説明

圧縮型冷凍機用潤滑油組成物

【課題】地球温暖化係数が低い低炭素数の飽和フッ化炭化水素冷媒を用いた圧縮型冷凍機に使用された場合でも、熱・化学安定性に優れる圧縮型冷凍機用潤滑油組成物を提供することである。
【解決手段】いずれも水分含有量が500質量ppm以下である、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコールまたはそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、及びポリオールエステル類の中から選ばれる少なくとも1種からなる含酸素有機化合物を基油として用いる、炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素を含む冷媒を用いる圧縮型冷凍機用潤滑油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、詳しくは、低炭素数の飽和フッ化炭化水素を冷媒として用いる熱・酸化安定性が良好な圧縮型冷凍機用潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、空調機器やカーエアコンなどの圧縮型冷凍機においては、オゾン層を破壊しない冷媒である炭素数1又は2の飽和フッ化炭化水素(HFC)が用いられている。しかし最近これらの圧縮型冷凍機は、益々長時間過酷な条件下で使用されることが多くなってきた。
したがって、このような圧縮型冷凍機に使用される潤滑油組成物には、熱・酸化安定性に優れるものが要求される。
【0003】
また、従来、空調機を含む各種の圧縮型冷凍機には、オゾン層を破壊しないHFC冷媒として、ジフルオロメタン(R32)を含む混合冷媒、例えば、R410A、R407Cなどが用いられてきた。
しかし、オゾン層の保護に加え、さらに地球温暖化の防止が必要とされたことから、温暖化係数の低いR32をより多く含有する冷媒の使用が望まれてきた。
R32は、理論COPや熱伝達率が比較的高く、冷媒の圧力損失も低いため、空気調和装置に使用した場合にエネルギー効率が高いという特性を備えている。
しかし、R32は、従来のR410A、R407Cに比べて圧縮機の吐出温度がほぼ20℃程度高いという特性がある。
このような状況から、冷凍装置の構造を改良する研究が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、これらの冷媒を使用する圧縮式冷凍機用潤滑油には、それらの冷媒の存在下で熱・酸化安定性が高い潤滑油組成物が要求される。
しかし、このような要求に対し、不飽和HFCやヨウ化物と異なり、飽和HFCは安定性が高く、R134a等に使用されている既存の酸化防止剤や酸捕捉剤を配合することによって、対応が可能であると考えられていた(例えば、特許文献2〜4参照)。とこれが、単に既存の酸化防止剤や酸捕捉剤を配合し、又はそれらの配合量を増量した場合においても、熱・酸化安定性を高める効果は満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−183020号公報
【特許文献2】特開平02−258896号公報
【特許文献3】特開平02−281098号公報
【特許文献4】特開平02−305893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、地球温暖化係数が低い低炭素数の飽和フッ化炭化水素冷媒を用いた圧縮型冷凍機に使用された場合でも、熱・酸化安定性に優れる圧縮型冷凍機用潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、水分含有量を調整した含酸素有機化合物を基油として用いることにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
【0008】
1.いずれも水分含有量が500質量ppm以下である、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコールまたはそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、及びポリオールエステル類の中から選ばれる少なくとも1種からなる含酸素有機化合物を基油として用いる、炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素を含む冷媒を用いる圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
2.含酸素有機化合物が、下記の一般式(II)
【0009】
【化1】

(式中、R4、R5及びR6はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R7は炭素数2〜10の二価の炭化水素基、R8は炭素数1〜10の炭化水素基、pはその平均値が0〜10の数を示し、R4〜R8は構成単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、またR7Oが複数ある場合には複数のR7Oは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構成単位を有するポリビニル系化合物を主成分とするものである上記1に記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
3.酸化防止剤及び/又は酸捕捉剤を含有する上記1又は2に記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
4.前記炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素が、ジフルオロメタン(R32)である上記1〜3のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
5.前記冷媒が、ジフルオロメタン(R32)と、ペンタフルオロエタン(R125)との混合物、又は、ジフルオロメタン(R32)と、ペンタフルオロエタン(R125)と,1,1、1,2テトラフルオロエタン(R134a)との混合物である上記1〜4のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
6.前記冷媒がジフルオロメタン(R32)を70質量%以上含む冷媒である上記1〜5のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
7.前記基油の100℃における動粘度が、1mm2/s以上50mm2/s以下である前記1〜6のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
8.前記基油の数平均分子量が、300以上3000以下である上記1〜7のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
9.前記基油の粘度指数が、60以上である上記1〜8のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
10.さらに極圧剤、油性剤、金属不活性化剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む上記1〜9のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
11.圧縮式冷凍機の摺動部分がエンジニアリングプラスチックからなるもの、または有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものである上記1〜10のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
12.前記有機コーティング膜が、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜、ポリヒドロキシエーテル樹脂とポリサルホン系樹脂とからなる樹脂基材及び架橋剤を含む樹脂塗料を用いて形成された熱硬化型絶縁膜のいずれかである上記11に記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
13.前記無機コーティング膜が、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜及びモリブデン膜のいずれかである上記11に記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
14.カーエアコン、電動カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、給湯システム、又は冷凍・暖房システムに用いられる上記1〜13のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
15.システム内の水分含有量が300質量ppm以下で、残存空気分圧が10kPa以下である上記14に記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地球温暖化係数が低い低炭素数の飽和フッ化炭化水素冷媒を用いた圧縮型冷凍機に使用された場合でも、熱・化学安定性に優れる圧縮型冷凍機用潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、水分含有量が500質量ppm以下である含酸素有機化合物を基油として用いる、炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素を含む冷媒を用いる圧縮型冷凍機用潤滑油組成物である。
【0012】
<基油>
本発明に用いる基油は、水分含有量が500質量ppm以下の含酸素有機化合物である。
水分含有量が500質量ppmを超える含酸素有機化合物を基油として用いると、冷凍機油の熱、化学安定性が低下し、同時に冷媒も変質劣化するため、良好な冷凍システムの作動が行えなくなる恐れがある。すなわち冷媒と冷凍機用潤滑油組成物とで形成される、いわば冷凍機流体組成物が、早期に劣化、変質することになる。
したがって、含酸素有機化合物の水分含有量は300質量ppm以下であることが好ましく、200質量ppm以下であることがより好ましく、100質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0013】
<含酸素有機化合物>
本発明の基油として用いる含酸素有機化合物は、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコールまたはそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、及びポリオールエステル類の中から選ばれる少なくとも1種からなる含酸素有機化合物である。
【0014】
[ポリオキシアルキレングリコール類]
前記基油として用いることのできるポリオキシアルキレングリコール類としては、例えば一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
1−[(OR2m−OR3n ・・・(I)
(式中、R1は水素原子、炭素数1〜10の1価の炭化水素基、炭素数2〜10のアシル基、結合部2〜6個を有する炭素数1〜10の炭化水素基又は炭素数1〜10の酸素含有炭化水素基、R2は炭素数2〜4のアルキレン基、R3は水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又は炭素数2〜10のアシル基又は炭素数1〜10の酸素含有炭化水素基、nは1〜6の整数、mはm×nの平均値が6〜80となる数を示す。)
【0015】
上記一般式(I)において、R1及びR3の各々における炭素数1〜10の1価の炭化水素基は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該炭化水素基はアルキル基が好ましく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げることができる。このアルキル基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、相分離を生じる場合がある。好ましいアルキル基の炭素数は1〜6である。
また、R1及びR3の各々における炭素数2〜10のアシル基の炭化水素基部分は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。該アシル基の炭化水素基部分は、アルキル基が好ましく、その具体例としては、上記アルキル基の具体例として挙げた炭素数1〜9の種々の基を同様に挙げることができる。該アシル基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、相分離を生じる場合がある。好ましいアシル基の炭素数は2〜6である。
1及びR3が、いずれも炭化水素基又はアシル基である場合には、R1とR3は同一であってもよいし、たがいに異なっていてもよい。
【0016】
さらにnが2以上の場合には、1分子中の複数のR3は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
1が結合部位2〜6個を有する炭素数1〜10の炭化水素基である場合、この炭化水素基は鎖状のものであってもよいし、環状のものであってもよい。結合部位2個を有する炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基が好ましく、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基などが挙げられる。その他の炭化水素基としては、ビフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールAなどのビスフェノール類から水酸基を除いた残基を挙げることができる。また、結合部位3〜6個を有する炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基が好ましく、例えばトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、1,2,3−トリヒドロキシシクロヘキサン、1,3,5−トリヒドロキシシクロヘキサンなどの多価アルコールから水酸基を除いた残基を挙げることができる。
この脂肪族炭化水素基の炭素数が10を超えると冷媒との相溶性が低下し、相分離が生じる場合がある。好ましい炭素数は2〜6である。
【0017】
さらに、R1及びR3の各々における炭素数1〜10の酸素含有炭化水素基としては、エーテル結合を有する鎖状の脂肪族基や環状の脂肪族基などを挙げることができるが、特にテトラヒドロフルフリル基が好ましい。
本発明においては、上記R1及びR3の少なくとも一つがアルキル基、特に炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、とりわけメチル基であることが粘度特性の点から好ましい。更には、上記と同様の理由からR1及びR3の両方がアルキル基、特にメチル基であることが好ましい。
【0018】
前記一般式(I)中のR2は炭素数2〜4のアルキレン基であり、繰り返し単位のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。1分子中のオキシアルキレン基は同一であってもよいし、2種以上のオキシアルキレン基が含まれていてもよいが、1分子中に少なくともオキシプロピレン単位を含むものが好ましく、特にオキシアルキレン単位中に50モル%以上のオキシプロピレン単位を含むものが好適である。
前記一般式(I)中のnは1〜6の整数で、R1の結合部位の数に応じて定められる。例えばR1がアルキル基やアシル基の場合、nは1であり、R1が結合部位2,3,4,5及び6個を有する脂肪族炭化水素基である場合、nはそれぞれ2,3,4,5及び6となる。また、mはm×nの平均値が6〜80となる数であり、該平均値が80を超えると相溶性が低下し油戻り性が悪化する恐れがあるなど、m×nの平均値が前記範囲を逸脱すると本発明の目的は十分に達せられない。
【0019】
前記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレングリコール類の中でも、一般式(I−a)
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、xは6〜80の数を示す。)
で表されるポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテル、一般式(I−b)
【0022】
【化3】

