説明

圧電スピーカおよびこれを用いた警報機付きセンサ

【課題】低周波数領域及び高周波数領域において、音圧が大きい圧電スピーカおよびこれを用いた警報機付きセンサを提供する。
【解決手段】本発明の圧電スピーカ1は、圧電素子よりなる圧電体21と、前記圧電体21より大径で前記圧電体21の表面に同心状に装着された板状体(金属板22)と、を有する圧電振動子2と、前記圧電振動子2の周囲に設けられ前記圧電振動子を弾性的に保持するフィルム状体3と、を備え、前記フィルム状体3は、外周方向に山部3M又は谷部3V、若しくはその両方となり得る、物性的に粗な部分を有する粗密部を有して、腹と節が同心円状に形成される同相モードの固有周波数に対応して配置され、前記圧電振動子2と前記フィルム状体3とで発音体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電スピーカおよびこれを用いた警報機付きセンサに係り、特に圧電素子を用いた圧電スピーカの音圧の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から圧電素子を金属板に張り合わせた圧電振動子を用いた圧電スピーカが知られている。この圧電スピーカはダイナミックスピーカに較べて、薄型で簡単な構造であるため、小型化が可能で、また、安価であるという特徴がある。しかしながら、このような圧電スピーカは共振周波数付近での音圧は高いが、他の周波数、特に低周波数領域での音圧が小さいという問題がある。本明細書では低周波数領域(以下、低域と記す)とは約1kHz以下を指し、高周波数領域(以下、高域と記す)とは約1kHzを越える領域を指すが、低域と高域との間に厳密な境界は無い。
【0003】
また、圧電振動子を樹脂から成るプレート(フィルム状体)によって保持することにより、低域での音圧を大きくした圧電スピーカが知られている(例えば特許文献1参照)。また、圧電振動子に共振周波数を調整するための金属を取り付けることにより、任意の周波数の音圧を大きくする圧電音響装置が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、このような圧電スピーカにおいても、低域での音圧は依然として低く、十分な音圧を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−271096号公報
【特許文献2】特開平10−126885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、低周波数領域及び高周波数領域において、音圧が大きい圧電スピーカおよびこれを用いた警報機付きセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の圧電スピーカは、圧電素子よりなる圧電体と、前記圧電体より大径で前記圧電体の表面に同心状に装着された板状体と、を有する圧電振動子と、前記圧電振動子の周囲に設けられ前記圧電振動子を弾性的に保持するフィルム状体と、を備え、前記フィルム状体は、外周方向に山部又は谷部、若しくはその両方となり得る、物性的に粗な部分を有する粗密部を有して、腹と節が同心円状に形成される同相モードの固有周波数に対応して配置され、前記圧電振動子と前記フィルム状体とで発音体を形成するものである。
この構成により、フィルム状体は、外周方向に山部又は谷部、若しくはその両方となり得る、物性的に粗な部分を有する粗密部を有して、腹と節が同心円状に形成される同相モードの固有周波数に対応して配置されていることから、同相モードを形成する周波数で圧電スピーカの振動部を構成するフィルム状体の変位を大きくして音圧を向上することができる。例えば、外周方向に山部又は谷部、若しくはその両方を形成した構造の他、形状的には平板であって、同心円状に粗密部あるいは弾性率の小さい領域と大きい領域とを交互に形成し、外周方向に山部又は谷部、若しくはその両方を形成し易いように構成することで、振幅をより大きくすることができる。
【0008】
