説明

圧電トランス

【課題】 従来の圧電トランスは、振動体を確実に支持するのが難しく、また振動部分に形成される電極にリード線が接続されるため、リード線の接続不良や断線が生じやすかった。
【解決手段】 圧電セラミックなどで形成された振動体10は、支持体11と振動腕12a,12b,13を有している。入力側電極14,14に駆動電圧が与えられると、両側の振動腕12a,12bと中央の振動腕13とが、バランスのよい振動を発生し、出力側電極15から発電された電圧が出力される。支持体11は振動を生じない部分であるため、支持が容易であり、またリード線を接続したときに接続部に応力が作用しない。よって断線などの問題が生じなくなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、圧電振動子を用いた圧電トランスに係り、特に支持が容易で且つ薄型の圧電トランスに関する。
【0002】
【従来の技術】図8は従来の圧電トランスを示す斜視図である。この圧電トランスは、圧電材料で形成された平板型の振動子1の入力部2が厚み方向に分極されて、表裏両面に入力側電極3が設けられている。この入力側電極3に与えられる駆動電圧により、横効果モードによる縦振動が励起される。発電部4では、端面に出力側電極5が設けられており、縦効果モードの電気機械結合係数により出力側電極5から、インピーダンスに応じて変圧された電圧が取り出される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、図8に示す従来の圧電トランスには、以下に示す問題点がある。
(1)振動子1全体が縦振動を発生する構造であるため、安定した支持が難しい。
(2)入力インピーダンスが高いため、縦振動を生じさせるために高い駆動電圧が必要となり、低電圧駆動ができない。
(3)出力側電極5が、縦振動の振幅の大きい部分に形成されているので、この出力側電極5に接続されるリード線に作用する応力が大きく、断線などが生じやすい。
(4)駆動周波数が振動子1の形状および寸法により一義的に決められるため、駆動周波数に選択性がない。
【0004】本発明は上記従来の課題を解決するものであり、安定した支持が可能で且つ振動を生じない部分にリード線を接続することが可能であり、且つ駆動周波数を選択でき、さらに入力インピーダンスを低くして低電圧での駆動も可能な圧電トランスを提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、圧電材料で形成された支持体から平行に延びる入力側の振動腕および出力側の振動腕と、前記入力側の振動腕に形成された入力側電極と、この入力側電極に交流駆動電圧を与えて前記各振動腕を振動させる交流駆動電源部と、前記出力側の振動腕に形成されてインピーダンスに応じて変圧された発電電圧を取り出す出力側電極と、が設けられていることを特徴とするものである。
【0006】例えば、入力側電極に与えられる交流駆動電圧によって、入力側の振動腕に、横効果モードにより腕の延び方向に伸縮する縦振動が励起され、これにより出力側の振動腕が同様に縦振動を生じるものであり、出力側電極から、出力側の振動腕の縦振動により発電された電圧が取り出されるものとなり、
【0007】あるいは、入力側電極に与えられる交流駆動電圧によって、入力側の振動腕に、横効果モードにより腕の延び方向に伸縮する縦振動が励起され、これにより出力側の振動腕に縦振動と屈曲振動との結合振動を生じるものであり、出力側電極から、出力側の振動腕の縦振動により発電された電圧が取り出されるものとなる。
【0008】また、出力側の振動腕の出力インピーダンスが、入力側の振動腕の入力インピーダンスよりも高く、出力側電極から昇圧された電圧が出力される構成とすることも可能である。
【0009】あるいは、出力側電極の面積を大きくして、出力側電極から大電流の出力を得るようにすることも可能である。
【0010】さらに、入力側電極と出力側電極とが支持体に延び、この支持体の部分に、前記各電極とリード線との接続部が形成されているものとすることができる。
【0011】本発明の圧電トランスは、圧電材料により支持体と、入力側の振動腕および出力側の振動腕とが一体に形成された二脚音叉型または三脚音叉型あるいは四脚以上の音叉型として構成できる。
【0012】この二脚以上の音叉型の圧電トランスは、支持体の部分に入力と出力に直接に関与する大きな振動が生じないため、この支持体を支持することが可能となり、支持固定構造を簡単にできる。特に三脚音叉型において、両側の振動腕を同じ位相で振動させ、中央の振動腕を前記両側の振動腕と逆の位相で振動させると、全体としてバランスのよい振動が可能となり、支持体を剛性支持することも可能になる。
【0013】したがって、前記支持体に入力側電極および出力側電極を延ばし、支持体の部分でリード線を各電極に接続する構造にすると、リード線が接続されている部分に振動および応力が作用しなくなり、または作用してもその大きさが小さくなる。よってリード線の接続不良や断線が生じにくくなる。
