される。そして、圧力が、あらゆる方向から標的組織に均一にかけられるため、標的組織は外傷を患う危険を受けない。別の態様において、組織(例えば、標的組織)によって、境界部分を画定する。封入空間の境界の組織形成部分は、片側だけから圧力をかけられると、膨脹することがある。非弾性のシースのような保護装置を組織の回りに置いて、組織の膨脹と外傷を防ぐ。本発明の方法と輸送システムは、以下でさらに詳細に例示されている。
【0015】
図1-Aから図1-C'は、血管細胞に分子を与圧輸送する方法を図示している。図1-Aは、本発明の輸送システム11の側面図である。システム11は、輸送すべき物質を含む溶液40を保持するための貯蔵装置10と、貯蔵装置10から溶液40を放出するための輸送装置とを備えている。輸送装置は、プランジャー12と輸送用チューブ14を備えている。プランジャー12の反対側で、貯蔵装置10は、チューブ14へと開口している。チューブ14に接続しているのは、貯蔵装置10に近い順に、コック栓16、圧力計18、収縮したシース20、およびノッチ22である。シース20は、好ましくは、不透性で、弾力性がない。ノッチ22は、チューブ14の遠位の開口末端30に隣接している。コック栓16は、溶液40が貯蔵装置10からチューブ14に入らないよう、最初は閉位置にある。
【0016】
図1-Bは、システム11に接続された血管24を示している。開口末端30は、血管24の近位の末端に置かれている。ノッチ22は、組織24の近位の末端の内側にぴったりと合わせられている。シース20は、組織24を覆うように引き下げられている。紐または結紮糸26Aが、シース20と組織24がチューブ14につながっているところで、組織24が開口末端30から滑り落ちないように、シース20と組織24に巻き付いている。コック栓16を開口位置まで回すと、溶液40がチューブ14とシース20に流入し、シース20の開口末端28から入った気体と液体をすべて流し出す。流し出した後、縛り紐26Bをシース20の遠位の開口末端28にかけて、図1-Cと図1-C'に示す防水シールを形成させる。図1-Cは、血管24の内皮を標的とする輸送を示している。図1-C'は、血管24の内皮と外側表面への輸送を示している。
【0017】
図1-Cでは、縛り紐26Bは、シース20と組織24の周囲に配置されている。縛り紐26Bは、血管24を閉塞する。コック栓16を、その開口位置まで回し、プランジャー12を押すと、輸送圧の下に、溶液40が血管24へと輸送される。インキュベーション圧になるまで輸送圧を上げてから、コック栓16を閉じる。インキュベーション時間の間、血管24をインキュベートさせた後、縛り紐26Bを外して、圧力から解放する(図示されていない)。
【0018】
密封空間の境界は、血管24の壁と封入装置とによって画定されている。この密封空間は、血管24の標的(内皮)細胞と、それらの細胞外環境を含んでいる。コック栓16が閉位置にあるとき、封入装置は、チューブ14、コック栓16および結紮糸26Bを含む。コック栓16が開位置にあるとき、封入装置は、結紮糸26B、チューブ14、プランジャー12、貯蔵装置10の壁の部分を含む。この封入装置は、封入空間の境界の少なくとも一部分を画定する。
【0019】
図1-Cに示した態様において、封入空間の境界の一部分は、血管24によって画定される。血管24の内側にだけ圧力をかけると、血管24が膨脹して、外傷を受けることがある。シース20は、保護装置として作用し、血管24が膨脹するのを防ぐ。したがって、図1-Cに示したような配置では、シース20が非弾性であることが重要である。
【0020】
図1-C'に示すように、縛り紐26Bをシース20の回りにだけ巻き付けることも可能である。この場合、血管24の標的細胞とそれらの細胞外環境を含む密封空間が、封入装置によって、実質的に画定される。コック栓16が閉位置にあるとき、封入装置は、シース20、チューブ14、コック栓16および結紮糸26B'を含む。コック栓16が開位置にあるとき、封入装置は、シース20、チューブ14、結紮糸26B'、プランジャー12、および貯蔵装置10の壁の部分を含む。
【0021】
図1-Cに示した態様において、封入空間の境界は、封入装置によって、実質的に画定される。血管24の回りの圧力は一様で、そのため、血管24は外傷を受けない。シース20が、封入装置の一部として作用するため、シース20が不透性であることが重要である。しかし、非弾性のシースを使用することで、血管24に外傷をもたらさないとはいえないので、図1-Cの配置において、シース20は必ずしも非弾性である必要はない。
