説明

圧力容器の製造方法

【課題】プリプレグの乗り上げやプリプレグ間の隙間の発生を抑えて圧力容器の強度を安定させる。
【解決手段】FRP層を形成するプリプレグ70として断面が菱形のものを用い、該プリプレグ70の一の角をライナ20の内周側に向けた状態で当該プリプレグをライナ20の外周に巻回する。ライナ20の内周側に向けられるプリプレグ70の一の角が鈍角であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器の製造方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、ライナ外周のFRP層がプリプレグによって形成される圧力容器の製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
水素等の高圧ガスの貯蔵に利用される高圧タンクのような圧力容器として、ライナの外周にFRPの補強層を備えるものが利用されている。FRPの補強層は、例えばプリプレグと呼ばれるリボン状の材料をライナの周囲にFW(フィラメントワインディング)することによって形成される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−184223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、ライナの周囲に巻回されるプリプレグの端部が隣接するプリプレグに乗り上げることにより部分的な増厚が生じたり、プリプレグ間にできる隙間により均一な断面とならなかったりすることがあり、これによってFRP層ひいては容器全体の強度が低下するおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、プリプレグの乗り上げやプリプレグ間の隙間の発生を抑えて強度を安定させた圧力容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討をした。従来のプリプレグの一般的な断面形状は長方形であり、このような断面形状のプリプレグの側面を付き合わせるようにして隙間無く巻き付けていくことは、生産速度も求められる状況下においては困難なことである(図9参照)。特に、FW機の給糸口の送り速度は通常一定でありながら、従来のプリプレグのように幅が一定でないと(図10参照)、プリプレグの側部が隣接するプリプレグの側部に乗り上げて隙間を生じさせたり、あるいは側部と側部の間に隙間を生じさせたりすることがある。これらの要因が断面均一なFRPの形成を阻害し、圧力容器の強度低下の原因になっていることに着目してさらに検討を重ねた本発明者は、かかる課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。
【0007】
本発明はかかる知見に基づくもので、ライナと、該ライナの外周を包むFRP層とを有する圧力容器の製造方法であって、FRP層を形成するプリプレグとして断面が菱形のものを用い、該プリプレグの一の角をライナの内周側に向けた状態で当該プリプレグをライナの外周に巻回する、というものである。
【0008】
断面菱形のプリプレグを用いるこの製造方法によると、プリプレグどうしが重なっても互いに乗り上げることがなく、乗り上げによる隙間を生じさせない。また、隣り合うプリプレグ間の隙間を、該隙間よりも内層側に巻かれたプリプレグと外層側に巻かれたプリプレグとにより埋めることができる。これによれば、均一な断面を形成することが可能となるため、圧力容器の強度の安定を図ることができる。
【0009】
また、ライナの内周側に向けられるプリプレグの一の角は鈍角であることが好ましい。
【0010】
さらに、プリプレグとして断面が正方形のものを用いることも好ましい。
【0011】
また、本発明にかかるプリプレグは、ライナと、該ライナの外周を包むFRP層とを有する圧力容器の製造に用いられるプリプレグであって、断面が菱形である、というものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プリプレグの乗り上げやプリプレグ間の隙間の発生を抑えて圧力容器の強度を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】高圧タンク(圧力容器)の断面構造の簡略を示す図である。
【図2】FW機によりタンク本体にプリプレグを巻回する様子を示す図である。
【図3】ライナの周囲に隙間なく巻回された断面菱形のプリプレグを示す断面図である。
【図4】引張テンションを作用させながらプリプレグをライナの外周に巻回する様子を示す図である。
【図5】引張テンションが作用したプリプレグに拘束力が発生している様子を示す図である。