また本発明は、上記圧電スピーカにおいて、前記フィルム状体は、前記圧電振動子の周囲に設けられ前記圧電振動子を保持するとともに、外周方向に山部又は谷部、若しくはその両方を有して、前記圧電振動子を弾性的に保持する蛇腹構造のフィルム状体で構成される。
この構成により、前記フィルム状体は、外周方向に山部又は谷部、若しくはその両方を有していることで、同相モードを形成する周波数で圧電スピーカの振動部を構成するフィルム状体の変位を大きくして音圧を向上することができる。
【0009】
また本発明は、上記圧電スピーカにおいて、前記フィルム状体の蛇腹構造は、蛇腹の腹が振動モード(固有周波数の同相モード)の腹の頂点と一致するように構成される。
この構成により、固有周波数の振動モード(固有振動モード)での変位をさらに大きくすることができる。
【0010】
また本発明は、上記圧電スピーカにおいて、前記振動モードの節の位置には、蛇腹(山部と谷部)が存在しないように構成される。
この構成により、固有振動モードの節の位置は変位しないようにすることで振動モードでの変位をさらに大きくすることができる。
【0011】
また本発明は、上記圧電スピーカにおいて、前記フィルム状体の蛇腹構造は蛇腹と振動モードの腹が1対1で対応しており、蛇腹の腹の頂点と振動モードの腹の頂点が一致している。
この構成により、蛇腹の腹の頂点と振動モードの腹の頂点が一致していることで振動モードでの変位をさらに大きくすることができる。
【0012】
また本発明は、上記圧電スピーカにおいて、固有周波数は2kHz〜4kHzの間の共振点である。
この構成により、ラウドネスが最大となる周波数範囲を設定することで感覚的に大きな音を放射することができる。
【0013】
また本発明は、上記圧電スピーカにおいて、前記フィルム状体のエッジは弾性体を介して保持される。
この構成によれば、接着剤を用いることなく取り付けることができることから、生産性が向上する。また音響インピーダンスが高くなり、駆動電流を小さくすることができる。
【0014】
また本発明は、上記圧電スピーカにおいて、前記弾性体はポリウレタンフォームまたは熱可塑性のエラストマである。
【0015】
また本発明は、上記圧電スピーカにおいて、前記板状体は、金属板である。
この構成によれば、圧電体と張り合わせることで、ユニモルフ構造を形成することができ、高効率の圧電スピーカを構成することができる。
【0016】
また本発明は、上記圧電スピーカにおいて、前記金属板及び前記圧電体は略円板形状であって、前記金属板と前記圧電体との半径の比が略10:4である。
この構成により1次共振周波数(1kHz)以下での音圧を最大にすることができる。
【0017】
また本発明は、上記圧電スピーカにおいて、前記フィルム状体は、樹脂フィルムである。
この構成により、フィルムに山部または谷部を形成し易く、安価で、耐熱性が良好で信頼性の高い圧電スピーカを構成することが可能となる。
【0018】
また本発明は、圧電スピーカと、事象を検出するセンサ素子と、前記センサ素子の出力に応じて前記圧電スピーカを駆動する駆動部とを具備し、警報機付きセンサを構成する。
この構成によれば、高域のアラーム音と低域の報知音声などを発することのできる発音体を具備し、安価で信頼性の高いセンサを提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明してきたように、本発明によれば、圧電スピーカの発音体を構成するフィルム状体が、外周方向に山部又は谷部、若しくはその両方となり得る、物性的に粗な部分を有する粗密部を有して、腹と節が同心円状に形成される同相モードの固有周波数に対応して配置され、前記圧電振動子と前記フィルム状体とで発音体を形成することで、フィルム状体の蛇腹構造など、同相モードを形成する周波数で圧電スピーカの変位を大きくし音圧を向上することができるため、低域及び高域の音圧が大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1に係る圧電スピーカの構成図。
【図2】同圧電スピーカの断面図。
【図3】同圧電スピーカの圧電振動子の構成図。