【0022】
図2は、患者の循環系に連結された血管への分子をインビボで輸送する方法を図示している。チューブ14を、生きた動物の身体にまだ結合している管224の管腔の中に挿入する。シース220で管224の回りを覆い、ファスナー228(例えば、熱シール)をシート220の二つのフラップに接着させてチューブを形成させる。シース220は、保護装置として作用し、管224が膨脹するのを防止する。二つの縛り紐226Aと226Bは、シース220の周囲を覆う。縛り紐226Aと226Bは、閉塞装置として作用し、管224を閉塞させる。閉塞子226Aと226B、および、閉塞子226Aと226Bとの間の管224の壁が、管224の標的細胞とそれらの細胞外環境とを含む密封空間230を画定している。溶液40を密封空間の中に注射して、区域230をインキュベーション時間インキュベートさせる。インキュベーション時間後、閉塞子226Aと226Bを取り除き、管224を通して血液を流れさせる。
【0023】
図3-Aと図3-Bは、輸送装置と与圧装置を別々にもち、図2に示した血管に分子を輸送するのに用いられる輸送システムを図示したものである。図3-Bに示されているように、硬い管状の覆い250をシート220の回りに巻き、万力252を覆い250の回りに巻く。覆い250の円周は自由に変えることができるため、それが形成するチューブの直径はさまざまであるが、軸方向には固定しているため、その直径が変化しても、実質的には管状のままである。固定ねじ254で万力252を締めつけて、覆い250をぴったりと固定して、管224の中に圧力を生じさせる。インキュベーション時間の間、この圧力を維持した後、ねじ254のねじを緩める。
【0024】
図4-Aから図4-Dは、カテーテル314を通して血管324の管腔に輸送される物質を含む溶液を輸送する方法を図示したものである。カテーテル314を管324の中に挿入する。カテーテル314をその末端316で閉じる。カテーテル314は二つのバルーン332Aと332Bとをもち、バルーン332Aと332Bの間ににある輸送口330をもっている。まず、図4-Aに示すように、バルーン332Aと332Bを膨張させる。カテーテル314を管324の中に挿入した後、図3-Bに示すように、バルーン332Aと332Bを膨張させる。バルーン332Aと332Bは、管324を閉塞し、管324の中に密封空間334を作り出す。輸送すべき物質を含む溶液340は、輸送口330を通って密封空間334に輸送される。圧力の下に、溶液340が輸送されるため、密封空間334に圧力が加わる。インキュベーション時間が終わった後、バルーン332Aと332Bのガスを抜くと、標的封入空間334が減圧する。
【0025】
図4-Cは、本発明の代替的な輸送システムを示しており、カテーテルの上に付けたバルーンが、血管壁に輸送される物質を含む溶液を輸送するための細管をもっている。バルーン432は、バルーン432の中のカテーテル314の区域内の穴452に直接結合した細管450をもっている。圧力を加えられた溶液440が、カテーテル314を通って輸送されると、溶液440は、ホール452から出て、細管450を通って移動して、管324の壁に到達する。
【0026】
図5-Aは、心臓などの器官124の血液の導管(血管、ならびに/または心房および心室)へ輸送するためにシステム11を使用することを図示している。保護用シース120が、器官124を包んでいる。器官124には、血液を運び込む動脈112と血液を運びだす静脈114とがついている。チューブ14を動脈112の管腔の中に挿入して、動脈112と静脈114をシース120で包み込む。縛り紐126Aを、動脈112のところでシース120の回りに巻き付け、縛り紐126Bを、静脈114のところでシース120の回りに巻き付けて、液体が器官124の外に漏れるのを防ぐ。縛り紐126Aは、チューブ14が動脈112の中に入ることができるようにしてはあるが、しっかりと巻き付けて、動脈112をシールして漏れないようにしてある。輸送すべき物質を含む溶液40を注射して、器官124をインキュベートする。インキュベーション時間経過後、縛り紐126Aと126Bを取り除いて、血液がもう一度器官124を通って流れるようにする。
【0027】
