説明

圧縮性流体拡散予測装置及び方法

【課題】燃料電池電気自動車の水素供給管の噴出部位から水素が噴出したときの水素の予測された拡散状態を短時間で予測できるようにする。
【解決手段】水素噴出部位を水素供給管33の近い方から順番に第1〜第3段の計算領域R1〜R3に3分割し、R1における圧縮性流体の拡散状態の計算は、k−ω SSTモデルによる圧縮・定常計算方式で行い、R2における圧縮性流体の拡散状態の計算は、k−ω SSTモデルによる非圧縮・定常計算方式で行い、R3における圧縮性流体の拡散状態の計算は、RSMモデルによる非圧縮・非定常計算方式で行う圧縮性流体拡散予測装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮性流体が噴出部位に高圧噴出した時の該噴出部位における該圧縮性流体の拡散進行状態を予測する圧縮性流体拡散予測装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池電気自動車は、燃料としての水素を貯留する水素タンクを搭載し、水素タンク内の水素を配管を介して燃料電池へ供給して、燃料電池において発電を行っている。
【0003】
水素は、無色かつ無臭で比重が最も小さく拡散が早いといった、他の燃料にはない特性を持っており、これらの特性に配慮した設計(例:水素センサの取付位置や拡散空間の形状等)を燃料電池電気自動車について行うことが大切である。
【0004】
従来は、車両を用いた実測試験によって水素の拡散状態を水素センサ(実測試験で用いる水素センサは、単なる水素の有無を検知する水素センサではなく、水素濃度を検出する水素センサ)により実測して、拡散空間の形状や水素センサの取付位置等を検討していたため、これらのレイアウトを決定するまでに長い期間を要していた。これに対し、水素が拡散空間を拡散しながら流れる挙動を圧縮性流体拡散予測で短期間に解析できれば、設計段階から拡散空間形状等を検討することができる。
【0005】
しかし、これまで、単純な形状に対して水素拡散圧縮性流体拡散予測を行って精度検証した報告はあるが(例えば非特許文献1,2)、燃料電池電気自動車の複雑な形状に対して圧縮性流体拡散予測の精度を検証し、設計検討に適用できる手法であることを実証した例は、水素応用技術分野の研究報告を調査した限り見当たらない。
【0006】
特許文献1は、シミュレーションによる予測ではなく、石油化学工業のプラントにおいてガス漏洩が現実に発生した時に、漏出場所や気象条件を検知して、それらに基づき漏出ガスの拡散方面及び拡散範囲を所定の計算式から予測する方法を開示する。該予測方法によれば、ガス漏洩検知時点の風向風速データに基づいてガスの拡散角α及び風向の平均振れ角βを算出し、ガス検知地点から平均風向の風下側へ基準線を延ばし、該基準線を中心線にしてα+βの中心角範囲の領域と、漏洩場所を中心として各時点までのガス到達距離を半径とする円とが重なる扇形領域を各時点のガス拡散領域と推測する(特許文献1の第3図及び第4図)。
【0007】
非特許文献3は、水素拡散のシミュレーションについて仮想煙源法及び拡散空間分割法の2つの方法を開示する。仮想煙源法のシミュレーションでは、圧縮計算を要する噴出部位近傍は計算せず、円形の噴出口からの噴流に対する理論式を用いて、境界条件を設定し、残りの領域を計算している。
【0008】
拡散空間分割法のシミュレーションでは、噴出部位近傍のマッハ数0.5より大きい領域を圧縮性領域として分割して計算し、その結果を境界条件として残りの非圧縮性領域を計算する。圧縮計算を必要な領域のみに限定するため、計算時間を短縮することができる。また、拡散空間分割法は、仮想煙源法とは異なり、複雑な空間形状を再現して計算することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3025503号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ミッシェル・R・S、エリック・S・G、マチュー・N・S:容器及び管路からの漏出水素によるリスク、米国DOE水素プログラムレビュー会報、NREL/CP−570−25315(1998)[Michael, R. S., Eric, S. G., Matthew, N. S.: Risk incurred by hydrogen escaping from containers and conduits, Proceedings of 1998 U.S. DOE Hydrogen Program Review, NREL/CP-570-25315(1998)]
【非特許文献2】チョベレブ・A・V、デバール・J、チェン・Z、 コーフュ・R、ロゼック・R、リー・C:水素のCFモデリング、SAE J2578試験法開発の拡散実験、第2回水素安全国際会議(水素タンク2007)[Tchouvelev, A. V., Devaal, J., Cheng, Z. , Corfu, R. ,Rozek, R. , Lee, C.: CFD modeling of hydrogen. ,dispersion experiments for SAE J2578 test methods development, 2nd International Conference of Hydrogen Safety(2007)]
