説明

圧縮機

【課題】駆動軸の軸受部の磨耗が進行して駆動軸と軸受との間の隙間が大きくなった時に、仮に圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時においても、圧縮機内部の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができる圧縮機を提供することにある。
【解決手段】圧縮された冷媒ガスがエゼクタ機構91を通過する際に発生する吸引力によって、潤滑油が給油路61を上昇する。また、駆動軸17の軸回転運動による粘性ポンプ作用によって、潤滑油が主軸螺旋溝及び偏心軸螺旋溝を伝って駆動軸17の上端まで上昇する。これにより、第1摺動部R1、第2摺動部R2及び圧縮機構15の摺動部に潤滑油が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧縮機に関し、特に、圧縮機内部の摺動部へ潤滑油を確実に供給する機構を備える圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、冷媒ガスが冷凍サイクルを繰り返す冷媒回路を構成する圧縮機では、圧縮機内部の摺動部の潤滑性を高めるために、冷凍機油などの潤滑油が用いられている。従来、圧縮機の一種であるスクロール圧縮機では、互いに噛み合う渦巻形状のラップを有する固定スクロール及び旋回スクロールから構成される圧縮機構の摺動部に、圧縮機内部で発生する差圧を利用して潤滑油を供給する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1(特許第3731069号)の図3に例示されるスクロール圧縮機では、鉛直方向に配設された駆動軸内の給油孔を介して、潤滑油がそれぞれの摺動部に供給される。このスクロール圧縮機では、給油孔の下端が、冷媒ガスの吐出圧力下にある潤滑油溜りに連通し、給油孔の上端が、可動スクロールの鏡板内に設けられたスパイラル状通路を介して旋回スクロール及び固定スクロールの鏡板間のスラスト軸受に連通している。このスラスト軸受の摺接面には、略リング状の溝が設けられている。この溝に高圧の潤滑油を供給することで、旋回スクロールを固定スクロールから引き離す押し返し力が旋回スクロールに作用して、スラスト軸受荷重が低減される。また、スラスト軸受の摺接面は、微小な油膜隙間を介して低圧空間に通じているので、結果的に給油孔内に圧力差が生じる。潤滑油溜りの潤滑油は、この圧力差によって給油孔内を上昇し、駆動軸の各ジャーナル軸受(第3軸受部、第1軸受部、第2軸受部)の高さ位置で水平に分岐された後、各ジャーナル軸受にそれぞれ供給されて、最後にスラスト軸受に供給される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のスクロール圧縮機では、長時間の運転により駆動軸のジャーナル軸受部の摩耗が進行すると、駆動軸と軸受との隙間が大きくなってしまう。その際、特に圧縮機の起動時など低速度及び低差圧の状態においては、潤滑油が給油孔内を上昇する力が小さく、かつ、各ジャーナル軸受位置での水平給油孔内の潤滑油に作用する遠心力が小さい。そのため、拡大した軸受隙間から高圧冷媒ガスが入り込み、水平給油孔を逆流し、スラスト軸受を介して低圧空間に向かう流れが生じ易くなる。一旦、水平給油孔内の逆流が起こると、高圧冷媒ガスの流れの動圧によってジャーナル軸受への潤滑油の供給が阻害されると共に、冷媒ガス成分が支配的な潤滑油の流れがスラスト軸受へ生じる。その結果、駆動軸の各ジャーナル軸受部及びスラスト軸受に潤滑油が充分に供給されないために、軸受が損傷する問題が生じる。
【0005】
従って、従来のスクロール圧縮機では、駆動軸のジャーナル軸受部の摩耗が進行すると、圧縮機内の摺動部に潤滑油が充分に供給されないことにより、摺動部を構成する部品の劣化が加速されると共に、スラスト軸受面での押し返し力の低下によるスラスト軸受摺動損失が増加してしまう。
【0006】
本発明の目的は、駆動軸のジャーナル軸受部の摩耗が進行して駆動軸と軸受との間の隙間が大きくなった時に、圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時においても、圧縮機内部の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができる圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係る圧縮機は、密閉容器と、圧縮機構と、駆動軸と、第1軸受部と、第1給油機構とを備える。密閉容器は、潤滑油を底部に貯留する。圧縮機構は、密閉容器の内部に収容される。駆動軸は、密閉容器の内部に収容され、圧縮機構と連結される。第1軸受部は、駆動軸を回転自在に支持する。第1給油機構は、駆動軸と第1軸受部とが摺動する第1摺動部に、油貯留部に貯留される潤滑油を、駆動軸の軸回転運動によって供給する。
【0008】
さらに、第1発明に係る圧縮機は、駆動軸が第1給油孔を有する。第1給油孔は、第1摺動部に開口し油貯留部と連通する。第1給油機構がエゼクタ機構を有する。エゼクタ機構は、密閉容器の内部の高圧空間に形成され、冷媒加速流路と油吸引流路とを有する。冷媒加速流路では、圧縮機構から吐出される高圧冷媒ガスが狭窄部を介して流れることにより、高圧冷媒ガスの流速が増大される。油吸引流路は、第1給油孔と連通し、冷媒加速流路と合流する。
【0009】
この圧縮機では、密閉容器の底部に貯留される潤滑油が、駆動軸の軸回転運動によって第1摺動部に供給される。また、この圧縮機では、圧縮機構によって圧縮された冷媒ガスがエゼクタ機構の狭窄部を通過することによって、冷媒加速流路を流れる冷媒ガスの流速が増大され、エゼクタ効果によって冷媒加速流路と合流する油吸引流路に負圧が発生する。その結果、第1給油孔から油吸引流路へ吸引力が発生するので、潤滑油が第1給油孔から油吸引流路へ吸引される。その際、第1給油孔は第1摺動部に開口しているので、潤滑油は第1摺動部に供給される。すなわち、この圧縮機では、第1給油孔内に生じる差圧を利用することなく、第1摺動部に潤滑油を供給することができる。
【0010】
