説明

圧電デバイスおよび超音波探触子並びに圧電デバイスの製造方法

【課題】本発明は、メンブレンを効率良く大きく変形させることができ圧電デバイスおよび超音波探触子並びに圧電デバイスの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の超音波探触子における圧電デバイスとしての超音波送受信部5は、積層された薄板状の圧電部材62を有する円形状のメンブレン6と、電極とを備えている。電極は、圧電部材62の第1領域68と第2領域69とに夫々電圧の印加に伴い互いに逆向きの応力が発生し得るように、前記圧電部材62に設けられた複数組の一対の第1電極63、65及び第2電極64を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子やインクジェットプリンタ等に使用される圧電デバイスおよび超音波探触子並びに圧電デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、非侵襲で内部組織の観察ができ、又、リアルタイムで観察ができるといった特徴を有するため、診断への応用場面が益々増加している。この超音波診断装置の超音波として、例えば基板にPZTなどの圧電部材を形成したユニモルフ構造のメンブレンを太鼓状に振動させて超音波の送受信を行なうpMUT(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer)が知られている。
【0003】
このようなpMUTの超音波探触子は、バルクPZTをダイシングにより分割したものに比し、周波数帯域を広くすることができ、微細化して高解像度とすることができるとともに、3次元画像を取得するためのメンブレン(振動子)の2次元配列化に適しており、また、小型薄型化が可能であるために超音波内視鏡への応用に適している等の利点を有する。このようなpMUTの超音波探触子において、1次元配列の振動子では、取得できる画像が断層画像であるため、操作による偽陰性の危険性があることから、操作者(医師、超音波診断技師)の熟練度が要求される。このような課題を軽減するため、3次元画像を取得できる2次元配列の超音波探触子のニーズは高い。
【0004】
このような超音波探触子においては、以下のようなエネルギ変換の動作を行う。送信では、電気エネルギを機械エネルギ(メンブレンの振動)に、更に機械エネルギを音響エネルギ(超音波)に変換する。一方、受信では、音響エネルギ(超音波)を機械エネルギ(メンブレンの振動)に、更に機械エネルギを電気エネルギに変換する。
【0005】
機械エネルギと音響エネルギの相互の変換は、音響整合が重要であり、pMUTの実効音響インピーダンスを生体の音響インピーダンスに整合させることが設計のポイントである。電気エネルギと機械エネルギの相互の変換は、圧電部材を含むメンブレン構成のエネルギ変換効率を高めることが重要である。圧電部材は、電界の方向と同じ方向(33方向)の歪みを利用することが最も効率が良い(圧電部材の性能を表す指標ではk値:電気機械結合係数が高くなる)ため、超音波探触子においては、33方向の歪みを用いる構成が有利である。又、PZTの厚み方向に電極を配設した構成に比べ、電極間隔を比較的大きく取れるため超音波受信時の感度(単位圧力に対する出力電圧)を向上できることもメリットとして挙げられる。
【0006】
このような33方向の歪みを利用した方式のものとして、特許文献1に超小型シェル型変換器が開示されている。このものは、保持基板上に、二つのショルダー部分の内側に、圧電部材(ソリッド電気アクティブ媒体)を積層したメンブレン(アーチ部分)を形成するとともに、それぞれのショルダー部分に一対の電極を取り付けてメンブレンと保持基板との間にチャンバーを形成する。そして、電圧を、プラス電極からマイナス電極に沿って印加させ同方向の電界を発生させて、圧電部材に応力を同方向に誘導させ、メンブレンを厚さ方向の上方又は下方に動かし湾曲状に撓み変形させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6222304号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、メンブレンの撓み変形に伴い圧電部材には、メンブレンの場所によって引張応力が生じる箇所と圧縮応力が生じる箇所とができる。以下、図8に示すものを例にして詳しく説明する。この図8に示すものは、薄板状の基板101に積層された圧電部材102を有する膜部材101が保持部材103に保持されてその保持された被保持領域106の内側領域に配設される膜部材101により形成された円形状のメンブレン100を備えたものである。メンブレン100が、中心部に配設された第1電極104と被保持領域106側である外周側に配設された第2電極105との一対の電極への電圧の印加に伴って図8(b)中に一点鎖線で示すように下側に湾曲状に撓み変形したとき、メンブレン100における圧電部材102の被保持領域106側の第1領域111には引張応力が生じ、その第1領域111の径内側の第2領域112には圧縮応力が生じる。メンブレン100が図8(b)の上側に湾曲状に撓み変形する場合は、上記とは逆に、第1領域111には圧縮応力が生じ、第2領域112には引張応力が生じる。このような電極構成における撓み変形に伴う圧電部材に生じる応力は、メンブレン100の撓み変形に際しその撓み変形を阻害し撓み変形をし難くする。
【0009】
従って、このようなメンブレン100の一部を構成する圧電部材102全体に単一な電界の与え方(単一方向の応力付加)では、上記撓み変形を阻害する応力のために、効率良くメンブレン100を撓み変形させることができず、メンブレン100の変位を大きくし難い。その結果、例えば超音波探触子に用いた場合、送信(音圧)を大きくできない。また、例えば外的な圧力によるメンブレンの変形を圧電部材によって検出するようなセンサとして用いる場合は、1組の一対の電極の場合、一対の電極間の圧電部材に逆方向に応力が生じるため、電荷が打ち消し合い、効率良く電荷を取出すことができず、センサ感度を大きく出来ない。そのため、例えば超音波探触子に用いた場合、受信感度を大きくできない。
【0010】
