説明

圧電ウェハ

【課題】機械的研磨により厚さが数十μmとなるまで薄型化されることによって機械的強度が低下した大面積の圧電ウェハを、その後のフォトリソグラフィプロセスによって複数の圧電チップ個片に加工する際のハンドリングによって、圧電ウェハが破損して歩留まりが低下する不具合を解決することができる圧電ウェハの構造を提供する。
【解決手段】薄板領域2と、薄板領域の外周縁部に一体化された厚肉の枠体部3と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッチ処理により圧電振動素子を大量生産する際に使用する圧電ウェハの構造の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子の如く、圧電振動素子をパッケージ内に気密封止した構造の表面実装型の圧電デバイスは、携帯電話機、ページャ等の通信機器や、コンピュータ等の電子機器等において、基準周波数発生源、フィルタ等として利用されている。
上記電子機器に対する小型化、高性能化の要請により、使用される圧電デバイスを構成する圧電振動素子に対しても小型化、高周波化が求められている。その結果、圧電振動素子として、例えば縦横寸法が数mm程度、振動部の厚さが数十μm程度の超小型化が求められている。圧電振動素子は、圧電基板の主面上に励振電極と、リード電極を成膜した構成を有しており、超小型の圧電振動素子を個別加工により製造する場合には、歩留まり、効率が悪化して生産性が著しく低下する。そのため、従来から、大面積の圧電ウェハを用いたバッチ処理が実施される。バッチ処理においては、圧電ウェハをラップ、ポリッシュにより目標厚みにまで薄肉化した後で、フォトリソグラフィ技術による転写、エッチング等によって圧電ウェハ上に複数のチップパターンを形成し、ウェハ単位でのバッチ加工処理終了後に、小片の圧電チップに分割する作業が実施される。
ところで、振動部が数十μm程度に薄肉化した圧電振動素子を圧電ウェハを用いたバッチ処理によって量産する場合、従来は、ラップ、ポリッシュ等の機械的研磨により圧電ウェハの厚みを全面に亘って狙いの厚み寸法にまで均一に予め加工しておく必要があった。また、高周波化の要請が更に高まった場合には、機械的研磨により圧電ウェハの全体厚みを更に薄く加工してゆく必要が生じる。更に、量産性を高めてコスト低減を図るためには、圧電ウェハを大型化して一枚の圧電ウェハからの量産性を高める必要も生じる。
【0003】
図8は水晶ウェハをフォトリソグラフィプロセスにて加工する場合の説明図であり、水晶ウェハ100上のハッチングで示した略環状の部分102を除いた全面を保護膜101にて被覆した状態で、水晶ウェハ全体をエッチング液中に所定時間浸漬して揺動させつつハッチング部102に相当する水晶材料を除去して貫通スリットを形成する(外形抜きエッチング)。ハッチング部102に形成される貫通スリットは、隣接し合う各水晶基板チップ103間を画成する境界となっている。
次いで、保護膜101を剥離し、貫通したハッチング部102により囲まれた水晶基板チップ103上に励振電極とリード電極となる金属膜を付着する。その後、貫通したハッチング部102に沿って折り割ることにより、水晶基板チップ個片に分割する。
しかし、圧電ウェハの薄型化、大面積化が更に進むと、圧電ウェハの強度が必然的に低下するため、フォトリソグラフィプロセスにおけるハンドリングにおいて圧電ウェハが破損し易くなり、歩留まりが低下することとなる。特に、圧電ウェハをピンセットにより保持して移動したり、圧電ウェハに付着したエッチング液をエッチングや洗浄のために液中にて揺動する場合にウェハが破損し易くなる。
このように大型の圧電ウェハはハンドリングに際して不都合が多いため、製造歩留まりを優先するためには量産性の点で劣る小面積の圧電ウェハを用いざるを得なかった。
特開2004−119718公報には、薄型ウェハを加工中の各工程で安定した形状に維持し、割れや欠けや反りを防止するために、薄型ウェハの片面の外周縁に沿ってリング状フレームを貼り付けて補強するようにした薄型半導体チップの製造方法が開示されている。
