説明

圧縮機の摺動部材

【課題】 低温で形成しても金属製の基材との密着性に優れたポリアリールケトン樹脂を含む表面層をもつ摺動部材を提供する。
【解決手段】 本発明の摺動部材は、金属製の基材と、該基材の少なくとも一面に形成され、熱可塑性ポリイミド樹脂およびポリアリールケトン樹脂からなる樹脂組成物を含む中間層と、該中間層の上に形成されポリアリールケトン樹脂を含む表面層と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性などに優れた圧縮機の摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の中でも、ポリエーテルエーテルケトン樹脂やポリエーテルケトン樹脂などのポリアリールケトン樹脂は、高い機械的強度をもち、耐熱性、難燃性、耐摩耗性、耐薬品性、耐加水分解性などに優れている。そのため、航空機部品、自動車部品、電気・電子部品を中心に、幅広い分野で採用されている。
その一例が、特許文献1に記載の圧縮機の斜板であって、基材の表面にはポリエーテルエーテルケトン樹脂を含む摺動層が形成されている。しかしながら、ポリアリールケトン樹脂は、その優れた耐薬品性のため、溶剤にほとんど溶解しない。そのため、ポリアリールケトン樹脂を溶解した塗料組成物を基材に塗布して樹脂層を形成することは困難である。
そこで、特許文献2には、高速度酸素燃料(HVOF)プロセスによりポリエーテルエーテルケトン樹脂を基材に溶射する方法が開示されている。特許文献2の方法では、340℃に加熱されたポリエーテルエーテルケトン樹脂がHVOFプロセスにより基材に向かって高速で推進し、基材表面にポリエーテルエーテルケトン樹脂を堆積させる。この際、基材の表面には、残留応力が発生することがあり、溶射後に残留応力を緩和する処理が必要となる。
【0003】
また、シート状のポリアリールケトン樹脂と基材とを積層させて密着させるという方法もある。ところが、ポリアリールケトン樹脂は、その優れた耐熱性のため、融点が高く(ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点は334℃)溶融し難い。そのため、ポリアリールケトン樹脂のシート等を基材に密着させて樹脂層を形成するには、シートにポリアリールケトン樹脂の融点以上の高温を加える必要があり、温度によっては基材が劣化(具体的には、焼入れされた鉄やアルミニウムの焼鈍による硬度の低下)する虞がある。また、原料の加熱や樹脂層形成後の冷却に時間がかかるため、生産効率が低くなる。
さらに、非特許文献1に記載の静電粉体法を用いても、基材の表面温度は400℃程度まで上昇するため、上記問題点を回避できない。
また、ポリアリールケトン樹脂は、単独では金属と密着しにくいので、金属製の基材への積層が困難であった。そこで、銅箔やアルミニウム箔への積層が必要な電子回路板機材において、融点が高い結晶性樹脂としての耐熱性を生かすために、ポリアリールケトン樹脂と、金属との密着が良好で耐熱性を有するポリエーテルイミド樹脂との混合物が注目されてきた。
特許文献3には、上記混合物と銅箔とが良好な接着性を示し、回路板基材に有用であることが開示されている。さらに、特許文献4〜特許文献6には、上記混合物を用いたプリント配線基板や金属体との積層体およびその製造方法や熱融着性絶縁シートが開示されている。
しかしながら、上記混合物は、耐アルカリ性などの耐薬品性、耐摩耗性、摺動性に限界があるため、機械部品、自動車部品などの分野では必ずしも十分ではなく、用途に限界があった。
【0004】
【特許文献1】特開2002−39062公報
【特許文献2】特開2000−96203公報
【特許文献3】特開昭59−115353号公報
【特許文献4】特開2002−212314公報
【特許文献5】特許第3514667号公報
【特許文献6】特開2002−144436公報
【非特許文献1】工業材料:66〜69,Vol.48,No.5(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、低温で形成しても金属製の基材との密着性に優れたポリアリールケトン樹脂を含む表面層をもつ摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、種々鋭意検討を重ねた結果、金属製の基材と、ポリアリールケトン樹脂を含む表面層と、の間に、熱可塑性ポリイミド樹脂およびポリアリールケトン樹脂からなる樹脂組成物を含む中間層を設けることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の摺動部材は、金属製の基材と、該基材の少なくとも一面に形成され、熱可塑性ポリイミド樹脂およびポリアリールケトン樹脂を含む第一樹脂組成物からなる中間層と、該中間層の上に形成されポリアリールケトン樹脂を含む第二樹脂組成物からなる表面層と、を有することを特徴とする。
前記表面層は、さらに、固体潤滑剤を含むのが好ましい。この際、前記表面層は、前記第二樹脂組成物を100質量部としたときに前記固体潤滑剤を400質量部以下含むのが好ましい。また、前記固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレン、黒鉛、および二硫化モリブデンのうちの少なくとも1種を含むのが好ましい。
また、前記ポリイミド樹脂は、構造式(1)および/または構造式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂であり、前記ポリアリールケトン樹脂は、構造式(3)で表されるポリエーテルエーテルケトン樹脂であるのが好ましい。
【0007】
【化1】

【発明の効果】
【0008】
本発明の摺動部材では、熱可塑性ポリイミド樹脂およびポリアリールケトン樹脂からなる樹脂組成物を含む中間層を用いたことで、低温で形成しても金属製の基材との密着性に優れたポリアリールケトン樹脂を含む表面層をもつ摺動部材が得られる。その結果、高温による金属製基材の劣化等の問題のために使用できなかった種類の金属を用いても、ポリアリールケトン樹脂を含む表面層を形成することができる。
そして、中間層をもつことにより、金属製の基材にポリアリールケトン樹脂を含む表面層を設けた従来の摺動部材よりも優れた摺動特性を有する。また、表面層が固体潤滑剤を含むことにより、さらに優れた摺動特性をもつ摺動部材となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の摺動部材を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の摺動部材は、金属製の基材と、基材の少なくとも一面に形成された中間層と、中間層の上に形成された表面層と、を有する。
本発明に使用する基材は、金属製であれば特に限定はない。金属製の基材としては、鉄、クロム、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金、銅、銀、金、黄銅、真鍮、青銅、鋳鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、超合金(例として、NCF800、NCF600)などが挙げられる。また、鉄や炭素鋼に亜鉛、錫、クロム、ニッケル、亜鉛とアルミニウムなどのメッキを施したものも使用することができる。これらのうちで、剛性が高く、安価であるという観点から、好ましくは、鉄、鋳鉄、ステンレス鋼、炭素鋼、亜鉛メッキを施した炭素鋼、亜鉛−アルミニウムメッキを施した炭素鋼である。さらに、錆を生じにくいという観点から、より好ましくはステンレス鋼である。ステンレス鋼としては、種々の合金組成のものがあり、たとえば、SUS301、SUS301L、SUS302、SUS302B、SUS303、SUS303Se、SUS304、SUS304L、SUS304J1、SUS304J2、SUS305、SUS309S、SUS310S、SUS316、SUS316L、SUS317、SUS321、SUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4L、SUS347、SUS403、SUS405、SUS410、SUS430、SUS434、SUS436L、SUS436J1L、SUS444、SUS447J1、SUS304cul、SUSXM7、SUSXM27、SUSXM15J1、SUS630、SUS631、SUH409、SUH21およびSUH409Lなどが挙げられる。さらに、これらのステンレス鋼に圧延や熱処理を加えたものなども使用することができる。
【0010】
また、基材の形状は特に限定されないが、たとえば、平面体、円板体、曲面体、半球体、波板体、筒体、管体、などが挙げられる。これらのうち、加工が容易なのは平面体であり、平面体としては、たとえば、枚葉体、連続した帯状体(コイル)などが挙げられる。
基材として特に好ましいのは、圧縮機の摺動部品である。すなわち、本発明の摺動層を有する摺動部材は、圧縮機の摺動部材とすることができる。たとえば、摺動部材は、斜板式圧縮機の斜板に用いることができる。また、摺動部材は、圧縮機のシューに用いることができる。斜板式圧縮機の斜板とシューとは、運転初期に潤滑油がないドライ状態で相互に摺動する場合がある。このような非常に厳しいドライ状態で摺動する場合であっても、焼き付きや摩耗などを起こさないことが望まれる。そこで、摺動特性に優れる本発明の摺動部材を斜板式圧縮機の斜板やシュー等に用いることで、斜板式圧縮機に要求される条件を十分に満たすことができる。
【0011】
上記の他、圧縮機の駆動軸を支持するすべり軸受にも用いることができる。また、ピストン式圧縮機の駆動軸に一体的に軸支されると共に駆動軸をピストン圧縮機のハウジングに回転可能に枢支され駆動軸と同期回転することで圧縮室と吸入圧力領域との間のガス通路を開閉可能とするロータリバルブや、ピストン式圧縮機のピストンに用いることもできる。
基材が圧縮機の摺動部材であれば、たとえば、鉄や鋼、アルミニウムやMg、Cu、Zn、Si、Mn等を含むアルミニウム合金、銅やZn、Al、Sn、Mn等を含む銅合金などが好ましい。
また、基材の厚さに特に限定はないが、0.01〜50mm程度、より好ましくは0.05〜20mm、さらに好ましくは0.1〜15mmであれば、摺動部材として好適である。
【0012】
基材は、中間層が形成される面に表面処理を施してもよい。表面処理は種々の方法により行うことができ、処理された表面としては、たとえば、圧延、熱処理、酸洗などの処理を施された表面(たとえば、JIS G0203−2000、JIS G4305−1999、AISI規格等に規定されるNo.1、No.2D、No.2B)、さらに研磨された表面(たとえば、上記規格等に規定されるNo.3、No.4、#240、#320、#400)、冷間圧延と光輝処理を施された表面(たとえば、上記規格等に規定されるBA)、研磨を施された表面(たとえば、上記規格等に規定される、ヘアラインを意味するHL、無方向ヘアライン研磨仕上げを意味するバイブレーションであるNo.7、鏡面仕上げであるNo.8)などが挙げられる。また、他の表面処理法としては、ブラスト法によるショットブラストやビーズブラスト、ブラスト法による梨地肌仕上げ、ブライト仕上げ、化学発色、エンボス、エッチング、下地とは異なる金属によるメッキ仕上げ(たとえば、金、銀、銅、アルミニウム、クロム等によるメッキ)などが挙げられる。
これらのうちで、さらに、JIS B0601−1994に規定される表面粗さパラメータの十点平均粗さ(Rz)が0.01〜80μmの範囲のものが好ましく、さらに好ましくは0.4〜20μmのものである。Rzが0.01μm以上であると、中間層との接着が良好となり、Rzが80μm以下であると、表面層の凹凸に対する影響が小さい。
また、JIS B0601−1994に規定される表面粗さパラメータの最大高さ(Ry)は、通常0.01〜100μmの範囲であり、好ましくは、0.5〜25μmである。Ryが0.01μm以上であると、基材表面と中間層との間の接着強度が良好となり、100μm以下であれば、表面層の凹凸に対する影響が小さい。
