説明

圧縮機および冷凍装置

【課題】R32の冷媒を圧縮する圧縮機において、起動時の潤滑不良を未然に防止すること。
【解決手段】R32単体の冷媒またはR32を主成分とする混合冷媒が充満し、且つ、底部に冷凍機油が貯留される油溜まり部(71)が設けられるケーシング(70)と、ケーシング(70)内に収容される冷媒の圧縮機構(82)と、油溜まり部(71)の冷凍機油に浸漬し、運転中に該冷凍機油を吸入して摺動部へ供給する油吸入部(66)と、油溜まり部(71)に溜まった液冷媒の密度よりも冷凍機油の密度が大きくなるように、運転開始前に、油溜まり部(71)を加熱するヒータ(111)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を圧縮する圧縮機および該圧縮機を有する冷凍装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、地球温暖化の防止のため、地球温暖化係数(GWP)の低い冷媒であるR32を用いた冷凍装置が知られており、例えば特許文献1に開示されている。この冷凍装置に設けられる圧縮機は、ケーシング内に圧縮部およびモータが収容され、圧縮部に吸入された冷媒(R32)が圧縮されてケーシング内に吐出される。ケーシング内に吐出された圧縮冷媒は吐出管から流出する。つまり、この圧縮機はケーシング内が冷媒で満たされる。また、この圧縮機は、ケーシングの底部に潤滑油(冷凍機油)が貯留されており、その潤滑油に浸漬された給油ポンプによって潤滑油が汲み上げられ圧縮部へ供給される。これにより、圧縮部が潤滑される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−295762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したようなR32を圧縮する圧縮機では、起動時に給油ポンプが冷凍機油ではなく液冷媒を吸入してしまい、その結果、潤滑不良が起きるという問題があった。上述した圧縮機では、運転中はケーシング内の温度が比較的高温であるため問題ないが、運転が停止されると、ケーシング内の温度が次第に低下しケーシング内に充満する冷媒(R32)が液化しやすくなる。液化した液冷媒は、ケーシングの底部に貯留される。そして、ケーシングの底部では、冷凍機油と液冷媒が2層分離してしまい、さらに、液冷媒の密度が冷凍機油の密度よりも大きいため液冷媒が下側に溜まる。この状態で、圧縮機を起動すると、給油ポンプが液冷媒を吸入してしまう。その結果、起動時において冷凍機油が各摺動部へ供給されなくなるので、潤滑不良を起こしてしまう。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、R32の冷媒を圧縮する圧縮機において、起動時の潤滑不良を未然に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、圧縮機を起動させる前に、ケーシング(70)の底部に溜まっている液冷媒を加温して、R32の液密度を小さくするようにしたものである。
【0007】
具体的に、第1の発明は、R32単体の冷媒またはR32を主成分とする混合冷媒が充満し、且つ、底部に冷凍機油が貯留される油溜まり部(71)が設けられるケーシング(70)と、上記ケーシング(70)内に収容される上記冷媒の圧縮機構(82)と、上記油溜まり部(71)の冷凍機油に浸漬し、運転中に該冷凍機油を吸入して上記圧縮機構(82)の摺動部へ供給するする油吸入部(66)と、上記ケーシング(70)内に充満する上記冷媒が上記油溜まり部(71)に貯留された液冷媒の密度よりも、上記油溜まり部(71)の冷凍機油の密度が大きくなるように、運転開始前に、上記油溜まり部(71)を加熱する加熱部(111,113,114)とを備えているものである。
【0008】
上記第1の発明では、ケーシング(70)内において、圧縮機構(82)に吸入される吸入冷媒または圧縮機構(82)から吐出された圧縮冷媒が充満している。運転中では、油溜まり部(71)の冷凍機油が油吸入部(66)に吸入されて摺動部へ供給される。運転が停止されると、ケーシング(70)内の温度が次第に低下し、ケーシング(70)内に充満している冷媒が液化しやすくなる。液化した液冷媒は、油溜まり部(71)に貯留される。油溜まり部(71)では、液冷媒と冷凍機油が2層分離し、さらに温度が低いと液冷媒の密度が冷凍機油の密度よりも大きくなり液冷媒が下層に溜まることとなる。この状態で、運転を開始(起動)すると、油溜まり部(71)では液冷媒が下側に溜まっているため油吸入部(66)に液冷媒が吸入されることとなる。そのため、摺動部へ冷凍機油が供給されず、潤滑不良を起こしてしまう。ところが、本発明では、運転開始前(起動前)に、油溜まり部(71)の液冷媒の密度よりも冷凍機油の密度が大きくなるように油溜まり部(71)が加熱されるため、油溜まり部(71)において冷凍機油の層と液冷媒の層とが逆転し、冷凍機油が下層に溜まることとなる。これによって、運転開始時(起動時)には油吸入部(66)に冷凍機油が吸入される。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、R32単体の冷媒またはR32を主成分とする混合冷媒が充満し、且つ、底部に冷凍機油が貯留される油溜まり部(71)が設けられるケーシング(70)と、上記ケーシング(70)内に収容される上記冷媒の圧縮機構(82)と、上記油溜まり部(71)の冷凍機油に浸漬し、運転中に該冷凍機油を吸入して上記圧縮機構(82)の摺動部へ供給するする油吸入部(66)と、運転開始前に、上記油溜まり部(71)を加熱する加熱部(111,113,114)とを備えているものである。