本発明は、メンブレンを効率良く大きく変形させることができる圧電デバイスおよび超音波探触子並びに圧電デバイスの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る圧電デバイスは、圧電部材を積層した膜部材と、前記膜部材を保持する保持部材と、前記圧電部材に電圧を印加する一対の第1および第2電極とを備え、前記一対の第1および第2電極に給電することによって前記圧電部材に電圧を印加した場合に厚さ方向に撓み変形するように形成された前記膜部材の一部からなるメンブレンを有する圧電デバイスであって、前記一対の第1および第2電極は、複数組であり、前記複数組の前記一対の第1および第2電極は、前記メンブレンにおける前記圧電部材を複数の領域に分けるように配設されるとともに、前記複数組の一対の第1および第2電極にそれぞれ給電された場合に、前記複数の領域における互いに隣接する領域に互いに逆方向の応力が発生するように配線されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、メンブレンの撓み変形に際し単一電極の場合に比較してその撓み変形を阻害するような応力を生じ難くできる。
【0013】
例えばメンブレンの撓み変形に際して、その領域によって生じる応力方向が異なる場合に、複数組の一対の第1及び第2電極に電圧を印加することによって、第1領域に引張応力を発生させるとともに、第2領域に圧縮応力を発生させるようにして圧電部材を歪ませその歪みによってメンブレンを撓み変形させることができる。これにより、メンブレンの撓み変形に際して単一電極の場合に比較してその撓み変形を阻害する応力の発生を抑えることができ、メンブレンを効率良く、大きく撓み変形させることができる。
【0014】
従って、例えば超音波探触子に用いる場合には、発信音圧を向上できる。また、例えばセンサとして用いる場合には、効率良く電荷を第1及び第2電極から取出すことが可能であり、センサ感度を向上でき、例えば超音波探触子に用いた場合、受信感度を向上でき、送受信特性が改善するため診断特性が向上する。
【0015】
他の一態様では、前記圧電デバイスにおいて、前記複数組の一対の第1及び第2電極は、前記圧電部材における厚さ方向と略垂直な方向に沿って配設されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、圧電部材の厚み方向に電極を配設した構成に比べ、メンブレンを効率よく変形させることができる。又、圧電部材の厚み方向に電極を配設した構成に比べ、電極間隔を比較的大きく取れるため、例えば超音波探触子に用いる場合には、超音波受信時の感度(単位圧力に対する出力電圧)を向上できる。
【0017】
他の一態様では、前記圧電デバイスにおいて、前記複数組の一対の第1及び第2電極の一部は、前記圧電部材における前記メンブレンの撓み変形に伴う応力が生じない領域を含んで配設されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、メンブレンの撓み変形に伴い、より適正な応力状態にすることができ、メンブレンをより一層、効率良く大きく変形させることができる。
【0019】
又、例えば超音波を受けてメンブレンが撓み変形した際の電荷を効率良く集めて取出すことが可能になり、超音波を、より一層正確に測定可能になる。
【0020】
他の一態様では、前記圧電デバイスにおいて、前記メンブレンは、略円形状又は略四角形状の外周形状を有するものから構成され、前記被保持領域は、前記メンブレンの外周側に略全周にわたって配設され、前記複数組の一対の第1及び第2電極は、前記メンブレンの外周と略同心相似形状に配設されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、1次の共振周波数(狙いの振動モード)付近に不要な振動モードが生じないものにできる。不要な振動モードが駆動周波数付近にあると、不要な振動が励起され設計のパルス波形からパルス波形が崩れ、分解能に悪影響を与える可能性があるが、これを防止できる。
【0022】
他の一態様では、前記圧電デバイスにおいて、前記メンブレンは、略四角形状の外周形状を有するものから構成され、前記被保持領域は、前記メンブレンの一方向の両端側の夫々に配設され、前記複数組の一対の第1及び第2電極は、前記メンブレンの一方向の両端側の夫々に略平行に並べられるように配設されていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、複数のメンブレンにより1つの素子を構成する場合、1つの素子中におけるメンブレンの配設効率を高くでき、メンブレンの有効面積を大きくでき、例えば超音波の送受信の特性を向上できる。又、電極を両側から容易に引き出すことができ、ロスの少ない構造が実現できる。
【0024】
他の一態様では、前記圧電デバイスにおいて、前記複数組の第1電極同士が共通接続され、前記複数組の第2電極同士が共通接続されていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、引き出し配線を少なくできるとともに、単一の電源で電圧を印加できる。従って、回路の簡略化、低コスト化に寄与できる。
【0026】
本発明の一態様に係る超音波探触子は、上述の何れかに記載の圧電デバイスを備えていることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、メンブレンの撓み変形に際し適正な応力状態にすることができ、メンブレンを効率良く、大きく撓み変形させることができる。
【0028】
従って、例えば超音波探触子に用いる場合には、発信音圧を向上でき、受信感度を向上できる。また、例えばセンサとして用いる場合には、効率良く電荷を取出すことが可能であり、センサ感度を向上できる。
【0029】
本発明の一態様に係る圧電デバイスの製造方法は、圧電部材を積層した膜部材と、前記膜部材を保持する保持部材と、前記圧電部材に電圧を印加する一対の第1および第2電極とを備え、前記一対の第1および第2電極に給電することによって前記圧電部材に電圧を印加した場合に厚さ方向に撓み変形するように形成された前記膜部材の一部からなるメンブレンを有する圧電デバイスの製造方法であって、前記一対の第1および第2電極を、複数組、前記メンブレンにおける圧電部材を複数の領域に分けるように配設し、前記複数組の一対の第1および第2電極にそれぞれ給電された場合に、前記複数の領域における互いに隣接する領域に互いに逆方向の応力が発生するように配線することを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、メンブレンの撓み変形に際し単一電極の場合に比較してその撓み変形を阻害する応力の発生を抑えることができ、メンブレンを効率良く、大きく撓み変形させることができる圧電デバイスを製造できる。