【0023】
(式中、a及びbは、それぞれ1以上で、かつそれらの合計が6〜80となる数を示す。)
で表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールジメチルエーテルが好適である。
なお、上記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレングリコール類については、特開平2−305893号公報に詳細に記載されたものをいずれも使用することができる。
本発明においては、このポリオキシアルキレングリコール類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
前記ポリオキシアルキレングリコール誘導体は、例えば、エチレンオキシドやプロピレンオキシドなど炭素数2〜4のアルキレンオキシドを水や水酸化アルカリを開始剤として重合させて、両末端に水酸基を有するポリオキシアルキレングリコールを得た後、この水酸基の両端をハロゲン化アルキルやハロゲン化アシルを用いてエーテル化又はエステル化して得ることができる。
また、炭素数1〜10の一価のアルコール又はそのアルカリ金属塩を開始剤とし、炭素数2〜4のアルキレンオキシドを重合させて、一方の末端にエーテル結合を有し、他方の末端が水酸基である、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを得た後、この水酸基をエーテル化又はエステル化することによって製造することもできる。なお、一般式(I)でnが2以上の化合物を製造する場合は、一価のアルコールに換えて、2〜6価の多価アルコールを開始剤とすればよい。
【0025】
このような方法でポリオキシアルキレングリコール誘導体を製造するに際し、エーテル化又はエステル化反応におけるポリオキシアルキレングリコール等とハロゲン化アルキルやハロゲン化アシルとの割合において、ハロゲン化アルキルやハロゲン化アシルの量が、化学量論量より少ない場合は、水酸基が残存し、水酸基価が高まる。したがって、ポリオキシアルキレングリコール等とハロゲン化アルキルやハロゲン化アシルとのモル比は、最適にすることが望ましい。また、不活性ガス雰囲気で重合、エーテル化、エステル化反応を行うことにより、着色を抑制することができる。
【0026】
[ポリビニルエーテル類]
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いることのできるポリビニルエーテル類としては、一般式(II)
【0027】
【化4】

【0028】
で表される構成単位を有するポリビニル系化合物を主成分とするものである。
上記一般式(II)におけるR4,R5及びR6はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよい。ここで炭化水素基とは、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基などのアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基などのアリールアルキル基を示す。なお、これらのR4、R5、R6は水素原子あるいは炭素数3以下の炭化水素基が特に好ましい。
【0029】
一方、一般式(II)中のR7は、炭素数2〜10の二価の炭化水素基を示すが、ここで炭素数2〜10の二価の炭化水素基とは、具体的にはエチレン基、フェニルエチレン基、1,2−プロピレン基、2−フェニル−1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、各種ブチレン基、各種ペンチレン基、各種ヘキシレン基、各種ヘプチレン基、各種オクチレン基、各種ノニレン基、各種デシレン基などの二価の脂肪族炭化水素基;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素に2個の結合部位を有する脂環式炭化水素基;各種フェニレン基、各種メチルフェニレン基、各種エチルフェニレン基、各種ジメチルフェニレン基、各種ナフチレンなどの二価の芳香族炭化水素基;トルエン、エチルベンゼンなどのアルキル芳香族炭化水素のアルキル基部分と芳香族部分にそれぞれ一価の結合部位を有するアルキル芳香族炭化水素基;キシレン、ジエチルベンゼンなどのポリアルキル芳香族炭化水素のアルキル基部分に結合部位を有するアルキル芳香族炭化水素基などがある。これらの中で炭素数2から4の脂肪族炭化水素基が特に好ましい。また複数のR7Oは同一でも異なっていてもよい。
なお、一般式(II)におけるpは繰り返し数を示し、その平均値が0〜10、好ましくは0〜5の範囲の数である。
【0030】
さらに、一般式(II)におけるR8は炭素数1〜10の炭化水素基を示すが、この炭化水素基とは、具体的にはメチル基,エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基、各種プロピルフェニル基、各種トリメチルフェニル基、各種ブチルフェニル基、各種ナフチル基などのアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基、各種フェニルプロピル基,各種フェニルブチル基などのアリールアルキル基を示す。この中で炭素数8以下の炭化水素基が好ましく、pが0のときは炭素数1〜6のアルキル基が、pが1以上のときは炭素数1〜4のアルキル基が特に好ましい。
【0031】
上記一般式(II)で表される構成単位を有するポリビニル系化合物の中でも、R4,R5及びR6がいずれも水素原子、pが0であって、R8がエチル基である構成単位を50〜100モル%、R8が炭素数3もしくは4のアルキル基である構成単位を0〜50モル%を含む重合体又は共重合体が好ましい。
8がエチル基である構成単位の割合は、70〜100モル%であるものがさらに好ましく、100モル%であるもの、即ち、ポリエチルビニルエーテルがさらに好ましい。
また、前記R8の炭素数3もしくは4のアルキル基としては、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が使用できるが、特にイソブチル基が好ましい。
【0032】
本発明のポリビニルエーテル系化合物は、対応するビニルエーテル系モノマ−の重合により製造することができる。ここで用いることのできるビニルエーテル系モノマ−は、一般式(III)
【0033】
【化5】

