説明

圧電アクチュエータおよびその製造方法

【課題】一つの圧電素子が絶縁破壊してショートした場合でも、故障していない圧電素子を動作させ、全体の機能を維持できる圧電アクチュエータおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】印加電圧に応じて変位する圧電アクチュエータであって、矩形体に形成され、伸縮方向に沿って直列に連結された複数の圧電素子110と、複数の圧電素子110のそれぞれの表面上に形成され、外部電極112に接続された過電流制限部114と、過電流制限部114に接続され、過電流制限部114を介して複数の圧電素子110への電圧印加を可能にするリード部材130とを備える。これにより、一つの圧電素子110が絶縁破壊してショートした場合でも、故障していない圧電素子110を動作させ、圧電アクチュエータ100全体の機能を維持できる。その結果、圧電アクチュエータ100を用いた装置全体としての動作を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印加電圧に応じて変位する圧電アクチュエータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層型の圧電素子は、圧電層と内部電極とが交互に積層して形成されており、電圧印加により積層方向へ伸びるが、面方向へは縮む。このような積層型の圧電素子は比較的高電圧を印加して機械的な変形を起こさせて使用するため、クラックが発生して絶縁破壊し故障することがある。特許文献1、2記載の圧電素子は、このようなクラックの発生を防止するために各層の接着の構造や内部電極の形状等を改良している。しかし、クラックの発生の可能性を完全に無くすことはできない。
【0003】
一方、圧電アクチュエータには、積層型の圧電素子を接着して変位方向に直列に連結し、印加電圧により十分な変位量を確保するものが知られている。例えば、特許文献3記載の圧電アクチュエータは、PZT等の圧電セラミックと銀、パラジウム等の内部電極とを交互に積層し、さらにその複数の積層体(圧電素子)を重ねて固着させることにより形成されている。そして、複数の圧電素子が並列に接続され、駆動電圧が印加されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2921310号公報
【特許文献2】特許4658280号公報
【特許文献3】特許4700456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような複数の圧電素子を連結した圧電アクチュエータは、駆動の際に圧電素子の一つが絶縁破壊してショートした場合、そのショートした部分に電流が流れることで全体が動作しなくなる。しかし、複数個ある圧電素子のうち、故障していない圧電素子のみでも動作するようにできれば、アクチュエータを使用した装置全体としての動作が確保できる可能性がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、一つの圧電素子が絶縁破壊してショートした場合でも、故障していない圧電素子を動作させ、全体の機能を維持できる圧電アクチュエータおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の圧電アクチュエータは、印加電圧に応じて変位する圧電アクチュエータであって、矩形体に形成され、伸縮方向に沿って直列に連結された複数の圧電素子と、前記複数の圧電素子のそれぞれの表面上に形成され、外部電極に接続された過電流制限部と、前記過電流制限部に接続され、複数の圧電素子への電圧印加を可能にするリード部材と、を備えることを特徴としている。
【0008】
これにより、一つの圧電素子が絶縁破壊してショートした場合でも、故障していない圧電素子を動作させ、圧電アクチュエータ全体の機能を維持できる。その結果、圧電アクチュエータを用いた装置全体としての動作を確保できる。
【0009】
(2)また、本発明の圧電アクチュエータは、前記過電流制限部の抵抗値が、必要駆動電圧をV、電源電流をIとしたとき、V/Iより大きいことを特徴としている。これにより、絶縁破壊してショートした圧電素子が生じても、その圧電素子に大きな電流が流れる事態を防止し、他の圧電素子の機能を維持できる。
【0010】
(3)また、本発明の圧電アクチュエータは、前記過電流制限部が、過電流により溶断する構造を有することを特徴としている。これにより、絶縁破壊してショートした圧電素子が生じた場合に、溶断部が溶融して電気的接続が断たれるため、ショートした圧電素子のみを回路から完全に切り離せる。
