説明

圧電アクチュエータ及びそれを備える装置、並びに圧電アクチュエータの製造方法

【課題】新規な構造で且つ改善されたヒステリシス特性を有する圧電アクチュエータを提供すること。
【解決手段】圧電アクチュエータ10は、絶縁層20と、上側圧電部30と、第1表面電極41乃至第4表面電極44からなる表面電極40と、下側圧電部50とを備えている。上側圧電部30は、上下方向に積層された複数の上側圧電部材32と、上側圧電部材32の間の夫々に設けられた上側内部電極34とを備えている。下側圧電部50は、上下方向に積層された複数の下側圧電部材52と、下側圧電部材52の間の夫々と最下部の下側圧電部材52の下面上とに設けられた下側電極54とを備えている。外部接続端子として機能する第1表面電極41乃至第4表面電極44は、4つあることから分極処理時の極性の付与の際の電極の組み合わせと実駆動時の駆動信号供給の際の電極の組み合わせとを変えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒステリシス特性の改善された圧電アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザがタッチパネルを押圧操作した場合において、押圧できたか否かを明確に認識できない場合がある。かかる場合、同じ領域を2回押圧してしまうといった誤操作を引き起こすこととなる。圧電アクチュエータを適用したタッチパネルにおいて上述したような誤操作防止を図るためには、圧電アクチュエータを大電圧で駆動して、その振幅をユーザの指に伝達するという手段が考えられる。しかしながら、圧電アクチュエータを構成する圧電材料にはヒステリシス特性があるので、大電圧で駆動すると高調波歪み成分が大きくなってしまい、不要な電力が消費されてしまう。即ち、圧電アクチュエータの利点の一つである低消費電力が失われてしまうといった問題がある。
【0003】
圧電アクチュエータのヒステリシス特性を改善する技術としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に開示されたものがある。しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された技術は、圧電アクチュエータ自体ではなく、それに接続される電子回路によってヒステリシス特性の補正を行うものであり、部品点数増によるコスト増や、制御ループ増による圧電部材の本来の特性の低下などといった問題を有している。
【0004】
ヒステリシス特性が比較的小さい圧電アクチュエータとしては、例えば、特許文献3に開示されたバイモルフ型のものがある。一般的に、バイモルフ型の圧電アクチュエータは、金属シムの両面に圧電部材を接着して構成される。金属シムを挟んで設けられた圧電部材は、互いに逆方向に分極処理され、駆動される。このようにすると、理想的には、一方の圧電部材のヒステリシス特性が他方の圧電部材のヒステリシス特性によってキャンセルされる。従って、圧電アクチュエータ全体としてはヒステリシス特性の改善が図られる。特許文献3の圧電アクチュエータは、一般的なバイモルフ型の圧電アクチュエータを積層することにより、大きな変位量を得ようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−410773号公報
【特許文献2】特開平9−182466号公報
【特許文献3】特開平9−64431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バイモルフ型の圧電アクチュエータの場合、ペアにする圧電部材のヒステリシス特性が大きく異なってしまうと、所望とするヒステリシス特性の相互キャンセルが生じないため、圧電アクチュエータ全体の特性が悪くなる。一方、圧電部材はその製造プロセス等に起因して特性のバラツキを有しているのが一般的である。例えば、同一の焼結セッター上で焼結した圧電部材であったとしても、その焼結セッター上の位置によって結果として得られる圧電部材はサイズや特性においてバラついてしまう。従って、圧電アクチュエータ全体の特性の向上を図ろうとする場合、圧電部材のペアリングを徹底しなければならない。
【0007】
