説明

圧力補正値を更新しない制御方法

【課題】 本発明の解決すべき課題は送出容量の安定化を図りえる液体クロマトグラフ用送液装置を提供することにある。
【解決手段】 移動相溶媒を圧送するポンプ手段16と、前記ポンプ手段16より圧送される溶媒の圧力を測定する圧力測定手段18と、前記圧力測定手段18の測定圧力値に対応する溶媒の圧縮率を得、該圧縮率に基づき前記ポンプの送出容量が一定となるようにポンプを駆動制御するポンプ駆動制御手段22と、を備え、前記駆動制御手段22は、サンプルの測定開始より測定終了にいたるまでの間、前記測定圧力値の変化にかかわらず、ポンプの駆動状態を一定に保つことを特徴とする液体クロマトグラフ用送液装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体クロマトグラフ用送液装置、特にそのポンプ駆動制御方式の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフは、充填剤が密に充填されたカラム内に移動相溶媒、およびサンプルを通過させなければならず、必然的に高圧での移動相溶媒の圧送が必要となる。この際の圧力は数MPa〜数十MPaとなり、このような高圧では移動相溶媒自体に数%の圧縮が生じ、送出溶媒容量が減少する。
一方、一般的な液体クロマトグラフでは、移動相溶媒の送液液量一定のもとに各種成分の保持時間を成分同定の一指標としており、ポンプからの溶媒送出容量が変化することは測定に悪影響を与える。
そこで、従来においても、液体クロマトグラフ用送液装置においては、送出容量を所望値とするよう、送出圧力の測定、およびその測定値に基づくポンプ駆動の制御が行われていた(例えば特許文献1、2)。
しかしながら、従来の送液装置にあっても、未だ充分な定容量送液を行うことができなかった。特に示差屈折率測定を行う液体クロマトグラフ装置のように、複数系列のポンプを用い、しかも高感度かつ圧力の影響を受けやすい検出器を用いた場合には、カラムなどの劣化により圧力が変化した場合にも送液容量の安定化が必要となり、一層の改善が求められている。
【特許文献1】特開平7−218489号公報
【特許文献2】特開平7−218488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は送出容量の安定化を図りえる液体クロマトグラフ用送液装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するため、本発明者らはポンプ駆動と送液容量の安定性の関係について検討を行った。この結果、送出圧力をモニターしつつポンプの駆動制御を行う場合には、圧力読取値の誤差や圧縮率及びポンプ駆動信号への変換の際の端数処理などの関係で、一測定中にも頻繁なモータ回転数の変化を生じる。これは流量安定性を維持するために行うものではあるが、現実的にはモータの回転数変化自体が圧力の変化の要因ともなり、送液容量の安定性に影響を与えていたのである。
【0005】
特に示差屈折率を測定する場合のように、圧力変化が直接に測定結果にノイズとして重畳する装置においては、圧力抵抗の大きいカラムを介しているとはいえ、ポンプの駆動状態変更時の圧力変化が測定結果に影響を与えることも考えられる。
本発明にかかる送液装置は、移動相溶媒を圧送するポンプ手段と、前記ポンプ手段より圧送される溶媒の圧力を測定する圧力測定手段と、前記圧力測定手段の測定圧力値に基づき、前記ポンプの送出容量が一定となるようにポンプを駆動制御するポンプ駆動制御手段と、を備えた液体クロマトグラフ用送液装置において、
前記駆動制御手段は、サンプルの測定開始より測定終了にいたるまでの間、前記測定圧力値の変化にかかわらず、ポンプの駆動状態を一定に保つことを特徴とする。
また、前記送液装置において、ポンプ駆動制御手段は、測定圧力値に対応するポンプ駆動制御を行うモニターモードと、測定圧力値にかかわらずポンプ駆動状態を一定に保つホールドモードを有し、
装置始動によりモニターモードに設定し、
複数サンプルの測定を行う測定プログラムの開始時にホールドモードに移行し、該測定プログラム終了によりモニターモードに復帰することが好適である。
また、前記送液装置において、複数サンプルの測定を行う測定プログラムが実行されると、各サンプルの測定開始時にホールドモードに移行し、各サンプルの測定終了時にモニターモードに移行することが好適である。
【発明の効果】
【0006】
本発明にかかる液体クロマトグラフ用送液装置は、前述したようにサンプルの測定開始より測定終了にいたるまでの間、測定圧力値の変化に関わらずポンプの駆動状態を一定に保つこととしたので、測定期間中におけるポンプ駆動状態変化に伴う頻繁な送液容量変化を防止し、再現性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる液体クロマトグラフ用送液装置を示している。
同図に示す送液装置10は、溶媒ボトル12よりプレヒートコイル14を介して移動相溶媒を吸引するプランジャーポンプ16と、該プランジャーポンプ16から定容量、高圧で送出される溶媒の圧力を検出する圧力検出手段18と、該圧力検出手段18よりの圧力検出値をA/D変換器20を介して受領しポンプ16の駆動制御を行うポンプ駆動制御手段22と、を備える。そして、溶媒ボトル12からの溶媒をカラム24に供給するものである。
【0008】
前記プランジャーポンプ手段16は、シリンダ26に対して図中左右に前進、後退するプランジャー28と、前記プランジャー28の後退時に溶媒を吸引可能とするチェック弁30と、プランジャー28の前進時に溶媒を吐出可能とするチェック弁32とを備え、制御手段22よりの指示に基づきステッピングモータ34を駆動し、モータ34の駆動軸に固定された偏芯カム36によりプランジャー28の前進後退を行う。