図5-Bは、器官(例えば、胃腸の器官)の入口と出口とをシールするためのバルーンカテーテルの使用を示している。バルーン552をもつカテーテル550を、器官524とつながっている第一の器官導管512の中に挿入し、バルーン562をもつ別のカテーテル560を、器官524から出ている第二の器官導管514の中に挿入する。まず、バルーン552と562のガスを抜く(図示されていない)。カテーテル550と560が、それぞれの血管の中に挿入されたら、バルーン552と562を膨らませて、導管512と514のそれぞれで閉塞を起させる。輸送されるべき物質を含む溶液540が、輸送圧の下で器官524に輸送される。
【0028】
図6は、物質を細胞に輸送するのを促進するための、与圧チャンバーの使用を図示している。皿610などの保持装置の中に、標的細胞を含む組織624が入っている。物質を含む溶液640は、皿610の中に入っている。皿610は、与圧チャンバー650の中に置かれている。チャンバー650を閉じて密封して、加圧ガス(例えば、CO2)を導管660からチャンバー650へ導入する。溶液640と組織624を、インキュベーションする間、インキュベーション圧の下に維持する。組織624には、器官全体も含まれる。
【0029】
図6に示されているような与圧チャンバーは、生物の全身に圧力をかける輸送方法に特に適している。このような方法においては、輸送されるべき物質を含む溶液は、好ましくは、患者の血管および/または器官(例えば、腎臓)の中に灌流される。患者は、与圧チャンバーの中に入る。そして、インキュベーション時間の間、与圧チャンバーをインキュベーション圧に保つ。
【0030】
圧力の下で分子に対する細胞膜の透過性が上昇することの基礎には、いくつかのメカニズムが存在する可能性がある。膜透過性が上昇するには、細胞、および/または細胞外環境の中の圧力が上昇している必要があるが、必ずしも、細胞膜を横切って圧力に勾配がある必要はない。膜貫通チャンネルを構成するタンパク質の構造が高圧で変化し、それによって、チャンネルを通って細胞質の中に入る、分子の通路が形成される可能性がある。
【0031】
用いられる正確な圧力、インキュベーション時間、および濃度は、標的とする組織によって変わる。例えば、さらに後述するように、低い圧力(約0.5気圧)での約5分間というインキュベーション時間は、ヒトの伏在静脈におけるほぼ最大のトランスフェクション効率を達成するのに充分である一方、ラットの大動脈において、80〜90%のトランスフェクション効率を達成するためには、高圧(約2気圧)で1時間を超えるインキュベーション時間が必要である。ラットの心臓については、50%を超えるトランスフェクション効率を得るためには、2気圧で30〜45分間のインキュベーション時間が必要である。一般的に、異なった組織型において、一定のトランスフェクション効率を達成するのに必要なインキュベーション時間は、分から時間までさまざまであり、インキュベーション圧力も、気圧の単位でさまざまである。ある組織型にとって適当なインキュベーション時間と圧力は、当業者によって容易に決定することができる。
【0032】
封入空間壁の組織形成部分には物理的なストレスがかかるため、外科的処置にとって止むを得ないという制限がないときには、圧力をかけられる封入空間の壁は、生組織を含んでいないことが一般的に好ましい。処置の間循環系に連結している血管組織の処置など(図3-Aと3-B参照)、外科的処置には、封入空間壁の少なくとも一部が組織によって画定される必要のあるものがある。このような場合には、保護装置を用いて、組織の膨脹を防ぐことが重要である。エクスビボで処理される移植片は、一般的に、与圧チャンバーか、同等の加圧封入空間の中でインキュベートすることが好ましい。
【0033】
本発明の方法を、核酸分子の細胞内輸送を示す下記の実験において、さらに具体的に説明する。さまざまなインキュベーション圧、インキュベーション時間、および組織型について、本発明の方法のトランスフェクション効率を評価した。下記の考察で用いられる略語のうち、CTRLは対照、ELISAは酵素結合免疫測定法、FITCはフルオロセインイソチオシアネート、FITC-ODNはFITC標識オリゴデオキシリボ核酸、IL-6はインターロイキン6、ODNはオリゴデオキシリボ核酸、PCRはポリメラーゼ連鎖反応、VSMCは血管平滑筋細胞である。「n」という文字は、各データポイント毎に評価された被験者数を表している。かけられた圧力は、大気(周囲の)圧を超えて、サンプルにかけられた正味の圧力である。
【0034】
実施例1
図1-Cで例示された方法と同じ方法によって、FITC-ODNをヒトの伏在静脈にトランスフェクトした。図7-Aは、いくつかのODN濃度について、かけられた圧力の関数としてのトランスフェクション効率を示している。効率は、蛍光顕微鏡によって、FITC-ODNを核に局在させていることが判明した血管内膜と中膜の全細胞数の割合として測定した。圧力は、50から760 mmHgに及び、また、生理食塩水内のODN濃度は、5から100μMに及んだ。n=6。
