説明

圧粉成形体の成形方法

【課題】圧粉成形体を均一な品質で生産性良く成形可能な圧粉成形体の成形方法を提供する。
【解決手段】原料粉末3を用意する(準備工程)。第一パンチ(下パンチ12)の外周面12sとダイ10の内周面10sとの間に金型用潤滑剤を存在させ、この状態でこれら下パンチ12とダイ10とを相対的に移動させて、ダイ10の内周面10sに金型用潤滑剤を塗布する(塗布工程)。キャビティに、原料粉末3を充填し、当該原料粉末3を加圧して圧粉成形体100を成形する(成形工程)。ここで、塗布工程では、下パンチ12に設けられた供給口12iから金型用潤滑剤を吐出し、かつ下パンチ12に設けられた排出口12oからその吐出された金型用潤滑剤を回収しつつ、ダイ10の内周面10sに金型用潤滑剤を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料粉末を加圧して圧粉成形体を成形する圧粉成形体の成形方法に関するものである。特に、リアクトルやモータなどの磁心の素材となる圧粉成形体を成形する圧粉成形体の成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄やその合金、フェライトといった酸化物などの軟磁性材料からなる磁心と、この磁心に配置されるコイルとを備える磁気部品が種々の分野で利用されている。具体的には、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車といった車両に載置される車載部品、種々の電気機器の電源回路部品などに利用されるモータ、トランス、リアクトル、チョークコイルなどが挙げられる。上記磁心には、複数の薄い電磁鋼板を積層させた積層体、上記軟磁性材料からなる粉末(以下、軟磁性粉末と呼ぶ)を金型に充填して成形した後、得られた圧粉成形体に歪み除去のための熱処理を施した圧粉磁心がある。
【0003】
上記磁気部品を交流磁場で使用する場合、磁心には、鉄損(概ね、ヒステリシス損と渦電流損との和)と呼ばれるエネルギー損失が生じる。渦電流損は作動周波数の2乗に比例するため、上記磁気部品が数kHz以上といった高周波数で使用される場合、鉄損が顕著になる。このように作動周波数が高い場合には、鉄や鉄合金などの軟磁性金属粒子の外周に絶縁層を備える被覆粒子(例えば、特許文献1)からなるものを利用すると、渦電流損を効果的に低減でき、結果として鉄損を低減できる。
【0004】
上記圧粉成形体の製造にあたり、例えば特許文献1に記載のように、金型にスプレーや刷毛により潤滑剤を塗布して、金型と圧粉成形体との摩擦を低減して圧粉成形性を高めることがなされている。上記被覆粒子からなる軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を成形する場合、このように潤滑剤を利用することで、被覆粒子と金型との摺接や粒子同士の摺接による絶縁層の損傷を抑制して絶縁性に優れる圧粉成形体が得られる。この絶縁性に優れる圧粉成形体を利用することで、圧粉磁心の渦電流損、ひいては鉄損の低減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−202956号公報
【特許文献2】特開平09−272901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の成形方法では、上述した圧粉磁心に限らず、原料粉末を加圧して成形する圧粉成形体を均一な品質で生産性良く作製することが難しかった。
【0007】
上記スプレーや刷毛では成形用金型において圧粉成形体が摺接し得る面に均一的に潤滑剤を塗布することが難しく、塗布面積が大きくなるほど、均一的な塗布が困難になる。しかも、連続的に複数の圧粉成形体を作製するにあたり、各圧粉成形体を作製するための潤滑剤の塗布状態にもバラツキが生じ易い。
【0008】
そこで、本発明の目的は、圧粉成形体を均一な品質で生産性良く成形可能な圧粉成形体の成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、成形用金型において成形体と摺接し得る面(以下、摺接面と呼ぶ)に均一的に薄く潤滑剤を塗布する手法として、スプレーなどの独立した塗布手段を用いることなく、成形用金型に金型用潤滑剤の供給口を設け、成形用金型自身を潤滑剤の塗布手段として利用することを検討した。その結果、一対の柱状パンチと、一つの筒状のダイと、を備える成形用金型を利用する場合、少なくとも一方のパンチとダイとの相対的移動を利用すれば、キャビティを構成するダイの内周面に均一的に潤滑剤を塗布できる、との知見を得た。
【0010】
さらに、本発明者らは、給粉→成形を連続的に繰り返すことで、圧粉成形体を生産性良く連続的に成形することを想定し、上記パンチとダイの相対的移動を利用した潤滑剤の塗布を検討した。その結果、原料粉末を用いて連続的な成形を行なうと、ダイとパンチの隙間を通過した微粒な原料粉末の蓄積により、金型用潤滑剤の供給口が塞がれる恐れがあり、そうなると潤滑剤の安定供給及び塗布が阻害される恐れがあることが分かった。
【0011】
上記知見に基づいて、本発明者らは本発明圧粉成形体の成形方法を完成させるに至った。以下に、本発明圧粉成形体の成形方法を規定する。
【0012】
本発明の圧粉成形体の成形方法は、相対的に移動可能な柱状の第一パンチと筒状のダイとでつくられるキャビティに原料粉末を充填し、上記第一パンチと柱状の第二パンチとにより上記キャビティ内の原料粉末を加圧して、圧粉成形体を成形する圧粉成形体を成形する方法に係る。この本発明成形方法は、以下の準備工程と、塗布工程と、成形工程とを備える。
[準備工程]:原料粉末を用意する工程。
[塗布工程]:上記第一パンチの外周面と上記ダイの内周面との間に金型用潤滑剤を存在させ、この状態でこれら第一パンチとダイとを相対的に移動させて、上記ダイの内周面に上記金型用潤滑剤を塗布する工程。
[成形工程]:上記第一パンチと上記金型用潤滑剤が塗布された上記ダイとで囲まれたキャビティに、上記原料粉末を充填し、上記第一パンチと上記第二パンチとにより当該原料粉末を加圧して圧粉成形体を成形する工程。
ここで、塗布工程では、上記ダイまたは第一パンチに設けられた供給口から上記金型用潤滑剤を吐出し、かつ上記ダイまたは第一パンチに設けられた排出口から上記吐出された金型用潤滑剤を回収しつつ、上記ダイの内周面に上記金型用潤滑剤を塗布する。なお、金型用潤滑剤の吐出は連続的に行なっても良いし断続的に行なっても良い。
【0013】
上記本発明成形方法は、あらゆる圧粉成形体の成形に利用できるが、特にリアクトルやモータなどの磁心の素材となる圧粉磁心(圧粉成形体)の作製に適する。例えば、本発明成形方法における準備工程で用意する原料粉末を、絶縁層を備える軟磁性金属粒子の集合体である被覆軟磁性粉末を含む原料粉末とすれば、磁気特性に優れる圧粉磁心(圧粉成形体)を成形することができる。
【0014】
本発明成形方法では、第一パンチ及びダイという成形用金型の構成要素を塗布手段とし、両者の相対移動を利用して塗布作業を行うため、スプレーなどの塗布手段を別途用意して成形用金型の近傍に配置する必要がない。かつ、この構成は、成形のための動作と塗布のための動作とが実質的に重複することから成形時の作業効率がよく、圧粉成形体の製造性に優れる。
【0015】
また、本発明成形方法では、第一パンチの外周面とダイの内周面との間に供給口から金型用潤滑剤を供給しつつ、余剰の金型用潤滑剤を排出口から排出する構成(以下、循環供給と呼ぶことがある)であるので、金型用潤滑剤の余剰供給、及び塗布を防止出来る。しかも、循環供給を行なうことで、ダイとパンチの隙間を通過した微粒な原料粉末を余剰の金型用潤滑剤の排出と共に回収でき、当該粉末が金型内に蓄積したり、供給口を塞ぐことを防止できる。これらのことから、連続的に成形する圧粉成形体の数が多くなっても、均一な品質の圧粉成形体を生産性良く成形することができる。特に、被覆軟磁性粉末を含む原料粉末を用いて圧粉磁心を作製する場合、余剰の金型用潤滑剤に起因する軟磁性粉末の絶縁層の損傷が生じ難く、鉄損の小さい圧粉成形体を生産性良く成形することができる。
