説明

圧電アクチュエータの駆動装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、制御手段から出力される目標位置に応じた制御信号に応じて、圧電アクチュエータに対する充電経路を形成して充電を行うと共に、放電経路を形成して充電した電荷の放電を行なわせるように構成された圧電アクチュエータの駆動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば、圧電アクチュエータなどの容量性負荷の駆動を行う回路としては、図7に示すような基本構成のものがある。これは、圧電アクチュエータ1に対して、NPN形トランジスタ2およびPNP形トランジスタ3のエミッタを共通に接続すると共に、トランジスタ2のコレクタを正の電源4に、トランジスタ3のコレクタを負の電源5に接続してなる駆動回路を構成している。これらのトランジスタ2および3のベースは共通にして駆動用の制御回路6の出力端子に接続されている。
【0003】制御回路6から出力される電圧に応じてトランジスタ2,3が駆動され、電源4からトランジスタ2を介して圧電アクチュエータ1に充電を行い、トランジスタ2をオフさせてトランジスタ3を駆動することにより圧電アクチュエータ1の電荷をトランジスタ3を介して放電するようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このようなプッシュプル回路を用いたパワーブースタ回路では、圧電素子1への印加電圧の大きさを制御回路6の出力電圧以上に設定することができないので、高電圧を印加して充放電動作を行う目的の場合には別途に回路を構成する必要がある。
【0005】そこで、このような要望に対応して、例えば、図8に示すようなブートストラップ回路を設けた構成のものや、あるいは特開平5−111266号公報に示されるようなものが考えられている。すなわち、図8に示すものでは、リニアIC7の電源電圧を出力の電位に追随して変動させるようにしたもので、ブートストラップ回路を基本にした構成となっている。リニアIC7の非反転入力端子は抵抗8および絶縁分離回路などを介して制御信号の出力端子に接続されている。
【0006】リニアIC7の出力端子は圧電アクチュエータ1を介してアースされると共に、帰還抵抗9を介して反転入力端子に接続されている。リニアIC7の正の電源端子はトランジスタ10を介して正の電源端子11に接続され、負の電源端子はトランジスタ12を介して負の電源端子13に接続されている。一方、正負の電源端子11,13間には、トランジスタ14,定電圧ダイオード15,16およびトランジスタ17の直列回路が接続され、トランジスタ14,17のベースは抵抗18a,18b,18cからなるバイアス回路にて駆動されるようになっている。トランジスタ14,17の各コレクタはトランジスタ10,12のベースに接続されている。
【0007】上記構成によれば、トランジスタ14,17を駆動することにより2個の定電圧ダイオード15,16に一定の電流を流し、常に一定の端子電圧を発生させる。例えば、定電圧ダイオード15,16のツェナー電圧をリニアIC7の電源電圧±15Vに対応した15Vのものを用いると、リニアIC7の出力電圧に追随して両電源端子にはその出力電圧±15Vの範囲に設定されることになり、負荷である圧電アクチュエータ1には、トランジスタなどの耐圧の範囲内で大きい振幅の電圧を印加することができるようになる。
【0008】この場合、例えば、定電圧ダイオード15,16の両端にそれぞれ15Vを発生させ、リニアIC7の出力端子に100Vを出力しようとすると、リニアIC7の正の電源端子には115Vが供給され、負の電源端子には85Vが供給されるようになり、このとき、リニアIC7の出力電圧は常に電源電圧の範囲内にあることになり、100Vの出力電圧を発生させることができるのである。
【0009】しかしながら、この構成においては、常にトランジスタやリニアIC7に電流を供給する必要があり、したがって、負荷である圧電アクチュエータ1の充放電に必要な消費電力以上に容量の大きい電源を用いなければならないという不具合がある。また、信号系統に用いられる半導体素子は、通常30〜50V程度の出力電圧までしか扱えないので、100V以上の電圧を印加しようとする場合には直接信号を伝達できず、電気的に絶縁された信号伝達手段を用いる必要があるという不具合がある。