【0035】
図1-Cに図示されている方法と同様の方法を用いて、ODN濃度20μMと、50から760 mmHgの圧力で、トランスフェクション効率に対する膨満防止用シースの効果を評価した。図7-Bは、実験結果を示している。n=6。
【0036】
全器官培養物におけるアンチセンスODNによるIL-6産生の阻害を測定して、本発明の方法のトランスフェクション効率をインビトロで調べた。トランスフェクションの後、静脈区域を増殖培地の中で24時間インキュベートした。図1-Cに図示されている方法と同様の方法にしたがって、5 mM、10 mM、および100 mMで10分間トランスフェクションを行った。図7-Cは、ELISAによって、アンチセンスをトランスフェクトした培養細胞の増殖培地で、IL-6タンパク質の減少が検出されたことを示している。示されている減少レベルは、トランスフェクトしなかった静脈と非特異的ODNでトランスフェクトした静脈の対照用培養細胞で見られるレベルに相応している。n=6。
【0037】
実施例2
定量的逆転写PCRを用いて、本発明にしたがって行われたアンチセンスODNトランスフェクションの結果起こるIL-6 mRNAの減少を測定した。図1-Cに図示されているようにして、ヒトの伏在静脈の標本3個にトランスフェクトして、アンチセンスでトランスフェクトした静脈区域におけるmRNAのレベルを、無処理の区域とリバースアンチセンス(対照)ODNでトランスフェクトした区域におけるレベルと比較した。3つの標本についての結果が、それぞれ図8-A、図8-B、および図8-Cに示されている。mRNAのレベルの減少は、アンチセンスODN処理の配列特異的な有効性を示している。
【0038】
実施例3
図2に図示した方法と同様の方法によって、ウサギの頚動脈をFITC-ODNによってインビボでトランスフェクトした。トランスフェクション後4時間目、4日目、7日目に、トランスフェクション効率を測定した。FITC陽性の核の割合が、時間の関数として図9-Aに示されている。n=2〜3。ルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドDNA構築物によってウサギの頚動脈をインビボでトランスフェクトした後、蛍のルシフェラーゼ遺伝子の発現を測定した。健康な動脈(正常)とアテローム性動脈硬化症の血管(CHOL/inj)を、図2で図示されているようにして、圧力の下でトランスフェクトした。対照(CTRL)の動脈を、圧力をかけずに、ルシフェラーゼ遺伝子をもつプラスミドに暴露した。5日目に動脈を回収して、ルシフェラーゼ活性について組織破砕液を解析した。解析結果を図9-Bに示す。n=2〜4。
【0039】
実施例4
図6に示されているようにして、FITC-ODNによって、ラットの血管の平滑筋細胞(VSMC)をインビボでトランスフェクトした。細胞に大気圧(正味圧力0気圧)、または2気圧のいずれかを45分間加えた。図10は、1 mMと80 mMのFITC-ODN濃度におけるトランスフェクション効率を示している。n=4。
【0040】
実施例5
図11は、図6に示されているようにして、蛍のルシフェラーゼの遺伝子を含むプラスミドDNAをインビボで灌流したラットの腎臓細胞のトランスフェクション効率に対する圧力の効果を図示している。腎臓を灌流した後、ラットに大気圧(0気圧)または2気圧を30分間加えた。トランスフェクション後3日目に腎臓を回収して、ルシフェラーゼ活性について組織破砕液を解析した。n=7。
【0041】
実施例6
図12-Aは、ラットの大動脈細胞における、トランスフェクション効率に対する圧力の効果を示している。ドナーラットから大動脈を採取して、図1-C'で図示されているようにして、生理溶液の中で、4℃で24時間インキュベートして虚血傷害を誘導した。インキュベーション溶液は、40μmのFITC-ODNを含んでいた。インキュベーションは、大気圧よりも0気圧および2気圧高い気圧で行った。インキュベーションの後、この組織をラットの大動脈の中に同系移植し、移植してから24時間後に回収した。DNAにインターカレートする蛍光性染料によって共染色した切片の蛍光顕微鏡観察によって、FITCの核局在を評価した。トランスフェクション効率は、FITC-ODNの核局在を示す細胞の、全細胞に対する割合で表されている。n=3、p<0.005。
【0042】