同様に、基材のJIS B0601−1994に規定される表面粗さパラメータの算術平均粗さ(Ra)は、通常0.001〜10μmの範囲であり、好ましくは0.05〜2.5μmの範囲である。
これらJIS B0601−1994に規定される表面粗さ(Rz、Ry、Ra)は市販の表面粗さ測定装置(一例として、小坂研究所株式会社製、表面粗さ測定装置、型式SE3−FK等)を使用して測定することができる。
【0013】
中間層は、熱可塑性ポリイミド樹脂およびポリアリールケトン樹脂を含む第一樹脂組成物からなる。中間層に使用する熱可塑性ポリイミド樹脂は、その構造単位に芳香核結合およびイミド結合を含む熱可塑性樹脂であり、具体例として、ポリエーテルイミド樹脂および芳香族ポリアミドイミド樹脂などが挙げられるが、特に限定されるものではない。具体的には、下記構造式(1)
【0014】
【化2】

【0015】
で表される繰り返し単位を有するポリエーテルイミド(ゼネラルエレクトリック社製「Ultem1000」(ガラス転移温度Tg=216℃)、「Ultem1010」(Tg=216℃))、下記構造式(2)
【0016】
【化3】

【0017】
で表される繰り返し単位を有するポリエーテルイミド(ゼネラルエレクトリック社製「UltemCRS5001」(Tg=226℃))が挙げられ、そのほかの具体例として、ゼネラルエレクトリック社製「UltemXH6050」(Tg=247℃)、三井化学株式会社製「オーラムPL500AM」(Tg=258℃)、などが挙げられる。これらのうちで、好ましくは非晶性のものであり、さらに好ましくは、上記構造式(1)または(2)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルイミドである。
【0018】
ポリエーテルイミド樹脂の製造方法は特に限定されるものではないが、通常、上記構造式(1)で表される繰り返し単位を有する非晶性ポリエーテルイミド樹脂は、4,4’−[イソプロピリデンビス(p−フェニレンオキシ)ジフタル酸二無水物とm−フェニレンジアミンとの重縮合物として、また上記構造式(2)で表される繰り返し単位を有する非晶性ポリエーテルイミド樹脂は、4,4’−[イソプロピリデンビス(p−フェニレンオキシ)ジフタル酸二無水物とp−フェニレンジアミンとの重縮合物として公知の方法によって合成される。
また、本発明で用いるポリエーテルイミド樹脂は、必要に応じてアミド基、エステル基、スルホニル基など共重合可能な基を有する他の単量体単位を含むものであってもかまわない。なお、(A)成分の熱可塑性ポリイミド樹脂は、1種類を単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
中間層に使用するポリアリールケトン樹脂は、その構造単位に芳香核結合およびケトン結合を含む熱可塑性樹脂であり、その代表例としては、ポリエーテルケトン(ガラス転移温度:157℃、結晶融解ピーク温度:373℃)、ポリエーテルエーテルケトン(ガラス転移温度:143℃、結晶融解ピーク温度:334℃)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(ガラス転移温度:153℃、結晶融解ピーク温度:370℃)等があり、また、必要に応じてビフェニル構造、スルホニル基など共重合可能な構造や基を有する他の繰り返し単位を含むものであっても構わない。本発明においては、下記構造式(3)
【0020】
【化4】

【0021】
で表される繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンが好適に使用される。この繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンは、ビクトレックス社製の商品名「PEEK151G」、「PEEK381G」、「PEEK450G」などとして市販されている。これらはいずれもガラス転移温度143℃、結晶融解ピーク温度334℃のものである。なお、ポリアリールケトン樹脂は、1種を単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
上記した熱可塑性ポリイミド樹脂およびポリアリールケトン樹脂からなる樹脂組成物は、互いに相溶性がよく、また、400℃以下の低温の条件下で弾性率が適度に低下し、接着に適切な流動性を示す。そのため、熱可塑性ポリイミド樹脂およびポリアリールケトン樹脂からなる樹脂組成物を含む中間層と金属製の基材とが良好に接着する。さらに、ポリアリールケトン樹脂の結晶性は、200℃以上の加熱により高まるため、ポリアリールケトン樹脂特有の性質が良好に発現する。また、表面処理により表面が粗面化された基材(前述)を用いれば、接着強度がより大きくなる。
【0022】
上記のような性質を示す樹脂組成物は、熱可塑性ポリイミド樹脂とポリアリールケトン樹脂との質量比が95:5〜5:95であるのが好ましい。すなわち、熱可塑性ポリイミド樹脂とポリアリールケトン樹脂との合計を100質量%としたときに、熱可塑性ポリイミド樹脂が95質量%以下であれば、ポリアリールケトン樹脂がもつ優れた耐熱性や低い吸水性を発揮させることができる。また、5質量%以上であれば、中間層と金属製の基材との接着性が良好となる。より好ましい比は、熱可塑性ポリイミド樹脂とポリアリールケトン樹脂との質量比が95:5〜45:55、さらに好ましくは85:15〜50:50である。
特に、ポリアリールケトン樹脂として結晶性のポリアリールケトン樹脂を使用する場合、熱可塑性ポリイミド樹脂と結晶性ポリアリールケトン樹脂との質量比が80:20〜55:45であるのが好ましい。すなわち、熱可塑性ポリイミド樹脂と結晶性ポリアリールケトン樹脂との合計を100質量%としたときに、熱可塑性ポリイミド樹脂が80質量%以下であれば、中間層の結晶性が高くなり、結晶化速度も速く、耐熱性が良好である。また、55質量%以上であれば、結晶性のポリアリールケトン樹脂の結晶化に伴う体積収縮(寸法変化)が大きくなりにくく、金属製の基材との接着性において信頼性が得られる。
【0023】
表面層は、中間層の上に形成され、ポリアリールケトン樹脂を含む第二樹脂組成物からなる。表面層に使用するポリアリールケトン樹脂は、中間層に使用するポリアリールケトン樹脂と同様なポリアリールケトン樹脂(前述)を使用することができる。この際、ポリアリールケトン樹脂は、中間層と同じ種類のポリアリールケトン樹脂を使用してもよいし、異なる種類のポリアリールケトン樹脂を使用してもよいが、表面層においては、上記構造式(3)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンを使用することが好ましい。
また、表面層は、ポリアリールケトン樹脂以外の樹脂成分を含んでもよく、表面層を構成する樹脂成分(第二樹脂組成物)を100質量%としたときに、ポリアリールケトン樹脂を50質量%以上含むのが好ましく、さらに好ましくは60質量%以上である。ポリアリールケトン樹脂を50質量%以上含む表面層は、耐熱性、難燃性、耐摩耗性、耐薬品性、などに優れる。
なお、上記の第一樹脂組成物は、熱可塑性ポリイミド樹脂およびポリアリールケトン樹脂以外の樹脂成分を含んでもよい。同様に、第二樹脂組成物は、ポリアリールケトン樹脂以外の樹脂成分を含んでもよい。
【0024】
表面層は、さらに、固体潤滑剤を含む層であってもよい。固体潤滑剤を含む表面層は、摺動特性に優れる。固体潤滑剤としては、フッ素樹脂やフッ化黒鉛、フッ化カルシウムなどのフッ素化合物、黒鉛やタルクなどの層状構造物、Pb、Ag、Cu等の軟質金属やその化合物、など、固体潤滑剤として通常用いられているものであればよい。その他にも、酸化チタン、炭化タングステン、窒化ホウ素、メラミンシアヌレート等が使用できる。
フッ素樹脂としては、分子中にフッ素原子を含有する合成高分子であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。このようなものとして、たとえば、(a)分子内に−(CF2CF2)−で表わされる繰り返し構造単位を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE);(b)分子内に−(CF2CF2)−および−〔CF(CF3)CF2〕−で表わされる繰り返し構造単位を有し、好ましくは、−(CF2CF2)−99〜80質量%と−〔CF(CF3)CF2〕−1〜20質量%とからなる、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP);(c)分子内に−(CF2CF2)−および−〔CF(OCm2m+1)CF2〕−(式中、mは1〜16の範囲、好ましくは1〜10の範囲の正の整数)で表される繰り返し構造単位を有し、好ましくは、−(CF2CF2)−99〜92質量%と−〔CF(OCm2m+1)CF2〕−1〜8質量%とからなる、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA);(d)分子内に−(CF2CF2)−および−(CH2CH2)−で表される繰り返し構造単位を有し、好ましくは、−(CF2CF2)−90〜74質量%と、−(CH2CH2)−10〜26質量%とからなる、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE);(e)分子内に−(CFClCF2)−および−(CH2CH2)−で表される繰り返し構造単位を有するクロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体;(f)分子内に−(CF2CH2)−で表わされる繰り返し構造単位を有するポリフッ化ビニリデン(PVDF);等が挙げられ、さらに、これらフッ素樹脂は、この樹脂の本質的な性質を損なわない範囲で他のモノマーに基づく繰り返し構造単位を含んでいるものも挙げられる。上記他のモノマーとしては、テトラフルオロエチレン(ただし、PFA、FEPおよびETFEを除く。)、ヘキサフルオロプロピレン(ただし、FEPを除く。)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(ただし、PFAを除く。)、パーフルオロアルキルエチレン(アルキル基の炭素数1〜16)、パーフルオロアルキルアリルエーテル(アルキル基の炭素数1〜16)、および、式:CF2=CF[OCF2CF(CF3)]nOCF2(CF2pY(式中、YはCl、Br、もしくはI、nは0〜5の整数、pは0〜2の整数を表す。)で示される化合物が挙げられる。他のモノマーに基づく繰り返し構造単位の量は、重合体の50質量%以下、好ましくは、0.01〜45質量%である。
これらフッ素樹脂のうちで、好ましくは、(a)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、(b)テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、(c)テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、(d)テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)より選ばれるものであり、さらに好ましくは、(a)PTFEである。
上記フッ素樹脂の分子量は特に限定されないが、特に溶融するPTFEの場合には、溶融粘度が380℃において100万Pa・s以下のものが好ましい。これらのフッ素樹脂は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
上記フッ素樹脂は、成形用の粉末であっても固体潤滑材用の微粉末であってもよい。ポリテトラフルオロエチレンの市販品としては、たとえば三井・デュポンフロロケミカル株式会社製のテフロン7JやTLP−10、旭硝子株式会社製のフルオンG163、ダイキン工業株式会社製のポリフロンM15やルブロンL5等が挙げられる。
【0025】