【0034】
(式中、R4 ,R5 ,R6 ,R7 ,R8及びpは前記と同じである。)
で表されるものである。このビニルエーテル系モノマ−としては、上記ポリビニルエーテル系化合物に対応する各種のものがあるが、例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル−n−プロピルエーテル、ビニル−イソプロピルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、ビニル−イソブチルエーテル、ビニル−sec−ブチルエーテル、ビニル−tert−ブチルエーテル、ビニル−n−ペンチルエーテル、ビニル−n−ヘキシルエーテル、ビニル−2−メトキシエチルエーテル、ビニル−2−エトキシエチルエーテル、ビニル−2−メトキシ−1−メチルエチルエーテル、ビニル−2−メトキシ−プロピルエーテル、ビニル−3,6−ジオキサヘプチルエーテル、ビニル−3,6,9−トリオキサデシルエーテル、ビニル−1,4−ジメチル−3,6−ジオキサヘプチルエーテル、ビニル−1,4,7−トリメチル−3,6,9−トリオキサデシルエーテル、ビニル−2,6−ジオキサ−4−ヘプチルエーテル、ビニル−2,6,9−トリオキサ−4−デシルエーテル、1−メトキシプロペン、1−エトキシプロペン、1−n−プロポキシプロペン、1−イソプロポキシプロペン、1−n−ブトキシプロペン、1−イソブトキシプロペン、1−sec−ブトキシプロペン、1−tert−ブトキシプロペン、2−メトキシプロペン、2−エトキシプロペン、2−n−プロポキシプロペン、2−イソプロポキシプロペン、2−n−ブトキシプロペン、2−イソブトキシプロペン、2−sec−ブトキシプロペン、2−tert−ブトキシプロペン、1−メトキシ−1−ブテン、1−エトキシ−1−ブテン、1−n−プロポキシ−1−ブテン、1−イソプロポキシ−1−ブテン、1−n−ブトキシ−1−ブテン、1−イソブトキシ−1−ブテン、1−sec−ブトキシ−1−ブテン、1−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−1−ブテン、2−エトキシ−1−ブテン、2−n−プロポキシ−1−ブテン、2−イソプロポキシ−1−ブテン、2−n−ブトキシ−1−ブテン、2−イソブトキシ−1−ブテン、2−sec−ブトキシ−1−ブテン、2−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−2−ブテン、2−エトキシ−2−ブテン、2−n−プロポキシ−2−ブテン、2−イソプロポキシ−2−ブテン、2−n−ブトキシ−2−ブテン、2−イソブトキシ−2−ブテン、2−sec−ブトキシ−2−ブテン、2−tert−ブトキシ−2−ブテン等が挙げられる。これらのビニルエーテル系モノマ−は公知の方法により製造することができる。
【0035】
本発明の冷凍機油組成物に用いられる前記一般式(II)で表される構成単位を有するポリビニルエーテル系化合物は、その末端を本開示例に示す方法及び公知の方法により、所望の構造に変換することができる。変換する基としては、飽和の炭化水素基、エーテル基、アルコール基、ケトン基、アミド基、ニトリル基などを挙げることができる。
本発明の冷凍機油組成物における基油に用いられるポリビニルエーテル系化合物としては、次の末端構造を有するものが好適である。すなわち、
(1)その一つの末端が、一般式(IV)
【0036】
【化6】

【0037】
(式中、R9 ,R10 及びR11 は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R12 は炭素数2〜10の二価の炭化水素基、R13は炭素数1〜10の炭化水素基、qはその平均値が0〜10の数を示し、R12 Oが複数ある場合には複数のR12 Oは同一であっても異なっていてもよい。)
で表され、かつ残りの末端が一般式(V)
【0038】
【化7】

【0039】
(式中、R14,R15及びR16は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R17は炭素数2〜10の二価の炭化水素基、R18は炭素数1〜10の炭化水素基、rはその平均値が0〜10の数を示し、R17Oが複数ある場合には複数のR17Oは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構造を有するもの、
(2)その一つの末端が上記一般式(IV)で表され、かつ残りの末端が一般式 (VI)
【0040】
【化8】

【0041】
(式中、R19、R20及びR21は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R22及びR24はそれぞれ炭素数2〜10の二価の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R23及びR25はそれぞれ炭素数1〜10の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、s及びtはそれぞれその平均値が0〜10の数を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、また複数のR22Oがある場合には複数のR22Oは同一であっても異なっていてもよいし、複数のR24Oがある場合には複数のR24 は同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構造を有するもの、
(3)その一つの末端が前記一般式(IV)で表され、かつ残りの末端がオレフィン性不飽和結合を有するもの、
(4)その一つの末端が前記一般式(IV)で表され、かつ残りの末端が一般式(VII)
【0042】
【化9】

【0043】
(式中、R26,R27及びR28は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構造のものである。
該ポリビニルエーテル系混合物は、前記(1)〜(4)の末端構造を有するものの中から選ばれた二種以上の混合物であってもよい。このような混合物としては、例えば前記(1)のものと(4)のものとの混合物、及び前記(2)のものと(3)のものとの混合物を好ましく挙げることができる。
【0044】
上記ポリビニルエーテル系化合物としては、好ましい粘度範囲のポリビニルエーテル系化合物を生成するよう、前記原料、開始剤及び反応条件を選定することが好ましい。なお、上記動粘度範囲外のポリマーでも、他の動粘度のポリマーと混合することで、上記動粘度範囲内に粘度調整することも可能である。
なお、本発明のポリビニルエーテル系化合物の製造に際しては、合成反応終了後に未反応の原料化合物を除去し、さらに脱水処理を行って、できるだけ水分を少なくする処理を施すことが望ましい。
本発明においては、このポリビニルエーテル系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
[ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体]
なお、ポリ(オキシ)アルキレングリコールとは、ポリアルキレングリコール及びポリオキシアルキレングリコールの両方を指す。
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いることのできるポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体としては、一般式(VIII)及び一般式(IX)
【0046】
【化10】

【0047】
で表される共重合体(以下、それぞれをポリビニルエーテル系共重合体I及びポリビニルエーテル系共重合体IIと称する。)を挙げることができる。
上記一般式(VIII)におけるR29、R30及びR31はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一でも異なっていてもよく、R33は炭素数2〜4の二価の炭化水素基、R34は炭素数1〜20の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基、炭素数1〜20の置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、炭素数2〜20のアシル基又は炭素数2〜50の酸素含有炭化水素基、R32は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、R34,R33,R32はそれらが複数ある場合にはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
ここでR29〜R31のうちの炭素数1〜8の炭化水素基とは、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基、各種ジメチルフェニル基などのアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基などのアリールアルキル基を示す。なお、これらのR29,R30及びR31の各々としては、特に水素原子が好ましい。
【0048】
一方、R33で示される炭素数2〜4の二価の炭化水素基としては、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、各種ブチレン基などの二価のアルキレン基がある。
なお、一般式(VIII)におけるvは、R33Oの繰り返し数を示し、その平均値が1〜50、好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜5の範囲の数である。R33Oが複数ある場合には、複数のR33Oは同一でも異なっていてもよい。
また、kは1〜50、好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜2、特に好ましくは1、uは0〜50、好ましくは2〜25、さらに好ましくは5〜15、の数を示し、kおよびuはそれらが複数ある場合にはそれぞれブロックでもランダムでもよい。
【0049】
さらに、一般式(VIII)におけるR34は、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基または炭素数2〜50の酸素含有炭化水素基を示す。
この炭素数1〜10のアルキル基とは、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などを示す。
また、炭素数2〜10のアシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピパロイル基、ベンゾイル基、トルオイル基などを挙げることができる。
さらに、炭素数2〜50の酸素含有炭化水素基の具体例としては、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、1,1−ビスメトキシプロピル基、1,2−ビスメトキシプロピル基、エトキシプロピル基、(2−メトキシエトキシ)プロピル基、(1−メチル−2−メトキシ)プロピル基などを好ましく挙げることができる。
【0050】
一般式(VIII)において、R32で示される炭素数1〜10の炭化水素基とは、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、各種メチルシクロヘキシル基、各種エチルシクロヘキシル基、各種プロピルシクロヘキシル基、各種ジメチルシクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、各種メチルフェニル基、各種エチルフェニル基、各種ジメチルフェニル基、各種プロピルフェニル基、各種トリメチルフェニル基、各種ブチルフェニル基、各種ナフチル基などのアリール基;ベンジル基、各種フェニルエチル基、各種メチルベンジル基、各種フェニルプロピル基、各種フェニルブチル基などのアリールアルキル基等を示す。
なお、R29〜R31,R34,R33及びv並びにR29〜R32は、それぞれ構成単位毎に同一であっても異なっていてもよい。
【0051】
前記一般式(VIII)で表される構成単位を有するポリビニルエーテル系共重合体Iは共重合体にすることにより、相溶性を満足しつつ潤滑性、絶縁性、吸湿性等を向上させることができる効果がある。この際、原料となるモノマーの種類、開始剤の種類並びに共重合体の比率を選ぶことにより、油剤の上記性能を目的レベルに合わせることが可能となる。従って、冷凍システムあるいは空調システムにおけるコンプレッサーの型式、潤滑部の材質及び冷凍能力や冷媒の種類等により異なる潤滑性、相溶性等の要求に応じた油剤を自在に得ることができるという効果がある。
【0052】
一方、前記一般式(IX)で表されるポリビニルエーテル系共重合体IIにおいて、R29〜R32、R33及びvは前記と同じである。R33,R32はそれらが複数ある場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。x及びyは、それぞれ1〜50の数を示し、xおよびyはそれらが複数ある場合にはそれぞれブロックでもランダムでもよい。X,Yは、それぞれ独立に水素原子、水酸基又は、1〜20の炭化水素基を示す。
【0053】
前記一般式(VIII)で表されるポリビニルエーテル系共重合体Iの製造方法については、それが得られる方法であればよく、特に制限はないが、例えば、以下に示す製造方法1〜3により製造することができる。
(ポリビニルエーテル系共重合体Iの製造方法1)
この製造方法1においては、一般式(X)
34−(OR33v−OH ・・・(X)
(式中、R33、R34及びvは前記と同じである。)
で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコール化合物を開始剤とし、一般式(XI)
【0054】
【化11】