図12-Bは、圧力媒介によるアンチセンスPCNA ODNのトランスフェクションを用いたときと用いなかったときの、移植されたラット大動脈における、虚血によって誘導されるPCNAの発現を示している。トランスフェクションの手順は、図1-C'に図示されている手順と同じであった。生理溶液(対照)、または40μMのODNを含む生理溶液のいずれかの中で、4℃で24時間インキュベートして虚血傷害を誘導した。インキュベーションしている間、対照サンプルとODN処理したサンプルの両方に、大気圧よりも2気圧高い圧力をかけた。同種組織移植してから6日後に組織を回収し、ELISAによって、組織破砕液におけるPCNAタンパク質のレベルを測定した。n=7、p=0.02。
【0043】
図12-Cは、圧力媒介によるアンチセンスcdc-2キナーゼODNのトランスフェクションを用いたときと用いなかったときの、移植されたラット大動脈における、虚血によって誘導されるcdc-2キナーゼの発現を示している。トランスフェクション、移植、および回収の手順は、図12-Bに関して上記した手順と同じであった。cdc-2キナーゼのタンパク質レベルをELISAによって測定した。
【0044】
図12-Dは、PCNAとcdc-2キナーゼの両方に対するアンチセンスODNによる、圧力媒介トランスフェクションの結果、同種組織移植され、虚血による傷害を受けたラット大動脈の管腔の狭窄が低下することを示している。生理溶液(対照)、またはアンチセンスPCNA/アンチセンスcdc-2キナーゼのODN(それぞれ40μM)の溶液のいずれかの中で、4℃で24時間インキュベートして虚血傷害を誘導した。大気圧よりも2気圧高い圧力を、すべての組織(対照を含む)に加えた。コンピュータによる画像解析によって測定したところ、細胞周期を調節する、この2つの遺伝子の発現を遮断すると、虚血傷害を受けた同系移植片における新生内膜肥厚と管腔狭窄が抑制された。n=12、p=0.03。
【0045】
実施例7
図13-Aは、圧力をかけて、または圧力なしで、FITC-ODNによってエクスビボでトランスフェクトされたラットの心臓におけるトランスフェクションの効率を示している。大動脈をクロスクランピング(crossclamping)した後、ドナーの心臓の冠状動脈の中にFITC-ODN溶液(80μM)を灌流した。心臓をFITC-ODN溶液の中に沈めて、図6に示したようにして、4℃で、大気圧よりも0気圧か、または2気圧高い気圧を45分間加えた。そして、この心臓を、受容ラットの腹大動脈と大静脈の中に異所的に移植した。トランスフェクションしてから24時間後に、DNAにインターカレートする蛍光性染料によって共染色した切片の蛍光顕微鏡観察によって、FITCの核局在を評価した。トランスフェクション効率は、FITC-ODNの核局在を示す細胞の、全細胞に対する割合で表されている。n=3、p<0.005。
【0046】
図13-Bは、アンチセンスICAM-1 ODNの圧力媒介トランスフェクションを行ったときと行わないときの、移植されたラットの心臓におけるICAM-1 の発現を示している。大動脈をクロスクランピング(crossclamping)した後、ドナーのPVG系統の心臓の冠状動脈の中に、食塩水(対照)、またはアンチセンスICAM-1- ODN溶液(80μM)のいずれかを灌流した。そして、心臓をFITC-ODN溶液の中に沈めて、図6に示したようにして、4℃で、大気圧よりも2気圧高い気圧を45分間加えた。ACI受容ラットの中に異所性移植してから3日後に組織を回収した。ICAM-1について免疫組織組織化学的に染色した切片の画像解析によって、ICAM-1陽性の領域を測定した。n=3〜6、p=0.04。
【0047】
図13-Cは、ICAM-1に対するアンチセンスODNによる、移植されたラット心臓の圧力媒介によるトランスフェクションによって、移植片受容が長期的に誘導されることを図示している。PVG系統のラットの心臓を採取して、図13-Bに関して上記されているようにして、アンチセンスICAM-1 ODN溶液(80μM)、または食塩溶液(対照)によって、エクスビボでトランスフェクトした。そして、この心臓を、ACI系統の受容ラットに異所的に移植した。移植後6日間、すべての動物に抗-LFA-1抗体を全身投与して、ICAM-1に対するリガンドを遮断した。これ以外の免疫抑制剤は投与しなかった。耐性は、異系移植片を長期的に受容していることが分かった処理動物の割合として報告されている。移植片受容は、移植片において100日よりも長く心臓の鼓動があることによって明確になった。対照のn=12、アンチセンス処理のn=27、p=0.003。
