説明

圧電アクチュエータおよびその製造方法

【課題】精度よく動作することが可能な圧電アクチュエータおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】誘電体10の中央部103の上面には、第一電極11と、第一電極11とは異なる極性の電圧が印加される第二電極12とが、左右方向に交互に並んで設けられている。中央部103の底面には、第三電極13と、第三電極13とは異なる極性の電圧が印加される第四電極14とが、左右方向に交互に並んで設けられている。第一、第二電極11,12は、誘電体10の底面に設けられた第三、第四電極13,14に対向しない。第一間隔部104における分極方向は、第一電極11から第二電極12に向かう方向である。第二間隔部105における分極方向は、第三電極13から第四電極14に向かう方向である。第一〜第四電極11,12,13,14に電圧を印加して、圧電アクチュエータ1を振動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体上に電極を備えた圧電アクチュエータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、誘電体上に電極を備えた圧電アクチュエータが知られている。例えば、特許文献1に記載の圧電アクチュエータでは、誘電体である圧電素子の一の面に、一の電極膜が、面全体を覆うように設けられ、グランドに接続されている。また、圧電素子の他の面には、電極膜が二個並んで設けられている。そして、二個の電極膜に、それぞれ位相が90°異なる電圧が印加されることによって、圧電素子が振動する。この圧電素子の振動を利用して、圧電素子に設けられたフィンガの先端が円運動を描くように駆動し、フィンガに接触している可動体を移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−271167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の圧電アクチュエータでは、圧電素子上に設けられた電極が、圧電素子を挟んで対向している。このため、対向する電極間に、寄生容量が発生する。この寄生容量によって、電極膜に電圧を印加して圧電素子の振動を制御する場合の精度が低下し、圧電アクチュエータの動作が不安定になるという問題点があった。
【0005】
本発明では、精度よく動作することが可能な圧電アクチュエータおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様に係る圧電アクチュエータは、分極された誘電体の厚み方向において対向する面のうち一の面に設けられた複数の第一電極と、前記一の面に設けられ、前記第一電極とは異なる極性の電圧が印加される複数の第二電極と、前記誘電体における前記一の面に対向する他の面に設けられた複数の第三電極と、前記他の面に設けられ、前記第三電極とは異なる極性の電圧が印加される複数の第四電極とを備え、前記第一電極と前記第二電極とは、前記一の面に所定の間隔で交互に並んで設けられ、前記第三電極と前記第四電極とは、前記他の面における、前記第一電極と前記第二電極との間の複数の前記間隔に対向する位置に、交互に並んで設けられ、分極された前記誘電体の分極方向は、前記第一電極と前記第二電極との間の前記誘電体の厚み方向に亘る部分においては、前記各第一電極から前記各第二電極に向かう方向であり、前記第三電極と前記第四電極との間の前記誘電体の厚み方向に亘る部分においては、前記各第三電極から前記各第四電極に向かう方向である。
【0007】
この場合、一の面に設けられた第一電極および第二電極が、他の面に設けられた第三電極および第四電極に対向しない。このため、一の面に設けられた電極と他の面に設けられた電極との間で寄生容量が発生しにくい。よって、高精度に圧電アクチュエータを動作させることができる。
【0008】
前記圧電アクチュエータにおいて、前記誘電体の前記一の面側に設けられ、前記複数の第一電極を接続する第一配線と、前記誘電体の前記一の面側に設けられ、前記複数の第二電極を接続する第二配線と、前記誘電体の前記他の面側に設けられ、前記複数の第三電極を接続する第三配線と、前記誘電体の前記他の面側に設けられ、前記複数の第四電極を接続する第四配線とを備えてもよい。
【0009】
この場合、誘電体上の第一〜第四電極に電圧を印加するために外部から接続する電気配線は、第一〜第四配線を接続するための4本でよい。このため、それぞれ複数設けられた第一〜第四電極に、個々に誘電体の外部から電気配線を接続する必要がない。
【0010】
前記圧電アクチュエータにおいて、前記第一配線と前記第二配線とが、前記第三配線と前記第四配線とに前記誘電体を挟んで対向する部分における前記誘電体の厚みは、前記誘電体の他の部分の厚みよりも大きくてもよい。
【0011】
この場合、誘電体の一の面に設けられた第一、第二配線と他の面に設けられた第三、第四配線とが対向する部分の厚みが大きいので、寄生容量が発生しにくい。このため、誘電体上に第一、第二配線と第三、第四配線とが対向する部分を形成した場合でも、高精度に圧電アクチュエータを動作させることができる。
【0012】
本発明の第二の態様に係る圧電アクチュエータの製造方法は、誘電体を分極する分極工程と、前記誘電体の一の面に、複数の第一電極と、前記第一電極とは異なる極性の電圧が印加される複数の第二電極とを所定の間隔で交互に並べて形成する第一形成工程と、前記誘電体の前記一の面に対向する他の面における、前記第一電極と前記第二電極との間の複数の前記間隔に対向する位置に、第三電極と、前記第三電極とは異なる極性の電圧が印加される第四電極とを交互に並べて複数形成する第二形成工程とを備え、前記分極工程によって分極された前記誘電体の分極方向は、前記第一電極と前記第二電極との間の前記誘電体の厚み方向に亘る部分においては、前記各第一電極から前記各第二電極に向かう方向であり、前記第三電極と前記第四電極との間の前記誘電体の厚み方向に亘る部分においては、前記各第三電極から前記各第四電極に向かう方向である。
【0013】
この場合、寄生容量が発生しにくく、高精度に動作することが可能な圧電アクチュエータを製造することができる。
【0014】
本発明の第三の態様に係る圧電アクチュエータの製造方法は、板状の基板に、複数の第一電極と、前記第一電極とは異なる極性の電圧が印加される複数の第二電極とを所定の間隔で交互に並べて形成する第一形成工程と、前記第一形成工程において形成される前記第一電極と前記第二電極とを覆うように誘電体を形成する誘電体形成工程と、前記誘電体を分極する分極工程と、前記誘電体の前記基板側の面である一の面に対向する他の面における、前記第一電極と前記第二電極との間の複数の前記間隔に対向する位置に、第三電極と、前記第三電極とは異なる極性の電圧が印加される第四電極とを交互に並べて複数形成する第二形成工程とを備え、前記分極工程によって分極された前記誘電体の分極方向は、前記第一電極と前記第二電極との間の前記誘電体の厚み方向に亘る部分においては、前記各第一電極から前記各第二電極に向かう方向であり、前記第三電極と前記第四電極との間の前記誘電体の厚み方向に亘る部分においては、前記各第三電極から前記各第四電極に向かう方向である。
【0015】