【0010】
上記第2の発明では、ケーシング(70)内において、圧縮機構(82)に吸入される吸入冷媒または圧縮機構(82)から吐出された圧縮冷媒が充満している。運転中では、油溜まり部(71)の冷凍機油が油吸入部(66)に吸入されて摺動部へ供給される。運転が停止されると、ケーシング(70)内の温度が次第に低下し、ケーシング(70)内に充満している冷媒が液化しやすくなる。液化した液冷媒は、油溜まり部(71)に貯留される。油溜まり部(71)では、液冷媒と冷凍機油が2層分離し、さらに温度が低いと液冷媒の密度が冷凍機油の密度よりも大きくなり液冷媒が下層に溜まることとなる。この状態で、運転を開始(起動)すると、油溜まり部(71)では液冷媒が下側に溜まっているため油吸入部(66)に液冷媒が吸入されることとなる。そのため、摺動部へ冷凍機油が供給されず、潤滑不良を起こしてしまう。ところが、本発明では、運転開始前(起動前)に、油溜まり部(71)が加熱されるため、液冷媒の温度が上昇する。これにより、液冷媒の密度が小さくなって冷凍機油の密度よりも小さくなる。そのため、油溜まり部(71)において冷凍機油の層と液冷媒の層とが逆転し、冷凍機油が下層に溜まることとなる。これによって、運転開始時(起動時)には油吸入部(66)に冷凍機油が吸入される。
【0011】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記冷凍機油の主成分が、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよびポリビニルエーテルの少なくとも1つである。
【0012】
上記第3の発明では、冷凍機油として、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよびポリビニルエーテルの少なくとも1つを主成分とするものが用いられる。図5に示すように、これらの冷凍機油の密度は温度が上昇してもそれほど小さくならない。つまり、これらの冷凍機油の密度は温度によって殆ど変化しない。そのため、油溜まり部(71)が加熱されると、液冷媒の密度が冷凍機油の密度よりも小さくなりやすい。
【0013】
第4の発明は、上記第1乃至第3の何れか1の発明において、上記加熱部は、上記ケーシング(70)の胴部(70a)における上記油溜まり部(71)に相当する部分の外周面に設けられるヒータ(111)である。
【0014】
上記第4の発明では、ヒータ(111)に通電することにより、ケーシング(70)の胴部(70a)を介して油溜まり部(71)が加熱される。
【0015】
第5の発明は、上記第4の発明において、上記ヒータ(111)を覆うように、上記ケーシング(70)における上記油溜まり部(71)に相当する部分の外周面に設けられる断熱部材(112)を備えている。
【0016】
上記第5の発明では、ヒータ(111)の外側(即ち、ヒータ(111)におけるケーシング(70)との取付面以外の外面)が断熱部材(112)によって覆われているため、ヒータ(111)の熱が逃げにくい。そのため、ヒータ(111)の熱が効果的にケーシング(70)を介して油溜まり部(71)に付与される。
【0017】
第6の発明は、第1乃至第5の何れか1の発明の圧縮機(30)を有し、R32単体の冷媒またはR32を主成分とする混合冷媒が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)を備えている冷凍装置である。
【0018】
上記第6の発明では、起動時において圧縮機(30)が潤滑不良を起こさない冷凍装置が提供される。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、運転開始前(起動前)に、油溜まり部(71)に溜まった液冷媒の密度よりも冷凍機油の密度が大きくなるように、油溜まり部(71)を加熱する加熱部(111,113,114)を備えるようにした。そのため、油溜まり部(71)において液冷媒を上層に冷凍機油を下層に位置させることができる。これにより、運転開始時には確実に油吸入部(66)に冷凍機油を吸入させることができる。したがって、圧縮機(30)の運転開始時(起動時)において各摺動部の潤滑不良を未然に防止することができる。よって、圧縮機(30)の信頼性を損ねることなく、地球温暖化防止に寄与することができる。
【0020】
また、第3の発明では、冷凍機油としてポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよびポリビニルエーテルのうち少なくとも1つを主成分とするものを用いるようにした。これら冷凍機油は、温度が変化しても殆ど密度が変化しないため、冷凍機油が加熱部(111,113,114)によって加熱されても、冷凍機油の密度は殆ど低下しない。そのため、短時間で液冷媒の密度が冷凍機油の密度よりも小さい状態にすることができる。よって、加熱部(111,113,114)による加熱時間を短縮することができる。
【0021】
また、第4の発明によれば、ケーシング(70)における胴部(70a)にヒータ(111)を設けるため、胴部(70a)の下側に固定される鏡板に設ける場合に比べて、ヒータ(111)の取付が容易である。さらに、胴部(70a)における油溜まり部(71)に相当する部分にヒータ(111)を取り付けるようにしたため、効果的に油溜まり部(71)を加熱することができる。
【0022】