【非特許文献3】独立行政法人新エネルギー産業技術開発機構:水素の有効利用ガイドブック
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
例えば、燃料電池電気自動車では、水素供給管や弁等は、車室の後部及び下部に、複雑な面形状の壁材により車室等から仕切られた空間内に収容されており、また、その収容空間には、その他の部品も一緒に配設されており、水素漏出の場合の拡散空間は複雑な形状となる。なお、拡散空間の形状とは、該拡散空間の外面形状と共に、該拡散空間の内部に収容されている部品の表面形状から決まる内面形状も含むものとする。
【0012】
特許文献1の漏出ガス拡散予測は、現実にガス漏洩が起きてからのガス拡散予測であるとともに、周囲に障害物の存在しない野外空間での水平方向のガス拡散を予測するものであり、非特許文献1,2のシミュレーションによる拡散予測と同様に、複雑形状の拡散空間への漏出ガス拡散予測については困難である。
【0013】
非特許文献3の煙源法によるシミュレーション計算は、計算時間は短縮されるが、圧縮計算を要する噴出部位近傍の円形範囲は計算を省略するものであり、噴出部位近傍に障害物がある場合には適用が困難であることから、複雑形状の解析には適さない。
【0014】
非特許文献3の拡散空間分割法のシミュレーションは、複雑形状の噴出部位における水素の拡散状態の予測にも適用することができるが、本発明者が、非特許文献3の拡散空間分割法を用いた場合の計算所要時間を見積もったところ、現状の計算機性能では並列計算を行ったとしても、1秒分の計算に約3週間を必要とすることが判明した。また、水素拡散挙動は数秒から数十秒のオーダで解析したいため、従来の実測による検討に比べて,検討期間を短縮することができない。
【0015】
本発明の目的は、複雑形状の拡散空間における噴出圧縮性流体の拡散状態を、計算時間を大幅に短縮して予測することができる圧縮性流体拡散予測装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1発明の圧縮性流体拡散予測装置は、圧縮性流体に対しその拡散空間の形状及び該拡散空間における該圧縮性流体の噴出部位を予め設定して、圧縮性流体が該噴出部位から噴出したときの該拡散空間内における前記圧縮性流体の拡散の進行を予測する圧縮性流体拡散予測装置であって、前記拡散空間内において前記噴出部位に近い方を内側、遠い方を外側にして前記拡散空間をその内側から外側へ3つ以上の複数の計算領域に分割する分割手段と、各計算領域における前記圧縮性流体の拡散状態の計算において、最も内側の計算領域には圧縮・定常計算方式を割り当て、最も外側の計算領域には非圧縮・非定常計算方式を割り当て、中間計算領域には非圧縮・定常計算方式を割り当てる計算方式割当手段と、計算領域ごとに、それに適用する乱流モデルを選定する乱流モデル選定手段と、各計算領域における圧縮性流体の拡散状態を、各計算領域に対して前記計算方式割当手段が割り当てた計算方式と前記乱流モデル選定手段が選定した乱流モデルとに従って計算し、この計算に基づく前記圧縮性流体の噴出開始時点からの各離散時間の経過時点での各計算領域における圧縮性流体の拡散状態から、この経過時点での前記拡散空間における圧縮性流体の拡散状態を計算する時点別拡散状態計算手段と、
前記時点別拡散状態計算手段が計算した、離散時間の経過ごとの前記拡散空間における圧縮性流体の拡散状態を、各経過時点までの前記拡散空間における圧縮性流体の拡散進行状態として予測する予測手段と、を備えることを特徴とする。
【0017】
第1発明によれば、噴出部位を圧縮性流体側から遠ざかる側へ3以上の拡散空間に分割し、最も内側の計算領域と最も外側の計算領域との間に中間計算領域を挿入することにより、所定の予測精度を保証しつつ非圧縮・定常計算で済ませられる拡散空間部分を生成して、拡散空間全体の計算時間を短縮することができる。
【0018】
第2発明の圧縮性流体拡散予測装置は、前記分割手段は、前記拡散空間を、前記計算領域より細かい領域としての複数のメッシュに分割するとともに、前記複数の計算領域の境界がメッシュ間の境界になるように、前記拡散空間を前記複数の計算領域に分割し、前記時点別拡散状態計算手段は、圧縮性流体の濃度をメッシュを単位に計算して、前記拡散空間における圧縮性流体の濃度分布を前記拡散空間における圧縮性流体の拡散状態として計算するものであり、前記分割手段は、メッシュによる前記拡散空間の分割状態を前記拡散空間の各部位の圧縮性流体のマッハ数と前記拡散空間の境界面とに基づき設定し、かつ中間計算領域の個数及び境界を、前記時点別拡散状態計算手段による離散時間の経過ごとの全メッシュにおける濃度計算時間が最小になるように、設定することを特徴とする。
【0019】
拡散空間における圧縮性流体の拡散状態を、メッシュを単位とする圧縮性流体の濃度として計算する結果、メッシュによる拡散空間の分割状態は圧縮性流体の拡散状態の計算時間に影響を与える。このため、メッシュによる拡散空間の分割状態により境界を決められる中間計算領域の個数及びそれらの境界設定も、圧縮性流体の拡散状態の計算時間に影響を与える。第2発明によれば、中間計算領域の個数及び境界を適切に設定できるので、拡散空間全体のシミュレーション計算時間の短縮を図ることができる。