従って、第1発明に係る圧縮機は、駆動軸の軸受部の磨耗が進行して駆動軸と軸受との間の隙間が大きくなった時に、仮に圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時において、圧縮機構から吐出される冷媒ガスと圧縮機構に吸入される冷媒ガスとの圧力差が充分に生じていない場合であっても、圧縮機内部の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができる。
【0011】
第2発明に係る圧縮機は、第1発明に係る圧縮機であって、第1給油機構が第1給油溝を有する。第1給油溝は、第1摺動部において駆動軸の外周面に形成される螺旋状の溝である。
【0012】
この圧縮機では、駆動軸と第1軸受部とが摺動する第1摺動部に第1給油溝が螺旋状に形成される。これにより、この圧縮機では、駆動軸が軸回転運動をすると、第1給油溝の下端部に供給された潤滑油が、粘性ポンプ効果によって第1給油溝の上端部へ上昇する。その結果、潤滑油が第1摺動部全体に供給される。
【0013】
従って、第2発明に係る圧縮機は、駆動軸の軸受部の磨耗が進行して駆動軸と軸受との間の隙間が大きくなった時に、仮に圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時において、圧縮機構から吐出される冷媒ガスと圧縮機構に吸入される冷媒ガスとの圧力差が充分に生じていない場合であっても、圧縮機内部の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができる。
【0014】
第3発明に係る圧縮機は、第1発明又は第2発明に係る圧縮機であって、駆動軸が第1給油孔を有する。第1給油孔は、第1摺動部に開口し油貯留部と連通する。また、第1給油機構が、螺旋状に捩られた板部材を有する。板部材は、第1給油孔に配設される。
【0015】
この圧縮機では、螺旋状に捩られた板部材が第1給油孔に嵌入されている。第1給油孔の下端部は密閉容器の底部に貯留される潤滑油の中にあり、板部材の下端部に付着した潤滑油は、駆動軸の軸回転運動によって、板部材の螺旋形状を伝って第1給油孔内を上昇する。その後、潤滑油は、第1摺動部に供給される。すなわち、この圧縮機では、第1給油孔内に生じる差圧を利用することなく、第1摺動部に潤滑油を供給することができる。
【0016】
従って、第3発明に係る圧縮機は、駆動軸の軸受部の磨耗が進行して駆動軸と軸受との間の隙間が大きくなった時に、仮に圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時において、圧縮機構から吐出される冷媒ガスと圧縮機構に吸入される冷媒ガスとの圧力差が充分に生じていない場合であっても、圧縮機内部の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができる。
【0017】
第4発明に係る圧縮機は、第1発明乃至第3発明のいずれかに係る圧縮機であって、第2給油機構をさらに備える。第2給油機構は、駆動軸の軸回転運動によって圧縮機構に潤滑油を供給する。圧縮機構は、固定スクロールと旋回スクロールとから構成される。固定スクロールは、第1板状渦巻歯を有し、旋回スクロールは、第1板状渦巻歯と噛合する第2板状渦巻歯を有する。また、旋回スクロールは、第2軸受部と第2給油孔を有する。第2軸受部は、駆動軸が嵌合される。第2給油孔は、固定スクロールと旋回スクロールとの摺動面に開口し、第2軸受部の内側の空間と連通する。第2給油機構は、駆動軸と第2軸受部とが摺動する第2摺動部に、潤滑油を供給する。
【0018】
この圧縮機では、第1発明と同様に、駆動軸の軸回転運動によって、第2摺動部に潤滑油が供給される。すなわち、この圧縮機では、第1給油孔内に生じる差圧を利用することなく、第1摺動部及び第2摺動部に潤滑油を供給することができる。
【0019】
従って、第4発明に係る圧縮機は、駆動軸の軸受部の磨耗が進行して駆動軸と軸受との間の隙間が大きくなった時に、仮に圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時において、圧縮機構から吐出される冷媒ガスと圧縮機構に吸入される冷媒ガスとの圧力差が充分に生じていない場合であっても、圧縮機内部の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができる。
【0020】
第5発明に係る圧縮機は、第4発明に係る圧縮機であって、第2給油機構は第2給油溝を有する。第2給油溝は、第2摺動部において駆動軸の外周面に形成される螺旋状の溝である。
【0021】
この圧縮機では、駆動軸と第2軸受部とが摺動する第2摺動部に第2給油溝が螺旋状に形成される。これにより、この圧縮機では、駆動軸が軸回転運動をすると、第2給油溝の下端部に供給された潤滑油が、粘性ポンプ効果によって第2給油溝の上端部へ上昇する。その結果、潤滑油が第2摺動部全体に供給される。
【0022】
従って、第5発明に係る圧縮機は、駆動軸の軸受部の磨耗が進行して駆動軸と軸受との間の隙間が大きくなった時に、仮に圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時において、圧縮機構から吐出される冷媒ガスと圧縮機構に吸入される冷媒ガスとの圧力差が充分に生じていない場合であっても、圧縮機内部の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができる。
【0023】
第6発明に係る圧縮機は、第4発明又は第5発明に係る圧縮機であって、第1軸受部を有するフレームをさらに備える。フレームは、駆動軸と共に潤滑油を貯留する油溜空間を形成する。第1給油機構は、第1摺動部に供給される潤滑油を、油溜空間に供給する。第2給油機構は、油溜空間に供給される潤滑油を、第2摺動部に供給する。
【0024】
この圧縮機では、フレームの上面に凹部が形成されており、第1摺動部に供給された潤滑油は、駆動軸の軸回転運動によって、凹部と駆動軸とによって形成される窪みである油溜空間に供給され貯留される。そして、油溜空間の潤滑油は、駆動軸の軸回転運動によって、第2摺動部に供給される。すなわち、この圧縮機では、第1給油孔内に生じる差圧を利用することなく、第1摺動部及び第2摺動部に潤滑油を供給することができる。
【0025】
