説明

圧延油供給装置及び方法

【課題】金属ストリップの表面に、その幅方向全体に亘って均一混合の圧延油を、変更された各種幅寸法の金属ストリップの幅全体に亘っても、圧延油を継続して所定の濃度で均一に吹き付けることができる圧延油供給装置及び方法を提供すること。
【解決手段】圧延機で金属ストリップの表面に、圧延油を含むクーラントを供給するための圧延油供給装置であって、圧延油と液体を混合してクーラントを作るミキシングタンクと、複数のノズル部材を有し、供給されたクーラントを金属ストリップの幅方向に均一に吹き付けるヘッダ装置と、前記クーラントを前記ミキシングタンクから前記ヘッダ装置に供給する供給路と、前記ヘッダ装置において吹き付けに使用されなかったクーラントを、前記ヘッダ装置の流路末端部から前記ミキシングタンクに戻すための戻し路とを有することを特徴とする圧延油供給装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ストリップの圧延の際、圧延機の圧延ロールと金属ストリップの間の摩擦を低減させて金属ストリップの圧延加工を容易にし、さらに圧延された金属ストリップの表面を美しく仕上るために、金属ストリップ表面に圧延油を均一に供給する圧延油供給装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延される金属ストリップの圧延前及び圧延後の幅は区々である。従って、ストリップ表面に吹き付けあるいは塗布すべき圧延油の幅は、圧延ロット毎に調整することが必要である。
【0003】
圧延油は、通常、圧延油と相溶性のない水に混合されて、金属ストリップ表面に吹き付け又は塗布される。この混合液は、その冷却作用から、クーラントと呼ばれることもある(以下、クーラントという)。
【0004】
従来、相溶性のない複数の流体を混合してなる混合流体すなわちクーラントをヘッダ装置から噴射するに際して、ミキシングタンクからヘッダ装置までの距離が長いため、ミキシングタンク内で調整されたエマルション状態のクーラントは、ヘッダ装置に送られるまでの間に、圧延油と水に分離する。その結果、ヘッダの幅方向で圧延油の濃度分布が不均一となる現象、あるいは経時的に濃度変化する現象が起こる。特に、ヘッダ両端部は閉塞されているため、幅方向両端部付近では流速が低下し、圧延油と水の分離が促進される。これにより、該ヘッダの両端部付近からクーラントが噴射される位置に対応する金属ストリップ表面では、圧延油の付着量が多くなるという問題が発生する。
【0005】
この問題を解決するために、前記細長いヘッダと混合流体供給側の間に挿入された、流路を狭くするための絞りを有するインジェクタ部と、該インジェクタ部の出側正面の開孔とヘッダを連通して、ヘッダに混合流体を供給する供給配管と、前記インジェクタ部の側面に形成された開孔と、該インジェクタ部側面の開孔とヘッダ長手方向の端部を連通する戻り配管とを備え、混合流体の流れにより前記インジエクタ部側面の開孔に発生する負圧を、前記戻り配管を介してヘッダ端部からヘッダ内の混合流体に作用させ、ヘッダ端部に滞留する混合流体を前記混合流体供給側へ戻すように構成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、圧延中の金属ストリップの表面に、金属ストリップの幅方向全体に圧延油の均一な付着量で塗布するために、圧延油タンクから送られる圧延油と、温水タンクから送られる温水とを、ミキシングタンクで混合してエマルジョン状態のクーラントを調製し、該クーラントをヘッダ装置から圧延装置で圧延されつつある金属ストリップSの表面に噴射して、圧延油を該ストリップの表面に塗布する圧延油供給装置であって、ミキシングタンクとヘッダ装置との間に、インジェクタを介設し、該インジェクタによりヘッダ装置に供給されるクーラントの一部を出側管を通して循環させて供給させることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
さらに、変更した金属ストリップの幅に合わせて吹き付け幅あるいは塗布幅を調整する「幅切り」を行った場合でも、油分濃度を均一に維持すること目的として、 多数のスプレーノズルを備えたメインヘッダの背面にサブヘッダを設け、戻り管及び供給管により連結し、供給管の内部にインジェクションノズルを深く挿入し、圧延油をメインヘッダに向けて噴出することにより、ヘッダ内部に循環流が形成され、油分濃度の不均一を防止する構成が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
