説明

圧電アクチュエータ、可変容量コンデンサ及び光偏向素子

【課題】圧電体の残留応力に起因する初期たわみによる初期変位の影響を無くすことができ、かつ、純粋な厚み方向変位(z方向並進運動)を実現する。
【解決手段】長手方向の中央部が支持される第1アクチュエータ(12)と、長手方向の両端部が第1アクチュエータ(12)の長手方向の両端部に連結される第2アクチュエータ(14)と備える。第1アクチュエータ(12)は、第1圧電駆動部(12A)の駆動によって撓んで変形し、両端部が厚み方向に変位する。第2アクチュエータ(14)は第2圧電駆動部(14A)の駆動によって第1アクチュエータと逆方向に撓んで変形し、長手方向の中央部が厚み方向に変位する。また、同様の構成のアクチュエータ群(101、102)を複数組連結する構成により、さらにz方向変位を増大させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電アクチュエータに係り、特に、デバイスの厚み方向への並進運動(z方向移動)を行う圧電アクチュエータの構造及びこれを利用した可変容量コンデンサ並びに光偏向素子に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスの厚み方向への並進運動(z方向移動)を行うアクチュエータは、様々な用途に用いられる。例えば、このようなアクチュエータを2枚の平行平板電極の片方に用いれば、電極間ギャップを変えることによる可変容量キャパシタとして用いることができる。また、かかるアクチュエータを反射ミラー光学系と組み合わせれば、ミラー部に入射した光の光路変化を行うデバイスとなり、光ディスク読み出し用光ピックアップトラッキングアクチュエータや、可変焦点スキャナとして用いることができるなど、用途は多岐にわたる。
【0003】
このような動きを実現するアクチュエータとして、静電力駆動や圧電駆動などが報告されているが、静電駆動では100V近い電圧が必要であるという欠点がある。これに対して圧電駆動では、比較的低電圧で大きな変位が得られるのが特徴である。圧電駆動においては、簡単な構成で大変位が得られる圧電ユニモルフカンチレバーがよく用いられる。これは、振動板に下部電極、圧電体、上部電極が積層された構成であり、レバー部の片方の端部が固定されている梁(片持ち梁)の構造である。圧電体に電界をかけることによって圧電体が変形し、レバー部全体が弓なりに反りあがる動きをする。また、より大変位が得られるアクチュエータとして、電極・振動板を挟んで圧電体を2層積層したバイモルフアクチュエータも用いられる。
【0004】
特許文献1〜3、非特許文献1,2には、カンチレバー型圧電アクチュエータを利用した可変容量キャパシタの構成例が開示されている。非特許文献3には、光ピックアップの構成例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−127973号公報
【特許文献2】特開2008−005642号公報
【特許文献3】特開2010−251726号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jae Y. Park他、“ MICROMACINED RF MEMS TUNABLECAPACITORS USING PIEZOELECTRIC ACTUATORS ”,‘Microwave Symposium Digest, 2001 IEEE MTT-S International, pp. 2111 -2114 vol.3. (2001)
【非特許文献2】Takashi Kawakubo他、“RF-MEMS TunableCapacitor With 3V Operation Using Folded BeamPiezoelectric Bimorph Actuator”,Journal of Microelectromechanical Systems, vol. 15(6), 1759 -1765. (2006)
【非特許文献3】Youngjoo Yee他、“PZTactuated micromirror for fine-tracking mechanism of high-density optical data storage”、Sensor and Actuator A 89 (2001) 166-173
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これら従来のデバイスはいずれも、純粋な厚み方向(z方向)への駆動を必要とするデバイスである。しかしながら、圧電カンチレバーによる駆動の場合、以下のような問題が常にデバイス設計を難しくしていた。
〔1〕圧電薄膜の残留応力に起因する初期z変位がある(印加電圧0の状態でもz方向に浮いている)。
〔2〕カンチレバー駆動時に面内方向(x,y方向)の動きが入ってしまう。
【0008】
上記〔1〕の問題は特に圧電体が直接成膜された薄膜である際に顕著である。圧電体−基板間の熱膨張係数が異なるため、基板上に圧電体を高温で成膜した後、常温に戻した際にアクチュエータが弓なりに反り上がることが原因である。この問題は、大変位を得ようとしてアクチュエータの剛性を低くすると一層顕著となる。
【0009】
上記〔2〕の問題は、カンチレバー型のアクチュエータが本質的に回転的な変位を含むことに起因する。従って、カンチレバー型アクチュエータの場合、x,y方向の面内変位を抑えた、純粋なz方向変位を得るのは難しい。
【0010】
一般的な圧電カンチレバー型のアクチュエータの場合、大きな変位を得ようとするとアクチュエータの長さを長くする、若しくは振動板の厚みを薄くすることが必要となる。しかしながら、この対応はいずれの場合においても、〔1〕、〔2〕の問題を助長する結果となる。つまり、高い変位を得ることと、〔1〕、〔2〕の問題とは、トレードオフの関係にある。このような理由で、初期z変位をなくしつつ、十分な量でかつ純粋なz方向変位を得るのは非常に難しかった。
【0011】
以下、具体的なデバイスの例で説明する。
【0012】
(可変キャパシタについて)
特許文献3の図3を援用して説明する。ただし、本明細書では図面の添付を省略し、図中の部材を指す符号を括弧( )付きの符号で表す。特許文献3の図3には、圧電体と振動板の積層構造を持つ一般的なアクチュエータである圧電カンチレバーを用いた可変キャパシタが示されている。支持体(39)に一端を固定されたバイモルフまたはユニモルフ型のアクチュエータ部(38)を有する圧電アクチュエータ(31)において、アクチュエータ部(38)の一方の表面に、一つのキャパシタ電極(36)が配設され、そのキャパシタ電極(36)に対面するように、他のキャパシタ電極(33)が配設されている。可変キャパシタ(30)では、圧電アクチュエータ(31)のアクチュエータ部(38)を矢印方向(上下の円弧方向)に変形させることによって、キャパシタ電極(33),(36)間の距離を制御し、その間に生じる静電容量を変えることが可能である。しかしながら、このような従来の可変キャパシタでは、圧電アクチュエータ(31)のアクチュエータ部(38)が弓状に反った変形をするため、キャパシタ電極(33)、(36)が平行を維持しながら近接または隔離されることができず、設計したキャパシタンスを実現することが難しかった。さらに、圧電体の残留分極に起因する反りによって、電圧をかけていない状態においてもカンチレバーが反ってしまうため、場合によってはキャパシタ電極(33)、(36)が最初から接触してしまう問題もあった。
【0013】
この点、特許文献2や非特許文献2では、カンチレバーを折りたたむ構造にすることによって、接点部分の初期変位を減少させている。しかしながら、駆動の際に電極間が平行を維持できないという問題は解決していない(非特許文献2の「Fig.4」参照)。また、非特許文献2の「Fig.12(a)」のように、2つのアクチュエータを両側から挟みこむようにして配置する方法も提案されているが、素子が大型化する上に、両側から引っ張られる力を緩和するための支持バネ構造を設けなければならないため、複雑な構造となるという問題がある。
【0014】
(マイクロミラーについて)
非特許文献3の「Fig. 2」、「Fig. 3」、「Fig. 4」を援用して説明する。ただし、本明細書では図面の添付を省略する。非特許文献3のFig. 2〜4には、光ピックアップ用のマイクロミラーが開示されており、反射面をz方向(反射面の法線方向)に駆動するためのアクチュエータの構造が提案されている。このような用途では、光を損失なくミラーに反射させる必要があるため、駆動時の面内方向の運動は極力抑えなければならない。そのため同文献3に記載の構造では、4本のユニモルフカンチレバーが一つのミラーを囲むように配置されており、x,y面内方向への変位を抑えてz方向変位を得ている。