本発明で使用される黒鉛としては、天然鱗片状黒鉛、天然土状黒鉛、人造黒鉛、熱分解黒鉛等が挙げられ、好ましくは、天然鱗片状黒鉛、人造黒鉛である。天然鱗片状黒鉛は、外見が板状、うろこ状、葉状、針状を呈するものを大部分含む天然産の黒鉛である。人造黒鉛はコークスとピッチの混合物等の炭素源を高温で焼成して得られる塊状物を粉砕して得られるものや気相成長により製造される結晶化度の高いタイプのものが好ましい。熱分解黒鉛は、コークス等の炭素源を約3000℃の高温で焼成して黒鉛化して得られるものである。これら、天然鱗片状黒鉛、人造黒鉛、熱分解黒鉛は、天然土状黒鉛に比べ二酸化珪素、珪酸塩化合物等の灰分や不純物、揮発分が少なく、耐熱性、潤滑性に優れており、また、樹脂中に配合した場合にも樹脂劣化が起こりにくい。また、本発明で使用される黒鉛の平均粒径は、レーザー回折法により測定した平均粒径が1〜100μmであり、4〜80μmのものが好ましく、5〜60μmのものがさらに好ましい。
平均粒径が100μm以下であれば樹脂成分中での均一分散や良好な成形フィルム外観が得やすく、1μm以上であれば、樹脂成分への配合や混練時に粉体の飛散等のハンドリングトラブルが起こりにくく、押出機等を用いて溶融混練する場合、スクリューへのかみこみ不良による計量不安定や、押出物の形状不安定による引き取り性悪化などの問題が起きにくい。
本発明に使用する黒鉛中の灰分量は少ない方が好ましく、通常2質量%以下、さらに好ましくは、0.05〜1質量%である。2質量%以下の範囲であれば、樹脂成分中に配合して使用する際、加工時の樹脂成分の熱劣化が起こりにくい。
また、黒鉛中の揮発分は少ない方が好ましく、通常2質量%以下、好ましくは1質量%以下である。2質量%以下の範囲であれば、樹脂成分との溶融混練時に発泡が少なくなる。
これらの黒鉛の市販品の例としては、株式会社中越黒鉛工業所のCPB−3(天然鱗片状黒鉛),CPB−30,CPB−3000、日本黒鉛工業株式会社のCP、特CP、CPB、Timcal社製「TimrexKS−44」(人造黒鉛)等が挙げられる。
【0026】
また、遷移金属硫化物を用いてもよい。遷移金属硫化物としては、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどが挙げられ、中間層の樹脂、および/または表面層の樹脂中に分散させるために、粉体であることが好ましい。このものの平均粒径は、0.1〜20μmであり、好ましくは、0.3〜11μmである。平均粒径が0.1μm以上であれば、樹脂成分との溶融混練時に、粉体の飛散等によるハンドリングトラブルが起こりにくく、20μm以下であれば、樹脂成分中への分散不良やフィルム外観不良が起こりにくい。
二硫化モリブデン粉末の具体例として、日本黒鉛工業株式会社製モリパウダーA(平均粒径0.5μm)、モリパウダーB(平均粒径3μm)、モリパウダーC(平均粒径0.3〜0.4μm)、住鉱潤滑剤株式会社製MOS等が挙げられる。二硫化タングステンの具体例として、日本潤滑剤株式会社製タンミックA(平均粒径1μm)、タンミックB(平均粒径0.6μm)等が挙げられる。
【0027】
また、六方晶窒化硼素(h−BN)を用いてもよい。六方晶窒化硼素は、中間層の樹脂、および/または表面層の樹脂中に分散させるために、粉体であることが好ましい。このものの平均粒径は0.01〜100μm、好ましくは、0.1〜20μm、より好ましくは3〜15μm、である。平均粒径が0.1μm以上であれば、樹脂成分との溶融混練時に、粉体の飛散等によるハンドリングトラブルが起こりにくく、100μm以下であれば、樹脂成分中への分散不良やフィルム外観不良が起こりにくい。比表面積は、0.1〜100m2/g、好ましくは、1〜20m2/gである。比表面積が0.1m2/g以上、および100m2/g以下であれば分散不良が起こりにくい。
六方晶窒化硼素の具体例として、水島合金鉄株式会社、GEスペシャルティ・マテリアルズ・ジャパン株式会社等より販売されているものがあり、使用可能である。
上記の中でも、ポリテトラフルオロエチレン、黒鉛、および二硫化モリブデンのうちの少なくとも1種であるのが好ましい。
【0028】
また、表面層は、第二樹脂組成物を100質量部としたときに前記固体潤滑剤を400質量部以下含むとよい。含まれる固体潤滑剤は、100質量部以下が好ましく、より好ましくは、5〜55質量部、さらに好ましくは10〜45質量部である。固体潤滑剤の量がこの範囲にあれば、金属製の基材との密着性を損なうことなく潤滑特性が向上する。
なお、固体潤滑剤は、中間層に含まれてもよい。この際、固体潤滑剤は、中間層の特性を損なわない程度に含まれればよく、樹脂組成物(熱可塑性ポリイミド樹脂とポリアリールケトン樹脂との合計)を100質量部としたときに、固体潤滑剤を400質量部以下含むとよい。含まれる固体潤滑剤は、100質量部以下が好ましく、より好ましくは、5〜55質量部、さらに好ましくは10〜45質量部である。固体潤滑剤の量がこの範囲にあれば、金属製の基材との密着性を損なうことなく潤滑特性が向上する。また、固体潤滑剤が100質量部以下であれば、製造工程において発生する中間層の未使用部をリサイクルして用いる際に起こりうる加工性の著しい低下を抑制できる。
また、中間層および表面層の少なくともいずれか一方は、無機充填材を含む層であるのが好ましい。無機充填材としては、公知のものを使用することができ、たとえば、クレー、ガラス、アルミナ、シリカ、窒化アルミニウム、窒化珪素、黒鉛などの充填材、ガラス繊維やアラミド繊維、炭素繊維などの繊維、無機鱗片状(板状)粉体、たとえば、合成マイカ、天然マイカ(マスコバイト、フロゴパイト、セリサイト、スゾライト等)、焼成された合成マイカや天然マイカ、ベーマイト、タルク、イライト、カオリナイト、モンモリロナイト、バーミキュライト、スメクタイト、板状アルミナ、鱗片状チタン酸塩(たとえば、鱗片状チタン酸マグネシウムカリウム、鱗片状チタン酸リチウムカリウム等)などが挙げられる。これらのなかで、合成マイカ、天然マイカ、焼成された合成マイカや天然マイカ、ベーマイト、タルク、イライト、カオリナイト、モンモリロナイト、バーミキュライト、スメクタイトなどの無機鱗片状(板状)粉体、板状アルミナ、鱗片状チタン酸塩が好ましく、合成マイカ、天然マイカがより好ましい。これらの無機充填材は1種類を単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
この無機充填材の形状としては、板状が好ましく、平均粒径が0.01〜200μm程度、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは、1〜10μm、平均アスペクト比(粒径/厚み)は1〜30程度、好ましくは30以上のものが好適に用いられる。
また、無機充填材は、表面処理剤により表面処理されたものを用いてもよい。表面処理剤としては、アミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、アクリロキシ基またはメタクリロキシ基を有するシラン化合物などのシランカップリング剤、珪素原子に炭素数1〜30の範囲の直鎖、分岐または環状の炭化水素基が1または2個結合したアルコキシシラン、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコネートカップリング剤などが挙げられる。表面処理剤の使用量は、通常、無機充填材100質量部に対して0.1〜8質量部、好ましくは0.5〜3質量部の範囲である。
【0029】
表面処理の方法としては、既知の種々の方法が適用できる。たとえば、表面処理剤を溶解した溶液中で無機充填材と表面処理剤を接触させた後、溶媒を除去する湿式法、表面処理剤を溶解した溶液と無機充填材とを噴霧、撹拌等の方法により接触させて、無機充填材表面に表面処理剤をまぶした後、溶媒を除去する半湿式法、樹脂と無機充填材および表面処理剤または少量の溶媒に溶解させた表面処理剤を混合撹拌するインテグラルブレンド法などが挙げられる。無機充填材剤表面に効率よく表面処理剤を付着させるという観点から、湿式法、半湿式法が好ましい。
溶媒中の表面処理剤の濃度は、0.1〜80質量%程度の濃度とすることができる。溶媒としては、たとえば、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、ヘキサン等の除去しやすいものが好ましい。この溶媒は、少量の水や加水分解を促進する少量の酸成分を含むものであってもよい。
上記表面処理方法により、無機充填材と、溶媒に希釈しまたは希釈しない表面処理剤とを接触混合した後、数時間から数日間空気中に放置し、空気中の水分と接触させて加水分解を起こさせるとともに、使用した溶媒を蒸発除去することが推奨される。
この蒸発除去の処理は、アルコキシシリル基の加水分解反応や生成したヒドロキシシリル基を無機充填材表面のヒドロキシル基と脱水縮合反応させ、かつ、発生したアルコールや使用した溶媒除去のため、常圧下ないし減圧下に、通常、80〜150℃程度、好ましくは100〜130℃にて行なう。処理時間は通常4〜200時間程度であり、好ましくは24〜100時間である。なお、上記無機充填材は、中間層と表面層とで同じものを使用しても良いし、異なるものを使用しても良い。
【0030】
中間層には、第一樹脂組成物を100質量部としたときに100質量部以下含むのが好ましい。無機充填材が100質量部以下であると、中間層の脆性は低くなり適度な弾性を示す。一方、無機充填材が10質量部以上であると、本発明の摺動部材をシャーリング等により切断する際に切断部に発生する基材と中間層との剥離が少なくなり、かつ、線膨張係数が低下し各層の体積変化が低減する。より好ましい無機充填材の添加量は、樹脂組成物を100質量部としたとき10〜55質量部、さらに好ましくは15〜45質量部である。
また、表面層には、第二樹脂組成物を100質量部としたときに無機充填材を100質量部以下含むのが好ましい。無機充填材が100質量部以下であると、表面層の脆性は低くなり適度な弾性を示す。また、無機充填材の添加により、表面層の硬度(鉛筆硬度)が向上し、かつ、線膨張係数が低下し各層の体積変化が低減する。より好ましい無機充填材の添加量は、ポリアリールケトン樹脂を100質量部としたとき10〜40質量部、さらに好ましくは15〜33質量部である。
中間層および表面層は、その厚さに特に限定はない。中間層の厚さが0.1〜800μmであれば、金属製の基材と表面層とを良好に密着させることができる。表面層の厚さが1〜1000μmであれば、密着性に優れ、また、摺動特性に優れた摺動部材となる。そして、中間層と表面層のいずれも、その厚さが10〜200μmであれば、製造工程(後述)において成形が容易である。
中間層と表面層との厚さの比率は、1/99〜99/1であるのが好ましく、より好ましくは10/90〜90/10の範囲である。後述の製造工程において、中間層と表面層とを別々に成形し、その後、両者を重ね合わせて金属製の基材に接着する際、厚さの比率が上記の範囲であれば、薄い方の層が、静電気により厚い方の層に引き寄せられて位置合わせがしづらくなったり、シワが生じるというトラブルが起こりにくい。また、中間層と表面層を合わせて共押出により積層させて成形し、冷却前または冷却後に基材と接着する場合に、上記厚さ比率の範囲であれば、各層が安定して成形できる。
なお、本発明の摺動部材では、中間層を設けることにより、金属製の基材とポリアリールケトン樹脂を含む表面層とが良好に密着するが、さらに、基材の表面に直接ポリアリールケトン樹脂を含む層を形成した従来の摺動部材よりも摺動特性も向上する。また、無機充填材を添加した場合には、線膨張係数が低くなるため、さらに密着性が向上し、摺動時に生じる基材からの剥離を抑制できる。
【0031】
本発明の摺動部材を構成する中間層および表面層の製造方法としては、所望の形状に成形した中間層と表面層とを金属製の基材に載置して接着(積層)して形成する方法が望ましい。
中間層を成形するには、はじめに、樹脂組成物(ポリエーテルイミド樹脂を(A)成分、ポリアリールケトン樹脂を(B)成分とする)と必要に応じて無機充填材などの添加剤((C)成分とする)とを公知の方法で混合し、混合物を得る。混合の組み合わせの例として、
・(A)成分、(B)成分と(C)成分の3成分を同時に混合、分散させる方法;
・(A)成分と(B)成分をあらかじめ混合し、この混合物に(C)成分を混合、分散させる方法;