しかしながら、ペアリング作業に注力すると作業コストが高くなるという問題があることに加えて、ペアリング作業にて選別されなかった圧電部材は廃棄物となってしまう可能性があり、環境保護の側面からも好ましくない。
【0008】
更に、金属シムとしては、温度係数の近さなどのため鉄ニッケル42アロイ材などが用いられるが、ニッケルは希少金属であるためコスト増を招くことになる。
【0009】
本発明は、かかる状況を踏まえ、新規な構造で且つ改善されたヒステリシス特性を有する圧電アクチュエータ及びそれを用いた装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、上述した圧電アクチュエータを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
金属シムを介在させると、金属シムと圧電部材との接着工程が必要となり、コストが高くなってしまうことから、金属シムが介在していた位置には金属シムに代えて絶縁層を介在させることとする。
【0012】
別個に焼結した圧電部材を選別してペアリングすると、圧電部材のヒステリシス特性のバラツキの影響を避けることはできない。バラツキをなくすため、ペアとすべき圧電部材を積層した状態で焼結し、その後に分極処理を行うこととする。
【0013】
圧電部材を積層し焼結した後に、絶縁層を中心として上下で分極分布が逆になるように分極処理する一方で、バイモルフ型の圧電アクチュエータのように位相の反転した入力信号を印加することを可能とするためには、外部接続端子となる電極(表面電極)が少なくとも4つ以上なくてはならない。このように外部接続端子が4つ以上あると、2つの電極には分極処理時と実駆動時とで異なる極性の電圧を加えることができ、それによって上述したような分極処理とバイモルフ型の圧電アクチュエータと同様の駆動との両方を行うことができる。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下に掲げる解決手段を提供する。
【0014】
本発明によれば、第1の圧電アクチュエータとして、
絶縁層と、前記絶縁層の上側に設けられた上側圧電部と、前記上面圧電部の上面上に設けられた表面電極と、前記絶縁層の下側に設けられた下側圧電部とを備える圧電アクチュエータであって、
前記上側圧電部は、上下方向に積層された複数の上側圧電部材と、前記上側圧電部材の間の夫々に設けられた上側内部電極とを備えており、
前記下側圧電部は、前記上下方向に積層された複数の下側圧電部材と、前記下側圧電部材の間の夫々と最下部の前記下側圧電部材の下面上とに設けられた下側電極とを備えており、
前記表面電極は、4つ以上に分割されており、
前記分割された表面電極は、夫々、前記上側内部電極及び前記下側電極のいずれかと接続されている
圧電アクチュエータが得られる。
【0015】
また、本発明によれば、第2の圧電アクチュエータとして、第1の圧電アクチュエータであって、
前記分割された表面電極は、
前記絶縁層から数えて偶数番目の前記上側内部電極に接続される第1表面電極と、
前記絶縁層から数えて偶数番目の前記下側電極に接続される第2表面電極と、
前記絶縁層から数えて奇数番目の前記下側電極に接続される第3表面電極と、
前記絶縁層から数えて奇数番目の前記上側内部電極に接続される第4表面電極と
を備えている
圧電アクチュエータが得られる。
【0016】
また、本発明によれば、第3の圧電アクチュエータとして、第2の圧電アクチュエータであって、
分極処理の際には、前記第1表面電極と前記第3表面電極とを一の極性とする一方で、前記第2表面電極と前記第4表面電極とを他の極性として前記上側圧電部材及び前記下側圧電部材の分極が行われており、
実使用時においては、前記第1表面電極と前記第2表面電極とを一の極性とする一方で、前記第3表面電極と前記第4表面電極とを他の極性として駆動される
圧電アクチュエータが得られる。
【0017】
また、本発明によれば、第4の圧電アクチュエータとして、第3の圧電アクチュエータであって、
前記第1表面電極と前記第2表面電極は、互いに隣り合うようにして設けられており、
前記第3表面電極と前記第4表面電極は、互いに隣り合うようにして設けられている
圧電アクチュエータが得られる。
【0018】