しかし、この従来技術にあっては、ウェハを所望の薄さに加工した後で、薄型ウェハの片面にリング状フレームを正確に位置決めした上で貼り付ける必要があるため、作業数が増大し、生産性低下が著しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−119718公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、機械的研磨により厚さが数十μmとなるまで薄型化されることによって機械的強度が低下した大面積の圧電ウェハを、その後のフォトリソグラフィプロセスによって複数の圧電チップ個片に加工する際のハンドリングによって、圧電ウェハが破損して歩留まりが低下する不具合を解決することができる圧電ウェハの構造を提供することを目的としている。
即ち、本発明によれば、機械的強度が低下した圧電ウェハを小面積化することによる量産性低下を招くことなく、十分な量産性を確保できる程度に大面積化しながらもハンドリング時の破損を防止することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、薄板領域と、該薄板領域の外周縁部に一体化された厚肉の枠体部と、を備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、フォトリソグラフィプロセスにより加工することにより圧電ウェハ上に複数の圧電振動素子を形成する際に用いる前記圧電ウェハの構造であって、前記複数の圧電振動素子を形成する薄板領域と、該薄板領域の外周縁部に一体化された厚肉の枠体部と、を備えたことを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記外枠部の内壁面の全体形状は、円形、楕円形、長円形であるか、或いは、R状部、直線状部のみから構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の圧電ウェハによれば、薄板領域と、該薄板領域の外周縁部に一体化された厚肉の枠体部と、を備えているので、機械的研磨により厚さが数十μmとなるまで薄型化されることによって機械的強度が低下した大面積の圧電ウェハを、その後のフォトリソグラフィプロセスによって複数の圧電チップ個片に加工する際のハンドリングによって、圧電ウェハが破損して歩留まりが低下するという従来の不具合を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係る圧電ウェハの一例としての水晶ウェハの構成を示す斜視図、及びA−A断面図。
【図2】(a)乃至(c)は本発明の圧電ウェハの加工手順を説明する図。
【図3】(a)乃至(d)はフォトリソグラフィプロセスによる水晶ウェハの加工手順を示す要部(薄板領域)拡大断面図。
【図4】(a)及び(b)は本発明の圧電ウェハの他の実施形態の構成を示す平面図、及びB−B断面図。
【図5】(a)及び(b)は夫々本発明の圧電ウェハの他の実施形態の構成を示す平面図。
【図6】(a)及び(b)は夫々本発明の他の実施形態に係る圧電ウェハの構成を示す平面図。
【図7】(a)及び(b)は夫々本発明の他の実施形態に係る圧電ウェハの構成を示す平面図。
【図8】従来例の圧電ウェハの加工方法の説明図。
【図9】(a)及び(b)は本発明の圧電ウェハにスピンコートによりレジストを塗布する手順と、その欠点を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1(a)及び(b)は本発明の一実施形態に係る圧電ウェハの一例としての水晶ウェハの構成を示す斜視図、及びA−A断面図であり、図2(a)乃至(c)は本発明の圧電ウェハの加工手順を説明する図である。
本発明の水晶ウェハ(圧電ウェハ)1は、水晶振動素子(圧電振動素子)の連結体を形成するための薄板領域2と、薄板領域2の外周縁部に一体化された厚肉の枠体部3と、を備えている構成が特徴的である。なお、水晶振動素子は、水晶基板と、水晶基板面に形成した励振電極、リード電極とからなっている。
水晶ウェハ1を製造する際には、まず、図2(a)に点線で示すような平板状且つ厚肉の水晶板10を、ラップ、ポリッシュ等の機械的研磨によって所定の厚み(例えば、50μm)まで薄く加工する。この段階での水晶板10の厚みは、最終的な狙いの厚さ(例えば、30μm)よりも十分に厚く機械的強度の強い状態に留めておく。