【図4】(a)は同圧電スピーカの圧電振動子とフィルム状体の分解斜視図、(b)は圧電振動子とフィルム状体の斜視図。
【図5】同圧電スピーカのフィルム状体の要部を簡略化した断面図。
【図6】同圧電スピーカのフィルム状体の形状の例を示す図。
【図7】(a)乃至(c)は同圧電スピーカのフィルム状体の製造工程を示す図。
【図8】(a)は同圧電スピーカにおいて、圧電振動体の振動状態を示す図、(b)は同圧電振動体の構成を示す図、(c)はフィルム状体の蛇腹構造が有る場合と無い場合の音圧の変位を示すグラフ。
【図9】(a)は同圧電スピーカの断面を示す図、(b)は同圧電スピーカの振動モデルを示す図。
【図10】(a)は共振周波数の振動モードの場合の圧電振動体の変位を示す図、(b)(c)は共振周波数でない振動モードの場合の圧電振動体の変位を示す図。
【図11】圧電体の径を変化させたときの共振周波数との関係を示すグラフ。
【図12】圧電体の径を変化させたときの音圧と周波数の関係を示すグラフ。
【図13】(a)は実施の形態2に係る圧電スピーカの振動状態を示す図、(b)は同圧電スピーカの振動波形を示す図、(c)は同圧電スピーカの要部断面図。
【図14】本発明の実施の形態3において、フィルム状体をつけない場合、フィルム状体をつけた場合、同相モードの蛇腹構造のフィルム状体をつけたときの周波数に対する音圧の変化を示すグラフ。
【図15】同グラフの要部を拡大したグラフ。
【図16】本発明の実施の形態4の圧電スピーカを示す要部断面図。
【図17】本発明の形態5の圧電スピーカを用いた火災報知機を示す分解斜視図。
【図18】同要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る圧電スピーカについて図1乃至図4を参照して説明する。
本実施の形態の圧電スピーカ1は、圧電振動子2と、圧電振動子2の周囲に設けられ圧電振動子2を保持するフィルム状体3と、フィルム状体3の外周部を支持するフレーム4とを具備しており、このフィルム状体3が、腹と節が同心円状に形成される同相モードの固有周波数に対応して、外周方向に山部および谷部をもつ蛇腹構造で構成され、前記圧電振動子と前記フィルム状体とで発音体を形成するようにしたことを特徴とするものである。圧電振動子2は、圧電素子よりなる圧電体21と圧電体21より大径で圧電体21の表面に同心状に取り付けられた板状体としての金属板22とを有する。圧電体21は、例えば、厚みが0.05〜0.1mm、密度が8.0(1E+3kg/m)のチタン酸ジルコン酸鉛(lead zirconium titanate)である。金属板22は、例えば、厚みが0.05〜0.1mm、密度が8.15(1E+3kg/m)の42ニッケルアロイ(ニッケルを42%含む鉄ニッケル系合金)であり、圧電体21と金属板22の厚みは同等にすることが望ましい。圧電体21と金属板22は、例えばエポキシ樹脂からなる接着剤によって全面を貼着されている。圧電体21の表面には、銀電極が設けられリード線(図示せず)が鉛フリーはんだを介して接続されており、電極に信号電圧を加えることにより圧電体21が歪み、その振動を音(空気の振動)として放射する。
【0022】
フィルム状体3は、圧電振動子2を弾性的に保持する薄肉部材であり、例えば厚みが50〜188μmであるPEI(ポリエーテルイミド)やPEN(ポリエーテルナフタレード)等の樹脂フィルムである。フィルム状体3は、ドーナツ形状であり、中心に圧電振動子2が接着剤によって取り付けられ、また、上述したように、外周方向に、固有振動数に対応した山部および谷部をもつ蛇腹構造を形成している。この蛇腹構造は図5に要部を簡略化して示すように、山部3Mと谷部3Vとが固有周波数に応じて形成される。ここでは、共振周波数を2kHz〜4kHzの受信用に用いるものとし、山部3Mと谷部3Vとの距離λが0.7mm程度となるように成形されている。
【0023】
そして、このフィルム状体3の蛇腹構造は、弾性体(エラストマ)5を介して支持部としてのフレーム4に弾性的に支持されており、蛇腹の腹が振動モード(固有周波数の同相モード)の腹の頂点と一致するように構成されており、振動モードでの変位をさらに大きくすることができる。