また、本発明によれば、第5の圧電アクチュエータとして、第4の圧電アクチュエータであって、
前記上側圧電部材の積層数は、奇数であり、
前記第4表面電極は、前記第1表面電極乃至前記第3表面電極と比較して大きな面積を有している
圧電アクチュエータが得られる。
【0019】
また、本発明によれば、第6の圧電アクチュエータとして、第1乃至第5のいずれかの圧電アクチュエータであって、
前記下側圧電部材の積層数は、前記上側圧電部材の積層数と同じである。
圧電アクチュエータが得られる。
【0020】
また、本発明によれば、第7の圧電アクチュエータとして、第1乃至第6のいずれかの圧電アクチュエータであって、
前記絶縁層は、前記上側圧電部材及び前記下側圧電部材と同じ材料からなる
圧電アクチュエータが得られる。
【0021】
また、本発明によれば、第1の装置として、
第1乃至第7のいずれかの圧電アクチュエータと、前記圧電アクチュエータを駆動するための駆動回路とを備える装置であって、
前記分割された表面電極は、2つにグループ化されており、
前記駆動回路は、
入力信号に基づいて第1駆動信号を生成して前記分割された表面電極の一のグループに前記第1駆動信号を出力する第1駆動回路と、
前記入力信号に基づいて前記第1駆動信号と逆位相の第2駆動信号を生成して前記分割された表面電極の残りの一のグループに前記第2駆動信号を出力する第2駆動回路と
を備えている
装置が得られる。
【0022】
また、本発明によれば、第2の装置として、第1の装置であって、
前記第1駆動信号は、直流成分として第1バイアス電圧を有する信号であり、
前記第2駆動信号は、直流成分として第2バイアス電圧を有する信号である
装置が得られる。
【0023】
また、本発明によれば、第3の装置として、第2の装置であって、
前記第1バイアス電圧は、前記第2バイアス電圧と異なる絶対値を有する
装置が得られる。
【0024】
また、本発明によれば、第4の装置として、第2又は第3の装置であって、
前記第1駆動回路は、第1オペアンプと、一端を前記第1オペアンプの反転入力端子に接続され他端に前記入力信号を入力される第1入力抵抗と、前記第1オペアンプの前記反転入力端子と前記第1オペアンプの出力端子とを接続する第1帰還抵抗と、前記第1バイアス電圧の基となる第1基準電圧を前記第1オペアンプの非反転入力端子に対して入力する第1基準電圧供給部とを備えており、
前記第2駆動回路は、非反転入力端子に前記入力信号を入力される第2オペアンプと、前記第2バイアス電圧の基となる第2基準電圧を供給する第2基準電圧供給部と、前記第2基準電圧供給部と前記第2オペアンプの反転入力端子との間に接続された第2入力抵抗と、前記第2オペアンプの前記反転入力端子と前記第2オペアンプの出力端子とを接続する第2帰還抵抗とを備えている
装置が得られる。
【0025】
また、本発明によれば、第5の装置として、第4の装置であって、
前記第1入力抵抗、前記第2入力抵抗及び前記第2帰還抵抗は互いに同じ抵抗値を有しており、
前記第1帰還抵抗は、前記第1入力抵抗の2倍の抵抗値を有している
装置が得られる。
【0026】
また、本発明によれば、第1乃至第7のいずれかの圧電アクチュエータの製造方法であって、
前記表面電極又は前記上側内部電極となる導電パターンの形成された圧電体グリーンシートを前記絶縁層の上に前記上側圧電部材として積層すると共に、前記下側電極となる導電パターンの形成された圧電体グリーンシートを前記絶縁層の下に前記下側圧電部材として積層した後、全体をプレス加工して、焼結前圧電素子を形成するステップと、
前記焼結前圧電素子を焼結して、焼結後圧電素子を得るステップと、
前記焼結後圧電素子に対して、前記絶縁層を中心とした分極分布が上下対称となるように分極処理を施すステップと
を備える製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、4つ以上の表現電極を設けることとしたため、圧電部材を積層して焼結等により圧電アクチュエータを構成をほぼ構成した後に、4つ以上の表面電極を用いて圧電部材の分極処理を行う一方で実使用時には同じ表面電極に対して与える電圧を変えて圧電アクチュエータの駆動を行うことができる。これにより、一般的なバイモルフ型圧電アクチュエータとは異なる構造でありながら、それに類する駆動方法にて駆動することができる。圧電アクチュエータを構成する圧電部材の焼結は積層してから行われていることから、焼結条件はすべての圧電部材について同じであることになり、バイモルフ型の圧電アクチュエータにおけるヒステリシス特性のキャンセルと同様の効果を理想的に近い状態で実現することができる。