また、第5の発明によれば、ヒータ(111)を覆うように、ケーシング(70)における油溜まり部(71)に相当する部分の外周面に断熱部材(112)を設けるようにした。そのため、ヒータ(111)の熱が逃げにくくなり、ヒータ(111)の熱を効果的にケーシング(70)を介して油溜まり部(71)に付与することができる。よって、油溜まり部(71)に対する加熱効率が向上し、加熱時間を短縮することができる。
【0023】
また、第6の発明によれば、信頼性を損ねることなく、地球温暖化防止に寄与することができる冷凍装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施形態1に係る冷凍装置の構成を示す配管系統図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る圧縮機の構成を示す縦断面図である。
【図3】図3は、実施形態1に係る圧縮機の圧縮機構を示す横断面図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る圧縮機の要部を示す縦断面図である。
【図5】図5は、R32および冷凍機油について密度と温度の関係を示すグラフである。
【図6】図6は、実施形態2に係る圧縮機の要部を示す縦断面図である。
【図7】図7は、実施形態3に係る圧縮機の要部を示す縦断面図である。
【図8】図8は、実施形態4に係る圧縮機の要部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0026】
《実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。本実施形態は、本発明に係る冷凍装置によって構成された空気調和装置(20)であり、本発明に係る圧縮機(30)が設けられている。この空気調和装置(20)は、図1に示すように、室外機(22)と3台の室内機(23a,23b,23c)とを備えている。なお、室内機(23)の台数は単なる例示である。
【0027】
空気調和装置(20)は、冷媒が充填されて冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)を備えている。冷媒回路(10)は、室外機(22)に収容される室外回路(9)と、各室内機(23a,23b,23c)に収容される室内回路(17a,17b,17c)とを備えている。これらの室内回路(17a,17b,17c)は、液側連絡配管(18)およびガス側連絡配管(19)を介して室外回路(9)に接続されている。これらの室内回路(17a,17b,17c)は、互いに並列に接続されている。請求項1乃至5の何れか1項の圧縮機(30)を有し、R32単体の冷媒またはR32を主成分とする混合冷媒が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)
本実施形態の冷媒回路(10)では、冷媒としてR32単体またはR32を主成分とする混合冷媒が充填されている。R32は、他のR22やR410A等に比べて地球温暖化係数(GWP)が低い冷媒である。また、R32は、R22やR410A等に比べて比重が小さい。
【0028】
室外回路(9)には、圧縮機(30)、室外熱交換器(11)、室外膨張弁(12)および四路切換弁(13)が設けられている。圧縮機(30)は、ケーシング(70)内に圧縮機構(82)と電動機(85)が収容された全密閉型のものである。圧縮機(30)の詳細な構造については後述する。圧縮機(30)の電動機(85)には、インバータを介して電力が供給される。圧縮機(30)の運転容量は、電動機(85)の回転速度を変更することによって変化する。圧縮機(30)は、吐出側が四路切換弁(13)の第2ポート(P2)に接続され、吸入側が四路切換弁(13)の第1ポート(P1)に接続されている。室外熱交換器(11)は、クロスフィン型のフィン・アンド・チューブ熱交換器である。室外熱交換器(11)の近傍には、室外ファン(14)が設けられている。室外熱交換器(11)では、室外空気と冷媒との間で熱交換が行われる。室外熱交換器(11)は、一端が四路切換弁(13)の第3ポート(P3)に接続され、他端が室外膨張弁(12)に接続されている。また、四路切換弁(13)の第4ポート(P4)は、ガス側連絡配管(19)に接続されている。室外膨張弁(12)は、室外熱交換器(11)と室外回路(9)の液側端との間に設けられている。室外膨張弁(12)は、開度可変の電子膨張弁である。四路切換弁(13)は、第1ポート(P1)と第4ポート(P4)とが連通し且つ第2ポート(P2)と第3ポート(P3)とが連通する第1状態(図1に実線で示す状態)と、第1ポート(P1)と第3ポート(P3)とが連通し且つ第2ポート(P2)と第4ポート(P4)とが連通する第2状態(図1に破線で示す状態)とが切り換え可能に構成されている。
【0029】
各室内回路(17a,17b,17c)には、そのガス側端から液側端へ向かって順に、室内熱交換器(15a,15b,15c)と、室内膨張弁(16a,16b,16c)とが設けられている。室内熱交換器(15a,15b,15c)は、クロスフィン型のフィン・アンド・チューブ熱交換器である。室内熱交換器(15a,15b,15c)の近傍には、室内ファン(21a,21b,21c)が設けられている。各室内熱交換器(15a,15b,15c)では、室内空気と冷媒との間で熱交換が行われる。また、各室内膨張弁(16a,16b,16c)は、開度可変の電子膨張弁である。
【0030】
〈圧縮機の構成〉
圧縮機(30)は、全密閉の高圧ドーム型のスクロール圧縮機である。ここでは、圧縮機(30)の構成について、図2および図3を参照しながら説明する。
【0031】