【0024】
また、固有周波数は2kHz〜4kHzの間の共振点となるようにし、ラウドネスが最大となる周波数範囲を設定することで感覚的に大きな音を放射することができる。
【0025】
なお、この蛇腹構造は、図6(a)に示すようにフレーム4側から谷部3Vと山部3Mの順に交互に形成されていてもよいし、図6(b)に示すように、フレーム4側から山部3Mと谷部3Vの順に交互に形成されていてもよい。また、図6(c)に示すように、谷部3V、図6(d)に示すように、山部3Mだけでもよい。
【0026】
フィルム状体3の蛇腹構造の製造方法について1例を、図7を参照して説明する。この例でのフィルム状体3は、樹脂フィルムであり、成形方法の一つとして加熱した金型で成形される。まず、図7(a)に示すように、フィルム状体3を金型Aとゴム材Bとの間に位置させ、金型Aを所定の温度に加熱する。金型Aは蛇腹の形状に加工されている。次に、図7(b)に示すように、フィルム状体3を挟んで金型AをゴムBに押圧する。次に、図7(c)に示すように、金型Aを開いてフィルム状体3を取り外す。フィルム状体3は金型の形状に従って蛇腹構造に成形される。
【0027】
フレーム4は、例えば樹脂より構成されており、フィルム状体3の周囲に設けられ、フィルム状体3を載置される平面を有している。この平面に、前述したように、フィルム状体3が弾性体5によって弾性的に保持されている。
【0028】
上記のように構成された本実施の形態の圧電スピーカ1が放射音を発する動作について図8を参照して説明する。図8(a)乃至(c)は、フィルム状体3の蛇腹構造の山部3Mと谷部3Vが同相モードの共振周波数の腹に相当する位置に一致するようにした場合の、振動モード(図8(a))とフィルム状体の構成(図8(b))と、圧電スピーカ1の音圧出力を示す(図8(c))。圧電体21に放射音の信号電圧が印加されると、圧電体21は収縮、膨張するが、圧電体21が取り付けられている金属板22は収縮、膨張しないので、圧電振動子2が反曲する。圧電振動子2は、この反曲動作を繰り返して振動し、放射音を発生する。蛇腹構造を有するフィルム状体3では、蛇腹構造のところでフィルム状体3が反曲し易く、また蛇腹構造が反曲することによって外周方向に伸縮し易い。
【0029】
発音体の3kHz(3次共振)付近の振動モードは図8(a)に示すように同心円状に振動して、振動の腹と節が交互にできる。そこで、図8(b)に示すようにフィルム状体3の腹部3Fに着目して、その腹部3Fの上に蛇腹を形成し、山部3Mと谷部3Vを形成する蛇腹構造をなすようにすることで振動変位がアップする。図8(c)に曲線aで示すように、蛇腹を振動モードの腹に設置した場合と、曲線bで示すように、蛇腹を形成しない場合では変位が大きく異なる。(ただし、このシミュレーションは空気抵抗を考慮していない)
【0030】
このように、図8(c)に曲線aで示すように、ねらいの固有周波数での圧電振動子2の振幅が大きくなり、圧電スピーカ1が発する放射音の音圧が大きくなる。
【0031】
上記の圧電スピーカ1の共振周波数について図9を参照して説明する。図9(a)は、圧電スピーカ1の断面を示し、図9(b)は圧電スピーカ1をモデル化した図を示す。図9(a)において、フィルム状体3は蛇腹構造を省略して示している。圧電スピーカ1は図9(b)に示すように、錘GがばねJによって支持体Pに支持されている振動構造物Qと見なすことができる。この振動構造物Qの共振周波数fは、ばねJのばね定数をk、錘Gの質量をmとすると
f=1/(2π)・(k/m)1/2
によって表される。従って、圧電スピーカ1の共振周波数f0は、フィルム状体3のばね定数をk0、圧電振動子2の質量をm0とすると
f0=1/(2π)・(k0/m0)1/2
によって表される。そして、フィルム状体3のばね定数k0は、フィルム状体3のヤング率をE、フィルム状体3の厚さをh、フィルム状体3の径長さをLとすると、
k0=E・h3/L2/4
によって表される。
【0032】