次いで、図2(b)において図1の枠体部3の幅寸法に相当する水晶板上面外周部と、水晶板下面全体を金属膜11a、11bによってマスクした状態で、水晶板をエッチング液に浸漬して揺動させることによって、(c)のように上面側の環状の金属膜11aと底面側の全面金属膜11bとによって隠蔽されていない水晶基板上面を凹状に加工し、凹部12内の底板13の肉厚が狙いの値である30μmとなるようにする。その後、水晶板を洗浄液中に浸漬して揺動させることによって付着したエッチング液洗浄してから、金属膜11a、11bを除去することによって水晶ウェハ1を完成する。
水晶板10を機械的研磨する際には、枠体部3の肉厚に相当する厚み程度に仕上げれば良く、従来のように薄板領域2に相当する薄さまで研磨によって仕上げを行う必要がなくなるため、機械的研磨工程での加工対応が容易となる。
更に、この水晶ウェハ1は、薄板領域2の外周縁に一体化された厚肉の枠体部3によって機械的強度を補強されているため、その後のフォトリソグラフィプロセスによる水晶振動素子個片への加工工程におけるピンセットによる保持、移動や、エッチング液や洗浄液中での揺動によって薄板領域2が変形、破損することが防止される。従って、水晶ウェハの大型化、薄板領域の更なる薄肉化に対応して強度を高め、フォトリソグラフィプロセス中のハンドリングにおける破損を防止することが可能となる。
【0010】
図3(a)乃至(d)はフォトリソグラフィプロセスによる水晶ウェハの加工手順を示す要部(薄板領域)拡大断面図であり、フォトリソグラフィプロセスによって、薄板領域2に対して従来通り、表裏両面への金属膜20の成膜((a))、外形抜き部分2aを除いた金属膜20上へのフォトレジスト21のパターニング、露光、現像、及び金属膜20のエッチングによる選択的除去((b))、外形抜きエッチング((c))、フォトレジスト剥離及び金属膜エッチングによる除去((d))を順次実施することにより、水晶振動素子個片を形成する。
図3(b)に示したフォトレジスト21のパターニング工程では、従来と同様にスピンコータの回転テーブル上に水晶ウェハ1を固定した状態で回転させつつ、水晶ウェハ面にフォトレジストをスプレー塗布する工程を採用することができる。フォトレジストにマスクを用いた露光を実施する場合には枠体部3の厚みを考慮して薄板領域面とマスクとの間のギャップ設定を行う他は、従来と全く同様の手順による露光を実施できる。各種エッチング工程についても、従来の平板状の水晶ウェハに対して実施するエッチングと全く差異がないことが確認されている。
上記実施形態では、矩形の水晶板の片面をエッチングすることによって薄板領域2の外底面が、枠体部3の底面と同一平面上に位置するように構成したが、例えば図4に示すように枠体部3の高さ方向中間部によって薄肉領域2の外周縁を一体的に保持して縦断面形状がH字型となるように構成してもよい。この場合には、図2(b)に示した環状の金属膜11aによって水晶板10の表裏両面の外周縁をマスクした状態でエッチングを実施することにより、水晶板の表裏両面側に同時に凹所を形成する。
【0011】
次に、図5(a)は本発明の変形実施形態であり、この水晶ウェハ1は、外周輪郭を円形とし、その内側に薄板領域2を形成することによって、薄板領域2の外周縁を厚肉の枠体部3によって補強するように構成している。この実施形態においても、薄板領域2を厚肉部3の底面と同レベルとしてもよいし、縦断面形状がH字型になるようにしてもよい。
更に、図5(b)は図5(a)の円形の水晶ウェハ1の中心部を貫通するように細幅の梁25を設けることにより機械的強度を更に高めるようにした例である。
上記何れの例においても、薄板領域2と枠体部3との間の厚みの比率、梁25の有無、太さ、本数等については水晶ウェハの大きさや、薄板領域の厚みを考慮した上で、十分なウェハ強度が確保できるように条件を選択すればよい。
次に、上記各実施形態における水晶ウェハ(圧電ウェハ)にあっては、枠体部の内側面に90度、鋭角、或いは鈍角状の角部が存在するため、フォトリソグラフィプロセスにおけるハンドリングや、エッチング液や洗浄液中での揺動を繰り返すことにより、応力が角部周辺に集中し、該角部を起点として薄板領域2にひび割れ等の破損が発生し易くなる。