【0048】
実施例8
図14-Aと14-Bは、細胞周期を調節する遺伝子の上昇制御を阻害するように設計されたODNによる圧力媒介トランスフェクションの後に、頚動脈に移植されたウサギの頸静脈において、新生内膜肥厚の阻害が起こることを示している。
図14-Aは、無処理(対照)の移植片、および、PCNAとcdc-2キナーゼの両方に対するリバースアンチセンス(対照)ODN、またはアンチセンスODNのいずれかによってトランスフェクトされた移植片について、移植後6週間目と6ヶ月目の壁の肥厚を示している。新生内膜の形成は、6ヶ月目まで阻害されたが、高圧の動脈環境において壁にかかるストレスを軽減するために、中膜肥厚によって、適応的な壁の肥厚が起きる。図14-Bは、E2Fデコイ(decoy)のODNによってトランスフェクトされた静脈について、無処理の移植片、およびスクランブルされたODNによってトランスフェクトされた対照用移植片と比較したときの図14-Aの場合と同様の結果を示している。n=6、p<0.005。
【0049】
上記の説明には、特異的なものが多く含まれているが、それらを本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではなく、それらの特定の態様を例示したものと解釈すべきである。例えば、時間を変化させたインキュベーション圧が一般的に用いられる。実用に応じて、封入装置、保護装置、および/または閉塞装置の設計として可能なものが、当業者によって数多く考案されうる。望ましいか、ほぼ最大のトランスフェクション効率をもたらす、さまざまなインキュベーション圧、インキュベーション時間、およびインキュベーションの活性物質の用量は、それぞれの組織型について容易に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1-Aは、本発明の輸送システムを示すものである。図1-Bは、血管に輸送されるべき物質を含む溶液を輸送する前の、血管の遊離末端に接続した図1-Aのシステムを示している。図1-Cは、血管の内皮に輸送される物質を含む溶液を輸送している最中の図1-Bのシステムと血管とを示している。図1-C'は、血管の内皮と外側表面とに輸送される物質を含む溶液を輸送している最中の図1-Bのシステムと血管を示している。
【図2】図2は、圧力をかけた封入空間の境界を画定している血管部位への輸送を図示している。
【図3】図3-Aは、血管への細胞内輸送の別法を示したものである。図3-Bは、血管に機械的な圧力が加えられている、図3-Aの血管を示している。
【図4】図4-Aは、血管に輸送される物質を含む溶液を輸送するのに適合させた二バルーンカテーテルを示したものである。図4-Bは、バルーンが膨張した状態にある、図4-Aのカテーテルを示したものである。図4-Cは、血管壁に輸送される物質を含む溶液を輸送するためのバルーンと内管をもつカテーテルシステムを示している。
【図5】図5-Aは、ある器官の血管への輸送を図示している。図5-Bは、器官に圧力をかけるためのバルーンカテーテルの使用を示している。
【図6】図6は、与圧チャンバーを含む輸送システムを示している。
【図7A】図7-Aは、本発明にしたがってトランスフェクトされたヒト伏在静脈に対してかけられた圧力の関数としてのトランスフェクション効率を示している。
【図7B】図7-Bは、FITC-ODNに感染したヒトの伏在静脈のトランスフェクション効率に対する膨満防止シースの効果を図示している。
【図7C】図7-Cは、ヒトの伏在静脈にIL-6のアンチセンスODNをトランスフェクトした後のIL-6タンパク質産生阻害を図示している。
【図8】図8-Aは、ヒトの伏在静脈にIL-6のアンチセンスODNをトランスフェクトした後の、一番目の被験者におけるIL-6mRNAの産生阻害を図示している。図8-Bは、二番目の被験者についての、図8-Aの場合と同じグラフである。図8-Cは、三番目の被験者についての、図8-Aの場合と同じグラフである。
【図9】図9-Aは、蛍光顕微鏡で測定した、ウサギの頚動脈のインビボでのトランスフェクションのトランスフェクション効率を示したものである。図9-Bは、蛍のルシフェラーゼをコードするDNAによって、ウサギの頚動脈をインビボでトランスフェクトした後の、対照用細胞、健康な細胞、およびアテローム性動脈硬化症の細胞についてのルシフェラーゼ活性を示している。
【図10】図10は、本発明の方法にしたがって、インビボでトランスフェクトされた、ラットの血管平滑筋細胞のトランスフェクション効率を示している。