【0011】
(4)また、本発明の圧電アクチュエータの製造方法は、上記の圧電アクチュエータの製造方法であって、圧電層と内部電極とが交互に積層された素子本体のそれぞれに前記外部電極用および過電流制限部用の各金属ペーストを塗布する工程と、前記塗布された各金属ペーストを素子本体に同時に焼き付ける工程と、を含むことを特徴としている。これにより、効率的に接続部を有する圧電アクチュエータを作製することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一つの圧電素子が絶縁破壊してショートした場合でも、故障していない圧電素子を動作させ、圧電アクチュエータ全体の機能を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の圧電アクチュエータの側面図である。
【図2】比較例の圧電アクチュエータの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
[第1の実施形態]
(圧電アクチュエータの構成)
図1は、圧電アクチュエータ100の側面図である。圧電アクチュエータ100は、印加電圧に応じて変位し、たとえば精密位置決めや高速の駆動源として使用される。そのような場合には、図1に示す圧電アクチュエータ100に金属製のキャップを被せて用いられる。キャップは、圧電素子110、リード部材130および突起150を収容している。圧電素子110、リード部材130および突起150は、キャップにより密封される。
【0016】
圧電アクチュエータ100は、複数の圧電素子110、全体接続用のリード部材130、突起150、ベース160、ハーメチック端子170を備えている。複数の圧電素子110は、矩形体に形成され、圧電アクチュエータ100の伸縮方向(積層方向)に沿って直列に連結されている。複数の圧電素子110が、積層方向に連結されているため、全体での変位量を拡大することができる。
【0017】
圧電素子110は、PZT等の圧電セラミックスからなる圧電体とPtやAg/Pd等からなる内部電極とが積層して素子本体111が形成されている。図1に示すように圧電素子110の側面には、内部電極に接続された個別用の外部電極112が設けられている。外部電極112は、AgやAg/Pd等のペーストを印刷し、焼き付けることで形成できる。個別用のリード部材113は、板状または線状に形成され、外部電極112上に固着されている。個別用のリード部材113により、外部電極112が分割する事態が生じても導通が維持される。
【0018】
また、圧電素子110の側面には、接続電極115が設けられている。そして、接続電極115と個別用の外部電極112との間には、過電流制限部114が設けられており、両者を接続している。外部電極112、過電流制限部114および接続電極115は、素子本体111の表面に焼き付けられて形成されている。過電流制限部114は、複数の圧電素子のそれぞれの外部電極に接続されている。過電流制限部114の抵抗値は、必要駆動電圧をV、電源電流をIとしたとき、V/Iより大きいことが好ましい。すなわち、上記の抵抗値をRとすると、R>V/Iとなることが好ましい。これにより、絶縁破壊してショートした圧電素子が生じても、その圧電素子に大きな電流が流れる事態を防止し、他の圧電素子の機能を維持できる。R<V/Iである場合、電源が出力できる電圧はI・RとなりV以下となるため、他の圧電素子の機能を十分に維持できない。
【0019】
全体接続用のリード部材130は、板状または線状に形成され、各圧電素子110の側面に設けられた接続電極115に接続されている。そして、接続電極115を介して過電流制限部114に接続され、複数の圧電素子110への電圧印加を可能にしている。リード部材130により複数の圧電素子110への電圧印加が可能になる。なお、各リード部材113、130には、通常、リン青銅などの導電性の高い金属を用いる。
【0020】
ベース160は、金属製であり、圧電アクチュエータ100の本体部分を支持している。ベース160は、端子挿通用の穴を有し、穴はハーメチック端子170が挿通した状態で、ガラスにより封止される。ハーメチック端子170は、全体接続用のリード部材130に接続されており、外部からの電圧を、リード部材130を介して圧電素子110に印加する。
【0021】
(圧電アクチュエータの製造方法)