この場合、寄生容量が発生しにくく、高精度に動作することが可能な圧電アクチュエータを製造することができる。
【0016】
前記圧電アクチュエータの前記製造方法において、前記第二形成工程は、前記誘電体の前記他の面にフォトレジストを塗布するフォトレジスト塗布工程と、前記一の面側から光を照射し、前記フォトレジストにおける、前記第一電極と前記第二電極との間の複数の前記間隔に対向する位置を露光する露光工程と、前記フォトレジストの露光された部分に対応する位置に、前記フォトレジストに換えて、前記第三電極と前記第四電極とを形成する電極形成工程とを備えてもよい。
【0017】
この場合、第一電極と第二電極とによって、第三電極と第四電極との配線パターンが決定される。このため、第一電極と第二電極とが、第三電極と第四電極とに対向しないように形成されるため、寄生容量の発生が防止され、高精度に圧電アクチュエータを動作させることができる。
【0018】
前記圧電アクチュエータの前記製造方法において、前記誘電体の前記一の面側に、前記複数の第一電極を接続する第一配線と、前記複数の第二電極を接続する第二配線とを形成する第三形成工程と、前記誘電体の前記他の面側に、前記複数の第三電極を接続する第三配線と、前記複数の第四電極を接続する第四配線とを形成する第四形成工程とを備えてもよい。
【0019】
この場合、誘電体上の第一〜第四電極に電圧を印加するために外部から接続する電気配線は、第一〜第四配線を接続するための4本でよい。このため、それぞれ複数設けられた第一〜第四電極に、個々に誘電体の外部から電気配線を接続する必要がない。
【0020】
前記圧電アクチュエータの前記製造方法において、前記第一配線と前記第二配線とが、前記第三配線と前記第四配線とに前記誘電体を挟んで対向する部分における前記誘電体の厚みは、前記誘電体の他の部分の厚みよりも大きくてもよい。
【0021】
この場合、誘電体の一の面に設けられた第一、第二配線と他の面に設けられた第三、第四配線とが対向する部分の厚みが大きいので、寄生容量が発生しにくい。このため、誘電体上に第一、第二配線と、第三、第四配線とが対向する部分を形成した場合でも、高精度に動作する圧電アクチュエータを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】圧電アクチュエータ1の斜視図である。
【図2】図1のI−I線における矢視方向断面図である。
【図3】圧電アクチュエータ1が振動した場合の、図1のI−I線における矢視方向断面図である。
【図4】圧電アクチュエータ1が振動した場合の、図1のI−I線における矢視方向断面図である。
【図5】圧電アクチュエータ1の製造工程を示すフローチャートである。
【図6】圧電アクチュエータ1の製造工程を示す、図1のI−I線における矢視方向断図である。
【図7】圧電アクチュエータ1の製造工程を示す、図1のI−I線における矢視方向断図である。
【図8】圧電アクチュエータ1の製造工程を示す、図1のII−II線における矢視方向断図である。
【図9】圧電アクチュエータ1の製造工程を示す、図1のII−II線における矢視方向断図である。
【図10】圧電アクチュエータ2の斜視図である。
【図11】図10のIII−III線における矢視方向断面図である。
【図12】圧電アクチュエータ2が振動した場合の、図10のIII−III線における矢視方向断面図である。
【図13】圧電アクチュエータ2が振動した場合の、図10のIII−III線における矢視方向断面図である。
【図14】圧電アクチュエータ2の製造工程を示すフローチャートである。
【図15】圧電アクチュエータ2の製造工程を示す、図10のIII−III線における矢視方向断図である。
【図16】圧電アクチュエータ2の製造工程を示す、図10のIII−III線における矢視方向断図である。
【図17】圧電アクチュエータ2の製造工程を示す、図10のIV−IV線における矢視方向断図である。
【図18】圧電アクチュエータ2の製造工程を示す、図10のIV−IV線における矢視方向断図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第一実施形態)
以下、本発明に係る圧電アクチュエータを具現化した圧電アクチュエータ1、およびその製造方法について、図面を参照して説明する。なお、これらの図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、記載されている圧電アクチュエータの構成などは、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0024】
まず、圧電アクチュエータ1の全体構成を図1および図2を用いて説明する。なお、以後の説明において、図1の紙面上側を圧電アクチュエータ1の上側とし、紙面の下側を圧電アクチュエータ1の下側とする。図1の紙面左下側を圧電アクチュエータ1の前側とし、紙面右上側を圧電アクチュエータ1の後側とする。図1の紙面右下側を圧電アクチュエータ1の右側とし、紙面左上側を圧電アクチュエータ1の左側とする。
【0025】
図1および図2に示すように、圧電アクチュエータ1には、平面視四角形状の誘電体10が備えられている。誘電体10は、前端部101、後端部102、および中央部103から構成されている。中央部103は、前端部101と後端部102との間の部分である。誘電体10における、前端部101と後端部102との上下方向の厚みは、中央部103の上下方向の厚みより大きくなるように形成されている。
【0026】
中央部103の上面には、複数の第一電極11と、第一電極11とは異なる極性の電圧が印加される複数の第二電極12とが、所定の間隔(例えば、1mm)で左右方向に交互に並んで設けられている。より詳細には、第一電極11および第二電極12は、圧電アクチュエータ1の左側から、第一電極11、第二電極12、第一電極11、第二電極12、第一電極11、第二電極12の順番で並んでいる。第一電極11と第二電極12とは、それぞれ、中央部103の上面において、前後方向に延びている。この第一電極11と第二電極12との間における誘電体10の上下方向に亘る部分を、第一間隔部104という。
【0027】
図2に示すように、中央部103の底面には、第三電極13と、第三電極13とは異なる極性の電圧が印加される第四電極14とが、複数の第一間隔部104と対向する底面に、左右方向に交互に並んで設けられている。より詳細には、第三電極13および第四電極14は、圧電アクチュエータ1の左側から、第四電極14、第三電極13、第四電極14、第三電極13、第四電極14の順番で並んでいる。第三電極13と第四電極14とは、それぞれ、中央部103の底面において、前後方向に延びている。中央部103の上面に設けられた第一電極11および第二電極12の下方には、第三電極13および第四電極14は設けられていない。この第三電極13および第四電極14が設けられていない部分における誘電体10の上下方向に亘る部分を、第二間隔部105という。つまり、第一電極11と第二電極12とは、第二間隔部105の上側に形成されており、第三電極13と第四電極14とは、第一間隔部104の下側に形成されている。なお、本実施形態では、第一〜第四電極11,12,13,14と第一間隔部104と第二間隔部105とは、すべて同一の幅(左右方向の長さ、例えば1mm)に形成されている。
【0028】
