説明

圧電アクチュエータおよびそれを用いたステージ装置

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は、駆動力を発生するアクチュエータおよびアクチュエータによって駆動されるステージ装置に関し、特に、圧電素子を用いた高精度のアクチュエータおよびそのアクチュエータを用いたステージ装置に関する。
次世代超LSIの露光装置として注目されているX線露光装置においては、マスクとウェーハの最終重合せ精度が0.05μm以下のレベルになることが要求される。
[従来の技術]
従来のステッパ型露光装置のXYステージには、主として、DCモータとボールネジを組み合わせたものが用いられていた。その位置決め精度は約0.1μmのオーダであった。このDCモータとボールネジを組み合わせた方式ではガタやバックラッシを完全になくすことは難しく、0.01μmあるいはそれ以下の位置決め精度を実現することは極めて困難であると考えられる。
高精度の位置決めを可能にするアクチュエータとして、圧電素子を用いたものが提案されている。しかしながら、ある物は自由度が低く、またある物は応答性が低い。
[発明が解決しようとする課題]
以上述べたように、従来のDCモータとボールネジを用いたアクチュエータによっては、要求される高精度の位置決めが極めて困難である。
圧電素子は高精度の微小変位が可能で、高精度の位置決めを行う可能性を有するが、その能力を十分に発揮する構造が未だ開発されているとはいえない。
本発明の目的は、圧電素子を用い、高精度の位置決めを可能とし、かつ操作の容易な圧電アクチュエータを提供することである。
本発明の他の目的は、上述のような、圧電アクチュエータを用いたステージ装置を提供することである。
[課題を解決するための手段]
本発明によれば、印加する電気的信号に応じて第1の方向に伸縮する圧電素子を用いた圧電アクチュエータであって、第1の方向の部分と該第1の方向に交差する第2の方向の部分とを有する固定支持部と、第1の方向に伸縮方向を有する圧電素子と、圧電素子を該固定支持部の第1の方向の部分に結合し、圧電素子の第1の方向の移動を許容して移動量に応じた弾性力を発生すると共に他の方向の移動を実質的に禁止する第1弾性ヒンジ部と、該固定支持部の第2の方向の部分と該圧電素子の1端との間に挿入され、その間の距離を制御するウェッジ部材とを有する圧電アクチュエータが提供される。
[作用]
圧電素子を高精度で駆動しようとする場合には、ある程度の予圧を付与することが望ましい。第1の方向に伸縮する圧電素子を第1の方向の移動を許容して移動量に応じた弾性力を発生し、他の方向の移動を実質的に禁止する第1弾性ヒンジ部で支持することにより、圧電素子を高精度で第1の方向のみに駆動することが可能となる。
また、圧電素子と固定支持部との間にウェッジ部材を挿入することにより、容易に所望の予圧を与えることができる。
[実施例]
第1図は本発明の1実施例による圧電アクチュエータを示す斜視図である。ベース構造体1は図中Y方向の1対の固定腕部1aと1対の柱部材1b、梁部材1cより構成される。このベース構造体内にZ方向に案内する2対の弾性部材4a、4bが接続されている。すなわち、固定腕部1a、柱部材1b、梁部材1cによって1つの剛体としての略U字形構造が構成される。ベース上にこのU字形構造のいずれかの部分を固定する。積層圧電素子2はこのU字形状のベース構造体の1対の柱部材1bの中間に配置される。圧電素子2を中心として見た時、1対の柱部材1bが対称的に配置されるのが好ましい。この積層圧電素子には、歪みゲージ3が取り付けられており、積層圧電素子2の変位をモニタする。圧電素子2と1対の柱部材1bとの間は対称の位置に配置された2対の板バネ部材4a,4b,によって結合されている。図示の構成においては、圧電素子2の上端が2対の板バネ部材4a,4bによって柱部材1bの上端に結合され、圧電素子2の下端が1対の板バネ部材4cによって柱部材1bの下方に結合されている。積層圧電素子2の下端は、また梁部材1cとの間に間隙を有し、そこにウェッジ部材6が挿入、結合されている。すなわち、ウェッジ部材6を図中左側に駆動すると、ウェッジ部材の厚い部分が積層圧電素子2と梁部材1cとの間に挿入され、積層圧電素子2により大きな予圧を与える。逆に、ウェッジ部材6を図中右方向に駆動すると、圧電素子の下端と梁部材1cとの間の余裕が大となり、積層圧電素子2に与える予圧は減少する。このウェッジ部材6は,たとえばネジ部材8を回転させることによって駆動することができる。すなわち、ネジ部材8を回転することによって、積層圧電素子2に与える予圧を調整することができる。以上の構成において、U字型の剛性部の中に積層圧電素子が予圧を付与されて配置され、電圧駆動されることによりその上端が変位する。積層圧電素子2の上端には、第2弾性ヒンジ部5が結合されている。図示の構成においては、積層圧電素子2の上端が板バネ部材4a,4bを固定する中間保持部9と結合され、この中間保持部9に第2弾性ヒンジ部5の下面が接着、固定されている。第2弾性ヒンジ部5の上面は被駆動体7にたとえばアルミナ入り接着剤で固着される。アルミナは接着剤に剛性を付与する機能を果たす。