・(A)成分または(B)成分に、(C)成分をあらかじめ混合分散させて、(A)成分と(C)成分の混合物または(B)成分と(C)成分の混合物を調製し、次いで(A)成分と(C)成分の混合物に(B)成分を混合するか、あるいは(B)成分と(C)成分の混合物に(A)成分を混合する方法;
・(A)成分および(B)成分それぞれに(C)成分を混合分散させた混合物を調製し、これらの混合物を混合する方法(この場合(A)成分に対する(C)成分の比率と(B)に対する(C)成分の比率は同じでも異なっていてもよい);
・複数種の(A)成分および/または複数種の(B)成分を使用する場合、これらのうちの少なくとも1種に、高濃度に(C)成分を混合分散させた混合物と、配合すべき他の(A)成分および/または(B)成分を混合するか、あるいは上記混合物と、配合すべき他の(A)成分および/または(B)成分に低濃度に(C)成分を混合分散させた混合物を混合分散させる方法;
などが挙げられる。
【0032】
また、表面層を成形するには、はじめに、ポリアリールケトン樹脂(B)と必要に応じて固体潤滑剤などの添加物((D)成分とする)とを公知の方法で混合し、混合物を得る。混合の組み合わせの例として、
・(B)成分と(D)成分の2成分を同時に混合、分散させる方法;
・(B)成分に、高濃度に(D)成分を混合分散させた混合物をあらかじめ調製し、この混合物に(B)成分を混合、分散させる方法;
・(B)成分に(D)成分を異なる濃度に混合分散させた複数種の混合物をあらかじめ調製し、これらの混合物を混合する方法;
・複数種の(B)成分および/または複数種の(D)成分を使用する場合、(B)成分の少なくとも1種に、高濃度に(D)成分を混合分散させた混合物と、配合すべき他の(B)成分を混合するか、あるいは上記混合物と、配合すべき他の(B)成分に低濃度に(D)成分を混合分散させた混合物を混合、分散させる方法;
などが挙げられる。
【0033】
混合、分散の方法としては、各成分をそれぞれ別々に単軸溶融混練機や二軸溶融混練機に供給して混合することもでき、複数の供給部を有する溶融混練機を用いて各成分を逐次的に溶融混練機に供給することもできる。また、あらかじめヘンシェルミキサー(商品名)、スーパーミキサー、リボンブレンダー、タンブラーなどの混合機を利用してそれらを予備混合した後、溶融混練機に供給して、具体的には340℃〜430℃の温度で溶融混練することもできる。また、目的により、水性媒体や有機溶媒に分散せしめて湿式法により混合することも可能である。さらに、(C)成分の無機充填材や(D)成分の固体潤滑剤などの各種添加剤を、(A)成分および/または(B)成分をベース樹脂として高濃度(代表的な含有量としては10〜60質量%程度)に混合したマスターバッチを別途作製しておき、これを使用する樹脂に濃度を調整して混合し、ニーダーや押出機等を用いて機械的にブレンドする方法などが挙げられる。上記混合方法の中では、マスターバッチを作製し、混合する方法が分散性や作業性の点から好ましい。
混合物は、混合、分散の工程に引き続いて所望の形状に成形してもよく、また、一旦ストランドないしはシート状に押し出され、カッティングされてペレット、顆粒、粉体などの成形加工に適した従来の形態で得てもよい。
【0034】
中間層および表面層の成形方法としては、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法等の公知の方法が挙げられる。たとえば、押出部先端の断面形状が長方形や長方形類似形状のダイ、具体的にはTダイ、Iダイなどフィルム押出用のダイより押出されたフィルム状の樹脂組成物を冷却体に接触させて冷却する押出キャスト法、カレンダー法等を採用することができ、特に限定されるものではないが、フィルムの製膜性、安定生産性等の面から、TダイやIダイなどフィルム押出用のダイスと冷却体を用いる押出キャスト法が好ましい。上記冷却体としては、表面の材質が金属やゴム、繊維などよりなり、形態はロールやベルト、シームレスベルトなどが挙げられる。
これらのうちで、冷却装置が単純で取り扱い易いという理由から、冷却体としてロールを用いることが好ましい。その一例として、押出機より溶融した樹脂組成物が導管を経てダイに送り込まれ、ダイの先端よりフィルム状に押出され、冷却用の金属ロールとゴムロールに挟まれてフィルム状に形状固定・冷却され、続いて、金属ロール側に巻き付いて冷却されて、巻き取り機に送られる。フィルムは必要に応じて、金属ロールと巻き取り機の間にさらに他のロールや、冷却エアーにより冷却される。
押出キャスト法での成形温度は、組成物の流動特性や製膜性等によって適宜調整されるが、概ねガラス転移温度ないしは融点以上、430℃以下、好ましくは、340〜400℃、さらに好ましくは350〜390℃である。
ロール等の冷却体の表面温度は、通常、各層を構成する樹脂成分のガラス転移温度ないしは融点以下の温度である。中間層を形成する場合、冷却体の表面温度は、通常30〜175℃程度、好ましくは90〜165℃の範囲である。30℃以上であると、冷却体表面に空気中の水分が凍って付着することを避けることができ、175℃以下であると、冷却体との接触により形成された形状が変化することを防ぐことができる。表面層を形成する場合、冷却体の表面温度は、通常30〜155℃程度、好ましくは90〜141℃の範囲である。30℃以上であると、冷却体表面に空気中の水分が凍って付着することを避けることができ、155℃以下であると、冷却体との接触により形成された形状が変化することを防ぐことができる。冷却体上面に熱電対や温度指示体を接触させる接触法、赤外線温度計など光や電磁波を用いる非接触法などで測定することができる。
冷却体の表面温度の好適範囲は、冷却体の温度制御機構や、オイル、水などの循環冷媒等熱媒体の温度を適切に選択することにより制御することができる。
【0035】
本発明の積層体を製造する際の基材、中間層および表面層の積層方法は、特に限定されないが、たとえば、
・基材と、あらかじめフィルム状に成形した中間層と表面層と、を重ね合わせて圧力をかけながら加熱して積層する方法(プレス成形);
・基材と、あらかじめフィルム状に成形した中間層と表面層と、を同時にまたは別々に加熱ロール接触や赤外線、熱風などにより加熱した後に重ね合わせ、ロールやプレスにより圧力をかけて密着させる方法;
・中間層を構成する樹脂組成物と、表面層を構成する樹脂組成物をそれぞれ別々の押出機で溶融混練してそれぞれ別々のダイまたは多層のダイ内で積層し、フィルム状に押し出して冷却せずにそのまま基材表面に載せて、基材とともに加熱プレスまたは加熱ロールに挟んで積層する方法;
・中間層と表面層を積層フィルムとして押し出して一旦冷却した後、基材と加熱プレスまたは加熱ロールに挟んで積層する方法;
などが挙げられる。
【0036】
金属製の基材としては、連続したコイル、帯板やカットされた板の状態でよく、中間層および表面層も、それぞれ連続した巻きやカットされた枚葉の形態で供してよい。また、圧縮機などの摺動部品に加工された金属製部品であってもよい。
また、各層を積層する際の加工温度が、200〜400℃であるのが望ましい。400℃以下であれば、金属製の基材の劣化を低減できる。200℃以上であれば、表面層および中間層に含まれるポリアリールケトン樹脂の結晶性が高まるため、ポリアリールケトン樹脂特有の性質が良好に発現する。特に、鉄を主成分とする基材では、加工温度を250℃以下とすれば、焼入れされた鉄が焼鈍されることがない。また、アルミニウム合金からなる基材では、加工温度を250℃以下とすれば、基材の硬度の低下を抑制することができる。
上記方法によれば、基材と中間層と表面層とを積層する工程においては、溶剤を用いなくてよい。そのため、環境への悪影響が低減される。また、塗布工程や焼成工程などが必要ないため、工程数が少なくて済む。
【0037】
なお、本発明の摺動部材は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その特性を損なわない程度に、他の構成を追加してもよい。たとえば、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナ、酸化ケイ素、酸化鉄、酸化クロム等の無機粒子、硫化亜鉛(ZnS)や硫化銀(Ag2S)等の硫黄含有金属化合物等の極圧剤、染料、顔料などの着色剤、界面活性剤、分散剤、酸化防止剤、難燃剤、熱安定剤、帯電防止剤、レべリング剤、消泡剤およびエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、多官能イソシアネート等の架橋剤、などのうち何れかまたは全ての添加剤を、表面層および/または中間層が含有してもよい。また、基材と中間層との接着向上のため、アミノシラン、エポキシ等のシランカップリング剤などの使用も可能である。
また、本発明の摺動部材は、本発明の趣旨を超えない範囲で、中間層と表面層との間に、中間層と表面層と同じ成分を含む層や、他の成分よりなる層を有するものであってもよい。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の摺動部材の実施例を説明する。
[金属製基材の作製]
A1〜A9までの9種類の金属製基材を準備した。以下にそれぞれの基材について説明する。
[基材A1〜A4]
厚さが0.4mmのステンレス鋼板(SUS304)である基材A1、厚さが0.4mmのステンレス鋼板(SUS301)である基材A2、厚さが0.5mmのステンレス鋼板(SUS304)である基材A3、厚さが0.3mmのステンレス鋼板(SUS316)である基材A4、を準備した。なお、上記基材A1〜A4の表面粗さパラメータは、表1および表2に示す通りである。
[基材A5〜A9]
厚さ4mmの鋳鉄板である基材A5、厚さ6mmの鋳鉄板である基材A6、厚さ10mmの鋳鉄板である基材A7、厚さ8mmのアルミニウム板(JIS H4000−1999に示されたA1100;珪素含有量0.7%)である基材A8、厚さ6mmのアルミニウム−珪素合金板(同、A4043;珪素含有量5.5%)である基材A9、を準備した。なお、基材A5〜A9は、ショットブラストにより表面処理されており、上記基材A5〜A9の表面処理された面の表面粗さパラメータは、表3および表4に示す通りである。
【0039】
[中間層の作製]
以下の手順で、中間層用のフィルムS1〜S13を作製した。
[フィルムS1]
樹脂組成物として、非晶性ポリエーテルイミド樹脂(ゼネラルエレクトリック社製「Ultem 1000」ガラス転移温度Tg=216℃、以下「PEI−1」と略記)を2.016kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し28質量%)、ポリエーテルイミド樹脂(ゼネラルエレクトリック社製「Ultem CRS5001」Tg=226℃、以下「PEI−2」と略記)を2.304kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し32質量%)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(ビクトレックス社製「PEEK450G」Tg=143℃、融点Tm=334℃、以下「PEEK−1」と略記)を2.88kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し40質量%)、用いた。また、充填材として、合成マイカ(平均粒径:6μm、アスペクト比:25)を2.8kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し38.9質量部、以下「充填材C1」と略記)添加した。上記樹脂組成物および充填材を、サイドフィード付きの二軸押出機により設定温度380℃で混練し、ストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。
このペレットを、180℃で12時間熱風乾燥した後、Tダイを接続した口径40mmφの単軸押出機を使用し、380℃にてフィルム状に押出し、設定温度160℃の循環オイルにて温度調節された金属キャストロールの表面に接触させ、その反対側からシリコーンゴムロールにて押しつけて急冷製膜することにより、厚さ100μmの中間層用のフィルムS1を得た。