【0020】
第3発明の圧縮性流体拡散予測装置は、第1及び第2発明の圧縮性流体拡散予測装置において、前記拡散空間は少なくとも上方及び側方は壁面により画成された空間となっており、前記乱流モデル選定手段は、最も外側の計算領域に対しては乱流の異方性を計算可能としている乱流モデルを選定し、最も内側の計算領域に対しては噴流乱流について計算精度を確保する乱流モデルを選定することを特徴とする。
【0021】
燃料電池電気自動車では、水素タンクや配管は、上方及び側方を仕切り部材により仕切られた複雑形状の収容空間に配備されることが一般的である。
【0022】
第3発明によれば、最外側の計算領域に乱流の異方性を計算可能としている乱流モデルを選定し、最も内側の計算領域に対しては噴流乱流について計算精度を確保する乱流モデルを選定することにより、燃料電池電気自動車等の圧縮性流体噴出時の圧縮性流体の拡散状態の予測精度を高めることができる。
【0023】
第4発明の圧縮性流体拡散予測装置は、第3発明の圧縮性流体拡散予測装置において、前記予測手段が予測した予測拡散進行状態を表示する表示手段を備えることを特徴とする。
【0024】
第4発明によれば、解析者は、表示を見て、拡散空間の形状、拡散空間内の部品のレイアウト等を検討することができる。
【0025】
第5発明の圧縮性流体拡散予測装置は、第4発明の圧縮性流体拡散予測装置において、前記表示手段は、前記拡散空間の形状を含む複数の拡散条件のそれぞれに対して前記予測手段が予測した複数の予測拡散進行状態を対比可能に表示する。
【0026】
解析者は、拡散条件ごとに予測した拡散空間における圧縮性流体の拡散進行状態の予測結果を見て、それに基づき拡散空間の設計を適切にすることができる。
【0027】
第6発明の圧縮性流体拡散予測方法は、圧縮性流体に対しその拡散空間の形状及び該拡散空間における該圧縮性流体の噴出部位を予め設定して、圧縮性流体が該噴出部位から噴出したときの該拡散空間内における前記圧縮性流体の拡散の進行を予測する圧縮性流体拡散予測方法であって、コンピュータが、前記拡散空間内において前記噴出部位に近い方を内側、遠い方を外側にして前記拡散空間をその内側から外側へ3つ以上の計算領域に分割する分割ステップと、コンピュータが、各計算領域における前記圧縮性流体の拡散状態の計算において、最も内側の計算領域には圧縮・定常計算方式を割り当て、最も外側の計算領域には非圧縮・非定常計算方式を割り当て、中間計算領域には非圧縮・定常計算方式を割り当てる計算方式割当ステップと、コンピュータが、計算領域ごとに、それに適用する乱流モデルを選定する乱流モデル選定ステップと、コンピュータが、各計算領域における圧縮性流体の拡散状態を、各計算領域に対して前記計算方式割当ステップにおいて割り当てた計算方式と前記乱流モデル選定ステップにおいて選定した乱流モデルとに従って計算し、この計算に基づく前記圧縮性流体の噴出開始時点からの各離散時間の経過時点での各計算領域における圧縮性流体の拡散状態から、この経過時点での前記拡散空間における圧縮性流体の拡散状態を計算する時点別拡散状態計算ステップと、コンピュータが、前記時点別拡散状態計算ステップにおいて計算した、離散時間の経過ごとの前記拡散空間における圧縮性流体の拡散状態を、各経過時点までの前記拡散空間における圧縮性流体の拡散進行状態として予測する予測ステップと、を備えることを特徴とする。
【0028】
第6発明によれば、噴出部位を圧縮性流体側から遠ざかる側へ3以上の拡散空間に分割し、最も内側の計算領域と最も外側の計算領域との間に中間計算領域を挿入することにより、所定の予測精度を保証しつつ非圧縮・定常計算で済ませられる拡散空間部分を確保して、拡散空間全体の計算時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】水素タンクを搭載する燃料電池電気自動車の概略構成図。
【図2】水素供給管の所定部位から水素の噴出が生じたときのフロアパネルの下側空間における水素の拡散についての説明図。
【図3】3段分割計算法における拡散空間の分割説明図。
【図4】噴出口径及び噴出流量を同一にして第1段の計算領域までの噴出軸上の水素濃度を種々の乱流モデルでシミュレーション計算したときの各計算値と実験値との対比を示すグラフ。
【図5】噴出口径及び噴出流量についての3つの組合せについて第1段の計算領域までの噴出軸上の水素濃度を、乱流モデルをk−ω SSTモデルに選定してシミュレーション計算したときの各計算値と実験値とを対比するグラフ。
【図6】噴出口径及び噴出流量を同一にして第3段の計算領域における噴出軸上の水素濃度を種々の乱流モデルでシミュレーション計算したときの各計算値と実験値との対比を示すグラフ。
【図7】計算時間と計算精度との対比関係を検証するために使用した燃料電池電気自動車において選定した水素噴出部位を示す図。
【図8】検証に使用した自動車において選定した3つの水素センサの取付位置の説明図。
【図9】検証に使用した自動車における検証実験の実験結果と照合するためのシミュレーションによる3段分割計算における各段の計算結果についての水素濃度のコンター図。
【図10】水素濃度の評価ポイントにおいて実測値と比較した結果を示すグラフ。