圧縮機(30)は、いわゆる縦型の密閉容器であるケーシング(70)を備えている。ケーシング(70)は、上下方向に延びる円筒状の胴部(70a)と、その胴部(70a)の上下端を閉塞する上側鏡板(70b)および下側鏡板(70c)とを備えている。上側鏡板(70b)は上方に膨出する椀状に形成され、下側鏡板(70c)は下方に膨出する椀状に形成されている。胴部(70a)は、その上下端部が上側鏡板(70b)および下側鏡板(70c)に内嵌して溶接固定されている。ケーシング(70)の内部には、下から上へ向かって順に、下側軸受部材(86)、電動機(85)および圧縮機構(82)が配置されている。
【0032】
電動機(85)は、ステータ(83)とロータ(84)を備えている。ステータ(83)は、ケーシング(70)の胴部(70a)に固定されている。一方、ロータ(84)は、ステータ(83)の内側に配置されている。また、ロータ(84)には、圧縮機構(82)のクランク軸(60)が連結されている。クランク軸(60)は、ロータ(84)と同軸になる状態で、ロータ(84)に挿通されている。
【0033】
圧縮機構(82)は、可動スクロール(76)と、固定スクロール(75)と、クランク軸(60)と、ハウジング(77)とを備えている。
【0034】
クランク軸(60)は、主軸部(61)と偏心部(65)とによって構成されている。主軸部(61)は、互いに同軸上に配置された中間部(62)と大径部(63)と小径部(64)とによって構成されている。大径部(63)は、中間部(62)の上端に連続して形成され、外径が中間部(62)の外径よりも大きくなっている。小径部(64)は、中間部(62)の下端に連続して形成され、外径が中間部(62)の外径よりも小さくなっている。偏心部(65)は、主軸部(61)の大径部(63)の上端に連続して形成された円柱状の部分である。偏心部(65)の軸心は、主軸部(61)の軸心に対して偏心している。
【0035】
可動スクロール(76)は、略円板状の可動側鏡板(76b)と、渦巻き状の可動側ラップ(76a)とを備えている。可動側ラップ(76a)は可動側鏡板(76b)の前面(上面)に立設されている。また、可動側鏡板(76b)の背面(下面)には、円筒状の筒状突部(76c)が立設されている。可動スクロール(76)の筒状突部(76c)には、円筒状の上部軸受(41)が内嵌されている。この上部軸受(41)には、クランク軸(60)の偏心部(65)が挿入されている。上部軸受(41)の内周面は、偏心部(65)の外周面と摺接する。筒状突部(76c)と上部軸受(41)は、クランク軸(60)の偏心部(65)を支持する上部ジャーナル軸受部(31)を構成している。可動スクロール(76)は、オルダム継手(79)を介して、可動スクロール(76)の下側に配置されたハウジング(77)に支持されている。
【0036】
一方、固定スクロール(75)は、略円板状の固定側鏡板(75b)と、渦巻き状の固定側ラップ(75a)とを備えている。固定側ラップ(75a)は固定側鏡板(75b)の前面(下面)に立設されている。
【0037】
圧縮機構(82)では、固定側ラップ(75a)と可動側ラップ(76a)とが互いに噛み合うことによって、両ラップ(75a,76a)の接触部の間に複数の圧縮室(73a,73b)が形成されている。具体的に、圧縮機構(82)では、固定側ラップ(75a)の内周面と可動側ラップ(76a)の外周面との間に構成される第1圧縮室(73a)と、固定側ラップ(75a)の外周面と可動側ラップ(76a)の内周面との間に構成される第2圧縮室(73b)とが形成される。なお、本実施形態の圧縮機構(82)では、いわゆる非対称渦巻き構造が採用されている(図3を参照)。つまり、この圧縮機構(82)では、固定側ラップ(75a)と可動側ラップ(76a)とで巻き数(渦巻きの長さ)が相違している。
【0038】
圧縮機構(82)では、固定スクロール(75)の外縁部に吸入ポート(98)が形成されている。吸入ポート(98)には、ケーシング(70)の上側鏡板(70b)を貫通する吸入管(57)が接続されている。吸入ポート(98)は、可動スクロール(76)の公転運動に伴って、第1圧縮室(73a)と第2圧縮室(73b)のそれぞれに間欠的に連通する。また、圧縮機構(82)では、固定側鏡板(75b)の中央部に吐出ポート(93)が形成されている。吐出ポート(93)は、可動スクロール(76)の公転運動に伴って、第1圧縮室(73a)と第2圧縮室(73b)のそれぞれに間欠的に連通する。吐出ポート(93)は、固定スクロール(75)の上側に形成されたマフラー空間(96)に開口している。
【0039】
ハウジング(77)は、本体部(77a)と膨出部(77b)とで構成されている。本体部(77a)は、肉厚の円板状に形成され、その外周面がケーシング(70)の胴部(70a)の内周面と密着している。また、本体部(77a)は、その上面の中央部が窪んでおり、その窪みに可動スクロール(76)の筒状突部(76c)が挿入される。そして、本体部(77a)の上面のうち可動スクロール(76)の可動側鏡板(76b)の背面が摺接する部位がスラスト軸受(44)を構成している。膨出部(77b)は、本体部(77a)の下面の中央部に形成され、本体部(77a)の下面から下方へ向かって膨出している。膨出部(77b)には、膨出部(77b)を上下に貫通する貫通孔(77c)が形成されている。
【0040】
ハウジング(77)の貫通孔(77c)には、円筒状の中間軸受(42)が内嵌されている。この中間軸受(42)には、クランク軸(60)の大径部(63)が挿通されている。中間軸受(42)の内周面は、大径部(63)の外周面と摺接する。ハウジング(77)の膨出部(77b)と中間軸受(42)とは、クランク軸(60)の大径部(63)を支持する中間ジャーナル軸受部(32)を構成している。