従って、第6発明に係る圧縮機は、駆動軸の軸受部の磨耗が進行して駆動軸と軸受との間の隙間が大きくなった時に、仮に圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時において、圧縮機構から吐出される冷媒ガスと圧縮機構に吸入される冷媒ガスとの圧力差が充分に生じていない場合であっても、圧縮機内部の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る圧縮機は、駆動軸の軸受部の磨耗が進行して駆動軸と軸受との間の隙間が大きくなった時に、仮に圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時において、圧縮機構から吐出される冷媒ガスと圧縮機構に吸入される冷媒ガスとの圧力差が充分に生じていない場合であっても、圧縮機内部の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る駆動軸上部の斜視図である。図2(A)は前面図、図2(B)は背面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るエゼクタ機構近傍の拡大図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るガスガイドの斜視図である。図4(A)は前面図、図4(B)は背面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る縮流板の斜視図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る縮流板を組み合わせたガスガイドの斜視図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る主フレームの斜視図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係る主フレーム、ガスガイド及び縮流板の組み合わせを表す斜視図である。
【図9】本発明の第1実施形態の変形例1Aに係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る螺旋デバイダの斜視図である。
【図12】本発明の第1参考例に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図13】本発明の第2参考例に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。
【図14】本発明の第2参考例に係る駆動軸上部の斜視図である。図14(A)は前面図、図14(B)は背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
―第1実施形態―
本発明の第1実施形態に係る圧縮機について、図1乃至図8を参照しながら説明する。なお、本実施形態に係る圧縮機は、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機であり、凝縮器、膨張機構、蒸発器などと共に冷媒回路を構成し、その冷媒回路中の冷媒ガスを圧縮する。
【0029】
〔構成〕
本実施形態に係るスクロール圧縮機101の構成について説明する。スクロール圧縮機101の縦断面図を図1に示す。以下、スクロール圧縮機101の構成部品について、それぞれ詳述する。
【0030】
(1)ケーシング
ケーシング10は、略円筒状の胴部ケーシング部11と、胴部ケーシング部11の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁部12と、胴部ケーシング部11の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁部13とを有する。ケーシング10は、ケーシング10内外において圧力及び温度が変化した場合に変形及び破損が起こりにくい剛性部材で成型される。また、ケーシング10は、胴部ケーシング部11の略円筒状の軸方向が鉛直方向に沿うように設置される。ケーシング10内には、冷媒ガスを圧縮する圧縮機構15と、圧縮機構15の下方に配置される駆動モータ16と、ケーシング10内を上下方向に延びるように配置される駆動軸17などが収容されている。
【0031】
(2)圧縮機構
圧縮機構15は、固定スクロール24と、旋回スクロール26とから構成されている。
【0032】
固定スクロール24は、第1鏡板24aと、第1鏡板24aに直立して形成されている渦巻形状(インボリュート状)の第1ラップ24bとを有している。固定スクロール24には、主吸入孔(図示せず)と、主吸入孔に隣接する補助吸入孔(図示せず)とが形成されている。主吸入孔により、後述する吸入管19と後述する圧縮室40とが連通され、補助吸入孔により、後述する低圧空間S2と後述する圧縮室40とが連通される。また、第1鏡板24aの中央部には、吐出孔41が形成され、第1鏡板24aの上面には、吐出孔41に連通する拡大凹部42が形成されている。拡大凹部42は、第1鏡板24aの上面に凹設された水平方向に広がる凹部により構成されている。そして、固定スクロール24の上面には、この拡大凹部42を塞ぐように蓋体44がボルト44aにより締結固定されている。そして、拡大凹部42に蓋体44が覆い被せられることにより圧縮機構15の運転音を消音させる膨張室からなるマフラー空間45が形成されている。固定スクロール24と蓋体44とは、ガスケット(図示せず)を介して密着させることによりシールされている。また、固定スクロール24には、マフラー空間45と連通して固定スクロール24の下面に開口する第1連絡通路46が形成されている。さらに、第1鏡板24aの下面外周部には、第1ラップ24bの外側に略リング状の環状油溝24cが形成されている。
【0033】
旋回スクロール26は、第2鏡板26aと、第2鏡板26aに直立して形成されている渦巻形状(インボリュート状)の第2ラップ26bとを有している。第2鏡板26aの下面中央部には、第2軸受部26cが形成されている。また、第2鏡板26aには、給油細孔63が形成されている。給油細孔63は、第2軸受部26cの内側にある第2鏡板26aの下面、及び、第2鏡板26aの上面外周部に開口し、第2軸受部26cの内側空間と固定スクロール24の環状油溝24cとを連通する。
【0034】
固定スクロール24と旋回スクロール26は、第1ラップ24bと第2ラップ26bとが噛合することにより、第1鏡板24a、第1ラップ24b、第2鏡板26a及び第2ラップ26bによって囲まれる圧縮室40を形成する。
【0035】
(3)主フレーム