さらに、相溶性のない複数の流体が混合されてなる混合流体を一つのヘッドから噴射するヘッダ装置であって、ヘッダの混合流体を供給する側で流路を絞り、該混合流体に負圧を生じさせるためのインジェクタ部と、ヘッダ長手方向の端部と前記インジェクタ部を連通し、前記負圧を該端部からヘッダ内の混合流体に作用させて、該混合流体を前記混合流体供給側へ戻すための戻り配管とを備えた構成が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
これらの従来の構成においては、それぞれの問題点をある程度解決している。しかし、特許文献1,2、4の方法では、ヘッダーの圧延油供給路端部から圧延油供給路に戻して循環させる構成であるから、引用文献4第4頁左上欄第7〜9行に記載されているように、「ヘッダ内混合流体の油分濃度は、設定濃度(14%)の±2%の範囲」であると書かれており、継続的に使用された場合、濃度範囲が±2%を超えることになるという問題がある。すなわち、引用文献4のヘッダ装置においては、その時その時に金属ストリップの幅方向において均一濃度の圧延油を吹き付けることができるとしても、時間の経過に伴って圧延油の濃度が所定濃度範囲を超えるおそれが高い問題がある。
【0010】
本発明者は、上述した従来の圧延油供給装置のヘッダ装置について検証実験を行った。検証したヘッダ装置は、左から右へ11個の噴射ノズルを備えている。幅110cmの金属ストリップのためのヘッダ装置には、供給配管からクーラントを加圧供給した。クーラントは、10%のパーム油と、90%の水とを混合したエマルションである。該クーラントを、7.7L/minの流量で、0.2Mpaの圧力で、供給配管から供給した。
【0011】
噴射ノズルから噴射される圧延油の濃度は、図4に示すように、左端の噴射ノズルにおいて16%、右端の噴射ノズルにおいて17%である。従って、左右端の噴射ノズルにおいてかなりの濃度変化が認められる。
【0012】
上述した金属ストリップの表面における圧延油の付着量にばらつきが生じると、付着量が過剰になる部分ではストリップの伸び率が大きくなって形状が乱れ、逆に付着量が少ない部分では表面にヒートストリークが発生することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公平6−85894号
【特許文献2】特開平6−190428号
【特許文献3】特開2003−340514号
【特許文献4】特開平04−100556号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
(発明の目的)
本発明は、従来の圧延油供給装置及び方法の前記問題点に鑑みなされたものであって、金属ストリップの表面に、その幅方向全体に亘って均一混合の圧延油を、変更された各種幅寸法の金属ストリップの幅全体に亘っても、圧延油を継続して所定の濃度で均一に吹き付けることができる圧延油供給装置及び方法を提供することを目的とする。
【0015】
本発明はまた、ヘッダ装置内のクーラントの流速の低下を防止することにより、また、ヘッダ装置に供給されるクーラントが常にミキシングタンクからポンプを介して供給されるようにして、ヘッダ装置全体において該クーラントに含まれる圧延油が分離することを防止し、常に均一な濃度分布で圧延油及びクーラントを噴射し、金属ストリップの表面に対する圧延油の付着量を幅方向にわたって継続して同一にすることが可能な圧延油供給装置及び方法を提供することを目的とする。
本発明はさらに、金属ストリップの所定表面領域のみに所定量・所定濃度の圧延油を吹き付け、無駄な圧延油を浪費しない経済的な圧延油供給装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、
圧延機で金属ストリップの表面に、圧延油を含むクーラントを供給するための圧延油供給装置であって、
圧延油と液体を混合してクーラントを作るミキシングタンクと、
複数のノズル部材を有し、供給されたクーラントを金属ストリップの幅方向に均一に吹き付けるヘッダ装置と、
前記クーラントを前記ミキシングタンクから前記ヘッダ装置に供給する供給路と、
前記ヘッダ装置において吹き付けに使用されなかったクーラントを、前記ヘッダ装置の流路末端部から前記ミキシングタンクに戻すための戻し路と
を有することを特徴とする圧延油供給装置
である。
【0017】
本発明はまた、
圧延機で金属ストリップの表面に、圧延油を含むクーラントを供給するための圧延油供給方法であって、
ミキシングタンクにおいて圧延油と液体を混合してクーラントを作るステップと、
前記クーラントを複数のノズル部材を有するヘッダ装置によって金属ストリップの表面に吹き付けるステップと、
前記ヘッダ装置において吹き付けに使用されなかったクーラントを前記ヘッダ装置の流路末端部から前記ミキシングタンクに戻すステップと
を有することを特徴とする圧延油供給方法である。