【0028】
従って、一般的なバイモルフ型圧電アクチュエータに類する駆動方法(互いに逆位相の駆動信号を供給して駆動する方法)で、本発明による圧電アクチュエータを駆動することとすると、高調波歪み成分の発生を抑えることができ、不要な電力消費を減らすことができる。
【0029】
更に、一般的なバイモルフ型の圧電アクチュエータの場合、異なる極性の信号に別個にバイアスをかけることが電極の配置・構造上不可能であったが、本発明の構造を備える圧電アクチュエータの場合、極性毎に異なるバイアス調整をしつつ逆位相で駆動することが可能となるため、圧電アクチュエータに使用する圧電材料に応じた調整をバイアスといった形で行うことができ、高調波歪み成分の発生をより抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態による圧電アクチュエータの構造を概略的に示す図である。
【図2】図1の圧電アクチュエータを概略的に示す斜視図である。
【図3】図2の圧電アクチュエータを概略的に示す上面図である。図示された圧電アクチュエータには実使用時の状態でワイヤが結線されている。
【図4】図3の圧電アクチュエータとそれを駆動する駆動回路とを備える装置を模式的に示す図である。
【図5】全高調波歪み率の周波数特性の実測データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に示されるように、本発明の実施の形態による圧電アクチュエータ10は、絶縁層20と、絶縁層20の上側に設けられた上側圧電部30と、上側圧電部30の上面上に設けられた表面電極40と、絶縁層20の下側に設けられた下側圧電部50とを備えている。上側圧電部30は、上下方向に積層された複数の上側圧電部材32と、上側圧電部材32の間の夫々に設けられた上側内部電極34とを備えている。下側圧電部50は、上下方向に積層された複数の下側圧電部材52と、下側圧電部材52の間の夫々と最下部の下側圧電部材52の下面上とに設けられた下側電極54とを備えている。本実施の形態による上側圧電部材32及び下側圧電部材52は、いずれも同一の圧電材料からなるシート状の部材である。更に、本実施の形態においては、絶縁層20も上側圧電部材32及び下側圧電部材52と同一の材料からなる。
【0032】
本実施の形態による表面電極40は、第1表面電極41から第4表面電極44の4つに分割されている。分割された表面電極40、即ち、第1表面電極41から第4表面電極44は分極処理時及び実使用時において外部接続端子として用いられるものである。本実施の形態においては、後述するように分極処理時と実使用時において外部接続端子に与える極性の組み合わせを変え、それによって、焼結後の分割処理とバイモルフ型圧電アクチュエータと同様な駆動方法との両方を可能としているが、かかる処理を行うためには本実施の形態のように4つの外部接続端子が少なくとも必要となる。
【0033】
第1表面電極41乃至第4表面電極44は、上側内部電極34及び下側電極54のいずれかと接続される。具体的な接続関係は以下の通りである。第1表面電極41は、絶縁層20から数えて偶数番目の上側内部電極34に接続されており、第2表面電極42は、絶縁層20から数えて偶数番目の下側電極54に接続されている。また、第3表面電極43は、絶縁層20から数えて奇数番目の下側電極54に接続されており、第4表面電極44は、絶縁層20から数えて奇数番目の上側内部電極34に接続されている。例えば、第3表面電極43を2つに分けるといったように、第1表面電極41から第4表面電極44のうちの一つ又はそれ以上を複数に分割することとしても良い。即ち、表面電極40の分割数を4つより多くしてもよい。しかしながら、本実施の形態による焼結後分極処理とバイモルフ型圧電アクチュエータ的駆動処理との両方に対応させることを考慮すると、例えば、第1表面電極41と第2表面電極42とを単一の電極にまとめてしまったりすることはできない。