【0010】ところが、このような電気的に絶縁した信号伝達手段として、例えばアイソレーションアンプを用いることが考えられるが、そのアイソレーションアンプは、実際には非常に高価なものであるため、実用に供するには全体が高価なものになる不具合がある。
【0011】また、特開平5−111266号公報に示すものでは、圧電アクチュエータへの充電電流を調整するための電流調整回路を圧電アクチュエータの電位にフローティングさせることにより大きい振幅の印加電圧が要求される圧電アクチュエータ用駆動装置を実現している。
【0012】また、信号系統の回路から高い駆動電圧に変動する電流調整回路に信号を伝達する構成としてフォトカプラを用いている。これにより、信号系統回路と電流調整回路を電気的に絶縁しながら信号の伝達を行えるようにしている。さらに、素子の温度特性を補正するために、現実に圧電アクチュエータに流れる電流を検出し、リニアICにおいてフォトカプラにより伝達された目標値とを比較してその偏差に基づいて充放電の制御を行うようにしているので、正確且つ安定な駆動を行うことができる。
【0013】しかしながら、上述の構成において、圧電アクチュエータに充放電を行うためのFETの駆動系統にフォトカプラを用いているので、次のような不具合がある。すなわち、フォトカプラには、LEDに与える電流に対応して伝達される電流の値が素子毎にばらつきがあり、したがって、フォトカプラのばらつきに起因する補正を行う回路を個々に設ける必要があり、全体として構成が複雑且つ高価になる不具合がある。
【0014】これは、例えば、あるフォトカプラにおいてはLEDに10mAの信号を与えると、10mAの信号を伝達するように出力されるが、他のフォトカプラでは、12mAも出力されてしまう場合があるからである。
【0015】本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、信号伝達系統に電気的な絶縁を行う構成を用いることなく、圧電アクチュエータに高い電圧を印加することができるようにした圧電アクチュエータの駆動装置を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明は、圧電アクチュエータに対する充電経路を形成して充電を行うと共に、放電経路を形成して充電電荷の放電を行なわせるように構成された圧電アクチュエータの駆動装置を対象とするものであり、前記圧電アクチュエータの充電経路に介在され、第1の電源端子にエミッタが接続され前記圧電アクチュエータ側にコレクタが接続されたpnp形の充電用トランジスタと、前記圧電アクチュエータの放電経路に介在され、第2の電源端子にエミッタが接続され前記圧電アクチュエータ側にコレクタが接続されたnpn形の放電用トランジスタと、前記充電用トランジスタのベースにコレクタが接続されエミッタが第3の電源端子に接続されベースに前記制御信号が与えられるnpn形の充電制御用トランジスタと、前記放電用トランジスタのベースにコレクタが接続されエミッタが前記第3の電源端子に接続されベースに前記制御信号が与えられるpnp形の放電制御用トランジスタと、前記第1の電源端子に接続され、前記第2の電源端子の電位を基準として前記圧電アクチュエータの駆動に必要な出力電圧を出力する充電用電源と、前記充電制御用トランジスタおよび前記放電制御用トランジスタを駆動するために前記第1の電源端子の電位よりも低く前記第2の電源端子の電位よりも高い出力電圧に設定され前記第3の電源端子と前記第2の電源端子との間に接続された制御用電源と、前記圧電アクチュエータの位置を検出する位置センサと、記圧電アクチュエータの目標の位置に応じた信号を出力する制御手段と、前記充電制御用トランジスタおよび前記放電制御用トランジスタの各ベースに電気的に接続され、前記制御手段からの信号と前記位置センサからの信号との偏差に基づいた信号を出力する位置偏差演算手段とを設けて構成したところに特徴を有する(請求項1の発明)。上記構成において、前記位置偏差演算手段と前記充電制御用トランジスタおよび前記放電制御用トランジスタの各ベースとの間に、前記圧電アクチュエータの電流を検出すると共にその電流値と目標の電流値との偏差に基づいた信号を出力する電流偏差演算手段を設ける構成とすると良い(請求項2の発明)。
