説明

圧力容器及びその製造方法

【課題】耐圧強度が極めて高いトロイダル形状の圧力容器を提供する。
【解決手段】緯線方向の強化繊維層32を積層することで、圧力容器1の緯線方向の強度を高めることができる。しかも、この積層した緯線方向の強化繊維層32を構成する強化繊維32aを連続させることで、例えば各層で強化繊維が分断される場合と比べて、圧力容器1の緯線方向の強度をさらに高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空管を環状にしてなるトロイダル形状の圧力容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力容器は、例えば自動車等の燃料ガス(例えばCNG)を高圧状態で貯蔵する燃料タンクとして使用される。最近、環境保護の観点及びユーザーのニーズから、自動車等に対する低燃費化への要求がますます厳しくなっており、これに伴って、自動車等に搭載される燃料タンク等にも小型化及び軽量化が強く求められている。トロイダル形状の圧力容器は、例えば円柱状の圧力容器と比べて耐圧強度が高く、より高圧な状態で気体を貯蔵することができるため、貯蔵可能な気体の容量を維持したまま圧力容器を小型化することができる。
【0003】
例えば特許文献1の圧力容器は、トロイダル形状の内容器の表面に、経線方向及び緯線方向の強化繊維を配することで、耐圧強度のさらなる向上を図っている。すなわち、経線方向の強化繊維でトロイダルの経線方向断面における圧力容器の膨張を規制し、緯線方向の強化繊維でトロイダルの緯線方向断面における圧力容器の膨張を規制することで、耐圧強度の向上が図られる。尚、経線方向とはトロイダル形状の軸心(図1にCで示す)を含む平面の方向であり(図1にMで示す方向)、緯線方向とは前記中心軸と直交する平面の方向である(図1にLで示す方向)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平11−512804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧力容器の耐圧強度の向上に対する要請は一段と厳しくなっており、例えば1000気圧以上の極めて高い耐圧強度が要求されることもある。このような超高圧の耐圧強度を得るためには、上記特許文献1のように単に経線方向及び緯線方向に強化繊維を配するだけでは足りない恐れがあり、さらなる工夫が求められている。
【0006】
本発明の解決すべき課題は、耐圧強度が極めて高いトロイダル形状の圧力容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、中空管を環状にしてなるトロイダル形状の内容器と、前記内容器の外周面に経線方向に沿って周回された強化繊維からなる経線方向の強化繊維層と、前記内容器の外周面に緯線方向に沿って周回された強化繊維からなる緯線方向の強化繊維層とを有する圧力容器であって、前記緯線方向の強化繊維層を前記内容器の外周面に複数層積層し、この積層した各層を構成する強化繊維を連続させたことを特徴とする。
【0008】
このように、緯線方向の強化繊維層を複数層積層することで、圧力容器の緯線方向の強度を高めることができる。しかも、この積層した緯線方向の強化繊維層を構成する強化繊維を連続させることで、例えば各層で強化繊維が分断される場合と比べて、圧力容器の緯線方向の強度をさらに高めることができる。
【0009】
前記緯線方向の強化繊維層と前記経線方向の強化繊維層とは、例えば交互に積層することができる。
【0010】
内容器の緯線方向断面及び経線方向断面を円形とすれば、内容器に応力集中部が形成されないため、圧力容器の耐圧強度をより一層高めることができる。
【0011】
前記緯線方向の強化繊維層を構成する強化繊維を内容器の表面に隙間なく配すれば、さらに耐圧強度を高めることができる。
【0012】
ところで、内容器の外周面に経線方向及び緯線方向の強化繊維を配するとき、例えば図6に示すように、経線方向の強化繊維31aは、内容器2の外周面に経線方向に周回させることで比較的容易に内容器2に固定することができるが、緯線方向の強化繊維32aは、単に内容器2の緯線方向に周回させるだけでは固定することはできず、例えば緯線方向に配した強化繊維を樹脂で固めながら周回させる等の措置が必要となる。この場合、樹脂の固化時間を確保しながら緯線方向の強化繊維を周回させる必要があるため、生産性が非常に悪い。