【0016】
ここで、上記循環供給を達成するための成形用金型における供給口と排出口の配置は、次の(1)〜(3)のいずれかとすることができる。即ち、(1)供給口と排出口の両方を第一パンチの外周面に設ける、(2)供給口と排出口の両方をダイの内周面に設ける、(3)供給口と排出口のいずれか一方をダイの内周面に、他方を第一パンチの外周面に設ける、のいずれかである。これらの構成のうち、(2)、(3)の構成(ダイの内周面に供給口と排出口の少なくとも一方が設けられる構成)の場合、第一パンチの外周面に、金型用潤滑剤を一旦貯留する溜まり溝を設けることが好ましい。この溜まり溝の幅、長さ、深さは特に限定されない。
【0017】
また、上記循環供給を円滑にするために、供給口に繋がる溝であって、供給口から吐出される金型用潤滑剤を分散させる分散溝を設けても良いし、排出口に繋がる溝であって、余剰の金型用潤滑剤を集めて排出口に導く収集溝を設けても良い。供給口と排出口の両方をダイまたは第一パンチのいずれかに設ける場合、分散溝と収集溝を繋げること、即ち、供給口から排出口に向かって伸びる1本の循環溝とすることが好ましい。分散溝、収集溝、循環溝の幅、長さ、深さは特に限定されない。
【0018】
本発明成形方法の一形態として、塗布工程において、ダイの内周面の全周にわたって金型用潤滑剤を塗布する形態を挙げることができる。
【0019】
上記構成によれば、金型から圧粉成形体を抜き易くすることができる。また、上記構成によれば、被覆軟磁性粉末を含む原料粉末を用いて圧粉磁心(圧粉成形体)を作製する場合、圧粉成形体の外周面のうち、ダイの摺接面に対応する面の絶縁層が損傷することを効果的に回避することができる。その結果、鉄損の小さい圧粉成形体を作製することができる。
【0020】
ダイの内周面の全周にわたって金型用潤滑剤を塗布する場合、例えば、後述する実施形態1の図1,2に示すように、金型用潤滑剤の供給口12iと排出口12oとを第一パンチ(下パンチ12)の水平方向にも垂直方向にも異なる位置に配置して、さらに供給口12iと排出口12oとを循環溝12gで繋ぐ構成とすることが挙げられる。その場合、環状溝12gは、下パンチ12の外周の1周超の長さを有するようにすると良い。
【0021】
本発明成形方法の一形態として、ダイの内周面の一部分に金型用潤滑剤を塗布する形態を挙げることができる。
【0022】
ダイの内周面の一部分に金型用潤滑剤を塗布する場合、ダイの内周面を周方向に分断するように金型用潤滑剤を塗布する、即ち、加圧方向と略平行となるように金型用潤滑剤を塗布することが挙げられる。特に、被覆軟磁性粉末を含む原料粉末を用いて圧粉磁心(圧粉成形体)を作製する場合、ダイの内周面を周方向に分断するように金型用潤滑剤を塗布すれば、圧粉成形体の外周面において加圧方向と略平行に伸びる健全な絶縁層を備える領域を形成することができる。このような圧粉成形体を磁心として励磁するにあたり上記加圧方向と磁束方向とが同じ場合、当該圧粉成形体の外周面のうち、磁束方向を軸方向として周方向に流れる渦電流を分断でき、その結果として圧粉成形体の鉄損を小さくすることができる。
【0023】
ダイの内周面を周方向に分断するようにダイの内周面に金型用潤滑剤を塗布する場合、例えば、実施形態2の図3(A)〜(C)に示すように、供給口12iと排出口12oとを、下パンチ12A〜12Cの周方向あるいは軸方向にずれた位置に配置して、循環溝12gで繋ぐことが挙げられる。
【0024】
本発明成形方法の一形態として、準備工程において、固体潤滑剤からなる原料用潤滑剤を混合した原料粉末を用意する形態とすることができる。
【0025】
成形用金型に金型用潤滑剤を塗布すると共に、原料粉末に原料用潤滑剤を混合して原料粉末自身に潤滑性を持たせることで、圧粉成形体を成形する際、原料粉末を構成する粒子と成形用金型との間、及び当該粒子同士の間の摩擦を小さくすることができる。特に、被覆軟磁性粉末を含む原料粉末を用いて圧粉磁心(圧粉成形体)を作製する場合、粒子同士の摩擦を小さくすることで、圧粉成形体の摺接面だけでなく、圧粉成形体の内部での絶縁層の損傷を効果的に抑制でき、鉄損の小さい圧粉磁心を得ることができる。
【0026】
本発明成形方法の一形態として、ダイの内周面に塗布する金型用潤滑剤は、引火性を有しない液媒に固体潤滑剤からなる粒子を分散させた分散剤である形態とすることができる。
【0027】
金型用潤滑剤として上記分散剤を利用することで、固体潤滑剤のみを利用する場合や液体潤滑剤を利用する場合に比較して、ダイの内周面に潤滑剤を均一的に塗布し易い上に、この均一的な塗布状態を維持し易い。例えば、金型用潤滑剤に固体潤滑剤の粉末のみを利用する場合、潤滑剤の供給口や排出口が詰まったり、上記分散剤よりも流動性に劣ることで、ダイの内周面に付着させ難かったり、塗布しても重力により落下したりする恐れがある。一方、金型用潤滑剤に液体潤滑剤を利用する場合、例えば、グリースのように粘度が高い液体潤滑剤では、上述した固体潤滑剤のみを利用する場合と同様に供給口や排出口が詰まったり、流動性に劣ることで潤滑剤の過不足(塗布斑)を招いたりする恐れがある。上記分散剤を利用する本発明成形方法では、液媒が固体潤滑剤からなる粒子の流動性を高める助剤となり、上述のように塗布作業の容易性、ダイの内周面への金型用潤滑剤の存在状態の均一性を高められる。特に、本発明成形方法では、液媒を引火性を有しないものとすることで、作業者の安全性を高められる。
【0028】
本発明の一形態として、上記金型用潤滑剤中の固体潤滑剤がエチレンビスステアリン酸アミドを含む形態が挙げられる。
【0029】
エチレンビスステアリン酸アミドは、潤滑性に優れる。特に、被覆軟磁性粉末を含む原料粉末を用いる場合、優れた潤滑性によって当該粉末を構成する各粒子の絶縁層の損傷を効果的に防止できる。また、エチレンビスステアリン酸アミドは金属元素を含まないため、上記形態により得られた圧粉成形体に熱処理を施す場合、熱処理時、金属元素を含む酸化物が形成されず、当該酸化物の生成により熱処理炉を汚染し難い。
【発明の効果】
【0030】
本発明圧粉成形体の成形方法によれば、均一な品質の圧粉成形体を生産性良く連続的に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(A)〜(F)は、本発明圧粉成形体の成形方法の手順を説明する工程説明図である。
【図2】(A)は実施形態1に示す本発明圧粉成形体の成形方法に用いる成形用金型の下パンチ及びダイの一部を拡大して示す部分断面図、(B)は(A)のB−B断面図である。
【図3】(A)〜(C)はそれぞれ、実施形態2に示す本発明圧粉成形体の成形方法に用いる成形用金型の下パンチの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<実施形態1>
以下、本発明圧粉成形体の成形方法により圧粉磁心を成形する例を図面に基づいて詳細に説明する。その説明にあたり、まず初めに本発明圧粉成形体の成形方法に利用する成形用金型を、次いで金型用潤滑剤と原料粉末を説明し、最後に成形方法を説明する。なお、本発明圧粉成形体の成形方法は、圧粉磁心の成形に限定されるわけではなく、磁性を持たない圧粉成形体の成形に利用することもできる。
【0033】
[成形用金型]