【0017】また、上記各構成において、前記充電用トランジスタに代えてpチャネルの充電用FETを設けると共に前記放電用トランジスタに代えてnチャネルの放電用FETを設ける構成とすることができ、前記各FETのソース,ドレインおよびゲートを、それぞれ前記エミッタ,コレクタおよびベースのそれぞれに対応させると良い(請求項3の発明)。
【0018】また、前記充電用トランジスタに代えてpチャネルの充電用IGBTを設けると共に前記放電用トランジスタに代えてnチャネルの放電用IGBTを設ける構成とすることもでき、前記各IGBTのエミッタ,コレクタおよびゲートを、それぞれ前記エミッタ,コレクタおよびベースのそれぞれに対応させると良い(請求項4の発明)。
【0019】さらに、上記各構成において、前記充電制御用トランジスタに代えてnチャネルの充電制御用FETを設けると共に前記放電制御用トランジスタに代えてpチャネルの放電制御用FETを設ける構成としても良い(請求項5の発明)。
【0020】そして、前記充電制御用トランジスタに代えてnチャネルの充電制御用IGBTを設けると共に前記放電制御用トランジスタに代えてpチャネルの放電制御用IGBTを設けた構成とすることもでき、前記各IGBTのエミッタ,コレクタおよびゲートを、それぞれ前記エミッタ,コレクタおよびベースのそれぞれに対応させると良い(請求項6の発明)。
【0021】
【0022】
【0023】さらに、前記圧電アクチュエータの充電電荷を放電するように前記第2の電源端子に接続された負の出力電圧の放電用電源を設け、前記第3の電源端子を接地することにより前記放電用電源を前記制御電源として兼用することができる(請求項7の発明)。
【0024】
【作用および発明の効果】請求項1記載の圧電アクチュエータの駆動装置によれば、位置偏差演算手段により、制御手段からの圧電アクチュエータの目標の位置に応じた信号と位置センサの信号との偏差に基いた信号が出力され、そのレベルが制御用電源の電圧レベルよりも高くなると、充電制御用トランジスタを介して充電用トランジスタを駆動して充電経路を形成するようになり、充電用電源から圧電アクチュエータに充電するようになる。また、制御手段からの信号で位置偏差手段による信号のレベルが制御用電源の電圧レベルよりも低くなると、放電制御用トランジスタを介して放電用トランジスタを駆動して放電経路を形成するようになり、圧電アクチュエータの充電電荷を放電するようになる。
【0025】この場合、充電用電源の電圧レベルを高く設定することにより、制御信号のレベルを低いままで電アクチュエータを高い電圧で充電動作を行なわせることができ、これによって、圧電アクチュエータを駆動するのに必要な駆動電圧をICなどの低い電圧出力の制御手段を用いて駆動制御することができるようになる。また、逆に圧電アクチュエータの駆動電圧を高くすることができるようになるので、使用態様の制約を少なくすることができる。また、請求項2に記載の圧電アクチュエータの駆動装置によれば、電流偏差演算手段は、圧電アクチュエータの駆動に際して、圧電アクチュエータの電流を検出すると共にその電流値と位置偏差演算手段から与えられる目標の電流値との偏差に基づいた信号を出力して充電制御用トランジスタおよび放電制御用トランジスタを駆動制御するので、常に必要な電流を流すように駆動させることができるようになる。
【0026】また、請求項3ないし請求項6記載の圧電アクチュエータの駆動装置によれば、上述と同様の駆動制御をバイポーラトランジスタに代えてFETあるいはIGBTを用いても行うことができるようになり、駆動のための素子を必要に応じて選定して構成することができると共に、これらの組み合わせによる構成のものとすることもできるようになる。
【0027】
【0028】
【0029】請求項7記載の圧電アクチュエータの駆動装置によれば、圧電アクチュエータの放電動作を負の出力電圧の放電用電源を用いる場合に、制御用電源を接地することができるようになるので、回路構成を簡単化することができるようになる。
【0030】
【実施例】以下、本発明の第1の実施例について図1および図2を参照しながら説明する。電気的構成を示す図1R>1において、圧電アクチュエータ21は、例えばX−Yテーブルなどの精密位置決め制御を行うためのもので、電圧を印加するとそのときの圧電変位により微小移動するように構成されたもので、多数の電極板と圧電素子とを交互に積層して構成し、各圧電素子を電気的に並列に電圧を印加して印加電圧の増減に応じて積層方向に伸縮変位するように構成されている。なお、この圧電アクチュエータ21は、例えば200V程度の駆動電圧が適切なもので、効率的な駆動が可能となっている。