次に、上記のように構成された圧電アクチュエータ100の作製方法を説明する。まず、内部電極を印刷した圧電材料の成形体を積層して、焼成することで素子本体111を作製する。そして、所定の寸法に加工後、素子本体111のそれぞれに外部電極112用および過電流制限部114用の各金属ペーストを塗布する。
【0022】
そして、塗布された各金属ペーストを素子本体111の表面に焼き付け、外部電極112、接続電極115および過電流制限部114を形成する。さらに、リード部材113は、外部電極112上に固着させて、圧電素子110を作製しておく。そして、設計に従い圧電素子110を伸縮方向に直列に並べ、リード部材130を各外部電極112に接続できる所定位置に設置する。このように配置された複数の圧電素子110とリード部材130とを接続する。
【0023】
さらに、連結された複数の圧電素子110の先端部に突起150を接着した状態で、金属製のキャップを被せ、キャップ内を密封し、不活性ガス雰囲気中で、金属キャップをベースに溶接する。このようにして、圧電アクチュエータ100を製造することができる。
【0024】
(圧電アクチュエータの用途)
圧電アクチュエータ100の用途のひとつにマスフローコントローラがある。マスフローコントローラは半導体製造装置などで原料ガスの流量をコントロールする機材である。マスフローコントローラでは、圧電アクチュエータ100が故障した場合、弁が閉じたままとなることがある。
【0025】
このような場合に、故障したマスフローコントローラを交換するためには、流路のガスを置換する必要がある場合があり、弁が閉じたままになるとこの作業が難しくなる。マスフローコントローラに圧電アクチュエータ100を使えば、故障した後でも、初期特性は得られないものの弁の開け閉めは可能であり、交換作業がしやすくなる。
【0026】
[第2の実施形態]
上記の実施形態では、過電流制限部114が電気的に高抵抗の部材により形成されているが、過電流制限部114は、過電流により溶断する構造を有していてもよい。このような構造は、過電流による発熱で溶けるものであればよい。たとえば融点が290℃以下の低融点金属により過電流制限部114が形成されていれば、過電流が生じたときに容易に溶断する。このような低融点金属には、たとえば半田が挙げられる。これにより、絶縁破壊してショートした圧電素子110が生じた場合に、過電流制限部114が溶融して電気的接続が断たれるため、ショートした圧電素子のみを回路から完全に切り離せる。また、過電流制限部114は、融点が900℃程度の銀や銅等の金属で、素子表面に細く印刷され、適度な抵抗を有するよう構成されていてもよい。
【0027】
なお、過電流制限部114が低融点金属で構成されている場合には、上記の実施形態とは異なり、過電流制限部114を外部電極112等と同時に焼き付けることはできない。そのため、圧電アクチュエータ製造時には、外部電極112および接続電極115を予め素子本体111に焼き付けておき、その後に素子表面に低融点金属で形成された過電流制限部114を設け、外部電極112と接続電極115とを接続する。
【0028】
[実施例および比較例]
(素子本体の作製)
6×6×10mmの積層型の素子本体111を用意した。圧電材料のグリーンシートに銀パラジウムの電極ペーストを印刷して積層・圧着後、脱脂・焼成・加工を行ない、所望の形状の素子本体を得た。得られた素子本体111は、積層1層あたり約63μmで120層積層されたものである。この素子本体111の規格は、推奨駆動電圧120V、最大駆動電圧150Vである。
【0029】
(比較例の作製)
比較例として、用意した積層型の素子本体111に、内部電極に接続した外部電極212を印刷、焼き付けした。それを4個、積層方向に直列に接着して、外部電極212に接続するようリード線230を素子本体111にはんだ付けした。図2は、比較例の圧電アクチュエータ200を示す側面図である。なお、リード線230は圧電素子210の伸縮に伴う外部電極212の疲労破壊防止の防止とハーメチック端子170との導通を兼ねた役割を果たしている。
【0030】
(実施例1の作製)
一方、実施例として、用意した積層型の素子本体111に対して、内部電極に接続した外部電極112と、内部電極には接続されていない接続電極115と、それらの電極間に約15kΩになるように幅と厚みを調整した抵抗ペーストを印刷、焼き付けし、過電流制限部114を形成した。得られた圧電素子を4個縦に接着し、外部電極112にリード線113をはんだ付けした。これは圧電素子110の伸縮に伴う外部電極112の疲労破壊防止のためである。次に、圧電素子110それぞれの接続電極115とハーメチック端子170をリード線130で接続した。