【0015】
しかし、圧電体の残留応力による初期反りは低減できていない。実際に非特許文献3中では、約5μmまでのz変位を得られるアクチュエータにおいて、初期の反りによる初期z変位が5μmほどあることが記載されている。
【0016】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、圧電体の残留応力に起因する初期たわみがあっても、変位点の初期変位の影響を無くすことができる圧電アクチュエータを提供することを目的とする。また、従来のカンチレバー型と比較して、面内方向の変位を劇的に抑え、純粋な厚み方向変位(z方向並進運動)が得られ、従来の圧電カンチレバーと同等若しくはそれ以上の変位量が得られる圧電アクチュエータを提供することを目的とする。併せて、この圧電アクチュエータを利用した可変容量コンデンサ及び光偏向素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は前記目的を達成するために、第1圧電駆動部を有する第1アクチュエータであって、その長手方向の中央部が支持され、前記第1圧電駆動部への第1駆動電圧の印加によって撓んで変形し、長手方向の両端部が厚み方向に変位する第1アクチュエータと、第2圧電駆動部を有する第2アクチュエータであって、その長手方向の両端部が前記第1アクチュエータの長手方向の両端部に連結され、前記第2圧電駆動部への第2駆動電圧の印加によって第1アクチュエータとは逆方向に撓んで変形し、長手方向の中央部が厚み方向に変位する第2アクチュエータと、を備えたことを特徴とする圧電アクチュエータを提供する。
【0018】
他の発明態様については、明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、長手方向の中央部が支持される第1アクチュエータと、この第1アクチュエータの長手方向の端部に連結されて両端部が支持される第2アクチュエータとを組み合わせた構造としたので、圧電体の残留応力に起因して各アクチュエータに反りがあっても、変位点としての長手方向中央部の初期変位量は0に保つことができる。或いは、無視できる程度に小さいものである。
【0020】
また、本発明の圧電アクチュエータによれば、最終段のアクチュエータの長手方向中央部では、ほぼ純粋な厚み方向(z方向)変位が得られる。さらに、第1アクチュエータによる変位と第2アクチュエータによる変位が累積され、より大きな変位量が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態に係る圧電アクチュエータの平面図
【図2】圧電駆動部を有するアクチュエータの断面図
【図3】第1実施形態に係る圧電アクチュエータの非駆動時の状態を示す斜視図
【図4】第1実施形態に係る圧電アクチュエータの駆動時の状態を示す斜視図
【図5】圧電薄膜の電圧−変位特性を示すグラフ
【図6】圧電体の残留応力による初期撓みが生じた時の状態を示す図
【図7】第2実施形態に係る圧電アクチュエータの平面図
【図8】第2実施形態に係る圧電アクチュエータの非駆動時の状態を示す斜視図
【図9】第2実施形態に係る圧電アクチュエータの駆動時の状態を示す斜視図
【図10】実施例1、2の効果を比較例との対比によりまとめた図表
【図11】第3実施形態に係る圧電アクチュエータの平面図
【図12】長さLの振動板の中央部分に圧電駆動部(長さLa)を配置した構成のアクチュエータの模式図
【図13】図12の構成における長さの比率(La/L)と変位量の関係を示したグラフ
【図14】長さLの振動板の両端部分に圧電駆動部(長さLa)を分けて配置した構成のアクチュエータの模式図
【図15】図14の構成における長さの比率(La/L)と変位量の関係を示したグラフ
【図16】第4実施形態に係る可変容量コンデンサの可動電極とその駆動手段の構造を示した図
【図17】可動電極の上部に固定電極を配置した構成を示す図
【図18】第5実施形態に係る光偏向素子の要部構成を示す斜視図
【図19】光ピックアップ用ミラーデバイスの構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施形態について詳説する。
【0023】
〔第1実施形態〕
図1は第1実施形態に係る圧電アクチュエータの平面図である。説明の便宜上、図1の横方向をx方向、縦方向をy方向、紙面に垂直な方向をz方向とする直交xyz軸を導入して説明する。この圧電アクチュエータ10は、y方向に長い矩形帯状の複数の圧電ユニモルフ型アクチュエータ12、14、22、24が平行に配置され、これらが支持体17、19、27を介して一体的に連結された構成からなる。
【0024】
符号12、22はそれぞれ「第1アクチュエータ」に相当し、符号14、24は「第2アクチュエータ」に相当する。図1の最左に配置されるアクチュエータ12とその右隣に並んで配置されるアクチュエータ14の組み合わせによって1組のアクチュエータ群(符号101)が構成される。また、これと同様に、アクチュエータ22とその右隣に並んで配置されるアクチュエータ24の組み合わせによって1組のアクチュエータ群(符号102)が構成される。本例の圧電アクチュエータ10は、これら2組のアクチュエータ群101、102を支持体19によって機械的に連結した構成となっている。
【0025】
以下の説明の中で、符号12のアクチュエータを「第1アクチュエータ」或いは「1段目の第1アクチュエータ」と呼ぶ場合があり、符号14のアクチュエータを「第2アクチュエータ」或いは「1段目の第2アクチュエータ」と呼ぶ場合がある。同様に、符号22のアクチュエータを「第1アクチュエータ」或いは「2段目の第1アクチュエータ」と呼ぶ場合があり、符号24のアクチュエータを「第2アクチュエータ」或いは「2段目の第2アクチュエータ」と呼ぶ場合がある。
【0026】
ここでは、各アクチュエータ(12、14、22、24)のy方向の長さLは等しく、x方向の幅W1、W3及びアクチュエータ間隔W2は等しいもの(W1=W2=W3)を例示したが、本発明の実施に際して、具体的な形態は様々な設計が可能である。各アクチュエータ(12、14、22、24)の長さは異なっていても良く、また、幅W1、W3、アクチュエータ間隔W2も互いに異なって良い。
【0027】
図1中の斜線部(符号12A、14A、22A、24A)は、各アクチュエータ(12、14、22、24)の圧電駆動部である。各圧電駆動部12A、14A、22A、24Aは、いずれも上層側から上部電極、圧電体、下部電極、及び振動板が積層された圧電ユニモルフ構造となっている(図2参照)。各圧電駆動部12A、14A、22A、24Aの圧電体を挟む電極間に電圧を印加することによって、各アクチュエータ12、14、22、24が厚み方向(z方向)の上に向かって凸、または下に向かって凸(上からみて凹)に、弓なりに撓むように変形する(図3,図4参照)。
【0028】
図2は、圧電駆動部12Aを有するアクチュエータ12の断面構造を示す図である。ここでは、図1の最左に配置されたアクチュエータ12の断面図を示すが、他のアクチュエータ14、22、24も同様の構造を有する。
【0029】
図2に示すように、各アクチュエータ12、14、22、24は、振動板30上に、下部電極32、圧電体34、上部電極36がこの順で積層形成された構造を有する。このような積層構造体は、例えば、シリコン(Si)基板上に、下部電極32、圧電体34、上部電極36の各層を順次に成膜することによって得ることができる。上部電極36と下部電極32の間に挟まれて圧電体34が存在する範囲が図1の圧電駆動部(12A、14A、22A、24A)に相当する。なお、上述の説明ではすべてのアクチュエータがユニモルフアクチュエータ構造を有しているが、本特許におけるアクチュエータはこの構造に限定されるものではなく、例えば2層の圧電体を用いたバイモルフ構造を有していても良い。
【0030】
図3は圧電アクチュエータ10の非駆動時の斜視図、図4は駆動時の斜視図である。図示の便宜上、図1の左右と、図3、図4の左右は逆に描かれている。図3及び図4において最右に配置される第1アクチュエータ12は、図1において最左に配置される1段目の第1アクチュエータ12である。
【0031】
この第1アクチュエータ12は、図1中図中破線で囲んだように、y方向(長手方向)の中央部に、当該第1アクチュエータ12を支持するための固定部40(「第1支持体」に相当)が設けられている。この固定部40は第1アクチュエータ12の振動板30(圧電駆動部12Aの支持体)と一体的に連結されている支持体によって構成される。好ましくは、振動板30と一体に形成される。固定部40は、図示せぬ固定支持部材に連結され、この固定部40を基準に第1アクチュエータ12は厚み方向に変位する。なお、固定部40を支持する固定支持部材(不図示)も、シリコン基板を加工することによって、固定部40(支持体)と一体的に形成することができる。