上記の図8(c)に曲線bで測定結果を示した蛇腹構造無しの圧電スピーカ1は、フィルム状体3の外径が53mmで、フィルム状体3の径長さL1が7mmであって、共振周波数f1は180Hzであった。一方、曲線aで示した蛇腹構造有りの圧電スピーカ1は、フィルム状体3の外径が50mmで、フィルム状体3の径長さL2が6mmであった。そして、蛇腹構造無しと蛇腹構造有りの両方の圧電スピーカ1は、共にフィルム状体3のヤング率E、フィルム状体3の厚さをh、圧電振動子2の質量m0が同じなので、蛇腹構造有りの圧電スピーカ1の共振周波数f2と蛇腹構造無しの圧電スピーカ1の共振周波数f1との比は、
f2/f1=L1/L2=7/6
となる。従って、共振周波数f2は共振周波数f1の約1.2倍になり、210Hzや100Hz付近に大きな音圧のピークができている。このような圧電スピーカ1はフィルム状体3の外径を大きくすれば音圧を大きくすることができるが、フィルム状体3の外径が制約されている場合には、上述したように、フィルム状体3のヤング率、厚さ、径長さを変えることによって共振周波数を変え、任意の周波数の領域の音圧を大きくすることができる。
【0033】
なお、本実施の形態のように、フィルム状体3の蛇腹構造は、蛇腹の腹が振動モード(固有周波数の同相モード)の腹の頂点と一致するように構成され、シミュレーションの結果、図10(a)に示すように、振動の腹と節とが同心円状に形成される。一方、共振周波数以外の振動モードの場合は図10(b)および(c)に示すように、変位がばらついた状態となっている。これらの比較からも、同相モードになる場合は、振動モードでの変位をさらに大きくすることができていることがわかる。
【0034】
また、本実施の形態では、金属板22及び圧電体21を略円板形状とし、金属板22と圧電体21との半径の比を略R:rを10:4としている。図11は、金属板22の直径を一定とし、圧電体21の直径を変えたときの共振周波数の変化を示す。圧電体21と金属板22は円形であり、金属板22の直径は50mmである。圧電体21の直径が23mm付近のときに共振周波数が最も低くなっており、このときの金属板22と圧電体21との半径の比が略10:4になる。金属板22と圧電体21との半径の比は10:4程度が好ましい。従って、本実施の形態のような構成にすることにより、圧電スピーカ1の共振周波数が小さくなるので、低域での音圧を大きくすることができる。
【0035】
またこのときの周波数と音圧との関係を測定した結果を図12に曲線aで示す。
比較のために金属板22と圧電体21との半径の比を略R:rを10:6としたときの、周波数と音圧との関係を測定した結果を図12に曲線bで示す。いずれも、共振周波数は所望の値2から4kHzを得ることができるが、曲線aの場合は一次共振周波数を得ることができている点で優れている。このように、金属板22と圧電体21との半径の比を略R:rを10:4とすることで1kHz以下の低周波帯域での音圧を大きくすることが可能である。
【0036】
なお、前記実施の形態では、板状体として金属板22を用いたが、金属板に限定されることなく、圧電素子が面内で伸び縮みすると反りが生ずる材料であればよい(ユニモルフ形式)。
【0037】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
本実施の形態では、図13(a)乃至(c)に示すように、フィルム状体3の蛇腹構造は蛇腹と振動モードの腹が1対1で対応し、振動モードの節の位置には、蛇腹(山部と谷部)が存在しないように構成したことを特徴とするものである。ここでも、圧電スピーカの構造としては、蛇腹の形状以外は前記実施の形態1と同様である。
【0038】