【0018】
本発明の実施態様は、以下のとおりである。
圧延油供給装置については、
前記供給路が、自動濃度計を有することを特徴とする。
前記供給路が、クーラントを採取するためのサンプリング口を有することを特徴とする。
前記クーラントは、圧延油と水の混合液であることを特徴とする。
【0019】
圧延油供給方法については、
前記クーラントを複数のノズル部材を有するヘッダ装置によって金属ストリップの表面に吹き付けるステップが、圧延油の濃度を測定するステップを包含することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、金属ストリップの表面に、その幅方向全体に亘って均一混合の圧延油を、変更された各種幅寸法の金属ストリップの幅全体に亘っても、圧延油を継続して所定の濃度で均一に吹き付けることができる効果を得ることができる。
【0021】
本発明によればまた、ヘッダ装置内のクーラントの流速の低下を防止することにより、また、ヘッダ装置に供給されるクーラントが常にミキシングタンクからポンプを介して供給されるようにして、該クーラントに含まれる圧延油が分離することを防止し、常に均一な濃度分布で圧延油及びクーラントを噴射し、金属ストリップの表面に対する圧延油の付着量を幅方向にわたって継続して同一にすることができる効果を有する。
可能な圧延油供給装置及び方法を提供することを目的とする。
本発明によればさらに、金属ストリップの所定表面領域のみに所定量・所定濃度の圧延油を吹き付け、無駄な圧延油を浪費しない経済的な圧延油供給ができる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の圧延油供給装置の構成説明図である。
【図2】本発明の実施形態の圧延油供給装置のヘッダ装置の構成説明図である。
【図3】本発明の実施形態の圧延油供給装置による圧延油の吹き付けの濃度グラフである。
【図4】従来の圧延油供給装置による圧延油の吹き付けの濃度グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施形態の圧延油供給装置を図に基づいて説明する。
(構成)
圧延油供給装置1は、図1に示すように、供給された圧延油と水を、ミキシングタンク10のアジテーター11によって攪拌して、クーラントを生成する。ミキシングタンク10は、循環ポンプ14により循環流路19内のクーラントを昇圧させて循環させて、ミキシングタンク10へ戻す。ミキシングタンク10内のクーラントは、この循環により、所定の濃度でかつ所定の乳化状態で維持される。
【0024】
循環流路19は、濃度測定用にクーラントを取り出すための第1濃度測定用サンプリング口20と、自動的に濃度測定を行うための自動濃度測定センサー22を有する。
【0025】
循環流路19には、また、ヘッダー装置30にクーラントを供給するための供給流路32が接続されている。供給流路32は、昇圧ポンプ34、ニードルバルブ36及び第2濃度測定用サンプリング口40を有する。
【0026】
ヘッダー装置30は、金属ストリップSの上方及び下方に配置される。ヘッダー装置30は、圧延ロール42によって走行圧延される金属ストリップSの上表面及び下表面に、供給流路32を介して供給されたクーラントを吹き付ける。
【0027】
ヘッダー装置30は、図2に示すように、金属ストリップSの幅方向に並んで配置された複数のノズル部材101〜111を有する。ノズル部材101〜111にクーラントを供給する供給流路32は、ノズル部材101〜111の列の中心位置から金属ストリップSの幅方向の両側へ延び、ノズル部材101〜111の両端部まで続く。
【0028】
供給流路32は、図2に示すように、ノズル部材101〜111の両端部において戻り流路31に接続されている。戻り流路31は、図2に示すように、噴射するノズル部材の数の変更すなわち幅切りによるクーラント流量の変化等を調整するため、及びノズル部材101〜111から噴射されるクーラントの圧力を調整するためのオリフィス35、ニードルバルブ36を有する。
【0029】
(作用)
上述した構成の圧延油供給装置1は、ミキシングタンク10から供給されたクーラントが、循環ポンプ14によって循環され、さらに昇圧ポンプ34によって所定の圧力にされて、ヘッダ装置30に供給される。クーラントの圧延油濃度は、自動濃度測定センサー22の測定値に基づいて調整管理される。
【0030】
自動濃度測定センサー22は、循環ポンプ14により循環流路19内のクーラントを昇圧させて循環させている間中、連続して濃度測定を行い、ミキシングタンク10から供給されたクーラントの濃度管理の基礎データを得る。第1濃度測定用サンプリング口20及び第2濃度測定用サンプリング口40から取り出したクーラントサンプルは、他所で濃度測定され、自動濃度測定センサー22の測定が正しいことを確認する。