【0013】
そこで、強化繊維を内容器の外周面に緯線方向に沿って配すると共に、内容器及び前記緯線方向の強化繊維の外周を、他の強化繊維を経線方向に沿って周回させれば、緯線方向の強化繊維層を内容器に容易に固定することができ、生産性が格段に向上する。
【0014】
また、この製法において、前記経線方向の強化繊維を、経線方向で周回しながら緯線方向に螺旋状に巻き進めることにより、前記緯線方向の強化繊維層及び前記経線方向の強化繊維層を交互に積層すれば、緯線方向の強化繊維を、途中で途切れさせることなく連続的に周回させながら積層することができる。こうして製造された圧力容器は、前記緯線方向の強化繊維層と前記経線方向の強化繊維層とが交互に積層される。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、耐圧強度が極めて高いトロイダル形状の圧力容器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】圧力容器の斜視図である。
【図2】圧力容器の経線方向断面図である。
【図3】圧力容器の緯線方向断面図である。
【図4】図2のIV部の拡大図である。
【図5】図3のV部(緯線方向の強化繊維層の積層開始点)の拡大図である。
【図6】圧力容器の断面斜視図である。
【図7】圧力容器の製造方法を示す平面模式図である。
【図8】圧力容器の製造方法を示す経線方向の断面模式図である。
【図9】圧力容器の製造方法を拡大して示す緯線方向の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
本実施形態の圧力容器1は、図1に示すように、中空管を環状にしてなるトロイダル形状を成し、トロイダル形状の軸心をC、経線方向をM、緯線方向をLで示している。圧力容器1は、図2(経線方向Mにおける断面)及び図3(緯線方向Lにおける断面)に示すように、トロイダル形状の内容器2と、内容器2の表面に設けられた複合材料層3とを備える。この圧力容器1は、内容器2の内部空間4に高圧ガスを貯蔵するためのものであり、例えば、自動車の燃料ガス(CNG等)を貯蔵する燃料タンクとして使用される。尚、図1では、高圧ガスの出入口を省略している。
【0019】
内容器2は、トロイダル形状を成し、例えば金属で形成される。内容器2は、図2及び図3に示すように、経線方向M及び緯線方向Lの何れの断面も円形を成している。
【0020】
複合材料層3は、強化繊維層に樹脂を含浸・固化させてなる。強化繊維層は、例えば炭素繊維で形成される。強化繊維層に含浸される樹脂には、例えば熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を使用することができる。具体的には、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリイミド等が使用可能であり、熱可塑性樹脂としてポリエーテルエーテルケトン等が使用可能である。強化繊維層は、図4及び図5に示すように、内容器2の外周に経線方向に捲回された強化繊維31aからなる経線方向の強化繊維層31と、内容器2の外周に緯線方向に沿って周回された強化繊維32aからなる緯線方向の強化繊維層32とを備える。経線方向の強化繊維層31及び緯線方向の強化繊維層32は、内容器2の外周面に交互に積層される。これらの強化繊維層31,32に樹脂を含浸した後、樹脂を硬化させることにより、複合材料層3が構成される。
【0021】
経線方向の強化繊維層31を構成する強化繊維31aは、図6に示すように、内容器2の外周に途中で途切れることなく連続的に周回される。このように、圧力容器1を経線方向の強化繊維層31で補強することで、経線方向における圧力容器1の膨張を規制し、同方向の耐圧強度を高めることができる。尚、図6では、理解の容易化のために、経線方向の強化繊維31aが緯線方向に間隔を開けて周回されているが、実際には図5に示すように隙間なく配されている。
【0022】