図1に示すように、前端部101の上面には、第一配線111が設けられ、全ての第一電極11と接続されている。後端部102の上面には、第二配線121が設けられ、全ての第二電極12と接続されている。同様に、前端部101の底面には、第三配線131が設けられ、全ての第三電極13と接続されている。後端部102の底面には、第四配線141が設けられ、全ての第四電極14と接続されている。第一〜第四配線111,121,131,141には、それぞれ圧電アクチュエータ1の外部に設けられた電気配線である外部配線151,152,153,154が接続されている。より詳細には、第一配線111には外部配線151が接続され、第二配線121には外部配線152が接続され、第三配線131には外部配線153が接続され、第四配線141には、外部配線154が接続されている。外部配線151,152,153,154は、第一〜第四配線111,121,131,141に印加する電圧を制御する電圧制御部(図示外)に接続されている。これによって、外部配線151,152,153,154と第一〜第四配線111,121,131,141とを介して、第一〜第四電極11,12,13,14に電圧が印加される。
【0029】
次に、誘電体10の分極の方向について説明する。図2において、分極方向は、誘電体10中の矢印の方向である。図2に示すように、第一間隔部104における分極方向は、第一電極11から第二電極12に向かう方向である。また、第二間隔部105における分極方向は、第三電極13から第四電極14に向かう方向である。
【0030】
次に、図2〜図4を参照して、圧電アクチュエータ1の動作について説明する。誘電体10に設けられた第一〜第四電極11,12,13,14に電圧が印加されると、誘電体10は、伸びたり縮んだりしたりする。各電極間の電界が誘電体10に印加されるためである。より詳細には、誘電体10において、分極の方向の逆方向に電圧が印加された部分は伸び、分極の方向と同じ方向に電圧が印加された部分は縮む。圧電アクチュエータ1は、誘電体10の伸縮を利用して、誘電体10を撓ませることによって、音を発することができる。
【0031】
第一電極11にプラスの電位が印加され、第二電極12にマイナスの電位が印加されると、第一間隔部104には、分極の方向の逆方向に電圧が印加される。このとき、第一電極11と第二電極12との間の第一間隔部104が左右方向に伸びる。また、第一電極11と第二電極12は、誘電体10の上側に設けられているため、第一電極11と第二電極12とによって第一間隔部104に印加される電界は、第一間隔部104の下部よりも、上部の方が強い。このため、第一間隔部104の上部が、第一間隔部104の下部よりも大きく伸びる。
【0032】
また、第三電極13にマイナスの電圧が印加され、第四電極14にプラスの電圧が印加されると、第二間隔部105には、分極方向と同じ方向に電圧が印加される。このとき、第三電極13と第四電極14との間の第二間隔部105が左右方向に縮む。また、第三電極13と第四電極14は、誘電体10の下側に設けられているため、第三電極13と第四電極14とによって第二間隔部105に印加される電界は、第二間隔部105の上部よりも、下部の方が強い。このため、第二間隔部105の下部が、第二間隔部105の上部よりも大きく縮む。
【0033】
第一電極11および第四電極14にプラスの電位が印加され、第二電極12および第三電極13にマイナスの電位が印加されると、上述の伸縮によって、図3に示すように圧電アクチュエータ1の左右方向における中央部が上方に盛り上がるように、圧電アクチュエータ1が撓む。第一間隔部104の上部が左右方向に伸び、第二間隔部105の下部が左右方向に縮むため、誘電体10全体の上部が伸び、誘電体10の下部が縮むためである。
【0034】
一方、第一電極11にマイナスの電位が印加され、第二電極12にプラスの電位が印加されると、第一間隔部104には、分極の方向と同じに電圧が印加される。このとき、第一電極11と第二電極12との間の第一間隔部104が左右方向に縮む。また、第一電極11と第二電極12は、誘電体10の上側に設けられているため、第一電極11と第二電極12とによって第一間隔部104に印加される電界は、第一間隔部104の下部よりも、上部の方が強い。このため、第一間隔部104の上部が、第一間隔部104の下部よりも大きく縮む。
【0035】
また、第三電極13にプラスの電圧が印加され、第四電極14にマイナスの電圧が印加されると、第二間隔部105には、分極方向の逆方向に電圧が印加される。このとき、第三電極13と第四電極14との間の第二間隔部105が左右方向に伸びる。また、第三電極13と第四電極14は、誘電体10の下側に設けられているため、第三電極13と第四電極14とによって第二間隔部105に印加される電界は、第二間隔部105の上部よりも、下部の方が強い。このため、第二間隔部105の下部が、第二間隔部105の上部よりも大きく伸びる。
【0036】
第一電極11および第四電極14にマイナスの電位が印加され、第二電極12および第三電極13にプラスの電位が印加されると、上述の伸縮によって、図4に示すように圧電アクチュエータ1の左右方向における中央部が下方に凹むように、圧電アクチュエータ1が撓む。第一間隔部104の上部が左右方向に縮み、第二間隔部105の下部が左右方向に伸びるため、誘電体10全体の上部が縮み、誘電体10の下部が伸びるためである。
【0037】
つまり、第一電極11と第二電極12とに印加するプラスとマイナスとの電位を第一電極11と第二電極12との間で交互に入れ替え、同時に、第三電極13と第四電極14とに印加するプラスとマイナスとの電位を第三電極13と第四電極14との間で交互に入れ替えることによって、図3の状態および図4の状態の間で、圧電アクチュエータ1が変化する。この変化によって、圧電アクチュエータ1は振動し、音を発することができる。
【0038】
次に、圧電アクチュエータ1の製造方法について、図5〜図9を参照して説明する。図6および図7の(A)〜(K)は、図8および図9の(A)〜(K)に対応しており、各工程における圧電アクチュエータ1のI−I断面、II−II断面(図1参照)を表している。図6(A)および図8(A)は、後述するS11の工程において分極が行われる前の誘電体10を示している。図6(A)の誘電体10中の矢印は、分極の方向の一例を表している。なお、図8および図9においては、分極の方向の記載を省略している。図6(A)に示すように、後述するS11の工程において分極が行われる前の誘電体10の分極方向は、様々な方向に向いている。また、誘電体10の材料は、光を透過することができる材料であり、例えば、PVDFのような強誘電体ポリマーや、テトラチアフルパレン・ブロマニル(TTF−BF)のような有機電荷移動体を使用することができる。誘電体10において、中央部103の厚みは、例えば、1mmである。また、前端部101と後端部102との厚みは、例えば、1.1mmである。
【0039】
図5〜図9に示すように、まず、分極工程(S11)では、図6(B)に示すように、分極方向が形成される。分極工程(S11)では、誘電体10における中央部103の上面と底面とのそれぞれに、分極を形成するための電圧を印加する一対の分極用電極が接触される。そして、この分極用電極を与える電圧を変化させながら、分極用電極を中央部103の左右方向に移動させることによって、図6(B)に示すような分極方向が形成される。分極の方向の詳細については、図2を参照して説明済みなので省略する。