【0032】
第1アクチュエータ12は、固定部40を介してy方向の中央部分が支持(固定)されているため、圧電駆動部12Aの圧電体34が縮むように電圧を印加すると、固定部40を中心に振動板30が撓み(弓なりに反り上がり)、y方向の両端部がz方向に上昇する動きをする(図4参照)。
【0033】
このように屈曲変位する第1アクチュエータ12のy方向の両端部は支持体17(「第2支持体」に相当)を介して、第2アクチュエータ14に連結されている。すなわち、第1アクチュエータ12の中央部を支持するための固定部40が設けられている第1アクチュエータ12の短手方向(x方向)の片側端面部分(図1において左側端面部分)と反対側(図1において右側端面)の長手方向両端部に、支持体17を介して第2アクチュエータ14の両端部が連結されている。
【0034】
かかる接続形態により、第2アクチュエータ14は支持体17によって両端が支持された両持ち梁の構造となる。また、第2アクチュエータ14は、その振動板30の長手方向(y方向)の長さLに対して、圧電駆動(活性)部14Aの長さLaが短く(La<L)、振動板30の長手方向の中央部分に圧電駆動部14Aが配置される。この場合、圧電駆動部の長手方向長さLaが、振動板の長手方向長さLの30〜80%であることが望ましい。
【0035】
第2アクチュエータ14を第1アクチュエータ12と逆方向に駆動すると、第2アクチュエータ14は、両端の支持体17を基準に、中心部がz方向に盛り上がるように弓なりに変位する(図4参照)。
【0036】
このように、中央支持の梁構造による第1アクチュエータ12と、両持ち梁構造の第2アクチュエータ14とを連結して成る1組のアクチュエータ群101を構成し、各アクチュエータ(12,14)を逆方向に駆動することで、第1アクチュエータ12の屈曲変位によるz方向の変位量と第2アクチュエータ14の屈曲変位によるz方向の変位量とが重ね合わされ(z方向の変位が増幅され)、第2アクチュエータ14の中央部にz方向の大きな変位が得られる。もちろん、各アクチュエータに印加する電圧方向を上述の説明とは逆にしても良く、その場合は第1アクチュエータ12は上に凸に変形し、かつ第2アクチュエータ14は下に凸に変形することにより、第2アクチュエータ14の中央部はz方向の−方向に変位(下がる動き)をする。以下では簡単のため、第1アクチュエータ12を下に凸に変形、かつ第2アクチュエータ14を上に凸に変形させる動きを通常として説明を行う。
【0037】
この第2アクチュエータ14の中央部は支持体19を介して、2段目の第1アクチュエータ22に連結され、当該2段目の第1アクチュエータ22の両端部は、さらに支持体27を介して2段目の第2アクチュエータ24と連結される。支持体19によって中央部が支持された梁構造のアクチュエータ22と、支持体27によって両端部が支持された梁持ち梁構造のアクチュエータ24とを連結して成る1組のアクチュエータ群102は、先に説明したアクチュエータ群101と同様に、各アクチュエータ(22,24)が逆方向に駆動される。中央支持のアクチュエータ22は、1段目の第1アクチュエータ12と同方向に駆動され、両端支持のアクチュエータ24は、1段目の第2アクチュエータ14と同じ方向に駆動される。
【0038】
これにより、2段目の第1アクチュエータ22は支持体19を基準に弓なりに撓み、両端がz方向に反り上がる。さらに、2段目のアクチュエータ24は、両端部の支持体27を基準に中央部がz方向に盛り上がるように弓なりに変位する(図4参照)。
【0039】
こうして、アクチュエータ群101、102を並べて繋ぎ合わせた構造により、各アクチュエータ(12、14、22、24)は、固定部40側から順に、下に凸(符号12)、上に凸(符号14)、下に凸(符号22)、上に凸(符号24)、と交互に変位方向が入れ替わるように、駆動される。そして、1段目のアクチュエータ群101によるz方向変位量に、2段目のアクチュエータ群102によるz方向変位量が累積され、2段目の第2アクチュエータ24(最終段のアクチュエータ)の中央部に大きなz方向の変位が得られる。最大の変位が得られる部分(最大変位点)を図4中の▲印で示した。
【0040】
図1〜4の例では、2組のアクチュエータ群101、102を連結した構成例を示したが、2段目のアクチュエータ群102を省略する構成(1組のアクチュエータ群101のみの構成)も可能である。すなわち、第1アクチュエータ12と第2アクチュエータ14とを組み合わせた1組のアクチュエータ群101のみの構成でも、各アクチュエータ(12,14)のz方向変位を蓄積した並進変位の効果がある。
【0041】
また、図1〜図4で示した構成における2段目のアクチュエータ群102に対して、さらに同様のアクチュエータ群を連結するなど、複数組のアクチュエータ群を繰り返し連結する構成も可能である。
【0042】
なお、第1実施形態においては、1段目のアクチュエータ群101と2段目のアクチュエータ群102は、同等の構成(サイズ)のものが連結されているが、構成が異なるアクチュエータ群を連結する態様も可能である。例えば、振動板の長さが異なるアクチュエータ群、振動板の幅(アクチュエータ幅)やアクチュエータ間隔が異なる構成のアクチュエータ群を組み合わせる態様もあり得る。
【0043】
<電圧供給部の構成について>
第1実施形態では、1段目及び2段目の第1アクチュエータ12、22に駆動用の電力を供給する電力供給源としての第1駆動制御装置(不図示)と、1段目及び2段目の第2アクチュエータ14、24に駆動用の電力を供給する電力供給源としての第2駆動制御装置(不図示)とが別々に設けられている。第1駆動制御装置は、第1アクチュエータ12、22を動作させる駆動電圧を供給する駆動回路とその出力制御回路を含む。第2駆動制御装置は、第2アクチュエータ14、24を動作させる駆動電圧を供給する駆動回路とその出力制御回路を含む。
【0044】
本例の場合、1段目及び2段目の第1アクチュエータ12、22を同じ駆動電圧で駆動し、1段目及び2段目の第2アクチュエータ14、24を同じ駆動電圧(第1アクチュエータ用の駆動電圧とは異なるもの)で駆動する構成であるため、2種類の電圧供給部(駆動制御装置)を用いているが、各アクチュエータ12、14、22、24について、それぞれ個別に電圧供給部(駆動制御装置)を設ける態様も可能である。アクチュエータ12、14、22、24ごとに異なる駆動電圧を印加する形態など、必要に応じて電圧供給部の数が設計される。
【0045】
なお、第1アクチュエータ12、22と、第2アクチュエータ14、24に印加する電圧の極性を異ならせることで、アクチュエータのたわみ方向を異ならせる態様の他、圧電体を逆方向にポーリングすることで、駆動方向を異ならせることも可能である。
【0046】
<圧電体の例>
本実施形態の圧電体としては、例えば、Nbを12%ドープしたPZT薄膜を用いることができる。本発明者らは、鋭意検討の結果、スパッタリング法によってNbを12%ドープしたPZTを成膜することにより、圧電定数d31=250pm/Vという高い圧電特性を持つ薄膜を安定的に作製できることを見出している。
【0047】
図5は、Nbを12%ドープしたPZT薄膜(実施例に係る圧電薄膜)の電圧−変位特性を示すグラフである。図5中の□で示したプロット点は変位量を表し、△で示したプロット点は誘電正接を表す。図5に示すように、この圧電薄膜は、印加電圧として−40Vから+10Vの範囲内では、分極反転がなく、非常にリニアな変位応答を示している。したがって、長手方向の中央部を支持した第1アクチュエータ12、22のグループと、長手方向の両端部を支持した第2アクチュエータ14、24のグループとに対して、互いに逆極性の電圧を印加する構成を採用する場合には、±10Vの範囲内でリニアな変位応答が得られる駆動電圧を選択することができる。
【0048】
このような特性を持つ圧電薄膜を用いた第1アクチュエータ(12、22)、および第2アクチュエータ(14,24)に、互いに逆方向の電界が印加されると、図4に示されるような変形を示す。既述のとおり、各々のアクチュエータ(12、14、22、24)が互いのz方向変位を蓄積していくように変形していき、最終段のアクチュエータ中央部(最大変位点)でz方向に大きな変位を得ることができる。
【0049】
(他の好適な圧電材料について)
本実施形態に適用できる圧電体としては、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(P)を含むものが挙げられる。
【0050】