上記のように構成された本実施の形態の圧電スピーカ1が放射音を発する動作について図13を参照して説明する。図13(a)乃至(c)は、フィルム状体3の蛇腹構造の山部3Mと谷部3Vが同相モードの共振周波数の腹とが1対1で対応するようにした場合の、振動モード(図13(a))と圧電スピーカの振動部の変位(図13(b))と、フィルム状体の構成(図13(c))とを示す図である。ここでも圧電体21に放射音の信号電圧が印加されると、圧電体21は収縮、膨張するが、圧電体21が取り付けられている金属板22は収縮、膨張しないので、圧電振動子2が反曲する。圧電振動子2は、この反曲動作を繰り返して振動し、放射音を発生する。蛇腹構造を有するフィルム状体3では、蛇腹構造のところでフィルム状体3が反曲し易く、また蛇腹構造が反曲することによって外周方向に伸縮し易い。
【0039】
発音体の1次共振である1kHz付近の振動モードは図13(a)に示すように同心円状に振動して、振動の腹と節が交互にできる。そこで、図13(b)に示すようにフィルム状体3の変位は、圧電素子の部分で大きく、その周囲の、蛇腹を形成した、山部3Mと谷部3Vを形成する蛇腹構造に1対1対応して振動変位が伝搬する。
【0040】
このように、図13(b)に曲線で示すように、ねらいの固有周波数での圧電振動子2の振幅が大きくなり、圧電スピーカ1が発する放射音の音圧をさらに大きくすることができる。
【0041】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3について説明する。
次に、3次共振について測定した結果について説明する。
図1乃至4に示した前記実施の形態1と同様の圧電振動子2を35Φの大きさに形成し、35Φの圧電振動子2のみの場合(曲線a)、35Φの圧電振動子2に50Φのフィルム状体3を接続した場合(曲線b)、35Φの圧電振動子2に50Φの蛇腹ありフィルム状体3を接続した場合(曲線c)について、音圧と共振周波数との関係を測定した結果を図14に示す。
また図15はこの3次共振点近傍の拡大図である。
この図から明らかなように曲線bは低音域の音圧が向上しており、曲線cは3kHz近辺の音圧が向上している。
【0042】
なお、以上の実施の形態1乃至3において、フィルム状体としては樹脂フィルム以外に木材パルプを原材料にした紙やコウゾ、ミツマタ、竹などの非木材植物を原材料とする紙などを用いてもよい。また、不織布や不織布に接着剤を含浸し、剛性をもたせたもの、ポリエステルにウレタンコートしたもの、チタンやアルミニウムなどでもよい。
【0043】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4について説明する。
前記実施の形態1乃至3では、蛇腹構造のフィルム状体を用いたが、本実施の形態の圧電スピーカ1Sでは、蛇腹構造ではなく、図16に示すように平坦なフィルム状体3に、ドーピングを行いドーピング領域3Dを形成したことを特徴とするものである。本実施の形態では、選択的に弾性率の高い領域を構成することで、共振周波数に対応してこのドーピング領域3Dが節となる圧電スピーカを形成することができる。
この構成によっても、3次共振での音圧の増大をはかることができる。
【0044】
なお、実施の形態4において、フィルム状体としては樹脂フィルム以外に木材パルプを原材料にした紙やコウゾ、ミツマタ、竹などの非木材植物を原材料とする紙などでもよい。また、不織布や不織布などに共振周波数に合わせて所定の間隔で同心円状に接着剤を含浸し、剛性をもたせ、ヤング率の高い領域を形成したもの、ポリエステルに対し共振周波数に合わせて所定の間隔で同心円状に選択的にウレタンコートしたもの、チタンやアルミニウムなどに共振周波数に合わせて所定の間隔で同心円状に選択的に不純物をドーピングすることで物性を変化させたものなども適用可能である。
【0045】
また、腹となる領域を肉薄領域とし、他の領域よりも弾性率が低くなるようにしてもよい。例えばチタンやアルミニウムなどに共振周波数に合わせて所定の間隔で同心円状に選択的にレーザビームを照射し、一部を蒸発させ肉薄領域を形成するようにしてもよい。
これらの場合も、物性的に粗な部分を有する粗密部を形成したのと同等であり、共振しやすくなり、変位を増大し、より大きな音圧を得ることが可能となる。
【0046】
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5について説明する。