【0040】
次いで、第一金属層形成工程(S12)では、S11の工程で分極した誘電体10上に、金属を、例えば100nmの厚みで蒸着し、金属層21を形成する(図6(C)および図8(C)参照)。金属層21の材料には、例えば、Al、Cuなどが使用できる。次いで、第一形成工程(S13)では、第一金属層形成工程(S12)で形成した金属層21から、エッチングによって所定のパターンに第一電極11、第二電極12、第一配線111、および第二配線121を形成する(図6(D)および図8(D)参照)。このとき、第一電極11および第二電極12の配置は、前述したように、所定の間隔で交互に並んで配置される。
【0041】
次いで、フォトレジスト塗布工程(S14)では、誘電体10の底面に、スピンコート法によって、ポジ型のフォトレジストを塗布し、フォトレジスト層22を形成する(図6(E)および図8(E)参照)。次いで、露光工程(S15)では、誘電体10の上面側から光を照射して露光を行う(図6(F)および図8(F)参照)。なお、図6(F)および図8(F)においては、照射される光の方向を矢印30で表している。S15の工程において照射された光の一部は、第一電極11と第二電極12とに遮られる。このため、フォトレジスト層22において、第一電極11と第二電極12とに誘電体10を挟んで対向する部分は、露光されず溶解性が増大しない。一方、第一電極11と第二電極12とがない部分では、光が透明な誘電体10を通過し、フォトレジスト層22が露光されるため溶解性が増大する。
【0042】
次いで、エッチング工程(S16)では、エッチングにより、フォトレジスト層22における、露光工程(S15)で露光されて溶解性が増大した部分のフォトレジストを除去する(図7(G)および図9(G)参照)。次いで、第二金属層形成工程(S17)では、エッチング工程(S16)において、フォトレジストが除去された部分を含む底面全体に、金属層23が形成される(図7(H)および図9(H)参照)。金属層23の材料には、例えば、Al、Cuなどを使用することができる。
【0043】
次いで、電極形成工程(S18)では、リフトオフによって、フォトレジスト層22と、フォトレジスト層22の下に形成された金属層23とが除去されることによって、残った金属層23が第三電極13および第四電極14となる(図7(I)および図9(I)参照)。つまり、第三電極13と第四電極14とが形成される。前述したように、第三電極13と第四電極14とは、所定の間隔で交互に並んで配置される。
【0044】
次いで、配線形成工程(S19)では、インクジェット法によって金属を塗布することによって、前端部101の底面に第三配線131が形成され、後端部102の底面に第四配線141が形成される(図7(J)および図9(J)参照)。次いで、接続工程(S20)では、インクジェットで導電ペーストを塗布することによって、第一〜第四配線111,121,131,141が、それぞれ第一〜第四電極11,12,13,14に接続される(図7(K)および図9(K)参照)。なお、図9(K)では、第二電極12と第二配線121とが接続されている。
【0045】
以上の工程によって、圧電アクチュエータ1が形成される。本実施形態によれば、誘電体10の上面に設けられた第一、第二電極11,12が、誘電体10の底面に設けられた第三、第四電極13,14に対向しない。このため、誘電体10の上面に設けられた第一、第二電極11,12と、誘電体10の底面に設けられた第三、第四電極13,14とが互いに対向する場合に比べて、寄生容量が発生しにくい。このため、寄生容量の影響を受け難く、第一〜第四電極11,12,13,14に電圧を印加して、誘電体10の振動を制御する場合の精度が向上する。よって、高精度に圧電アクチュエータ1を振動させることができる。
【0046】
また、本実施形態では、S15の露光工程(図5参照)において、第一電極11と第二電極12とに遮られなかった光が、誘電体10の底面に塗布されたフォトレジスト層22を露光する。そして、この露光されたフォトレジスト層22の部分に、S18の電極形成工程(図5参照)において、第三電極13と第四電極14とが形成される。つまり、第一電極11と第二電極12とが利用されることによって、第三電極13と第四電極14との配線パターンが決定される。このため、第一電極11と第二電極12とが、第三電極13と第四電極14とに対向しないように形成されるため、寄生容量の発生が防止され、高精度に圧電アクチュエータ1を振動させることができる。また、第三電極13と第四電極14とを形成する場合に、別途マスク等を用意する必要がない。よって、コストダウンが可能である。
【0047】
また、前端部101と後端部102との上下方向の厚みは、中央部103の上下方向の厚みより大きくなるように形成されている。これによって、前端部101の上面に設けられた第一配線111と、前端部101の底面に設けられた第三配線131との間に寄生容量が発生することが防止される。また、後端部102の上面に設けられた第二配線121と、後端部102の底面に設けられた第四配線141との間に寄生容量が発生することが防止される。このため、電圧制御部が第一〜第四配線111,121,131,141を介して、第一〜第四電極11,12,13,14に電圧を印加して、誘電体10の振動を制御する場合の精度が向上する。よって、高精度に圧電アクチュエータ1を振動させることができる。
【0048】
また、第一〜第四配線111,121,131,141が設けられているため、第一〜第四電極11,12,13,14に電圧を印加するための外部配線は、4本でよい。つまり、複数設けられた第一〜第四電極11,12,13,14の個々の電極に、誘電体10の外部から電気配線を接続する必要がない。このため、外部配線の本数を削減することができる。
【0049】
また、本実施形態では、誘電体10の上部が左右方向に伸びた場合には、同時に、誘電体10の下部が左右方向に縮む(図3参照)。このため、例えば、誘電体10の上部のみが左右方向に伸び、誘電体10の下部は変化しない場合に比べて、誘電体10の撓みが大きくなる。一方、誘電体10の上部が左右方向に縮んだ場合には、同時に、誘電体10の下部が左右方向に伸びる(図4参照)。このため、例えば、誘電体10の下部のみが左右方向に伸び、誘電体10の上部は変化しない場合に比べて、誘電体10の撓みが大きくなる。つまり、本実施形態では、誘電体10が大きく撓むので、圧電アクチュエータ1の振動が大きい。したがって、圧電アクチュエータ1は、大きな音を発することができる。
【0050】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態に係る圧電アクチュエータ2、およびその製造方法について、図面を参照して説明する。なお、以後の説明において、図10の紙面上側を圧電アクチュエータ2の上側とし、紙面の下側を圧電アクチュエータ2の下側とする。図10の紙面左下側を圧電アクチュエータ2の前側とし、紙面右上側を圧電アクチュエータ2の後側とする。図10の紙面右下側を圧電アクチュエータ2の右側とし、紙面左上側を圧電アクチュエータ2の左側とする。
【0051】
