説明

圧電デバイスの製造方法

【課題】挿入損失の増大や初期特性の劣化をさせることなく、周波数を精緻に調整することが可能な圧電デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】パッケージ20へのSAW共振子10実装工程(ステップS1)の後で、SAW共振子10を駆動させて初期周波数を計測する初期周波数計測工程(ステップS2)と、初期周波数が所望の周波数規格値の許容範囲から外れている場合(ステップS3でNO)に、SAW共振子10の実装工程(ステップS1)で接続されたSAW共振子10の外部接続電極とパッケージ20の接続端子との接続と並列に調整用ワイヤを接続することによってSAW共振子20の周波数を初期周波数から変動させる調整用ワイヤ接続工程(ステップS4)と、調整用ワイヤ接続工程(ステップS4)の後で、SAW共振子20の周波数を計測する調整後周波数計測工程(ステップS5)と、を含むことを特徴とするSAWデバイス1の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子機器において所定の周波数を発生させる発振源としての圧電振動片を備えた圧電デバイスが広く使用されている。例えば、携帯電話やテレビ受像機などの電子部品や通信部品において、共振子や帯域フィルタなどとして、圧電基板の表面に形成したIDT(Interdigital Transducer)電極により圧電体表面に弾性表面波を励振させたり、弾性表面波を検出したりするように構成された弾性表面波素子片(以下「SAW(Surface Acoustic Wave)素子片」という)を使用した弾性表面波デバイス(以下「SAWデバイス」という)が使用されている。SAW素子片は、水晶やニオブ酸リチウムあるいはタンタル酸リチウムなどの圧電材料からなる圧電基板上に、IDT電極と外部接続電極とが少なくとも設けられた素子片として形成され、外部接続電極を介してIDT電極に高周波を印加することにより、該素子片の表面に沿って表面波が伝播するものである。
【0003】
通常、SAW素子片の製造に際しては、量産性を高めるために、まずマザーの圧電基板ウェハを用意し、該圧電基板ウェハをダイシングすることによって個片のSAW素子片を得る方法がとられる。すなわち、圧電基板ウェハ上にアルミニウム(Al)またはアルミニウムの合金などの金属からなるIDT電極などの電極パターンを規則的に複数配列させて形成し、この圧電基板ウェハを切断することによって複数の個片のSAW素子片を得るものである。このような製造方法により得られた各個片のSAW素子片は、電極パターンなどの製造ばらつきによって生じる幅や厚みなどの差による周波数のばらつきがあるので、周波数規格値の許容範囲内に調整するための周波数調整を行う場合がある。SAW素子片をパッケージに接続するSAW素子片実装工程の後で、SAW素子片を駆動させた状態で周波数調整を行う方法が、例えば特許文献1に紹介されている。
【0004】
特許文献1のSAWデバイス(表面波装置)の周波数調整方法は、SAW素子片(表面波素子)をパッケージに接合してワイヤボンディングなどにより接続するSAW素子片実装工程の後で、SAW素子片のIDT電極および水晶などからなる圧電基板の表面をエッチングすることによって行われる。IDT電極および圧電基板のエッチングは、イオンスパッタ加工装置のチャンバ内のステージ上にSAW素子片が実装されたパッケージを載置し、Ar(アルゴン)などのエッチングガスにより生成されるイオンビームをSAW素子片の表面に衝突させることによって行われる。圧電基板がエッチングされることにより変動する周波数よりも、IDT電極がエッチングされることにより変動する周波数の方が大きいため、結果として周波数は上がる方向に調整される。
【0005】