【図6】ライナの外周に巻回される際におけるプリプレグの内外周のテンション差を説明する図である。
【図7】菱形の一例として断面が略正方形であるプリプレグを用いた場合の当該プリプレグの断面図である。
【図8】一例として断面が楕円状であるプリプレグを用いた場合の当該プリプレグの断面図である。
【図9】プリプレグを巻回した際に乗り上げや隙間を生じさせていた従来技術を参考として示す図である。
【図10】幅が一定でない従来のプリプレグを参考として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1〜図5に本発明にかかる圧力容器の製造方法の実施形態を示す。以下では、例えば燃料電池車において利用される水素燃料供給源としての圧力容器(以下、高圧タンクともいう)1を例に挙げ、当該高圧タンク1の構造を例示しつつ説明する。
【0016】
高圧タンク1は、例えば両端が略半球状である円筒形状のタンク本体10、当該タンク本体10の長手方向端部に配置される口金11、該口金11に取り付けられる主止弁(図示省略)等によって構成される(図1参照)。なお、図1では、高圧タンク1の略半球状部分であるドーム部を符号1d、筒状胴体部分であるストレート部を符号1sでそれぞれ表している。
【0017】
タンク本体10は、例えば二層構造の壁層を有し、内壁層であるライナ20とその外側の外壁層である樹脂繊維層(補強層)としてのFRP層21を有している。FRP層21は、例えばCFRP層のみにより、あるいは該CFRP層およびGFRP層の組み合わせにより形成することができる。
【0018】
ライナ20は、タンク本体10とほぼ同じ形状に形成されている。ライナ20は、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、またはその他の硬質樹脂などにより形成されている。あるいは、アルミニウムなどで形成された金属ライナをライナ20とすることもできる。ライナ20の長手方向端部には開口部が形成され、口金11が嵌入されている。口金11には、主止弁として機能するバルブアッセンブリが嵌め込まれる。
【0019】
口金11は、略円筒形状を有し、ライナ20の開口部に嵌入されているもので、アルミニウムやアルミニウム合金からなり、例えばダイキャスト法等により所定の形状に製造されている。また、口金11は射出成形された分割ライナに嵌め込まれているが、例えばインサート成形によりライナ20に取り付けられてもよい。
【0020】
FRP層21は、例えばフィラメントワインディング成形(FW成形)により、ライナ20の外周面と口金11の一部に、樹脂を含浸した繊維(補強繊維)を含むプリプレグ70を巻回し、当該プリプレグ70を硬化させることにより形成されている。FRP層21の樹脂には、例えばエポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が用いられる。また、プリプレグ70としては、炭素繊維(CF)、金属繊維を含むものなどが用いられる。フィラメントワインディング成形の際には、タンク本体10の中心軸を中心としてライナ20を回転させながらプリプレグ70のガイド(FW機給糸口71)をタンク軸方向に沿って(送り速度一定で)動かすことにより当該ライナ20の外周面にプリプレグ70を巻き付けることができる(図2参照)。
【0021】
次に、FW時におけるプリプレグ70の乗り上げやプリプレグ70間の隙間の発生を抑えて強度を安定させるようにした高圧タンク1の製造方法の一例を説明する(図3等参照)。
【0022】
本実施形態では、断面が菱形のプリプレグ70をライナ20の外周に巻き付け、FRP層21を形成することとしている。また、プリプレグ70を巻き付ける際には、当該プリプレグ70の4つの角のうちの一つの角をライナ20の内周側に向けた状態で当該プリプレグ70をライナ20の外周に巻回するようにしている。
【0023】
ライナ20に巻回されるプリプレグ70は、厚みが少ないことが好ましい。一般に、プリプレグ70などのFW対象物においては、プリプレグ70の厚みに対するライナ20の中心径が細くなるほど内外周のテンション差が大きくなることから、繊維破断する可能性が高まる(図6参照)。この点、本実施形態では、プリプレグ70の断面を菱形としており、厚みを少なくしていることから、内外周のテンション差が大きくなるのを抑えることが可能である。このように厚みを少なくした菱形断面のプリプレグ70を用いた場合、当該プリプレグ70の4つの角のうちライナ20の内周側に向けられる角の中心角(断面における角度)は鈍角となる(図5等参照)。
【0024】