利用する成形用金型としては、例えば、図1,2に示すように矩形の貫通孔10hを備える筒状のダイ10と、貫通孔10hに挿脱される一対の角柱状(図1(B)の横断面図を参照)の上パンチ11・下パンチ12とを備える成形用金型1を利用することができる。なお、貫通孔10hの形状、およびパンチ11,12の横断面形状は矩形に限定されるわけではなく、例えば、円形を含む楕円形状、矩形以外の多角形状、直線と円弧を組み合わせた扇状などの異形状、のいずれであっても構わない。
【0034】
この図1に示す成形用金型1では、下パンチ12が図示しない本体装置に固定され、ダイ10及び上パンチ11が図示しない移動機構によりそれぞれ上下方向に移動可能な構成とした。もちろん、ダイ10が固定されて両パンチ11,12が移動可能な構成としても良いし、ダイ10及び両パンチ11,12のいずれもが移動可能な構成としても良い。成形用金型1の構成材料には、従来、金属材料の圧粉成形体の成形に利用されている適宜な高強度材料(高速度鋼など)が挙げられる。
【0035】
(循環供給機構)
本実施形態の成形用金型1は、下パンチ12の外周面12sとダイ10の内周面10sとの隙間に金型用潤滑剤を吐出し、その吐出された金型用潤滑剤の余剰分を回収しつつ、ダイ10の内周面10sの全周にわたって金型用潤滑剤を塗布する金型用潤滑剤の循環供給機構20を備える。本実施形態における循環供給機構20は、図2に示すように下パンチ12に設けられており、供給口12i・供給流路120i・排出口12o・排出流路120o・循環溝12gを備えている。
【0036】
供給口12iは、角柱状に形成された下パンチ12の外周面12sを構成する4つの面のうち、図2(A)の紙面奥側の面(図2(B)の紙面上側の面)に開口する。供給口12iは、この供給口12iに連絡する供給流路120iから金型用潤滑剤の供給を受けて、下パンチ12の外周面12sに当該潤滑剤を吐出する孔である。
【0037】
供給口12iに連絡する供給流路120iは、下パンチ12の後端側から先端側に向かって下パンチ12の軸方向(図2(A)では上下方向、図2(B)では奥行き方向)に沿って伸び、途中で下パンチ12の外周面12s(図2(A)では奥側の面、図2(B)では上側の面)に向かって屈曲する管路である。このように、供給流路120iの大部分を下パンチ12の中心側に設けることで、供給流路120iによる下パンチ12の強度低下を抑制することができる。なお、この供給流路120iの下端側には、金型用潤滑剤を貯留するタンクと、タンク内の金型用潤滑剤を供給流路120iに送り出すポンプとが設けられている(いずれも図示せず)。
【0038】
一方、余剰の金型用潤滑剤を回収する排出口12oは、下パンチ12の4つの面のうち、図2(A)の紙面手前側の面(図2(B)では紙面下側の面)に開口している。また、下パンチ12の軸方向における排出口12oの開口位置は、上記供給口12iよりも下パンチ12の先端側(上面12u側)となっている。つまり、排出口12oと供給口12iとは、下パンチ12の周方向にも軸方向にもずれて配置されている。
【0039】
上記排出口12oには、排出流路120oが連絡している。この排出流路120oも、供給流路120iと同様に、下パンチ12の後端側から先端側に向かって下パンチ12の軸方向(図2(A)では上下方向、図2(B)では奥行き方向)に沿って伸び、途中で下パンチ12の外周面12s(図2(A)では手前側の面、図2(B)では下側の面)に向かって屈曲する管路である。屈曲した排出流路120oの先端部は排出口12oに繋がっている。
【0040】
上記排出流路120oの下端側には、回収した金型用潤滑剤を貯留する回収用タンクが設けられている(図示せず)。タンクに回収した金型用潤滑剤は適宜な処理を施して、再利用すると良い。その他、排出流路120oを供給用タンクに直結しても構わない。但し、その場合には、タンク内に撹拌機構などを設けて、供給する金型用潤滑剤の品質を均質化することが好ましい。上述した金型用潤滑剤を再利用する構成では、回収した金型用潤滑剤に含まれる微粒な原料粉末を分離し、その原料粉末が循環系に再侵入することを防止しておく。分離には磁石を使用しても良いし、フィルターを用いても良い。
【0041】
上記供給口12iと排出口12oの開口形状は特に限定されないが、円形とすることが好ましい。そうすることで、金型用潤滑剤を円滑に給排することができる。同様に、供給流路120iと排出流路120oの断面形状も特に限定されないが、円形とすることが好ましい。
【0042】
また、供給口12iと排出口12oの口径(供給流路120iと排出流路120oの管径)は、後述する金型用潤滑剤の材質や形態によって適宜選択することができる。但し、両者の相対的な口径には好ましい関係がある。具体的には、排出口12oの口径は、供給口12iの口径の1〜2倍とすることが好ましい。排出口12oを大きめにすることで、循環供給する金型用潤滑剤の回収を円滑にすることができる。
【0043】
次に、循環溝12gについて説明する。循環溝12gは、下パンチ12の外周面12sを約1周半周回する螺旋状の溝であって、供給口12iと排出口12oとを繋ぐように設けられている。この循環溝12gを設けることで、供給口12iからと吐出された金型用潤滑剤の余剰分を排出口12oに円滑に導くことができる。
【0044】
循環溝12gの断面形状は適宜選択することができる。例えば、当該断面形状は、円形、矩形、台形などとすることができる。ここで、上述したように供給口12iの口径よりも排出口12oの口径を大きくする場合、循環溝12gの幅も供給口12iと排出口12oの口径に合わせて変化させることが好ましい。例えば、供給口12iから排出口12oに向かって徐々に循環溝12gの幅を大きくすると良い。
【0045】
以上説明した循環供給機構20の他、本実施形態の成形用金型1では、下パンチ12の外周面12sにおける供給口12iよりも後端側の領域にシール溝26が設けられている。シール溝26は、下パンチ12の外周面12sを周回する環状溝であり、供給口12iから吐出された金型用潤滑剤がシール溝26よりも後端側の位置に漏れ出ることを抑制する。このシール溝26には、シール性の高いスポンジなどの多孔質体を配置すると、当該漏出をより効果的に抑制できる。加えて、多孔質体に吸収された当該潤滑剤によりダイ10の移動を円滑にすることができる。このシール溝26の断面形状、正面からみた形状、大きさ(容積)、下パンチの周方向における形成領域は、適宜選択することができる。
【0046】
なお、金型用潤滑剤の供給量などによっては、金型用潤滑剤が下パンチ12の後端側に漏洩する恐れが少ない場合があり、その場合はシール溝26を省略しても構わない。また、シール溝26に上記多孔質体を配置せず、漏れ出た金型用潤滑剤をそのまま溜める構成としてもよい。
【0047】
(成形用金型の各部材の寸法関係)
下パンチ12の外周面12sとダイ10の内周面10sとの間に、ダイ10が移動可能な程度のクリアランスが設けられるように、下パンチ12及びダイ10の大きさを設定する(図2ではクリアランスを誇張して示している)。
【0048】
ここで、本実施形態では、ダイ10の貫通孔10hの寸法を貫通孔10hの軸方向に沿って一様とし、かつ、上記クリアランスの大きさが部分的に異なるように下パンチ12の外形を異形状としている。具体的には、循環溝12gよりも先端側(上面12u側)の領域の外形寸法を、循環溝12gよりも後端側の領域の外形寸法よりも小さくしている。つまり、循環溝12gよりも先端側のクリアランスを後端側のクリアランスよりも大きくしている。そうすることで、下パンチ12とダイ10との相対的な移動により、循環溝12g内の吐出された金型用潤滑剤をダイ10の内周面10sに均一的に塗布可能であると共に、循環溝12gよりも後端側に金型用潤滑剤が漏出し難い。
【0049】
[金型用潤滑剤]