【図11】圧縮性流体拡散予測装置を実現するハードウェア構成図。
【図12】圧縮性流体拡散予測装置のブロック図。
【図13】圧縮性流体拡散予測装置が実施する予測方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[燃料電池電気自動車における水素噴出]
図1において、燃料電池電気自動車10は、車体11の前部及び後部の下側に前輪12及び後輪13を装備している。車室16は、車体11内に形成され、下側をフロアパネル17により画成されている。
【0031】
フロアパネル17は、後端部において隆起して、車体11の後壁の下端部を画成する。水素タンク20は、フロアパネル17の隆起部分の内面側に配設される。燃料電池21は、フロアパネル17の前後方向中間部分の下側に配設され、水素タンク20からの水素により発電を行う。モータ22及びバッテリ23は共に車体11のボンネット内の空間に配設される。燃料電池21の生成電力はバッテリ23に蓄えられ、モータ22は、バッテリ23からの電力により作動し、駆動輪の前輪12を駆動する。
【0032】
水素センサ28は、水素タンク20の収容空間部分の上方に配備されて、水素タンク20の収容空間部分の水素濃度を検出する。水素センサ29は、燃料電池21の収容空間部分の上方に配備され、燃料電池21の収容空間部分の水素濃度を検出する。水素センサ30は、車室16の天井に配備され、車室16内の水素濃度を検出する。水素センサ28〜30は、各取り付け箇所における水素濃度を検出するが、燃料電池電気自動車10に配備する水素センサは、その個数及び取付箇所を適切に選定されて、燃料電池電気自動車10において経路外への水素の噴出が起きた時には、それを迅速に検出できるようになっていなくてはならない。
【0033】
図2において、水素タンク20は、軸線を燃料電池電気自動車10の左右水平方向に揃えて、フロアパネル17の下側に配設されている。水素供給管33は、水素タンク20の近傍では、水素タンク20の軸線に沿って水素タンク20から水平方向側方へ突出し、圧縮水素を燃料電池21へ導いている。図2では、水素供給管33の所定箇所に水素漏れが生じ、圧縮水素が、F1のように、噴出部位34から上方へ噴出している状態を想定している。
【0034】
フロアパネル17の下側の空間は複雑空間を想定しているとともに、タンク周り部品36〜38が、フロアパネル17の水平の上壁部と水素タンク20との上下方向範囲に、また、タンク横部品40が水素タンク20の左右水平方向の側方に存在することを想定している。
【0035】
図2において、(a)は(b)のRxの拡大図である。図2(a)において、圧縮水素は、水素供給管33の噴出部位34から上方へ噴出し、Rxの範囲において末広がりに上方へ直線的に進む。噴出直後の噴流では、水素のみとなっており、上方へ進むに連れて、周囲の空気を巻き込んで、空気との混合状態になる。Rxにおいて、水素の末広がり直進部分の外側の範囲では、空気の渦が上下方向に複数層にわたり生成される。
【0036】
図2(b)において、Rxの上の境界から出た水素は、フロアパネル17の斜面に突き当たると、方向転換して、F2に示すように、フロアパネル17の斜面に沿って上昇する。次に、水素は、フロアパネル17の上面の水平部に沿って、水素供給管33とは反対側の水素タンク20の端部の方面へ流れる。水素の圧力は徐々に大気圧へ低下する。
【0037】
水素は、フロアパネル17の水平な上壁部の水素供給管33とは反対側に端部付近で、F3に示すように、渦を生成する。その後、フロアパネル17の斜面部に沿って下降する。水素は、水素供給管33とは反対側の水素タンク20の端部近辺で十分に1気圧に接近し、その後は、F4に示すように、浮力により上昇する。
【0038】
次に説明する3段分割計算手法は、以上に説明した燃料電池電気自動車10における水素の噴出状況を踏まえて、その拡散状態進行を短時間で予測するものとして、案出され、また、十分に予測精度が得られることを検証することができた。
【0039】
[3段分割計算手法]
図3において、R1〜R3は、第1段〜第3段の計算領域に対応し、3次元空間となっている。Hは噴出水素を示している。後述するように、水素の拡散状態を計算する拡散空間はR1〜R3の3つの計算領域に分割される。噴出部位34に近い側を内側、噴出部位34から遠い側を外側と定義すると、R2はR1の外側に隣接し、R3はR2の外側に隣接する。
【0040】
R1〜R3の計算領域間の境界面について、クーラン数Cの算出式(1)に基づいて説明する。
C=(v・Δt)/Δx・・・(1)
ただし、各記号の意味は次のとおりである。
v:流体の速度
Δt:時間ステップ(time step)
Δx:メッシュサイズ
【0041】
圧縮は時間ステップ当たりの流体の移動メッシュ数を表し、過度に大きいと反復計算中の数値の発散や、時間変化の高周波成分の喪失による精度低下を引き起こす。1以上の圧縮で非定常計算が可能な陰解法を用いても、信頼性のある計算を行うためには、クーラン数Cの上限値は40程度となる。
【0042】
流速vが高く、メッシュサイズΔxが小さい噴出口近傍を含む非定常計算において、クーラン数C<40の制約を満たすためには、時間ステップΔtを小さくしなければならない。これは、圧縮性流体の噴出開始から所定時間経過した時における圧縮性流体の拡散状態を計算終了するまでの時間ステップ数を増大させて、計算時間の増大に繋がる。