【0014】この圧電トランスでは、例えば入力側の振動腕と出力側の振動腕を、同じ位相で縦方向に伸縮させ、または異なる振動で縦方向に伸縮させ、あるいは振動腕に、縦振動と屈曲振動との結合振動を生じさせることができる。この各振動モードでは、駆動周波数が互いに相違するため、この圧電トランスは、複数の周波数での駆動が可能となり、駆動周波数の選択性を持たせることができる。
【0015】また、前記結合振動では、入力インピーダンスが低くなるため、低電圧駆動が可能になる。
【0016】
【発明の実施の形態】図1(A)は本発明の圧電トランスを示す平面図、図1(B)はその裏面図、図2は図1(A)のII矢視の端面図、図3(A)(B)は振動モードの説明図、図4は等価回路図である。図1に示す圧電トランスの振動体10は、全体が圧電セラミックなどの圧電材料で形成されており、支持体11と、入力側の振動腕12a,12bおよび出力側の振動腕13とが一体に形成されている。各振動腕12a,12bおよび13は、平面形状および寸法が全て同じであり、且つ互いに平行に延びている。図2に示すように、各振動腕12a,12bおよび13では、全て誘電分極方向が矢印で示すように厚さ方向である。
【0017】図1(A)に示すように、振動体10の表面側では、入力側の振動腕12aと12bに、比較的広い面積の入力側電極14,14が形成されており、出力側の振動子13には比較的狭い面積の出力側電極15が形成されている。入力側電極14,14に一体に形成されたランド部14a,14aは、支持体11の基端部に延びている。また出力側電極15に一体に形成されたランド部15aも、支持体11の基端部に延びている。
【0018】図1(B)に示すように、振動体10の裏面側では、入力側の振動腕12a,12bにアース電極16a,16aが形成されており、このアース電極16a,16aは、前記入力側電極14,14と同じ面積で、入力側電極14,14に対向して形成されている。中央の出力側の振動腕13には、アース電極16bが形成されている。このアース電極16bは、前記出力側電極15と同じ面積で、出力側電極15に対向して形成されている。また、アース電極16a,16aおよび16bは、導体パターンで一体に形成されており、このアース電極と一体に形成されたランド部16c,16cは、支持体11の基端部に延びている。
【0019】図2に示すように、各アース電極16a,16aおよび16bは、ランド部16cに接続されたリード線により接地電位に接続される。また交流駆動電源部17から延びるリード線は、ランド部14a,14aに接続され、出力側電極15と一体のランド部15aが出力部となっており、この出力部に接続されたリード線と接地電位との間に出力電圧Voutが得られる。
【0020】図4は振動体10の等価回路を示しているが、Cd1は入力側の振動腕12aと12bの制動容量、Cd2は出力側の振動腕13の制動容量、m1,s1,r1は、各振動腕12a,12bおよび13の等価質量、等価スチフネス、等価共振抵抗である。またA1は入力側の振動腕12a,12bの力定数であり、A2は出力側の振動腕13の力定数である。
【0021】図3(A)(B)は、図4に示す等価質量での振動モードを示しているものであるが、交流駆動電源部17から各入力側電極14,14に所定の周波数の交流駆動電圧が与えられると、両側の振動腕12a,12bでは、横効果モードの電気機械結合係数K31による縦振動が励起され、振動腕12aと12bが縦方向に伸縮振動し、且つ出力側の振動腕13も伸縮振動する。図3R>3(A)に示す振動モードでは、両側の入力側の振動腕12a,12bと、中央の出力側の振動腕13が逆の位相で縦振動を生じる。例えば両側の振動腕12aと12bが長手方向に伸びたときに中央の振動腕が縦方向に縮む。図3(B)に示す振動モードでは、両側の振動腕12a,12aと、中央の振動腕13とが同時に縦方向に伸び且つ同時に縮むように同位相の振動を生じる。このとき、中央の出力側の振動腕13では、出力側電極15とこれに対向するアース電極16bが小面積であるため、出力インピーダンスが高くなり、出力側電極15と接地電位との間に、昇圧された電圧(Vout)が出力される。この場合に、図3(A)に示す振動モードと、図3R>3(B)に示す振動モードとで、振動体10の振動周波数が相違する。
【0022】この圧電トランスの振動体10は音叉型であるため、支持体11の部分を支持することが可能となるため、図8に示すように全体が同じ状態で振動する振動子となっているものに比べて、支持が容易である。特に、三脚音叉型において、両側の入力側の振動腕12a,12bとが同じ位相で振動し、中央の出力側の振動腕13が前記各振動腕12a,12bと逆の位相で振動するモードに設定すると、振動体10全体としてバランスのよい振動が発生する。また、支持体11には捻りなどの歪みおよび実質的な振動が発生しなくなり、支持体11の基端部を剛体で支持することも可能である。同様に二脚音叉型においても、2つの振動腕が異なる位相で振動するモードに設定されると、支持体11の部分を支持しやすくなる。