【0031】
従って、例えば超音波探触子に用いる場合には、送信特性(発信音圧)を向上でき、受信感度を向上できる。また、例えばセンサとして用いる場合には、効率良く電荷を取出すことが可能であり、センサ感度を向上できる圧電デバイスを得ることができる。
【0032】
他の一態様では、前記圧電デバイスの製造方法において、前記圧電部材に、一対の第1及び第2電極を、複数組、配設し、前記複数組の一対の第1及び第2電極の内で互いの距離が最大となる2つの電極に電圧を印加して前記圧電部材を分極処理し、その後、前記第1電極同士を共通接続するとともに、前記第2電極同士を共通接続することを特徴とする。
【0033】
この構成によれば、第1電極同士の共通接続及び第2電極同士の共通接続を行う前に、複数組の一対の第1及び第2電極の内で互いの距離が最大となる2つの電極に電圧を印加して前記圧電部材を分極処理するため、複数組の一対の第1及び第2電極を用いて圧電部材の分極処理を行うことができる。従って、分極処理を容易なものにできる。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、メンブレンを効率良く大きく変形させることができる圧電デバイスおよび超音波探触子並びに圧電デバイスの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1実施形態の超音波探触子を有する超音波診断装置の外観構成を示す図である。
【図2】第1実施形態の超音波探触子を有する超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】第1実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の構成を示す断面図である。
【図4】第1実施形態の超音波探触子における超音波送受信部の背面図である。
【図5】(a)は、第1実施形態の超音波探触子における超音波送受信部の要部を拡大した正面図、(b)は、図5(a)のV−V線断面図である。
【図6】(a)は、第2実施形態の超音波送受信部の要部を拡大した正面図、(b)は、図6(a)のVI−VI線断面図である。
【図7】(a)は、第3実施形態の超音波送受信部の要部を拡大した正面図、(b)は、図7(a)のVII−VII線断面図である。
【図8】従来例の説明図に係り、(a)は、その平面図、(b)は、その要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態の超音波探触子を有する超音波診断装置の外観構成を示す図である。図2は、第1実施形態の超音波探触子を有する超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。図3は、第1実施形態の超音波探触子の構成を示す断面図である。
【0037】
この実施形態における超音波診断装置Sは、図1に示すように、図略の生体等の被検体に対して超音波(第1超音波信号)を送信すると共に、この第1超音波信号に基づく被検体内から来た超音波(第2超音波信号)を受信する超音波探触子2と、超音波探触子2とケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に被検体に対して第1超音波信号を送信させると共に、超音波探触子2で受信された被検体内から来た第2超音波信号に応じて超音波探触子2で生成された電気信号の受信信号に基いて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する超音波診断装置本体1とを備えて構成される。
【0038】
この第1超音波信号に基づく被検体内から来た超音波は、被検体内における音響インピーダンスの不整合によって被検体内で第1超音波信号が反射した反射波(エコー)だけでなく、例えば微小気泡(マイクロバブル)等の超音波造影剤(コントラスト剤)が用いられている場合には、第1超音波信号に基いて超音波造影剤の微小気泡で生成される超音波もある。超音波造影剤では、超音波の照射を受けると、超音波造影剤の微小気泡は、共振もしくは共鳴し、さらに一定の閾値以上の音圧では崩壊、消失する。超音波造影剤では、微小気泡の共振によって、あるいは微小気泡の崩壊、消失によって、超音波が生じている。
【0039】
超音波診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、画像処理部14と、表示部15と、制御部16とを備えて構成されている。
【0040】
操作入力部11は、例えば、診断開始等を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータを入力するための装置であり、例えば、複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボード等である。
【0041】
送信部12は、例えば制御部16からの制御信号を超音波探触子2に送信する。受信部13は、例えば超音波探触子2から送られてくる受信信号を受信して画像処理部14へ出力する。
【0042】
画像処理部14は、制御部16の制御に従って、受信部13で受信された、第1超音波信号に基づく被検体内から来た第2超音波信号における所定の周波数成分に基いて被検体内の内部状態を表す画像(超音波画像)を形成する回路である。前記所定の周波数成分は、例えば、基本波成分、ならびに、例えば2次高調波成分、3次高調波成分および4次高調波成分等の高調波成分を挙げることができる。画像処理部14は、複数の周波数成分を用いて超音波画像を形成するように構成されてもよい。画像処理部14は、例えば、受信部13の出力に基いて被検体の超音波画像を生成するDSP(Digital Signal Processor)、および、表示部15に超音波画像を表示すべく、前記DSPで処理された信号をディジタル信号からアナログ信号へ変換するディジタル−アナログ変換回路(DAC回路)等を備えて構成される。前記DSPは、例えば、Bモード処理回路、ドプラ処理回路およびカラーモード処理回路等を備え、いわゆるBモード画像、ドプラ画像およびカラーモード画像の生成が可能とされている。
【0043】
表示部15は、制御部16の制御に従って、画像処理部14で生成された被検体の超音波画像を表示する装置である。表示部15は、例えば、CRTディスプレイ、LCD(液晶ディスプレイ)、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0044】