一般式ABO3・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
上記一般式で表されるペロブスカイト型酸化物としては、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、亜鉛ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物、及びこれらの混晶系;チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、ビスマスフェライト等の非鉛含有化合物、及びこれらの混晶系が挙げられる。
【0051】
また、本実施形態の圧電体膜は、下記式で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物(PX)を含むことが好ましい。
Aa(Zrx,Tiy,Mb−x−y)bOc・・・(PX)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
Mが、V、Nb、Ta、及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0<x<b、0<y<b、0≦b−x−y。
a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
上述の一般式(P)及び(PX)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電体膜は、高い圧電歪定数(d31定数)を有するため、かかる圧電体膜を備えた圧電アクチュエータは、変位特性の優れたものとなる。
【0052】
また、一般式(P)及び(PX)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電体膜を備えた圧電アクチュエータは、駆動電圧範囲において、リニアリティの優れた電圧―変位特性を有している。これらの圧電材料は、本発明を実施する上で良好な圧電特性を示すものである。
【0053】
バルクの圧電体を基板に接合してもよいが、気相成長法やゾルゲル法などにより基板上に圧電薄膜を直接成膜する構成が好ましい。特に、本実施形態の圧電体としては、1〜10μmの厚さの薄膜であることが好ましい。実施例では、圧電体として、スパッタリング法によって成膜された4μm厚のPZT薄膜を使用しているが、これに限定されるものではない。
【0054】
<初期変位の影響について>
本実施形態の圧電アクチュエータ10に圧電体の残留応力による初期たわみが生じたときの変形を示したのが図6である。図6中の破線で囲われた部分(符号Aで示す部分)は、この圧電アクチュエータ10の駆動時において最大の変位が得られる最大変位点である。このポイントにおいては初期たわみによらず、初期z変位はないことが分かる。
【0055】
<製造プロセスについて>
本例の圧電アクチュエータ10における各アクチュエータ(12、14、22、24)、及びこれらをつなぐ支持体17、19、27、固定部31並びに固定部31を支持する固定支持部材(不図示)は、シリコン基板から半導体製造技術を利用して加工することにより、これらが一体的に構成された構造物として作成することができる。
【0056】
つまり、各アクチュエータ(12、14、22、24)の振動板30、固定部40、支持体17、19、27は、シリコン基板を加工して得られた一体物として構成されている。
【0057】
<実施例;具体的な製造方法の一例>
この圧電アクチュエータ10は、以下のように作成した。
【0058】
(工程1)まず、SOI(Silicon OnInsulator)基板上に、スパッタ法で30nmのTi密着層と、150nmのIr電極層を順次形成した。これらTi密着層及びIr電極層が下部電極に相当する。このときの成膜温度は350℃とした。
【0059】
(工程2)上記得られた基板上に、高周波(RF;radio frequency)マグネトロンスパッタ装置を用いて4μmのPZT層を成膜した。使用したRFマグネトロンスパッタ装置は、アルバック社製強誘電体成膜スパッタ装置MPS型である。成膜ガスは97.5%Arと2.5%Oの混合ガスを用い、ターゲット材料としてはPb1.3((Zr0.52 Ti0.48)0.88 Nb0.12)O3の組成のものを用いた。成膜圧力は2.2mTorr、成膜温度は450℃とした。上記で得られた基板上に、リフトオフプロセスによって上部電極であるPt/Tiをパターニングした。
【0060】
(工程3)上記得られた基板をシリコン加工プロセス(ドライエッチング等)に基づいて加工することで、図1から図3で説明した圧電アクチュエータ10を得た。
【0061】
本発明の実施に際しては、上記の実施例に限定されず、基板の材料、電極材料、圧電材料、膜厚、成膜条件などは、目的に応じて適宜選択、設計される。
【0062】
<アクチュエータの長手方向の中央部を支持するという記載の解釈について>
本明細書では、図1の固定部40や支持体19を例示して、アクチュエータの長手方向の中央部を支持する旨を説明している。本明細書でいう「中央部」とは、厳密な中心点を限定的に意味するものではなく、概ね中央部分と把握される範囲の部位を含む。例えば、長手方向の中央位置(設計上の真の中央点)を含む一箇所に固定部や支持部を設けて、これを支持する態様の他、概ね中央部分と把握される範囲内で複数箇所に固定部や支持部を設ける態様があり得る。また、概ね中央部分と把握される範囲内で中央位置を挟んで両側対称的に2箇所以上の固定部や支持部を設ける態様も可能である。この場合、真の中央位置が固定、支持されていない場合もあり得る。
【0063】
〔第2実施形態〕
図7は第2実施形態に係る圧電アクチュエータ110の平面図である。図7に示す第2実施形態において、図1から図4で説明した第1実施形態の構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0064】
図7に示す圧電アクチュエータ110は、第1アクチュエータ12と第2アクチュエータ14とをy方向の両端部で接続する部分(符号47、57)にミアンダ(蛇行)状の構造が採用されている。
【0065】
すなわち、図1に示した支持体17、27の構成に代えて、図7のように、折り返し(折り畳み)構造を持つ板状の連結部(以下、「ミアンダ連結部」という。)47、57が採用されている。ミアンダ連結部47、57は、各アクチュエータ(12、14、22、24)の大きさと比べて小さく、板の幅も細いものとなっている。かかるミアンダ連結部47、57は、第2アクチュエータの変形によって第1アクチュエータに作用する反力を吸収するため、アクチュエータ全体の変位量を増大させる効果がある。このミアンダ連結部47、57も図1の支持体17、27と同様に、シリコンの加工により一体的に形成される。なお、ミアンダ連結部47、57の折り畳み数、細さ、板厚などは適宜設計することができる。
【0066】
ミアンダ連結部47によって長手方向の両端部同士が連結された第1アクチュエータ12と第2アクチュエータ14によって1組の(1段目の)アクチュエータ群111が構成される。同様に、ミアンダ連結部57によって長手方向の両端部同士が連結された第1アクチュエータ22と第2アクチュエータ24によって1組の(2段目の)アクチュエータ群112が構成される。
【0067】
図8は、この圧電アクチュエータ110の非駆動時の様子を示す斜視図、図9は駆動時の様子を示す斜視図である。各アクチュエータ12、14、22、24の駆動方法は、図1〜4で説明した第1実施形態と同様である。
【0068】
図7〜図9に示したように、アクチュエータ同士を接続する部分にミアンダ状の構造(符号47、57)を取り入れ、コンパクトかつ比較的バネ定数が低い構造とすることによって、アクチュエータのサイズを増加させることなく、さらに高い変位を得ることができる(図9参照)。
【0069】
図7では、2組のアクチュエータ群111、112を繰り返し連結した例を示したが、
2段目のアクチュエータ群112を省略する構成も可能であるし、さらに多数組のアクチュエータ群を連結する構成も可能である。
【0070】
<各実施形態に対応した実施例1、2の効果>
図10は、実施例1、2の効果を比較例と対比してまとめた表である。
【0071】
同表の「実施例1」は、図1中のパラメータW1=W2=W3=50μm、W=310μm、L=1mmとした構成の圧電アクチュエータに対し、第1アクチュエータ、第2アクチュエータに印加される電圧をそれぞれ−10V、+10Vとしたものであり、このときの変位量(最大変位)などを表中に示した。
【0072】