主フレーム23は、圧縮機構15の下方に配設され、その外周面においてケーシング10の内壁に気密状に接合されている。このため、ケーシング10の内部は、主フレーム23下方の高圧空間S1と、主フレーム23上方の低圧区間S2とに区画されている。主フレーム23は、主フレーム23の上面に凹設されている主フレーム凹部31と、主フレーム23の下面から下方に延設されている第1軸受部32とを有している。この第1軸受部32には、上下方向に貫通する第1軸受孔33が形成されている。また、主フレーム23は、ボルトなどで固定することによって固定スクロール24を載置し、後述するオルダム継手39を介して固定スクロール24と共に旋回スクロール26を挟持している。
【0036】
第1軸受部32の下端部には、油吸引横孔81が水平方向に形成されている。油吸引横孔81は、第1軸受孔33の下端部と、第1軸受部32外部の高圧空間S1とを水平方向に連通する。主フレーム23の中央部には、油戻し通路82が水平方向に形成されている。また、主フレーム23の外周部には、油戻し通路82と連通する副油戻し通路35が鉛直方向に形成されている。油戻し通路82は、主フレーム凹部31と連通すると共に、副油戻し通路35を介して高圧空間S1とを連通する。なお、油戻し通路82の下面は、主フレーム凹部31の下面より高い位置にある。また、第2軸受部26cの下端は、油戻し通路82の下面より低い位置にある。以下、主フレーム凹部31の底部にある、油戻し通路82の下面より低い位置にある空間を油溜空間S3という。また、主フレーム23の外周部には、上下方向に第2連絡通路48が貫通して形成されている。この第2連絡通路48は、主フレーム23の上面において第1連絡通路46と連通し、主フレーム23の下面において吐出口49を介して高圧空間S1と連通する。
【0037】
(4)オルダム継手
オルダム継手39は、旋回スクロール26の自転運動を防止するためのリング状部材であって、主フレーム23に形成される長円形状のオルダム溝26dに嵌め込まれている。
【0038】
(5)駆動モータ
駆動モータ16は、主フレーム23の下方に配設されるブラシレスDCモータである。駆動モータ16は、ケーシング10の内壁に固定されるステータ51と、このステータ51の内側に僅かな間隙を備えて回転自在に収容されるロータ52により構成されている。
【0039】
ステータ51には、ティース部に銅線が巻回されており、上方および下方にコイルエンド53が形成されている。また、ステータ51の外周面には、ステータ51の上端面から下端面に亘り、かつ、周方向に所定間隔をおいて複数個所に切欠形成されているコアカット部が設けられている。そして、このコアカット部により、胴部ケーシング部11とステータ51との間に上下方向に延びるモータ冷却通路55が形成されている。
【0040】
ロータ52は、その回転中心において、後述する駆動軸17を介して旋回スクロール26に連結されている。
【0041】
(6)副フレーム
副フレーム60は、駆動モータ16の下方に配設されている。副フレーム60は、胴部ケーシング部11に固定されていると共に、第3軸受部60aを有している。
【0042】
(7)油分離板
油分離板73は、ケーシング10内における駆動モータ16の下方に配置され、副フレーム60の上面側に固定されている板状の部材である。油分離板73は、下降する圧縮された冷媒ガス中に含まれる潤滑油を分離し、分離された潤滑油は、ケーシング10底部の油溜まりPへ落下する。
【0043】
(8)油戻しガイド
油戻しガイド71は、主フレーム23の副油戻し通路35とモータ冷却通路55の上部開口部との間を連通する流路を形成する部材である。油戻しガイド71は、金属薄板等で成形されており、主フレーム23と駆動モータ16との間の高圧空間S1に配置されるように、胴部ケーシング部11の内面に固定されている。
【0044】
(9)駆動軸
駆動軸17は、圧縮機構15と駆動モータ16とを連結し、ケーシング10内を上下方向に延びるように配置されている。駆動軸17は、第1軸受部32に回転自在に嵌合される部分である主軸部17aと、第2軸受部26cに嵌入される部分である偏心軸部17bとを有している。偏心軸部17bは、主軸部17aの上端面から上方へ延設して形成されている。また、偏心軸部17bの軸心は、主軸部17aの軸心に対して離れた位置にある。図1に示されるように、主軸部17aの上端面は、主フレーム凹部31の下面と同じ高さに位置し、偏心軸部17bの上端面は、第2鏡板26aの下面と油室83を形成する。
【0045】
駆動軸17は、軸方向に形成される給油路61と、軸径方向に形成される第1給油横孔61a及び第2給油横孔61bとを内部に有している。また、駆動軸17は、図2に示されるように、主軸部17aの外周部を一周するように形成されている円周溝62を有している。この円周溝62は、図1に示されるように、主フレーム23の油吸引横孔81と同じ高さとなる位置に形成されている。第1給油横孔61aは、給油路61と円周溝62とを水平方向に連通可能な位置に形成されている。第2給油横孔61bは、給油路61と水平方向に連通し、第3軸受部60aと摺動する駆動軸17の外周面に開口する。
【0046】
また、駆動軸17は、図2に示されるように、主軸部17aの外周部に螺旋状に形成される主軸螺旋溝64と、偏心軸部17bの外周部に螺旋状に形成される偏心軸螺旋溝65と有している。主軸螺旋溝64は、円周溝62と接続し、円周溝62から主軸部17aの上端まで形成され、偏心軸螺旋溝65は、偏心軸部17bの下端から偏心軸部17bの上端まで形成されている。主軸螺旋溝64及び偏心軸螺旋溝65は、後述するように、粘性ポンプ作用によって潤滑油が上昇する作用を備えるように、下端から上端に向かって、駆動軸17の軸回転方向とは逆の方向に螺旋を描くように形成されている。例えば、図2においては、主軸螺旋溝64及び偏心軸螺旋溝65は、下端から上端に向かって時計回りに螺旋が形成されているので、駆動軸17は反時計回りに軸回転運動をする。
【0047】
(10)エゼクタ機構
エゼクタ機構91は、主フレーム23の下面に開口する吐出口49の下方に位置する。エゼクタ機構91は、ガスガイド92と、縮流板93とから構成されている。図1に記載されているエゼクタ機構91の詳細を図3に示す。また、エゼクタ機構91を構成するガスガイド92及び縮流板93の斜視図を、それぞれ図4及び図5に示す。また、縮流板93と組み合わせたガスガイド92の斜視図を図6に示す。