制御部16は、例えば、マイクロプロセッサ、記憶素子およびその周辺回路等を備えて構成され、これら超音波探触子2、操作入力部11、送信部12、受信部13、画像処理部14および表示部15を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって超音波診断装置Sの全体制御を行う回路である。
【0045】
超音波探触子(超音波プローブ、トランスデューサ)2は、図3に示すように探触子本体4と、探触子本体4に設けられ超音波の送受信を行なう超音波送受信部5(圧電デバイス)とを備えている。尚、図3のX方向を前方側、Y方向を後方側として説明する。後述の図5(b)、図6(b)、図7(b)、図8(b)において同じである。
【0046】
探触子本体4は、前端に設けられた被覆層41と、後端側に設けられた信号処理回路部42と、被覆層41と信号処理回路部42との間に配設されたバッキング材層43とを備えている。
【0047】
被覆層41は、診断に際して、例えば被検体としての生体と当接し、その当接に際し不快感を与えることがないものであって、人体との音響整合をとるために音響インピーダンスが人体に近いシリコーンゴム等から形成されている。
【0048】
バッキング材層43は、超音波送受信部5に発生する不要振動を減衰する等の役割を果たす。
【0049】
信号処理回路部42は、ケーブル3を介して超音波診断装置Sと接続されているとともに、超音波送信用のパルス信号の生成、或いは、受信パルス信号の処理などを行なう。
【0050】
詳しくは、制御部16の制御に従って、上記送信部12から送られてくる電気信号の送信信号を供給して超音波送受信部5に第1超音波信号を発生させる。例えば、高電圧のパルスを生成する高圧パルス発生器等を備えて構成される。この信号処理回路部42で生成された駆動信号は、後述の複数のメンブレン6(図5参照)それぞれに対し適宜に遅延時間を個別に設定した、パルス状の複数の信号であり、メンブレン6のそれぞれに供給される。この複数の駆動信号によっては、各メンブレン6から放射された超音波の位相が特定方向(特定方位)(あるいは、特定の送信フォーカス点)において一致し、その特定方向にメインビームを形成した送信ビームの第1超音波信号を発生する。
【0051】
又、信号処理回路部42は、制御部16の制御に従って、超音波送受信部5から電気信号の受信信号を受信し処理する。そして、送信時の送信ビームの形成と同様に、受信時もいわゆる整相加算することによって受信ビームが形成されてよい。すなわち、メンブレン6それぞれから出力される複数の出力信号に対し適宜に遅延時間を個別に設定し、これら遅延された複数の出力信号を加算することによって、各出力信号の位相が特定方向(特定方位、あるいは、特定の受信フォーカス点)において一致し、その特定方向にメインビームが形成される。このような場合において、例えば、前記増幅器で増幅された各出力信号が入力される受信ビームフォーマ等も備えてよい。尚、この信号処理回路部42は、超音波診断装置本体1に設けるようにしてもよく、適宜変更できる。
【0052】
超音波送受信部5は、探触子本体4の被覆層41とバッキング材層43との間に配設されている。この実施形態の超音波送受信部5は、図4及び図5に示すように複数のメンブレン6と、各メンブレン6に設けられた複数組(この実施形態では2組)の一対のプラス電極(第1電極)63、65及びグランド電極(第2電極)64と、メンブレン6を保持した保持部材8とを備えている。
【0053】
保持部材8は、この実施形態では、シリコン製の板状体から構成されている。この保持部材8には、図4に示すように、左右方向及び上下方向に配列された複数の円形状の貫通孔81が設けられている。各貫通孔81は、図5に示すように保持部材8の前面から後面に貫通するようにして形成されている。
【0054】
各メンブレン6は、各貫通孔81の前方側に、膜部材60の一部により形成されている。詳しくは、膜部材60は、基板(振動板)61と、基板61の前面に積層されその基板61とでユニモルフ構造を採る薄板状の圧電部材62とを備えている。
【0055】
基板61は、この実施形態では、後述のPZTに良好な電位分布を得るために絶縁性の物質、例えば二酸化シリコン(SiO2)或いは窒化シリコン(SiN)から構成され、薄板状(この実施形態では、2μm程度の厚さ)に形成されている。
【0056】
そして、この基板61は、保持部材8の前面の全体に積層されて接着されるようにして保持され貫通孔81夫々を前方側から覆うように配設されている。
【0057】
圧電部材62は、圧電材料から構成されている。この実施形態では、圧電部材62は、PZTから構成されている。尚、圧電部材62は、PZTから構成されるものに限らず、例えば圧電部材を、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、ニオブ酸タンタル酸カリウム(K(Ta,Nb)O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、PZN−PTおよびPMN−PT等から構成することもでき、適宜変更できる。
【0058】
又、この実施形態の圧電部材62は、保持部材8の貫通孔81よりやや大きく、厚さが2μm程度の円板状のものから構成されている。
【0059】
そして、この圧電部材62は、各貫通孔81の前方側における基板61の前面に積層されて接着されるようにして保持されている。
【0060】
このようにして膜部材60が貫通孔81の周縁を含む保持部材8の前面の全体に保持されており、メンブレン6は、その保持された被保持領域60aの径内側の領域(内側領域)にその被保持領域60aで円形状に囲まれるようにして形成されている。即ち、被保持領域60aに区画形成されたメンブレン6の外周60bは、貫通孔81と同形で貫通孔81と同心の円形状をなしている。
【0061】
電極は、この実施形態では、第1組の一対の第1組用プラス電極63及び第1兼第2組用グランド電極64と、第2組の一対の第2組用プラス電極65及び第1兼第2組用グランド電極64とから構成されている。そして、これらの電極63、64、65は、メンブレンにおける圧電部材62を複数(この実施形態では2つ)の領域に分けるように配設されているとともに、それらがそれぞれ給電された場合に、前記複数の領域における互いに隣接する領域に互いに逆方向の応力が発生するように配線されている。以下、詳しく説明する。