【0041】
ケーシング(70)の内部空間は、ハウジング(77)によって上下に仕切られている。ケーシング(70)の内部空間では、ハウジング(77)の上側が吸入空間(101)となり、ハウジング(77)の下側が吐出空間(100)となっている。吸入空間(101)は、図示しない連通ポートを通じて、吸入ポート(98)に連通している。吐出空間(100)は、固定スクロール(75)とハウジング(77)とに亘って形成された連絡通路(103)を通じて、マフラー空間(96)に連通している。運転中の吐出空間(100)は、吐出ポート(93)から吐出された冷媒がマフラー空間(96)を通じて流入するので、圧縮機構(82)で圧縮された冷媒で満たされる高圧空間となる。吐出空間(100)には、ケーシング(70)の胴部(70a)を貫通する吐出管(56)が開口している。
【0042】
下側軸受部材(86)は、円筒部(87)とアーム部(88)とによって構成されている。円筒部(87)は、両端が開口した厚肉の円筒状に形成されている。下側軸受部材(86)には、3つのアーム部(88)が放射状に設けられている。各アーム部(88)は、円筒部(87)の外周面から外側へ向かって伸び、その突端面がケーシング(70)の胴部(70a)の内周面に密着している。円筒部(87)には、円筒状の下部軸受(43)が内嵌されている。この下部軸受(43)には、クランク軸(60)の小径部(64)が挿通されている。下部軸受(43)の内周面は、小径部(64)の外周面と摺接する。下側軸受部材(86)の円筒部(87)と下部軸受(43)とは、クランク軸(60)の小径部(64)を支持する下部ジャーナル軸受部(33)を構成している。
【0043】
また、ケーシング(70)内の底部には、冷凍機油が貯留される油溜まり部(71)が形成されている。また、クランク軸(60)の端部には筒状の油吸入部(66)が取り付けられている。油吸入部(66)は、油溜まり部(71)の冷凍機油に浸漬されている。クランク軸(60)の内部には、油吸入部(66)を介して油溜まり部(71)に連通する第1給油通路(104)が形成されている。可動スクロール(76)の可動側鏡板(76b)には、第1給油通路(104)に接続する第2給油通路(105)が形成されている。油吸入部(66)は、圧縮機(30)の運転中に、油溜まり部(71)の冷凍機油を吸入して第1給油通路(104)および第2給油通路(105)へ導き、各ジャーナル軸受部(31,32,33)やスラスト軸受(44)、圧縮機構(82)等の摺動部へ供給するように構成されている。
【0044】
本実施形態で用いる冷凍機油は、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよびポリビニルエーテルの少なくとも1つを主成分とするものである。また、本実施形態で用いる冷凍機油は、動粘度が40℃において30cSt以上400cSt以下で、密度が15℃において0.9g/cm3以上で、流動点が−30℃以下である。
【0045】
〈冷凍機油〉
本実施形態で用いる冷凍機油は、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル、ポリビニルエーテルおよびポリアルファオレフィンの基油のうち少なくとも1つを主成分とするものである。これらを主成分とする冷凍機油は、R32の冷媒との相溶性がよい。また、本実施形態で用いる冷凍機油は、動粘度が40℃において30cSt以上400cSt以下で、流動点が−30℃以下で、密度が15℃において0.9g/cm以上となっている。流動点の値は、「JIS K 2269」に規定された試験方法によって得られる。
【0046】
本実施形態では、冷凍機油の主成分となるポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよびポリビニルエーテルがR32に対して相溶性を有している。そして、冷凍機油の動粘度が40℃において400cSt以下であるため、R32の冷媒が冷凍機油にある程度溶解する。また、冷凍機油の流動点が−30℃以下であるため、冷媒回路(10)において低温部位でも冷凍機油の流動性が確保される。したがって、圧縮機(30)から吐出された冷凍機油は、R32に溶解してR32と共に圧縮機(30)に戻ってくる。そのため、圧縮機(30)における冷凍機油の貯留量を充分に確保することができる。また、冷凍機油の動粘度が40℃において30cSt以上であるため、動粘度が低すぎて油膜強度が不十分になることはなく、潤滑性能が確保される。
【0047】
また、本実施形態で用いる冷凍機油には、添加剤として、酸捕捉剤、極圧添加剤、酸化防止剤、消泡剤、油性剤および銅不活性化剤のうち少なくとも1つが添加されている。個々の添加剤の配合量は、冷凍機油に含まれる割合が0.01質量%以上5質量%以下になるように設定されている。
【0048】
〈ヒータ〉
本実施形態では、本発明の特徴として、圧縮機(30)のケーシング(70)にヒータ(111)と断熱部材(112)が設けられている。図4に示すように、ヒータ(111)は、帯状に形成され、ケーシング(70)の胴部(70a)の外周に巻き付けられている。具体的に、ヒータ(111)は、ケーシング(70)の胴部(70a)における油溜まり部(71)に相当する部分の外周面に周方向に亘って設けられている。さらに言えば、ヒータ(111)は、胴部(70a)と下側鏡板(70c)との段差部に沿って胴部(70a)に取り付けられている。また、ヒータ(111)は、運転停止後に液冷媒が冷凍機油の上層に溜まっている状態でその液冷媒の層に対応する位置に取り付けられている。ヒータ(111)は、油溜まり部(71)に溜まった液冷媒の密度よりも冷凍機油の密度が大きくなるように油溜まり部(71)を加熱するための加熱部を構成している。つまり、ヒータ(111)はケーシング(70)を介して冷凍機油および液冷媒の少なくとも一方を加熱する。一方、断熱部材(112)は、ヒータ(111)を覆うように、ケーシング(70)における油溜まり部(71)に相当する部分の外周面に設けられている。断熱部材(112)は、ケーシング(70)の胴部(72)と下側鏡板(70c)とに跨って、その周方向に亘って巻き付けられている。