緯線方向の強化繊維層32は複数層積層されて設けられる。このように、圧力容器1を緯線方向の強化繊維32で補強することで、緯線方向における圧力容器1の膨張を規制し、同方向の耐圧強度を高めることができる。特に、この層を積層することで、緯線方向の耐圧強度がより一層高められる。緯線方向の強化繊維層32を構成する強化繊維32aは、図6に示すように、緯線方向に引き揃えられた複数本の強化繊維からなる。これらの強化繊維32aは、積層された各層において分断されているのではなく、各層間で連続して設けられており、具体的には図5に示すように内容器2に連続的に周回されながら積層されている。尚、図6では、理解の容易化のために、複数本の緯線方向の強化繊維32aが経線方向に間隔を開けて配されているが、実際には図4に示すように隙間なく配されている。
【0023】
次に、圧力容器1の製造方法、特に、トロイダル形状の内容器2の表面に経線方向の強化繊維層31及び緯線方向の強化繊維層32を設ける方法を説明する。
【0024】
まず、図7に示すように、供給装置(図示省略)から供給された複数の緯線方向の強化繊維32aを、内容器2の外周面の全周に隙間なく引き揃えて配置する。具体的には、複数の緯線方向の強化繊維32aを、ガイド40により経線方向で均一になるように案内しながら、内容器2の外周面に供給する。
【0025】
これと共に、緯線方向の強化繊維32aが配された内容器2の外周を経線方向の強化繊維31aで捲回する。経線方向の強化繊維31aの捲回は、図8に示すように、経線方向の強化繊維31aを供給する供給装置51を、内容器2の外周に設けられた環状レール52に沿って周回させることにより行われる(図7及び図8の矢印A参照)。このように、経線方向の強化繊維31aを内容器2及び緯線方向の強化繊維32aの外周から周回させることにより、図9に示すように、緯線方向の強化繊維32aが内容器2の表面に固定される。尚、供給装置51から供給される経線方向の強化繊維31は、一本であってもよいし、複数本をまとめて供給するようにしてもよい。
【0026】
上記のように供給装置51を周回させると同時に、内容器2を、軸心Cを中心に矢印B方向(図7及び図9参照)に回転させることにより、経線方向の強化繊維31aが、内容器2の外周に経線方向で周回されながら緯線方向に螺旋状に巻き進められる。これにより、緯線方向の強化繊維32aが、内容器2の外周面に供給されると共に、経線方向の強化繊維31aにより内容器2の外周面に順次固定される。具体的には、供給装置51が環状レール52に沿って内容器2の外周を一周する間に、経線方向の強化繊維31aの緯線方向幅W(図9参照)の分だけ内容器2を軸心C周りに回転させることにより、経線方向の強化繊維31aを内容器2に隙間なく周回させる。こうして、緯線方向の強化繊維層32及び経線方向の強化繊維層31が、内容器2の軸心C周りの回転に伴って順次形成される。
【0027】
内容器2を軸心C周りに一回転させると、先に固定された一周目の緯線方向の強化繊維層32及び経線方向の強化繊維層31の外周に、二周目の緯線方向の強化繊維層32及び経線方向の強化繊維層31が積層される。こうして、内容器2の外周面に緯線方向の強化繊維32aを供給しながら、その外周を経線方向の強化繊維31aで螺旋状に周回し続けることにより、緯線方向の強化繊維32a及び経線方向の強化繊維31aを途中で途切れることなく連続的に供給し、各強化繊維層31,32を交互に積層することができる(図5参照)。尚、本実施形態では、経線方向の強化繊維層31及び緯線方向の強化繊維層32がそれぞれおよそ4層ずつ積層されているが、積層数はこれに限らず、要求される強度や許容される重量に応じて適宜設定される。
【0028】
ところで、上記のような圧力容器1では、経線方向の強化繊維層31と緯線方向の強化繊維層32との繊維配向比率(各方向の強化繊維の密度比)を自由に設定することができる。すなわち、経線方向の強化繊維層31における強化繊維31aの密度及び緯線方向の強化繊維層32における強化繊維32aの密度を、各方向において必要とされる強度に応じて適宜設定することができる。緯線方向の強化繊維32aの密度は、供給装置(図示省略)から供給される緯線方向の強化繊維32aの本数により調整できる。一方、経線方向の強化繊維31aの密度は、内容器2の軸心C周りの回転速度と、緯線方向の強化繊維32aの供給速度との比を調節することにより、調節することができる。
【0029】