次に、上記成形用金型に塗布する金型用潤滑剤を説明する。金型用潤滑剤としては、液体潤滑剤としても良いし、固体潤滑剤としても良いし、液媒(潤滑剤として機能するものでも良いし、実質的に潤滑剤として機能しないものでも良い)に固体潤滑剤を分散させたものであっても良い。特に、引火性を有しない液媒に固体潤滑剤からなる粒子を分散させた分散剤を金型用潤滑剤に利用することが好ましい。
【0050】
(固体潤滑剤)
固体潤滑剤は、種々の材質のものが利用できる。例えば、金属元素を含むもの、代表的には、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛などの金属石鹸、金属元素を含まないもの、代表的には、ステアリン酸、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミドなどの脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドなどが挙げられる。上記列挙した材質から選択される1種以上の固体潤滑剤を利用することができる。1種のみでも、複数の異なる材質の固体潤滑剤を組み合せて用いてもよい。特に、エチレンビスステアリン酸アミドは、優れた潤滑性を示し、成形用金型との擦れによる被覆軟磁性粉末の絶縁層の損傷を抑制できる。後述するように金型用潤滑剤を塗布した後、適宜加熱して、液媒を蒸発除去する場合には、固体潤滑剤は、当該熱により変質し難いものを利用することが好ましい。
【0051】
上記固体潤滑剤の粒子の大きさは、ダイ10と下パンチ12とのクリアランスよりも小さいことが好ましい。そうすることで、ダイ10の内周面10sに塗布された金型用潤滑剤が後述するダイ10の移動により脱落することを効果的に防止でき、固体潤滑剤が塗布された状態を良好に維持できる。上記金固体潤滑剤を構成する粒子の具体的な最大粒径は、20μm以下、更に10μm以下が好ましい。特に5μm以下といった微細な粒子とすると、塗布厚さを更に薄くできる上に、金型用潤滑剤の流動性を高められ、より均一的に塗布し易いと期待される。
【0052】
(液媒)
液媒は、主として、上記金型用潤滑剤における固体潤滑剤の粉末の流動性を高めるための媒体として利用される。特に、本発明成形方法では、液媒は、作業者の安全性を高めるために、引火性を有しないものとすることが好ましい。引火性を有しない液媒として、代表的には、引火点を有しない液体、端的に言うと危険物以外の液体が挙げられる。引火性を有しない液媒であれば、無機物でも有機物でもよい。
【0053】
上記無機物には、水が挙げられる。水は、用意が簡単、安全、環境負荷が小さい、といった利点を有する。この水のように、潤滑剤として実質的に機能しない液媒を用いる場合、ダイ10の内周面10sに金型用潤滑剤を塗布した後、除去することが望まれる。例えば、下パンチ12を加熱してもよいが、液媒が付着しているダイ10を加熱すると、短時間で、かつ容易に液媒の除去が可能であり、作業性に優れる。この加熱温度は、50℃以上が好ましく、当該温度が高いほど蒸発に要する時間を短縮できて作業性に優れることから、60℃以上がより好ましい。一方、100℃未満とすることで、加熱に伴うエネルギーを低減できる。この加熱温度は、65℃〜75℃程度がより好ましい。ダイ10などの成形用金型1を加熱するには、ダイ10などにカートリッジヒータといった加熱手段を内蔵したり、ダイ10などに温風を吹きつけたりすることが挙げられる。
【0054】
圧粉成形体の成形を連続して行う場合、連続成形により生じた加工熱により成形用金型1がある程度温められた状態となり得る。例えば、加工熱などにより金型温度が50℃以上となっている場合、液媒を除去するために加熱手段による加熱を成形ごとに行わなくてもよい。即ち、加工熱のみを利用して、液媒の蒸発・除去を行ってもよい。加工熱を利用することで、別途、蒸発・除去のための加熱手段やエネルギーを不要、或いは低減することができる。成形用金型の温度を適宜測定し、測定温度に応じて、加熱手段による加熱の要否を設定することができる。
【0055】
一方、上記有機物には、揮発性の高いもの(市販の溶剤、例えば、1−ブロモプロパンとn−プロピルブロマイド(99質量%)とを含む溶剤、など)を利用すると、上述のように成形用金型1(ダイ10)を加熱することなく、或いは加熱温度を低くしても容易に除去できる。また、上記有機物として、潤滑油などの潤滑性に優れるものを利用することができる。潤滑性に優れる液媒を利用する場合、上記加熱による液媒除去工程を省略することができる。また、本発明成形方法では、金型用潤滑剤が固体潤滑剤を含有するため、液媒に液体潤滑剤を利用した場合でも、液垂れなどが生じ難いと期待される。
【0056】
液媒に固体潤滑剤を分散させた分散剤を利用する場合、液媒や固体潤滑剤に材質にもよるが、分散剤の濃度(固体潤滑剤の質量/分散剤の質量)は概ね10〜50質量%とすると良い。また、ダイ10の内周面10sへの金型用潤滑剤の塗布量(固体潤滑剤の質量(潤滑性の液媒であれば分散剤の総質量)/内周面10sの面積)も、液媒や固体潤滑剤に何を用いるかにもよるが、概ね0.001〜0.1g/cmとすれば、潤滑剤として十分に機能する。
【0057】
[原料粉末]
次に、本発明成形方法に用いる原料粉末を説明する。本発明成形方法では、原料粉末として、絶縁層を備える軟磁性金属粒子の集合体である被覆軟磁性粉末を含む原料粉末を用意する。この原料粉末自身にも潤滑性を持たせても良い。具体的に原料粉末に潤滑性を持たせる方法として、絶縁層に潤滑性を有する材料を使用する形態(被覆内部潤滑)や、被覆軟磁性粉末に特定量の固体潤滑剤(原料用潤滑剤)を含有する混合粉末を利用する形態(混合内部潤滑)、これら被覆内部潤滑と混合内部潤滑とを複合した形態(複合内部潤滑)が挙げられる。
【0058】
(軟磁性金属粒子)
軟磁性金属粒子の材質は、鉄を50質量%以上含有するものが好ましい。例えば、純鉄(Fe)、その他、Fe−Si系合金,Fe−Al系合金,Fe−N系合金,Fe−Ni系合金,Fe−C系合金,Fe−B系合金,Fe−Co系合金,Fe−P系合金,Fe−Ni−Co系合金,及びFe−Al−Si系合金から選択される1種の鉄合金が挙げられる。特に、透磁率及び磁束密度の点から、99質量%以上がFeである純鉄が好ましい。
【0059】
軟磁性金属粒子は、その平均粒径dが1μm以上70μm以下であることが好ましい。平均粒径dが1μm以上であることで、流動性に優れる上に、本発明成形方法により得られた圧粉成形体により磁心を作製した場合、ヒステリシス損の増加を抑制でき、70μm以下であることで、得られた圧粉成形体により磁心を作製し、この磁心を1kHz以上といった高周波数で使用した場合でも、渦電流損を効果的に低減できる。特に、平均粒径dが50μm以上であると、ヒステリシス損の低減効果を得易い上に、粉末を取り扱い易い。上記平均粒径dは、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径(質量)をいう。
【0060】
(絶縁層)
軟磁性金属粒子はその表面に絶縁層を有することで、本発明成形方法により得られた圧粉成形体は絶縁性に優れる。また、この圧粉成形体により磁心を作製した場合、上記絶縁層により各軟磁性金属粒子同士を絶縁することができ、当該粒子同士の接触を防止することで、渦電流損を低減できる。
【0061】
絶縁層の厚さは、10nm以上1μm以下が挙げられる。10nm以上であると、軟磁性金属粒子間の絶縁を確保でき、1μm以下であると、絶縁層の存在により、圧粉成形体における軟磁性材料の含有割合の低下を抑制できる。即ち、この圧粉成形体により磁心を作製した場合、磁束密度の著しい低下を抑制できる。絶縁層の厚さは、組成分析(透過型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分光法を利用した分析装置:TEM−EDX)により得られる膜組成と、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)により得られる元素量とを鑑みて相当厚さを導出し、更に、TEM写真により直接、絶縁層を観察して、先に導出された相当厚さのオーダーが適正な値であることを確認して決定される平均的な厚さとする。
