説明

圧縮撚線導体とその製造方法及び絶縁電線

【課題】自動車搭載に好適な絶縁電線を提供する。
【解決手段】中心線C1 と6本の外層線C5 から成る同心撚りの撚線の外径をD0 とし、縮径加工後の圧縮撚線導体2の外径をD1 とすると、D1 / D0 の値が0.88〜0.98となるように、縮径加工を行って、外層線C5 に中心線C1 よりも十分大きく塑性加工を施して、圧縮撚線導体2を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に自動車搭載用として、その他電子機器、医療機器、産業用ロボットの配線等に用いられる絶縁電線、及び、その圧縮撚線導体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主に自動車用途に適用される電線に於て、排ガス低減や燃費向上を目的とした自動車の軽量化が強く要望されており、これに伴って、自動車に搭載される部品の軽量化が要求されている。その中でワイヤーハーネスも例外ではなく、軽量化を目的とした電線の細径化が進んできている。
従来、自動車用電線の導体には主に軟銅(同心撚り)が用いられているが、細径化するに伴い強度不足による配策時の断線などが懸念される。そこで、強度向上のために銅合金を冷間加工して加工硬化を利用した対策を行っているのが実状である。ただし、その場合、強度は向上し、前記問題は解決するものの、伸びが不足するため、自動車用途として、重要視されている特性である「耐屈曲性」に劣るという問題が指摘されている。
【0003】
これまで、物性の異なる素線を用いて撚り線を製造する技術は多く知られている。例えば、特許文献1のように、同心撚りした導体の外層線に純銅あるいは銅合金を使用し、電導性を確保しつつ、中心線には弾性係数の大きいMoまたはW等の金属線を使用して、耐屈曲性を改善する方法が知られている。
また、特許文献2のように、導体を焼鈍し、外層線の引張強さ及び延性(伸び)を調整する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−249315号公報
【特許文献2】特開平8−127830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、自動車用電線には一層の細径化及び軽量化が要求されている。特許文献1記載の導体をさらに細径化するために円形圧縮すると、その圧縮加工度によっては、外層線のみが加工を受け、導電性に優れた外層線が細径に圧縮される。外層線の断面積が減少することで、電気抵抗が増大し、導電性が劣化する。最終製品の電線としては、細径であることは実現できるが、電気特性に問題があった。また、特許文献2記載の製造プロセスには、焼鈍処理が必要となるため、圧縮導体の製造能率が下がり、製造に余分な時間とコストが費やされる問題があった。以上のように、細径にして軽量であり、強度と破断時伸びとを高水準で備えた電気性能の良い電線を製造することは至難であった。
【0006】
そこで、本発明は、耐屈曲性に優れ、かつ、強度(抗張力)も大きい軽量かつ高性能な圧縮撚線導体と絶縁電線、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、中心線の外周に、6本の外層線を同心撚りして、撚線を作製し、さらに、該撚線を縮径加工して圧縮撚線導体とする製造方法であって、上記外層線の加工硬化係数が、上記中心線の加工硬化係数より大きく、かつ、上記縮径加工は、縮径加工前の上記撚線の外径D0 と、縮径加工後の上記圧縮撚線導体の外径D1 との、比(D1 / D0 )を、0.88〜0.98とした製造方法である。
また、本発明に係る圧縮撚線導体は、請求項1記載の圧縮撚線導体の製造方法で作製されたものである。
また、本発明に係る絶縁電線は、上記圧縮撚線導体の外周に、ハロゲン元素が配合されない絶縁材料の絶縁層を被覆したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の圧縮撚線導体の製造方法によれば、上記外層線C5 の加工硬化係数が、上記中心線C1 の加工硬化係数より大きいものを用いて、さらに、縮径加工前後による外径の比を特定して圧縮撚線導体を製造しているので、外層線が優先的に加工(縮径加工)されて、加工硬化による強度(引張強さ)が向上する。一方、中心線は、外層線より縮径加工の影響を受けない(加工硬化しない)ので、縮径加工前後による伸びの低下や、導電率の低下が抑制され、その結果、強度(引張強さ)、伸びが高水準に備え、導電性の良い圧縮撚線導体が製造可能となる。
また、本発明の製造方法から得られる圧縮撚線導体は、耐屈曲性に優れるので、絶縁材料を圧縮絶縁導体線の外周に被覆して得られる絶縁電線は、自動車用途など、軽量化が望まれる製品に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】縮径加工前の撚線の拡大断面図である。
【図2】縮径加工後の圧縮撚線導体の拡大断面図である。
【図3】本発明に係る電線の実施の一形態を示す拡大断面図である。
【図4】比較例を示す電線の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図2は、本発明に係る圧縮撚線導体の実施の一形態を示す拡大断面図であり、図3は、その圧縮撚線導体に絶縁層を被覆した電線を示す。