【0040】
[フィルムS2]
PEI−1を4.4kg(PEI−1およびPEEK−1の合計質量に対し55質量%)、PEI−2を0kg、PEEK−1を3.6kg(PEI−1およびPEEK−1の合計質量に対し45質量%)、また、充填材C1を0kgに変更し、下記の方法により作製した表面処理マイカ(充填材C2)を2kg(PEI−1およびPEEK−1の合計100質量部に対し25質量部)添加し、フィルム厚さを35μmとした他は、フィルムS1と同様の操作を行い、フィルムS2を得た。
なお、上記表面処理マイカは、以下の方法により作製した。市販の合成マイカ(平均粒子径:10μm、アスペクト比:20)2kgに、水分約3質量%のイソプロピルアルコール160gに溶解した表面処理剤ヘキシルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製、試薬グレード)40g(合成マイカ100質量部に対して2質量部)を溶解して得た20質量%溶液200gを振りかけ、窒素を供給しながらヘンシェルミキサーにより10分間撹拌混合した。この混合物を、ステンレス製のバットに広げて室内にて4日間放置した。その後、120℃のオーブン中で48時間加熱処理し、室温まで冷却し、マイカに表面処理を行った。この操作を10回繰り返して、約20kgの表面処理マイカ(以下「充填材C2」と略記)を得た。
【0041】
[フィルムS3]
PEI−1を3.04kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し40質量%)、PEI−2を1.9kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し25質量%)、PEEK−1を2.66kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し35質量%)、また、充填材C1を0kgに変更し、充填材C2を2.4kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し31.6質量部)添加し、フィルム厚さを80μmとした他は、フィルムS1と同様の操作を行い、フィルムS3を得た。
【0042】
[フィルムS4]
PEI−1を3.28kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し40質量%)、PEI−2を2.87kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し35質量%)、PEEK−1を2.05kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し25質量%)、また、充填材C1を0kgに変更し、下記の方法により作製した表面処理マイカ(充填材C3)を1.8kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し22質量部)添加し、フィルム厚さを50μmとした他は、フィルムS1と同様の操作を行い、フィルムS4を得た。
なお、上記表面処理マイカは、以下の方法により作製した。市販の合成マイカ(平均粒子径:6μm、アスペクト比:25)2kgに、水分約3質量%のイソプロピルアルコール160gに溶解した表面処理剤フェニルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製、試薬グレード)40g(合成マイカ100質量部に対して2質量部)を溶解して得た20質量%溶液200gを振りかけ、窒素を供給しながらヘンシェルミキサーにより10分間撹拌混合した。この混合物を、ステンレス製のバットに広げて室内にて4日間放置した。その後、120℃のオーブン中で48時間加熱処理し、室温まで冷却し、マイカに表面処理を行った。同様の操作を30回繰り返して、約60kgの表面処理マイカ(以下「充填材C3」と略記)を得た。
【0043】
[フィルムS5]
PEI−1を2.25kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、PEI−2を2.25kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、PEEK−1を3.0kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し40質量%)、また、充填材C1を0kgに変更し、充填材C3を2.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し33.3質量部)添加し、フィルム厚さを50μmとした他は、フィルムS1と同様の操作を行い、フィルムS5を得た。
【0044】
[フィルムS6]
PEI−1を4.4kg(PEI−1およびPEEK−1の合計質量に対し55質量%)、PEI−2を0kg、PEEK−1を3.6kg(PEI−1およびPEEK−1の合計質量に対し45質量%)、また、充填材C1を0kgに変更し、充填材C3を2kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し25質量部)添加し、フィルム厚さを28μmとした他は、フィルムS1と同様の操作を行い、フィルムS6を得た。
[フィルムS7]
PEI−1を3.2kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し40質量%)、PEI−2を2.4kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、PEEK−1を2.4kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、また、充填材C1を0kgに変更し、充填材C3を2kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し25質量部)添加し、フィルム厚さを24μmとした他は、フィルムS1と同様の操作を行い、フィルムS7を得た。
【0045】
[フィルムS8]
樹脂組成物として、PEI−1を3kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、PEI−2を3kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量部)、PEEK−1を4kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し40質量%)、用いた。また、充填材として充填材C2を1.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し15質量部)、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレン樹脂(旭硝子株式会杜製「フルオンPTFE L−169J」、以下「固体潤滑剤D1」と略記)を1.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し15質量部)、および鱗片状黒鉛(日本黒鉛株式会杜製「特CP」顕微鏡下での平均粒径測定値は6μm、以下「固体潤滑剤D2」と略記)を1kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し10質量部)添加した。上記樹脂組成物、充填材および固体潤滑剤を、サイドフィード付きの二軸押出機により設定温度390℃で混練してストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。
このペレットを180℃12時間熱風乾燥した後、押出温度を390℃とし、フィルム厚さを50μmとした他は、フィルムS1と同様の手順により、フィルムS8を得た。
【0046】
[フィルムS9]
樹脂組成物として、PEI−1を3kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、PEI−2を3kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、PEEK−1を4kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し40質量%)、用いた。これらのペレットを充分撹拌混合して、180℃で8時間乾燥したのち、口径40mmφの単軸押出機に供給した。
フィルム厚さを50μmとした他は、フィルムS1と同様の手順により、フィルムS9を得た。
[フィルムS10]
PEI−1を5.5kg(PEI−1およびPEEK−1の合計質量に対し55質量%)、PEI−2を0kg、PEEK−1を4、5kg(PEI−1およびPEEK−1の合計質量に対し45質量%)、また、充填材C1を0kgに変更し、固体潤滑剤D1を0.5kg(PEI−1およびPEEK−1の合計100質量部に対し5質量部)、固体潤滑剤D2を0.5kg(PEI−1およびPEEK−1の合計100質量部に対し5質量部)添加し、二軸押出温度と単軸押出温度を390℃、および厚さを25μmとした他は、フィルムS1と同様の操作によりフィルムS10を得た。
[フィルムS11]
PEI−1を3kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、PEI−2を3kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、PEEK−1を4kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し40質量%)、また、充填材C1を0kgに変更し、充填材C3を1kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し10質量部)、固体潤滑剤D1を0.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し5質量部)、固体潤滑剤D2を1kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し10質量部)添加し、フィルム厚さを30μmとした他は、フィルムS1と同様の操作によりフィルムS11を得た。
【0047】
[フィルムS12]
PEI−1を4kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し40質量%)、PEI−2を3kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、PEEK−1を3kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、また、充填材C1を0kgに変更し、充填材C3を1.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し15質量部)、固体潤滑剤D1を1.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し15質量部)添加し、二軸押出温度と単軸押出温度を390℃、およびフィルム厚さを28μmとした他は、フィルムS1と同様の操作を行い、フィルムS12を得た。
[フィルムS13]
PEI−1を3kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、PEI−2を3kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、PEEK−1を4kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し40質量%)、また、充填材C1を0kgに変更し、充填材C3を2.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対して25質量部)添加し、二軸押出と単軸押出の温度を390℃、フィルム厚さを40μmとした他は、フィルムS1と同様の操作を行い、フィルムS13を得た。