こうして内容器2の表面に固定された強化繊維層31,32に、樹脂(例えば、上述した熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂)を含浸させる。その後、加熱により(あるいは常温で)樹脂を硬化させ、これにより複合材料層3が形成される。その後、内容器2及び複合材料層3を貫通し、内部空間4と外部空間とを連通可能なガス出入口(図示省略)を形成することにより、圧力容器1が完成する。
【0030】
本発明は以上の実施形態に限られない。例えば、上記の実施形態では、圧力容器1が経線方向の断面及び緯線方向の断面の何れにおいても円形を成した場合を示しているが、これに限らず、例えば、何れかの断面あるいは双方の断面を楕円形にしたり部分的に直線部を含む形状とすることもできる。ただし、内部に貯留された高圧ガスから圧力容器1が受ける極めて高い圧力を考慮すると、上記実施形態のように経線方向の断面及び緯線方向の断面の何れにおいても円形として、応力集中部を形成しないことが最も好ましい。
【0031】
また、以上の実施形態では、強化繊維層31,32を内容器2に固定した後、樹脂を含浸・固化させているが、これに限らず、例えば、ディッピング等により予め樹脂を付着させた強化繊維31a,32aを内容器2に周回させた後、樹脂を固化させてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 圧力容器
2 内容器
3 複合材料層
31 経線方向の強化繊維層
31a 経線方向の強化繊維
32 緯線方向の強化繊維層
32a 緯線方向の強化繊維
4 内部空間
40 ガイド
51 供給装置
52 環状レール
C 軸心
L 緯線方向
M 経線方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空管を環状にしてなるトロイダル形状の内容器と、前記内容器の外周面に経線方向に沿って周回された強化繊維からなる経線方向の強化繊維層と、前記内容器の外周面に緯線方向に沿って周回された強化繊維からなる緯線方向の強化繊維層とを有する圧力容器であって、
前記緯線方向の強化繊維層を前記内容器の外周面に複数層積層し、この積層した各層を構成する強化繊維を連続させたことを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
前記緯線方向の強化繊維層と前記経線方向の強化繊維層とを交互に積層した請求項1記載の圧力容器。
【請求項3】
前記内容器の緯線方向断面及び経線方向断面が円形である請求項1又は2に記載の圧力容器。
【請求項4】
前記緯線方向の強化繊維層を構成する強化繊維が前記内容器の外周面に隙間なく配された請求項1〜3の何れかに記載の圧力容器。
【請求項5】
中空管を環状にしてなるトロイダル形状の内容器と、前記内容器の外周面に経線方向に沿って周回された強化繊維からなる経線方向の強化繊維層と、前記内容器の外周面に緯線方向に沿って周回された強化繊維からなる緯線方向の強化繊維層とを有する圧力容器の製造方法であって、
強化繊維を前記内容器の外周面に緯線方向に沿って配すると共に、前記内容器及び前記緯線方向の強化繊維の外周を、他の強化繊維で経線方向に沿って周回することにより、緯線方向の強化繊維層を前記内容器に固定することを特徴とする圧力容器の製造方法。
【請求項6】
前記経線方向の強化繊維を、経線方向で周回しながら緯線方向に螺旋状に巻き進めて、前記緯線方向の強化繊維層及び前記経線方向の強化繊維層を交互に積層する請求項5記載の圧力容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−31938(P2012−31938A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172453(P2010−172453)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、防衛省、新弾道ミサイル防衛用誘導弾(その2)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000238234)シキボウ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】