第2弾性ヒンジ部は積層圧電素子の移動方向(図中、Z方向)に沿って高い剛性を有し、このZ方向と直交するXY平面内の力に対しては弱い弾性を示すものである。図示の構成においては、断面形状が円柱の外周を円弧状にけずり取られた球面ヒンジによって構成されている。
すなわち、球面ヒンジ部材5はその中央に向かうに従って小さな径を有する。積層圧電素子2が伸びると、この第2弾性ヒンジ部5がZ方向に駆動され、第2弾性ヒンジ部5の上端に固定された被駆動体7をZ方向に駆動する。被駆動体7に働く力にアンバランスがあって、その面が傾く場合には被駆動体7から第2弾性ヒンジ部5にXY平面内方向の力が作用するが、第2弾性ヒンジ部5はXY面内方向には弱い弾性を有するので、容易にXY面内方向の力に従って弾性変形する。従って、被駆動体7自体に過大な歪み応力を発生させることがない。
圧電素子は一般にヒステリシスを有する。圧電素子2には歪みゲージ3が貼り付けられ、圧電素子2の変位をフィードバッグする。積分補償によるフィードバッグ系を形成して、閉ループを構成する。この構成の具体的1例においては、開ループで約15%あったヒステリシスが、閉ループによるフィードバッグによって約0.1%程度となった。
第1図に示した、圧電アクチュエータによれば、圧電素子には所望の予圧が印加され、電気信号に従って所望の圧電変位を発生する。積層圧電素子2の変位はZ方向の変位のみを許容する第1弾性ヒンジ部4(4a,4b)によって案内されてZ方向の変位として第2弾性ヒンジ部5に伝えられる。第2弾性ヒンジ部はZ方向に対しては高い剛性を有するので、積層圧電素子2から伝えられたZ方向変位を被駆動体7に伝達する。逆に、被駆動体7から伝わるZ方向以外の変位に対しては、第2弾性ヒンジ部5が変位を生ずることによってその力を吸収する。
第2図は、第1図に示した圧電アクチュエータを3個使用したステージ装置を示す斜視図である。
図中、メインステージ15はその上に半導体ウェーハを載置するウェーハチャック16を有し、端部にX、Y2方向の位置モニタ用L型ミラー17を有する。L型ミラー17には図示しないレーザよりのレーザ光が入射され、干渉によってXY面内の位置をモニタする。メインステージ15は3つの結合部材18a,18b,18cと、第1図に示した圧電アクチュエータ3個10a、10b、10cによってベース構造体11に結合されている。圧電アクチュエータ10a、10b、10cはそれぞれ積層圧電素子3a、3b、3cによって駆動されて、Z方向の駆動力を発揮する。このZ方向の駆動力は球面ヒンジ部材で示される第2弾性ヒンジ部5a、5b、5cを介して結合部材18a、18b、18cに伝えられ、メインステージ15を駆動する。結合部材18a,18b,18cは、たとえば、アルミナ粉末を充填した接着剤である。もちろんネジ等の機械的結合部材を用いることもできる。
3つの積層圧電部材3a、3b、3cを同一量駆動した場合には、メインステージ15はZ方向に並進運動をする。3つの積層圧電素子3a、3b、3cの駆動量を変えると、Z方向の並進、X軸回りの回転θx、y軸回りの回転θyの組み合わせを起すことができる。
3つの圧電アクチュエータ10a、10b、10cの作用点は、好ましくは正三角形の頂点に選ぶ。作用点が正三角形になるように選ぶことにより、3つの圧電アクチュエータはそれぞれが均等のものとなる。
3つの圧電アクチュエータ3a、3b、3cの駆動量が異なる場合には、厳密にはメインステージ15の面の傾きが変化し、その傾きに応じた力が各積層圧電素子にかかる。ここで、第2弾性ヒンジ部5a、5b、5cがそれぞれZ方向に垂直なXY平面内においては、弱い剛性を有するので、このような力は第2弾性ヒンジ部5が変形することによって吸収される。
このように、3つ以上の圧電アクチュエータによってステージ装置を支持することにより、Z方向、θx回転、θy回転の3自由度における駆動が高精度に行える。