【0048】
[表面層の作製]
以下の手順で、表面層用のフィルムT1〜T13、およびフィルムTR1を作製した。
[フィルムT1]
7.2kgのPEEK−1(100質量部)に、充填材C1を2.8kg(100質量部のPEEK−1に対し38.9質量部)添加し、サイドフィード付き二軸押出機を用いて設定温度390℃で混練し、ストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。
このペレットを、180℃で12時間熱風乾燥した後、Tダイを接続した口径40mmφの単軸押出機を使用し、390℃にてフィルム状に押出し、設定温度130℃の循環オイルにて温度調節された金属キャストロールの表面に接触させ、その反対側からシリコーンゴムロールにて押しつけて急冷製膜することにより、厚さ約110μmのフィルムT1を得た。
[フィルムT2]
PEEK−1を7.6kg(100質量部)、充填材C1を0kgに変更し、充填材C2を2.4kg(100質量部のPEEK−1に対し31.6質量部)添加し、フィルム厚さを40μmとした以外は、フィルムT1と同様の操作を行い、フィルムT2を得た。
[フィルムT3]
充填材C1を0kgに変更し(すなわちPEEK−1のみを使用)、二軸押出機による混練を行わず、フィルム厚さを30μmとした以外は、フィルムT1と同様の操作を行い、フィルムT3を得た。
【0049】
[フィルムT4]
PEEK−1を8.2kg(100質量部)、充填材C1を0kgに変更し、充填材C3を1.8kg(100質量部のPEEK−1に対し22質量部)添加し、フィルム厚さを70μmとした以外は、フィルムT1と同様の操作を行い、フィルムT4を得た。
[フィルムT5]
PEEK−1を7.5kg(100質量部)、充填材C1を0kgに変更し、充填材C3を2.5kg(100質量部のPEEK−1に対し33.3質量部)添加し、フィルム厚さを50μmとした以外は、フィルムT1と同様の操作を行い、フィルムT5を得た。
[フィルムT6]
充填材C1を0kgに変更し、固体潤滑剤D1を2kg(100質量部のPEEK−1に対し25質量部)添加し、フィルム厚さを60μmとした以外は、フィルムT1と同様の操作を行い、フィルムT6を得た。
[フィルムT7]
PEEK−1を8.33kg(100質量部)、充填材C1を0kgに変更し、固体潤滑剤D2を1.67kg(100質量部のPEEK−1に対し20質量部)添加し、フィルム厚さを100μmとした以外は、フィルムT1と同様の操作を行い、フィルムT7を得た。
[フィルムT8]
PEEK−1を10kg(100質量部)、充填材C1を0kgに変更し、充填材C3を1kg(100質量部のPEEK−1に対し10質量部)、固体潤滑剤D1を2kg(PEEK−1 100質量部に対し20質量部)、および固体潤滑剤D2を1kg(PEEK−1 100質量部に対し10質量部)添加し、フィルム厚さを35μmとした以外は、フィルムT1と同様の操作を行い、フィルムT8を得た。
[フィルムT9]
PEEK−1を10kg、充填材C1を0kgに変更(すなわちPEEK−1のみを使用)し、二軸押出機による混棟を行わず、フィルム厚さを50μmとしたほかは、フィルムT1と同様の操作を行い、フィルムT9を得た。
[フィルムT10]
PEEK−1を10kg(100質量部)、充填材C1を0kgに変更し、固体潤滑剤D1を2.5kg(100質量部のPEEK−1に対し25質量部)添加し、厚さを60μmに変更した以外は、フィルムT1と同様の操作によりフィルムT10を得た。
[フィルムT11]
PEEK−1を10kg(100質量部)、充填材C1を0kgに変更し、充填材C3を1kg(100質量部のPEEK−1に対し10質量部)、固体潤滑剤D1を2kg(100質量部のPEEK−1に対し20質量部)、固体潤滑剤D2を1kg(100質量部のPEEK−1に対し10質量部)添加し、厚さを40μmとしたほかは、フィルムT1と同様の操作によりフィルムT11を得た。
[フィルムT12]
T1と同様の操作を行いフィルムT1 PEEK−1を10kg(100質量部)、充填材C1を0kgに変更し、充填材C3を1.5kg(100質量部のPEEK−1に対し15質量部)、固体潤滑剤D1を2kg(100質量部のPEEK−1に対し20質量部)添加し、厚さを60μmとしたほかは、フィルム2を得た。
[フィルムT13]
PEEK−1を10kg(100質量部)、充填材C1を0kgに変更し、充填材C3を0.5kg(100質量部のPEEK−1に対し5質量部)、固体潤滑剤D2を0.5kg(100質量部のPEEK−1に対し5質量部)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(ダイキン工業株式会社製ポリフロンTFE L−5、以下「固体潤滑剤D3」と略記)2kg(100質量部のPEEK−1に対して20質量部)を添加し、厚さを70μmとしたほかは、フィルムT1と同様の操作を行い、フィルムT13を得た。
[フィルムTR1]
厚さを110μmに変更した以外は、フィルムT9と同様の操作によりフィルムTR1を作製した。
【0050】
[積層フィルムの作製]
以下の手順で、積層フィルムST1〜ST6を作製した。
[積層フィルムST1]
樹脂組成物として、PEI−1を2.8kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し28質量%)、PEI−2を3kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、PEEK−1を4.2kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し42質量%)、用いた。また、充填材C2を2.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し25質量部)添加した。上記樹脂組成物および充填材を、サイドフィード付き二軸押出機を用いて設定温度380℃で混練し、ストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。このペレットを180℃で8時間熱風乾燥し、390℃に設定した口径30mmφの単軸押出機を接続したマルチマニホールド式のダイ(設定温度390℃)より中間層として押し出した。
また、PEEK−1のペレットを180℃で8時間熱風乾燥したのち390℃に設定した口径40mmφの単軸押出機を接続した上記マルチマニホールドダイ(設定温度390℃)より表面層として中間層と同時に押し出し(共押出)、中間層と表面層とが積層した積層フィルムST1を得た。
この際、中間層と表面層の厚さ比が16:84となるように溶融樹脂の吐出量を調整した。この積層フィルムの中間層側を125℃のキャスティングロールにて急冷し、表面層側にシリコーンゴムロールを押し当てた。さらに、金属ロールの反対側に設置された約35℃の水で冷却される硬質クロムメッキロールを押しつけてシリコーンゴムロールを冷却し、その後、巻き取った。積層フィルムの厚さが50μmとなるように、押出機からの溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。
なお、得られた積層フィルムST1の断面を顕微鏡により拡大して観察し、各層の厚さを測定したところ、中間層の厚さは8μm、表面層の厚さは42μmであった。
【0051】
[積層フィルムST2]
樹脂組成物として、PEI−1を6kg(PEI−1およびPEEK−1の合計質量に対し60質量%)、PEEK−1を4kg(PEI−1およびPEEK−1の合計質量に対し40質量%)、用いた。また、充填材C3を1.5kg(PEI−1およびPEEK−1の合計100質量部に対し15質量部)、固体潤滑剤D1を1.5kg(PEI−1およびPEEK−1の合計100質量部に対し15質量部)添加した。樹脂組成物、充填材および固体潤滑剤を、サイドフィード付きの二軸押出機を用いて設定温度390℃で混練してストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。このペレットを180℃で8時間熱風乾燥し、390℃に設定した口径30mmφの単軸押出機を接続したマルチマニホールド式のダイ(設定温度390℃)より中間層として押し出した。
また、10kgのPEEK−1(100質量部)に、充填材C3を0.8kg(100質量部のPEEK−1に対し8質量部)、固体潤滑剤D1を2.5kg(100質量部のPEEK−1に対し25質量部)添加し、サイドフィード付きの二軸押出機を用いて設定温度390℃で混練してストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。このペレットを180℃で8時間熱風乾燥し、390℃に設定した口径40mmφの単軸押出機を接続した上記マルチマニホールドダイ(設定温度390℃)より表面層として押し出した。
積層フィルムST1と同様の手順で、中間層と表面層とを共押出し、積層フィルムST2を得た。この際、中間層と表面層の厚さ比が14:86、積層フィルムの厚さが105μmとなるように溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。
なお、得られた積層フィルムST2の断面を顕微鏡により拡大して観察し、各層の厚さを測定したところ、中間層の厚さは15μm、表面層の厚さは90μmであった。
【0052】
[積層フィルムST3]
樹脂組成物として、PEI−1を6kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し60質量%)、PEI−2を1.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し15質量%)、PEEK−1を2.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し25質量%)を用いた。また、充填材C3を1.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し15質量部)、固体潤滑剤D2を1kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し10質量部)添加した。樹脂組成物、充填材および固体潤滑剤を、サイドフィード付きの二軸押出機を用いて設定温度390℃で混練してストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。このペレットを180℃で8時間熱風乾燥し、390℃に設定した口径30mmφの単軸押出機を接続したマルチマニホールド式のダイ(設定温度390℃)より中間層として押し出した。
また、10kgのPEEK−1(100質量部)に、充填材C3を1.0kg(100質量部のPEEK−1に対し10質量部)、固体潤滑剤D1を2kg(100質量部のPEEK−1に対し20質量部)、固体潤滑剤D2を1kg(100質量部のPEEK−1に対し10質量部)添加し、サイドフィード付きの二軸押出機を用いて設定温度390℃で混練してストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。このペレットを180℃で8時間熱風乾燥し、390℃に設定した口径30mmφの単軸押出機を接続した上記マルチマニホールドダイ(設定温度390℃)より表面層として押し出した。
積層フィルムST1と同様の手順で、中間層と表面層とを共押出し、積層フィルムST3を得た。この際、中間層と表面層の厚さ比が43:57、積層フィルムの厚さが70μmとなるように溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。
なお、得られた積層フィルムST3の断面を顕微鏡により拡大して観察し、各層の厚さを測定したところ、中間層の厚さは40μm、表面層の厚さは30μmであった。
【0053】
[積層フィルムST4]