「実施例2」は、図7の構成において、図1と同様のパラメータW1=W2=W3=50μm、W=310μm、L=1mmとした構成の圧電アクチュエータに対し、第1アクチュエータ、第2アクチュエータに印加される電圧をそれぞれ−10V、+10Vとしたものであり、このときの変位量(最大変位)などを表中に示した。
【0073】
比較例として、さまざまなサイズを持つ両端支持梁、片持ち支持梁構造を持つ圧電カンチレバーの変位も示した。すなわち、比較例として、両端支持梁構造の圧電ユニモルフアクチュエータ(長さL=1mm、幅310μm)、片持ち梁構造の圧電ユニモルフアクチュエータ(長さ310μm)、片持ち梁構造の圧電ユニモルフアクチュエータ(長さ500μm)を用いた。そして、これら各構成に対して、10Vを印加して駆動した場合の変位量(最大変位)などを表中に示した。
【0074】
なお、圧電体の圧電性能は、各比較例、実施例1、2とも同等にして比較している。
【0075】
図10に示すとおり、実施例1、2の構成は、同等サイズの従来アクチュエータ(比較例)に比べて高い変位を得ていることがわかる。
【0076】
〔第3実施形態〕
図11は第3実施形態に係る圧電アクチュエータ120の平面図である。図11に示す第3実施形態において、図7から図9で説明した第2実施形態の構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0077】
図11の圧電アクチュエータ120は、第2アクチュエータ14、24における圧電駆動部14B、14C、24B、24Cが振動板の長手方向の中央部分を避けて、長手方向の両端部分に分かれて配置されている。この場合、圧電駆動部14B、14C、24B、24Cの長手方向長さLaは、振動板全体の長手方向長さLの15〜45%の範囲とすることが好ましい。
【0078】
このような構成の場合、各圧電駆動部12A、14B、14C、22A、24B、24Cに印加する電界の方向を同じにすることができる。すなわち、すべてのアクチュエータ12、14、22、24を同一極性の電圧印加によって駆動することができ、これにより、第1アクチュエータ12、22と第2アクチュエータ14、24を互いに逆方向に撓ませることができる。最も簡単な構成としては、1つの電圧供給部(駆動制御装置)から供給する共通の駆動電圧によって、第1アクチュエータ12、22及び第2アクチュエータ14、24を駆動することが可能である。
【0079】
第3実施形態によれば、複雑な電極配置を行う必要がなく、図7〜9で説明した第2実施形態と同様の効果が得られる。さらに、図5で説明したような、電圧−変位特性を持つ圧電薄膜を使用する場合、広い範囲でリニアな変位応答を示すマイナス電圧の領域を利用することができるため、より大きな電圧を印加することにより大きな変位を得ることができ、変位量の制御も簡単である。
【0080】
<振動板に対する圧電駆動部の配置形態と両者の長さL、Laの関係について>
図12は、長さLの振動板の中央部分に圧電駆動部(長さLa)を配置した構成のアクチュエータの模式図である。このアクチュエータの長手方向の両端を支持することによって両持ち梁構造のアクチュエータとなる。
【0081】
図13は、図12の構成における長さの比率(La/L)と、駆動時のアクチュエータ中央部分における厚み方向の変位量の関係を示したグラフである。図13の縦軸は、変位量の最大値で規格化した値である。図13において、変位量が最大値の70%以上となる範囲を好ましい条件として設定すると、0.3≦La/L≦0.8であることが好ましい。すなわち、振動板の中央部分に圧電駆動部を配置する形態の両持ち梁構造のアクチュエータにおいては、圧電駆動部の長手方向長さLaが、振動板の長手方向長さLの30〜80%であることが望ましい。
【0082】
なお、図13において、変位量が最大値の70%を超えることがさらに好ましい条件であり、図13のグラフから、変位量が最大値の80%以上となる範囲、90%以上となる範囲など、それぞれの範囲に対応する好ましいLa/Lの条件を読み取ることができる。
【0083】
図14は、長さLの振動板の中央部分を避けて、両端部分に圧電駆動部(長さLa)を分けて配置した構成のアクチュエータの模式図である。このアクチュエータの長手方向の両端を支持することによって両持ち梁構造のアクチュエータとなる。
【0084】
図15は、図14の構成における長さの比率(La/L)と、圧電駆動時の厚み方向の変位量の関係を示したグラフである。図15の縦軸は、変位量の最大値で規格化した値である。図15において、変位量が最大値の70%以上となる範囲を好ましい条件として設定すると、0.15≦La/L≦0.45であることが好ましい。すなわち、振動板の中央部分を避けて長手方向の両端部分に圧電駆動部を分離配置する形態の両持ち梁構造のアクチュエータにおいては、圧電駆動部の長手方向長さLaが、振動板の長手方向長さLの15〜45%であることが望ましい。
【0085】
なお、図15において、変位量が最大値の70%を超えることがさらに好ましい条件であり、図15のグラフから、変位量が最大値の80%以上となる範囲、90%以上となる範囲など、それぞれの範囲に対応する好ましいLa/Lの条件を読み取ることができる。
【0086】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の実施形態による圧電アクチュエータを備えた可変容量コンデンサ(可変キャパシタ)の例を説明する。図16は第4実施形態に係る可変容量コンデンサ150の可動電極152及びその駆動手段の構造を示した図である。
【0087】
この例では、可動電極152の駆動手段として、図7〜図9で説明した圧電アクチュエータ110が採用されている。図16において、図7〜図9で説明した構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。なお、圧電アクチュエータ110に代えて、第1実施形態に係る圧電アクチュエータ10(図1〜図4)、第3実施形態に係る圧電アクチュエータ120(図11)等を採用してもよい。
【0088】
可動電極152はシリコンの基材表面に金属の薄膜(電極層)が形成されたものである。この可動電極152を挟んで両側に圧電アクチュエータ110が対称的に配置され、各圧電アクチュエータ110の最大変位部分が連結部154を介して可動電極152と接続されている。各圧電アクチュエータ110の固定部40は、固定支持部材に相当する固定フレーム156に連結されている。可動電極152及び各圧電アクチュエータ110の裏面側は、空洞部(キャビティ)157となっており、可動電極152は、連結部154に支持されてキャビティ157の上に浮かぶような形で配置されている。
【0089】
図17は、図16で説明した可動電極152の上部に固定電極158を配置した構成を示す図である。図17のように、固定電極158は、可動電極152の上部を覆うように固定配置される。
【0090】
図7〜9で説明したように、圧電アクチュエータ110を駆動すると、可動電極152が厚み方向(z方向)に平行移動し、固定電極158と可動電極152間の距離が変化する。これにより、キャパシタンス(静電容量)が変化する。
【0091】
<より具体的な実施例>
第4実施形態に係る可変容量コンデンサの一具体例として、圧電アクチュエータ110のディメンジョンは、W1=W2=W3=25μm、L=500μm、可動電極152のサイズは一辺が300μmの正方形(300μm角)となっている。この実施例による可変容量コンデンサは、以下の手順で製造される。
【0092】
(製造プロセスの例)
(工程1):SOI基板上にスパッタ法などによって下部電極を成膜し、得られた基板にスパッタ法などで圧電体膜を成膜する。なお、基板上にバルク圧電体を貼り付け、研磨しても良い。
【0093】
(工程2):次にフォトリソグラフィ技術によって上部電極をパターニングし、その後、プラズマを用いたドライエッチングや、フッ酸・塩酸混合液によるウェトエッチングによってPZTをパターニングする。
【0094】
(工程3):その後、プラズマを用いたドライエッチングによって下部電極とデバイス層Siをパターンエッチする。
【0095】
(工程4):次に、固定電極(図17の符号158)を上部に形成したい部分にレジストを代表とする犠牲層をパターニングする。
【0096】
(工程5):その後、メッキ技術によって犠牲層上にメッキによって固定電極となる金属構造体を成長させる。
【0097】
(工程6):この後、犠牲層をOクリーニングなどで取り除くことによって、アクチュエータ上部に固定電極がブリッジした構造を得る。
【0098】
(工程7):最後に裏面のハンドル層、Box-SiO層をDeep RIE(深堀り反応性イオンエッチング)することにより、図17のような可動電極152、固定電極158がキャビティ157上に形成された構造を得ることができる。