【0062】
潤滑性を有しない絶縁層の材料として、例えば、Fe,Al,Ca,Mn,Zn,Mg,V,Cr,Y,Ba,Sr及び希土類元素(Yを除く)などから選択された1種以上の金属元素の酸化物、窒化物、炭化物などの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物が挙げられる。また、絶縁材料には、上記金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物以外の金属化合物、例えば、リン化合物、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物及びアルミニウム化合物から選択された1種以上の化合物が挙げられる。その他の絶縁材料には、金属塩化合物、例えば、リン酸金属塩化合物(代表的には、リン酸鉄やリン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなど)、ホウ酸金属塩化合物、ケイ酸金属塩化合物、チタン酸金属塩化合物などが挙げられる。リン酸金属塩化合物は変形性に優れることから、リン酸金属塩化合物による絶縁層を備えると、圧粉成形体の成形時、当該絶縁層は、軟磁性金属粒子の変形に追従して容易に変形して損傷し難く、絶縁層が健全な状態で存在する圧粉成形体を得易い。また、リン酸金属塩化合物による絶縁層は、鉄系の軟磁性金属粒子に対する密着性が高く、当該粒子の表面から脱落し難い。絶縁層の形成には、例えば、リン酸塩化成処理を利用することができる。その他、絶縁層の形成には、溶剤の吹きつけや前駆体を用いたゾルゲル処理が利用できる。
【0063】
潤滑性を有する絶縁層の材料として、例えば、熱可塑性樹脂や非熱可塑性樹脂といった樹脂や高級脂肪酸塩が挙げられる。特に、シリコーン樹脂やステアリン酸塩は、加圧成形時に原料粉末(被覆軟磁性粉末)の潤滑性を高め、被覆軟磁性粉末の分散性や成形用金型からの離型性を向上させることができる。また、シリコーン樹脂といったシリコン系有機化合物は耐熱性に優れることから、得られた圧粉成形体に熱処理を施した際にも分解し難い。シリコン系有機化合物などによる絶縁層の形成には、有機溶剤を用いた湿式被覆処理や、ミキサーによる直接被覆処理などを利用することができる。
【0064】
特に、シリコーン樹脂からなる絶縁層を備える形態とする場合、水和水を含有する絶縁材料で構成された内側膜を軟磁性金属粒子の表面に形成し、この内側膜を水分子の発生源として、加水分解・縮重合反応によりシリコーン樹脂を形成する材料を利用してシリコーン樹脂膜を上記内側膜の上に形成してもよい。この場合、非常に短時間で加水分解・縮重合反応を行えてシリコーン樹脂膜を効率よく形成でき、上記内側膜とシリコーン樹脂膜との多層構造の絶縁層を生産性よく形成できる。また、加水分解・縮重合反応により形成されたシリコーン樹脂膜は、上述のように変形性に優れるため、成形時、割れや亀裂が生じ難く、内側膜から剥離し難い。更に、このシリコーン樹脂膜は、耐熱性に優れるため、得られた圧粉成形体に熱処理を施した際、熱分解などの損傷を受け難い。従って、この多層構造の絶縁層を備える被覆軟磁性粉末は、絶縁性、耐熱性、変形性、密着性に優れる。
【0065】
水和水を含有する内側膜は、例えば、上述したリン酸金属塩化合物などにおいて水和水を含むものを材料に用いることで形成することができる。加水分解・縮重合反応によりシリコーン樹脂を形成する樹脂材料は、例えば、Si(OR)(m,n:自然数、OR:加水分解基)で表される化合物が挙げられる。加水分解基は、例えば、アルコキシ基やアセトキシ基、ハロゲン基、イソシアネート基、ヒドロキシル基などが挙げられる。より具体的な材料は、分子末端がアルコキシリル基(≡Si−OR)で封鎖されたアルコキシオリゴマーが好適に利用可能である。アルコキシ基は、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシが挙げられる。特に、メトキシは、加水分解後の反応生成物の除去が容易である。これら樹脂材料は、1種でも複数種を組み合わせて用いてもよい。加水分解・縮重合反応によりシリコーン樹脂となる樹脂材料として、例えば、GE東芝シリコーン株式会社製のTSR116やXC96−B0446など市販品を利用することができる。
【0066】
上記内側膜と上記シリコーン樹脂膜との二重構造の絶縁層を備える被覆軟磁性粉末は、例えば、軟磁性金属粉末を用意して、当該粉末を構成する粒子の表面に上述したリン酸塩化成処理やゾルゲル処理などにより内側膜を形成した後、この被覆粒子と加水分解・縮重合反応によりシリコーン樹脂となる樹脂材料とを加熱雰囲気(80℃〜150℃、好ましくは100℃以上)で混合することで製造できる。上記加熱雰囲気での混合により、内側膜の構成材料に含まれる水和水が離脱して、上記樹脂材料の加水分解を促進して、シリコーン樹脂を形成することができる。この混合時、蟻酸、マレイン酸、フマル酸、酢酸などの有機酸や、塩酸、リン酸、硝酸、ほう酸、硫酸などの無機酸などを触媒に利用することができる。
【0067】
(原料用潤滑剤)
原料粉末に原料用潤滑剤を含ませる混合内部潤滑(あるいは複合内部潤滑)の場合、使用する原料用潤滑剤は、固体潤滑剤の粒子からなる粉末とすることが好ましい。液体潤滑剤ではなく、粉末とすることで、被覆軟磁性粉末と混合し易い上に、混合粉末を取り扱い易い。原料用潤滑剤も種々の材質のものを利用でき、上述した金型用潤滑剤で列挙した各種の金属石鹸、各種の脂肪酸アミド、各種の高級脂肪酸アミドなどを利用することができる。その他、六方晶系の結晶構造を有する無機潤滑剤、例えば、窒化ほう素、硫化モリブデン、硫化タングステン、及びグラファイトなどから選択される無機物が挙げられる。この無機物と上述した金属石鹸などとを組み合わせて用いてもよい。原料用潤滑剤の材質と金型用潤滑剤の材質とは同じでもよいし異なっていてもよい。
【0068】
原料用潤滑剤は、被覆軟磁性粉末に均一的に混合し易く、圧粉成形体の成形時、軟磁性金属粒子間で十分に変形可能であり、得られた圧粉成形体に熱処理を施した際、この加熱により除去し易いものを利用することが好ましい。
【0069】
本発明成形方法では、上述のように、被覆内部潤滑、混合内部潤滑、及び複合内部潤滑が利用できる。被覆内部潤滑では、原料粉末中における被覆軟磁性粉末の含有割合を高められ、得られた圧粉成形体により磁心を作製した場合、その磁心の磁気特性を向上させることができる。一方、混合内部潤滑では、原料粉末に備わる絶縁層の損傷を効果的に抑制することができる。この被覆軟磁性粉末に対する原料用潤滑剤の含有割合は0.4質量%〜0.8質量%とする(複数の材質の場合は合計量)。原料用潤滑剤の含有量を上記特定の範囲とすることで、後述する試験例に示すように、原料粉末が潤滑性を有せず、かつ金型のみに潤滑剤を塗布する場合や原料粉末に潤滑剤を混合し、かつ金型に潤滑剤を塗布しない場合などと比較して、潤滑性に優れ、原料粉末に備える絶縁層の損傷を効果的に抑制できる。その結果、得られた圧粉成形体も健全な状態の絶縁層が多く存在しており、この圧粉成形体により磁心を作製した場合、この磁心は、絶縁性に優れる。また、複合内部潤滑を行うことで、原料用潤滑剤の使用量を低減しても、原料粉末に備える絶縁層の損傷を効果的に抑制することができる。従って、本発明成形方法により得られた圧粉成形体を利用することで、鉄損が小さい圧粉磁心が得られる。