樹脂組成物として、PEI−1を3.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し35質量%)、PEI−2を3kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し30質量%)、PEEK−1を3.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し35質量%)、用いた。これらのペレットを充分混合攪拌した後、180℃で8時間熱風乾燥し、390℃に設定した口径30mmφの単軸押出機を接続したマルチマニホールド式のダイ(設定温度390℃)より中間層として押し出した。
また、10kgのPEEK−1(100質量部)に、充填材C3を1kg(100質量部のPEEK−1に対し10質量部)、固体潤滑剤D1を2kg(100質量部のPEEK−1に対し20質量部)、固体潤滑剤D2を0.5kg(100質量部のPEEK−1に対し5質量部)添加し、サイドフィード付きの二軸押出機を用いて設定温度390℃で混練してストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。このペレットを180℃で8時間熱風乾燥し、390℃に設定した口径30mmφの単軸押出機を接続した上記マルチマニホールドダイ(設定温度390℃)より表面層として押し出した。
積層フィルムST1と同様の手順で、中間層と表面層とを共押出し、積層フィルムST4を得た。この際、中間層と表面層の厚さ比が24:76、積層フィルムの厚さが34μmとなるように溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。
なお、得られた積層フィルムST4の断面を顕微鏡により拡大して観察し、各層の厚さを測定したところ、中間層の厚さは8μm、表面層の厚さは26μmであった。
【0054】
[積層フィルムST5]
樹脂組成物として、PEI−1を5.8kg(PEI−1およびPEEK−1の合計質量に対し58質量%)、PEEK−1を4.2kg(PEI−1およびPEEK−1の合計質量に対し42質量%)用いた。また、充填材C3を1.5kg(PEI−1およびPEEK−1の合計100質量部に対し15質量部)、および固体潤滑剤D1を1kg(PEI−1およびPEEK−1の合計100質量部に対し10質量部)添加した。樹脂組成物、充填材および固体潤滑剤を、サイドフィード付きの二軸押出機を用いて設定温度390℃で混練してストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。このペレットを180℃で8時間熱風乾燥し、390℃に設定した口径30mmφの単軸押出機を接続したマルチマニホールド式のダイ(設定温度390℃)より中間層として押し出した。
また、10kgのPEEK−1(100質量部)に、固体潤滑剤D1を2.5kg(100質量部のPEEK−1に対し25質量部)添加し、サイドフィード付きの二軸押出機を用いて設定温度390℃で混練してストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。このペレットを180℃で8時間熱風乾燥し、390℃に設定した口径40mmφの単軸押出機を接続した上記マルチマニホールドダイ(設定温度390℃)より表面層として押し出した。
積層フィルムST1と同様の手順で、中間層と表面層とを共押出し、積層フィルムST5を得た。この際、中間層と表面層の厚さ比が14:86、積層フィルムの厚さが105μmとなるように溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。
なお、得られた積層フィルムST5の断面を顕微鏡により拡大して観察し、各層の厚さを測定したところ、中間層の厚さは15μm、表面層の厚さは90μmであった。
【0055】
[積層フィルムST6]
樹脂組成物として、PEI−1を6kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し60質量%)、PEI−2を1.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し15質量%)、PEEK−1を2.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計質量に対し25質量%)、用いた。また、充填材C3を1.5kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し15質量部)、固体潤滑剤D2を1kg(PEI−1、PEI−2およびPEEK−1の合計100質量部に対し10質量部)添加した。樹脂組成物、充填材および固体潤滑剤をサイドフィード付きの二軸押出機を用いて設定温度390℃で混練してストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。このペレットを180℃で8時間熱風乾燥し、390℃に設定した口径30mmφの単軸押出機を接続したマルチマニホールド式のダイ(設定温度390℃)より中間層として押し出した。
また、10kgのPEEK−1(100質量部)に、充填材C3を0.5kg(100質量部のPEEK−1に対し5質量部)、固体潤滑剤D1を2kg(100質量部のPEEK−1に対し20質量部)と固体潤滑剤D2を0.5kg(100質量部のPEEK−1に対し5質量部)添加し、サイドフィード付きの二軸押出機を用いて設定温度390℃で混練してストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。このペレットを180℃で8時間熱風乾燥し、390℃に設定した口径30mmφの単軸押出機を接続したマルチマニホールドダイ(設定温度390℃)より表面層として押し出した。
積層フィルムST1と同様の手順で、中間層と表面層とを共押出し、積層フィルムST6を得た。この際、中間層と表面層の厚さ比が57:43、積層フィルムの厚さが70μmとなるように溶融樹脂の吐出量とライン速度を調整した。
なお、得られた積層フィルムの断面を顕微鏡により拡大して観察し、各層の厚さを測定したところ、中間層の厚さは40μm、表面層の厚さは30μmであった。
【0056】
[摺動部材の作製]
上記フィルムS1〜S13、T1〜T13およびST1〜ST6を用いて、試料1〜21までの摺動部材を作製した。また、比較のために、試料1’および試料3’を作製した。以下に作製手順を示す。
[試料1]
下記の順番に重ね合わせたものを、高性能高温真空プレス成形機(北川精機株式会社製成型プレス「VH1−1747」)内にセットし、設定最高温度360℃、設定最高温度保持時間20分、設定圧力9.7MPa(下記(4)と(5)との間での圧力は約3.9MPa)にてプレス成形し、基材と摺動層(中間層および表面層)とからなる試料1を得た。
(1)両面を35μmの銅箔で覆った一辺が約30cmの正方形で、厚さ1.6mmのクッション紙(三菱製紙株式会社製「RAボード RAB N 0016」)、(2)一辺が約30cmの正方形で、厚さ2mmのステンレス鋼板、(3)縦30cm、横25cmの長方形で、厚さ50μmのポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製「ユーピレックス50S」)、(4)一辺が22cmの正方形に加工した基材A1、(5)一辺が24cmの正方形に加工したフィルムS1(中間層)、(6)一辺が24cmの正方形に加工したフィルムT1(表面層)、(7)上記(3)と同様のポリイミドフィルム、(8)上記(2)と同様のステンレス板、(9)上記(1)と同様のクッション紙。
上記(4)は、クロロホルム洗浄により脱脂を行った。また、上記(1)〜(9)は、重ね合わせる前に少量のエタノールをしみこませたワイピング紙で表面の汚れや異物を取り除いた。さらに、上記(3)〜(7)は、重ね合わせる前に、目視検査により表裏の異物を確認し、少量のエタノールをしみこませたワイピングクロス(帝人株式会社製「ミクロスターCP」)を用いてその異物を拭き取った後、再度目視検査を行い、異物が除去できたことを確認した後に重ね合わせた。
試料1の断面を顕微鏡にて観察し、各層の厚さを測定したところ、基材0.4mm、中間層96μm、表面層107μmであった。
【0057】
[試料2]
基材をA2とし、中間層用フィルムをS2、表面層用フィルムをT2に変更した以外は、試料1と同様のプレス成形を行い、試料2を得た。試料2の各層の厚さは、基材0.4mm、中間層33μm、表面層38μmであった。
[試料3]
基材をA3とし、中間層用フィルムをS3、表面層用フィルムをT3に変更した以外は、試料1と同様のプレス成形を行い、試料3を得た。試料3の各層の厚さは、基材0.5mm、中間層76μm、表面層27μmであった。
[試料4]
中間層用フィルムをS4、表面層用フィルムをT4に変更した以外は、試料1と同様のプレス成形を行い、試料4を得た。各層の厚さは、基材0.4mm、中間層46μm、表面層66μmであった。
[試料5]
基材をA4とし、中間層用フィルムをS5、表面層用フィルムをT5に変更した以外は、試料1と同様のプレス成形を行い、試料5を得た。各層の厚さは、基材0.3mm、中間層45μm、表面層47μmであった。
[試料6]
中間層用フィルムをS6、表面層用フィルムをT6に変更した以外は、試料1と同様のプレス成形を行い、試料6を得た。各層の厚さは、基材0.4mm、中間層24μm、表面層55μmであった。
[試料7]
中間層用フィルムをS7、表面層用フィルムをT7に変更した以外は、試料1と同様のプレス成形を行い、試料7を得た。各層の厚さは、基材0.4mm、中間層20μm、表面層96μmであった。
[試料8]
基材をA2とし、中間層用フィルムをS8、表面層用フィルムをT8に変更した以外は、試料1と同様のプレス成形を行い、試料8を得た。各層の厚さは、基材0.4mm、中間層45μm、表面層31μmであった。
【0058】
[試料1’]
表面層用フィルムを使用しない点以外は、試料1と同様のプレス成形を行い、試料1’を得た。各層の厚さは、基材0.4mm、中間層96μmであった。
[試料3’]
中間層用フィルムを使用せず、表面層用フィルムをTR1に変更した以外は、試料1と同様のプレス成形を行い、試料3’を得た。各層の厚さは、基材0.4mm、表面層106μmであった。基材とTR1とが接着不良であったため、その他の評価は行わなかった。
【0059】
[試料9]
中間層用フィルムS1と表面層用フィルムT1を積層フィルムST1に変更し、積層フィルムの中間層が基材A1に接触するように重ね、プレス積層時の設定最高温度を250℃、設定最高温度保持時間を30分に変更したほかは、試料1と同様の操作によりプレス成形し、試料9を得た。各層の厚さは、基材0.4mm、中間層6μm、表面層39μmであった。
[試料10]
積層フィルムをST2とし、試料9と同様の操作を行い試料10を得た。各層の厚さは、基材0.4mm、中間層11μm、表面層86μmであった。
[試料11]
積層フィルムをST3とし、試料9と同様の操作を行い試料11を得た。各層の厚さは、基材0.4mm、中間層35μm、表面層26μmであった。
[試料12]
下記の順番に重ね合わせたものを、上記高性能高温真空プレス成形機内にセットし、設定最高温度360℃、設定最高温度保持時間30分、設定圧カ5.2MPa(下記(3’)と(4’)との間での圧カは約3.9MPa)にてプレス成形し、試料12を得た。
(1’)一辺が約30cmの正方形で、厚さ1.5mmのステンレス鋼板(2’)両面を35μmの銅箔で覆った一辺が約20cmの正方形で、厚さ1.6mmの上記クッション紙、(3’)一辺が16cmの正方形に加工した基材A5、(4’)一辺が18cmの正方形に加工したフィルムS9(中間層)、(5’)一辺が18cmの正方形に加工したフィルムT9(表面層)、(6’)一辺が20cmの正方形で厚さ50μmの上記ポリイミドフィルム、(7’)厚さ125μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製「カプトン500H」)、(8’)上記(6’)と同様のポリイミドフィルム、(9’)一辺が20cmの正方形で厚さ5mmのステンレス板(SUS304)、(10’)一辺が18cmの正方形で上記(1’)と同様のクッション紙。
