説明

圧延機用バックアップロール装置

【課題】サドルを容易に修理可能でり、新品と交換したころ軸受にも悪影響を及ぼさず、コスト的にも安価な圧延機用バックアップロール装置を提供する。
【解決手段】外輪1と内輪2と、複列で複数のころ3を保持した保持器4とより構成される軸受と、ころ列間の案内輪5と、ころ列の一端側に設けられた偏心リング7とサドルリング8とを備えたサドル6と、より構成される圧延機用バックアップロール装置において、偏心リング7の軸方向端面7aに環状溝7bを形成し、ここに案内輪5を嵌め込む。また、ころ軸受の交換もしくは修理時或いは保守点検時に、偏心リング7の軸方向端面7aに環状溝7bを形成し、ここに案内輪5を嵌め込むようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころ軸受を用いた圧延機用バックアップロール装置、特にサドルを長持ちさせることの出来る圧延機用バックアップロール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄くて硬いステンレス鋼板やけい素鋼板等のような圧延板材を製造する場合には、いわゆるセンヂミアミル圧延機のような冷間圧延機が使用される。この圧延機は、径の異なる圧延用ロールを多段に配置して各ロールを駆動するように構成されている。即ち、圧延板材を上下から挟んで回転しつつ送り出すワークロール、該ワークロールをバックアップする第1中間ロール、この第1中間ロールをバックアップする第2中間ロール、そして該第2中間ロールをバックアップするバックアップロール等、のバックアップロール装置から成る多段バッキングアッセンブリとなっている。
【0003】
図5は、従来のセンヂミアミル圧延機のバックアップロール装置の構成を示す一部縦断面図である。このバックアップロール装置は、外輪1と、内輪2と、これらの外輪1と内輪2との間に配置される保持器4,4と、これらの保持器により保持される複列で複数のころ3,3,・・(ころ列)と、前記内輪外周側ところ列間に配置される案内輪5,5,・・と、該ころ列のに隣接して配置されるサドル6と、で構成される。また、前記サドル6は、偏心リング7と、サドルリング8と、該サドルリング8を固定するサドル部材9とで構成され、サドルリング8と外輪1との間にはスラストワッシャ10が配置される。このような構成の圧延機用バックアップロール装置では、スラスト荷重によるはサドルの偏心リング7の端面7aところ3の端面3aとの間の接触による「カジリ」が問題となる。
【0004】
また、センジミアミル圧延機のバックアップロール装置には円錐ころ軸受を使用するものもある。このような圧延機用の円錐ころ軸受では、内輪のツバ部と円錐ころの端面とが圧延中のスラスト荷重による「カジリ」が生じて軸受の寿命を短くするという問題があった。そこで、この問題を解決すべく、サドルとシャフトとの間の偏心リングにバッキングベアリング内輪のツバ部を冷却するため冷却ノズルを設け、サドル内輪に穿設した流通孔から水溶性圧延油を吐出せしめるセンジミア冷間圧延機バッキングベアリングの冷却方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
更に、圧延機の軸受の保持器と円筒ころでは、保持器を構成する柱が円筒ころより短いものであったが、保持器の柱と、円筒ころとが繰り返し接触するうち、柱のある部分と無い部分とでは摩耗度合いが異なり、やがて摩耗の少ない部分のみが荷重を受けて剥離に至るという問題があった。そこで、保持器を形成する柱を円筒ころの長さとをほぼ等しい長さとして、軸受寿命の延長を図るという圧延機用の保持器が提案されている(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特公昭55−13803
【特許文献2】実開平5−62736
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
センヂミアミル多段圧延機のバックアップロール装置において、サドル6の偏心リング7の端面7aは軸受のころ端面をガイドして軸受の回転を補助する構造となっているため、長期間使用したり異物の噛み込みにより、偏心リング7の端面7aが摩耗やカジリにより損傷する場合があった。特にサドル6は、構成上継続使用する必要があり、新しい軸受に組み替えた時に軸受に悪影響を及ぼすことがあった。また、サドル6を交換しても高価になり、装置のコストアップの要因となるという問題もあった。
【0008】
この発明は上記する課題に対処するためになされたものであり、サドルを容易に修理可能でり、新品と交換したころ軸受にも悪影響を及ぼさず、コスト的にも安価に済むバックアップロール装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、外輪と、内輪と、内外輪間に保持器により保持される複列で複数のころより成るころ軸受と、前記内輪外周側ところ列間との間に配置される案内輪と、ころ列の一端側に設けられ偏心リングとサドルリングとを備えたサドルと、より成る圧延機用バックアップロール装置において、