【0070】
[成形手順]
次に、図1を参照して本発明成形方法の成形手順を説明する。成形手順は、原料粉末を準備する準備工程と、ダイ10の内周面10sに金型用潤滑剤を循環供給して塗布する塗布工程と、原料粉末を加圧して圧粉成形体を成形する成形工程とを備える。
【0071】
(準備工程)
まず、成形に用いる原料粉末を用意する。具体的には、軟磁性粉末を用意し、当該粉末を構成する粒子の表面に、例えば、潤滑性を有する絶縁材料により絶縁層を形成し、絶縁層を備える被覆粒子の集合体である被覆軟磁性粉末を用意する。ここで、混合内部潤滑とする場合であれば、所望の組成からなる固体潤滑剤(原料用潤滑剤)の粉末を用意し、この原料用潤滑剤を上記被覆軟磁性粉末と混合して原料粉末とする。この混合には、V型混合機、振動ボールミル、遊星ボールミルなどの混合手段を用いることができる。
【0072】
また、金型用潤滑剤を用意する。具体的には、固体潤滑剤の粉末(好ましくは最大径:20μm以下)及び引火性を有しない液媒を用意する。そして、液媒にこの固体潤滑剤の粉末を分散させた分散剤を作製しておく。分散性を高めるために適宜な助剤を利用することができる。
【0073】
(塗布工程)
まず、図1(A)に示すように、ダイ10、上パンチ11、および下パンチ12を互いに離隔した状態で、作製した分散剤を充填したタンクを下パンチ12の供給流路120i(図2(A)参照)に接続して、下パンチ12の供給口12iから金型用潤滑剤を吐出可能な状態とする。
【0074】
次に、図1(B)に示すように、ダイ10を紙面下方に移動させ、ダイ10の一面と下パンチ12の上面12uとをほぼ面一とする。最終的に、ダイ10の内周面10sの実質的に全域は、下パンチ12の外周面12sと対向するように配置され、ダイ10の内周面10sと下パンチ12の外周面12sとの間には、下パンチ12の外形に応じた、種々の大きさのクリアランスが設けられる。
【0075】
次いで、図1(C)に示すように、ダイ10を上方に移動させて、下パンチ12の上面12uとダイ10の内周面10sとで囲まれるキャビティを形成する。この上方へのダイ10の移動の間に、供給口12iから金型用潤滑剤を吐出し、その吐出された金型用潤滑剤の余剰分を排出口12oから排出する金型用潤滑剤の循環供給を行なう。より具体的には、供給口12iから吐出された金型用潤滑剤は、循環溝12gの内周面とダイ10の内周面10sとで囲まれる空間に沿って排出口12oに向かって送り出される。その際、ダイ10と下パンチ12とが相対的に移動しているため、循環溝12g内の金型用潤滑剤がダイ10の内周面10sに塗布される。しかも、循環溝12gに送り出された余剰の金型用潤滑剤は排出口12oから回収されるため、必要以上にダイ10の内周面10sに金型用潤滑剤が塗布されることもない。
【0076】
この図1(C)の時点で上記キャビティを構成するダイ10の内周面10sの全周にわたって金型用潤滑剤が均一的に塗布される。また、この金型用潤滑剤は、キャビティの深さ方向に均一的に塗布され、均一的な厚さの潤滑剤層2が形成されている。なお、図1,図2では分かり易いように潤滑剤層2の固体潤滑剤の粒子を誇張して示す。
【0077】
ここで、金型用潤滑剤の液媒が水などの比較的蒸発に時間を要するものである場合、金型を適宜加熱して(好ましくは50℃以上100℃未満)、液媒を蒸発除去することができる。液媒が揮発性の高いものである場合、上記加熱を行わなくてもよいし、加熱温度を低くしてもよい。キャビティ内の蒸気をより確実に外部に放出できるように室温(代表的には20℃程度)の乾燥空気をキャビティ内に供給してもよい。
【0078】
(成形工程)
図1(D)に示すように潤滑剤層2を備えるキャビティ内に、図示しない給粉装置を用いて用意した原料粉末3を給粉する。そして、図1(E)に示すように上パンチ11を下方に移動してダイ10の貫通孔10hに押し込み、両パンチ11,12によって原料粉末3を加圧する。このとき、潤滑剤層2(金型用潤滑剤を構成する固体潤滑剤の粒子)によって、原料粉末3とダイ10の内周面10sとの摩擦を低減できる。ここで、原料粉末3内に原料用潤滑剤を含ませる、もしくは絶縁層に潤滑性を持たせておけば、原料粉末と両パンチ11,12、及び原料粉末3内の被覆粒子同士の摩擦を低減して、原料粉末3を良好に圧縮することができる。
【0079】
成形圧力は、390MPa以上1500MPa以下とすることが挙げられる。390MPa以上とすることで、原料粉末3(被覆粒子)を十分に圧縮することができ、圧粉成形体の相対密度を高められ、1500MPa以下とすることで、原料粉末3内の被覆粒子同士の接触による絶縁層の損傷を抑制できる。700MPa以上1300MPa以下がより好ましい圧力である。
【0080】
所定の加圧を行ったら、図1(F)に示すように、上パンチ11を上方に、ダイ10を下方に移動して、圧粉成形体100を取り出す。このとき、ダイ10の内周面10sに塗布された金型用潤滑剤により、圧粉成形体100とダイ10の内周面10sとの摩擦が低減されるため、圧粉成形体100を容易に取り出すことができる。上記工程により、圧粉成形体100が得られる。なお、上パンチ11の移動とダイ10の移動とはいずれが先でもよいし、同時でもよい。
【0081】
図1(F)の状態から圧粉成形体100を取り出すと、ダイ10とパンチ11,12の配置は、図1(B)に示す状態と同じになる。そのため、連続的に成形を行なう場合、図1(C)〜(F)を繰り返し行うとよい。
【0082】
上記工程により得られた圧粉成形体により磁心を作製する場合、圧粉成形体に熱処理を施して、成形時に導入された歪みを除去すると、ヒステリシス損の低減を図ることができる。この熱処理の温度は、高いほどヒステリシス損を低減できるが、高過ぎると絶縁層の構成材料が熱分解されることがあるため、当該構成材料の熱分解温度未満の範囲で選択する。代表的には、上記加熱温度は、400℃〜700℃ぐらい、保持時間は、30分以上60分以下が挙げられる。絶縁層がリン酸鉄やリン酸亜鉛などの非晶質リン酸塩からなる場合、上記加熱温度は500℃程度までが好ましく、金属酸化物やシリコーン樹脂などの耐熱性に優れる絶縁材料からなる場合、550℃以上、更に600℃以上、特に650℃以上に加熱温度を高められる。加熱温度及び保持時間は、絶縁層の構成材料に応じて適宜選択することができる。
【0083】
[効果]
上記構成を備える本発明成形方法を利用することで、圧粉成形体100と成形用金型1(ダイ10の内周面10s)との摩擦を効果的に抑制できる。そのため、圧粉成形体1の外周面において圧粉成形体1を構成する粒子に備わる絶縁層が上記摩擦によって損傷することを効果的に抑制できる。その結果、低損失の圧粉成形体が得られ、得られた圧粉成形体に熱処理を施して圧粉磁心を作製した場合、得られた圧粉磁心は、渦電流損が効果的に低減されており、鉄損が小さい。即ち、本発明成形方法によれば、鉄損が小さい圧粉磁心が得られる圧粉成形体を提供することができる。
【0084】
また、本発明成形方法では、金型用潤滑剤を循環供給によりダイ10の内周面10sに塗布しているため、成形用金型1のキャビティ内に不必要な金型用潤滑剤が残存し難い。しかも、金型用潤滑剤と共に不要な原料粉末を回収できるので、当該原料粉末が金型1内に蓄積したり、供給口12iを塞ぐこともない。そのため、複数の圧粉成形体を連続的に作製しても、圧粉成形体の健全な成形を多数回にわたって維持できる。
【0085】
<実施形態2>
実施形態2では、ダイの内周面の一部分に金型用潤滑剤を塗布する本発明成形方法(部分外部潤滑)を説明する。その説明に先立って、使用する成形用金型の形態を図3(A)〜(C)を用いて説明する。なお、図3に例示する構成はいずれも下パンチに供給口と排出口とを設ける構成であるため、図3では下パンチのみを図示する。