第二実施形態における圧電アクチュエータ2は、基板31を備えており、基板31上に、誘電体や電極等が設けられている。なお、第一実施形態においては、第一〜第四電極11,12,13,14のうち、先に形成する電極であり、且つ露光工程(図5のS15参照)において光を遮る電極が第一電極11および第二電極12であった。第二実施形態においては、先に形成する電極であり、且つ露光工程(図14のS36、後述)において光を遮る電極を第一電極41および第二電極42とする。このため、本実施形態では、第一電極41と第二電極42とが、誘電体40の底面に配置され、後述する第三電極43および第四電極44が誘電体40の上面に配置されている。
【0052】
まず、圧電アクチュエータ2の全体構成を図10および図11を参照して説明する。図10および図11に示すように、圧電アクチュエータ2には、平面視四角形状の板状の基板31が備えられている。基板31の前端部である基板前端部311と基板31の後端部である基板後端部312とは、それぞれ、基板前端部311と基板後端部312との間の部分である基板中央部313より下方に凹んでいる。
【0053】
基板31の上側には、平面視四角形状の誘電体40が備えられている。誘電体40の前後方向の長さは、基板31の前後方向の長さよりもやや短い。また、誘電体40の左右方向の長さは、基板31の前後方向の長さと同一である。誘電体40は、誘電体40の前端部である誘電体前端部401、後端部である誘電体後端部402、および誘電体中央部403から構成されている。誘電体中央部403は、誘電体前端部401と誘電体後端部402との間の部分である。
【0054】
誘電体中央部403は、基板中央部313に対応する前後方向の長さと左右方向の長さとを有している。誘電体40は、誘電体中央部403と基板中央部313とが接するように、基板31の上側に設けられている。誘電体中央部403の前側に設けられた誘電体前端部401の上部は、誘電体中央部403の上面よりも上方に突出している。また、誘電体前端部401の下部は、誘電体中央部403の底面よりも下方に突出している。誘電体前端部401の底面と基板前端部311の上面との間には、第一配線411が設けられている。第一配線411は、後述する複数の第一電極41と接続されている。基板前端部311は、誘電体前端部401よりも前方に突出している。そして、第一配線411は、基板前端部311の上面全体に設けられている。これによって、第一配線411の前部は外部に露出しており、この露出した部分には、後述する外部配線151が接続されている。
【0055】
誘電体中央部403の後側に設けられた誘電体後端部402の上部は、誘電体中央部403の上面よりも上方に突出している。また、誘電体後端部402の下部は、誘電体中央部403の底面よりも下方に突出している。誘電体後端部402の底面と基板後端部312の上面との間には、第二配線421が設けられている。第二配線421は、後述する複数の第二電極42と接続されている。基板後端部312は、誘電体後端部402よりも後方に突出している。そして、第二配線421は、基板後端部312の上面全体に設けられている。これによって、第二配線421の後部は外部に露出しており、この露出した部分には、後述する外部配線152が接続されている。
【0056】
図11に示すように、基板中央部313の上側には、複数の第一電極41と、第一電極41とは異なる極性の電圧が印加される複数の第二電極42とが、所定の間隔(例えば、1mm)で左右方向に交互に並んで設けられている。より詳細には、第一電極41および第二電極42は、圧電アクチュエータ2の左側から、第二電極42、第一電極41、第二電極42、第一電極41、第二電極42の順番で並んでいる。第一電極41と第二電極42とは、それぞれ、誘電体中央部403の底面において、前後方向に延びている。誘電体中央部403の底面と第一電極41の底面と第二電極42の底面とは、基板中央部313の上面と接触している。また、第一電極41と第二電極42との間における誘電体中央部403の上下方向に亘る部分を、第三間隔部404という。
【0057】
誘電体中央部403の上面には、第三電極43と、第三電極43とは異なる極性の電圧が印加される第四電極44とが、複数の第三間隔部404と対向する上面に、左右方向に交互に並んで設けられている。より詳細には、第三電極43および第四電極44は、圧電アクチュエータ2の左側から、第三電極43、第四電極44、第三電極43、第四電極44、第三電極43、第四電極44の順番で並んでいる。第三電極43と第四電極44とは、それぞれ、誘電体中央部403の上面において、前後方向に延びている。誘電体中央部403の底面に設けられた第一電極41および第二電極42の上方には、第三電極43および第四電極44は設けられていない。この第三電極43および第四電極44が設けられていない部分における誘電体中央部403の上下方向に亘る部分を、第四間隔部405という。つまり、第一電極41と第二電極42とは、第四間隔部405の下側に形成されており、第三電極43と第四電極44とは、第三間隔部404の上側に形成されている。なお、本実施形態では、第一〜第四電極41,42,43,44と第三間隔部404と第四間隔部405とは、すべて同一の幅(左右方向の長さ、例えば1mm)に形成されている。
【0058】
図10に示すように、誘電体前端部401の上面には、第三配線431が設けられ、全ての第三電極43と接続されている。誘電体後端部402の上面には、第四配線441が設けられ、全ての第四電極44と接続されている。前述したように、誘電体前端部401の底面と基板前端部311との間には、第一配線411が設けられており、全ての第一電極41と接続されている。また、誘電体後端部402の底面と基板後端部312の上面との間には、第二配線421が設けられ、全ての第二電極42と接続されている。第一〜第四配線411,421,431,441には、圧電アクチュエータ2の外部に設けられた電気配線である外部配線151,152,153,154が接続されている。より詳細には、第一配線411には外部配線151が接続され、第二配線421には外部配線152が接続され、第三配線431には外部配線153が接続され、第四配線441には、外部配線154が接続されている。外部配線151,152,153,154は、圧電アクチュエータ2の第一〜第四配線411,421,431,441に印加する電圧を制御する電圧制御部(図示外)に接続されている。これによって、外部配線151,152,153,154と第一〜第四配線411,421,431,441とを介して、それぞれ第一〜第四電極41,42,43,44に電圧が印加される。
【0059】
次に、誘電体40の分極の方向について説明する。図11において、分極方向は、誘電体40中の矢印で表す。図11に示すように、第三間隔部404における分極方向は、第一電極41から第二電極42に向かう方向である。また、第四間隔部405における分極方向は、第三電極43から第四電極44に向かう方向である。
【0060】
次に、図11〜図13を参照して、圧電アクチュエータ2の動作について説明する。第一実施形態の場合と同様に、誘電体40に設けられた第一〜第四電極41,42,43,44に電圧が印加されると、誘電体40は、伸びたり、縮んだりする。圧電アクチュエータ2は、誘電体40の伸縮を利用して、誘電体40を撓ませることによって、音を発することができる。
【0061】