【0031】この圧電アクチュエータ21に対して、充放電駆動を行うための駆動装置22は次のように構成される。pnp形の充電用トランジスタ23のエミッタは第1の電源端子24を介して例えば200Vの出力電圧の充電用電源25の正極端子に接続されている。充電用トランジスタ23のコレクタは圧電アクチュエータ21および電流検出手段としての電流検出抵抗26を直列に介して接地されている。npn形の放電用トランジスタ27のコレクタは、充電用トランジスタ23と同様に、圧電アクチュエータ21および電流検出抵抗26を直列に介して接地され、エミッタは第2の電源端子28を介して接地されている。
【0032】npn形の充電制御用トランジスタ29のコレクタはトランジスタ23のベースに接続され、エミッタは第3の電源端子30を介して制御用電源としての例えば5Vの直流電源31に接続されている。pnp形の放電制御用トランジスタ32のエミッタは第3の電源端子30を介して直流電源31に接続され、コレクタはトランジスタ27のベースに接続されている。なお、上述したトランジスタ23,27,29,32は共に、エミッタ・コレクタ間の耐圧が600V程度のものが選定されており、圧電アクチュエータ21を充電用電源の出力電圧である200V程度で駆動した場合でも充分耐え得るようなものである。
【0033】電流偏差演算手段としての差動増幅回路33は、リニア集積回路を用いたもので、その反転入力端子は圧電アクチュエータ21と電流検出抵抗26との共通接続点に接続されており、出力端子はトランジスタ29および32のベースに共通に接続されている。位置偏差演算手段としての差動増幅回路34は、上述同様にリニア集積回路を用いたもので、その出力端子は差動増幅回路33の非反転入力端子に接続されている。
【0034】この差動増幅回路34の非反転入力端子は、抵抗35を介して接地されると共に、抵抗36を介して制御手段としての制御回路37に接続され、制御信号としての位置指令信号Vaが与えられるようになっている。また、差動増幅回路34の反転入力端子は抵抗38を介して位置検出手段としての位置センサ39に接続されると共に抵抗40を介して出力端子に接続されている。
【0035】この場合、位置センサ39は、圧電アクチュエータ21の物理的な変位量を検出するもので、例えばうず電流センサなどのセンサを用いたもので、その変位量に応じた電気信号Vbを出力するようになっている。差動増幅回路34は、制御回路37から与えられる位置指令信号Vaと圧電アクチュエータ21の実際の変位量に対応する位置センサ39からの検出信号Vbとを比較してその偏差に相当する信号を制御信号Vcとして出力する。
【0036】また、差動増幅回路33は、電流検出抵抗26に流れる電流により発生する電圧Vdと上述した制御信号Vcとを比較してその偏差に相当する信号を実際の制御信号Veとして出力するようになっている。
【0037】次に本実施例の作用について図2も参照して説明する。まず、制御回路37から圧電アクチュエータ21の駆動変位位置を指令するために出力する指令信号として、図2(a)に示すように、所定レベルを振幅中心として正弦波状に振動する指令信号Vaを用いる場合について説明する。これにより、圧電アクチュエータ21の物理的な変位を正弦波的に振動させて負荷の駆動を行うものである。
【0038】制御回路37から指令信号Vaが出力されると、差動増幅回路34においては、反転入力端子に抵抗38を介して位置センサ39から与えられる位置検出信号Vbとの差の演算を行って位置偏差信号Vcを次の差動増幅回路33の非反転入力端子に与えるようになる。これにより、圧電アクチュエータ21の変位位置の指令信号Vaに対して、実際に変位した位置検出信号Vbとの偏差量つまり、指令信号Vaに対するずれを位置偏差信号Vcとして出力することができるようになる。