【0062】
これらの電極63、64、65は、各メンブレン6の圧電部材62に同一構成で配設されている。従って、以下に、1つのメンブレン6の圧電部材62に配設されたものについて、図5に基いて説明する。尚、この実施形態では、これらの電極63、64、65は、金又は白金等から構成されている。又、第1兼第2組用グランド電極64は、第1組用グランド電極と第2組用グランド電極とを兼用するように構成されている。
【0063】
第1組用プラス電極63は、圧電部材62の前面における外周部、即ち被保持領域60aにおける貫通孔81の周縁の前方側に、ほぼ全周に亘って、平面視で略リング状をなすように配設されている。一方、第2組用プラス電極65は、圧電部材62の前面おける中心部に、平面視で円形状をなすように配設されている。
【0064】
又、第1兼第2組用グランド電極64は、圧電部材62の径方向における第1組用プラス電極本体部63aと第2組用プラス電極本体部65aとの間にほぼ全周に亘って、平面視で略リング状をなすようにして第1組用プラス電極本体部63aと第2組用プラス電極本体部65aとの夫々に隣接するように配設されている。
【0065】
この実施形態では、第1兼第2組用グランド電極64は、圧電部材62におけるメンブレン6の撓み変形に伴う応力が生じない領域7、即ち、メンブレン6の撓み変形に際して撓み変形した圧電部材62の断面形状における撓み曲線の変曲点を全周に亘って結んで形成される変曲部に配設されている。
【0066】
尚、第1兼第2組用グランド電極64は、全体が上記領域7に配設される形態のものに限らず、例えば第1兼第2組用グランド電極64の一部又は全体が上記領域7の近傍に配設されてもよく、適宜変更できる。又、この実施形態では、上記領域7は、シミュレーションによって決定され、それに基いて第1兼第2組用グランド電極64が配設されている。
【0067】
又、これらの第1組用プラス電極63、第2組用プラス電極65及び第1兼第2組用グランド電極64は、上記メンブレン6の外周60bと同心で相似形状に配設されている。
【0068】
このようにして、メンブレン6における圧電部材62は、第1組用プラス電極63と第2組用プラス電極65と第1兼第2組用グランド電極64とによって、径方向に、被保持領域60a側(径外側)の第1領域68と、第1領域68より内周側(径内側)の中心部を含む第2領域69との2つ(複数)の領域に分けられている。
【0069】
又、第1組用プラス電極63と第2組用プラス電極65とは、それらの夫々に接続されたプラス電極接続配線66を介して通電可能に共通接続されている。
【0070】
又、この実施形態では、上述のように形成された複数のメンブレン6は、図4に示すように、4つのメンブレン6を1素子66(図4の二点鎖線で囲んだ4つ)として共通接続されて同調して動作するように構成され、複数の素子66が左右上下に2次元的に配列されている。
【0071】
より詳しくは、第1兼第2組用グランド電極64は、4つのメンブレン6ごとに配設されたもの同士が図5(a)に示すグランド電極接続配線67を介して互いに通電可能に接続されている。
【0072】
又、第1組用プラス電極63及び第2組用プラス電極65は、4つのメンブレン6ごとに配設されたもの同士が上記プラス電極接続配線66を介して互いに通電可能に接続されているとともに、その4つのメンブレン6からなる1素子66夫々から延設された素子接続配線(図示せず)によって複数の素子66同士が接続されている。
【0073】
そして、このように配設された電極63、64、65がそれぞれ給電されると、第1領域68と第2領域69とに逆方向の応力を圧電部材に生じさせる。
【0074】
このように構成される超音波送受信部5は、この実施形態では、次のようにして形成されている。
【0075】
保持部材8の前面に、基板61が、熱酸化やスパッタ、CVDなどの方法で形成される。
【0076】
そして、基板61の前面に、圧電部材62を構成する圧電材料が、スパッタやゾルゲルなどの方法により積層される。尚、圧電部材62を構成した圧電材料であるPZTの特性(膜質)を向上するためにPZTの下層に酸化物などのシード層を形成する方法も取り得る。
【0077】
又、第1組用プラス電極63、第2組用プラス電極65及び第1兼第2組用グランド電極64が、エッチングやリフトオフなどによりフォトリソグラフィを用いてパターニングされるとともに、圧電材料がエッチングによりフォトリソグラフィを用いてパターニングされて圧電部材62が形成される。又、保持部材8の貫通孔81がエッチングにより加工され、これにより、貫通孔81の前方側にメンブレン6が形成される。
【0078】
また、プラス電極接続配線66を形成して第1組用プラス電極63と第2組用プラス電極65とを共通接続する。ただし、この実施形態では、プラス電極接続配線66の形成に先立って、外周側の第1組用プラス電極63と中心側の第2組用プラス電極65との間に、数V/um以上の電界がかかるように電圧を印加して圧電部材62の全体に、電荷方向を中心から径外方向の単一方向Pになるように分極処理を行う。
【0079】
そして、分極処理を行った後、プラス電極接続配線66を、白金や金などで成膜、パターニング、あるいは、ワイヤボンディングなどで形成し、第1組用プラス電極63と第2組用プラス電極65とを共通接続する。
【0080】
このようにして、圧電部材62の分極処理を行えば、共通接続する前の第1組用プラス電極63と第2組用プラス電極65とを用いて圧電部材62の分極処理を行うことができ、分極処理を容易に行うことができる。
【0081】
以上のように構成された超音波探触子を有する超音波診断装置Sで診断する場合、例えば、操作入力部11から診断開始の指示が入力されると、制御部16の制御に従い、信号処理回路部42で超音波送信用のパルス信号が生成される。
【0082】
この生成されたパルス信号は、超音波送受信部5の複数(4つ)のメンブレン6の素子66ごとに所定の遅延時間でパルス電圧を、第1組用プラス電極63と第1兼第2組用グランド電極64との間、及び第2組用プラス電極65と第1兼第2組用グランド電極64との間に印加して、圧電部材62の厚さ方向と垂直方向である径方向に電界を生じさせる。
【0083】