本実施の形態では、前記実施の形態1で説明した圧電スピーカを用いた火災報知機について説明する。
この火災報知機は、火災が発生すると煙検知部で煙を検知して、音(“ビュー、ビュー、ビュー”という警報音、“火事です”“電池切れです”というような報知音声)で居住者に知らせるもので、図17に示すように、圧電スピーカ1をボディ103と光学式煙検知部102で挟み込み、裏カバー104、電池106と共にベース105に装着したものである。101は孔Hを有するカバーである。
【0047】
これらの火災報知機は戸建住宅の居室、寝室、階段、廊下 などに取り付けられるため、設置場所を選ばない、インテリアデザインの邪魔にならないようなコンパクトなサイズ、薄型のサイズが求められているが、本発明では薄型の圧電スピーカを組込み、ダイナミックスピーカと同様に低域で報知音声を出力し、かつ警報音(共振周波数)を出力することができる。
【0048】
煙検知部は、光学式煙検知部102で構成され、ADC(アナログ/デジタル変換)機能を持った素子チップを使い、煙検知センサからの電圧変化を、その端子のひとつに取入れている。取込んだ信号を内部で処理して、あるレベル以上であるとブザーを鳴らし、このブザー音を圧電スピーカ1で増幅する。すなわち、光学式煙検知部102の中心部に、長さ方向に沿って所定の大きさの貫通孔をドリルであけ、孔の一方の開口部に高輝度LED(送信素子)を差込み、もう一方の開口部にはホトトランジスタ(受信素子)を差込む。
これら2つの送信素子および受信素子の先端間距離は約70mmである。
また、この角材の中央部に、長さ方向の貫通孔と直交するように、同じく4.2mmの孔をドリルであけた。この孔を煙が通過し、LEDからの光をブロックし、ホトトランジスタへ到達する光量を低下させ、端子に入る電圧値を増加させる。例えば光源LED用のVR(10K)を6.8KW位に調整して、LEDに流れる電流を0.37mAにし、受光側(ホトトランジスタ)のVR(20k)を適当に調整すると、そして素子チップに入る電圧値は、煙が無い時に0.6V前後、煙が入ってくると最高3V位まで上昇する。つまり、煙の有無を、この電圧値の差で検知するわけである。煙が孔に入ってある基準以上の濃度に達すると、その濃度が保たれることを6秒間ほどチェックし、変わらなければ約150秒間、音(“ビュー、ビュー、ビュー”という警報音)を鳴らして止まる。但し、煙の濃度が高く保たれ続ければ、再び、警報音は鳴り続ける。
【0049】
なお、この圧電スピーカは実施の形態1で説明したような蛇腹構造のフィルム状体3付であるため、図18に要部拡大図を示すように、カバーもしくは、ボディ103(材質はABS樹脂)にリング状のエラストマからなる弾性体5(熱可塑性エラストマ ABS樹脂のカバーもしくはボディと同時成形)をとりつけ、フィルム状体3をはさみこむ方式を用いる。
【0050】
このように、弾性体を用いたはさみこみ方式の固定により、接着剤で固着する方式に比べて、拘束力が弱く、音響インピーダンスが高くなる。図示したように住宅用火災警報器はスピーカ以外に、煙検知部102として光学式に煙を検知するモジュール等を具備している。
【0051】
なお、ここでフレームに対してフィルム状体を支持するための弾性体としては熱可塑性エラストマに限定されることなく、ポリウレタンフォーム等の弾性体を用いてもよい。
【0052】
また、前記実施の形態では、煙検知部を用いた火災報知機について説明したが、火災報知機に限定されることなく、冷蔵庫のドアに取り付けられる警報装置、洗濯機の異常報知機など種々のセンサの検出結果に応じて警告音を発する報知機に適用可能である。
【0053】
なお、本発明は、上記実施の形態の構成に限定されることなく、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、上記の実施の形態では、フィルム状体3は圧電振動子2の全周囲に設けられて圧電振動子2を保持している構成としているが、圧電振動子2の周囲の一部だけに設けられた構成としてもよい。