【0049】
また、本実施形態の圧縮機(10)には、電動機(85)およびヒータ(111)を駆動制御する制御部(120)が設けられている。制御部(120)は、電動機(85)を駆動する前に(即ち、圧縮機(30)の運転開始前に)ヒータ(111)を駆動するように構成されている。
【0050】
−運転動作−
上記空気調和装置(20)の運転動作について説明する。この空気調和装置(20)は、冷房運転と暖房運転とが実行可能になっており、四路切換弁(13)によって冷房運転と暖房運転との切り換えが行われる。
【0051】
〈冷房運転〉
冷房運転時には、四路切換弁(13)が第1状態に設定される。この状態で、圧縮機(30)の運転が行われると、圧縮機(30)において吸入管(57)から圧縮機構(82)に吸入された冷媒が圧縮されてケーシング(70)内に吐出される。つまり、ケーシング(70)内に圧縮冷媒(高圧冷媒)が充満する。ケーシング(70)内の高圧冷媒は、吐出管(56)から流出し、室外熱交換器(11)において室外空気へ放熱して凝縮する。室外熱交換器(11)で凝縮した冷媒は、各室内回路(17a,17b,17c)へ分配される。各室内回路(17a,17b,17c)では、流入した冷媒が、室内膨張弁(16a,16b,16c)で減圧された後に、室内熱交換器(15a,15b,15c)において室内空気から吸熱して蒸発する。一方、室内空気は冷却されて室内へ供給される。
【0052】
各室内回路(17a,17b,17c)で蒸発した冷媒は、他の室内回路(17a,17b,17c)で蒸発した冷媒と合流して、室外回路(9)へ戻ってくる。室外回路(9)では、各室内回路(17a,17b,17c)から戻ってきた冷媒が、圧縮機(30)で再び圧縮されて吐出される。なお、冷房運転中は、各室内膨張弁(16a,16b,16c)の開度が、室内熱交換器(15a,15b,15c)の出口における冷媒の過熱度が一定値(例えば5℃)になるように過熱度制御される。
【0053】
〈暖房運転〉
暖房運転時には、四路切換弁(13)が第2状態に設定される。この状態で、圧縮機(30)の運転が行われると、圧縮機(30)において吸入管(57)から圧縮機構(82)に吸入された冷媒が圧縮されてケーシング(70)内に吐出される。つまり、ケーシング(70)内に圧縮冷媒(高圧冷媒)が充満する。ケーシング(70)内の高圧冷媒は、吐出管(56)から流出し、各室内回路(17a,17b,17c)へ分配される。各室内回路(17a,17b,17c)では、流入した冷媒が室内熱交換器(15a,15b,15c)において室内空気へ放熱して凝縮する。一方、室内空気は加熱されて室内へ供給される。室内熱交換器(15a,15b,15c)で凝縮した冷媒は、他の室内回路(17a,17b,17c)を通過した冷媒と合流し、室外回路(9)へ戻ってくる。
【0054】
室外回路(9)では、各室内回路(17a,17b,17c)から戻ってきた冷媒が、室外膨張弁(12)で減圧された後に、室外熱交換器(11)において室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(11)で蒸発した冷媒は、圧縮機(30)で再び圧縮されて吐出される。なお、暖房運転中は、各室内膨張弁(16a,16b,16c)の開度が、室内熱交換器(15a,15b,15c)の出口における冷媒の過冷却度が一定値(例えば5℃)になるようにサブクール制御される。
【0055】
また、上述した何れの運転時においても、ケーシング(70)内は高圧冷媒で満たされるため高圧状態となり、油溜まり部(71)の冷凍機油も高圧状態となる。この高圧と冷凍機油の供給先である摺動部の圧力との差圧によって、油溜まり部(71)の冷凍機油が油吸入部(66)に吸入され、各給油通路(104,105)を通って各摺動部へ供給される。これにより、運転時において各摺動部が潤滑される。
【0056】
〈ヒータの制御動作〉
上述した冷暖房運転中では、ケーシング(70)内が高圧冷媒で満たされるため高温状態となる。一方、空気調和装置(20)の運転が停止されると、即ち圧縮機(30)の運転が停止されると、圧縮機(30)のケーシング(70)内の温度は次第に低下する。この温度低下により、ケーシング(70)内の冷媒が液冷媒となり油溜まり部(71)に溜まる(貯留される)。この状態を冷媒の寝込み状態ともいう。そして、油溜まり部(71)では、液冷媒と冷凍機油とが2層分離し、さらに温度が低いと液冷媒の密度が冷凍機油の密度よりも大きくなり液冷媒が下層に溜まる。図5に示すように、R32の液密度(液冷媒の密度)は、温度が低いほど大きくなり、温度が高いほど小さくなる。そして、温度が15℃以下では、R32の液密度がポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテルおよびポリアルファオレフィンのそれぞれを主成分とする冷凍機油の密度よりも大きい。この状態で、圧縮機(30)の運転を開始すると、即ち圧縮機(30)を起動させると、油溜まり部(71)では液冷媒が下側に溜まっているため油吸入部(66)に液冷媒が吸入されることとなる。そのため、摺動部へ冷凍機油が供給されず、潤滑不良を起こしてしまう。