【0043】
R1とR2との境界面は、該境界面より内側の圧縮性拡散空間と、該境界面より外側の非圧縮性拡散空間とを分ける境界面として定義され、例えばマッハ数=0.5を境界面とする。すなわち、この例では、R1はマッハ数≧0.5の計算領域とし、R2,R3はマッハ数<0.5の計算領域としている。水素の音速は1200m/sであるから、マッハ数=0.5は、式(1)においてv=600m/sとなる。
【0044】
なお、水素におけるマッハ数≧0.5は、クーラン数Cが40より十分に小さい領域になるように、Δt及びΔxが定義される。Δtは、R1〜R3において共通の値に定義される。Δxは、拡散空間全体にわたり1つの値を設定してもよいし、R1〜R3の各計算領域における水素の拡散状態の計算精度が許容値内になるように、拡散空間R1〜R3ごとに標準値を設定することもできる。各計算領域においても、共通の値を設定することなく、部品(パーツ)の近傍ではその他の場所より小さく設定することもできる。外側の計算領域ほど、流速は低下するので、各計算領域の計算精度を許容値内にする各計算領域の標準(デフォルト)メッシュサイズは外側の計算領域ほど大きくして、計算時間の短縮を図ることができる。ただし、Δxは、燃料電池電気自動車10の水素タンク20の収容空間のような複雑形状の噴出部位に対しては、複雑形状の再現のために、メッシュサイズをR3において最大5mm以下にする必要がある。
【0045】
R2とR3との境界面は、該境界面に対して内側のR2では、クーラン数C>40であり、外側のR3ではクーラン数C≦40となるように、設定されている。
【0046】
噴出部位における圧縮性流体の拡散状態の計算では、拡散空間に対して最初にメッシュを設定し、各メッシュのマッハ数及びクーラン数を計算して、R1とR2との境界面、及びR2とR3との境界面を設定してから、その後、各計算領域ごとの各メッシュにおける圧縮性流体の拡散状態の計算に進む。圧縮性流体の拡散状態の計算では、内側の計算領域から順番に行い、各計算領域における圧縮性流体の拡散状態の計算が終了すると、外側に隣接する拡散空間との境界における境界値を計算してから、該外側に隣接する拡散空間のメッシュにおける圧縮性流体の拡散状態の計算を、該拡散空間における計算方式で開始する。なお、同一の拡散空間においても内側のメッシュから外側のメッシュへ(又は水素の進行方向へ)順番に各メッシュにおける圧縮性流体の拡散状態を計算していく。
【0047】
R1は圧縮計算領域とし、R2,R3は非圧縮計算領域とする。R1,R2は定常計算領域とし、R3は非定常計算領域とする。換言すると、R1における圧縮性流体の拡散状態の計算は、圧縮・定常計算方式で行い、R2における圧縮性流体の拡散状態の計算は、非圧縮・定常計算方式で行い、R3における圧縮性流体の拡散状態の計算は、非圧縮・非定常計算方式で行う。計算は、例えば陰解法、SIMPLE法を用いる。圧縮性流体として水素の浮力を考慮するため、例えばナビエストークス方程式の体積項に重力式を追加したモデルを使用する。水素と空気の混合、拡散を計算するために、例えば、FICKの拡散式をベースに乱流拡散を考慮したモデルを用いる。
【0048】
なお、定常計算方式を割り当てたR1,R2における圧縮性流体の拡散状態の計算は、1回、行うと、圧縮性流体の流れが大きく変わらない限り、計算結果をそのまま使い続けると好適である。例えば、拡散空間における圧縮性流体の拡散状態を噴出開始からTe経過までシミュレーションで予測するとき、圧縮性流体の噴出は、その開始からTs(Ts<Te)までは噴出流量Q1を維持し、Ts経過以降は噴出流量0となったとすると(噴出終了)、噴出開始からTe経過までのシミュレーションにおけるR1,R2における圧縮性流体の拡散状態は同一のものを使い続ける。
【0049】
これに対し、非定常計算方式を割り当てたR3における圧縮性流体の拡散状態の計算は、時間ステップΔt経過ごとに行う。圧縮性流体の噴出開始から時間ステップΔt経過ごとに、各時間ステップ経過時点の拡散空間全体における圧縮性流体の拡散状態を計算するときには、各時間ステップ経過時点のR1〜R3における圧縮性流体の拡散状態同士を、R1〜R3の境界で結合して、拡散空間全体における圧縮性流体の拡散状態を計算する。
【0050】
流れのある場における拡散現象は、濃度差によって生ずる分子拡散よりも、乱流によって混ざり合う乱流拡散や乱流混合の影響が支配的である。乱流の計算手法には、直接数値圧縮性流体拡散予測(DNS)、 ラージ・エディ・圧縮性流体拡散予測(LES)、レイノルズ平均モデル(RANS)などがある。渦の全部又は一部を厳密計算するDNS、LESは計算負荷が高すぎるため、実用上はRANSを選択するのが妥当である。
【0051】
RANSの乱流モデルは数多く開発されているが、どのような計算対象に対しても万能なモデルは存在しない。目標とする圧縮性流体拡散予測の精度を達成するためには、分割計算の各領域に対して精度良く計算できるモデルを選定することが必要である。
【0052】
工学計算への適用実績のある5つの乱流モデルを候補とし、噴出部に発生する噴流乱流と壁面流れで発生する壁乱流の乱流モデルを選定した。候補とした乱流モデルは次の(a)〜(e)の5つである。