上記のイオンビームによるエッチングの他に、SAW素子片の微細なエッチング加工が可能なエッチング方法として、RIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)やプラズマエッチングなどが挙げられる。RIEまたはプラズマエッチングは、いずれも所定の真空度に調整されたチャンバ内で、CF4やCl2などのハロゲン元素含有ガス、あるいはArなどの不活性ガスを反応性ガスとして用いて、この反応性ガスをイオン化し、イオン化された粒子をSAW素子片のIDT電極および圧電基板の表面に衝突させることによりエッチングを行うものである。RIEやプラズマエッチングを用いた周波数調整方法においては、IDT電極が水晶などの圧電基板に比してエッチングされ難いので、実質的にIDT電極をエッチングマスクとして圧電基板をエッチングすることと近似の状態になる。なお、SAW素子片においては、圧電基板表面がエッチングされると周波数が下がる方向に変動することが知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−315928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のSAWデバイスの周波数調整方法では、圧電基板あるいはIDT電極をエッチングしてSAW素子片自体の形状や質量を小さく変動させることになるので、SAWデバイスの周波数を所望の周波数規格値に合わせ込んだ場合でも、SAWデバイスの温度特性において頂点温度が低めにシフトする特性変動が生じてしまうという問題があった。
また、CF4やCl2などのハロゲン元素含有ガスを用いたプラズマ処理あるいはイオンエッチングにより、圧電基板あるいはIDT電極をエッチングして周波数調整を行う方法では、F(フッ素)やCl(塩素)などのハロゲン元素が残留して酸化剤として作用し、IDT電極などを腐蝕して周波数特性を劣化させる虞があるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
〔適用例1〕本適用例にかかる圧電デバイスの製造方法は、基材上に複数の接続端子を有する基板と、圧電基板上に励振電極および該励振電極に接続された外部接続電極を有する圧電振動片と、を備え、前記接続端子と前記外部接続電極とが接続された圧電デバイスの製造方法であって、前記接続端子と前記外部接続電極とを接続する圧電振動片実装工程の後で、前記圧電振動片を駆動させて初期周波数を計測する初期周波数計測工程と、前記初期周波数が所望の周波数規格値の許容範囲から外れている場合に、前記圧電振動片実装工程で接続された前記外部接続電極と前記接続端子との接続と並列に調整用ワイヤを接続することによって、前記圧電振動片の周波数を前記初期周波数から変動させる調整用ワイヤ接続工程と、前記調整用ワイヤ接続工程の後で、前記圧電振動片の周波数を計測する調整後周波数計測工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
発明者は、基板に実装された状態の圧電振動片において、基板の接続端子と圧電振動片の外部接続電極との接続に対して並列にボンディングワイヤを追加接続することによって、挿入損失をほとんど増大させることなく、圧電振動片の周波数を数十ppmオーダーで小さく変動させることが可能であることを見出した。しかも、圧電基板やIDT電極をエッチングすることなどによる従来の周波数調整方法のように、圧電振動片自体を加工するものではなく、加工に伴う不純物や異物の在留が生じ難いので、温度特性や信頼性の劣化が抑えられる。したがって、上記構成の圧電デバイスの製造方法によれば、ワイヤボンディング法による比較的簡便な方法により、周波数が精緻に調整されて製造歩留りが高く、高信頼性を有する圧電デバイスを提供することができる。
【0011】
〔適用例2〕上記適用例にかかる圧電デバイスの製造方法において、前記調整用ワイヤ接続工程で接続されるボンディングワイヤの長さおよび本数を、前記初期周波数と前記周波数規格値との差に基づいて決定することを特徴とする。
【0012】
この方法によれば、予め、周波数調整用のボンディングワイヤの長さと周波数変動値との関係を把握しておくことにより、初期周波数計測値に基づいて、周波数規格値に調整し得る周波数調整用のボンディングワイヤの接続長さや本数を決定することができるので、効率的に周波数調整を行うことができる。
【0013】
〔適用例3〕上記適用例にかかる圧電デバイスの製造方法において、前記圧電振動片実装工程で、前記圧電振動片と前記基板とをワイヤボンディングにより接続することを特徴とする。
【0014】
この方法によれば、圧電デバイスの製造工程において、工程設備を増設することなく圧電振動片の精緻な周波数調整を行うことができる。
【0015】
〔適用例4〕上記適用例にかかる圧電デバイスの製造方法において、前記基板がパッケージであり、該パッケージ内に接続された前記圧電振動片を前記パッケージ上に蓋体を接合することにより封止する前に、前記調整後周波数計測工程において前記圧電振動片の周波数が前記周波数規格値の許容範囲内であることを確認することを特徴とする。