第一電極41にプラスの電位が印加され、第二電極42にマイナスの電位が印加されると、第三間隔部404には、分極の方向の逆方向に電圧が印加される。このとき、第一電極41と第二電極42との間の第三間隔部404が左右方向に伸びる。また、第一電極41と第二電極42は、誘電体40の下部に設けられているため、第一電極41と第二電極42とによって第三間隔部404に印加される電界は、第三間隔部404の上部よりも、下部の方が強い。このため、第三間隔部404の下部が、第三間隔部404の上部よりも大きく伸びる。
【0062】
また、第三電極43にマイナスの電圧が印加され、第四電極44にプラスの電圧が印加されると、第四間隔部405には、分極方向と同じ方向に電圧が印加される。このとき、第三電極43と第四電極44との間の第四間隔部405が縮む。また、第三電極43と第四電極44は、誘電体40の上側に設けられているため、第三電極43と第四電極44とによって第四間隔部405に印加される電界は、第四間隔部405の下部よりも、上部の方が強い。このため、第四間隔部405の上部が、第四間隔部405の下部よりも大きく縮む。
【0063】
第一電極41および第四電極44にプラスの電位が印加され、第二電極42および第三電極43にマイナスの電位が印加されると、上述の伸縮によって、図12に示すように、圧電アクチュエータ2の左右方向における中央部が下方に凹むように、圧電アクチュエータ2が撓む。第三間隔部404の下部が左右方向に伸び、第四間隔部405の上部が左右方向に縮むため、誘電体40全体の下部が左右方向に伸び、誘電体40の上部が左右方向に縮むためである。
【0064】
一方、第一電極41にマイナスの電位が印加され、第二電極42にプラスの電位が印加されると、第三間隔部404には、分極の方向と同じに電圧が印加される。このとき、第一電極41と第二電極42との間の第三間隔部404が左右方向に縮む。また、第一電極41と第二電極42とは、誘電体40の下部に設けられているため、第一電極41と第二電極42とによって第三間隔部404に印加される電界は、第三間隔部404の上部よりも、下部の方が強い。このため、第三間隔部404の下部が、第三間隔部404の上部よりも大きく縮む。
【0065】
また、第三電極43にプラスの電圧が印加され、第四電極44にマイナスの電圧が印加されると、第四間隔部405には、分極方向の逆方向に電圧が印加される。このとき、第三電極43と第四電極44との間の第四間隔部405が左右方向に伸びる。また、第三電極43と第四電極44は、誘電体40の上部に設けられているため、第三電極43と第四電極44とによって第四間隔部405に印加される電界は、第四間隔部405の下部よりも、上部の方が強い。このため、第四間隔部405の上部が、第四間隔部405の下部よりも大きく伸びる。
【0066】
第一電極41および第四電極44にマイナスの電位が印加され、第二電極42および第三電極43にプラスの電位が印加されると、上述の伸縮によって、図13に示すように圧電アクチュエータ2の左右方向における中央部が上方に盛り上がるように、圧電アクチュエータ2が撓む。第三間隔部404の下部が縮み、第四間隔部405の上部が伸びるため、誘電体40全体の上部が伸び、誘電体40の下部が縮むためである。
【0067】
つまり、第一電極41と第二電極42とに印加するプラスとマイナスとの電位を第一電極41との間で交互に入れ替え、同時に、第三電極43と第四電極44とに印加するプラスとマイナスとの電位を第三電極43と第四電極44との間で交互に入れ替えることによって、図12および図13の間で、圧電アクチュエータ2が変化する。この変化によって、圧電アクチュエータ2は振動し、音を発することができる。
【0068】
次に、圧電アクチュエータ2の製造方法について、図14〜図18を参照して説明する。図15および図16の(A)〜(J)は、図17および図18の(A)〜(J)に対応しており、各工程における圧電アクチュエータ2のIII−III断面およびIV−IV断面(図10参照)を表している。
【0069】
図14〜図18に示すように、まず、第一形成工程(S31)では、基板31の上側に、金属を例えば、100nmの厚みで蒸着し、第一電極41、第二電極42、第一配線411、および第二配線421を形成する(図15(A)および図17(A)参照)。基板31は、光を透過することができる材料であり、例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、ナイロン11(ポリアミド)、ビニリデンシアナイド系共重合体、ポリ乳酸(PLA)などで構成されている。また、第一電極41、第二電極42、第一配線411、および第二配線421の材料には、例えば、Al、Cuなどが使用できる。S31の工程では、第一電極41および第二電極42の配置は、前述したように、基板中央部313の上側で所定の間隔で交互に並んで配置される。また、第一配線411は基板前端部311の上側に形成され、第二配線421は基板後端部312の上側に形成される。このとき、基板前端部311と基板後端部312との上面は、基板中央部313の上面より下方に位置しているため、第一配線411と第二配線421とは、第一電極41と第二電極42とに接続されていない。なお、基板31の上下方向の厚みは、例えば、基板前端部311が50nmであり、基板後端部312が50nmであり、基板中央部313が200nmである。
【0070】
次いで、第二接続工程(S32)では、インクジェット法で導電ペーストを塗布することによって、第一配線411が全ての第一電極41に接続され、第二配線421が全ての第二電極42に接続される(図15(B)および図17(B)参照)。なお、図17(B)では、第二電極42と第二配線421とが接続されている。
【0071】
次いで、誘電体形成工程(S33)では、例えば1mmの厚みで誘電体を塗布し、誘電体40を形成する(図15(C)および図17(C)参照)。このとき、誘電体前端部401および誘電体後端部402を形成する部分には、誘電体中央部403より厚く(例えば、1.1mmの厚み。)誘電体を塗布する。これによって、誘電体前端部401と誘電体後端部402とが、誘電体中央部403よりも上下方向に突出するように形成される(図17(C)参照)。誘電体40の材料は、光を透過することができる材料であり、例えば、PVDFのような強誘電体ポリマーや、テトラチアフルパレン・ブロマニル(TTF−BF)のような有機電荷移動体を使用することができる。
【0072】
分極工程(S34)では、図15(C)に示すように、分極方向が形成される。分極工程(S34)では、誘電体中央部403の上面と、基板中央部313の底面とのそれぞれに、分極形成用の電圧を印加する一対の分極用電極が接触される。そして、この分極用電極を与える電圧を変化させながら、分極用電極を左右方向に移動させることによって、図15(C)に示すような分極方向が形成される。分極の方向の詳細については、図11を参照して説明済みなので省略する。
【0073】