この電界により、各圧電部材62における第1組用プラス電極63と第1兼第2組用グランド電極64との間の第1領域68には径方向に引っ張る応力が生じてその引張応力によって第1領域68の圧電部材62が径方向に伸びるように歪む。又、圧電部材62における第1兼第2組用グランド電極64と第2組用プラス電極65との間の第2領域69には、上記とは反対向きの応力、即ち、径方向に圧縮させる応力が生じてその圧縮応力によって第2領域69の圧電部材62が径方向に縮むように歪む。
【0084】
この各圧電部材62の歪により、各メンブレン6は、厚さ方向である前後方向の前方側に太鼓状に撓み変形する。これにより、各メンブレン6を効率良く大きく変形させることができる。
【0085】
又、この実施形態では、第1兼第2組用グランド電極64は圧電部材62におけるメンブレン6の撓み変形に伴う応力が生じない領域7に配設されているため、領域ごとに、より一層効率良く応力を発生させることができ、各メンブレン6を、より一層、効率良く大きく変形させることができる。
【0086】
そして、メンブレン6が撓み変形し、その共振特性(共振周波数と減衰特性)に応じた振動が加振され、パルス状の超音波が生体内へ発信される。アレイの各素子66の位相を所定量ずらすことで、超音波ビームをフォーカシング、ステアリング(方向制御)し、必要領域を3次元状に走査する。生体内では、超音波は減衰しながら伝わり、音響インピーダンスの差が生じている部位で反射が起こり、超音波探触子2へ帰還する。
【0087】
戻った超音波により各メンブレン6は振動し、それに伴う圧電部材62の歪みに応じて電荷が発生するが、この場合においてもメンブレン6の圧電部材62の第1領域68と第2領域69では逆方向の歪が発生する。そのため、例えば図8に示す従来のもののように中心部と外周部とに一対の電極を配設している場合において、それらの電極には、引っ張り歪に伴い発生する電荷と圧縮歪に伴い発生する電荷とが打ち消し合うようにして電荷が発生する。
【0088】
しかし、この実施形態では、第1兼第2組用グランド電極64は圧電部材62におけるメンブレン6の撓み変形に伴う応力が生じない領域7に配設されているため、第1領域68と第2領域69との夫々の歪みによる電荷を第1兼第2組用グランド電極64に効率良く発生させることができ、超音波を効率良く正確に測定できる。
【0089】
そして、信号処理回路部42で処理され、画像処理部14へ出力され、画像処理部14は、制御部16の制御によって、受信された受信信号に基いて、送信から受信までの時間により被検体までの距離が、素子間の時間差により被検体の方向が、夫々検出され、被検体の超音波画像を生成する。さらに、画像処理部14では、フィルタ法によって受信信号から高調波成分が抽出され、この抽出された高調波成分に基いてハーモニックイメージング技術を用いて被検体内部の内部状態の超音波画像が生成される。また例えば、画像処理部14では、位相反転法(パルスインバージョン法)によって受信信号から高調波成分が抽出され、この抽出された高調波成分に基いてハーモニックイメージング技術を用いて被検体内部の内部状態の超音波画像が生成される。そして、表示部15は、制御部16の制御によって、画像処理部14で生成された被検体の超音波画像を表示する。
【0090】
次に、第2実施形態の超音波探触子について、図6に基いて説明する。この第2実施形態の超音波探触子における超音波送受信部205も、先の第1実施形態のものと同様に、複数のメンブレン206(図6では1つだけを表示している)と、各メンブレン206の圧電部材262に設けられた複数組(この第2実施形態では2組)の一対のプラス電極(第1電極)263、265及びグランド電極(第2電極)264と、メンブレン206を保持した保持部材208とを備えている。
【0091】
ただし、この第2実施形態における保持部材208の貫通孔281は、平面視で四角形状に形成されている。
【0092】
又、基板261と圧電部材262とからなる膜部材260における当該基板261は、保持部材208における貫通孔281の周縁を含む前面の全体に取り付けられており、メンブレン206の外周側に全周に亘って被保持領域260aが配設され、メンブレン206は被保持領域260aに四角形状に囲まれ被保持領域260aの内周側(内側領域)に四角形状に形成されている。従って、この実施形態では、被保持領域260aに区画形成されたメンブレン206の外周260bは、貫通孔281に一致した四角形状に形成されている。
【0093】
圧電部材262は、貫通孔281よりやや大きい四角形状のものから構成され、貫通孔281の前方側における基板261の前面に積層されるようにして保持されている。
【0094】
第1組用プラス電極263は、圧電部材262の前面における外周縁のほぼ全周に亘って、平面視で四角形状をなすように配設されている。一方、第2組用プラス電極265は、圧電部材262の前面おける中心部に、平面視で四角形状をなすように配設されている。
【0095】
又、第1兼第2組用グランド電極264は、圧電部材262における第1組用プラス電極263と第2組用プラス電極265との間にほぼ全周に亘って、平面視で四角形状をなすようにして配設されている。
【0096】
尚、この第2実施形態においても、第1兼第2組用グランド電極264は、圧電部材262におけるメンブレン206の撓み変形に伴う応力が生じない領域に配設されている。
【0097】
又、これらの第1組用プラス電極263、第2組用プラス電極265及び第1兼第2組用グランド電極264は、上記メンブレン206の外周260bと同心で相似形状になるように配設されている。その他は、先の第1実施形態のものと同構成を採っている。
【0098】
そして、第1組用プラス電極263と第2組用プラス電極265とは、プラス電極接続配線266を介して共通接続されるが、この第2実施形態においても、そのプラス電極接続配線266に形成に先立って(共通接続に先立って)、第1組用プラス電極263と第2組用プラス電極265との間に、数V/um以上の電界がかかるように電圧を印加して圧電部材262の全体に、電荷方向が中心から放射状に外周方向の単一方向Pに分極処理を行う。
【0099】
このように構成された第2実施形態のものにおいても、第1組用プラス電極263と第1兼第2組用グランド電極264との間、及び第2組用プラス電極265と第1兼第2組用グランド電極264との間に電圧が印加されると、圧電部材262の厚さ方向と垂直な方向に電界を生じさせる。
【0100】