(a)k−ω standard、(b)k−ω SST、(c)k−ε standard、(d)k−ε realizable、(e)RSM。
【0053】
図4は、噴出口径をφ1.4mm、噴出流量を120NL/min、噴出向きを鉛直上向きにして、同一にして第1段の計算領域までの噴出軸上の水素濃度を(a)〜(e)の各乱流モデルでシミュレーション計算したときの各計算値と実験値との対比を示している。横軸は噴出軸上の噴出口からの距離(m)、縦軸は水素濃度(モル分率)を表している。k−ω SSTモデルが、5つの乱流モデルの中で最も高精度であることが判明した。
【0054】
発明者は、さらに、乱流モデルとしてk−ω SSTモデルを採用したときに、噴出条件(噴出口径及び噴出流量)が変わっても所定の精度を維持できるかを調べた。その結果が図5に示される。
【0055】
図5において、各符号の意味は次のとおりである。
G1,g1:噴出口径=φ7mm、噴出流量=212NL/minとしたときの実験値(点)と計算値(線)。
G2,g2:噴出口径=φ0.5mm、噴出流量=130NL/minとしたときの実験値(点)と計算値(線)。
G3,g3:噴出口径=φ0.1mm、噴出流量=5.1NL/minとしたときの実験値(点)と計算値(線)。
【0056】
発明者は、図5より、乱流モデルとしてk−ω SSTモデルを採用したときに、噴出条件(噴出口径及び噴出流量)が変わっても所定の精度を維持できることを確認した。
【0057】
次に、発明者は、噴出口径をφ7mm,噴出流量を212NL/minとし、水平の壁面に平行に噴出した場合について検証した。噴出軸上0.14mの位置までを、3段分割計算手法の2段目までとして計算し、3段目の計算として0.14mから1mまでの範囲については前述の(a)〜(e)の5つの乱流モデルのそれぞれについて計算した。図6はその計算結果と実測値とを比較したグラフである。
【0058】
壁乱流では、2方程式モデルはいずれも計算値の水素濃度が高くなり、十分に拡散を表現できない。一方で7方程式モデルであるRSMモデルは実測値に良く一致する。RSMモデルは乱流渦の異方性を計算可能であり、壁面付近の速度差で発生する異方性の強い縦渦の影響を表現できたためと考えられる。主に車両フロアパネルに沿う流れを計算する分割計算の3段目にはRSMモデルを採用するべきとの知見を得た。
【0059】
[検証車における検証実験]
発明者は、上記計算手法の効果を確認するため、燃料電池電気自動車10の検証車における水素タンク20の周りの車両床下空間を対象として、実験と計算を実施し、計算時間と計算精度を検証した。検証実験における噴出条件は口径φ7 mm、流量212 NL/minで代表した。噴出口を水素タンク横の配管継手部付近に設置して鉛直上方に水素を噴出させた。噴出時間は4秒とした。
【0060】
図7は検証車において水素漏出部位として設定した噴出部位34を示し、噴出部位34は、水素タンク20の圧縮水素を燃料電池21へ導く水素供給管33の、水素タンク20近傍位置に設定した。水素タンク20は、台部50に載置され、上方はフロアパネル17の後端部の隆起部分より覆われて、車室16に対して仕切られている。
【0061】
図8は、噴出部位34に対して水素タンク20の収容空間部分内の各部位の水素濃度を検出するために取り付けた3つの水素センサ1〜3(図10)の取り付け位置P1〜P3を示している。図8では、P1〜P3はフロアパネル17の上面側(外面側)を指しているが、水素センサの実際の取付位置は、水素タンク20及び水素供給管33の収納側としてのフロアパネル17の下面側(内面側)である。P1は水素タンク20の収容空間部分の最上部位、P2は該収容空間部分の前側側壁の部位、P3は該収容空間部分の後ろ側側壁の部位として、それぞれ選択したものとなっている。
【0062】
検証実験におけるソルバについて、ソルバは、Fluent6.3をソルバとして使用し、陰解法、SIMPLE法にて計算した。水素の浮力を考慮するため、ナビエストークス方程式の体積項に重力式を追加したモデルを使用し、水素と空気の混合、拡散を計算するために、FICKの拡散式をベースに乱流拡散を考慮したSpeciesモデルを用いた。
【0063】
検証実験における解析メッシュの大きさは最大5mmとした。
【0064】
本発明において、拡散空間の形状とは、メッシュを設定したメッシュ空間の形状に相当する。したがって、拡散空間の形状は、拡散空間の外面形状が同一であっても、拡散空間内の部品やその配置により別の形状になる。
【0065】
検証実験による検証結果を説明すると、3段分割計算における各段の計算結果について水素濃度のコンター図を図9に示す。図9において、(a)〜(c)はそれぞれ第1段計算領域R1〜第3段計算領域R3のコンター図である。コンピュータのディスプレイに出力、表示される実際のコンター図の画面は、水素濃度の各領域ごとに色分けされており、高濃度の水素領域ほど暖色の赤に近い色で、また、低濃度の水素領域ほど寒色の藍色に近い色で、表示される。
【0066】
図9(c)の3段目の計算結果では水素が拡散を伴い流れる挙動が可視化できた。全ての計算に要した時間は4日であり、従来の実測による検討期間に比べて短期間で計算できた。
【0067】