前記サドルの偏心リングの軸方向端面に環状溝を形成し、該環状溝に案内輪を嵌め込むことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、外輪と、内輪と、内外輪間に保持器により保持される複列で複数のころより成るころ軸受と、前記内輪外周側ところ列間との間に配置される案内輪と、ころ列の一端側に設けられ偏心リングとサドルリングとを備えたサドルと、より成る圧延機用バックアップロール装置において、
前記ころ軸受の交換もしくは修理時或いは保守点検時に、前記サドルの偏心リングの軸方向端面に環状溝を形成し、該環状溝に案内輪を嵌め込むことを特徴とする。
【0011】
更に、請求項3に記載の発明は、前記サドルの偏心リングの軸方向端面に形成した環状溝に嵌め込む案内輪に代えて鋼製リングを嵌め入れることを特徴とする。
【0012】
本発明は、上記各手段により、バックアップロール装置のサドルの偏心リングの端面が、ころ端面との接触や異物の噛み込みにより、カジリ痕が生じたり損傷したりしても、簡単に補修可能となるバックアップロール装置を提供するものである。即ち、偏心リングの端面のころの端面と接触するあたりに環状溝を形成して案内輪を嵌め込むことにより、該偏心リングの端面ところ端面とが直接接触することがなくなるので長期間の使用に耐え得るようになるものである。
【発明の効果】
【0013】
従来の圧延機用バックアップロール装置においては、軸受部分を交換する際もサドルはそのまま使用する場合が多く、交換した新品の軸受にころを案内するサドルの偏心リングの摩耗やカジリにより悪影響を及ぼすことが多かった。しかし、上記請求項1乃至請求項3の手段によれば、そのようなカジリ部分に影響されずにサドルを容易に修理可能となる。そして、新品とした軸受にも悪影響を及ぼさず、コスト的にも安価に済み且つ長寿命の冷間圧延機のバックアップロール装置とすることができる。また、本発明の手段において優れているのは、バックアップロール装置の使用途中からサドルの偏心リングの端面に環状溝を形成して案内輪を嵌め入れることも可能となり、カジリや損傷の生じたサドルを再生することができることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の圧延機用バックアップロール装置の一部縦断面図である。図2(A)は、本発明のバックアップロール装置を構成するサドルリングとサドルの一部縦断面図であり、図2(B)は図2(A)のP部拡大図である。図3は図2(A)のQ矢視図である。また、図2(A)は、図3(A)のXーX矢視断面図でもある。なお、本発明の構成では、重複を避けるため従来技術で説明した同一の構成要素には同一の符号を使用して説明する。
【0016】
本発明のセンヂミアミル圧延機のバックアップロール装置は、従来のものと同様、外輪1と、内輪2と、これらの外輪1と内輪2との間に配置される保持器4,4と、これらの保持器により保持される複列で複数のころ3,3,・・(ころ列)と、前記内輪外周側ところ列間に配置される浮き案内輪(以下、単に案内輪とする)5,5,・・と、該ころ列に隣接して配置されるサドル6と、で構成される。更に、前記サドル6は、偏心リング7と、サドルリング8と、該サドルリング8を固定するサドル部材9とで構成される。この場合、偏心リング7とサドルリング8には、それぞれ環状のキー溝が設けられリングキー11を嵌め込んで一体としてある。即ち、図3(B)に示すように、偏心リング7にキー溝7cを形成すると共に、サドルリング8にもキー溝8bを形成する。そして、サドルリング8には穴8aを穿設してここからリングキー11を嵌め入れ固定する。また、サドルリング8と外輪1との間にはスラストワッシャ10が配置される。なお、前記外輪1と、内輪2と、これら内・外輪と、保持器4,4と、多列のころ3,3,・・とはころ軸受となる。
【0017】
図2(A),(B)および図3にも示すように、前記サドルの偏心リング7(以下、単に偏心リング7とする)の軸方向端面7aには、機械加工による環状溝7b,7bが形成され、該環状溝7b,7bには案内輪5,5が嵌め込まれる。なお、該偏心リング7の端面7aに形成する環状溝7bは、端部に配置する偏心リング7では片側面にのみ形成する。前記案内輪5は、コスト低減を考慮して内輪2の外周側ところ列間に配置されているものと同一のものを使用する。この場合、環状溝7bへの案内輪5の嵌め込みは、通常「圧入」とされ、交換可能とするが、そのため周方向数箇所に雌ねじを設けてここに雄ねじを螺合させ、引っ張り出すようにしてある。該案内輪5は軸受鋼、炭素鋼、等耐摩耗性に優れた材質のものを使用する。
【0018】
上記するように、偏心リング7の両端面7a或いは片端面7aに環状溝7bを設け、案内輪5を嵌め込むと、案内輪5ところ3の端面3aとが接触するので、偏心リング7の端面7aが直接円筒ころ3,3,・・の端面3aに当接することがない。従って、従来問題となっていた偏心リング端面7aところ3の端面3aとの当接による「カジリ」の問題は生じない。また、偏心リング7の端面7aには接触痕が生じることがなくなる。更に、環状リング5が損傷しても該環状リング5のみを交換すれば済む。また、偏心リング7の端面7aの環状リング5ところ3との間に異物の噛み込みがあっても損傷するのは偏心リング7かころ3の端面3aであり、安価に交換することができる。