【0055】
(式中、R29〜R32は前記と同じである。)
で表されるビニルエーテル系化合物を重合させることにより、ポリビニルエーテル系共重合体Iを得ることができる。
前記一般式(X)で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコール化合物としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの(オキシ)アルキレングリコールモノエーテル等が挙げられる。
また、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル系化合物としては、例えばビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル−n−プロピルエーテル、ビニル−イソプロピルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、ビニル−イソブチルエーテル、ビニル−sec−ブチルエーテル、ビニル−tert−ブチルエーテル、ビニル−n−ペンチルエーテル、ビニル−n−ヘキシルエーテル等のビニルエーテル類;1−メトキシプロペン、1−エトキシプロペン、1−n−プロポキシプロペン、1−イソプロポキシプロペン、1−n−ブトキシプロペン、1−イソブトキシプロペン、1−sec−ブトキシプロペン、1−tert−ブトキシプロペン、2−メトキシプロペン、2−エトキシプロペン、2−n−プロポキシプロペン、2−イソプロポキシプロペン、2−n−ブトキシプロペン、2−イソブトキシプロペン、2−sec−ブトキシプロペン、2−tert−ブトキシプロペン等のプロペン類;1−メトキシ−1−ブテン、1−エトキシ−1−ブテン、1−n−プロポキシ−1−ブテン、1−イソプロポキシ−1−ブテン、1−n−ブトキシ−1−ブテン、1−イソブトキシ−1−ブテン、1−sec−ブトキシ−1−ブテン、1−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−1−ブテン、2−エトキシ−1−ブテン、2−n−プロポキシ−1−ブテン、2−イソプロポキシ−1−ブテン、2−n−ブトキシ−1−ブテン、2−イソブトキシ−1−ブテン、2−sec−ブトキシ−1−ブテン、2−tert−ブトキシ−1−ブテン、2−メトキシ−2−ブテン、2−エトキシ−2−ブテン、2−n−プロポキシ−2−ブテン、2−イソプロポキシ−2−ブテン、2−n−ブトキシ−2−ブテン、2−tert−ブトキシ−2−ブテンなどのブテン類が挙げられる。これらのビニルエーテル系モノマ−は公知の方法のより製造することができる。
【0056】
(ポリビニルエーテル系共重合体Iの製造方法2)
この製造方法2においては、一般式(XII)
【0057】
【化12】

【0058】
(式中、R29〜R34及びvは前記と同じである。)
で表されるアセタール化合物を開始剤とし、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル系化合物を重合させることにより、ポリビニルエーテル系共重合体Iを得ることができる。
前記一般式(XII)で表されるアセタール化合物としては、例えばアセトアルデヒドメチル(2−メトキシエチル)アセタール、アセトアルデヒドエチル(2−メトキシエチル)アセタール、アセトアルデヒドメチル(2−メトキシ1−メチルエチル)アセタール、アセトアルデヒドエチル(2−メトキシ−1−メチルエチル)アセタール、アセトアルデヒドメチル[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アセタール、アセトアルデヒドエチル[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アセタール、アセトアルデヒドメチル[2−(2−メトキシエトキシ)−1−メチルエチル]アセタール、アセトアルデヒドエチル[2−(2−メトキシエトキシ)−1−メチルエチル]アセタールなどが挙げられる。
また、前記一般式(XII)で表されるアセタール化合物は、例えば前記一般式(X)で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコール化合物1分子と、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル系化合物1分子とを反応させることにより、製造することもできる。得られたアセタール化合物は、単離して、又はそのまま開始剤として用いることができる。
【0059】
(ポリビニルエーテル系共重合体Iの製造方法3)
この製造方法3においては、一般式(XIII)
【0060】
【化13】

【0061】
(式中、R29〜R31、R33、R34及びvは前記と同じである。)
で表されるアセタール化合物を開始剤として、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル系化合物を重合させることにより、ポリビニルエーテル系共重合体Iを得ることができる。
前記一般式(XIII)で表されるアセタール化合物としては、例えばアセトアルデヒドジ(2−メトキシエチル)アセタール、アセトアルデヒドジ(2−メトキシ−1−メチルエチル)アセタール、アセトアルデヒドジ[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]アセタール、アセトアルデヒドジ[2−(2−メトキシエトキシ)−1−メチルエチル]アセタール等が挙げられる。
また、前記一般式(XIII)で表されるアセタール化合物は、例えば前記一般式(X)で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコール化合物1分子と、一般式(XIV)
【0062】
【化14】

【0063】
(式中、R29〜R31、R33、R34及びvは前記と同じである。)
で表されるビニルエーテル系化合物1分子とを反応させることにより、製造することもできる。得られたアセタール化合物は、単離して、又はそのまま開始剤として用いることができる。
一般式(VIII)で表されるビニルエーテル系共重合体Iは、その一つの末端が、一般式(XV)、(XVI)
【0064】
【化15】

【0065】
(式中、R29〜R34及びvは前記と同じである。)
で表され、かつ残りの末端が、一般式(XVII)又は一般式(XVIII)
【0066】
【化16】