また圧電振動子で構成された圧電スピーカの実装形態としては、前記実施の形態に限定されることなく、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 圧電スピーカ
2 圧電振動子
21 圧電体
22 金属板
3 フィルム状体
3M 山部
3V 谷部
3F 腹部
3D ドーピング領域
4 フレーム
103 ボディ
102 光学式煙検知部
104 裏カバー
105 ベース
106 電池
101 カバー
H 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子よりなる圧電体と、
前記圧電体より大径で前記圧電体の表面に同心状に装着された板状体と、を有する圧電振動子と、
前記圧電振動子の周囲に設けられ前記圧電振動子を弾性的に保持するフィルム状体と、を備え、
前記フィルム状体は、外周方向に山部又は谷部、若しくはその両方となり得る、物性的に粗な部分を有する粗密部を有して、腹と節が同心円状に形成される同相モードの固有周波数に対応して配置され、
前記圧電振動子と前記フィルム状体とで発音体を形成した圧電スピーカ。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電スピーカであって、
前記フィルム状体は、前記圧電振動子の周囲に設けられ前記圧電振動子を保持するとともに、外周方向に山部又は谷部、若しくはその両方を有して、前記圧電振動子を弾性的に保持する蛇腹構造のフィルム状体で構成された圧電スピーカ。
【請求項3】
請求項2に記載の圧電スピーカであって、
前記フィルム状体の蛇腹構造は、蛇腹の腹が、前記固有周波数の同相モードの振動モードの腹の頂点と一致するように構成された圧電スピーカ。
【請求項4】
請求項3に記載の圧電スピーカであって、
前記振動モードの節の位置には、蛇腹(山部と谷部)が存在しないように構成された圧電スピーカ。
【請求項5】
請求項2に記載の圧電スピーカであって、
前記フィルム状体の蛇腹構造は蛇腹と前記振動モードの腹が1対1で対応しており、蛇腹の腹の頂点と振動モードの腹の頂点が一致している圧電スピーカ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の圧電スピーカであって、
前記固有周波数は2kHz〜4kHzの間の共振点である圧電スピーカ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の圧電スピーカであって、
前記フィルム状体のエッジは弾性体を介して保持される圧電スピーカ。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の圧電スピーカであって、
前記弾性体はポリウレタンフォームまたは熱可塑性のエラストマである圧電スピーカ。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の圧電スピーカであって、
前記板状体は、金属板である圧電スピーカ。
【請求項10】
請求項9に記載の圧電スピーカであって、
前記金属板及び前記圧電体は略円板形状であって、前記金属板と前記圧電体との半径の比が略10:4である圧電スピーカ。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の圧電スピーカであって、
前記フィルム状体は、樹脂フィルムである圧電スピーカ。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の圧電スピーカと、
事象を検出するセンサ素子と、
前記センサ素子の出力に応じて前記圧電スピーカを駆動する駆動部とを具備した警報機付きセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−97143(P2011−97143A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246392(P2009−246392)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】