【0048】
ガスガイド92は、図4に示されるように、第1流路形成部92aと、2枚の第1側壁部92bと、2枚の外壁部92cとから構成されている。2枚の第1側壁部92bは、第1流路形成部92aの両端部からそれぞれ延設されており、2枚の外壁部92cは、各第1側壁部92bの両端部からそれぞれ延設されている。第1流路形成部92aは、油吸引横孔81が開口する主フレーム23の外壁面の形状に合致する部分を有しており、ガスガイド92は、第1流路形成部92aのこの部分において主フレーム23の外壁面と完全に密着することができる。そして、第1流路形成部92aは、主フレーム23と密着させた場合に、主フレーム23の油吸引横孔81の開口部と同じ位置に油吸引穴92dを有している。なお、図3に示されるように、油吸引穴92dは、縮流板93の下端より上方に位置している。主フレーム23の斜視図を図7に示し、主フレーム23、ガスガイド92及び後述する縮流板93を組み合わせる際の位置関係を図8に示す。また、外壁部92cは、ケーシング10の内壁面の形状に合致する部分を有しており、ガスガイド92は、外壁部92cのこの部分においてケーシング10の内壁面と完全に密着することができる。なお、図1及び図3に示されるガスガイド92の形状は、第1流路形成部92aの縦断面の形状を表している。
【0049】
縮流板93は、図5に示されるように、第2流路形成部93a及び接着部93bから構成されている。縮流板93は、図6に示されるように、接着部93bをガスガイド92の第1流路形成部92aと密着させることで、ガスガイド92と組み合わせることができる。なお、図1及び図3に示される縮流板93の形状は、第2流路形成部93a及び接着部93bの縦断面の形状を表している。
【0050】
図3に示されるように、ケーシング10と縮流板93との間隔は、上方から下方に進むに従って徐々に狭くなっていく。この間隔が最小となる部分が、狭窄部94である。圧縮機構15によって圧縮された冷媒ガスは、吐出孔41、マフラー空間45、第1連絡通路46及び第2連絡通路48を順に経由して吐出口49から高圧空間S1へ流入される。高圧空間S1へ流入された冷媒ガスは、図3に示される冷媒加速流路95aを通過する際に、この狭窄部94を通過することで流速が増大される。
【0051】
また、図3に示されるように、油吸引流路95bが、ガスガイド92と縮流板93との間の空間を流れる。冷媒加速流路95aを流れる冷媒ガスは、狭窄部94を通過した先で油吸引流路95bと合流する。
【0052】
(11)吸入管
吸入管19は、冷媒ガスを圧縮機構15に導くための部材であって、ケーシング10の上壁部12に気密状に嵌入されている。
【0053】
(12)吐出管
吐出管(図示せず)は、圧縮された冷媒ガスをケーシング10から吐出させるための部材であって、ケーシング10の胴部ケーシング部11における高圧空間S1の位置に気密状に嵌入されている。
【0054】
〔動作〕
本実施形態に係るスクロール圧縮機101の運転動作について説明する。
【0055】
最初に、スクロール圧縮機101内の冷媒ガスの流れについて説明する。駆動モータ16を起動すると、ロータ52の回転に伴って駆動軸17が軸回転運動を始める。駆動軸17の軸回転力は、第2軸受部26cを介して旋回スクロール26に伝達される。旋回スクロール26は、オルダム継手39によって自転運動が禁止されているので、駆動軸17の軸回転中心の周りで自転運動を行うことなく公転運動を行う。一方、冷媒ガスは、吸入管19から主吸入孔を経由して、又は、低圧空間S2から補助吸入孔を経由して、圧縮機構15の圧縮室40に供給される。旋回スクロール26の旋回運動により、圧縮室40は体積を徐々に減少させながら固定スクロール24の外周部から中心部へ向かって移動する。その結果、圧縮室40内の冷媒ガスは、圧縮されて吐出孔41からマフラー空間45へ吐出される。圧縮された冷媒ガスは、第1連絡通路46及び第2連絡通路48を経由して吐出口49から高圧空間S1へ流入し、エゼクタ機構91を通過して最終的に吐出管から吐出される。そして、スクロール圧縮機101から吐出された冷媒ガスは、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を経由して、スクロール圧縮機101の吸入管19に導かれる冷凍サイクルを繰り返す。
【0056】
次に、スクロール圧縮機101内の摺動部に潤滑油が供給される過程について図3を参照しながら説明する。圧縮機構15で圧縮された冷媒ガスは、エゼクタ機構91を通過する際に冷媒加速流路95aを流れる。このとき、冷媒ガスが狭窄部94を通過することによって冷媒ガスの流路が絞られるので、冷媒ガスの流速が増大される。冷媒加速流路95aは油吸引流路95bと合流するので、エゼクタ効果により油吸引流路95bに負圧が発生する。本実施形態では、図3に示されるように、冷媒ガスが狭窄部94を通過した先の空間において、冷媒加速流路95aが油吸引流路95bと合流する。そして、油吸引流路95bに発生した負圧により、油吸引流路95bと連通する油吸引横孔81内において油吸引流路95bへ向かう吸引力が発生する。油吸引横孔81は、円周溝62及び第1給油横孔61aを介して、給油路61と連通しているので、給油路61内において、第1給油横孔61aへ向かう上向きの吸引力が発生する。この吸引力により、油溜まりPに貯留される潤滑油は、給油路61内を上昇し、第1給油横孔61aを経由して円周溝62に供給される。なお、潤滑油は、給油路61内を上昇する際に、第2給油横孔61bを経由して、駆動軸17と第3軸受部60aとが摺動する第3摺動部R3に供給される。
【0057】
円周溝62に供給された潤滑油は、駆動軸17の軸回転運動による粘性ポンプ作用によって、主軸螺旋溝64を上昇して油溜空間S3に供給、貯留される。このとき、駆動軸17の主軸部17aと第1軸受部32とが摺動する第1摺動部R1に潤滑油が供給される。油溜空間S3に貯留された潤滑油の液面の高さが第2軸受部26cの下端部まで達すると、潤滑油は、駆動軸17の軸回転運動による粘性ポンプ作用によって、偏心軸螺旋溝65を上昇して油室83に供給される。このとき、駆動軸17の偏心軸部17bと第2軸受部26cとが摺動する第2摺動部R2に潤滑油が供給される。油室83に供給された潤滑油は、給油細孔63を経由して、固定スクロール24と旋回スクロール26との摺動部(以下、単に「圧縮機構15の摺動部」という。)に供給される。なお、油溜空間S3に貯留された潤滑油の液面の高さが油戻し通路82の下面を超えると、潤滑油は油戻し通路82を流れる。その後、潤滑油は、副油戻し通路35を経由し、油戻しガイド71により形成される流路を通って、油溜まりPに供給される。