【0099】
上記のプロセスで製造される可変キャパシタデバイス(図16,図17の可変容量コンデンサ150)のサイズは、一例として500μm×640μmであり、圧電ユニモルフアクチュエータの振動板厚みは5μmとした。この構成では、5Vの電圧でz方向変位3.4μmが得られる。また、圧電体の残留応力による初期反りがあっても、可動電極の初期z位置は0であり(図6参照)、設計と完全に一致するキャパシタンスが得られる。
【0100】
例えば、固定電極158と可動電極152との間の初期ギャップを500nmとすると、5V駆動でキャパシタンスは0.71pF→0.089pFへと変化する。この駆動範囲の場合、キャパシタンスの変化率(最大値Cmaxと最小値Cminの比)Cmax/Cminは8である。なお、マイナス電圧印加による駆動分も加えると、キャパシタンスの変化率はさらに拡大する。
【0101】
〔第5実施形態〕
次に、本発明の実施形態による圧電アクチュエータを備えた光偏向素子の例を説明する。図16で説明した構成と、同様の構成において、可動電極152に代えて、光を反射させるためのミラーとすれば、光の反射点を変化させて焦点や照射位置を動かすデバイスとして利用できる。
【0102】
図18は、ミラー162を厚み方向に並進移動させた動きを示す図である。図18において、図7〜図9、図16及び図17で説明した構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。なお、図18においては、図16及び図17に示した固定フレーム156の図示を省略した。図18に示したマイクロミラーアクチュエータの構成によれば、圧電アクチュエータ110、110の駆動により、ミラー162をz方向に並進移動させることができる。
【0103】
図18の構成を用いて、図19に示すような光ピックアップにおけるトラッキング用ミラーアクチュエータを作製することができる。図19では図示を簡略化し、ミラー162のみを示し、アクチュエータ部の記載を省略した。
【0104】
図19のように、ミラー162は、その反射面162Aがレーザ光の入射光軸に対して45度傾斜するような姿勢で配置される。アクチュエータを駆動してミラー162を厚み方向に変位させると、反射面162Aの位置が移動し、反射面162Aに対する入射光の到達点が変わり、反射光の光軸がシフトする。ミラー162の厚み方向の変位量をh、反射光の光軸のシフト量をdとすると、d=(√2)×hの関係で反射光を制御できる。
【0105】
なお、ミラー162の傾斜角度は45度に限らず、様々な配置形態が可能であり、反射面に対する入射光の入射角度と、反射面の位置、入射光が反射面に当たる位置、などの条件に応じて光路を制御できる。
【0106】
図18及び図19で説明した例に限らず、本技術は、レーザ光等の光を反射して光の進行方向、光路長、光経路等を変える光学装置として様々な用途に利用できる。
【0107】
<本発明の実施形態による圧電アクチュエータと従来のアクチュエータとの比較>
比較として非特許文献3に報告されているアクチュエータをみると、同文献では、ユニモルフアクチュエータの振動板厚みを2μmまで下げることにより、5Vの電圧印加において変位3.5μmが得られている。しかしながら、同文献では、製造時の残留応力により初期の反りが5μm生じてしまっている。
【0108】
これに対し、本発明による第4実施形態及び第5実施形態と同様のアクチュエータでは、振動板厚みが5μmで、5V印加により同等の変位3.4μmが得られる。本発明の実施形態の構成は、非特許文献3の構成に比べて、振動板が厚いので剛性が高く、歩留まりは劇的に向上する。また、残留応力に起因する反りによる初期変位は0である。
【0109】
さらに、本発明の実施形態において、振動板を非特許文献3と同様に、2μmとした場合、16.7μmの変位が得られる。なお、この場合は圧電膜の厚みは2μmとした。
【0110】
<本発明の実施形態による効果>
(1)圧電体の残留応力に起因して各アクチュエータに反りがある場合であっても、圧電駆動時の変位点である長手方向中央部の初期変位量は0に保たれる。
【0111】
(2)アクチュエータの長手方向中央部では、ほぼ純粋な厚み方向(z方向)変位が得られる。
【0112】
(3)ユニモルフカンチレバーなどの従来の一般的な圧電アクチュエータに比べ、同等もしくはそれ以上の変位量が得られる。
【0113】
<他の変形例1>
第1実施形態及び第2実施形態では、第1アクチュエータ12、22を駆動するための駆動電圧制御装置と、第2アクチュエータ14、24を駆動するための駆動制御装置とを別々に設ける構成を説明したが、1台の駆動制御装置から複数種類の駆動電圧を出力する構成も可能である。また、駆動電圧供給源とその制御手段とは必ずしも一体である必要はない。例えば、第1アクチュエータ用の駆動電圧を出力する駆動電圧供給源と、第2アクチュエータ駆動用の駆動電圧を出力する駆動電圧供給源と、これら駆動電圧供給源を制御する1台の制御装置と、によって同様のシステムを構成することが可能である。
【0114】
<他の変形例2>
上述の実施形態では、圧電ユニモルフアクチュエータを複数本組み合わせてアクチュエータ群を構成する例を示したが、バイモルフアクチュエータを用いる態様も可能である。
【0115】
なお、本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当該分野の通常の知識を有するものにより、多くの変形が可能である。
【0116】
<付記;開示する発明の態様について>
上記に詳述した発明の実施形態についての記載から把握されるとおり、本明細書は少なくとも以下に示す発明を含む多様な技術思想の開示を含んでいる。
【0117】
(発明1):第1圧電駆動部を有する第1アクチュエータであって、その長手方向の中央部が支持され、前記第1圧電駆動部への第1駆動電圧の印加によって撓んで変形し、長手方向の両端部が厚み方向に変位する第1アクチュエータと、第2圧電駆動部を有する第2アクチュエータであって、その長手方向の両端部が前記第1アクチュエータの長手方向の両端部に連結され、前記第2圧電駆動部への第2駆動電圧の印加によって前記第1アクチュエータとは逆方向に撓み変形し、長手方向の中央部が厚み方向に変位する第2アクチュエータと、を備えたことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【0118】
この発明によれば、長手方向の中央部が支持される第1アクチュエータと、両端部が支持される第2アクチュエータとの両端部同士を機械的に連結してなる1組のアクチュエータ群が構成される。第1アクチュエータと第2アクチェータを厚み方向に対して逆方向に撓み変形(屈曲変位)させることで、それぞれの変位が厚み方向に累積され、大きな変位が得られる。しかも、この構成は、回転的な動きがなく、厚み方向の並進変位を実現できる。
【0119】
また、残留応力によって初期撓みが生じたとしても、アクチュエータの中央の初期変位はゼロか、無視できる程度に小さい。
【0120】
第1アクチュエータと第2アクチュエータの組み合わせから成るアクチュエータ群を複数組連結する態様も可能である。
【0121】
(発明2):発明1に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータは、互いの長手方向が平行となるように並んで配置されることを特徴とする。
【0122】
かかる態様によれば、各アクチュエータは、長手方向を揃えて互いに平行に配置され、長手方向の両端部同士が機械的に連結される。
【0123】
(発明3):発明1又は2に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記第1アクチュエータの長手方向の中央部における当該第1アクチュエータの短手方向の片側端面部分が第1支持体を介して支持され、当該第1支持体で支持される前記片側端面部分と反対側の長手方向両端部に第2支持体を介して前記第2アクチュエータが連結されることを特徴とする。
【0124】
かかる態様によれば、第1アクチュエータの中央部を支持する第1支持体とは反対側の第1アクチュエータ側面に第2アクチュエータが接続される。すなわち、第1アクチュエータの中央部を支持する支持部の反対側に、第2アクチュエータの両端部との連結部が設けられる。
【0125】
(発明4):発明1から3のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータとが互いに連結されて構成された1組のアクチュエータ群を複数組備え、隣り合って配置される一方のアクチュエータ群を構成する第2アクチュエータの長手方向の中央部と他方のアクチュエータ群を構成する第1アクチュエータの長手方向の中央部とが連結されていることを特徴とする。