【0086】
図3(A)に示す下パンチ12Aでは、供給口12iと排出口12oとがいずれも紙面手前側の面に形成され、かつ供給口12iと排出口12oとが下パンチ12Aの周方向および軸方向のいずれの方向にもずれている。そのため、供給口12iと排出口12oとを繋ぐ循環溝12gは、供給口12iから斜め上方に向かって伸び、排出口12oに連絡している。
【0087】
図3(B)に示す下パンチ12Bでは、供給口12iと排出口12oとが下パンチ12Bの軸方向に同じ位置だが周方向にずれた位置(同一円周上の異なる位置)に形成されている。そのため、供給口12iと排出口12oとを繋ぐ循環溝12gは、下パンチ12Bの周方向に伸びている。
【0088】
図3(C)に示す下パンチ12Cでは、供給口12iと排出口12oとが下パンチ12Cの周方向に同じ位置だが軸方向にずれた位置(同一軸線上の異なる位置)に形成されている。そのため、供給口12iと排出口12oとを繋ぐ循環溝12gは、下パンチ12Cの軸方向に伸びている。
【0089】
図3(A)〜(C)のいずれの下パンチ12A〜12Cを利用しても、図1に示すダイ10の内周面10sを周方向に分断するように当該内周面10sに金型用潤滑剤を塗布することができる。このようにダイ10の内周面10sを周方向に分断してキャビティの深さ方向に均一的に金型用潤滑剤の塗布を行うことで、得られる圧粉成形体の外周面において、圧粉成形体の加圧方向に略平行に伸びる絶縁層が健全な領域を形成することができる。このような圧粉成形体を磁心として、上記加圧方向を磁束方向にして励磁した場合、磁束方向を軸方向とする円周方向に流れる渦電流を遮断することができる。
【0090】
また、本実施形態の構成であれば、金型用潤滑剤を節約することができる。しかも、上記構成であれば、下パンチの構造を簡略化できるという効果もある。
【0091】
<変形実施形態1>
上述した実施形態では、貫通孔を有していない中実の圧粉成形体を成形する構成を説明した。その他、本発明成形方法は、貫通孔を有する圧粉成形体(代表的にはリング状体)の成形にも適用することができる。この場合、ダイと、下パンチと、上パンチと、下パンチに対して相対的に移動可能に配置されるコアロッドとを備える成形用金型を利用する。この形態では、ダイの内周面とコアロッドの外周面との双方が成形体との摺接面になり得る。そこで、ダイの内周面とコアロッドの外周面との双方に金型用潤滑剤を塗布できるように、下パンチに供給口や排出口、循環溝を設ける。例えば、下パンチを、コアロッドが挿通される貫通孔を有する筒状体とする場合、この下パンチの外周面及び内周面に、上述した実施形態と同様にその周方向の一部に供給口や排出口、循環溝を設けるとよい。
【0092】
<変形実施形態2>
上述した実施形態では、キャビティを形成した後、原料粉末3を供給する構成を説明した。この構成に代えて、例えば、図1(B)に示す状態において、下パンチ12の上面12uを覆うように給粉装置を配置し、ダイ10の移動により給粉装置も上方に移動する構成とすることができる。この場合、ダイ10の上方への移動に伴って、下パンチ12の上面12uとダイ10の内周面10sとで囲まれる空間がつくられていき、この空間に順次、給粉装置からの原料粉末3が供給される。かつ、ダイ10の上方への移動により、ダイ10の内周面10sには、金型用潤滑剤が塗布されていく。即ち、この構成では、ダイ10の移動により、金型用潤滑剤の塗布と、当該潤滑剤が塗布された空間への原料粉末3の供給とを同時に行うことができる。図1(D)に示すように、下パンチ12の上面12uとダイ10の内周面10sとがつくる空間が所定の大きさになったら、上パンチ11で押圧できるように給粉装置を移動すると良い。
【0093】
<試験例1>
種々の粉末及び成形方法を利用して、圧粉成形体を作製し、得られた圧粉成形体に熱処理を施して圧粉磁心を作製し、得られた圧粉磁心を備える磁気部品の損失を調べた。
【0094】
(試料No.1:混合内部潤滑+全面外部潤滑)
試料No.1は、絶縁層を備える被覆軟磁性金属粉末に固体潤滑剤からなる粉末を混合した混合粉末を利用すると共に、図1に示す成形用金型1(下パンチ12に循環供給機構20を備えるもの)を利用して、ダイ10の内周面10sの全周にわたって金型用潤滑剤を塗布した後、成形を行って圧粉成形体100を作製した。
【0095】
この試験では、軟磁性金属粉末として、水アトマイズ法により製造された純鉄粉(平均粒径d:50μm)を用意した。次いで、上記純鉄粉に化成処理を施し、リン酸金属塩化合物からなる内側膜(厚さ:20nm以下程度)を形成することで、単層構造の絶縁層を有する被覆軟磁性粉末を作製した。この絶縁層を備える被覆粒子からなる被覆軟磁性粉末に、原料用潤滑剤として、ステアリン酸亜鉛の粉末を混合した。原料用潤滑剤は、被覆軟磁性粉末と原料用潤滑剤の粉末との混合粉末を100質量%とするとき、0.6質量%となるように混合量を調整した。
【0096】
固体潤滑剤として、最大粒径:18.5μm、平均粒径:4.2μmのエチレンビスステアリン酸アミド(EBS)の粉末を用意し、この粉末を液媒(本例では、水)に分散させて作製した分散剤を金型用潤滑剤に利用した。この固体潤滑剤の粉末は、分散剤を100質量%とするとき、45質量%となるように混合量を調整した。金型用潤滑剤の塗布量は、0.0018g/cmとした。
【0097】
そして、試料No.1では、圧粉成形体の成形にあたり、上述のように下パンチ12とダイ10との相対移動により、ダイ10の内周面10sの全周に金型用潤滑剤を塗布した後(ここでは、金型用潤滑剤の供給量:2.5mL/min)、金型を60℃に加熱して液媒を十分に蒸発・除去してから、上記混合粉末をキャビティに充填して、成形圧力:730MPaで加圧し、直方体状の圧粉成形体100を得た。この成形用金型1への金型用潤滑剤の塗布と加圧成形とからなる一連の成形を連続的に1001回(ショット)繰り返した。
【0098】
(試料No.2:被覆内部潤滑+全面外部潤滑)
試料No.2は、試料No.1と同じ純鉄粉に多層構造の絶縁層を形成した被覆軟磁性粉末を用意した。絶縁層は、純鉄粉に化成処理を施し、水和水を含有するリン酸金属塩化合物からなる内側膜(厚さ:20nm以下程度)を形成し、この内側膜を備える粒子と市販の樹脂材料(モメンティブ製シリコーンXC96−B0446(加水分解・縮重合反応によりシリコーン樹脂となるもの)を加熱雰囲気で混合し(80℃〜150℃)、リン酸金属塩化合物からなる内側膜と、シリコーン樹脂からなる外側層(厚さ:1μm以下程度)との多層構造の絶縁層を形成した。そして、試料No.1と同様の条件でダイ10の内周面10sの全面に金型用潤滑剤を塗布した後、試料No.1と同様の条件で、同様の大きさ・形状の圧粉成形体100を作製した。この試料No.2も1001回(ショット)行なった。
【0099】
(各試料に対する試験)
各試料について、100ショットごとに得られた圧粉成形体を用いて鉄損を測定するための測定部材(磁気部品に相当)を作製した。測定部材は次のようにして作製した。まず、得られた圧粉成形体に熱処理を施して、圧粉成形体に含まれる純鉄粉に導入された加圧歪を除去した熱処理材を得た。熱処理の条件は、試料No.1については窒素雰囲気下で400℃×30分、試料No.2については窒素雰囲気下で550℃×30分であった。そして、その熱処理材を環状に組み合せて試験用磁心を作製し、この試験用磁心に巻線で構成したコイル(いずれの試料も同様の仕様のもの)を配置することで、測定部材を作製した。
【0100】