【0058】
〔特徴〕
本実施形態に係るスクロール圧縮機101では、圧縮機構15によって圧縮された冷媒ガスが高圧空間S1に配設されたエゼクタ機構91を通過することによるエゼクタ効果の吸引力によって、潤滑油が給油路61内を上昇して円周溝62に供給される。円周溝62に供給された潤滑油は、駆動軸17の軸回転運動による粘性ポンプ作用によって、主軸螺旋溝64及び偏心軸螺旋溝65を伝って駆動軸17の上端まで上昇する。これにより、潤滑油が第1摺動部R1及び第2摺動部R2に供給されると共に、給油細孔63を経由して圧縮機構15の摺動部に供給される。
【0059】
従って、本実施形態に係るスクロール圧縮機101では、長時間の運転により、第1摺動部R1及び第2摺動部R2における駆動軸17の磨耗が進行して、駆動軸17と第1軸受部32との間の隙間、及び、駆動軸17と第2軸受部26cとの間の隙間が大きくなった時に、仮に圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時において、圧縮機構から吐出される冷媒ガスと圧縮機構に吸入される冷媒ガスとの圧力差が充分に生じていない場合であっても、エゼクタ機構91によるエゼクタ効果によって、第1摺動部R1、第2摺動部R2及び圧縮機構15の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができる。
【0060】
本実施形態に係るスクロール圧縮機101では、第1摺動部R1、第2摺動部R2に潤滑油を確実に供給することができるので、第1摺動部R1及び第2摺動部R2における駆動軸17、第1軸受部32及び第2軸受部26cの損傷を抑制することができる。また、本実施形態に係るスクロール圧縮機101では、圧縮機構15の摺動部に潤滑油を確実に供給することができるので、固定スクロール24の環状油溝24c内の潤滑油による旋回スクロール26への押し返し力の低下を招くことがなく、第1鏡板24aと第2鏡板26aとの間のスラスト軸受荷重の増加を抑制することができる。
【0061】
〔変形例〕
以上、本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明したが、本発明の具体的構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で変更可能である。以下、本実施形態に係る圧縮機に対する適応可能な変形例について説明する。
【0062】
(1)変形例1A
本実施形態に係るスクロール圧縮機101では、駆動軸17の軸方向に沿って給油路61が形成されているが、図9に示される給油路161が形成されていてもよい。給油路161は、下端が駆動軸117の軸心部に位置し、上端が駆動軸117の軸心から離れた外周部に位置する。このスクロール圧縮機101では、駆動軸117が軸回転運動することによって給油路161内の潤滑油に対して遠心力が発生すると、潤滑油が給油路161の内壁面を伝って上昇する作用が得られるので、円周溝62に供給される潤滑油の量が増大される。
【0063】
(2)変形例1B
本実施形態に係るスクロール圧縮機101では、第3摺動部R3には第2給油横孔61bが駆動軸17の外周面に開口しているが、主軸螺旋溝64及び偏心軸螺旋溝65のような螺旋溝が駆動軸17のこの外周面に形成されていてもよい。この場合、第2給油横孔61bは、この螺旋溝の下端部と同じ高さに形成される。
【0064】
―第2実施形態―
第2実施形態に係る圧縮機について、図10及び図11を参照しながら説明する。第2実施形態に係る圧縮機は、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機であり、本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機101と共通する構成を有している。以下、第2実施形態に係るスクロール圧縮機201と、本発明の第1実施形態に係るスクロール圧縮機101との相違点を中心に説明する。
【0065】
〔構成〕
スクロール圧縮機201の縦断面図を図10に示す。なお、図10において、第1実施形態に係るスクロール圧縮機101と同一の構成要素には、図1と同一の参照符号が割り当てられている。
【0066】
本実施形態では、螺旋デバイダ299が、給油路61の上端から下端まで嵌入される。螺旋デバイダ299は、駆動軸17に固定して配設されている金属部材である。螺旋デバイダ299は、図11に示されるように、一枚の細長い金属板の一端を他端に対して数回転捩ることによって成型される螺旋形状を有する。
【0067】
〔動作〕
スクロール圧縮機201の運転動作について説明する。本実施形態における冷媒ガスの流れは、第1実施形態に係るスクロール圧縮機101と同一であるので説明を省略する。以下、スクロール圧縮機201内の摺動部に潤滑油が供給される過程について説明する。
【0068】
駆動軸17が軸回転運動をすると、螺旋デバイダ299も軸回転運動をする。螺旋デバイダ299の下端部は、油溜まりP内の潤滑油に接触しているため、螺旋デバイダ299が軸回転運動することによって、潤滑油は螺旋デバイダ299を伝って上昇する。第1給油横孔61aの高さまで上昇した潤滑油は、円周溝62に供給される。また、第1実施形態と同様に、圧縮機構15によって圧縮された冷媒ガスが高圧空間S1に配設されたエゼクタ機構91を通過することによるエゼクタ効果の吸引力によって、潤滑油が給油路61内を上昇して円周溝62に供給される。円周溝62に供給された潤滑油は、本発明の第1実施形態に関して上述した機構によって、第1摺動部R1、第2摺動部R2及び圧縮機構15の摺動部に供給される。
【0069】
〔特徴〕
スクロール圧縮機201では、給油路61に設けられた螺旋デバイダ299が軸回転運動することによって、潤滑油が螺旋デバイダ299を伝って上昇して円周溝62に供給される。そして、本発明の第1実施形態に関して上述した機構によって、潤滑油が第1摺動部R1、第2摺動部R2及び圧縮機構15の摺動部に供給される。
【0070】
