説明

圧力検知素子

【課題】特定周波数帯の圧力を検出することが可能な圧力検知素子を提供する。
【解決手段】圧力検知素子1は、貫通孔11から気体を導入して基板表面に形成された流路12に導き、流路12を介して圧力を検出する圧力センサ部30まで気体を導くものである。この圧力検知素子1の圧力センサ部30は、気体の圧力に応じて変位するダイアフラム13と、当該ダイアフラム13の変位により一対の電極31間の距離が増減する空間部21と、電極31間の距離の増減に応じた信号を出力するセンサ部31とを有している。また、流路12の長さl及び流路径dとにより、検出対象となる周波数域が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンデンサの静電容量変化を利用して圧力を検出する圧力検知素子が知られている。この圧力検知素子は、圧力導入部より検知対象となる圧力を有した気体を導入し、導入した気体の圧力によりコンデンサ電極の一方を有した平板が撓むことで、他方のコンデンサ電極との距離が変化する。これにより、コンデンサの静電容量が変化し、この変化により圧力を検出することができる。
【0003】
特許文献1に記載された圧力検知素子は、一対の対向した電極の距離が圧力変動により変化することで静電容量が変化し、圧力を検出できる。また、圧力の他に振動を検知するために一方の平板に振動検知体を有し、振動検知体により振動をとらえるようになっている。この圧力検知素子からの信号は判別回路に接続されており、判別回路による判断により圧力と振動とが区別して検出される。さらに、圧力導入部には、圧力導入孔側にオリフィス状の絞り部と、絞り部により形成された空間部分とが形成され、絞り部と空間部分との高周波減衰効果により、振動する圧力のうち高周波成分が取り除かれるようになっている。このため、平板には平均的な圧力が導入されることとなり、振動する圧力が入力されても、外部振動による振動と区別することができる。特に、この圧力検出素子では、絞り部と空間部分との大きさを調整することで取り除く高周波の周波数を調整することができる(特許文献1参照)。
【0004】
また、基板(符号22参照)裏面に形成された圧力導入部(符号26参照)から基板表面のバッファ空間(符号24参照)まで圧力を導入し、導入した圧力を基板表面において形成された圧力検知部まで導圧通路を通じて導き、圧力検知部においてコンデンサの静電容量変化を利用して圧力を検出する圧力検知素子が知られている。この圧力検出素子によれば、圧力導入部の大きさやバッファ空間の大きさを調整することにより必要な周波数応答に調整することができる(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−170375号公報(図1及び図7参照)
【特許文献2】特開2003−4567号公報(図2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2に記載の圧力検知素子では、設計精度が高くなければ狙った周波数を検知することができなくなってしまう可能性がある。すなわち、特許文献1に記載の圧力検知素子において樹脂材料は切削や金型により加工されるため、加工限界が100μm程度であり、精度良く絞り部等を形成できないことから、取り除く高周波の周波数を調整できず、狙った周波数を検知することができなくなってしまう可能性がある。特許文献2に記載の圧力検知素子については、圧力導入部の断面形状が台形となっており、上底にあたる部分が絞りとなっているが、絞りの後ろには符号24に示すようなバッファ空間を確保する必要があり、チップサイズが大きくなってしまう可能性がある、また、絞りはTMAHなどによるエッチングにより形成されるが、TMAHなどのウェットエッチングは温度、不純物及び使用回数によるバラつきが大きく、絞りの大きさの調整が困難であるため、狙った周波数を検知することができなくなってしまう可能性がある。
【0007】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その発明の目的とするところは、特定周波数帯の圧力を検出することが可能な圧力検知素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の圧力検知素子は、圧力導入孔から流体を導入して基板表面に形成された抵抗通路に導き、抵抗通路を介して圧力を検出する圧力センサ部まで流体を導く圧力検知素子であって、圧力センサ部は、流体の圧力に応じて変位するダイアフラムと、当該ダイアフラムの変位により容積が増減する空間部と、空間部の容積の増減に応じた信号を出力するセンサ部とを有し、抵抗通路の長さ、断面積、及びターン数により、検出対象となる周波数域が設定されていることを特徴とする。
【0009】
この圧力検知素子によれば、空間部の容積Cと流路Rとによる擬似的なRC回路となり、空間部の容積と抵抗通路の長さ、断面積、及びターン数とにより、検出対象となる周波数域が設定されているため、特定周波数帯の圧力を検出することができる。
【0010】
また、本発明の圧力検知素子は、抵抗通路は、蛇行した流路として形成されていてもよいし、幅が数マイクロメートル程度の直線の流路であってもよい。
【0011】