【図11】図11は、蛍のルシフェラーゼをコードする遺伝子を含むプラスミドDNAを灌流された、ラットの腎臓のルシフェラーゼ活性を示している。
【図12A】図12-Aは、ラットの大動脈細胞における、トランスフェクション効率に対する圧力の効果を示している。
【図12B】図12-Bは、アンチセンスPCNA ODNによる圧力媒介トランスフェクションを行ったときと行わなかったときに、移植されたラット大動脈において虚血によって誘導されるPCNAの発現を示している。
【図12C】図12-Cは、アンチセンスcdc-2キナーゼODNによる圧力媒介トランスフェクションを行ったときと行わなかったときに、移植されたラット大動脈において虚血によって誘導されるcdc-2キナーゼの発現を示している。
【図12D】図12-Dは、PCNAとcdc-2キナーゼの両方に対するアンチセンスODNによる、圧力媒介トランスフェクションの結果、同種組織移植され、虚血による傷害を受けたラット大動脈の管腔の狭窄が低下することを示している。
【図13】図13-Aは、圧力を加えるか、または圧力なしで、FITC-ODNによってエクスビボでトランスフェクトされたラットの心臓におけるトランスフェクションの効率を示している。図13-Bは、移植されたラットの心臓における、アンチセンスICAM-1 ODNによる圧力媒介トランスフェクションを行ったときと行わなかったときの、ICAM-1の発現を示している。図13-Cは、ICAM-1に対するアンチセンスODNによる、移植されたラット心臓の圧力媒介トランスフェクションによって、移植片受容が長期的に誘導されることを図示している。
【図14】図14-Aは、無処理(対照)の移植片、および、PCNAとcdc-2キナーゼの両方に対するリバースアンチセンス(対照)ODN、またはアンチセンスODNのいずれかによってトランスフェクトされた移植片について、移植後6週間と6ヶ月目の壁の肥厚を示している。図14-Bは、E2Fデコイ(decoy)のODNによってトランスフェクトされた静脈について、無処理の移植片、およびスクランブルされたODNによってトランスフェクトされた対照用移植片と比較したときの、図14-Aの場合と同様の結果を示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞による、原子、分子、または最大でも10μmよりも小さな粒子の取り込みを促進する方法において、
該細胞と、該原子、分子、または粒子を含む液体培地とを接触させる段階、
該細胞と該液体培地とを封入空間の中に維持する段階、および、
該細胞による、該原子、分子、または粒子の取り込みを促進するのに十分なインキュベーション圧を、封入された該細胞と該液体培地とに加える段階を含む方法。
【請求項2】
封入空間を提供するために2箇所でシールされている哺乳動物の血管の内部に該細胞が含まれる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
分子が、1,000よりも小さい分子量をもつ、治療用の荷電した有機分子である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
分子が、1,000よりも大きな分子量をもつタンパク質またはペプチドである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
インキュベーション圧が、大気圧よりも50 mmHgから5気圧高い、請求項1記載の方法。
【請求項6】
インキュベーション圧が、大気圧よりも200 mmHgから2.5気圧高い、請求項5記載の方法。
【請求項7】
細胞が哺乳動物の血管または器官の中に含まれており、インキュベーション圧が、血管または器官の外部と内部とで均衡しているために、該外部と内部との間に圧力勾配が実質的に存在しない、請求項1記載の方法。
【請求項8】
物質を細胞の中に輸送するためのシステムにおいて、該システムが、
密封空間の境界の少なくとも一部を画定するための封入装置で、該密封空間が、該細胞と該細胞の細胞外環境とを含み、該細胞外環境が該物質を含んでいる封入装置と、
該封入装置の内部にインキュベーション圧を確実に生じさせるための与圧装置で、該インキュベーション圧の確実な発生によって、該細胞による該物質の取り込みが促進される与圧装置とを含むシステム。
【請求項9】
物質を細胞外環境に輸送するための輸送装置をさらに含む、請求項8記載のシステム。
【請求項10】
封入装置が半透性のシースを含む、請求項8記載のシステム。
【請求項11】