【0016】
この方法によれば、周波数が精緻に調整され、高信頼性を有する表面実装型の圧電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、圧電デバイスとしてのSAWデバイスの一実施形態について図面を参照して説明する。
(実施形態)
図1は、本実施形態のSAWデバイスに搭載される圧電振動片としてのSAW共振子を説明するものであり、(a)は平面図、(b)は、(a)のA−A線断面図である。また、図2は、本実施形態のSAWデバイスを説明するものであり、(a)は平面図、(b)は、(a)のB−B線断面図である。なお、(a)において、SAWデバイスの上部に配置される蓋体としてのリッドは、SAWデバイスの内部の構成を説明する便宜上図示を省略する。
【0018】
本実施形態のSAWデバイス1は、図2に示すように、基板としてのパッケージ20と、該パッケージ20の凹部の凹底部分に接合されたSAW共振子10と、を有し、パッケージ20上にリッド29が接合されることにより、SAW共振子10がパッケージ20内に気密に封止されている。
【0019】
〔SAW共振子〕
まず、SAWデバイス1に備わるSAW共振子10について説明する。
図1に示すように、SAW共振子10は、水晶などの圧電材料からなる矩形状の圧電基板11上に、二つの励振電極としてのIDT電極12A,12Bと、反射器13と、IDT電極12Aに接続された一対の外部接続電極18Aa,18AbおよびIDT電極12Bに接続された一対の外部接続電極18Ba,18Bbと、が設けられている。圧電基板11は表裏に主面14,15を有し、一方の主面14の同一面上に、IDT電極12A,12B、反射器13、および外部接続電極18Aa,18Ab,18Ba,18Bbが形成されている。
【0020】
IDT電極12A,12Bは、SAW共振子10の略中央に並べて設けられている。
IDT電極12Aは二つの櫛型の交差指電極を有し、一方の交差指電極のバスバーに連結された複数の電極指12Aaと、他方の交差指電極のバスバーに連結された複数の電極指12Abとが、向かい合って互いに接触しないように配置されて形成されている。同様に、IDT電極12Bは、一方の交差指電極のバスバーに連結された複数の電極指12Baと、他方の交差指電極のバスバーに連結された複数の電極指12Bbとが、向かい合って互いに接触しないように配置されて形成されている。
IDT電極12A,12Bは、本実施形態ではアルミニウム(Al)で形成され、IDT電極12A,12Bそれぞれの二つの交差指電極の電極指12Aaと電極指12Ab、電極指12Baと電極指12Bbの各々に逆相の電圧が印加されることで弾性表面波を励振できるように構成されている。
【0021】
SAW共振子10の各コーナー部寄りの端部近傍には、IDT電極12A,12Bとパッケージ20との接続に供する外部接続電極18Aa,18Ab,18Ba,18Bbが配設されている。本実施形態では、IDT電極12Aの一方の電極指12Aaを連結するバスバーからは電極間配線が引き出され、SAW共振子10の一方の端部近傍に設けられた外部接続電極18Aaに接続されている。また、IDT電極12Aの他方の電極指12Abを連結するバスバーから引き出された電極間配線は、SAW共振子10の他方の端部近傍に設けられた外部接続電極18Abに接続されている。同様に、IDT電極12Bの一方の電極指12Baを連結するバスバーから引き出された電極間配線が、SAW共振子10の端部近傍に設けられた外部接続電極18Baに接続されている。また、IDT電極12Bの他方の電極指12Bbを連結するバスバーから引き出された電極間配線は、SAW共振子10の端部近傍に設けられた外部接続電極18Bbに接続されている。
【0022】
反射器13は、並べて設けられているIDT電極12A,12Bを挟んだ両側に配置されて設けられている。そして、IDT電極12A,12Bから伝搬された弾性表面波を反射器13で反射させて、圧電基板11の中央部にエネルギーを封じ込める役目を果たしている。なお、本実施形態では反射器13もIDT電極12A,12Bと同様にアルミニウムで形成されている。
【0023】
図1(b)に示すように、IDT電極12Aにおける電極指12Aaと電極指12Ab間、およびIDT電極12Bにおける電極指12Ba,12Bb間の距離はなど間隔ピッチPにて形成され、励振される弾性表面波の波長λはλ=2Pの関係になる。また、IDT電極12A,12Bは厚みHにて形成されている。また、圧電基板11の厚みtは弾性表面波の4波長(4λ)以上の厚みに設定されている。