各測定部材に対して、成形過程における加圧方向を磁束方向として、AC−BHカーブトレーサを用いて、励起磁束密度Bm:1kG(=0.1T)、測定周波数:5kHzにおけるヒステリシス損Wh1/5k(W/kg)、渦電流損We1/5k(W/kg)を測定し、ヒステリシス損+渦電流損により鉄損W1/5k(W/kg)を算出した。その結果を表1、2に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
表1、2に示すように、試料No.1および2は、1000ショットを超える連続的な加圧成形を行なっても、得られる圧粉成形体の鉄損が極端に増加することがなかった。これは、下パンチ12とダイ10との相対移動により、金型用潤滑剤をダイ10の内周面10sの全周にわたって塗布するにあたり、下パンチ12の供給口12iから金型用潤滑剤を順次供給しつつ、その金型用潤滑剤を下パンチ12の排出口12oから回収する循環供給を行なっているからであると考えられる。つまり、循環供給を行なうことにより、金型用潤滑剤の余剰供給及び塗布を防止できるし、ダイ10と下パンチ12の隙間を通過した微粒な原料粉末が金型内に蓄積したり、供給口を塞ぐことを防止できるので、ダイ10の内周面10sへの均一な金型用潤滑剤の塗布を多数回にわたって維持できるからであると考えられる。
【0104】
<試験例2>
試験例1では、ダイ10の内周面10sの全周にわたって金型用潤滑剤を塗布した後、成形を行って圧粉成形体100を作製した。これに対して、この試験例2では、ダイ10の内周面10sの一部にのみ金型用潤滑剤を塗布して、圧粉成形体を作製し、得られた圧粉成形体に熱処理を施して圧粉磁心を作製し、得られた圧粉磁心を備える磁気部品の損失を調べた。
【0105】
(混合内部潤滑+部分外部潤滑)
図3(B)の下パンチ12Bを用いて、ダイ10の内周面10sの一部にのみ金型用潤滑剤の塗布を塗布した以外、試験例1の試料No.1と同様の成形条件、熱処理条件で圧粉磁心を作製し、試料No.1と同様の条件で鉄損W1/5k(W/kg)、ヒステリシス損Wh1/5k(W/kg)、渦電流損We1/5k(W/kg)を求めた。また、比較として、ダイ10の内周面10sに金型用潤滑剤を塗布せずに作製した圧粉磁心の鉄損、ヒステリシス損、渦電流損を求めた。その結果を表3に示す。なお、ショット数は『1』である。
【0106】
【表3】

【0107】
(被覆内部潤滑+部分外部潤滑)
図3(B)の下パンチ12Bを用いて、ダイ10の内周面10sの一部にのみ金型用潤滑剤の塗布を塗布した以外、試験例1の試料No.2と同様の成形条件、熱処理条件で圧粉磁心を作製し、試料No.2と同様の条件で鉄損W1/5k(W/kg)、ヒステリシス損Wh1/5k(W/kg)、渦電流損We1/5k(W/kg)を求めた。また、比較として、ダイ10の内周面10sに金型用潤滑剤を塗布せずに作製した圧粉磁心の鉄損、ヒステリシス損、渦電流損を求めた。その結果を表4に示す。なお、ショット数は『1』である。
【0108】
【表4】

【0109】
表3,4の結果から、たとえダイ10の内周面10sの一部であっても金型用潤滑剤を塗布することで、内周面10sに金型用潤滑剤を全く塗布しないよりは格段に鉄損を低減できることがわかった。また、表3,4の結果と、表1,2の1ショット目の結果を比較すれば、部分外部潤滑により全面外部潤滑に匹敵する磁気特性を備える圧粉磁心を作製できることがわかった。ここで、試験例2の測定結果は、試験例1と同様に金型用潤滑剤の循環供給を行なう構成により得られたものである。そのため、試験例2でショット数を重ねていっても、1ショット目に匹敵する磁気特性を維持した圧粉磁心を得ることができると考えられる。
【0110】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能が可能である。例えば、軟磁性金属粒子の材質・粒径、絶縁層の材質・厚さ、金型用潤滑剤中の固体潤滑剤の材質・大きさ・塗布領域、液媒の材質、液媒に対する固体潤滑剤の割合、原料用潤滑剤の材質・含有量、パンチ及びダイでつくられるキャビティの形状、パンチの形状などを適宜変更することができる。その他、圧粉磁心ではない単なる圧粉成形体を成形することにも、本発明圧粉成形体の成形方法を利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の圧粉成形体の成形方法は、圧粉磁心、特に、高周波特性に優れた圧粉磁心の素材に適した圧粉成形体の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0112】
1 成形用金型
10 ダイ
10h 貫通孔 10s ダイの内周面
11 上パンチ
12,12A,12B,12C 下パンチ
12s 下パンチの外周面 12u 下パンチの上面
20 循環供給機構
12i 供給口 120i 供給流路
12o 排出口 120o 排出流路 12g 循環溝
26 シール溝
2 潤滑剤層
3 原料粉末
100 圧粉成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に移動可能な柱状の第一パンチと筒状のダイとでつくられるキャビティに原料粉末を充填し、前記第一パンチと柱状の第二パンチとにより前記キャビティ内の原料粉末を加圧して、圧粉成形体を成形する圧粉成形体の成形方法であって、
前記原料粉末を用意する準備工程と、
前記第一パンチの外周面と前記ダイの内周面との間に金型用潤滑剤を存在させ、この状態でこれら第一パンチとダイとを相対的に移動させて、前記ダイの内周面に前記金型用潤滑剤を塗布する塗布工程と、
前記第一パンチと前記金型用潤滑剤が塗布された前記ダイとで囲まれたキャビティに、前記原料粉末を充填し、前記第一パンチと前記第二パンチとにより当該原料粉末を加圧して圧粉成形体を成形する成形工程とを備え、
前記塗布工程では、
前記ダイまたは第一パンチに設けられた供給口から前記金型用潤滑剤を吐出し、かつ前記ダイまたは第一パンチに設けられた排出口から前記吐出された金型用潤滑剤を回収しつつ、前記ダイの内周面に前記金型用潤滑剤を塗布することを特徴とする圧粉成形体の成形方法。
【請求項2】
前記塗布工程において、前記ダイの内周面の全周にわたって前記金型用潤滑剤を塗布することを特徴とする請求項1に記載の圧粉成形体の成形方法。
【請求項3】
前記塗布工程において、前記ダイの内周面の一部分に前記金型用潤滑剤を塗布することを特徴とする請求項1に記載の圧粉成形体の成形方法。
【請求項4】
前記準備工程において、固体潤滑剤からなる原料用潤滑剤を混合した原料粉末を用意することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の圧粉成形体の成形方法。
【請求項5】
前記金型用潤滑剤は、引火性を有しない液媒に固体潤滑剤からなる粒子を分散させた分散剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の圧粉成形体の成形方法。
【請求項6】
前記金型用潤滑剤中の固体潤滑剤は、エチレンビスステアリン酸アミドを含むことを特徴とする請求項5に記載の圧粉成形体の成形方法。
【請求項7】
前記原料粉末は、絶縁層を備える軟磁性金属粒子の集合体である被覆軟磁性粉末を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の圧粉成形体の成形方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−89688(P2013−89688A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227084(P2011−227084)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【Fターム(参考)】