【0039】次に、差動増幅回路33においては、いま演算された位置偏差信号Vcに対して、圧電アクチュエータ21に実際に流れている電流値を電流検出抵抗26の端子電圧Vdとして入力してその偏差の値を演算し、圧電アクチュエータ21に実際に通電すべき電流レベルに相当する制御電圧Veとして出力するようになる。これによって、圧電アクチュエータ21は通電電流を制御することで駆動されるようになり、電圧駆動の場合に比べてヒステリシスのない精度の良い駆動制御を行うことができるようになっている。
【0040】さて、差動増幅回路33から制御信号Veが出力されると、その電圧レベルが制御用電源31の電圧レベルよりも高くなると、充電制御用トランジスタ29にベース電流が流れるようになり、そのコレクタ電流が充電用トランジスタ23のベース電流として流れるようになり、充電用トランジスタ23は、充電経路を形成してそのときのベース電流に応じたコレクタ電流を充電用電源25から圧電アクチュエータ21に流すようになる。これが圧電アクチュエータ21の充電電流となり、このときの充電電流は、前述のように電流検出抵抗26により検出されて偏差信号Vcに対応する電流値となるように自動的に制御される。
【0041】一方、差動増幅回路33からの制御信号Veの電圧レベルが制御用電源31の電圧レベルよりも低くなると、放電制御用トランジスタ32にベース電流が流れるようになり、そのコレクタ電流が放電用トランジスタ27のベース電流として流れるようになる。これによって、放電用トランジスタ27は、放電経路を形成して圧電アクチュエータ21の端子電圧を電源電圧としてそのときのベース電流に応じたコレクタ電流を流すことにより、圧電アクチュエータ21の充電電荷を放電するようになる。そして、このときの放電電流は、前述のように電流検出抵抗26により検出されて偏差信号Vcに対応する電流値となるように自動的に制御される。
【0042】なお、充電制御用トランジスタ29および放電制御用トランジスタ32を駆動するための差動増幅回路33の制御信号Veのレベルは、それぞれ制御用電源31の電圧レベルEsに各トランジスタのベース・エミッタ間電圧Vbeを加減した値よりも大きく変動したレベルが必要である。例えば、制御用電源31の電圧を5Vであるとすると、充電制御用トランジスタ29を駆動するためには、それよりもベース・エミッタ間電圧Vbeとして0.8V程度高い値つまり5.8V程度以上が必要となり、逆に、放電制御用トランジスタ32を駆動するためには、それよりも0.8V程度低い値つまり4.2V程度以下に下がることが必要になる(図2(e)参照)。
【0043】このような制御動作を実行することにより、指令信号Vaに対する各部の出力信号が定常状態に達すると、図2(b)〜(f)に示すように、電圧レベルの変動が行われるようになり、圧電アクチュエータ21の充放電動作が行われるようになる。この場合、定常状態においては、圧電アクチュエータ21が容量性負荷であることから、信号の位相が90°ずれた状態となる。
【0044】また、上述の場合、差動増幅回路33の出力である制御電圧Veのレベルの範囲は制御用電源31の電圧レベル5Vを中心として数ボルトの範囲で充電用トランジスタ23および放電用トランジスタ27を駆動することにより、圧電アクチュエータ21に最大で充電用電源25の端子電圧200V程度まで印加することができるようになる。
【0045】このような本実施例によれば、充電用トランジスタ23,放電用トランジスタ27をコレクタ共通にして圧電アクチュエータ21に接続し、それらのトランジスタ23,27の駆動用として、エミッタを共通にして制御用電源31に接続した充電制御用トランジスタ29および放電制御用トランジスタ32により駆動する構成としたので、差動増幅回路33のようなリニアIC系統の低い制御信号Veで圧電アクチュエータ21に充電用電源25の高い電圧を印加して充放電動作を行なわせることができる。
【0046】図3および図4は本発明の第2の実施例を示すもので、第1の実施例と異なるところは、第2の電源端子28を接地する代わりに負電圧を出力する放電用電源41を接続し、第3の電源端子30を接地する構成としたところである。この場合、放電用電源41を圧電アクチュエータ21に接続することにより、放電時には圧電アクチュエータ21の充電電荷を負の電圧で強制的に放電させることができるように構成したものである。そして、このように負の出力電圧の放電用電源41を設けることで、制御用電源の機能を兼ね備えることができるようになっている。