或いは、図9(a)(b)のスピンコータ30によるフォトレジスト塗布工程に示すように、モータ31によって回転駆動される回転テーブル32上に水晶ウェハ1を保持した状態で回転テーブル32を回転させつつ、水晶ウェハ1の凹部12内に向けてノズル35からフォトレジスト36を塗布すると、遠心力によって枠体部3の内壁に沿ってフォトレジスト35が溜まり易くなり、特に角隅部には多い量のフォトレジストが溜まる。フォトレジスト35の量が多いために厚くなった部分については、厚みが均一且つ薄い中央部分と比べて露光・現像が円滑に実施されず、フォトリソグラフィプロセスが狙い通りには実施されなくなる。このため、図1(a)に示した如き外形抜き部分2aを精度良く形成できなくなる。
【0012】
このような不具合を解消するために本発明の他の実施形態では、外枠部3の内壁側に角部が形成されないように構成した。換言すれば、薄板領域2の外周縁部の輪郭形状が、R形状、及び/又は、直線形状のみから構成されるようにした。
即ち、図6(a)は外形が矩形の水晶ウェハ1の外枠部3の内壁面の全体形状を円形(或いは、楕円、長円)とした例であり、図6(b)は外枠部3の内壁面の全体形状を略矩形としつつ角隅部をR状に面取りしている。
また、図7(a)は外形が円形の水晶ウェハ1の外枠部3の内壁面の全体形状を円形(或いは、楕円、長円)とした例であり、図7(b)は外枠部3の内壁面の全体形状を2つの略矩形としつつ、各矩形内壁の角隅部をR状の面取りした構成としている。
このように本実施形態では、外枠部3の内壁面に角部が形成されないように、内壁面の平面形状を、R状、或いは直線のみから成るように構成したため、ハンドリング時や液中での揺動時に応力が集中する箇所が存在しなくなり、水晶ウェハが破損しにくくなる。
また、水晶ウェハ1をスピンコータ30によって回転させつつ凹部12内にフォトレジストを塗布する際に、外枠部3の内壁面に角部が存在しないことから、外枠部の内壁に沿ったレジスト塗布ムラ、及びレジスト溜まりが発生しにくくなり、フォトレジストの厚みのバラツキに起因して露光・現像工程による外形抜き工程を精度よく実施できる。
なお、上記実施形態では、圧電結晶材料として水晶を例示したが、これは一例に過ぎず、本発明はあらゆる圧電結晶材料から成る圧電ウェハに対して適用することができる。
【符号の説明】
【0013】
1 水晶ウェハ(圧電ウェハ)、2 薄板領域、2a 外形抜き部分、3 枠体部、10 水晶板、11a、11b 金属膜、12 凹部、20 金属膜、25 梁、30 スピンコータ、31 モータ、32 テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板領域と、該薄板領域の外周縁部に一体化された厚肉の枠体部と、を備えたことを特徴とする圧電ウェハの構造。
【請求項2】
フォトリソグラフィプロセスにより加工することにより圧電ウェハ上に複数の圧電振動素子を形成する際に用いる前記圧電ウェハの構造であって、
前記複数の圧電振動素子を形成する薄板領域と、該薄板領域の外周縁部に一体化された厚肉の枠体部と、を備えたことを特徴とする圧電ウェハの構造。
【請求項3】
前記外枠部の内壁面の全体形状は、円形、楕円形、長円形であるか、或いは、R状部、直線状部のみから構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電ウェハの構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−78118(P2011−78118A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255791(P2010−255791)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【分割の表示】特願2010−113136(P2010−113136)の分割
【原出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】