この圧力検知素子によれば、抵抗通路は蛇行した流路や幅が数マイクロメートル程度の流路として形成されているため、特許文献2の絞りと比較して大きな抵抗を生み出すことができ、特許文献2のようなバッファ空間を形成する必要がなく、圧力センサ部の空間部で充分であるため、全体として小型化することに寄与することができる。また、抵抗通路の長さや断面積、抵抗通路を蛇行させたときには、例えばターン数を変えることで空間部の容積を変えなくとも、検出対象となる周波数域を設定することができる。
【0012】
また、本発明の圧力検知素子は、空間部の容積に応じて、検出対象となる周波数域が設定されていることが好ましい。
【0013】
この圧力検知素子によれば、流路のみならず、空間部の容積に応じて検出対象となる周波数域が設定されるため、一層的確に検出対象となる周波数域を設定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定周波数帯の圧力を検出することが可能な圧力検知素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る圧力検知素子を示す構成図であって、(a)は上面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る圧力検知素子を示す構成図であって、(a)は上面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【0017】
図1(a)及び(b)に示すように、圧力検知素子1は、シリコン基板10と、ガラス板20と、圧力センサ部30とから構成され、シリコン基板10の表面とガラス板20の裏面とが付き合わされて構成されている。このような圧力検知素子1は、例えばガスメータ内など気体圧力が変動する部位に設けられる。
【0018】
このうちシリコン基板10は、貫通孔(圧力導入孔)11と、流路(抵抗通路)12と、ダイアフラム13とを有している。貫通孔11は、シリコン基板10の裏面から異方性エッチングやRIE(Reactive ion・etching)により形成され、シリコン基板10の裏面側の気体を表面側へ導く機能を有する。なお、本実施形態において貫通孔11は断面略台形状に形成されているが、これに限らず、断面長方形状など他の形状に形成されていてもよい。
【0019】
流路12は、シリコン基板10の表面において形成され、貫通孔11から導入した流体を圧力センサ部30まで導くものであって、幅が数マイクロメートル程度されている。この流路12は、フォトリソグラフィによるパターニングとRIEなどによるエッチングとにより形成される。また、流路12は蛇行して形成されている。ダイアフラム13は、シリコン基板10の裏面における流体圧力と表面における流体圧力との差分に応じて、シリコン基板10とガラス板20との積層方向に変位する薄膜である。なお、図1において流路12は蛇行しているが、これに限らず、直線であってもよい。
【0020】
ガラス板20は、シリコン基板10上に載置されるものであって、載置状態においてダイアフラム13に相当する箇所が刳り貫かれ、空間部21が形成されている。
【0021】
圧力センサ部30は、上記したダイアフラム13と空間部21と、センサ部31とにより構成されている。センサ部31は、具体的に上部電極31aと下部電極31bとにより構成されている。上部電極31aは、空間部21の上部においてアルミニウムなどの金属膜がガラス板20に蒸着されて形成されている。下部電極31bは、上部電極31aと対向配置されており、シリコン上(ダイアフラム13上)にB(ボロン)やP(リン)を拡散させて形成されている。なお、シリコン上にガラス板20と同様に金属膜を形成して下部電極31bとしてもよい。
【0022】
次に、本実施形態に係る圧力検知素子1の基本動作を説明する。なお、以下では、本実施形態に係る圧力検知素子1をガス流路等に配置した場合を例に説明する。
【0023】
まず、シリコン基板10の裏面側の圧力変化が無い場合、空間部21とシリコン基板10の裏面側とが連通していることから、双方の圧力は等しくなる。これにより、ダイアフラム13は撓むことなく、上部電極31aと下部電極31bとの距離は一定に保たれる。このため、上部電極31aと下部電極31bとにより構成されるセンサ部31からの出力(すなわち静電容量)は特定の値で安定する。より具値的に静電容量は、C=ε・S/dにより表され、ε、S及びdについてはいずれも変化がないことから、センサ部31からの出力は特定の値で安定する。なお、εは誘電率であり、Sは電極面積であり、dは電極間の距離である。
【0024】
一方、シリコン基板10の裏面側の圧力が高くなった場合、シリコン基板10の裏面側のガスは空間部21に伝わるまでに貫通孔11及び流路12を経ることから、空間部21内の圧力は即座に高くならない。よって、ダイアフラム13は上方へ変位することとなり、センサ部31からの出力(すなわち静電容量)は変化する。すなわち、dが小さくなることから静電容量は大きくなる。CPU等の圧力算出部(図示せず)は、この変化量をとらえることで圧力を検出することとなる。なお、シリコン基板10の裏面側の圧力が低くなった場合はダイアフラム13が下方に撓むこととなり、同様に圧力が検出される。
【0025】