水素濃度の評価ポイント(取り付け位置)P1〜P3(図8)において実測値と比較した結果を図10に示す。どの評価ポイントについても計算値と実測値は良く一致した。
【0068】
以上の3段分割計算手法を実施する水素拡散予測装置60について以下に説明する。
【0069】
図11は水素拡散予測装置60のハードウェア構成図である。水素拡散予測装置60を実現するハードウェアは、周知のコンピュータの周知のハードウェアとなっている。CPU61、ROM62、RAM63、通信インタフェース通信I/F64、ハードディスク65、ディスプレイ66、キーボード67及びポインティングデバイス68はバス69を介して接続されている。水素拡散予測装置60の機能を実現するソフトウェアは、ハードディスク65にプログラムとして格納され、水素拡散予測装置60による水素の拡散状態の予測は、CPU61が該プログラムをハードディスク65から呼び出して、実行することにより実施される。
【0070】
図12は水素拡散予測装置60のブロック図である。水素拡散予測装置60は、ソフトウェアにより実現する手段として分割手段75、計算方式割当手段76、乱流モデル選定手段77、時点別拡散状態計算手段78及び予測手段79を備える。水素拡散予測装置60の作用について、図13のフローチャートを参照して説明する。なお、水素拡散予測装置60は、拡散状態の予測を行う拡散空間の形状及び噴出部位の位置を、各回のシミュレーション実行に先立ち、設定する。
【0071】
分割手段75は、フロアパネル17の隆起部分の内側空間としての水素タンク20の収容空間部分(以下、適宜、「水素拡散空間」という。)を前述の計算領域R1〜R3に分割する(STEP91。本発明の分割ステップに相当する。)。
【0072】
計算方式割当手段76は、計算領域R1〜R3における水素の拡散状態の計算において、各計算領域ごとに前述の計算方式を割り当てる(STEP92。本発明の計算方式割当ステップに相当する。)。繰り返すと、R1に対しては圧縮・定常計算方式、R2に対しては非圧縮・定常計算方式、R3に対しては非圧縮・非定常計算方式がそれぞれ割り当てられる。
【0073】
乱流モデル選定手段77は、計算領域R1〜R3における水素の拡散状態の計算に適用する乱流モデルとして、前述したものを選定する(STEP93。本発明の乱流モデル選定ステップに相当する。)。繰り返すと、R1,R2に対してはk−ω SSTモデルを選定し、R3に対してはRSMモデルを選定する。
【0074】
時点別拡散状態計算手段78は、各計算領域R1〜R3における水素の拡散状態を、各計算領域R1〜R3に対して計算方式割当手段76が割り当てた計算方式と乱流モデル選定手段77が選定した乱流モデルとに従って計算する。そして、水素の噴出開始時点からの時間ステップΔtの経過ごとの水素拡散空間における水素の拡散状態を、該経過時の水素の拡散状態として計算された各計算領域R1〜R3同士から計算する(STEP94。本発明の時点別拡散状態計算に相当する。)。
【0075】
予測手段79は、時点別拡散状態計算手段78が計算した、時間ステップΔtの経過ごとの水素の拡散状態から、各時間ステップ経過時点までの水素空間における水素の拡散進行状態を予測とする(STEP95。本発明の予測ステップに相当する。)。
【0076】
予測手段79による予測結果はディスプレイ66に表示される(STEP96。本発明の表示ステップに相当する。)。ディスプレイ66に具体的に表示される予測は、例えば、図9のコンター図や、図10のグラフである。
【0077】
なお、予測手段79による水素拡散状態の予測結果は、ハードディスク65に拡散条件(例:拡散空間の形状、噴出部位の位置及び水素の噴出圧、噴出流量等)に対応付けて記憶され、解析者は、ハードディスク65に記憶した予測結果を適宜、ディスプレイ66に表示させることができるようになっている。解析者は、また、複数の拡散条件における複数の予測結果を、同一画面に同時に、又は適宜切り替えて、対比できるようになっている。解析者は、このような対比に基づき、適切な拡散状態となる拡散条件に対応する設計を燃料電池電気自動車10に対して行う。
【0078】
本発明の圧縮性流体拡散予測装置は、燃料電池電気自動車10における水素タンク20の収容空間部分の水素噴出時の拡散状態についてのシミュレーション予測に限定されず、燃料電池電気自動車10における該収容空間部分の他の噴出部位や他の拡散空間、燃料電池電気自動車10以外の種々の拡散空間における種々の噴出部位、さらに、水素以外の圧縮性流体について、その噴出時の拡散状態についてのシミュレーション予測にも適用することができる。
【0079】
本発明の実施の形態では、噴出部位を3分割しているが、分割数は適宜、4以上とすることができる。実施の形態では、R1とR2との境界面のマッハ数を0.5とし、及びR2とR3との境界面のクーラン数を40としているが、適宜、マッハ数及びクーラン数は噴出条件等に応じて所定の範囲内で調整することができる。
【符号の説明】
【0080】