【0047】上記構成において、充電制御用トランジスタ29は、エミッタが接地されているからベースに0.8V程度以上が印加されると駆動されて充電用トランジスタ23を駆動可能となる。また、放電制御用トランジスタ32は、同じくエミッタが接地されているから、ベースに−0.8V程度以下の電圧が印加されると駆動されて放電用トランジスタ27を駆動可能となる。つまり、差動増幅回路33から0Vを中心として上下に変動する制御信号Veを出力することにより圧電アクチュエータ21の充放電動作を行なわせることができるのである。
【0048】なお、この場合においては、第1の実施例で制御用電源31を用いて放電制御用トランジスタ32に対してバイアスを付与可能な構成としたことに代えて、負の電源を放電用電源41として用いることにより、放電制御用トランジスタ32をその放電用電源41の端子電圧を利用して駆動することができるようにしたもので、これによって、第3の電源端子30に接続していた制御用電源31を省略した構成とすることもできるのである。
【0049】上記の関係を図4を参照して原理的に説明する。すなわち、図4に概略的に示すように、第1ないし第3の電源端子24,28,30のそれぞれに、電源電圧がゼロボルトの場合も含めて電源電圧がEa,Eb,Ecの各電源A,B,Cを接続する構成を考えた場合に、各電源A〜Cの電源電圧Ea,Eb,Ecの関係が、次式を満たすように設定されていることが充放電動作を可能とする条件となる。ただし、Vbeは充電制御用トランジスタ29,放電制御用トランジスタ32のベース・エミッタ間の順方向電圧である。
【0050】
Ea>Ec+Vbe, Ec−Vbe>Ebただし、Ea>0V, Eb≦0Vである。
【0051】そして、この考え方において、第2の電源端子28を接地して電源Bの電源電圧Eb=0Vとし、第3の電源端子30に電源Cとして電源電圧Ec=5Vの制御用電源31を接続した構成が第1の実施例である。また、第3の電源端子30を接地して電源Cの電源電圧Ec=0Vとし、第2の電源端子28に電源Bとして負の電源電圧Eb<0Vの放電用電源41を接続した構成が第2の実施例である。
【0052】したがって、このような第2の実施例によっても第1の実施例と同様の作用効果を得ることができると共に、圧電アクチュエータ21を負の放電用電源41を用いて放電動作を行なわせる構成の場合には制御用電源31を省略した構成とすることができる。
【0053】図5は本発明の第3の実施例を示すもので、第1の実施例と異なるところは、バイポーラトランジスタに代えてFETを設ける構成としたところである。すなわち、pnp形の充電用トランジスタ23に代えてpチャネルの充電用FET42,npn形の放電用トランジスタ27に代えてnチャネルの放電用FET43,npn形の充電制御用トランジスタ29に代えてnチャネルの充電制御用FET44,そしてpnp形の放電制御用トランジスタ32に代えてpチャネルの放電制御用FET45を設けた構成としている。
【0054】充電用FET42のソースは第1の電源端子24に接続され、ドレインは圧電アクチュエータ21の一端子に接続され、ゲートはバイアス抵抗46を介してソースに接続されると共に保護抵抗47を介して充電制御用FET44のドレインに接続されている。放電用FET43のソースは第2の電源端子28に接続され、ドレインは圧電アクチュエータ21の一端子に接続され、ゲートはバイアス抵抗48を介してソースに接続されると共に保護抵抗49を介して放電制御用FET45のドレインに接続されている。充電制御用FET44,放電制御用FET45の各ソースは共通にして第3の電源端子30に接続され、各ゲートは共通にして差動増幅回路33の出力端子に接続されている。
【0055】上記構成によれば、差動増幅回路33の出力電圧である制御電圧Veの電圧レベルが制御用電源31の電圧レベルに対してゲートバイアスに必要な電圧以上の差がある場合に、充電制御用FET44あるいは放電制御用FET45を駆動して充電用FET42あるいは放電用FET43を駆動することができるようになり、第1の実施例と同様にして圧電アクチュエータ21に充電動作および放電動作を行なわせることができるようになる。