【0067】
(式中、R29〜R34及びvは前記と同じである。)
で表される構造を有するポリビニルエーテル系共重合体Iとすることができる。
このようなポリビニルエーテル系共重合体Iの中で、特に次に挙げるものが本発明の冷凍機油組成物の基油として好適である。
(1)その一つの末端が一般式(XV)又は(XVI)で表され、かつ残りの末端が一般式(XVII)又は(XVIII)で表される構造を有し、一般式(VIII)におけるR29,R30及びR31が共に水素原子、vが1〜4の数、R33が炭素数2〜4の二価の炭化水素基、R34が炭素数1〜10のアルキル基及びR32が炭素数1〜10の炭化水素基であるもの。
(2)その一つの末端が一般式(XV)で表され、かつ残りの末端が一般式(XVIII)で表される構造を有し、一般式(VIII)におけるR29,R30及びR31が共に水素原子、vが1〜4の数、R33が炭素数2〜4の二価の炭化水素基、R34が炭素数1〜10のアルキル基及びR32が炭素数1〜10の炭化水素基であるもの。
(3)その一つの末端が一般式(XVI)で表され、かつ残りの末端が一般式(XVII)で表される構造を有し、一般式(VIII)におけるR29,R30及びR31が共に水素原子、vが1〜4の数、R33が炭素数2〜4の二価の炭化水素基、R34が炭素数1〜10のアルキル基及びR32が炭素数1〜10の炭化水素基であるもの。
【0068】
一方、前記一般式(IX)で表されるポリビニルエーテル系共重合体IIの製造方法については、それが得られる方法であればよく、特に制限はないが、以下に示す方法により、効率よく製造することができる。
(ポリビニルエーテル系共重合体IIの製造方法)
前記一般式(IX)で表されるポリビニルエーテル系共重合体IIは、一般式(XIX)
HO−(R33O)v−H ・・・(XIX)
(式中、R33及びvは前記と同じである。)
で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコールを開始剤とし、前記一般式(XI)で表されるビニルエーテル化合物を重合させることにより得ることができる。
前記一般式(XIX)で表されるポリ(オキシ)アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。
本発明においては、このポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
[ポリオールエステル類]
本発明の冷凍機油組成物において、基油として用いることのできるポリオールエステル類としては、ジオールあるいは水酸基を3〜20個程度有するポリオールと、炭素数1〜24程度の脂肪酸とのエステルが好ましく用いられる。
ここで、ジオールとしては、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオールなどが挙げられる。
【0070】
前記ポリオールとしては、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜20量体)、1,3,5−ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールなどの多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレンジトースなどの糖類;並びにこれらの部分エーテル化物、及びメチルグルコシド(配糖体)などが挙げられる。これらの中でもポリオールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールが好ましい。
【0071】
脂肪酸としては、特に炭素数は制限されないが、通常炭素数1〜24のものが用いられる。炭素数1〜24の脂肪酸の中でも、潤滑性の点からは、炭素数3以上のものが好ましく、炭素数4以上のものがより好ましく、炭素数5以上のものがさらにより好ましく、炭素数10以上のものが最も好ましい。また、冷媒との相溶性の点からは、炭素数18以下のものが好ましく、炭素数12以下のものがより好ましく、炭素数9以下のものがさらにより好ましい。
また、直鎖状脂肪酸、分岐状脂肪酸の何れであっても良く、潤滑性の点からは直鎖状脂肪酸が好ましく、加水分解安定性の点からは分岐状脂肪酸が好ましい。更に、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の何れであっても良い。
【0072】
前記脂肪酸として具体的には、例えば、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、オレイン酸などの直鎖または分岐のもの;あるいはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸などが挙げられる。さらに具体的には、吉草酸(n−ペンタン酸)、カプロン酸(n−ヘキサン酸)、エナント酸(n−ヘプタン酸)、カプリル酸(n−オクタン酸)、ペラルゴン酸(n−ノナン酸)、カプリン酸(n−デカン酸)、オレイン酸(cis−9−オクタデセン酸)、イソペンタン酸(3−メチルブタン酸)、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸などが好ましい。
なお、ポリオールエステルとしては、ポリオールの全ての水酸基がエステル化されずに残った部分エステルであっても良く、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであっても良く、また部分エステルと完全エステルの混合物であっても良いが、完全エステルであることが好ましい。
【0073】
このポリオールエステルの中でも、より加水分解安定性に優れることから、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリト−ル、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールのエステルがより好ましく、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタンおよびペンタエリスリトールのエステルがさらにより好ましく、冷媒との相溶性及び加水分解安定性に特に優れることからペンタエリスリトールのエステルが最も好ましい。
【0074】
好ましいポリオールエステルの具体例としては、ネオペンチルグリコールと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのジエステル;トリメチロールエタンと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル;トリメチロールプロパンと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル;トリメチロールブタンと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのトリエステル;ペンタエリスリト−ルと、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸とのテトラエステルが挙げられる。
【0075】
なお、二種以上の脂肪酸とのエステルとは、一種の脂肪酸とポリオールのエステルを二種以上混合したものでも良く、二種以上の混合脂肪酸とポリオールのエステル、特に混合脂肪酸とポリオールとのエステルは、低温特性や冷媒との相溶性に優れる。
また、この基油としては、ASTM色が1以下、界面張力が20mN/m以上、抽出水pHが5.5以上、灰分が0.1質量%以下、体積抵抗値が109Ωm以上であることが好ましい。このような性状を有する基油は安定性が良好で、優れた電気絶縁性を有し、好適である。
【0076】
当該ポリオールエステル系化合物を製造するに際し、不活性ガス雰囲気でエステル化反応を行うことにより、着色を抑制することができる。また、反応させる多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との割合において、脂肪族モノカルボン酸の量が、化学量論的量より少ない場合は、水酸基が残存し、水酸基価が上昇し、一方化学量論的量より多い場合は、カルボン酸が残存し、酸価が上昇すると共に、抽出水のpHが低下する。したがって、多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのモル比は、最適にすることが望ましく、また、残存するエステル化触媒(灰分)の量は、できるだけ少なくする処理を施すことが望ましい。
【0077】
本発明の冷凍機油組成物は、基油として、前述のポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、及びポリオールエステル類の中から選ばれる少なくとも1種からなる含酸素化合物からなる基油が用いられる。
これらの中でも、ポリビニルエーテル類が、冷媒との相溶性や体積抵抗率が優れる点で、特に好ましく用いられる。
【0078】
本発明においては、基油の100℃の動粘度は、好ましくは1mm2/s以上50mm2/s以下であり、より好ましくは3mm2/s以上40mm2/s以下、さらに好ましくは4mm2/s以上30mm2/s以下である。該動粘度が1mm2/s以上であれば良好な潤滑性能(耐荷重性)が発揮されると共に、シ−ル性もよく、また50mm2/s以下であれば省エネルギ−性も良好である。
また、基油の数平均分子量は、300以上3000以下以上であることが好ましく、500以上3000以下より好ましく、700以上2500以下がさらに好ましい。基油の引火点は150℃以上であることが好ましく、基油の数平均分子量が300以上3000以下であれば、冷凍機油としての所望の性能を発揮することができると共に、基油の引火点を前記範囲にすることができる。
【0079】
また本発明における基油の粘度指数は、60以上であることが好ましく、80以上であることがより好ましい。ただし粘度指数の上限は製造上の制限等から300程度である。
上記粘度指数が60以上であることにより、高温での動粘度の低下を抑制することができる。
なお、前記基油の粘度指数は、JIS K 2283に準拠して測定される。
【0080】
<冷媒>
本発明の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物が適用される冷媒としては、炭素数1〜3、好ましくは、炭素数1〜2の飽和フッ化炭化水素化合物(HFC)を含む冷媒が用いられる。
炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素化合物としては、例えば、トリフルオロメタン、ジフルオロメタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン、1,1,2−トリフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンが好適である。
これらの冷媒は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
例えば、飽和フッ化炭化水素化合物として、ジフルオロメタン(R32)を用いる場合、R32を単独で用いるのが好ましいが、R32と1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(R125)とを混合してもよく、また、R32とR125と1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R134a)とを混合してもよい。前者の代表例としては、R410Aが挙げられ、後者の代表例としては、R407Cが挙げられる。
R32とその他の炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素化合物との混合物を用いる場合は、冷媒全体の中のR32の割合が、20質量%以上であるものが好ましく、40質量%以上のものがより好ましく、70質量%以上のものがさらに好ましい。
【0081】
さらに、上記炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素化合物は、炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素化合物以外の冷媒と混合して用いてもよい。この場合、炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素化合物以外の冷媒の混合割合は、冷媒全体の30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素化合物以外の冷媒としては、二酸化炭素(CO2)、低沸点炭化水素(HC)、アンモニア、あるいは下記の分子式(A)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の含フッ素有機化合物が挙げられる。
pqrs ・・・(A)
(式中、Rは、Cl、Br、IまたはHを示し、pは1〜6、qは0〜2、rは1〜14、sは0〜13の整数である。但し、qが0の場合は、pは2〜6であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。)
【0082】