【0034】
本実施の形態による圧電アクチュエータ10は、次のようにして製造される。まず、表面電極40又は上側内部電極34となる導電パターンの形成された圧電体グリーンシート(例えば、セラミックグリーンシートなど)を絶縁層20の上に上側圧電部材32として積層すると共に、下側電極54となる導電パターンの形成された圧電体グリーンシート(同前)を絶縁層20の下に下側圧電部材52として積層した後、全体をプレス加工して、焼結前圧電素子を形成する。ここで、本実施の形態による絶縁層20は、上側圧電部材32や下側圧電部材52と同様に圧電体グリーンシートからなるものとしたため、上側圧電部材32や下側圧電部材52との密着性がよく、また当然ながら温度係数の整合性の面でも優れている。次いで、焼結前圧電素子を焼結して、焼結後圧電素子を得る。このように積層した後に焼結していることから、本実施の形態によれば、焼結セッター上の位置などの焼結環境に起因した圧電部材のサイズ・特性のバラツキを最小限に抑えることができる。その後、焼結後圧電素子に対して、絶縁層20を中心とした分極分布が上下対称となるように分極処理を施す。具体的には、第1表面電極41乃至第4表面電極44と上側内部電極34及び下側電極54とを上述したように接続した後、例えば、第1表面電極41と第3表面電極43とに正極性を与える一方で、第2表面電極42と第4表面電極44とに負極性を与えることにより、上側圧電部材32及び下側圧電部材52の分極処理を行い、図2のような圧電アクチュエータ10を得る。その後、実使用時の駆動形態を考慮し、第1表面電極41と第2表面電極42をハンダ等で接続すると共に、第3表面電極43と第4表面電極44をハンダ等で接続して、図3のような圧電アクチュエータ10を得る。
【0035】
更に、本実施の形態においては、このようにして製造された圧電アクチュエータ10に対して、バイモルフ型圧電アクチュエータのような駆動信号を与えて駆動する。具体的には、例えば、第1表面電極41と第2表面電極42とに第1駆動信号を与える一方で、第3表面電極43と第4表面電極44とに第1駆動信号と位相が逆である第2駆動信号を与える。これにより、上側圧電部材32と下側圧電部材52のヒステリシス特性が互いにキャンセルされることから、大電圧で駆動した場合にも高調波歪み成分の発生を抑えることができる。
【0036】
本実施の形態においては、実使用時に接続される第1表面電極41と第2表面電極42とを隣り合うように配置していると共に第3表面電極43と第4表面電極44とを隣り合うように配置していることから、第1表面電極41及び第2表面電極42間の接続と第3表面電極43及び第4表面電極44間の接続とを離すことができ、従って、両者の短絡の可能性を低減することができる。
【0037】
本実施の形態においては、絶縁層20の上下に存在する上側圧電部材32及び下側圧電部材52の数(積層数)が同数且つ奇数である。かかる圧電アクチュエータ10において、一番上に配置された上側圧電部材32の圧電特性も利用するため、絶縁層20から見て奇数番目の上側内部電極34に接続された第4表面電極44の面積を他の第1表面電極41乃至第3表面電極43と比較して大きくしている。同様の理由により、仮に絶縁層20の上下に存在する上側圧電部材32及び下側圧電部材52の数(積層数)を同数且つ偶数とする場合には、絶縁層20から見て偶数番目の上側内部電極34に接続された第3表面電極43の面積を他の第1表面電極41、第2表面電極42及び第4表面電極44と比較して大きくすればよい。また、その場合、配線の引き回し等を考慮し、第3表面電極43と第4表面電極44の位置を入れ替えることしてもよい。絶縁層20の上下に配置された上側圧電部材32及び下側圧電部材52のヒステリシス特性のキャンセルといった側面からは本実施の形態のように上側圧電部材32及び下側圧電部材52の積層数を同数とするのが好ましいが、例えば、上側圧電部材32と比較して下側圧電部材52を一層少なくしてもよい。その場合、最上層に位置する上側圧電部材32は、外部接続端子となる第1表面電極41乃至第4表面電極44の配置のためだけに設けられていることが好ましく、従って、他の上側圧電部材32と比較して小さい(必要最小限の)サイズを有していることが好ましい。