【0056】図6は本発明の第4の実施例を示すもので、第3の実施例と異なるところは、FETに代えてIGBT(絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ)を設ける構成としたところである。すなわち、pチャネルの充電用FET42に代えてpチャネルの充電用IGBT50,nチャネルの放電用FET43に代えてnチャネルの放電用IGBT51,nチャネルの充電制御用FET44に代えてnチャネルの充電制御用IGBT52,そしてpチャネルの放電制御用FET45に代えてpチャネルの放電制御用IGBT53を設けた構成としている。
【0057】そして、このような構成によっても、第3の実施例と同様の作用効果を得ることができるようになる。なお、第3および第4の実施例においては、通常のバイポーラトランジスタに代えて、FETやIGBTを用いる構成としているが、これらは、例えば選択する圧電アクチュエータやその使用電圧,定格等に応じて耐圧や電流容量あるいは制御形式等が適合するものを選択して適宜の使用をすることができる。
【0058】本発明は、上記実施例にのみ限定されるものではなく、次のように変形また拡張できる。位置検出手段は、圧電アクチュエータ21の物理的な変位を測定可能なものであれば何でも良く、うず電流検出形の変位センサに加えて、例えば、差動トランス、ポテンショメータ式、ストレインゲージ、半導体磁器抵抗素子変位センサ、静電容量型変位計、ホール素子変位センサなどを用いることができる。
【0059】また、位置検出手段は、変位センサに限らず、圧電素子の端子電圧を検出して概略位置を求める方式としても良い。さらに、油圧システムなどに用いる容量性負荷を制御対象とする場合には、位置検出手段として、油圧センサなどの圧力センサを用いることもできる。
【0060】上記各実施例では、充電用,放電用,充電制御用および放電制御用にすべてバイポーラトランジスタ,FETあるいはIGBTなどの同一種類の半導体素子を用いる構成を示したが、これらは、例えば、充電用,放電用にバイポーラトランジスタを用い、充電制御用,放電制御用にFETを用いるなどの異種の半導体素子を組み合わせて使用する構成としても良いものである。
【0061】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例を示す電気的構成図
【図2】各部の出力状態を示すタイムチャート
【図3】本発明の第2の実施例を示す図1相当図
【図4】各電源の電圧レベルを説明するための原理説明図
【図5】本発明の第3の実施例を示す図1相当図
【図6】本発明の第4の実施例を示す図1相当図
【図7】従来例を示す図1相当図
【図8】他の従来例を示す図1相当図
【符号の説明】
21は圧電アクチュエータ、23はpnp形の充電用トランジスタ、24は第1の電源端子、25は充電用電源、26は電流検出抵抗(電流検出手段)、27はnpn形の放電用トランジスタ、28は第2の電源端子、29はnpn形の充電制御用トランジスタ、30は第3の電源端子、31は制御用電源、32はpnp形の放電制御用トランジスタ、33は差動増幅回路(電流偏差演算手段)、34は差動増幅回路(位置偏差演算手段)、37は制御回路(制御手段)、39は位置センサ(位置検出手段)、41は放電用電源、42はpチャネルの充電用FET、43はnチャネルの放電用FET、44はnチャネルの充電制御用FET、45はpチャネルの放電制御用FET、50はpチャネルの充電用IGBT、51はnチャネルの放電用IGBT、52はnチャネルの充電制御用IGBT、53はpチャネルの放電制御用IGBTである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電アクチュエータに対する充電経路を形成して充電を行うと共に、放電経路を形成して充電電荷の放電を行わせるように構成された圧電アクチュエーの駆動装置において、前記圧電アクチュエータの充電経路に介在され、第1の電源端子にエミッタが接続され前記圧電アクチュエータ側にコレクタが接続されたpnp形の充電用トランジスタと、前記圧電アクチュエータの放電経路に介在され、第2の電源端子にエミッタが接続され前記圧電アクチュエータ側にコレクタが接続されたnpn形の放電用トランジスタと、前記充電用トランジスタのベースにコレクタが接続されエミッタが第3の電源端子に接続されベースに前記制御信号が与えられるnpn形の充電制御用トランジスタと、前記放電用トランジスタのベースにコレクタが接続されエミッタが前記第3の電源端子に接続されベースに前記制御信号が与えられるpnp形の放電制御用トランジスタと、前記第1の電源端子