本実施形態にかかる送液装置10は概略以上のように構成され、図2を参照しつつその作用について説明する。
まず、液体クロマトグラフ装置の始動を行うと、溶媒の送液、温度制御などを行いつつ装置を安定させる。
【0009】
この間、ポンプ手段16の駆動に伴い、圧力が上昇する。このポンプ手段16としては本実施形態ではプランジャーポンプを用いているため、プランジャー径と前進、後退距離により送出容量が決定される。しかしながら、系の圧力が高まるにつれ、溶媒吐出時にチェック弁30,32およびシリンダ26内に残留する溶媒が圧縮され、この圧縮分が次回の溶媒吸引時に復帰するため、吸引量が減少する。
そこで、溶媒の圧縮による吸引量の減少分と圧力との関係式をあらかじめ得ておき、圧力の上昇に伴いモータの回転数を多くし、送出溶媒容量の一定化を図っている(モニターモード)。
この状態で安定化した後、測定プログラムを起動させる。本発明において特徴的なことは、測定開始時にポンプ駆動状態をホールドすることであり、本実施形態においては、この測定プログラム起動時点のモータ回転数をホールドし、該測定プログラムの終了まではモータ34の回転数を固定する(ホールドモード)。
【0010】
この結果、仮に圧力検出手段18によるノイズに起因する読取値の変動、あるいは端数処理などの関係で、検出手段18から出力される圧力値に変更があった場合にも、モータ34の回転数は変動しない。
そして、測定プログラムにより指定された件数Nのサンプル測定が終了すると、次の測定に備え、前記安定化の状態に復帰し、検出圧力値に基づきモータ34の回転数を変更するモニターモードに移行する。
次の表1に本実施形態にかかるホールド制御を行った場合と、ホールド制御を行わなかった場合の流量の変動を標準サンプルの保持時間(単位min)によって示す。
表1
注入回数 ホールド制御 非ホールド制御
1 4.387 4.243
2 4.388 4.248
3 4.388 4.248
4 4.388 4.248
5 4.387 4.248
6 4.388 4.247
7 4.387 4.247
8 4.388 4.247
9 4.388 4.250
10 4.388 4.248
平均値 4.388 4.247
標準偏差 0.001 0.002
変動係数(CV) 0.011 0.042
【0011】
前記表1より明らかなように、圧力値によるポンプ制御は本来流量の安定化を図るものであるが、測定中にはむしろ本実施形態にかかるホールド制御を行ったほうが、優れた流量安定性を得られることが理解される。
なお、本実施形態にかかる送液装置では測定プログラム起動時のモータ回転数をホールドし、そのプログラムで設定された同一系統の複数のサンプルに対しては同一のモータ回転数を適用することとしたが、一の測定プログラムで測定される各サンプルが独立したものであり、比較の必要がない場合には、各サンプル注入時点のモータ回転数をホールドするものであってもよい。
【0012】
また、本発明にかかる送液装置は、示差屈折率を測定する液体クロマトグラフ装置のように、圧力変動が測定値に直接影響を与えるような場合に特に好適に適用できる。すなわち、モータの回転数変動は送出容量を調整するものであると同時に、送出容量に起因して送出圧力を変更するものでもあるため、屈折率のように圧力が測定値のパラメータとなる場合には、特に有効である。
また、本発明にかかる送液装置では、ホールド制御中にも圧力測定を行い装置異常の検知を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態にかかる送液装置の説明図である。
【図2】図1に示した送液装置のモータ駆動制御工程の説明図である。
【符号の説明】
【0014】
10 液体クロマトグラフ用送液装置
16 プランジャーポンプ
18 圧力検出手段
22 駆動制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相溶媒を圧送するポンプ手段と、前記ポンプ手段より圧送される溶媒の圧力を測定する圧力測定手段と、前記圧力測定手段の測定圧力値に基づき、前記ポンプの送出容量が一定となるようにポンプを駆動制御するポンプ駆動制御手段と、を備えた液体クロマトグラフ用送液装置において、
前記駆動制御手段は、サンプルの測定開始より測定終了にいたるまでの間、前記測定圧力値の変化にかかわらず、ポンプの駆動状態を一定に保つことを特徴とする液体クロマトグラフ用送液装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、ポンプ駆動制御手段は、測定圧力値に対応するポンプ駆動制御を行うモニターモードと、測定圧力値にかかわらずポンプ駆動状態を一定に保つホールドモードを有し、
装置始動によりモニターモードに設定し、
複数サンプルの測定を行う測定プログラムの開始時にホールドモードに移行し、該測定プログラム終了によりモニターモードに復帰することを特徴とする液体クロマトグラフ用送液装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、ポンプ駆動制御手段は、測定圧力値に対応するポンプ駆動制御を行うモニターモードと、測定圧力値にかかわらずポンプ駆動状態を一定に保つホールドモードを有し、
複数サンプルの測定を行う測定プログラムが実行されると、各サンプルの測定開始時にホールドモードに移行し、各サンプルの測定終了時にモニターモードに移行することを特徴とする液体クロマトグラフ用送液装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−209157(P2008−209157A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44381(P2007−44381)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)