次いで、フォトレジスト塗布工程(S35)では、スピンコート法によって、誘電体40の上面にネガ型のフォトレジストを塗布し、フォトレジスト層52を形成する(図15(D)および図17(D)参照)。次いで、露光工程(S36)では、基板31の下方から上方に向けて光を照射して露光を行う(図15(E)および図17(E)参照)。なお、図15(E)および図17(E)においては、照射される光の方向を矢印50で表している。S36の工程において照射された光の一部は、第一電極41と第二電極42とに遮られる。このため、フォトレジスト層52において、第一電極41と第二電極42とに誘電体40を挟んで対向する部分は、露光されず硬化しない。一方、第一電極41と第二電極42とがない部分では、光透過性のある基板31と誘電体40とを光が通過し、フォトレジスト層52が露光されて硬化する。
【0074】
次いで、エッチング工程(S37)では、エッチングにより、フォトレジスト層52における、S37の工程で露光されず硬化していない部分のフォトレジストを除去する(図16(F)および図18(F)参照)。次いで、防水材料塗布工程(S38)では、S37の工程で除去されなかったフォトレジスト層52の上側と、S37の工程でフォトレジスト層52が除去された部分の誘電体40の上側とに、防水材料53が塗布され、防水コーティングされる(図16(G)および図18(G)参照)。
【0075】
次いで、フォトレジスト除去工程(S39)では、S37の処理で除去されなかったフォトレジスト層52をアセトン溶液中で超音波洗浄することによって除去する。このとき、フォトレジスト層52の上側の塗布されていた防水材料53も除去される(図16(H)および図18(H)参照)。
【0076】
次いで、電極形成工程(S40)では、インクジェット法によって誘電体40の上側に金属が塗布される。塗布された金属は防水材料53の上側には定着せず、S39の工程においてフォトレジスト層52が除去された部分に導かれる。これによって、S39の工程においてフォトレジスト層52が除去された部分に、第三電極43と第四電極44とが形成される(図16(I)および図18(I)参照)。なお、第三電極43および第四電極44の材料には、例えば、Al、Cuなどが使用できる。
【0077】
次いで、第二配線形成工程(S41)では、S39の工程において除去されなかった防水材料53が、アセトン溶液中で超音波洗浄されることによって除去される。また、第三配線431および第四配線441が形成される(図16(J)および図18(J)参照)。S41の工程では、インクジェット法によって金属が塗布されることによって、誘電体前端部401の上面に第三配線431が形成され、誘電体後端部402の上面に第四配線441が形成される。次いで、第三接続工程(S42)では、インクジェットで導電ペーストが塗布されることによって、第三配線431が全ての第三電極43に接続され、第四配線441が全ての第四電極44に接続される(図示せず)。
【0078】
以上の工程によって、圧電アクチュエータ2が形成される。本実施形態によれば、誘電体40の底面に設けられた第一、第二電極41,42が、誘電体40の上面に設けられた第三、第四電極43,44に対向しない。このため、誘電体40の底面に設けられた第一、第二電極41,42と、誘電体40の上面に設けられた第三、第四電極43,44とが互いに対向する場合に比べて、寄生容量が発生しにくい。このため、寄生容量の影響を受け難く、第一〜第四電極41,42,43,44に電圧を印加して、誘電体40の振動を制御する場合の精度が向上する。よって、高精度に圧電アクチュエータ2を振動させることができる。
【0079】
また、本実施形態では、S36の露光工程(図14参照)において、第一電極41と第二電極42とに遮られなかった光が、誘電体40の上面に塗布されたフォトレジスト層52を露光する。そして、この露光されたフォトレジスト層52の部分に、S40の電極形成工程(図14参照)において、第三電極43と第四電極44とが形成される。つまり、第一電極41と第二電極42とが利用されることによって、第三電極43と第四電極44との配線パターンが決定される。このため、第三電極43と第四電極44とを形成する場合に、別途マスク等を用意する必要がない。よって、コストダウンが可能である。また、第一電極41と第二電極42とが、第三電極43と第四電極44とに対向しないように形成されるため、寄生容量の発生が防止され、高精度に圧電アクチュエータ2を振動させることができる。
【0080】
また、誘電体前端部401と誘電体後端部402との上下方向の厚みは、誘電体中央部403の上下方向の厚みより大きくなるように形成されている。これによって、誘電体前端部401の底面に設けられた第一配線411と、誘電体前端部401の上面に設けられた第三配線431との間に寄生容量が発生することが防止される。また、誘電体後端部402の底面に設けられた第二配線421と、誘電体後端部402の上面に設けられた第四配線441との間に寄生容量が発生することが防止される。このため、電圧制御部が第一〜第四配線411,421,431,441を介して、第一〜第四電極41,42,43,44に電圧を印加して、誘電体40の振動を制御する場合の精度が向上する。よって、高精度に圧電アクチュエータ2を振動させることができる。
【0081】
また、第一〜第四配線411,421,431,441が設けられているため、第一〜第四電極41,42,43,44に電圧を印加するための外部配線は、4本でよい。つまり、複数設けられた第一〜第四電極41,42,43,44の個々の電極に、誘電体40の外部から電気配線を接続する必要がない。このため、外部配線の本数を削減することができる。
【0082】
また、本実施形態では、誘電体40の下部が左右方向に伸びた場合には、同時に、誘電体40の上部が左右方向に縮む(図12参照)。このため、例えば、誘電体40の下部のみが左右方向に伸び、誘電体40の上部は変化しない場合に比べて、誘電体40の撓みが大きくなる。一方、誘電体40の下部が左右方向に縮んだ場合には、同時に、誘電体40の上部が左右方向に伸びる(図13参照)。このため、例えば、誘電体40の上部のみが左右方向に伸び、誘電体40の下部は変化しない場合に比べて、誘電体40の撓みが大きくなる。つまり、本実施形態では、誘電体40が大きく撓むので、圧電アクチュエータ2の振動が大きい。したがって、圧電アクチュエータ2は、大きな音を発することができる。
【0083】
なお、本発明は第一、第二実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、第一実施形態において、前端部101と後端部102との厚みを、中央部103の厚みより大きくし、第二実施形態において、誘電体前端部401と誘電体後端部402の厚みを、誘電体中央部403の厚みよりも大きくして、配線に寄生容量が発生することを防止していたが、これに限定されない。例えば、厚みを大きくせず、前端部101、後端部102、誘電体前端部401、および誘電体後端部402のそれぞれを挟んで対向する配線の間に、絶縁層を形成することで、寄生容量の発生を防止してもよい。
【0084】
また、前端部101、後端部102、誘電体前端部401、誘電体後端部402を形成しなくてもよい。この場合、第一実施形態においては、中央部103および第一〜第四電極11,12,13,14を形成し、第二実施形態においては、基板中央部313、誘電体中央部403、および第一〜第四電極41,42,43,44を形成すればよい。この場合においても、各電極に外部配線を接続し、電圧を供給することで、圧電アクチュエータ1,2を振動させることができる。
【0085】