本発明の絶縁電線4は、中心線C1 の周りに6本の外層線C5 を有する圧縮撚線導体2と、圧縮撚線導体2の外周に被覆形成された絶縁層3と、から構成される。
圧縮撚線導体2は、断面形状が略真円形の中心線C1 を、断面形状が偏円形の外層線C5 が取り囲むように密着配置された同心撚りの構成である。
【0011】
図1は、縮径加工前の撚線1の拡大断面図であり、図2は縮径加工後の圧縮撚線導体2の拡大断面図である。
撚線1は、外層線C5 の加工硬化係数が、上記中心線C1 の加工硬化係数より大きいものを用いて作製されている。
そうすることで、縮径加工(冷間加工)で、外層線C5 は加工硬化され、中心線C1 は、外層線C5 に比べ、加工硬化せず縮径加工前後で、伸びが変わらない(低下しない)ようになる。
加工硬化係数(n値)は、JIS Z 2241に定められている方法により測定する。
外層線C5 の加工硬化係数が、上記中心線C1 の加工硬化係数と同じ、または、小さいと、縮径加工(冷間加工)しても外層線C5 が十分な加工硬化をしないので、得られる圧縮撚線導体全体の抗張力の向上は望めない。
【0012】
中心線C1 としては、銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線、鉄線、鉄合金線などが挙げられるが、中でも、導電性の点で、銅線、銅合金線などが好ましい。銅線としては、純銅(純度:99.99 wt%以上Cu)からなる線が好適であり、銅合金線としては、Cu−Sn合金からなる線であり、詳しくは、Cu− 0.2wt%〜 0.4wt%Sn合金からなる線が好適である。
外層線C5 としては、中心線C1 の加工硬化係数より大きいものであれば特に限定する必要はない。
例えば、中心線C1 に純銅線(純度:99.99 wt%以上Cu、加工硬化係数n0 =0.44)、外層線C5 に銅合金線(Cu− 0.3wt%Sn、加工硬化係数n1 =0.46)の構成、中心線C1 にステンレス鋼線(加工硬化係数n0 =0.42)、外層線C5 に純銅線(純度:99.99 wt%以上Cu、加工硬化係数n1 =0.44)や銅合金線(Cu− 0.3wt%Sn、加工硬化係数n1 =0.46)の構成などが好適である。
【0013】
また、後述する表1には、上記純銅線を「純銅」、上記銅合金線の一例であるCu− 0.3wt%Snを「Cu− 0.3Sn」、上記アルミニウム線を「アルミ」、上記鉄合金の一例であるステンレス鋼線を「ステンレス鋼」、鋼線を「鋼」と表記した。
【0014】
図2に示すような圧縮撚線導体2は、図1の撚線1をダイス等で引抜加工、又は伸線加工し、中心方向に圧縮して製造される。圧縮撚線導体2の外径をD1 とし、撚線1の外径をD0 とすると、0.88≦D1 /D0 ≦0.98の範囲内で縮径加工(冷間加工)を行っている。図2の圧縮撚線導体2は、6本の外層線C5 が中心線C1 よりも大きく冷間加工されている。外層線C5 は、中心線C1 よりも大きく加工硬化して引張強さが縮径加工前より大きくなり、中心線C1 は外層線C5 よりも加工硬化していないので、縮径加工前の引張強さは、外層線C5 に比べ変化は小さい。同じく、中心線C1 の伸びに、縮径加工前後で、変化は小さい。
【0015】
次に、本発明の電線の製造方法について説明する。
まず、図1に示すように、中心線C1 の周りに6本の外層線C5 を同心撚りして撚線1を作製する。撚線1は、公知の撚線機を適用すればよい。また、撚りピッチは、層心径(最外層の中心直径、例えば、外径が1mm素線の7本撚りの撚線(中心線1本、外層線6本)であれば、層心径=1mm+0.5mm +0.5mm =2mm)の20倍〜80倍が好ましく、より好ましくは、30〜70倍である。下限値未満であると撚線1の捻れが大きくなり生産性が低下する傾向があり、上限値を越えると素線C1 ,C5 のばらけが大きくなり、屈曲性が低下する傾向となる。
撚線1を作製後、ダイス等を用いて引抜加工方法、伸線加工方法を用いて、縮径加工(冷間加工)を行い、図2に示すような圧縮撚線導体2を製造する。この際、図1の撚線1が縮径加工後に図2に示すように全体の断面形状が、略円形となるように外層線C5 を均等に加工し、圧縮撚線導体2が外径D1 となるように縮径加工する。
【0016】
縮径加工前の撚線1の外径D0 と縮径加工後の圧縮撚線導体2の外径D1 との比(D1 /D0 )の値が、0.88〜0.98の範囲となるように、使用するダイスの孔径を特定する。上述の方法によって、撚線1を縮径加工すると、外層線C5 は中心線C1 に比べ、大きく加工硬化するので、引張強さは、縮径加工前より大きくなり、伸びは、縮径加工前より小さくなる。
一方、中心線C1 は、外層線C5 に比べ、加工硬化しないので、縮径加工前後で引張強さは変化なく(外層線C5 に比べて変化量が小さい)、伸びも同様に変化はない(外層線C5 に比べて変化量が小さい)。
つまり、引張強さと伸びを高水準で維持するため、圧縮撚線導体を構成する中心線C1 と外層線C5 にそれぞれの特性(外層線C5 には引張強さ、中心線C1 には伸び)に特化して有している圧縮撚線導体2が得られる。