さらに、本実施形態において圧力検知素子1は、空間部21の容積と流路12の長さ(例えば蛇行させるターン数により調整)及び断面積とにより、検出対象となる周波数域が設定されている。すなわち、本実施形態において圧力検知素子1は、空間部21の容積をCとし、流路12をRとした擬似的なRC回路となり、特定の周波数成分のみを検出することができる。しかも、流路Rは、フォトリソグラフィによるパターンニングとRIEによるエッチングとにより形成できるため、フォトリソグラフィの線幅を変えるだけで流路12の断面積を変化させることができ、流路12の長さや形状についても変化させることは比較的容易である。よって、特許文献1及び2に示したような精度を要せず、特定の周波数成分のみを検出することができる。また、シリコン基板10の表面上に流路を形成しているため、フォトリソグラフィを用いなくとも、例えばスクリーン印刷によるパターニングやレーザ加工を用いてもよい。
【0026】
次に、本実施形態に係る圧力検知素子1の作用について説明する。本実施形態に係る圧力検知素子1は、流路12を長さ(例えば蛇行させるターン数により調整)や断面積を変更することにより、狙った周波数成分のみを検出することができる。これは、流路12の圧力損失によるものであり、以下のファニングの式により表すことができる。
【数1】

【0027】
この式から明らかなように、流路長さlや流路径d(すなわち断面積)を変化させることで圧力損失が変化することがわかる。すなわち、流路長さlや流路径dを変更することで抵抗Rを変えることができ、空間部21の容積を変えることなく、特定の周波数成分のみを検知することができることとなる。
【0028】
このようにして、本実施形態に係る圧力検知素子1によれば、空間部21の容積Cと流路Rとによる擬似的なRC回路となり、空間部21の容積と流路12の長さl及び流路径d(すなわち断面積)とにより、検出対象となる周波数域が設定されているため、特定の周波数成分のみを検出することができる。
【0029】
また、流路12は蛇行した流路や幅が数マイクロメートル程度の流路として形成されているため、特許文献2の絞りと比較して大きな抵抗を生み出すことができ、特許文献2のようなバッファ空間を形成する必要がなく、圧力センサ部30の空間部21で充分であるため、全体として小型化することに寄与することができる。また、流路12の長さや断面積、流路12を蛇行させたときには、例えばターン数を変えることで空間部21の容積Cを変えなくとも、検出対象となる周波数域を設定することができる。
【0030】
また、流路Rのみならず、空間部21の容積Cに応じて検出対象となる周波数域が設定されるため、一層的確に検出対象となる周波数域を設定することができる。
【0031】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。例えば、本実施形態に係る圧力検知素子1は気体の圧力を検出する例を説明したが、特にこれに限らず、液体の圧力検出に用いられてもよい。
【0032】
また、本実施形態に係る圧力検知素子1は、上部電極31aと下部電極31bとからなるコンデンサを例に説明しているが、これに限らず、例えば上部電極と下部電極とに形成された接点のオン及びオフを検出するセンサを用いてもよいし、ダイアフラム13にピエゾ抵抗を形成してダイアフラム13の変動を抵抗値変化として検出するセンサであってもよい。さらに、応力が加わると電荷を発生する圧電膜をダイアフラム13に用いて圧力変動を検出するセンサであってもよいし、ダイアフラム13の変動をレーザ光により測定するセンサであってもよい。すなわち、圧力センサ部30は、上記のようなセンサと、ダイアフラム13と、空間部21とを備えていれば、その構成に限定されるものではない。
【0033】
また、本実施形態に係る圧力検知素子1は、シリコン基板10に貫通孔11が形成されているが、これに限らず、ガラス板20に貫通孔11が形成されていてもよい。
【0034】
また、本実施形態に係る圧力検出素子1は、ガラス板20を刳り貫いているが、ガラスを加工しないでシリコン基板10をエッチングして空間部21を形成してもよいし、シリコン基板10に薄膜を堆積させて空間部21を形成してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…圧力検知素子
10…シリコン基板
11…貫通孔(圧力導入孔)
12…流路(抵抗通路)
13…ダイアフラム
20…ガラス板
21…空間部
30…圧力センサ部
31…センサ部
31a…上部電極
31b…下部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力導入孔から流体を導入して基板表面に形成された抵抗通路に導き、抵抗通路を介して圧力を検出する圧力センサ部まで流体を導く圧力検知素子であって、
前記圧力センサ部は、流体の圧力に応じて変位するダイアフラムと、当該ダイアフラムの変位により容積が増減する空間部と、前記空間部の容積の増減に応じた信号を出力するセンサ部とを有し、
前記抵抗通路の長さ、断面積及びターン数により、検出対象となる周波数域が設定されている
ことを特徴とする圧力検知素子。
【請求項2】
前記抵抗通路は、蛇行した流路として形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の圧力検出素子。
【請求項3】
前記抵抗通路は、幅が数マイクロメートル程度の直線の流路として形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の圧力検出素子。
【請求項4】
前記空間部の容積に応じて、検出対象となる周波数域が設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の圧力検出素子。

【図1】
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