【0024】
〔SAWデバイス〕
次に、SAWデバイス1の構成について詳細に説明する。
図2に示すように、パッケージ20は、セラミックス絶縁材料などからなる略矩形の平板状の第1層基板21、略矩形フレーム状の第2層基板22、第3層基板23およびシールリング28が、この順に積層されて形成されている。略矩形フレーム状の第2層基板22と第3層基板23の開口部は、下方の第2層基板22の方が小さく形成されているので、パッケージ20には、段差を有する凹部が形成されている。なお、パッケージ20の外底部分となる第1層基板21の底面には、図示しない一対の実装端子が設けられている。
また、パッケージ20の凹部の第2層基板22が形成する段差の棚部には、図2(a)に示すように、SAW共振子10との接続に供する複数の接続端子25A,25B,26A,26Bが設けられている。本実施形態では、接続端子25A,25Bが入力用または出力用の接続端子となっていて、接続端子26A,26Bがグランド用の接続端子となっている。接続端子25A,25Bは、第2層基板22および第1層基板21に形成された図示しない配線パターンまたはスルーホールなどの層内配線パターンにより、対応する実装端子にそれぞれ接続されている。また、グランド用の接続端子26A,26Bは、図示しない配線パターンまたはスルーホールなどの層内配線パターンにより、パッケージ20に設けられた図示しないグランド端子に接続されている。これらの接続端子25A,25B,26A,26B、および実装端子やグランド端子、およびそれらを接続する層内配線パターンを含む配線パターンは、一般に、タングステン(W)、モリブデン(Mo)などの金属配線材料をセラミックス絶縁材料上にスクリーン印刷して焼成し、その上にニッケル(Ni)、金(Au)などのめっきを施すことにより形成される。
【0025】
パッケージ20の凹部の凹底部分である第1層基板21上には、熱硬化型あるいは紫外線硬化型の接着剤99によりSAW共振子10が接着・固定されている。SAW共振子10のIDT電極12Aから引き出された外部接続電極18Aa,18Ab、およびIDT電極12Bから引き出された外部接続電極18Ba,18Bbと、パッケージ20の対応する接続端子25A,25B,26A,26Bとは、ボンディングワイヤ30Aa,30Ab,30Ba,30Bbによりそれぞれ接続されている。本実施形態では、IDT電極12Aの一方の電極指12Aaから引き出された外部接続電極18Aaが入力または出力用の接続端子25Aとボンディングワイヤ30Aaにより接続され、他方の電極指12Abから引き出された外部接続電極18Abがグランド用の接続端子26Aとボンディングワイヤ30Abにより接続されている。また、IDT電極12Bの一方の電極指12Baから引き出された外部接続電極18Baがグランド用の接続端子26Bとボンディングワイヤ30Baにより接続され、他方の電極指12Bbから引き出された外部接続電極18Bbと入力または出力用の接続端子25Bとがボンディングワイヤ30Bbにより接続されている。
【0026】
以上述べたボンディングワイヤ30Aa,30Ab,30Ba,30Bbによる接続により、SAW共振子10とパッケージ20との初期接続状態が確保され、SAW共振子10が駆動可能な状態になるが、さらに、SAWデバイス1のSAW共振子10とパッケージ20とには、調整用ワイヤ40A,40Bが接続されている。本実施形態のSAWデバイス1では、IDT電極12Aの電極指12Abから引き出された外部接続電極18Abとグランド用の接続端子26Aとを接続するボンディングワイヤ30Abと並列に調整用ワイヤ40Aが接続され、IDT電極12Bの電極指12Baから引き出された外部接続電極18Baとグランド用の接続端子26Bとを接続するボンディングワイヤ30Baと並列に調整用ワイヤ40Bが接続されている。調整用ワイヤ40A,40Bは、上記したボンディングワイヤ30Aa,30Ab,30Ba,30BbによるSAWデバイス1の初期接続状態におけるSAW共振子10の初期周波数の測定値に基づいて、SAWデバイス1の周波数規格値の許容範囲に調整するために接続されたものである。したがって、SAWデバイス1に接続される調整用ワイヤの長さ、本数、接続位置などの態様は、本実施形態の調整用ワイヤ40A,40Bに限らず、前記初期周波数によって変動し、調整用ワイヤを必要としない場合もある。