従って、スクロール圧縮機201は、長時間の運転により、第1摺動部R1及び第2摺動部R2における駆動軸17の磨耗が進行して、駆動軸17と第1軸受部32との間の隙間、及び、駆動軸17と第2軸受部26cとの間の隙間が大きくなった時に、仮に圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時において、圧縮機構から吐出される冷媒ガスと圧縮機構に吸入される冷媒ガスとの圧力差が充分に生じていない場合であっても、エゼクタ機構91によるエゼクタ効果、及び、螺旋デバイダ299によって、第1摺動部R1、第2摺動部R2及び圧縮機構15の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができる。
【0071】
―第1参考例―
本発明の第2実施形態では、潤滑油を第1摺動部R1に供給するための機構としてエゼクタ機構91及び螺旋デバイダ299が用いられていたが、エゼクタ機構を用いずに本願発明の効果を達成することもできる。以下、本発明の第2実施形態のエゼクタ機構を有さない圧縮機について、第1参考例及び第2参考例として説明する。
【0072】
第1参考例に係る圧縮機について、図12を参照しながら説明する。第1参考例に係る圧縮機は、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機であり、本発明の第2実施形態に係るスクロール圧縮機201と共通する構成を有している。以下、第1参考例に係るスクロール圧縮機301と、本発明の第2実施形態に係るスクロール圧縮機201との相違点を中心に説明する。
【0073】
〔構成〕
スクロール圧縮機301の縦断面図を図12に示す。なお、図12において、第2実施形態に係るスクロール圧縮機201と同一の構成要素には、図10と同一の参照符号が割り当てられている。
【0074】
本実施形態では、主フレーム323は、スクロール圧縮機201の主フレーム23と異なり、油吸引横孔81を有していない。すなわち、スクロール圧縮機301では、スクロール圧縮機201と異なり、エゼクタ機構91が高圧空間S1に配設されていない。
【0075】
〔動作〕
スクロール圧縮機301の運転動作について説明する。なお、第1参考例における冷媒ガスの流れは、冷媒ガスがエゼクタ機構91を通過しないことを除いて第2実施形態に係るスクロール圧縮機201と同一であるので説明を省略する。以下、スクロール圧縮機301内の摺動部に潤滑油が供給される過程について説明する。
【0076】
駆動軸17が軸回転運動をすると、螺旋デバイダ299も軸回転運動をする。螺旋デバイダ299の下端部は、油溜まりP内の潤滑油に接触しているため、螺旋デバイダ299が軸回転運動することによって、潤滑油は螺旋デバイダ299を伝って上昇する。第1給油横孔61aの高さまで上昇した潤滑油は、円周溝62に供給される。その後、本発明の第1実施形態に関して上述した機構によって、第1摺動部R1、第2摺動部R2及び圧縮機構15の摺動部に供給される。
【0077】
〔特徴〕
スクロール圧縮機301では、給油路61に設けられた螺旋デバイダ299が軸回転運動することによって、潤滑油が螺旋デバイダ299を伝って上昇して円周溝62に供給される。そして、本発明の第1実施形態に関して上述した機構によって、潤滑油が第1摺動部R1、第2摺動部R2及び圧縮機構15の摺動部に供給される。
【0078】
従って、スクロール圧縮機301は、長時間の運転により、第1摺動部R1及び第2摺動部R2における駆動軸17の磨耗が進行して、駆動軸17と第1軸受部32との間の隙間、及び、駆動軸17と第2軸受部26cとの間の隙間が大きくなった時に、仮に圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時において、圧縮機構から吐出される冷媒ガスと圧縮機構に吸入される冷媒ガスとの圧力差が充分に生じていない場合であっても、螺旋デバイダ299によって、第1摺動部R1、第2摺動部R2及び圧縮機構15の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができる。
【0079】
―第2参考例―
本発明の第2参考例に係る圧縮機について、図13及び図14を参照しながら説明する。第2参考例に係る圧縮機は、高低圧ドーム型のスクロール圧縮機であり、第1参考例に係るスクロール圧縮機301と共通する構成を有している。以下、第2参考例に係るスクロール圧縮機401と、第1参考例に係るスクロール圧縮機301との相違点を中心に説明する。
【0080】
〔構成〕
スクロール圧縮機401の縦断面図を図13に示す。なお、図13において、スクロール圧縮機301と同一の構成要素には、図12と同一の参照符号が割り当てられている。
【0081】
駆動軸417は、駆動軸17と比較して、軸径方向に形成される第3給油横孔61cをさらに有している。第3給油横孔61cは、給油路461と連通し、第2軸受部26cの下端より少し高い位置において、偏心軸部17bの外周面に開口する。給油路461の上端は、この第3給油横孔61cの上端と同じ位置にある。螺旋デバイダ499は、給油路461の上端から下端まで嵌入され駆動軸417に固定されている。
【0082】
また、図13に示されるように、主フレーム423の油戻し通路482は、その下面が主フレーム凹部31の下面と同じ高さに位置している。従って、スクロール圧縮機401は、第1参考例と異なり油溜空間S3を有さないので、潤滑油は偏心軸部17bの下部の近傍に貯留されることなく油戻し通路482を流れる。なお、油戻し通路482の下面は、主フレーム凹部31の下面より低い位置にあってもよい。
【0083】
偏心軸螺旋溝465は、図14に示されるように、偏心軸部17bの外周面にある第3給油横孔61cの開口部から偏心軸部17bの上端まで、偏心軸部17bの外周部に螺旋状に形成されている。
【0084】
〔動作〕
スクロール圧縮機401の運転動作について説明する。なお、第2参考例における冷媒ガスの流れは、冷媒ガスがエゼクタ機構91を通過しないことを除いて第2実施形態に係るスクロール圧縮機201と同一であるので説明を省略する。以下、スクロール圧縮機401内の摺動部に潤滑油が供給される過程について説明する。
【0085】