プリプレグ70を巻き付ける際には、一層目を巻く際のテンションを最も高くして巻き付ける。また、このようにして断面菱形のプリプレグ70を巻き付ける場合、時間的に後から巻き付けられたプリプレグ70が、隣り合うプリプレグ70間の隙間(プリプレグ境界部分の谷)に自然と落ち込むこととなる。また、隣り合うプリプレグ70間(プリプレグ境界部分)の内周側の隙間は、該隙間よりも内層側に巻かれたプリプレグ70の角部が収まった状態となる。以上から、プリプレグ70どうしが重なっても互いに乗り上げることがなく、乗り上げによる隙間を生じさせない(図3参照)。
【0025】
しかも、断面菱形のプリプレグ70を用いた場合には、多少ずれたとしても、巻回時の引張テンションが、当該ずれをなくすように作用するという利点もある。すなわち、引張テンションが作用している場合、巻回されているプリプレグ70には、プリプレグ境界部分の斜面に沿って下側(内周側)に向かおうとする分力が作用する(図4、図5参照)。このような分力は、巻回時のプリプレグ70が多少ずれて巻き付けられたとしても当該プリプレグ70をプリプレグ境界部分に向かわせて隙間をなくすように作用する。要は、タンク本体10の回転と引張テンションとがプリプレグ70間の谷間へ当該プリプレグ70を拘束する方向に作用する。
【0026】
以上のごとき製造方法によると、プリプレグ70の巻き付け時に生じうる隙間を減少させ、より均一な断面を有するFRP層21を形成することが可能となる。したがって、これによれば高圧タンク1の強度をより安定したものとすることができる。
【0027】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態では断面菱形のプリプレグ70を用いる形態を例示したが、菱形の一例として、断面が略正方形であるプリプレグ70を用いることもできる(図7参照)。回転と引張テンションが(巻回済みの)プリプレグ70間の谷間(プリプレグ境界部分)に拘束する方向に作用することにより、このようなプリプレグ70は、断面菱形のものと同様、プリプレグ70間の隙間をなくすように巻回される。
【0028】
また、FW時におけるプリプレグ70どうしの乗り上げを抑止するという観点からすれば、プリプレグ70の断面形状を楕円状などとすることもできる。こうした場合、断面が菱形の場合と同様、回転と引張テンションとがプリプレグ70間の谷間へ当該プリプレグ70を拘束する方向に作用する(図8参照)。
【0029】
なお、上述の実施形態では断面が菱形である場合を例示して説明したが、ここでいう菱形は幾何学上の厳密な意味での菱形には限られない。要は、本実施形態において断面菱形のプリプレグ70を用いることとした趣旨が、プリプレグ70どうしが重なっても互いに乗り上げることのないようにして隙間をなくす点にあることからすれば、同様の作用を奏しうる限り、厳密には菱形でない菱形状の断面形状(菱形に準じる形状で、厳密には各辺が直線でないもの、各辺の長さが均等でないもの(例えば平行四辺形状のもの)等を含む)のプリプレグは本発明の好適な適用範囲内に含まれると解釈すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、ライナ外周のFRP層がプリプレグによって形成される圧力容器の製造に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0031】
1…高圧タンク(圧力容器)、20…ライナ、21…FRP層、70…プリプレグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナと、該ライナの外周を包むFRP層とを有する圧力容器の製造方法であって、
前記FRP層を形成するプリプレグとして断面が菱形のものを用い、該プリプレグの一の角を前記ライナの内周側に向けた状態で当該プリプレグを前記ライナの外周に巻回する、
圧力容器の製造方法。
【請求項2】
前記ライナの内周側に向けられる前記プリプレグの一の角が鈍角である、請求項1に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項3】
前記プリプレグとして断面が正方形のものを用いる、請求項1または2に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項4】
ライナと、該ライナの外周を包むFRP層とを有する圧力容器の製造に用いられるプリプレグであって、
断面が菱形である、プリプレグ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−116103(P2012−116103A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268199(P2010−268199)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】