封入装置が、組織中の通路を閉塞するための閉塞装置を含む、請求項8記載のシステム。
【請求項12】
封入装置が、与圧チャンバーを含む、請求項8記載のシステム。
【請求項13】
境界が、封入装置によって実質的に画定されている、請求項8記載のシステム。
【請求項14】
境界の一部が、組織によって画定されている、請求項8記載のシステム。
【請求項15】
組織における外傷を防止するために、該組織の周囲に配置されるよう調整された保護装置をさらに含む、請求項14記載のシステム。
【請求項16】
保護装置が非弾性のシースを含む、請求項15記載のシステム。
【請求項1】
細胞による、原子、分子、または最大でも10μmよりも小さな粒子の取り込みを促進する方法において、
該細胞と、該原子、分子、または粒子を含む液体培地とを接触させる段階、
該細胞と該液体培地とを封入空間の中に維持する段階、および、
該細胞による、該原子、分子、または粒子の取り込みを促進するのに十分なインキュベーション圧を、封入された該細胞と該液体培地とに加える段階を含む方法。
【請求項2】
封入空間を提供するために2箇所でシールされている哺乳動物の血管の内部に該細胞が含まれる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
分子が、1,000よりも小さい分子量をもつ、治療用の荷電した有機分子である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
分子が、1,000よりも大きな分子量をもつタンパク質またはペプチドである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
インキュベーション圧が、大気圧よりも50 mmHgから5気圧高い、請求項1記載の方法。
【請求項6】
インキュベーション圧が、大気圧よりも200 mmHgから2.5気圧高い、請求項5記載の方法。
【請求項7】
細胞が哺乳動物の血管または器官の中に含まれており、インキュベーション圧が、血管または器官の外部と内部とで均衡しているために、該外部と内部との間に圧力勾配が実質的に存在しない、請求項1記載の方法。
【請求項8】
物質を細胞の中に輸送するためのシステムにおいて、該システムが、
密封空間の境界の少なくとも一部を画定するための封入装置で、該密封空間が、該細胞と該細胞の細胞外環境とを含み、該細胞外環境が該物質を含んでいる封入装置と、
該封入装置の内部にインキュベーション圧を確実に生じさせるための与圧装置で、該インキュベーション圧の確実な発生によって、該細胞による該物質の取り込みが促進される与圧装置とを含むシステム。
【請求項9】
物質を細胞外環境に輸送するための輸送装置をさらに含む、請求項8記載のシステム。
【請求項10】
封入装置が半透性のシースを含む、請求項8記載のシステム。
【請求項11】
封入装置が、組織中の通路を閉塞するための閉塞装置を含む、請求項8記載のシステム。
【請求項12】
封入装置が、与圧チャンバーを含む、請求項8記載のシステム。
【請求項13】
境界が、封入装置によって実質的に画定されている、請求項8記載のシステム。
【請求項14】
境界の一部が、組織によって画定されている、請求項8記載のシステム。
【請求項15】
組織における外傷を防止するために、該組織の周囲に配置されるよう調整された保護装置をさらに含む、請求項14記載のシステム。
【請求項16】
保護装置が非弾性のシースを含む、請求項15記載のシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−54681(P2008−54681A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228799(P2007−228799)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【分割の表示】特願平10−521881の分割
【原出願日】平成9年11月7日(1997.11.7)
【出願人】(307038517)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【分割の表示】特願平10−521881の分割
【原出願日】平成9年11月7日(1997.11.7)
【出願人】(307038517)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】
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