この電界により、各圧電部材262における第1組用プラス電極263と第1兼第2組用グランド電極264との間の第1領域268に厚さ方向と垂直な方向に引張応力が生じてその引張応力によって第1領域268の圧電部材262が伸びるように歪む。一方、圧電部材262の第2組用プラス電極265と第1兼第2組用グランド電極264との間の第2領域269は、上記とは反対向きの応力、即ち、厚さ方向と垂直な方向に圧縮応力が生じてその圧縮応力によって第2領域269の圧電部材262が縮むように歪む。
【0101】
この各圧電部材262の歪により、各メンブレン206は、厚さ方向である前後方向の前方側に撓み変形する。これにより、各メンブレン206を効率良く大きく変形させることができる。
【0102】
又、第1兼第2組用グランド電極264は圧電部材262におけるメンブレン206の撓み変形に伴う応力が生じない領域に配設されているため、領域ごとに適正な応力を発生することができ、各メンブレン206を、より一層、効率良く大きく変形させることができる。
【0103】
体内から戻った超音波により各メンブレン206が振動した際、第1兼第2組用グランド電極264は圧電部材262におけるメンブレン206の撓み変形に伴う応力が生じない領域に配設されているため、第1領域268と第2領域269との夫々の歪みによる電荷を第1兼第2組用グランド電極264に効率良く発生させて取り出すことができ、超音波を効率良く正確に測定できる。
【0104】
次に、第3実施形態の超音波探触子について、図7に基いて説明する。この第3実施形態の超音波探触子における超音波送受信部305も、先の第1実施形態のものと同様に、複数のメンブレン306(図7では1つだけを表示している)と、各メンブレン306の圧電部材362に設けられた複数組(この第3実施形態では2組)の一対のプラス電極(第1電極)363、365及びグランド電極(第2電極)364a、364bと、メンブレン306を保持した保持部材308とを備えている。
【0105】
この第3実施形態における保持部材308の貫通孔381は、平面視で四角形状に形成されている。
【0106】
又、基板361と圧電部材362とからなる膜部材360における当該基板361は、保持部材308における貫通孔381の長手方向である左右方向(一方向)の両端縁を含む前面の全体に接合されて保持されているとともに、貫通孔381の幅方向である上下方向(他方向)の両端縁夫々に沿って設けられたスリット状の切り込み361により切り離されて開放されている。
【0107】
圧電部材362は、貫通孔381よりも幅狭で左右の長さが貫通孔381よりやや長い四角形状のものから構成され、貫通孔381の前方側における基板361の前面に積層されて接着されるようにして保持されている。
【0108】
従って、この第3実施形態では、メンブレン306の左右の両端側の夫々に、被保持領域360が配設されており、メンブレン306の左端側外周360c及び右端側外周360dは、夫々直線状に互いに平行に形成され、メンブレン306の外周が貫通孔381よりもやや幅狭な平面視で長方形状(四角形状)になっている。
【0109】
電極は、この第3実施形態では、第1組の一対の第1組用プラス電極363及び第1組用グランド電極364aと、第2組の一対の第2組用プラス電極365及び第2組用グランド電極364bとから構成されている。
【0110】
第1組用プラス電極363は、圧電部材362の前面における左端縁部のほぼ幅全体に、所定幅で、上記メンブレン306の左端側外周360cと平行に直線状に配設されている。第1組用グランド電極364aは、圧電部材362の前面における左右方向の中心線よりも左側寄りの位置に、所定幅で第1組用プラス電極363(メンブレン306の左端側外周360c)と平行に直線状に配設されている。
【0111】
第2組用プラス電極365は、圧電部材362の前面における左右方向の中心線よりも右側寄りの位置に、所定幅で、メンブレン306の右端側外周360dと平行に直線状に配設されている。第2組用グランド電極364bは、圧電部材362の前面における右端縁部のほぼ幅全体に、所定幅で、上記メンブレン306の右端側外周360d(第2組用プラス電極365)と平行に直線状に配設されている。
【0112】
従って、この第3実施形態では、メンブレン306における圧電部材362は、第1組用プラス電極363と第1組用グランド電極364aとの間に第1領域368aが形成され、第2組用プラス電極365と第2組用グランド電極364bとの間に第3領域368bが形成され、又、第1組用グランド電極364aと第2組用プラス電極365との間に、上記第1領域368aと第3領域368bとの夫々に隣接した間に第2領域369が形成されている。
【0113】
尚、この第3実施形態においても、第1組用グランド電極364aと第2組用プラス電極365とは、圧電部材362におけるメンブレン306の撓み変形に伴う応力が生じない領域307に配設されている。
【0114】
そして、第1組用プラス電極363と第2組用プラス電極365とがプラス電極接続配線366を介して、第1組用グランド電極364aと第2組用グランド電極364bとが、グランド電極接続配線367を介して、夫々共通接続されるが、それらの接続配線366、367の形成に先立って(共通接続に先立って)、上記電極の内で互い距離が最大である第1組用プラス電極363と第2組用グランド電極364bとの間に、数V/um以上の電界がかかるように電圧を印加して圧電部材362の全体に、電荷の方向が右から左に単一方向Pになるように分極処理を行う。その他は、先の第1実施形態のものと同構成を採っている。
【0115】
このように構成された第3実施形態においては、第1組用プラス電極363と第1組用グランド電極364aとの間、第2組用プラス電極265と第2組用グランド電極264bとの間、及び第2組用プラス電極265と第1組用グランド電極364aとの間に電圧が印加されると、圧電部材362の厚さ方向と垂直な方向に電界が生じる。
【0116】
この電界により、圧電部材362における第1領域368a及び第3領域368bに厚さ方向と垂直な方向に引張応力が生じてその引張応力によって圧電部材362の第1領域368a及び第3領域368bが伸びるように歪む。一方、圧電部材362の第2領域369は、上記とは反対向きの応力、即ち、厚さ方向と垂直な方向に圧縮応力が生じてその圧縮応力によって第2領域369の圧電部材362が縮むように歪む。
【0117】
この各圧電部材362の歪により、各メンブレン306は、厚さ方向である前後方向の前方側に撓み変形する。そして、領域ごとに、より適正な応力を発生させることができ、これにより、各メンブレン306を効率良く大きく変形させることができる。