【0038】
本発明の実施の形態による圧電アクチュエータ10には、上述したように互いに逆位相を有する第1駆動信号及び第2駆動信号が与えられるが、本実施の形態による圧電アクチュエータ10の場合、その構造により、第1駆動信号及び第2駆動信号の夫々に対して別個にバイアスを掛けて圧電材料の特性を考慮した調整を図ることが可能となる。即ち、第1駆動信号と第2駆動信号とで同じバイアスを掛けることとしてもよいし、圧電アクチュエータの使用環境等を考慮して異なるバイアスを掛けることとしてもよい。例えば、本実施の形態による駆動回路から出力される第1駆動信号及び第2駆動信号は、夫々、直流成分として第1バイアス電圧及び第2バイアス電圧を有している。ここで、第1バイアス電圧は、第2バイアス電圧と異なる絶対値を有している。かかる駆動回路の具体例を図4に示す。
【0039】
図4を参照すると、本実施の形態による駆動回路60は、入力信号から第1駆動信号を生成して第1表面電極41及び第2表面電極42に供給する第1駆動回路70と、同じ入力信号から第1駆動信号と位相が逆である第2駆動信号を生成して第3表面電極43及び第4表面電極44に供給する第2駆動回路80とを備えている。
【0040】
第1駆動回路70は、第1オペアンプ72と、第1入力抵抗74と、第1帰還抵抗76と、第1基準電圧供給部78とを備えている。第1入力抵抗74の一端は、第1オペアンプ72の反転入力端子(−)に接続されており、他端にはカップリング抵抗を介して入力信号が入力されている。第1帰還抵抗76は、第1オペアンプ72の反転入力端子(−)と出力端子(OUT)とを接続している。本実施の形態による第1帰還抵抗76は、第1入力抵抗74の2倍の抵抗値を有している。第1基準電圧供給部78は、上述した第1バイアス電圧の基となる第1基準電圧を第1オペアンプ72の非反転入力端子(+)に対して入力するためのものである。本実施の形態による第1基準電圧は、圧電材料の特性等を考慮して1/6Vccとしてある。
【0041】
第2駆動回路80は、第2オペアンプ82と、第2入力抵抗84と、第2帰還抵抗86と、第2基準電圧供給部88とを備えている。第2基準電圧供給部88は、上述した第2バイアス電圧の基となる第2基準電圧を供給するためのものである。本実施の形態による第2基準電圧は、圧電材料の特性等を考慮して1/2Vccとしてある。即ち、第2基準電圧は第1基準電圧の3倍である。第2オペアンプ82の非反転入力端子(+)にはカップリング抵抗を介して入力信号が入力されている。第2入力抵抗84の一端は、第2オペアンプ82の反転入力端子(−)に接続されており、他端には、第2基準電圧供給部88から第2基準電圧が供給されている。第2帰還抵抗86は、第2オペアンプ82の反転入力端子(−)と出力端子(OUT)とを接続している。本実施の形態による第2入力抵抗84と第2帰還抵抗86は、いずれも第1入力抵抗74と同じ抵抗値を有している。
【0042】
上述したような駆動回路60から出力される第1駆動信号は、入力信号をVinとした場合、1/6Vcc−2Vinとなる。一方、第2駆動信号は、2Vin−1/2Vccとなる。即ち、第1駆動信号と第2駆動信号とは逆位相を有している。また、第1駆動信号の直流成分である第1バイアス電圧(1/6Vcc)は、第2駆動信号の直流成分である第2バイアス電圧(−1/2Vcc)と異なる絶対値を有し且つ正負が逆である。このため、本実施の形態による駆動回路60によれば、単純に逆位相の駆動信号を印加した場合に比較して、圧電材料の特性を考慮した駆動信号を効率よく供給することができる。
【0043】
(実施例)
PZT(NECトーキン製圧電セラミックス材料N10)をベースにして、バインダー材料を添加、泥しょうと呼ばれる混煉作業を行った後、一層36μmのグリーンシートを作成し、更に、銀とパラジュームと共材として圧電セラミックス材料N10よりなる内部電極パターンを印刷した。この時点でグリーンシートはロール状である為、これをA4大の大きさにトリミング加工を行い、トリミングされた枚葉シートをプレス用の金型に入れ40層に積層したあと、約100℃ 約120kg/cmの条件でプレスを行って、焼結前圧電素子を形成した。その後、焼結前圧電素子を焼結し、ダイシング工程にて裁断して、矩形状の圧電セラミックス板からなる焼結後圧電素子(図2参照)を得た。ここで、焼結後圧電素子のサイズは、長さ40mm×幅3.0mm×厚み1.35mmである。この焼結後圧電素子に対して上述したような分極処理(絶縁層を挟んで上下対称となるような分極処理)を行い、その後、図3に示されるように結線した。