【0031】
供給流路32からヘッダ装置30に供給されたが、ノズル部材101〜111によって噴射されなかった残余のクーラントは、ノズル部材101〜111の両端部に接続された戻り流路31及び循環流路19の一部を経由して、ミキシングタンク10に戻される。ニードルバルブ36は、噴射するノズル部材の数の変更すなわち幅切りによるクーラント流量及びヘッダー圧力の変化を調整する。
【0032】
このように構成され作動する圧延油供給装置1において、ヘッダ装置30に供給されるクーラントは、濃度が常に自動濃度センサー22の測定値に基いて管理され、かつ濃度測定後に何ら濃度を変更する恐れのあることはなされないので、常に所定の濃度のクーラントが金属ストリップに吹き付けられる。
【0033】
さらに、供給流路32からヘッダ装置30に供給されたがノズル部材101〜111によって噴射されなかった残余のクーラントは、ヘッダ装置30内に滞留することなく戻り流路31及び循環流路19の一部を経由して、ミキシングタンク10に戻される。従って、クーラントは、相容性のない圧延油と水の混合体であっても、ミキシングタンク10において生成された所定の濃度でかつ所定の乳化状態のまま、ヘッダ装置30から金属ストリップに吹き付けられる。
【0034】
本発明の実施製品「圧延油供給装置」の性能は、以下の通りである。金属ストリップの幅は110cm、ノズル部材11個、圧延油は10%のパーム油と90%の水との混合エマルション、全ノズル部材の流量7.7L/min、噴射圧力0.2Mpaで吹き付けた。
【0035】
噴射ノズル101〜111から噴射される圧延油の濃度は、クーラントを採取用シリンダーに採取した後、硫酸により水と圧延油を分離させて測定した。圧延油の濃度は、図3に示すように、左端の噴射ノズル101において+0.5%、右端の噴射ノズル111において0+0.5%である。従って、左右端の噴射ノズル101,111において濃度不均一はほとんど認められなかった。
【符号の説明】
【0036】
1 圧延油供給装置
10 ミキシングタンク
11 アジテーター
14 循環ポンプ
19 循環流路
20 第1濃度測定用サンプリング口2
22 自動濃度測定センサー
30 ヘッダー装置
31 戻り流路
32 供給流路
34 昇圧ポンプ
36 ニードルバルブ
40 第2濃度測定用サンプリング口
42 圧延ロール
101〜111 ノズル部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機で金属ストリップの表面に、圧延油を含むクーラントを供給するための圧延油供給装置であって、
圧延油と液体を混合してクーラントを作るミキシングタンクと、
複数のノズル部材を有し、供給されたクーラントを金属ストリップの幅方向に均一に吹き付けるヘッダ装置と、
前記クーラントを前記ミキシングタンクから前記ヘッダ装置に供給する供給路と、
前記ヘッダ装置において吹き付けに使用されなかったクーラントを、前記ヘッダ装置の流路末端部から前記ミキシングタンクに戻すための戻し路と
を有することを特徴とする圧延油供給装置。
【請求項2】
前記供給路が、自動濃度計を有することを特徴とする請求項1に記載の圧延油供給装置。
【請求項3】
前記供給路が、クーラントを採取するためのサンプリング口を有することを特徴とする請求項1に記載の圧延油供給装置。
【請求項4】
前記クーラントは、圧延油と水の混合液であることを特徴とする請求項1に記載の圧延油供給装置。
【請求項5】
圧延機で金属ストリップの表面に、圧延油を含むクーラントを供給するための圧延油供給方法であって、
ミキシングタンクにおいて圧延油と液体を混合してクーラントを作るステップと、
前記クーラントを複数のノズル部材を有するヘッダ装置によって金属ストリップの表面に吹き付けるステップと、
前記ヘッダ装置において吹き付けに使用されなかったクーラントを前記ヘッダ装置の流路末端部から前記ミキシングタンクに戻すステップと
を有することを特徴とする圧延油供給方法。
【請求項6】
前記クーラントを複数のノズル部材を有するヘッダ装置によって金属ストリップの表面に吹き付けるステップが、圧延油の濃度を測定するステップを包含することを特徴とする請求項5に記載の圧延油供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−143454(P2011−143454A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6849(P2010−6849)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】