【0126】
第1アクチュエータと第2アクチュエータとを組み合わせてなるアクチュエータ群を複数組連結することにより、一層大きな厚み方向変位を得ることができる。
【0127】
複数組のアクチュエータ群は、同じ構成単位を用いても良いし、異なる構成のアクチュエータ群をつなぎ合わせても良い。
【0128】
(発明5):発明1から4のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータは、振動板に下部電極、圧電体、上部電極がこの順で厚み方向に積層された構造を有するユニモルフアクチュエータであることを特徴とする。
【0129】
アクチュエータ要素として、バイモルフアクチュエータを採用する態様も可能であるが、ユニモルフアクチュエータは構造が簡単であり、作製が容易である。また、ユニモルフアクチュエータは、残留応力による初期反りが発生しやすいため、その影響を回避できる本発明の適用がより効果的である。
【0130】
(発明6):発明1から5のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記第2アクチュエータは振動板に下部電極、圧電体、上部電極がこの順で厚み方向に積層された構造を有し、当該第2アクチュエータにおける前記下部電極と前記上部電極に挟まれた前記圧電体の領域が前記第2圧電駆動部となり、該第2圧電駆動部は当該第2アクチュエータにおける振動板の長手方向の中央部分を含む領域に配置され、その長手方向の長さは、当該振動板の長手方向の長さの30〜80%の範囲であることを特徴とする。
【0131】
かかる態様は、両持ち梁の構造(両端支持の構造)の第2アクチュエータにおいて、良好な変位が得られる点で好ましい。
【0132】
(発明7):発明1から5のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記第2アクチュエータは振動板に下部電極、圧電体、上部電極がこの順で厚み方向に積層された構造を有し、当該第2アクチュエータにおける前記下部電極と前記上部電極に挟まれた前記圧電体の領域が前記第2圧電駆動部となり、該第2圧電駆動部は当該第2アクチュエータにおける振動板の長手方向の中央部分を避けて長手方向の両側の端部に分かれて配置され、その各端部における長手方向の長さは、当該振動板の長手方向の長さの15〜45%の範囲であることを特徴とする。
【0133】
かかる態様は、両持ち梁の構造(両端支持の構造)の第2アクチュエータにおいて、良好な変位が得られる点で好ましい。
【0134】
(発明8):発明1から7のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータを互いに逆方向に撓ませ、前記第1アクチュエータの長手方向端部の厚み方向の変位と前記第2アクチュエータの長手方向中央部の厚み方向変位が累積されるように、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータに対して同時に印加されることを特徴とする。
【0135】
第1駆動電圧と第2駆動電圧は、同じ電圧でもよいし、異なる電圧でもよい。各アクチュエータの圧電体の分極方向や、圧電駆動部の配置形態(発明6,7)に応じて、各アクチュエータに印加する電圧が設計される。
【0136】
(発明9):発明1から8のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータの長手方向の両端部同士を連結する部分がミアンダ構造を有していることを特徴とする。
【0137】
かかる態様によれば、連結部が変位しやすくなり、より大きなz方向(厚み方向)変位を得ることができる。
【0138】
(発明10):発明1から9のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ前記第1圧電駆動部及び前記第2圧電駆動部のそれぞれを構成する圧電体が1〜10μmの範囲の厚さを有する薄膜であることを特徴とする。
【0139】
圧電体薄膜を用いて圧電アクチュエータを構成することが好ましい。
【0140】
(発明11):発明1から10のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記第1圧電駆動部及び前記第2圧電駆動部のそれぞれを構成する圧電体は、下記式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする。
【0141】
一般式ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
かかる圧電体は良好な圧電特性を有し、本発明の圧電アクチュエータとして好ましい。
【0142】
(発明12):発明1から11のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記第1圧電駆動部及び前記第2圧電駆動部のそれぞれを構成する圧電体は、下記式(PX)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする。
【0143】
(Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
Mが、V,Nb,Ta,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0<x<b、0<y<b、0≦b−x−y。
a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
かかる圧電体は良好な圧電特性を有し、本発明の圧電アクチュエータとして好ましい。
【0144】
(発明13):発明10から12のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記圧電体は、振動板となる基板の上に直接成膜された薄膜であることを特徴とする。
【0145】
スパッタ法に代表される気相成長法やゾルゲル法などの直接成膜法を用いることにより、所要の圧電性能を持つ圧電体薄膜を得ることができる。
【0146】
また、直接成膜法は、残留応力に起因する初期反りが発生し得るため、その影響を回避できる本発明の適用が効果的である。
【0147】
(発明14):発明10から13のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータにおいて、前記圧電体は、スパッタリング法によって成膜された薄膜であることを特徴とする。
【0148】
(発明15):発明1から14のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータと、前記圧電アクチュエータにおける厚み方向の最大変位が得られる部分に取り付けられた第1平板電極と、前記第1平板電極に対向して固定配置される第2平板電極と、を備え、前記圧電アクチュエータの駆動によって前記第1平板電極を前記厚み方向に変位させ、両平板電極間の距離を変化させることで静電容量が変化するように構成されていることを特徴とする可変容量コンデンサ。
【0149】
かかる態様によれば、圧電アクチュエータを駆動することによって第1平板電極(可動電極)が厚み方向に変位する。これにより、第2平板電極(固定電極)と、第1平板電極との電極間距離(ギャップ)が変化し、容量が変化する。
【0150】
本発明による圧電アクチュエータは、回転運動がなく、厚み方向への並進変位が可能であるため、制御性のよい可変キャパシタを実現できる。
【0151】
(発明16):発明1から14のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータと、前記圧電アクチュエータにおける厚み方向の最大変位が得られる部分に取り付けられたミラー部材と、を備え、前記圧電アクチュエータの駆動によって前記ミラー部材を前記厚み方向に変位させ、反射面の位置を前記厚み方向に変化させることで、前記ミラー部材に入射する光の光路を変更するように構成されていることを特徴とする光偏向素子。
【0152】
かかる態様によれば、圧電アクチュエータを駆動することによってミラー部が厚み方向に並進変位し、反射面の位置が移動する。これにより、反射点、反射光の光軸、光路長などを変えることができる。
【0153】
本発明による圧電アクチュエータは、回転運動がなく、厚み方向への並進変位が可能であるため、制御性のよいミラーデバイスを実現できる。
【符号の説明】
【0154】