なお、調整用ワイヤ40A,40Bは、ボンディングワイヤ30Aa,30Ab,30Ba,30Bbと同一のボンディングワイヤを同一のワイヤボンディング装置によりボンディングすることによって設けることができる。ボンディングワイヤの材質は、金(Au)やアルミニウム(Al)などの周知のボンディングワイヤを用いることができる。例えば、低ループにてボンディングすることが可能なアルミニウムワイヤによるウェッジボンディングによれば、SAWデバイス1の低背化に有利となるので好ましい。
【0027】
パッケージ20の上側には、例えば金属製のリッド29が、鉄−ニッケル(Fe−Ni)合金などをフレーム状に型抜きして形成されたシールリング28を介してシーム溶接され、パッケージ20内部に接合されたSAW共振子10が気密に封止されている。
【0028】
〔SAWデバイスの製造方法〕
次に、上記したSAWデバイス1の製造方法について、特に、周波数調整方法を中心に説明する。図3は、SAWデバイスの製造工程を説明するフローチャートである。なお、以下のSAWデバイス1の製造方法の説明において、各部の構成については図2を参照されたい。
【0029】
ステップS1において、パッケージ20にSAW共振子10を実装する工程では、まず、パッケージ20の凹部の凹低部分である第1層基板21上のSAW共振子10接合領域に、熱硬化性または紫外線硬化性の接着剤99をディスペンサなどにより所定量塗布し、SAW共振子10を位置決めして仮固定する。次に、接着剤99の硬化方法に従って加熱または紫外線を照射することにより接着剤99を硬化させ、SAW共振子10を接着・固化させる。次に、ワイヤボンディングにより、上記した初期接続状態になるようにSAW共振子10とパッケージ20とをボンディングワイヤによって接続する。上記のとおり、本実施形態では、SAW共振子10のIDT電極12Aから引き出された外部接続電極18Aa,18Ab、およびIDT電極12Bから引き出された外部接続電極18Ba,18Bbと、パッケージ20の対応する接続端子25A,25B,26A,26Bとを、ボンディングワイヤ30Aa,30Ab,30Ba,30Bbによりそれぞれ接続する。
【0030】
次に、ステップS2において、上記ステップS1で説明したようにパッケージ20に実装された初期接続状態のSAW共振子10を駆動させて周波数を測定する初期周波数計測を行い、SAW共振子10の初期周波数が所望の周波数規格値の許容範囲内にあるか否かを確認する(ステップS3)。初期周波数が周波数規格値の許容範囲内にあった場合(ステップS3でYES)には、周波数調整する必要がないのでステップS7に進む。
【0031】
初期周波数が規格値の許容範囲から外れていた場合(ステップS3でNO)は、ステップS4に示す調整用ワイヤ接続を行ってSAW共振子10の周波数を規格値の許容範囲内に調整する。上記のように、本実施形態では、IDT電極12Aの電極指12Abから引き出された外部接続電極18Abとグランド用の接続端子26Aとを接続するボンディングワイヤ30Abと並列に調整用ワイヤ40Aが接続され、IDT電極12Bの電極指12Baから引き出された外部接続電極18Baとグランド用の接続端子26Bとを接続するボンディングワイヤ30Baと並列に調整用ワイヤ40Bが接続されている。
【0032】
調整用ワイヤ接続で接続される調整用ワイヤの長さ、本数などは、初期周波数計測値と周波数規格値(許容範囲)との差に基づいて決定する。例えば、初期接続状態のSAWデバイス1において、調整用ワイヤの長さおよび本数により変動する周波数を予め確認しておくことにより、初期周波数計測値と周波数規格値との差を調整し得る調整用ワイヤの長さ、本数を予測して決定することができる。なお、調整用ワイヤのワイヤ長さに応じた接続位置の決定においては、ボンディング後に加わる衝撃や温度変化などの外部要因によるワイヤの収縮などにより、ワイヤ接合部に応力が加わって接合部のクラックやオープンなどが起こったり、他の部位と接触して短絡が起こったりしないループ形状が得られるように考慮される。
【0033】