以下、前記分子式(A)で示される冷媒について詳細に説明する。
前記分子式(A)は、分子中の元素の種類と数を表すものであり、式(A)は、炭素原子Cの数pが1〜6の含フッ素有機化合物を表している。炭素数が1〜6の含フッ素有機化合物であれば、冷媒として要求される沸点、凝固点、蒸発潜熱などの物理的、化学的性質を有することができる。
該分子式(A)において、Cpで表されるp個の炭素原子の結合形態は、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合等の不飽和結合、炭素−酸素二重結合などが含まれる。炭素−炭素の不飽和結合は、安定性の点から、炭素−炭素二重結合であることが好ましく、その数は1以上であるが、1であるものが好ましい。
【0083】
また、分子式(A)において、Oqで表されるq個の酸素原子の結合形態は、エーテル基、水酸基またはカルボニル基に由来する酸素であることが好ましい。この酸素原子の数qは、2であってもよく、2個のエーテル基や水酸基等を有する場合も含まれる。
また、Oqにおけるqが0であり分子中に酸素原子を含まない場合は、pは2〜6であって、分子中に炭素−炭素二重結合等の不飽和結合を1以上有する。すなわち、Cpで表されるp個の炭素原子の結合形態の少なくとも1つは、炭素−炭素不飽和結合であることが必要である。
また、分子式(A)において、Rは、Cl、Br、IまたはHを表し、これらのいずれであってもよいが、オゾン層を破壊する恐れが小さいことから、Rは、Hであることが好ましい。
上記のとおり、分子式(A)で表される含フッ素有機化合物としては、不飽和フッ化炭化水素化合物、フッ化エーテル化合物、フッ化アルコール化合物及びフッ化ケトン化合物などが好適なものとして挙げられる。
以下、これらの化合物について説明する。
【0084】
[不飽和フッ化炭化水素化合物]
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられる不飽和フッ化炭化水素化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜6、qが0、rが1〜12、sは0〜11である不飽和フッ化炭化水素化合物が挙げられる。
このような不飽和フッ化炭化水素化合物として好ましくは、例えば、炭素数2〜6の直鎖状または分岐状の鎖状オレフィンや炭素数4〜6の環状オレフィンのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜3個のフッ素原子が導入されたエチレン、1〜5個のフッ素原子が導入されたプロペン、1〜7個のフッ素原子が導入されたブテン類、1〜9個のフッ素原子が導入されたペンテン類、1〜11個のフッ素原子が導入されたヘキセン類、1〜5個のフッ素原子が導入されたシクロブテン、1〜7個のフッ素原子が導入されたシクロペンテン、1〜9個のフッ素原子が導入されたシクロヘキセンなどが挙げられる。
【0085】
これらの不飽和フッ化炭化水素化合物の中では、炭素数2〜3の不飽和フッ化炭化水素化合物が好ましく、トリフルオロエチレンなどのエチレンのフッ化物及び各種プロペンのフッ化物が挙げられるが、プロペンのフッ化物がより好ましい。このプロペンのフッ化物としては、例えば、3,3,3−トリフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン及び2,3,3,3−テトラフルオロプロペンなどを挙げることができるが、特に、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO1225ye)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)及び2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)が低地球温暖化係数である点で好適である。
本発明においては、この不飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0086】
[フッ化エーテル化合物]
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられるフッ化エーテル化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜6、qが1〜2、rが1〜14、sは0〜13であるフッ化エーテル化合物が挙げられる。
このようなフッ化エーテル化合物として好ましくは、例えば、炭素数が2〜6で、1〜2個のエーテル結合を有し、アルキル基が直鎖状または分岐状の鎖状脂肪族エーテルのフッ素化物や、炭素数が3〜6で、1〜2個のエーテル結合を有する環状脂肪族エーテルのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜6個のフッ素原子が導入されたフッ化ジメチルエーテル、1〜8個のフッ素原子が導入されたフッ化メチルエチルエーテル、1〜8個のフッ素原子が導入されたフッ化ジメトキシメタン、1〜10個のフッ素原子が導入されたフッ化メチルプロピルエーテル類、1〜12個のフッ素原子が導入されたフッ化メチルブチルエーテル類、1〜12個のフッ素原子が導入されたフッ化エチルプロピルエーテル類、1〜6個のフッ素原子が導入されたフッ化オキセタン、1〜6個のフッ素原子が導入されたフッ化1,3−ジオキソラン、1〜8個のフッ素原子が導入されたフッ化テトラヒドロフランなどを挙げることができる。
【0087】
これらのフッ化エーテル化合物としては、例えばヘキサフルオロジメチルエーテル、ペンタフルオロジメチルエーテル、ビス(ジフルオロメチル)エーテル、フルオロメチルトリフルオロメチルエーテル、トリフルオロメチルメチルエーテル、ペルフルオロジメトキシメタン、1−トリフルオロメトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、ジフルオロメトキシペンタフルオロエタン、1−トリフルオロメトキシ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン、1−トリフルオロメトキシ−2,2,2−トリフルオロエタン、1−ジフルオロメトキシ−2,2,2−トリフルオロエタン、ペルフルオロオキセタン、ペルフルオロ−1,3−ジオキソラン、ペンタフルオロオキセタンの各種異性体、テトラフルオロオキセタンの各種異性体などが挙げられる。
本発明においては、このフッ化エーテル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
[フッ化アルコール化合物]
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられるフッ化アルコール化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが1〜6、qが1〜2、rが1〜13、sは1〜13であるフッ化エーテル化合物が挙げられる。
このようなフッ化アルコール化合物として好ましくは、例えば、炭素数が1〜6で、1〜2個の水酸基を有する直鎖状または分岐状の脂肪族アルコールのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜3個のフッ素原子が導入されたフッ化メチルアルコール、1〜5個のフッ素原子が導入されたフッ化エチルアルコール、1〜7個のフッ素原子が導入されたフッ化プロピルアルコール類、1〜9個のフッ素原子が導入されたフッ化ブチルアルコール類、1〜11個のフッ素原子が導入されたフッ化ペンチルアルコール類、1〜4個のフッ素原子が導入されたフッ化エチレングリコール、1〜6個のフッ素原子が導入されたフッ化プロピレングリコールなどを挙げることができる。
【0089】
これらのフッ化アルコール化合物としては、例えばモノフルオロメチルアルコール、ジフルオロメチルアルコール、トリフルオロメチルアルコール、ジフルオロエチルアルコールの各種異性体、トリフルオロエチルアルコールの各種異性体、テトラフルオロエチルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロエチルアルコール、ジフルオロプロピルアルコールの各種異性体、トリフルオロプロピルアルコールの各種異性体、テトラフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ヘキサフルオロプロピルアルコールの各種異性体、ヘプタフルオロプロピルアルコール、ジフルオロブチルアルコールの各種異性体、トリフルオロブチルアルコールの各種異性体、テトラフルオロブチルアルコールの各種異性体、ペンタフルオロブチルアルコールの各種異性体、ヘキサフルオロブチルアルコールの各種異性体、ヘプタフルオロブチルアルコールの各種異性体、オクタフルオロブチルアルコールの各種異性体等のフッ化アルコール;ノナフルオロブチルアルコール、ジフルオロエチレングリコールの各種異性体、トリフルオロエチレングリコール、テトラフルオロエチレングリコール、さらにはジフルオロプロピレングリコールの各種異性体、トリフルオロプロピレングリコールの各種異性体、テトラフルオロプロピレングリコールの各種異性体、ペンタフルオロプロピレングリコールの各種異性体、ヘキサフルオロプロピレングリコールなどのフッ化プロピレングリコール;及びこのフッ化プロピレングリコールに対応するフッ化トリメチレングリコールなどが挙げられる。
本発明においては、これらのフッ化アルコール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0090】
[フッ化ケトン化合物]
本発明において、冷凍機の冷媒として用いられるフッ化ケトン化合物としては、例えば、分子式(A)において、RがHであり、pが2〜6、qが1〜2、rが1〜12、sは0〜11であるフッ化ケトン化合物が挙げられる。
このようなフッ化ケトン化合物として好ましくは、例えば、炭素数が3〜6で、アルキル基が直鎖状または分岐状の脂肪族ケトンのフッ素化物を挙げることができる。
具体的には、1〜6個のフッ素原子が導入されたフッ化アセトン、1〜8個のフッ素原子が導入されたフッ化メチルエチルケトン、1〜10個のフッ素原子が導入されたフッ化ジエチルケトン、1〜10個のフッ素原子が導入されたフッ化メチルプロピルケトン類などが挙げられる。
【0091】
これらのフッ化ケトン化合物としては、例えばヘキサフルオロジメチルケトン、ペンタフルオロジメチルケトン、ビス(ジフルオロメチル)ケトン、フルオロメチルトリフルオロメチルケトン、トリフルオロメチルメチルケトン、ペルフルオロメチルエチルケトン、トリフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチルペンタフルオロエチルケトン、トリフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−1,2,2,2−テトラフルオロエチルケトン、トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルケトン、ジフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルケトンなどが挙げられる。
本発明においては、これらのフッ化ケトン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
[その他添加剤]
本発明の冷凍機油組成物には、酸化防止剤や酸捕捉剤を含有させることが好ましい。また、さらに極圧剤、油性剤、金属不活性化剤及び消泡剤などの中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有させることができる。
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等のフェノール系、フェニル−α−ナフチルアミン、N.N’−ジ−フェニル−p−フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤を配合するのが好ましい。酸化防止剤は、効果及び経済性などの点から、組成物中に0.01〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜3質量%配合する。
【0093】
(酸捕捉剤)
酸捕捉剤としては、例えばグリシジルエステル、フェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油などのエポキシ化合物を挙げることができるが、酸捕捉剤としては、特にグリシジルエステル、グリシジルエーテル及びα−オレフィンオキシドの中から選ばれる少なくとも1種が好適に用いられる。
グリシジルエーテルとしては、炭素数が、通常3〜30、好ましくは4〜24、より好ましくは6〜16の直鎖状、分岐状、環状の飽和若しくは不飽和の脂肪族モノ又は多価アルコール、あるいは水酸基1個以上含有する芳香族化合物由来のグリシジルエーテルが挙げられる。脂肪族多価アルコールや水酸基2個以上含有する芳香族化合物の場合、潤滑油組成物の安定性のために、水酸基価の上昇を抑える観点から、水酸基の全てがグリシジルエーテル化されていることが好ましい。
【0094】