【0031】
(実施例2の作製)
用意した積層型の素子本体111の内部電極に接続した外部電極112と、内部電極には接続されていない接続電極115を印刷、焼き付けした。これとは別に、約10μm程度のはんだボールをフィラーとして2液性のエポキシ系接着剤と混合し、導電性の接着剤を作製した。これを、上記の外部電極112と接続電極115との間に印刷、硬化した。得られた圧電素子を4個縦に接着し、外部電極にリード線113をはんだ付けした。これは圧電素子110の伸縮に伴う外部電極112の疲労破壊防止のためである。次に、圧電素子110それぞれの外部電極112とハーメチック端子170とをリード線130で接続した。
【0032】
(測定および試験)
作製した圧電アクチュエータ(比較例、実施例1、実施例2につき各5本)の絶縁抵抗と変位を150V印加して測定したところ全て1GΩ以上で、約36〜38μmであった。この圧電アクチュエータに50mAのDC電源を接続して徐々に電圧を上昇させたところ、300〜400Vで破壊した。破壊したところですぐに電圧を0Vに落とした。全てのアクチュエータは、4素子中1素子に放電跡が見られ、実施例2では、はんだ部分が溶断していることが確認できた。
【0033】
次に、再度150V印加して絶縁抵抗と変位を測定した。比較例はすべて1kΩ以下、実施例1はほぼ15kΩ前後、実施例2は1GΩ以上であった。比較例の圧電アクチュエータ5本すべてで変位が測定できなかった。実施例1および2は約27〜29μmであった。
【0034】
これは、比較例では4素子中1素子が破壊したために圧電アクチュエータ全体の絶縁抵抗が低下し、150Vの電圧が掛けられなくなったためと考えられる。また、実施例1では、4素子中1素子が破壊したが、2つの外部電極間に形成した過電流制限部が15kΩあったため、圧電アクチュエータ全体の抵抗が15kΩより下がらず、3素子分の変位が得られたものと思われる。また、実施例2では、破壊した素子に形成したはんだ過電流制限部が溶断したため残りの3素子に電圧が加わり、3素子分の変位が得られたものと思われる。以上のように実施例1、2では故障して性能は低下するものの、完全に機能を失うことがないことが分かった。
【符号の説明】
【0035】
100 圧電アクチュエータ
110 圧電素子
111 素子本体
112 外部電極
113 リード部材(リード線)
114 過電流制限部
115 接続電極
130 リード部材(リード線)
150 突起
160 ベース
170 ハーメチック端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加電圧に応じて変位する圧電アクチュエータであって、
矩形体に形成され、伸縮方向に沿って直列に連結された複数の圧電素子と、
前記複数の圧電素子のそれぞれの表面上に形成され、外部電極に接続された過電流制限部と、
前記過電流制限部に接続され、複数の圧電素子への電圧印加を可能にするリード部材と、を備えることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記過電流制限部の抵抗値は、必要駆動電圧をV、電源電流をIとしたとき、V/Iより大きいことを特徴とする請求項1記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
前記過電流制限部は、過電流により溶断する構造を有することを特徴とする請求項1記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の圧電アクチュエータの製造方法であって、
圧電層と内部電極とが交互に積層された素子本体のそれぞれに前記外部電極用および過電流制限部用の各金属ペーストを塗布する工程と、
前記塗布された各金属ペーストを素子本体に同時に焼き付ける工程と、を含むことを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−77616(P2013−77616A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215169(P2011−215169)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)