上記したように、パッケージ20に初期接続状態に実装されたSAW共振子10において、パッケージ20の接続端子とSAW共振子10の外部接続電極とのボンディングワイヤによる接続と並列にボンディングワイヤ(調整用ワイヤ)を追加させて接続することにより、挿入損失をほとんど増大させることなく、SAW共振子10の周波数を数十ppmオーダーで小さく変動させることが可能であることを見出した。しかも、従来の、圧電基板やIDT電極をエッチングしたり、逆に、錘などの質量を追加したりするSAW共振子の周波数調整方法のように、SAW共振子自体に加工を加えるものではなく、加工に伴う不純物や異物の残留が生じ難いので、温度特性や信頼性の劣化を抑えることができると考えられる。
【0034】
次に、ステップS5に示すように、ステップS4で調整用ワイヤの接続を施して周波数調整を行ったSAW共振子10の周波数を測定する調整後周波数計測を行い、調整後周波数が周波数規格値の許容範囲にあるか否かを確認する(ステップS6)。調整後周波数が規格値の許容範囲内にあった場合(ステップS6でYES)には、ステップS7に進む。
調整後周波数が規格値の許容範囲を外れていた場合(ステップS6でNO)は、ステップS4に戻って調整用ワイヤ接続による周波数調整を行う。
【0035】
パッケージ20に実装されたSAW共振子10の周波数が規格値の許容範囲内に入っていることが確認された後に、ステップS7に示すように、SAW共振子10をパッケージ20内に封止する。本実施形態では、パッケージ20の上側に、例えば金属製のリッド29を、鉄−ニッケル(Fe−Ni)合金などからなるシールリング28を介してシーム溶接することにより、パッケージ20内部に接合されたSAW共振子10を気密に封止する。以上述べた工程により、SAWデバイス1の一連の製造工程を終了する。
【0036】
本実施形態のSAWデバイス1およびその製造方法によれば、比較的簡便な方法により、挿入損失などを劣化させることなく、周波数が精緻に調整された優れた周波数特性を有するSAWデバイスを得ることができる。また、SAW共振子10の実装に用いるワイヤボンディングにより周波数調整を行うので、工程設備を新たに増設する必要がない。
【0037】
上記実施形態で説明したSAWデバイス1は、以下の変形例として実施することも可能である。
【0038】
(変形例)
上記実施形態では、所謂2ポート型のSAW共振子10とパッケージ20とからなるSAWデバイス1の構成において、SAW共振子10のIDT電極12A,12Bそれぞれのグランド用の外部接続電極18Ab,18Baと、パッケージ20のグランド用の接続端子26A,26Bとを調整用ワイヤ40A,40Bによりそれぞれ接続して周波数調整する例を説明した。これに限らず、SAW共振子の入力側あるいは出力側の外部接続電極とパッケージの入力側あるいは出力側の接続端子とを調整用ワイヤで接続して周波数調整する構成としてもよい。
図4は、SAW共振子とパッケージとの入出力端子に調整用ワイヤを接続したSAWデバイスを説明するものであり、(a)は平面図、(b)は、(a)のC−C線断面図である。なお、本変形例のSAWデバイス50の構成のうち、SAW共振子とパッケージとの入出力端子に調整用ワイヤを接続すること以外の構成は、上記実施形態のSAWデバイスとほとんど同じであるため、上記実施形態と同じ構成については詳細な説明を省略する。
【0039】
図4(a),(b)において、SAWデバイス50は、パッケージ70と、パッケージ70の凹部の凹底部分に接着・固定されたSAW共振子60とが、ボンディングワイヤ80a,80bにより初期接続状態に接続されているとともに、調整用ワイヤ90a,90bが接続されている。そして、パッケージ70上にリッド79が接合されることにより、パッケージ70内にSAW共振子60が気密に封止されている。
【0040】
SAW共振子60は、圧電基板上の略中央に形成されたIDT電極12と、このIDT電極を挟んだ両側に設けられた反射器13と、IDT電極に接続された外部接続電極68a,68bと、を有している。IDT電極12は二つの櫛型の交差指電極を有し、一方の交差指電極のバスバーに連結された複数の電極指12aと、他方の交差指電極のバスバーに連結された複数の電極指12bとが、向かい合って互いに接触しないように配置されて形成されている。IDT電極12の一方の電極指12aを連結するバスバーからは電極間配線が引き出され、圧電基板上の一方の端部近傍に設けられた外部接続電極68aに接続されている。同様に、IDT電極12の他方の電極指12bを連結するバスバーから引き出された電極間配線が、圧電基板の他方の端部近傍に設けられた外部接続電極68bに接続されている。
【0041】