【0019】
次に、本発明のバックアップロール装置の偏心リング7は、一定期間使用した後にその端面7aに環状溝7bを設けるようにしても良い。
図4(A)は、前記バックアップロール装置のサドルのサドルリング8と偏心リング7の一部縦断面図であるが、この図に示すように、偏心リング7の端面7aには、案内輪5を嵌め込む環状溝7bを設けないまま一定期間使用すると、偏心リング7の端面7aと、ころ3の端面3aとの接触によりカジリ或いは接触痕ができる。そして該偏心リング7の端面7aところ3の端面3aとの接触、或いは異物の噛み込みにより偏心リング7の端面7aにカジリ等の損傷が生じたとき、初めて図4(B)に示すように、該偏心リング7の端面7aに環状溝7bを形成して案内輪5を嵌め込んでも良い。
【0020】
本発明のように、偏心リング7を一定期間使用した後、例えば修理や新品のころ軸受と交換する際、端面7aに、環状溝7bを設けて案内輪5を嵌め込むと、全く新しい状態で使用するのと同様に使用することができる。特に、大幅なコストアップとなることもなく、交換した新品の軸受は全く新しいサドル6の偏心リング7の場合と同様何らの悪影響も受けることなく使用することができる。或いは新品のころ軸受と交換する必要がない場合でも保守点検時に偏心リング7の端面7aに環状溝7bを形成して案内輪5を嵌め込むようにしても良い。このような保守改良によれば、バックアップロール装置の長寿命化を図ることが出来るだけでなく、コスト低減にもなり、極めて便利となる。
【0021】
なお、前記偏心リング7の端面7aに形成した環状溝7bには、同一のバックアップロール装置で使用される案内輪5で良いが、同じ案内輪5でなくても、別途該環状溝7bに嵌め込む(圧入する)ため、軸受鋼や高炭素鋼等の耐摩耗性に優れたリングを製作して使用しても良い。また、本発明では円筒型のころ3の端面3aとサドル6の偏心リング7の端面7aとの接触によるカジリや摩耗痕が発生する場合について説明したが、円錐ころやタイコ型のころを使用する場合のサドルと軸受内輪の端面やころ端面等との接触の場合にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の圧延機用バックアップロール装置の一部縦断面図である。
【図2】図2(A)は、本発明の圧延機用バックアップロール装置を構成するサドルリングとサドルの一部縦断面図であり且つ図3(A)のXーX矢視断面図である。図2(B)は図2(A)のP部拡大図である。
【図3】図3(A)は、図2(A)のQ矢視図であり、図3(B)は、図3(A)のYーY矢視断面図である。
【図4】図4(A)は、本発明の圧延機用バックアップロール装置のサドルのサドルリングと偏心リングの一部縦断面図であって、一定期間使用するまでの図であり、図4(B)は、一定期間使用後に端面に環状溝を形成して案内輪を嵌め込んだサドルリングと偏心リングの一部縦断面図である。
【図5】従来の圧延機用バックアップロール装置の一部縦断面図である。
【図6】従来の圧延機用バックアップロール装置のサドルのサドルリングの一部縦断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 外輪
2 内輪
3 ころ
4 保持器
5 案内輪
6 サドル
7 偏心リング
7a 偏心リング端面
7b 環状溝
8 サドルリング
9 サドル部材
10 スラストワッシャ
11 リングキー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、内外輪間に保持器により保持される複列で複数のころより成るころ軸受と、前記内輪外周側ところ列間との間に配置される案内輪と、ころ列の一端側に設けられ偏心リングとサドルリングとを備えたサドルと、より成る圧延機用バックアップロール装置において、
前記サドルの偏心リングの軸方向端面に環状溝を形成し、該環状溝に案内輪を嵌め込むことを特徴とする圧延機用バックアップロール装置。
【請求項2】
外輪と、内輪と、内外輪間に保持器により保持される複列で複数のころより成るころ軸受と、前記内輪外周側ところ列間との間に配置される案内輪と、ころ列の一端側に設けられ偏心リングとサドルリングとを備えたサドルと、より成る圧延機用バックアップロール装置において、
前記ころ軸受の交換もしくは修理時或いは保守点検時に、前記サドルの偏心リングの軸方向端面に環状溝を形成し、該環状溝に案内輪を嵌め込むことを特徴とする圧延機用バックアップロール装置。
【請求項3】
前記サドルの偏心リングの軸方向端面に形成した環状溝に嵌め入れる案内輪に代えて鋼製リングを嵌め込むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧延機用バックアップロール装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−83973(P2006−83973A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270682(P2004−270682)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】