に接続され、前記第2の電源端子の電位を基準として前記圧電アクチュエータの駆動に必要な出力電圧を出力する充電用電源と、前記充電制御用トランジスタおよび前記放電制御用トランジスタを駆動するために前記第1の電源端子の電位よりも低く前記第2の電源端子の電位よりも高い出力電圧に設定され前記第3の電源端子と前記第2の電源端子との間に接続された制御用電源と、前記圧電アクチュエータの位置を検出する位置センサと、前記圧電アクチュエータの目標の位置に応じた信号を出力する制御手段と、前記充電制御用トランジスタおよび前記放電制御用トランジスタの各ベースに電気的に接続され、前記制御手段からの信号と前記位置センサからの信号との偏差に基づいた信号を出力する位置偏差演算手段とを具備したことを特徴とする圧電アクチュエータの駆動装置。
【請求項2】 請求項1に記載の圧電アクチュエータの駆動装置において、前記位置偏差演算手段と前記充電制御用トランジスタおよび前記放電制御用トランジスタの各ベースとの間に接続され、前記圧電アクチュエータの電流を検出すると共にその電流値と目標の電流値との偏差に基づいた信号を出力する電流偏差演算手段を設けたことを特徴とする圧電アクチュエータの駆動装置。
【請求項3】 請求項1または2に記載の圧電アクチュエータの駆動装置における前記充電用トランジスタに代えてpチャネルの充電用FETを設けると共に前記放電用トランジスタに代えてnチャネルの放電用FETを設ける構成とし、前記各FETのソース,ドレインおよびゲートを、それぞれ前記エミッタ,コレクタおよびベースのそれぞれに対応させたことを特徴とする圧電アクチュエータの駆動装置。
【請求項4】 請求項1または2に記載の圧電アクチュエータの駆動装置における前記充電用トランジスタに代えてpチャネルの充電用IGBTを設けると共に前記放電用トランジスタに代えてnチャネルの放電用IGBTを設けた構成とし、前記各IGBTのエミッタ,コレクタおよびゲートを、それぞれ前記エミッタ,コレクタおよびベースのそれぞれに対応させたことを特徴とする圧電アクチュエータの駆動装置。
【請求項5】 請求項1ないし4に記載の圧電アクチュエータの駆動装置における前記充電制御用トランジスタに代えてnチャネルの充電制御用FETを設けると共に前記放電制御用トランジスタに代えてpチャネルの放電制御用FETを設けた構成とし、前記各FETのソース,ドレインおよびゲートを、それぞれ前記エミッタ,コレクタおよびベースのそれぞれに対応させたことを特徴とする圧電アクチュエータの駆動装置。
【請求項6】 請求項1ないし4に記載の圧電アクチュエータの駆動装置における前記充電制御用トランジスタに代えてnチャネルの充電制御用IGBTを設けると共に前記放電制御用トランジスタに代えてpチャネルの放電制御用IGBTを設けた構成とし、前記各IGBTのエミッタ,コレクタおよびゲートを、それぞれ前記エミッタ,コレクタおよびベースのそれぞれに対応させたことを特徴とする圧電アクチュエータの駆動装置。
【請求項7】 前記圧電アクチュエータの充電電荷を放電するように前記第2の電源端子に接続された負の出力電圧の放電用電源を設け、前記第3の電源端子を接地することにより前記放電用電源を前記制御電源として兼用したことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の圧電アクチュエータの駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【特許番号】特許第3109565号(P3109565)
【登録日】平成12年9月14日(2000.9.14)
【発行日】平成12年11月20日(2000.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−147314
【出願日】平成7年6月14日(1995.6.14)
【公開番号】特開平9−9650
【公開日】平成9年1月10日(1997.1.10)
【審査請求日】平成11年4月2日(1999.4.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【参考文献】
【文献】特開 平6−23983(JP,A)
【文献】特開 昭63−283228(JP,A)
【文献】特開 平2−246780(JP,A)
【文献】特開 昭64−81286(JP,A)