【0057】
そこで、本実施形態では、圧縮機(30)の運転開始前(起動前)に、制御部(120)によってヒータ(111)が駆動する。ヒータ(111)が駆動すると、ケーシング(70)を介して油溜まり部(71)の液冷媒および冷凍機油が加熱される。これにより、液冷媒の密度(R32の液密度)が小さくなり、冷凍機油の密度よりも小さくなる。図5に示すように、温度が15℃以上でR32の液密度と冷凍機油の密度とが逆転し、R32の液密度の方が小さくなる。つまり、本実施形態では、油溜まり部(71)において液冷媒の密度よりも冷凍機油の密度が大きくなるまで、ヒータ(111)によって油溜まり部(71)(即ち、液冷媒および冷凍機油)が加熱される。これにより、油溜まり部(71)において冷凍機油の層と液冷媒の層とが逆転し、冷凍機油が下層に溜まることとなる(図4の状態)。これによって、運転開始時(起動時)には油吸入部(66)に冷凍機油が吸入される。
【0058】
−実施形態の効果−
本実施形態では、ケーシング(70)内に充満する冷媒(R32単体の冷媒またはR32を主成分とする混合冷媒)が液化して油溜まり部(71)に溜まった液冷媒の密度よりも冷凍機油の密度が大きくなるように、圧縮機(30)の運転開始前(起動前)に油溜まり部(71)を加熱するようにした。そのため、油溜まり部(71)において液冷媒を上層に冷凍機油を下層に位置させることができる。これにより、圧縮機(30)の運転開始時には確実に油吸入部(66)に冷凍機油を吸入させることができる。したがって、圧縮機(30)の運転開始時(起動時)において各摺動部の潤滑不良を未然に防止することができる。よって、圧縮機(30)引いては空気調和装置(20)の信頼性を損ねることなく、地球温暖化防止に寄与することができる。
【0059】
また、本実施形態で用いる冷凍機油は、図5に示すように、温度が変化しても殆ど密度が変化しない。したがって、冷凍機油がヒータ(111)によって加熱されても、冷凍機油の密度は殆ど低下しない。そのため、短時間で液冷媒の密度が冷凍機油の密度よりも小さい状態にすることができる。よって、ヒータ(111)の加熱時間を短縮することができる。
【0060】
また、ケーシング(70)における胴部(70a)にヒータ(111)を設けるため、下側鏡板(70c)に設ける場合に比べて、ヒータ(111)の取付が容易である。さらに、胴部(70a)における油溜まり部(71)に相当する部分にヒータ(111)を取り付けるようにしたため、効果的に油溜まり部(71)を加熱することができる。
【0061】
また、ヒータ(111)を覆うように、ケーシング(70)における油溜まり部(71)に相当する部分の外周面に断熱部材(112)を設けるようにした。これにより、ヒータ(111)の熱が逃げにくくなり、ヒータ(111)の熱を効果的にケーシング(70)を介して油溜まり部(71)に付与することができる。よって、油溜まり部(71)に対する加熱効率が向上し、加熱時間を短縮することができる。
【0062】
なお、本実施形態において、断熱部材(112)を省略するようにしても、同様の効果を得ることができる。
【0063】
《実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。本実施形態は、上記実施形態1の圧縮機(30)においてヒータの取付位置を変更したものである。
【0064】
図6に示すように、本実施形態のヒータ(113)は、下側鏡板(70c)の下面中央に設けられている。この場合も、上記実施形態1と同様、圧縮機(30)の運転開始前(起動前)に、制御部(120)によってヒータ(113)が駆動する。そして、油溜まり部(71)において液冷媒の密度よりも冷凍機油の密度が大きくなるまで、ケーシング(70)を介して油溜まり部(71)(即ち、液冷媒および冷凍機油)が加熱される。これにより、油溜まり部(71)において冷凍機油の層と液冷媒の層とが逆転し、冷凍機油が下層に溜まる。
【0065】
《実施形態3》
本発明の実施形態3について説明する。本実施形態は、上記実施形態1の圧縮機(30)においてヒータの取付位置を変更したものである。
【0066】
図7に示すように、本実施形態のヒータ(114)は、ケーシング(70)内の油溜まり部(71)に直接設けられている。具体的に、ヒータ(114)は液冷媒の層と冷凍機油の層との境界付近に設けられる。つまり、本実施形態では、油溜まり部(71)の液冷媒および冷凍機油がヒータ(114)によって直接加熱される。そのため、液冷媒に対する加熱効率が上がる。また、液冷媒の層と冷凍機油の層との境界付近にヒータ(114)を設けているため、液冷媒の層と冷凍機油の層とが逆転する過渡状態においても、液冷媒に対して熱を付与することができる。これにより、確実に液冷媒を密度を小さくすることができ、液冷媒を上層に冷凍機油を下層に位置させることができる。
【0067】
《実施形態4》
本発明の実施形態4について説明する。本実施形態は、上記実施形態1の圧縮機(30)において油溜まり部(71)に熱伝導部材(115)を設けるようにしたものである。
【0068】
図8に示すように、熱伝導部材(115)は、湾曲した板部材である。熱伝導部材(115)は、銅やアルミニウム等の熱伝導率の高い材質で形成されている。熱伝導部材(115)は、油溜まり部(71)の液冷媒や冷凍機油に浸漬され、一端がケーシング(70)の胴部(72)の内面に固定されている。より具体的には、その熱伝導部材(115)の一端は、ヒータ(114)の取付位置に相当する胴部(70a)の内面に固定されている。そして、熱伝導部材(115)の他端は、下側鏡板(70c)の底壁を沿いながら油吸入部(66)の先端付近まで延びている。つまり、熱伝導部材(115)は油溜まり部(71)において液冷媒と冷凍機油の2層間に亘って、即ち油溜まり部(71)における液面付近から下部に亘って配置されている。