駆動軸417が軸回転運動をすると、螺旋デバイダ499も軸回転運動をする。螺旋デバイダ499の下端部は、油溜まりPの潤滑油に接触しているため、螺旋デバイダ499が軸回転運動することによって、潤滑油が螺旋デバイダ499を伝って上昇する。給油路461内を第1給油横孔61aの高さまで上昇した潤滑油は、第1給油横孔61a及び円周溝62を経由して、粘性ポンプ作用によって主軸螺旋溝64を上昇する。一方、給油路461内を第3給油横孔61cの高さまで上昇した潤滑油は、第3給油横孔61cを経由して、粘性ポンプ作用によって偏心軸螺旋溝465を上昇する。これにより、第1摺動部R1及び第2摺動部R2へ潤滑油が供給される。以下、本発明の第1実施形態に関して上述した機構によって、圧縮機構15の摺動部へ給油細孔63を経由して潤滑油が供給される。
【0086】
〔特徴〕
スクロール圧縮機401では、給油路461に設けた螺旋デバイダ499が軸回転運動することによって、潤滑油が螺旋デバイダ499を伝って上昇し、第1給油横孔61a及び第3給油横孔61cに供給される。そして、本発明の第1実施形態に関して上述した機構によって、潤滑油が第1摺動部R1、第2摺動部R2及び圧縮機構15の摺動部に供給される。
【0087】
従って、スクロール圧縮機401は、長時間の運転により、第1摺動部R1及び第2摺動部R2における駆動軸417の磨耗が進行して、駆動軸417と第1軸受部32との間の隙間、及び、駆動軸417と第2軸受部26cとの間の隙間が大きくなった時に、仮に圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時において、圧縮機構から吐出される冷媒ガスと圧縮機構に吸入される冷媒ガスとの圧力差が充分に生じていない場合であっても、螺旋デバイダ499によって、第1摺動部R1、第2摺動部R2及び圧縮機構15の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係る圧縮機は、駆動軸の軸受部の磨耗が進行して駆動軸と軸受との間の隙間が大きくなった時に、仮に圧縮機の起動直後など圧縮機の低速回転時において、圧縮機構から吐出される冷媒ガスと圧縮機構に吸入される冷媒ガスとの圧力差が充分に生じていない場合であっても、圧縮機内部の摺動部へ潤滑油を確実に供給することができるので、圧縮機を備える空気調和機等の冷凍設備を効率的に運用するために有用である。
【符号の説明】
【0089】
10 ケーシング(密閉容器)
15 圧縮機構
17 駆動軸
23 主フレーム(フレーム)
24 固定スクロール
24b 第1ラップ(第1板状渦巻歯)
26 旋回スクロール
26b 第2ラップ(第2板状渦巻歯)
26c 第2軸受部
32 第1軸受部
61 給油路(第1給油孔)
63 給油細孔(第2給油孔)
64 主軸螺旋溝(第1給油溝)
65 偏心軸螺旋溝(第2給油溝)
91 エゼクタ機構
94 狭窄部
95a 冷媒加速流路
95b 油吸引流路
101 スクロール圧縮機(圧縮機)
299 螺旋デバイダ(板部材)
R1 第1摺動部
R2 第2摺動部
S1 高圧空間
S3 油溜空間
【先行技術文献】
【特許文献】
【0090】
【特許文献1】特許第3731069号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油を貯留する油貯留部を底部に有する密閉容器(10)と、
前記密閉容器の内部に収容される圧縮機構(15)と、
前記密閉容器の内部に収容され、前記圧縮機構と連結される駆動軸(17)と、
前記駆動軸を回転自在に支持する第1軸受部(32)と、
前記駆動軸と前記第1軸受部とが摺動する第1摺動部(R1)に、前記油貯留部に貯留される前記潤滑油を、前記駆動軸の軸回転運動によって供給する第1給油機構と、
を備え、
前記駆動軸は、前記第1摺動部に開口し前記油貯留部と連通する第1給油孔(61)を有し、
前記第1給油機構は、前記密閉容器の内部の高圧空間(S1)に形成されるエゼクタ機構(91)を有し、
前記エゼクタ機構は、前記圧縮機構から吐出される高圧冷媒が狭窄部(94)を介して流れることにより前記高圧冷媒の流速が増大される冷媒加速流路(95a)と、前記第1給油孔と連通すると共に前記冷媒加速流路と合流する油吸引流路(95b)とを有する、
圧縮機(101)。
【請求項2】
前記第1給油機構は、前記第1摺動部において前記駆動軸の外周面に形成される螺旋状の溝である第1給油溝(64)を有する、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記第1給油機構は、前記第1給油孔に配設される、螺旋状に捩られた板部材(299)を有する、
請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記圧縮機構に前記潤滑油を、前記駆動軸の軸回転運動によって供給する第2給油機構をさらに備え、
前記圧縮機構は、第1板状渦巻歯(24b)を有する固定スクロール(24)と、前記第1板状渦巻歯と噛合する第2板状渦巻歯(26b)を有する旋回スクロール(26)とから構成され、
前記旋回スクロールは、前記駆動軸が嵌合される第2軸受部(26c)を有すると共に、前記固定スクロールと前記旋回スクロールとの摺動面に開口し前記第2軸受部の内側の空間と連通する第2給油孔(63)を有し、
前記第2給油機構は、前記駆動軸と前記第2軸受部とが摺動する第2摺動部(R2)に、前記潤滑油を供給する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記第2給油機構は、前記第2摺動部において前記駆動軸の外周面に形成される螺旋状の溝である第2給油溝(65)を有する、
請求項4に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記第1軸受部を有するフレーム(23)をさらに備え、
前記フレームは、前記駆動軸と共に、前記潤滑油を貯留する油溜空間(S3)を形成し、
前記第1給油機構は、前記第1摺動部に供給される前記潤滑油を、前記油溜空間に供給し、
前記第2給油機構は、前記油溜空間に供給される前記潤滑油を、前記第2摺動部に供給する、
請求項4又は5に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−97577(P2012−97577A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243341(P2010−243341)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】