圧電素子、ヒンジ部材、ウェッジ部材を有機的に組み合わせたことにより、コンパクトで軽量な構造により、精度の高いアクチュエータおよびステージ装置が実現される。
また、被駆動対象物を直接駆動する自由度の高い駆動装置を実現することによって、コンパクトな構成と高い応答性が得られる。
積層圧電素子の駆動量が異なる場合にも、メインステージが受ける反力は小さく、従って、その内部に生じる応力も小さい。その結果、メインステージに生じる変形も小さくできる。
予圧を与えた圧電素子の駆動力を弾性変形によって駆動対象物に伝達するため、ガタやバックラッシのない高精度の駆動が可能となる。
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれに制限されるものではない。たとえば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
[発明の効果]
以上説明したように、本発明によれば、圧電素子を用いて高精度で応答性の高いアクチュエータおよびそれを用いたステージ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の実施例による圧電アクチュエータ示す斜視図、
第2図は、第1図に示す圧電アクチュエータを用いたステージ装置を示す斜視図である。
図において、
1……ベース構造体
1a……固定腕部
1b……柱部材
1c……梁部材
2……積層圧電素子
3……歪みゲージ
4……第1弾性ヒンジ部
5……第2弾性ヒンジ部
6……ウェッジ部材
7……被駆動体
10……圧電アクチュエータ
11……ベース構造体
15……メインステージ
16……ウェーハチャック
17……L型ミラー
18……結合部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】印加する電気的信号に応じて第1の方向に伸縮する圧電素子を用いた圧電アクチュエータであって、第1の方向の部分と該第1の方向に交差する第2の方向の部分とを有する固定支持部と、第1の方向に伸縮方向を有する圧電素子と、圧電素子を該固定支持部の第1の方向の部分に結合し、圧電素子の第1の方向の移動を許容して移動量に応じた弾性力を発生すると共に他の方向の移動を実質的に禁止する第1弾性ヒンジ部と、該固定支持部の第2の方向の部分と該圧電素子の1端との間に挿入され、その間の距離を制御するウェッジ部材と、を有する圧電アクチュエータ。
【請求項2】前記固定支持部が第1の方向に沿った圧電素子の両側に対称的に配置された1対の柱部材と、該1対の柱部材の各1端を結合する1つの梁部材とを含む略U字形状を有し、前記第1弾性ヒンジ部が各柱部材と前記圧電素子とを対称位置で結合する偶数個の板バネ部材を含む請求項(1)記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】前記圧電素子の他端に結合され、前記第1の方向に高い剛性を有し、第1の方向に直交する方向には弾性を有する第2弾性ヒンジ部をさらに有する請求項(1)または(2)記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】前記第1の方向と直交する平面を画定する固定支持面と、該固定支持面から前記第1の方向に間隔をおいて配置されたステージ面と、該固定支持面に前記固定支持部が固定され、該ステージ面に前記第2弾性ヒンジ部が固定された3個以上の請求項(3)記載の圧電アクチュエータとを有するステージ装置。

【第1図】
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【第2図】
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【特許番号】第2677294号
【登録日】平成9年(1997)7月25日
【発行日】平成9年(1997)11月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−225058
【出願日】平成1年(1989)8月31日
【公開番号】特開平3−89876
【公開日】平成3年(1991)4月15日
【出願人】(999999999)住友重機械工業株式会社
【復代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
【参考文献】
【文献】特開 昭56−7107(JP,A)
【文献】実開 昭63−105336(JP,U)