【0069】
本実施形態では、熱伝導率の高い熱伝導部材(115)がケーシング(70)の胴部(70a)に固定され油溜まり部(71)に浸漬されているため、ヒータ(114)の熱を効果的に液冷媒に伝導させることができる。また、熱伝導部材(115)は油溜まり部(71)において液面付近から下部に亘って延びているため、液冷媒全体を効果的に加熱することができる。これにより、液冷媒の密度が冷凍機油の密度を下回るまでの時間を短縮することができ、その結果、ヒータ(114)による加熱時間を短縮することができる。
【0070】
《その他の実施形態》
本発明は、ヒータ(111,113,114)の取付位置は上記各実施形態で示した位置以外に取り付けるようにしても良いし、ヒータ(111,113,114)以外の加熱手段であってもよい。つまり、本発明は、運転開始前に、油溜まり部(71)の液冷媒の密度が冷凍機油の密度よりも小さくなるように油溜まり部(71)(即ち、液冷媒および冷凍機油)を加熱するものであれば如何なる態様であっても良い。
【0071】
また、上記各実施形態では、圧縮機(30)がスクロール式のものであるが、レシプロ式、ロータリ式、スクリュー式などの他のタイプの圧縮機であってもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、冷房運転と暖房運転を選択的に行う空気調和装置(20)を冷凍装置によって構成しているが、冷凍装置の用途はこれに限定されるものではない。つまり、本発明の冷凍装置は、暖房専用の空気調和装置を構成するものであってもよいし、冷蔵庫や冷凍庫の庫内を冷却する冷却装置を構成するものであってもよいし、冷媒によって水を加熱する給湯装置を構成するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上説明したように、本発明は、R32単体の冷媒またはR32を主成分とする混合冷媒を圧縮する圧縮機およびそれを備えた冷凍装置について有用である。
【符号の説明】
【0074】
10 冷媒回路
20 空気調和装置(冷凍装置)
30 圧縮機
66 油吸入部
70 ケーシング
70a 胴部
71 油溜まり部
82 圧縮機構
111,113,114 ヒータ(加熱部)
112 断熱部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
R32単体の冷媒またはR32を主成分とする混合冷媒が充満し、且つ、底部に冷凍機油が貯留される油溜まり部(71)が設けられるケーシング(70)と、
上記ケーシング(70)内に収容される上記冷媒の圧縮機構(82)と、
上記油溜まり部(71)の冷凍機油に浸漬し、運転中に該冷凍機油を吸入して上記圧縮機構(82)の摺動部へ供給するする油吸入部(66)と、
上記ケーシング(70)内に充満する上記冷媒が上記油溜まり部(71)に貯留された液冷媒の密度よりも、上記油溜まり部(71)の冷凍機油の密度が大きくなるように、運転開始前に、上記油溜まり部(71)を加熱する加熱部(111,113,114)とを備えている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
R32単体の冷媒またはR32を主成分とする混合冷媒が充満し、且つ、底部に冷凍機油が貯留される油溜まり部(71)が設けられるケーシング(70)と、
上記ケーシング(70)内に収容される上記冷媒の圧縮機構(82)と、
上記油溜まり部(71)の冷凍機油に浸漬し、運転中に該冷凍機油を吸入して上記圧縮機構(82)の摺動部へ供給するする油吸入部(66)と、
運転開始前に、上記油溜まり部(71)を加熱する加熱部(111,113,114)とを備えている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項1または2において、
上記冷凍機油の主成分は、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよびポリビニルエーテルの少なくとも1つである
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項において、
上記加熱部は、上記ケーシング(70)の胴部(70a)における上記油溜まり部(71)に相当する部分の外周面に設けられるヒータ(111)である
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項5】
請求項4において、
上記ヒータ(111)を覆うように、上記ケーシング(70)における上記油溜まり部(71)に相当する部分の外周面に設けられる断熱部材(112)を備えている
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項の圧縮機(30)を有し、R32単体の冷媒またはR32を主成分とする混合冷媒が循環して冷凍サイクルを行う冷媒回路(10)を備えている
ことを特徴とする冷凍装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−97638(P2012−97638A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245092(P2010−245092)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】