10…圧電アクチュエータ、12…アクチュエータ(第1アクチュエータ)、12A…圧電駆動部、14…アクチュエータ(第2アクチュエータ)、14A,14B,14C…圧電駆動部、17…支持体、19…支持体、22…アクチュエータ(第1アクチュエータ)、22A…圧電駆動部、24…アクチュエータ(第2アクチュエータ)、24A,24B,24C…圧電駆動部、27…支持体、30…振動板、32…下部電極、34…圧電体、36…上部電極、40…固定部、47,57…ミアンダ連結部、101…アクチュエータ群、102…アクチュエータ群、110…圧電アクチュエータ、111…アクチュエータ群、112…アクチュエータ群、120…圧電アクチュエータ、121…アクチュエータ群、122…アクチュエータ群、150…可変容量コンデンサ、152…可動電極、156…固定フレーム、158…固定電極、162…ミラー、162A…反射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1圧電駆動部を有する第1アクチュエータであって、その長手方向の中央部が支持され、前記第1圧電駆動部への第1駆動電圧の印加によって撓んで変形し、長手方向の両端部が厚み方向に変位する第1アクチュエータと、
第2圧電駆動部を有する第2アクチュエータであって、その長手方向の両端部が前記第1アクチュエータの長手方向の両端部に連結され、前記第2圧電駆動部への第2駆動電圧の印加によって前記第1アクチュエータとは逆方向に撓み変形し、長手方向の中央部が厚み方向に変位する第2アクチュエータと、
を備えたことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータは、互いの長手方向が平行となるように並んで配置されることを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
前記第1アクチュエータの長手方向の中央部における当該第1アクチュエータの短手方向の片側端面部分が第1支持体を介して支持され、
当該第1支持体で支持される前記片側端面部分と反対側の長手方向両端部に第2支持体を介して前記第2アクチュエータが連結されることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータとが互いに連結されて構成された1組のアクチュエータ群を複数組備え、隣り合って配置される一方のアクチュエータ群を構成する第2アクチュエータの長手方向の中央部と他方のアクチュエータ群を構成する第1アクチュエータの長手方向の中央部とが連結されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項5】
前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータは、振動板に下部電極、圧電体、上部電極がこの順で厚み方向に積層された構造を有するユニモルフアクチュエータであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項6】
前記第2アクチュエータは振動板に下部電極、圧電体、上部電極がこの順で厚み方向に積層された構造を有し、当該第2アクチュエータにおける前記下部電極と前記上部電極に挟まれた前記圧電体の領域が前記第2圧電駆動部となり、該第2圧電駆動部は当該第2アクチュエータにおける振動板の長手方向の中央部分を含む領域に配置され、その長手方向の長さは、当該振動板の長手方向の長さの30〜80%の範囲であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項7】
前記第2アクチュエータは振動板に下部電極、圧電体、上部電極がこの順で厚み方向に積層された構造を有し、当該第2アクチュエータにおける前記下部電極と前記上部電極に挟まれた前記圧電体の領域が前記第2圧電駆動部となり、該第2圧電駆動部は当該第2アクチュエータにおける振動板の長手方向の中央部分を避けて長手方向の両側の端部に分かれて配置され、その各端部における長手方向の長さは、当該振動板の長手方向の長さの15〜45%の範囲であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項8】
前記第1駆動電圧と前記第2駆動電圧は、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータを互いに逆方向に撓ませ、前記第1アクチュエータの長手方向端部の厚み方向の変位と前記第2アクチュエータの長手方向中央部の厚み方向変位が累積されるように、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータに対して同時に印加されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項9】
前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータの長手方向の両端部同士を連結する部分がミアンダ構造を有していることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項10】
前記第1圧電駆動部及び前記第2圧電駆動部のそれぞれを構成する圧電体が1〜10μmの範囲の厚さを有する薄膜であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項11】
前記第1圧電駆動部及び前記第2圧電駆動部のそれぞれを構成する圧電体は、下記式(P)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
一般式ABO・・・(P)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
B:Bサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Sb,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素。
O:酸素元素。
Aサイト元素とBサイト元素と酸素元素のモル比は1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【請求項12】
前記第1圧電駆動部及び前記第2圧電駆動部のそれぞれを構成する圧電体は、下記式(PX)で表される1種又は2種以上のペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
(Zr,Ti,Mb−x−y・・・(PX)
(式中、A:Aサイトの元素であり、Pbを含む少なくとも1種の元素。
Mが、V,Nb,Ta,及びSbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素である。
0<x<b、0<y<b、0≦b−x−y。
a:b:c=1:1:3が標準であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で基準モル比からずれてもよい。)
【請求項13】
前記圧電体は、振動板となる基板の上に直接成膜された薄膜であることを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項14】
前記圧電体は、スパッタリング法によって成膜された薄膜であることを特徴とする請求項10から13のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータと、
前記圧電アクチュエータにおける厚み方向の最大変位が得られる部分に取り付けられた第1平板電極と、
前記第1平板電極に対向して固定配置される第2平板電極と、を備え、
前記圧電アクチュエータの駆動によって前記第1平板電極を前記厚み方向に変位させ、両平板電極間の距離を変化させることで静電容量が変化するように構成されていることを特徴とする可変容量コンデンサ。
【請求項16】
請求項1から14のいずれか1項に記載の圧電アクチュエータと、
前記圧電アクチュエータにおける厚み方向の最大変位が得られる部分に取り付けられたミラー部材と、を備え、
前記圧電アクチュエータの駆動によって前記ミラー部材を前記厚み方向に変位させ、反射面の位置を前記厚み方向に変化させることで、前記ミラー部材に入射する光の光路を変更するように構成されていることを特徴とする光偏向素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−210092(P2012−210092A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74430(P2011−74430)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】