【0017】
また、本発明の圧縮撚線導体の製造方法では、上記した工程を経ることで、引張強さ、伸びが高水準となる圧縮撚線導体2を得ることができるので、撚線後の工程で、焼鈍工程を必要としないという生産工程上の利点があり、圧縮撚線導体2を作製後、引続いて絶縁層3を被覆する工程(図3参照)へ進むことができ、絶縁電線4を得ることができる。
この際、圧縮撚線導体2の外周面は、平滑状に形成されているため、絶縁層3の被覆厚さtが周方向にわたって均一に被覆形成され、絶縁層3による細径化の阻害は最小限に抑えることができる。なお、絶縁層3としてハロゲン元素が配合されていない材質とする。
【0018】
図4は、比較例(比較例1)を示す絶縁電線14の拡大断面図である。
縮径加工前の撚線1の外径D0 と縮径加工後の圧縮撚線導体2の外径D1 との比(D1 /D0 )の値が、0.98より大きく(0.99)設定した構成を示し、この比較例では、ダイスによる引抜加工の際に、外層線C5 ′が均等に圧縮されないため、作製される圧縮撚線導体全体の断面形状は偏円状に形成される。つまり、外層線C5 ′の中に、図4に示すように圧縮されないものが発生するので、圧縮撚線導体の引張強さが所望の特性を満足できない。また、隣接する外層線C5 ′間に隙間Yを生じ、絶縁層13が隙間Y内にも形成されるため、絶縁層13は、導体外周に均一に被覆されない。絶縁層13の被覆厚さであるt′が周方向にわたって大きく変化し、平均厚さが増大して、絶縁電線の重量が大きくなる。
【0019】
次に、縮径加工前の撚線1の外径D0 と縮径加工後の圧縮撚線導体2の外径D1 との比(D1 /D0 )の値が、0.88より小さいと、ダイスによる縮径加工の際に、縮径した圧縮撚線導体2が切断する確率が大きくなるとともに、伸びが低下するので、その結果、耐屈曲性が低下する。
【0020】
以下、本発明の実施例について説明する。
表1に示す中心線(素線)、外層線(素線)を用いて圧縮撚線導体の断面積が0.13mm2 の圧縮撚線導体を製造し、各特性評価を行った。撚線のピッチは、層心径の40倍とした。
なお、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0021】
【表1】

【0022】
上記の表1に記載の純銅(99.99 wt%以上Cu)の加工硬化係数は、0.44であり、また、Cu− 0.3wt%Sn(表1では、Cu− 0.3Snと表示)の加工硬化係数は、0.46であり、SUS304の(表1では、ステンレス鋼)の加工硬化係数は、0.42、純アルミニウム(99.99 wt%Al)(表1では、アルミ)の加工硬化係数は、0.25、鋼の加工硬化係数は、 0.2である。
【0023】
中心線、外層線に使用した線(素線)の伸びは、JIS Z 2241に規定されている方法で測定した値である。
圧縮撚線導体の破断荷重は、JIS Z 2241に規定されている方法で測定した。 耐屈曲性は、屈曲試験の試験条件を負荷荷重を 100g、屈曲Rを5mmで行った。また、破断時荷重が、60N以上で、耐屈曲性が 400以上であれば、合格とした。その結果、本発明の製造方法から得られる圧縮撚線導体2は、耐屈曲性、引張強さ(破断時荷重/断面積)に優れていることが判る。
また、撚線後に熱処理工程を施す必要がないので、引続き、絶縁層3を被覆することで、耐屈曲性、引張強さに優れた絶縁電線4が得られる。このような、絶縁電線4は、自動車用途に使用されるワイヤーハーネスに好適である。
【符号の説明】
【0024】
1 撚線
2 圧縮撚線導体
3 絶縁層
4 電線(絶縁電線)
13 絶縁層
0 縮径加工前の撚線の外径寸法
1 縮径加工後の圧縮撚線導体の外径寸法
1 中心線
5 外層線
0 中心線の加工硬化係数
1 外層線の加工硬化係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線(C1 )の外周に、6本の外層線(C5 )を同心撚りして、撚線(1)を作製し、さらに、該撚線(1)を縮径加工して圧縮撚線導体(2)とする製造方法であって、上記外層線(C5 )の加工硬化係数が、上記中心線(C1 )の加工硬化係数より大きく、かつ、上記縮径加工は、縮径加工前の上記撚線(1)の外径(D0 )と、縮径加工後の上記圧縮撚線導体(2)の外径(D1 )との、比(D1 / D0 )を、0.88〜0.98としたことを特徴とする圧縮撚線導体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の圧縮撚線導体の製造方法で作製されたことを特徴とする圧縮撚線導体。
【請求項3】
請求項2記載の圧縮撚線導体の製造方法で作製された圧縮撚線導体の外周に、ハロゲン元素が配合されていない絶縁材料の絶縁層(13)を被覆したことを特徴とする絶縁電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−238477(P2010−238477A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84217(P2009−84217)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】