【0118】
又、第1組用グランド電極364aと第2組用プラス電極365とは、圧電部材362におけるメンブレン306の撓み変形に伴う応力が生じない領域307に配設されているため、最適な応力分布が得られ、各メンブレン306を、より一層、効率良く大きく変形させることができる。
【0119】
又、例えば体内から戻った超音波により各メンブレン306が振動した際、第1領域368aと第2領域369と第3領域368bの夫々の歪みによる電荷を第1組用グランド電極364aと第2組用プラス電極365とに効率良く発生させて取り出すことができ、超音波を効率良く正確に測定できる。
【0120】
電極を、圧電部材(メンブラン)の左右方向の両端部に配設することで、上述のように圧電部材を含むメンブレンが4つで1つの素子(図5の二点鎖線で囲んだ部分)を構成する場合、1つの素子中におけるメンブレンの配設効率を高くでき、メンブレンの有効面積を大きくでき、超音波の送受信の特性を向上できる。又、プラス電極とグランド電極とを両側から容易に引き出せることができ、ロスの少ない構造にできる。
【0121】
尚、上記実施形態では、一対の電極が2組、配設されたが、この形態のものに限らず、適宜変更できる。例えばメンブレンが断面形状における撓み曲線がn次曲線(nは3以上)を描くように撓み変形する場合に、一対の電極を3組以上、圧電部材に配設するようにしてもよい。又、その場合において、電極を複数の変曲部夫々に配設するのが好ましい。
【0122】
又、上記実施形態では、本発明の圧電デバイスは、超音波探触子の超音波送受信部として使用されたが、超音波探触子に用いられる形態のものに限らず、例えばインクジェットプリンタのインク吐出ヘッドのインク吐出用アクチュエータやマイクなどのセンサにも使用することもでき、適宜変更できる。
【符号の説明】
【0123】
1 超音波診断装置本体
2 超音波探触子
5、205、305 超音波送受信部(圧電デバイス)
6、206、306 メンブレン
61、261、361 基板
62、262、362 圧電部材
63、65、263、265、363、365 プラス電極(第1電極)
64,264、364a、364b グランド電極(第2電極)
S 超音波診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電部材を積層した膜部材と、前記膜部材を保持する保持部材と、前記圧電部材に電圧を印加する一対の第1および第2電極とを備え、前記一対の第1および第2電極に給電することによって前記圧電部材に電圧を印加した場合に厚さ方向に撓み変形するように形成された前記膜部材の一部からなるメンブレンを有する圧電デバイスであって、
前記一対の第1および第2電極は、複数組であり、
前記複数組の前記一対の第1および第2電極は、前記メンブレンにおける前記圧電部材を複数の領域に分けるように配設されるとともに、前記複数組の一対の第1および第2電極にそれぞれ給電された場合に、前記複数の領域における互いに隣接する領域に互いに逆方向の応力が発生するように配線されていること
を特徴とする圧電デバイス。
【請求項2】
前記複数組の一対の第1及び第2電極は、前記圧電部材における厚さ方向と略垂直な方向に沿って配設されていることを特徴とする請求項1記載の圧電デバイス。
【請求項3】
前記複数組の一対の第1及び第2電極の一部は、前記圧電部材における前記メンブレンの撓み変形に伴う応力が生じない領域を含んで配設されていることを特徴とする請求項1又は2記載の圧電デバイス。
【請求項4】
前記メンブレンは、略円形状又は略四角形状の外周形状を有するものから構成され、
前記被保持領域は、前記メンブレンの外周側に略全周にわたって配設され、
前記複数組の一対の第1及び第2電極は、前記メンブレンの外周と略同心相似形状に配設されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項5】
前記メンブレンは、略四角形状の外周形状を有するものから構成され、
前記被保持領域は、前記メンブレンの一方向の両端側の夫々に配設され、
前記複数組の一対の第1及び第2電極は、前記メンブレンの一方向の両端側の夫々に略平行に並べられるように配設されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の圧電デバイス。
【請求項6】
前記複数組の第1電極同士が共通接続され、前記複数組の第2電極同士が共通接続されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に圧電デバイス。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の圧電デバイスを備えていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項8】
圧電部材を積層した膜部材と、前記膜部材を保持する保持部材と、前記圧電部材に電圧を印加する一対の第1および第2電極とを備え、前記一対の第1および第2電極に給電することによって前記圧電部材に電圧を印加した場合に厚さ方向に撓み変形するように形成された前記膜部材の一部からなるメンブレンを有する圧電デバイスの製造方法であって、
前記一対の第1および第2電極を、複数組、前記メンブレンを複数の領域に分けるように配設するとともに、前記複数組の一対の第1および第2電極にそれぞれ給電された場合に、前記複数の領域における互いに隣接する領域に互いに逆方向の応力を前記圧電部材によって発生するように配線することを特徴とする圧電デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記圧電部材に、一対の第1及び第2電極を、複数組、配設し、
前記複数組の一対の第1及び第2電極の内で互いの距離が最大となる2つの電極に電圧を印加して前記圧電部材を分極処理し、
その後、前記第1電極同士を共通接続するとともに、前記第2電極同士を共通接続することを特徴とする請求項8記載の圧電デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−98724(P2013−98724A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239253(P2011−239253)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】