また、第一実施形態の第一〜第四電極11,12,13,14や、第二実施形態の第一〜第四電極41,42,43,44の本数や大きさは限定されない。
【0086】
なお、第一、第二実施形態において、S14〜S18の工程(図5参照)およびS34〜S40の工程(図14参照)が、本発明の「第二形成工程」に相当する。また、第一配線111および第二配線121を形成するS13の工程(図5参照)、第一配線111を第一電極11に接続し、第二配線121を接続するS20の工程(図5参照)、第一配線411と第二配線421を形成するS31の工程(図14参照)、およびS32の工程(図14参照)が本発明の「第三形成工程」に相当する。また、S19の工程、S20の工程(図5参照)、第三配線431および第四配線441を形成するS41の工程、およびS42の工程(図14参照)が、本発明の「第四形成工程」に相当する。
【符号の説明】
【0087】
1,2 圧電アクチュエータ
10 誘電体
11,41 第一電極
12,42 第二電極
13,43 第三電極
14,44 第四電極
22,52 フォトレジスト層
31 基板
40 誘電体
101 前端部
102 後端部
103 中央部
104 第一間隔部
105 第二間隔部
111,411 第一配線
121,421 第二配線
131,431 第三配線
141,441 第四配線
313 基板中央部
401 誘電体前端部
402 誘電体後端部
403 誘電体中央部
404 第三間隔部
405 第四間隔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極された誘電体の厚み方向において対向する面のうち一の面に設けられた複数の第一電極と、
前記一の面に設けられ、前記第一電極とは異なる極性の電圧が印加される複数の第二電極と、
前記誘電体における前記一の面に対向する他の面に設けられた複数の第三電極と、
前記他の面に設けられ、前記第三電極とは異なる極性の電圧が印加される複数の第四電極と
を備え、
前記第一電極と前記第二電極とは、前記一の面に所定の間隔で交互に並んで設けられ、
前記第三電極と前記第四電極とは、前記他の面における、前記第一電極と前記第二電極との間の複数の前記間隔に対向する位置に、交互に並んで設けられ、
分極された前記誘電体の分極方向は、
前記第一電極と前記第二電極との間の前記誘電体の厚み方向に亘る部分においては、前記各第一電極から前記各第二電極に向かう方向であり、
前記第三電極と前記第四電極との間の前記誘電体の厚み方向に亘る部分においては、前記各第三電極から前記各第四電極に向かう方向であることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記誘電体の前記一の面側に設けられ、前記複数の第一電極を接続する第一配線と、
前記誘電体の前記一の面側に設けられ、前記複数の第二電極を接続する第二配線と、
前記誘電体の前記他の面側に設けられ、前記複数の第三電極を接続する第三配線と、
前記誘電体の前記他の面側に設けられ、前記複数の第四電極を接続する第四配線と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータ
【請求項3】
前記第一配線と前記第二配線とが、前記第三配線と前記第四配線とに前記誘電体を挟んで対向する部分における前記誘電体の厚みは、前記誘電体の他の部分の厚みよりも大きいことを特徴とする請求項2に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
誘電体を分極する分極工程と、
前記誘電体の一の面に、複数の第一電極と、前記第一電極とは異なる極性の電圧が印加される複数の第二電極とを所定の間隔で交互に並べて形成する第一形成工程と、
前記誘電体の前記一の面に対向する他の面における、前記第一電極と前記第二電極との間の複数の前記間隔に対向する位置に、第三電極と、前記第三電極とは異なる極性の電圧が印加される第四電極とを交互に並べて複数形成する第二形成工程と
を備え、
前記分極工程によって分極された前記誘電体の分極方向は、
前記第一電極と前記第二電極との間の前記誘電体の厚み方向に亘る部分においては、前記各第一電極から前記各第二電極に向かう方向であり、
前記第三電極と前記第四電極との間の前記誘電体の厚み方向に亘る部分においては、前記各第三電極から前記各第四電極に向かう方向であることを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項5】
板状の基板に、複数の第一電極と、前記第一電極とは異なる極性の電圧が印加される複数の第二電極とを所定の間隔で交互に並べて形成する第一形成工程と、
前記第一形成工程において形成される前記第一電極と前記第二電極とを覆うように誘電体を形成する誘電体形成工程と、
前記誘電体を分極する分極工程と、
前記誘電体の前記基板側の面である一の面に対向する他の面における、前記第一電極と前記第二電極との間の複数の前記間隔に対向する位置に、第三電極と、前記第三電極とは異なる極性の電圧が印加される第四電極とを交互に並べて複数形成する第二形成工程と
を備え、
前記分極工程によって分極された前記誘電体の分極方向は、
前記第一電極と前記第二電極との間の前記誘電体の厚み方向に亘る部分においては、前記各第一電極から前記各第二電極に向かう方向であり、
前記第三電極と前記第四電極との間の前記誘電体の厚み方向に亘る部分においては、前記各第三電極から前記各第四電極に向かう方向であることを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項6】
前記第二形成工程は、
前記誘電体の前記他の面にフォトレジストを塗布するフォトレジスト塗布工程と、
前記一の面側から光を照射し、前記フォトレジストにおける、前記第一電極と前記第二電極との間の複数の前記間隔に対向する位置を露光する露光工程と、
前記フォトレジストの露光された部分に対応する位置に、前記フォトレジストに換えて、前記第三電極と前記第四電極とを形成する電極形成工程と
を備えたことを特徴とする請求項4または5に記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項7】
前記誘電体の前記一の面側に、前記複数の第一電極を接続する第一配線と、前記複数の第二電極を接続する第二配線とを形成する第三形成工程と、
前記誘電体の前記他の面側に、前記複数の第三電極を接続する第三配線と、前記複数の第四電極を接続する第四配線とを形成する第四形成工程と
を備えたことを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項8】
前記第一配線と前記第二配線とが、前記第三配線と前記第四配線とに前記誘電体を挟んで対向する部分における前記誘電体の厚みは、前記誘電体の他の部分の厚みよりも大きいことを特徴とする請求項7に記載の圧電アクチュエータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−205861(P2011−205861A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73295(P2010−73295)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】