【0044】
このようにして作製した本実施の形態による圧電アクチュエータ10を250Hz〜350Hzの駆動信号で駆動して全高調波歪率を測定した。また、比較例として、一般的なバイモルフ型圧電アクチュエータについても同様に測定した。特に本実施の形態による圧電アクチュエータ10に関しては、バイアスを掛けない(即ち、一般的なバイモルフ型圧電アクチュエータの駆動信号)場合と、本実施の形態による駆動回路60にて駆動した場合のそれぞれについて測定した。測定結果を図5に示す。
【0045】
図5から明らかなように、本実施の形態による圧電アクチュエータ10の全高調波歪率は、従来のバイモルフ型圧電アクチュエータと比較して小さい。即ち、大電圧で駆動した場合にも従来のバイモルフ型圧電アクチュエータと比較して不要な電力の消費が発生することを抑えることができる。特に、本実施の形態による駆動回路60にて駆動した場合には、圧電材料の特性を考慮してバイアス電圧にて調整を図ることができていることから、バイアスを掛けずに駆動した場合と比較して、全高調波歪率を更に小さくすることができている。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の圧電アクチュエータ及び駆動回路は、表示装置、タッチパネル機能付き表示装置、入力装置などに利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 圧電アクチュエータ
20 絶縁層
30 上側圧電部
32 上側圧電部材
34 上側内部電極
40 表面電極
41 第1表面電極
42 第2表面電極
43 第3表面電極
44 第4表面電極
50 下側圧電部
52 下側圧電部材
54 下側電極
60 駆動回路
70 第1駆動回路
72 第1オペアンプ
74 第1入力抵抗
76 第1帰還抵抗
78 第1基準電圧供給部
80 第2駆動回路
82 第2オペアンプ
84 第2入力抵抗
86 第2帰還抵抗
88 第2基準電圧供給部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と、前記絶縁層の上側に設けられた上側圧電部と、前記上面圧電部の上面上に設けられた表面電極と、前記絶縁層の下側に設けられた下側圧電部とを備える圧電アクチュエータであって、
前記上側圧電部は、上下方向に積層された複数の上側圧電部材と、前記上側圧電部材の間の夫々に設けられた上側内部電極とを備えており、
前記下側圧電部は、前記上下方向に積層された複数の下側圧電部材と、前記下側圧電部材の間の夫々と最下部の前記下側圧電部材の下面上とに設けられた下側電極とを備えており、
前記表面電極は、4つ以上に分割されており、
前記分割された表面電極は、夫々、前記上側内部電極及び前記下側電極のいずれかと接続されている
圧電アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1記載の圧電アクチュエータであって、
前記分割された表面電極は、
前記絶縁層から数えて偶数番目の前記上側内部電極に接続される第1表面電極と、
前記絶縁層から数えて偶数番目の前記下側電極に接続される第2表面電極と、
前記絶縁層から数えて奇数番目の前記下側電極に接続される第3表面電極と、
前記絶縁層から数えて奇数番目の前記上側内部電極に接続される第4表面電極と
を備えている
圧電アクチュエータ。
【請求項3】
請求項2記載の圧電アクチュエータであって、
分極処理の際には、前記第1表面電極と前記第3表面電極とを一の極性とする一方で、前記第2表面電極と前記第4表面電極とを他の極性として前記上側圧電部材及び前記下側圧電部材の分極が行われており、
実使用時においては、前記第1表面電極と前記第2表面電極とを一の極性とする一方で、前記第3表面電極と前記第4表面電極とを他の極性として駆動される
圧電アクチュエータ。
【請求項4】
請求項3記載の圧電アクチュエータであって、