上記(3’)は、クロロホルム洗浄により脱脂を行った。また、上記(1’)〜(10’)は、重ね合わせる前に少量のエタノールをしみこませたワイピング紙で表面の汚れや異物を取り除いた。さらに、上記(3’)は表面の埃や異物をゴム製ブロアーを用いて除去し、上記(1’)〜(8’)は、重ね合わせる前に、目視検査により表裏の異物を確認し、少量のエタノールをしみこませた上記ワイピングクロスを用いてその異物をふき取った後、再度目視検査を行い、異物が除去できたことを確認した後に重ね合わせた。
試料12の断面を顕微鏡にて観察し、各層の厚さを測定したところ、基材4mm、中間層46μm、表面層45μmであった。
【0060】
[試料13]
基材をA6とし、中間層用フィルムをS10、表面層用フィルムをT10に変更した以外は、試料12と同様のプレス成形を行い、試料13を得た。試料13の各層の厚さは、基材6mm、中間層20μm、表面層56μmであった。
[試料14]
基材をA6とし、中間層用フィルムをS11、表面層用フィルムをT11に変更した以外は、試料12と同様のプレス成形を行い、試料14を得た。各層の厚さは、基材6mm、中間層26μm、表面層35μmであった。
[試料15]
基材をA7とし、中間層用フィルムをS12、表面層用フィルムをT12に変更した以外は、試料12と同様のプレス成形を行い、試料15を得た。各層の厚さは、基材8mm、中間層24μm、表面層55μmであった。
[試料16]
基材をA6とし、中間層用フィルムをS13、表面層用フィルムをT13に変更した以外は、試料12と同様のプレス成形を行い、試料16を得た。各層の厚さは、基材6mm、中間層35μm、表面層64μmであった。
[試料17]
基材をA6とし、中間層用フィルムS9と表面層用フィルムT9を積層フィルムST4に変更し、積層フィルムの中間層が基材A6に接触するように重ね、プレス積層時の設定最高温度を250℃、設定最高温度保持時間を30分に変更したほかは、試料12と同様の操作によりプレス成形し、試料17を得た。各層の厚さは、基材6mm、中間層5μm、表面層21μmであった。
[試料18]
基材をA5、積層フィルムをST5に変更した他は、試料17と同様の操作を行い試料18を得た。各層の厚さは、基材4mm、中間層10μm、表面層85μmであった。
[試料19]
積層フィルムをST6に変更した他は、試料17と同様の操作を行い試料19を得た。各層の厚さは、基材6mm、中間層34μm、表面層26μmであった。
[試料20]
基材をA8、積層フィルムをST5に、またプレス成形時の設定最高温度を240℃に変更した他は、試料17と同様の操作を行い試料20を得た。各層の厚さは、基材8mm、中間層11μm、表面層85μmであった。
[試料21]
基材をA9、積層フィルムをST6に変更した他は、試料20と同様の操作を行い試料21を得た。各層の厚さは、基材6mm、中間層35μm、表面層25μmであった。
【0061】
[評価]
上記試料、また、各試料に使用した基材およびフィルムについての種々の測定値および評価は、以下のようにして行った。ここで、フィルムの押出機からの流れ方向を縦方向、その直交方向を横方向と呼ぶ。
【0062】
[シャーリング時の端部剥離]
基材の厚さが1mm以下の試料1〜11および試料1’、試料3’については、生野機械株式会社製のシャーリング(刃渡り約1000mm、足踏み式)を用い、積層体を幅3cm、長さ20cmの短冊状に3枚切断し、長辺端部に生じる剥離の有無を目視にて観察し、以下の4ランクに分けて評価した。なお、固定刃側の切断端部と可動刃側の切断部の剥離発生状態が異なる場合は、剥離の長さや幅が大きい方の端部の剥離状態を評価し、さらに、上記短冊状試験片切断後の残りの部分の切断端部剥離状態も観察し、剥離の長さや幅が大きければ、そのものを評価結果とした。
ランク1:端部の剥離が生じていないか、または、剥離幅の最大値が0.5mm以下。
ランク2:剥離幅の最大値が0.5mm超かつ1mm以下。
ランク3:剥がれが端部全体に生じており、剥離幅は少なくとも部分的に1mm超。
ランク4:シャーリングによる切断後、室温にて2日間状態調節中に、剥がれが端部から剥離幅1mmを超えて徐々に広がり、積層面の少なくとも10%が剥離する状態。
【0063】
また、基材の厚さが1mmを超える試料12〜試料21については、シャーリングにて切断できないので、カッターナイフにより摺動層に2cm間隔の平行な直線状の切れ目を3本入れ、さらに、それらの直線の中心付近に、それらの直線と直角方向に2cm間隔の直線状の切れ目を平行に3本入れ、剥離の状態を目視にて観察した。また、切れ目の部分にカッターナイフの先端を差し込んで、切れ目部分の剥離を試みた。切れ目部分に生じる剥離の有無を目視にて観察し、以下の4ランクに分けて評価した。
ランク1:切れ目の剥離が生じていないか、または、剥離幅の最大値が0.5mm以下。
ランク2:切れ目の剥離幅の最大値が0.5mm超かつ1mm以下。
ランク3:剥がれが切れ目全体に生じており、剥離幅は少なくとも部分的に1mm超。
ランク4:カッターナイフによる切断後、室温にて2日間状態調節中に、剥がれが切れ目部分から剥離幅1mmを超えて徐々に広がり、積層面の少なくとも10%が剥離する状態。
【0064】
[剥離強度]
基材の厚さが1mm以下の試料1〜11および試料1’、試料3’については、上記シャーリングにより、幅3cm、長さ20cmの短冊状に切断し、摺動層の長さ20cmの両辺端部より内側に5mmの位置にカッターナイフで直線の切り込みを作製し、さらに、長さ3cmの片方の辺より内側に約3〜5cmの位置に長さ3cmの辺にほぼ並行にカッターナイフで切れ目を作製し、その位置で基材の厚さ方向に繰り返し折り曲げて剥離強度測定用の剥離箇所を作製し、試験片とした。
また、基材の厚さが1mmを超える試料12〜試料21については、摺動層にカッターナイフにより2cm間隔の平行な直線状の切れ目を5本入れ、さらに、それらの直線の端部から2〜3cmの位置に、それらの直線と直角方向に直線状の切れ目を1本入れ、切れ目の部分にカッターナイフの先端を差し込んで、剥離箇所の作製を試みた。剥離箇所の作製中に摺動層が折れたり破断したものは材料強度より剥離強度が強いと判断し、材料破壊(表中「材破」と表示する)と判断した。
さらに、接着強度測定の目的で、剥離部分の摺動層を引っ張るために、幅18mmのセロハンテープを剥離部分に貼り付けて、引っ張り代を設けた。具体的には、幅18mmのセロハンテープ(ニチバンセロハンテープ「CT405A−18」)を長さ約33cmに切り取り、両端部約1.5cmを残して粘着面を内側にして中央で2つ折りにして貼り合わせ、両端部を、上記剥離部分に貼り付け、幅18mm、長さ約15cmの引っ張り代とした。
剥離箇所から摺動層ないしは上記セロハンテープで試料の面と垂直な方向に引っ張り、剥離箇所を広げた。剥離箇所が広がったものは、引っ張り試験機にて50mm/分の速度で180度方向に引っ張り、剥離強度を測定した。広げる操作中にフィルムが破れたものは材料強度より剥離強度が強いと判断し、材料破壊(「材破」と略記する。)と判断した。
【0065】
[摩擦係数測定]
JIS K 7125−1987に準じ、静摩擦係数と動摩擦係数を測定した。
[鉛筆硬度]
JIS K 3312−1994に準じ、鉛筆硬度を測定した。
[積層体に使用した基材の表面粗さ]
小坂研究所株式会社製表面粗さ測定装置「SE3−FK」を使用し、JIS B0601−1994に規定される表面粗さパラメータを測定した。測定したパラメータは、十点平均粗さ(Rz)、最大高さ(Ry)、算術平均粗さ(Ra)である。
【0066】
[耐溶剤性]
各試料を室温にて8時間クロロホルム中に浸漬し、表面外観の変化を目視にて観察し、未浸漬の試料と比較して、以下の5ランクに分けて評価した。
ランク1:外観変化が無い。
ランク2:表面の光沢が変化する。
ランク3:表面荒れが部分的に生じる。
ランク4:表面荒れが全体に生じる。
ランク5:少なくとも部分的に溶解する。
評価結果を表1〜表4に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
中間層と表面層とからなる摺動層をもつ試料1〜21は、表面層のみをもつ試料3’よりも、金属製の基材と摺動層(中間層)との密着性が優れる(剥離強度が強い)。さらに、プレス成形の際の設定温度を250℃以下としても、基材と中間層との密着性に優れた摺動部材が得られた(試料9〜11、17〜21)。試料9〜11、17〜21では、低温でのプレス成形により、プレス成形の熱による基材の強度の劣化を良好に防止することができた。
また、試料1〜21は、中間層のみをもつ試料1’よりも、摺動特性に優れる。さらに、中間層および/または表面層に固体潤滑剤(D1、D2、D3)を含む摺動部材は、静摩擦係数および動摩擦係数が低く、優れた摺動特性を示した。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の基材と、該基材の少なくとも一面に形成され、熱可塑性ポリイミド樹脂およびポリアリールケトン樹脂を含む第一樹脂組成物からなる中間層と、該中間層の上に形成されポリアリールケトン樹脂を含む第二樹脂組成物からなる表面層と、を有することを特徴とする圧縮機の摺動部材。
【請求項2】
前記表面層は、前記第二樹脂組成物を100質量部としたときに前記固体潤滑剤を400質量部以下含む請求項1に記載の圧縮機の摺動部材。
【請求項3】
前記固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレン、黒鉛、および二硫化モリブデンのうちの少なくとも1種を含む請求項2に記載の圧縮機の摺動部材。
【請求項4】
前記中間層は、前記第一樹脂組成物を100質量部としたときに無機充填材を100質量部以下含む請求項1に記載の圧縮機の摺動部材。
【請求項5】
前記表面層は、前記第二樹脂組成物を100質量部としたときに無機充填材を100質量部以下含む請求項1に記載の圧縮機の摺動部材。
【請求項6】
前記無機充填材が、マイカである請求項4または5に記載の圧縮機の摺動部材。
【請求項7】
前記ポリイミド樹脂が、構造式(1)および/または構造式(2)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルイミド樹脂であり、
前記ポリアリールケトン樹脂は、構造式(3)で表されるポリエーテルエーテルケトン樹脂である請求項1に記載の圧縮機の摺動部材。
【化1】

【請求項8】
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性ポリイミド樹脂と前記ポリアリールケトン樹脂との質量比が95:5〜5:95である請求項1に記載の圧縮機の摺動部材。
【請求項9】
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性ポリイミド樹脂と前記ポリアリールケトン樹脂との質量比が95:5〜45:55である請求項1に記載の圧縮機の摺動部材。
【請求項10】
前記中間層の厚さが、0.1〜800μmであり、前記表面層の厚さが1〜1000μmである請求項1に記載の圧縮機の摺動部材。
【請求項11】
前記中間層と前記表層との厚さの比率が、1/99〜99/1の範囲である請求項1に記載の圧縮機の摺動部材。
【請求項12】
前記摺動部材は、斜板式圧縮機の斜板である請求項1に記載の圧縮機の摺動部材。
【請求項13】
前記摺動部材は、圧縮機のシューである請求項1に記載の圧縮機の摺動部材。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の前記摺動部材を有する圧縮機。


【公開番号】特開2006−45493(P2006−45493A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34522(P2005−34522)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】