パッケージ70は、略矩形の平板状の第1層基板71、略矩形フレーム状の第2層基板72、第3層基板73およびシールリング78が、この順に積層されて形成されている。パッケージ70の凹部の第2層基板72が形成する段差の棚部には、SAW共振子60との接続に供する入力用または出力用の接続端子75a,75bが設けられている。
【0042】
パッケージ70の凹部の凹底部分には、SAW共振子60が接着剤99により接着・固定されている。SAW共振子60のIDT電極12から引き出された外部接続電極68a,68bと、パッケージ70の対応する入力用または出力用の接続端子75a,75bとは、ボンディングワイヤ80a,80bによりそれぞれ接続されている。このボンディングワイヤ80a,80bによる接続により、SAW共振子60のパッケージ70への初期接続状態が確保され、SAW共振子60が駆動可能な状態になっているが、さらに、SAW共振子60とパッケージ70とには、調整用ワイヤ90a,90bが接続されている。本変形例のSAWデバイス50においては、IDT電極12の電極指12aから引き出された外部接続電極68aと接続端子75aとを接続するボンディングワイヤ80aと並列に調整用ワイヤ90aが接続され、電極指12bから引き出された外部接続電極68bと接続端子75bとを接続するボンディングワイヤ80bと並列に調整用ワイヤ90bが接続されている。調整用ワイヤ90a,90bは、上記したボンディングワイヤ80a,80bによるSAWデバイス50の初期接続状態におけるSAW共振子60の初期周波数の測定値に基づいて、SAWデバイス50の周波数規格値の許容範囲に調整するために接続されたものである。また、調整用ワイヤ90a,90bによるSAW共振子60の周波数調整は、上記実施形態のSAWデバイス1で説明した周波数調整方法と同様な方法により実施することができる。
【0043】
上記した構成のSAWデバイス50によっても、上記実施形態のSAW共振子10の周波数調整と同様な方法により、挿入損失を増大させることなく周波数調整することができるので、周波数が精緻に調整され高信頼性を有するたSAWデバイス50を提供することができる。
【0044】
以上、発明者によってなされた本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明は上記した実施の形態およびその変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0045】
例えば、上記実施形態では、調整用ワイヤ接続ステップと、調整後周波数計測ステップとを分けて説明したが、これに限らず、周波数をモニタリングしながら調整用ワイヤ接続を行う構成としてもよい。この場合、SAW共振子10に駆動電圧を供給するとともに発振出力を検出する周波数カウンタが接続されたフィクスチャとを含む周波数調整用の装置を用意する。周波数カウンタには、予め調整目標となる周波数規格値データ)を有し、周波数カウンタから送られてくる検出周波数と比較する機能を備えた外部演算装置を接続しておくことにより、リアルタイムに調整後周波数を確認しながら調整用ワイヤ接続による周波数調整を行うことが可能になる。
【0046】
また、上記実施形態および変形例で説明したSAW共振子10,60の圧電基板には水晶を用いたが、これに限定されない。水晶以外に、窒化アルミニウム(AlN)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、四ほう酸リチウム(Li247)などの酸化物基板や、ガラス基板上に窒化アルミニウム、五酸化タンタル(Ta25)などの薄膜圧電材料を積層させて構成された圧電基板を用いることもできる。
【0047】
また、上記実施形態および変形例では、IDT電極12,12A,12Bおよび反射器13の形成用金属材料としてアルミニウムを用いたが、これに限定されない。例えば、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)などの金属材料を用いることもできる。また、金(Au)とクロム(Cr)の多層膜、あるいはマグネシウム(Mg)などを用いることも可能である。
【0048】
また、上記実施形態および変形例のSAWデバイス1,50では、パッケージ20,70を用いたが、これに限定されない。例えば、平板状の配線基板を基板として用いて、連続環状の封止材を介してリッドを接合したり、あるいは基板をベースに接着固定して、このベースに蓋体としての所謂CANケースを被せて密閉することによりSAW共振子を気密に封止する構成としてもよい。