前記第1表面電極と前記第2表面電極は、互いに隣り合うようにして設けられており、
前記第3表面電極と前記第4表面電極は、互いに隣り合うようにして設けられている
圧電アクチュエータ。
【請求項5】
請求項4記載の圧電アクチュエータであって、
前記上側圧電部材の積層数は、奇数であり、
前記第4表面電極は、前記第1表面電極乃至前記第3表面電極と比較して大きな面積を有している
圧電アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の圧電アクチュエータであって、
前記下側圧電部材の積層数は、前記上側圧電部材の積層数と同じである。
圧電アクチュエータ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の圧電アクチュエータであって、
前記絶縁層は、前記上側圧電部材及び前記下側圧電部材と同じ材料からなる
圧電アクチュエータ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の圧電アクチュエータと、前記圧電アクチュエータを駆動するための駆動回路とを備える装置であって、
前記分割された表面電極は、2つにグループ化されており、
前記駆動回路は、
入力信号に基づいて第1駆動信号を生成して前記分割された表面電極の一のグループに前記第1駆動信号を出力する第1駆動回路と、
前記入力信号に基づいて前記第1駆動信号と逆位相の第2駆動信号を生成して前記分割された表面電極の残りの一のグループに前記第2駆動信号を出力する第2駆動回路と
を備えている
装置。
【請求項9】
請求項8記載の装置であって、
前記第1駆動信号は、直流成分として第1バイアス電圧を有する信号であり、
前記第2駆動信号は、直流成分として第2バイアス電圧を有する信号である
装置。
【請求項10】
請求項9記載の装置であって、
前記第1バイアス電圧は、前記第2バイアス電圧と異なる絶対値を有する
装置。
【請求項11】
請求項9又は請求項10記載の装置であって、
前記第1駆動回路は、第1オペアンプと、一端を前記第1オペアンプの反転入力端子に接続され他端に前記入力信号を入力される第1入力抵抗と、前記第1オペアンプの前記反転入力端子と前記第1オペアンプの出力端子とを接続する第1帰還抵抗と、前記第1バイアス電圧の基となる第1基準電圧を前記第1オペアンプの非反転入力端子に対して入力する第1基準電圧供給部とを備えており、
前記第2駆動回路は、非反転入力端子に前記入力信号を入力される第2オペアンプと、前記第2バイアス電圧の基となる第2基準電圧を供給する第2基準電圧供給部と、前記第2基準電圧供給部と前記第2オペアンプの反転入力端子との間に接続された第2入力抵抗と、前記第2オペアンプの前記反転入力端子と前記第2オペアンプの出力端子とを接続する第2帰還抵抗とを備えている
装置。
【請求項12】
請求項11記載の装置であって、
前記第1入力抵抗、前記第2入力抵抗及び前記第2帰還抵抗は互いに同じ抵抗値を有しており、
前記第1帰還抵抗は、前記第1入力抵抗の2倍の抵抗値を有している
装置。
【請求項13】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の圧電アクチュエータの製造方法であって、
前記表面電極又は前記上側内部電極となる導電パターンの形成された圧電体グリーンシートを前記絶縁層の上に前記上側圧電部材として積層すると共に、前記下側電極となる導電パターンの形成された圧電体グリーンシートを前記絶縁層の下に前記下側圧電部材として積層した後、全体をプレス加工して、焼結前圧電素子を形成するステップと、
前記焼結前圧電素子を焼結して、焼結後圧電素子を得るステップと、
前記焼結後圧電素子に対して、前記絶縁層を中心とした分極分布が上下対称となるように分極処理を施すステップと
を備える製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−79852(P2012−79852A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222357(P2010−222357)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)