10・・・燃料電池電気自動車、17・・・フロアパネル、20・・・水素タンク、28・・・水素センサ、33・・・水素供給管、34・・・噴出部位、60・・・水素拡散予測装置、75・・・分割手段、76・・・計算方式割当手段、77・・・乱流モデル選定手段、78・・・時点別拡散状態計算手段、79・・・予測手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮性流体に対しその拡散空間の形状及び該拡散空間における該圧縮性流体の噴出部位を予め設定して、圧縮性流体が該噴出部位から噴出したときの該拡散空間内における前記圧縮性流体の拡散の進行を予測する圧縮性流体拡散予測装置であって、
前記拡散空間内において前記噴出部位に近い方を内側、遠い方を外側にして前記拡散空間をその内側から外側へ3つ以上の複数の計算領域に分割する分割手段と、
各計算領域における前記圧縮性流体の拡散状態の計算において、最も内側の計算領域には圧縮・定常計算方式を割り当て、最も外側の計算領域には非圧縮・非定常計算方式を割り当て、中間計算領域には非圧縮・定常計算方式を割り当てる計算方式割当手段と、
各計算領域における圧縮性流体の拡散状態を、各計算領域に対して前記計算方式割当手段が割り当てた計算方式と前記乱流モデル選定手段が選定した乱流モデルとに従って計算し、この計算に基づく前記圧縮性流体の噴出開始時点からの各離散時間の経過時点での各計算領域における圧縮性流体の拡散状態から、該経過時点での前記拡散空間における圧縮性流体の拡散状態を計算する時点別拡散状態計算手段と、
前記時点別拡散状態計算手段が計算した、離散時間の経過ごとの前記拡散空間における圧縮性流体の拡散状態を、各経過時点までの前記拡散空間における圧縮性流体の拡散進行状態として予測する予測手段と、
を備えることを特徴とする圧縮性流体拡散予測装置。
【請求項2】
請求項1記載の圧縮性流体拡散予測装置において、
前記分割手段は、前記拡散空間を、前記計算領域より細かい領域としての複数のメッシュに分割するとともに、前記複数の計算領域の境界がメッシュ間の境界になるように、前記拡散空間を前記複数の計算領域に分割し、
前記時点別拡散状態計算手段は、圧縮性流体の濃度をメッシュを単位に計算して、前記拡散空間における圧縮性流体の濃度分布を前記拡散空間における圧縮性流体の拡散状態として計算するものであり、
前記分割手段は、メッシュによる前記拡散空間の分割状態を前記拡散空間の各部位の圧縮性流体のマッハ数と前記拡散空間の境界面とに基づき設定し、かつ中間計算領域の個数及び境界を、前記時点別拡散状態計算手段による離散時間の経過ごとの全メッシュにおける濃度計算時間が最小になるように、設定することを特徴とする圧縮性流体拡散予測装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の圧縮性流体拡散予測装置において、
前記拡散空間は少なくとも上方及び側方は壁面により画成された空間となっており、
前記乱流モデル選定手段は、最も外側の計算領域に対しては乱流の異方性を計算可能としている乱流モデルを選定し、最も内側の計算領域に対しては噴流乱流について計算精度を確保する乱流モデルを選定することを特徴とする圧縮性流体拡散予測装置。
【請求項4】
請求項3記載の圧縮性流体拡散予測装置において、
前記予測手段が予測した予測拡散進行状態を表示する表示手段を備えることを特徴とする圧縮性流体拡散予測装置。
【請求項5】
請求項4記載の圧縮性流体拡散予測装置において、
前記表示手段は、
前記拡散空間の形状を含む複数の拡散条件のそれぞれに対して前記予測手段が予測した複数の予測拡散進行状態を対比可能に表示することを特徴とする圧縮性流体拡散予測装置。
【請求項6】
圧縮性流体に対しその拡散空間の形状及び該拡散空間における該圧縮性流体の噴出部位を予め設定して、圧縮性流体が該噴出部位から噴出したときの該拡散空間内における前記圧縮性流体の拡散の進行を予測する圧縮性流体拡散予測方法であって、
コンピュータが、前記拡散空間内において前記噴出部位に近い方を内側、遠い方を外側にして前記拡散空間をその内側から外側へ3つ以上の計算領域に分割する分割ステップと、
コンピュータが、各計算領域における前記圧縮性流体の拡散状態の計算において、最も内側の計算領域には圧縮・定常計算方式を割り当て、最も外側の計算領域には非圧縮・非定常計算方式を割り当て、中間計算領域には非圧縮・定常計算方式を割り当てる計算方式割当ステップと、
コンピュータが、計算領域ごとに、それに適用する乱流モデルを選定する乱流モデル選定ステップと、
コンピュータが、各計算領域における圧縮性流体の拡散状態を、各計算領域に対して前記計算方式割当ステップにおいて割り当てた計算方式と前記乱流モデル選定ステップにおいて選定した乱流モデルとに従って計算し、この計算に基づく前記圧縮性流体の噴出開始時点からの各離散時間の経過時点での各計算領域における圧縮性流体の拡散状態から、該経過時点での前記拡散空間における圧縮性流体の拡散状態を計算する時点別拡散状態計算ステップと、
コンピュータが、前記時点別拡散状態計算ステップにおいて計算した、離散時間の経過ごとの前記拡散空間における圧縮性流体の拡散状態を、各経過時点までの前記拡散空間における圧縮性流体の拡散進行状態として予測する予測ステップと、
を備えることを特徴とする圧縮性流体拡散予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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