これらの中で、特に炭素数6〜16の直鎖状、分岐状、環状の飽和脂肪族モノアルコール由来のグリシジルエーテルが好ましい。このようなグリシジルエーテルとしては、例えば2−エチルエチルグリシジルエーテル、イソノニルグリシジルエーテル、カプリノイルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ミリスチルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
グリシジルエステルとしては、具体的には、フェニルグリシジルエステル、アルキルグリシジルエステル、アルケニルグリシジルエステルなどが挙げられ、好ましいものとしては、グリシジル−2,2−ジメチルオクタノエート、グリシジルベンゾエート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどが例示できる。
【0095】
一方、α−オレフィンオキシドとしては、炭素数が一般に4〜50、好ましくは4〜24、より好ましくは6〜16のものが用いられる。
本発明においては、前記酸捕捉剤は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、効果及びスラッジ発生の抑制の点から、組成物全量に基づき、通常0.005〜10質量%、特に0.05〜6質量%の範囲が好ましい。
【0096】
(極圧剤)
極圧剤としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩などのリン系極圧剤を挙げることができる。
これらのリン系極圧剤の中で、極圧性、摩擦特性などの点からトリクレジルホスフェート、トリチオフェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、2−エチルヘキシルジフェニルホスファイトなどが特に好ましい。
【0097】
また、極圧剤としては、カルボン酸の金属塩が挙げられる。ここでいうカルボン酸の金属塩は、好ましくは炭素数3〜60のカルボン酸、さらには炭素数3〜30、特に好ましくは12〜30の脂肪酸の金属塩である。また、前記脂肪酸のダイマー酸やトリマー酸並びに炭素数3〜30のジカルボン酸の金属塩を挙げることができる。これらのうち炭素数12〜30の脂肪酸及び炭素数3〜30のジカルボン酸の金属塩が特に好ましい。
一方、金属塩を構成する金属としてはアルカリ金属またはアルカリ土類金属が好ましく、特に、アルカリ金属が最適である。
また、極圧剤としては、さらに、上記以外の極圧剤として、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チオカーバメート類、チオテルペン類、ジアルキルチオジプロピオネート類などの硫黄系極圧剤を挙げることができる。
上記極圧剤の配合量は、潤滑性及び安定性の点から、組成物全量に基づき、0.001〜5質量%が好ましく、0.005〜3質量%の範囲がより好ましい。前記の極圧剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
(油性剤)
油性剤の例としては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和および不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド、グリセリン、ソルビトールなどの多価アルコールと脂肪族飽和または不飽和モノカルボン酸との部分エステル等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、組成物全量に基づき、0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%の範囲で選定される。
【0099】
(金属不活性化剤、消泡剤)
金属不活性化剤としては、例えばN−[N,N’−ジアルキル(炭素数3〜12のアルキル基)アミノメチル]トリアゾ−ルなどの銅不活性化剤などを挙げることができ、消泡剤としては、例えばシリコーン油やフッ素化シリコーン油などを挙げることができる。
【0100】
[圧縮型冷凍機用潤滑油組成物を使用する冷凍機の潤滑方法]
本発明の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物は、前記炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素を含む冷媒を用いた冷凍機用に適している。
本発明の冷凍機用潤滑油組成物を使用する冷凍機の潤滑方法において、前記各種冷媒と冷凍機用潤滑油組成物の使用量については、冷媒/冷凍機用潤滑油組成物の質量比で99/1〜10/90、更に95/5〜30/70の範囲にあることが好ましい。冷媒の量が上記範囲よりも少ない場合は冷凍能力の低下が見られ、また上記範囲よりも多い場合は潤滑性能が低下し好ましくない。本発明の冷凍機用潤滑油組成物は、種々の冷凍機に使用可能であるが、特に、圧縮型冷凍機の圧縮式冷凍サイクルに好ましく適用できる。
【0101】
[冷凍機]
本発明の冷凍機用潤滑油組成物が適用される冷凍機は、圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁など)及び蒸発器、あるいは圧縮機、凝縮器、膨張機構、乾燥器及び蒸発器を必須とする構成からなる冷凍サイクルを有するとともに、冷凍機油として前述した本発明の冷凍機用潤滑油組成物を使用し、また冷媒として前述の各種冷媒が使用される。
ここで乾燥器中には、細孔径0.33nm以下のゼオライトからなる乾燥剤を充填することが好ましい。また、このゼオライトとしては、天然ゼオライトや合成ゼオライトを挙げることができ、さらにこのゼオライトは、25℃、CO2ガス分圧33kPaにおけるCO2ガス吸収容量が1%以下のものが一層好適である。このような合成ゼオライトとしては、例えばユニオン昭和(株)製の商品名XH−9、XH−600等を挙げることができる。
本発明において、このような乾燥剤を用いれば、冷凍サイクル中の冷媒を吸収することなく、水分を効率よく除去できると同時に、乾燥剤自体の劣化による粉末化が抑制され、したがって粉末化によって生じる配管の閉塞や圧縮機摺動部への進入による異常摩耗等の恐れがなくなり、冷凍機を長時間にわたって安定的に運転することができる。
【0102】
本発明の冷凍機用潤滑油組成物が適用される冷凍機においては、圧縮機内に様々な摺動部分(例えば軸受など)がある。本発明においては、この摺動部分として特にシ−ル性の点から、エンジニアリングプラスチックからなるもの、または有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものが用いられる。
前記エンジニアリングプラスチックとしては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、例えばポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアセタール樹脂などを好ましく挙げることができる。
また、有機コーティング膜としては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、例えばフッ素含有樹脂コーティング膜(ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜など)、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜、さらには、ポリヒドロキシエーテル樹脂とポリサルホン系樹脂からなる樹脂基材及び架橋剤を含む樹脂塗料を用いて形成された熱硬化型絶縁膜などを挙げることができる。
一方、無機コーティング膜としては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、ニッケル膜、モリブデン膜、スズ膜、クロム膜などが挙げられる。この無機コーティング膜は、メッキ処理で形成してもよいし、PVD法(物理的気相蒸着法)で形成してもよい。
なお、当該摺動部分として、従来の合金系、例えばFe基合金、Al基合金、Cu基合金などからなるものを用いることもできる。
【0103】
[冷凍機油組成物使用システム]
本発明の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物は、例えば、カーエアコン、電動カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、各種給湯システム、冷凍・暖房システム等に用いることができる。
本発明においては、前記システム内の水分含有量は、300質量ppm以下が好ましく、200質量ppm以下がより好ましい。また該システム内の残存空気分圧は、10kPa以下が好ましく、5kPa以下がより好ましい。
本発明の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物は、基油として、特定の含酸素化合物を主成分として含むものであって、粘度が低くて省エネルギ−性の向上を図ることができ、しかもシール性に優れている。
【実施例】
【0104】
次に、本発明を、実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、基油の性状及び冷凍機用潤滑油組成物の諸特性は、以下に示す要領に従って求めた。
【0105】
<基油の性状>
(1)100℃動粘度
JIS K2283−1983に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した。
(2)数平均分子量
数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した。GPCは、HLC−8120GPC、SC−8020(東ソー(株)社製)を用い、THF(テトラヒドロフラン)を溶離液として、IR検出器を用いて測定を行った。その結果から、polystylene標準試料による検量線から数平均分子量を求めた。
(3)引火点
JIS K 2265(COC法)に準拠して測定した。
【0106】
<冷凍機用潤滑油組成物の熱安定性試験>
内容量200mLのオートクレーブに、油/冷媒(30g/30gの比率、油中の水分含有量500質量ppm)、及び鉄、銅、アルミニウムからなる金属触媒を充填して封管し、空気圧0.7kPa、温度200℃の条件にて720時間保持後、油外観、及び析出物、触媒の変質を目視観察すると共に、酸価を測定した。なお、酸価はJIS K 2501に規定される「潤滑油中和試験方法」に準拠し、指示薬法により測定した。
<二層分離温度の測定>
フロン32ジフルオロメタン(フロン32)に対し、10重量%となるように所定量の試料を耐圧ガラスアンプルに加え、これを真空配管およびフロン32ガス配管に接続した。アンプルを室温で真空脱気後、液体窒素で冷却して所定量のフロン32を採取した。次いで、アンプルを封じ、恒温槽中で低温分離温度は室温から徐々に冷却することで、一方、高温分離温度は室温から+40℃まで徐々に加熱することで相分離が始まる温度を測定した。
<体積抵抗率>
減圧下(0.3〜0.8mmHg)100℃で1時間乾燥させた後、室温の試料油を体積固有抵抗測定用の液体セルに封入した。アドバンテスト社製R8340デジタル超高抵抗/微少電流計を用い、印加電圧250Vで体積抵抗率を測定した。
【0107】
<配合成分>
冷凍機用潤滑油組成物の調製に用いた各成分の種類を以下に示す。
(1)基油
・PVE‐A1〜PVE‐A7:ポリエチルビニルエーテル
・PVE‐B1〜PVE‐B2:ポリエチルビニルエーテル(PEVE)/ポリイソブチルビニルエーテル共重合体(PIBVE/PIBVE(モル比)9/1)]
・PVE‐C1〜PVE‐C2:ポリエチルビニルエーテル(PEVE)/ポリイソブチルビニルエーテル共重合体(PIBVE/PIBVE(モル比)8/2)]
・PAG‐1〜PAG‐2 :ポリオキシプロピレングリコール
・ECP‐1〜ECP‐2 :ポリプロピレングリコール(PPG)/ポリエチルビニルエーテル(PEV)共重合体(PPG/PEVモル比5/5)
・POE‐1〜POE‐2 :ペンタエリスリトールオクタン酸(C8酸)ノナン酸(C9酸)エステル(C8酸/C9酸モル比1/1.1)
これら基油の性状は、第1表の通りである。
【0108】
(2)酸化防止剤:
2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(0.3質量%)
(3)酸捕捉剤:
2−エチルヘキシルグリシジルエーテル(0.3質量%)
(4)その他の添加剤
以下の各成分を用い、組成物全量中の配合量をおのおの( )内に示す量(質量%)として、全体で1.1質量%となるように添加した。
・極圧剤: トリクレジルホスフェート(1.0質量%)
・消泡剤:シリコーン系消泡剤(0.1質量%)
【0109】
<実施例1〜8及び比較例1〜9>
第2表に記載の基油を用いて第2表に示す組成の冷凍機油組成物を調製し、冷媒としてR32(ジフルオロメタン)又はR410A〔R32とR125(ペンタフルオロエタン)との質量比50:50混合物〕を用いて、前記組成物の熱安定特性を評価した。その結果を第2表に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
【表2】