【0049】
また、上記実施形態および変形例では、圧電振動片として、2ポート型のSAW共振子10や1ポート型のSAW共振子60を用いた例を説明した。これに限定されず、この他のSAW素子片として、SAWフィルタ、あるいはセンサやコンボルバなどのSAW遅延素子などの、圧電基板上にIDT電極が形成されてなる他のSAWデバイスであってもよい。また、上記SAW共振子10,60において、反射器のない構成としてもよい。
さらには、SAW素子片を搭載したSAWデバイスに限らず、他の圧電振動片を源振として用いた種々圧電デバイスにおいても、本発明の周波数調整方法を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(a)は、実施形態のSAWデバイスに搭載されるSAW共振子を説明する平面図、(b)は、(a)のA−A線断面図。
【図2】(a)は、実施形態のSAWデバイスを説明する平面図、(b)は、(a)のB−B線断面図。
【図3】SAWデバイスの製造工程を説明するフローチャート。
【図4】(a)は、SAWデバイスの変形例を説明する平面図、(b)は、(a)のC−C線断面図。
【符号の説明】
【0051】
1,50…圧電デバイスとしてのSAWデバイス、10,60…圧電振動片としてのSAW共振子、11…圧電基板、12,12A,12B…励振電極としてのIDT電極、12a,12b,12Aa,12Ab,12Ba,12Bb…電極指、13…反射器、18Aa,18Ab,18Ba,18Bb…外部接続電極、20,70…基板としてのパッケージ、25A,25B,26A,26B,75a,75b…接続端子、29,79…蓋体としてのリッド、30Aa,30Ab,30Ba,30Bb,80a,80b…ボンディングワイヤ、40A,40B,90a,90b…調整用ワイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に複数の接続端子を有する基板と、圧電基板上に励振電極および該励振電極に接続された外部接続電極を有する圧電振動片と、を備え、前記接続端子と前記外部接続電極とが接続された圧電デバイスの製造方法であって、
前記接続端子と前記外部接続電極とを接続する圧電振動片実装工程の後で、前記圧電振動片を駆動させて初期周波数を計測する初期周波数計測工程と、
前記初期周波数が所望の周波数規格値の許容範囲から外れている場合に、前記圧電振動片実装工程で接続された前記外部接続電極と前記接続端子との接続と並列に調整用ワイヤを接続することによって、前記圧電振動片の周波数を前記初期周波数から変動させる調整用ワイヤ接続工程と、
前記調整用ワイヤ接続工程の後で、前記圧電振動片の周波数を計測する調整後周波数計測工程と、を含むことを特徴とする圧電デバイスの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電デバイスの製造方法において、
前記調整用ワイヤ接続工程で接続されるボンディングワイヤの長さおよび本数を、前記初期周波数と前記周波数規格値との差に基づいて決定することを特徴とする圧電デバイスの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧電デバイスの製造方法において、
前記圧電振動片実装工程で、前記圧電振動片と前記基板とをワイヤボンディングにより接続することを特徴とする圧電デバイスの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の圧電デバイスの製造方法において、
前記基板がパッケージであり、該パッケージ内に接続された前記圧電振動片を前記パッケージ上に蓋体を接合することにより封止する前に、前記調整後周波数計測工程において前記圧電振動片の周波数が前記周波数規格値の許容範囲内であることを確認することを特徴とする圧電デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−194607(P2009−194607A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32777(P2008−32777)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】