【0112】
【表3】

【0113】
第2表から、以下に示すことが分かる。
本発明の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物を、冷媒としR32(ジフルオロメタン)を使用した系に用いた実施例1〜8では、いずれも熱、酸化安定性試験において、油外観が良好であり、析出物も無く、触媒の変色もないとともに、酸価が低い。また、体積低効率も高い。
これに対し、比較例1〜9は、水分量が多い基油を用いているので、酸価が高いだけでなく、油外観が黄色、淡黄色または褐色を呈し、析出物があり、触媒の変質も著しい。また、体積低効率においても低く、好ましいものではない。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物は、地球温暖化係数が低く、特に、空調機器やカーエアコンなどに使用可能な冷媒である炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素を用いる冷媒を用いる圧縮型冷凍機用として使用され、優れた熱、酸化安定性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
いずれも水分含有量が500質量ppm以下である、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコールまたはそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、及びポリオールエステル類の中から選ばれる少なくとも1種からなる含酸素有機化合物を基油として用いる、炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素を含む冷媒を用いる圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項2】
含酸素有機化合物が、下記の一般式(II)
【化1】

(式中、R4、R5及びR6はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R7は炭素数2〜10の二価の炭化水素基、R8は炭素数1〜10の炭化水素基、pはその平均値が0〜10の数を示し、R4〜R8は構成単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、またR7Oが複数ある場合には複数のR7Oは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構成単位を有するポリビニル系化合物を主成分とするものである請求項1に記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項3】
酸化防止剤及び/又は酸捕捉剤を含有する請求項1又は2に記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記炭素数1〜3の飽和フッ化炭化水素が、ジフルオロメタン(R32)である請求項1〜3のいずかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項5】
前記冷媒が、ジフルオロメタン(R32)と、ペンタフルオロエタン(R125)との混合物、又は、ジフルオロメタン(R32)と、ペンタフルオロエタン(R125)と,1,1、1,2テトラフルオロエタン(R134a)との混合物である請求項1〜4のいずかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項6】
前記冷媒がジフルオロメタン(R32)を70質量%以上含む冷媒である請求項1〜5のいずかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項7】
前記基油の100℃における動粘度が、1mm2/s以上50mm2/s以下である請求項1〜6のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項8】
前記基油の数平均分子量が、300以上3000以下である請求項1〜7のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項9】
前記基油の粘度指数が、60以上である請求項1〜8のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項10】
さらに極圧剤、油性剤、金属不活性化剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む請求項1〜9のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項11】
圧縮式冷凍機の摺動部分がエンジニアリングプラスチックからなるもの、または有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものである請求項1〜10のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項12】
前記有機コーティング膜が、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜、ポリヒドロキシエーテル樹脂とポリサルホン系樹脂とからなる樹脂基材及び架橋剤を含む樹脂塗料を用いて形成された熱硬化型絶縁膜のいずれかである請求項11に記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項13】
前記無機コーティング膜が、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜及びモリブデン膜のいずれかである請求項11に記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項14】
カーエアコン、電動カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、給湯システム、又は冷凍・暖房システムに用いられる請求項1〜13のいずれかに記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。
【請求項15】
システム内の水分含有量が300質量ppm以下で、残存空気分圧が10kPa以下である請求項14に記載の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2013−14673(P2013−14673A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147788(P2011−147788)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】