【0023】一方、図3(B)に示すように、各振動腕12a,12bおよび13が同じ位相で振動するものでは、支持体11にも伸び振動が発生するが、この場合には支持体11に振動の節が形成されるように全体の構造を設定しておくことにより、前記節の部分で振動体10を安定して支持することが可能になる。このように、音叉型の振動体で構成した圧電トランスは、支持が容易であり、支持構造を簡単にできる。また、各電極のランド部14a,15a,16cは、支持体11の基端部に位置しているため、これらのランド部にリード線を接続したときに、リード線の接続部に応力が作用せず、リード線の外れや断線を防止できるようになる。
【0024】図5は本発明の圧電トランスを他の振動モードで駆動する場合を示しており、(A)は平面図、(B)はその端面図である。この圧電トランスの振動体10は、図1(A)(B)に示したものと同じであり、支持体11と、3個の平行な振動腕12a,12bおよび13とが、圧電セラミックなどの圧電材料で一体に形成されている。この振動体10では、全ての振動腕12a,12bおよび振動腕13が同じ寸法である。図5の圧電トランスでは、中央の振動腕13が入力側であり、両側の振動腕12a,12bが出力側となる。中央の振動腕13に縦方向へ一次の伸縮振動αが励起されたときに、両側の振動腕12aと12bが、所定の振動数で、一次の伸縮振動(縦振動)αと、片持ちによる二次の曲げ振動βとの結合振動(複合振動)を生じるよう、各振動腕の縦方向寸法Lと幅方向寸法Dが設定されている。
【0025】図7は、振動腕12a,12bおよび13の長さ寸法Lと幅寸法Dとの比(D/L)と振動周波数fとの関係を示している。faは縦振動の周波数の変化、fbは屈曲振動の周波数の変化を示している。縦振動の周波数と屈曲振動の周波数は、D/Lが所定の値のときに一致する。よって、振動腕12a,12bおよび振動腕13の寸法比D/Lが、図7の結合領域となるように設定されると、図5(A)に示す結合モードでの振動を励起させることができる。
【0026】入力側である中央の振動腕13は、厚み方向へ分極されており、表面に入力側電極(駆動側電極)21aが、裏面にアース電極21bが形成され、前記入力側電極21aに交流駆動電源部22から交流駆動電圧が与えられる。出力側となる両側の振動腕12aと12bは、幅方向に分極されている。両振動腕12aと12bは、内側の側端面に、アース電極23a,23aが形成され、外側の側端部には出力側電極(発電側電極)23b,23bが形成されており、出力側の電極23aと23bは、両側の振動腕12a,12bにおいて幅方向Dにて対向して形成されている。また、各出力側電極23b,23bに接続された出力リード線が出力端子24と24に延びている。
【0027】交流駆動電源部22から、入力側電極21aに所定の周波数の交流駆動電圧が与えられると、入力部である中央の振動腕13が横効果モードの電気機械結合係数K31で、一次の伸縮振動(縦振動)αを励起する。前記縦振動が所定の周波数で起きると、振動体10全体では、両側の振動腕12aと12bが、一次の伸縮振動(縦振動)αと、二次の屈曲振動(板面方向への曲げ振動)βを生じ、振動腕12aと12bとでは、二次の曲げ振動βが対称の向きで生じる。出力側である両側の振動腕12a,12bでは、分極方向が幅方向で且つ側端面に小面積の電極23aと23bが幅方向Dに間隔を開けて形成されているため、出力側のインピーダンスが高くなり、出力端子24と24には、縦効果モードの電気機械結合係数K33により、昇圧された電圧が取り出される。
【0028】図6は、振動腕が縦振動と屈曲振動の結合振動を生じているときの等価回路図を示している。Cd1は入力側の振動腕13の制動容量、Cd2は出力側の振動腕12a、12bの制動容量、m1,s1,r1は、出力側の振動腕12a,12bの伸縮振動(縦振動)モードでの等価質量、等価スチフネス、等価共振抵抗、m1′,s1′,r1′は、振動腕12a,12bの屈曲振動モードでの等価質量、等価スチフネス、等価共振抵抗である。またn1とn2は、伸縮振動(縦振動)モードと曲げ振動モードでの力係数である。この振動体10では、振動腕の伸縮振動および曲げ振動が同じ固有振動数で共に共振状態となるため、m1とs1、およびm1′とs1′は、共振により実質的に無視できる。よって等価共振抵抗r1とr1′によって入力側のインピーダンスが決まる。前記等価共振抵抗r1とr1′は並列であるため、入力側のインピーダンスが低く、低電圧での駆動が可能となる。
【0029】すなわち、図5(A)(B)に示す圧電トランスは、結合振動(複合振動)を用いることにより入力インピーダンスが低く、低電圧で駆動が可能であり、且つ昇圧率の高いものとなる。このように、本発明の音叉型の振動体を用いた圧電トランスでは、各振動腕12a、12bおよび13が、図3(A)に示すモードと、図3(B)に示すモード、さらには図5(A)に示す結合モードで振動するが、それぞれのモードで、振動周波数が相違する。したがって、同じ構造のものであっても、使用周波数を選択できる。
【0030】また、図1(A)(B)に示すものでは、出力側電極15およびこれと対向するアース電極16bの面積を変えることにより、出力側のインピーダンスを調整でき、電極15と16bの面積を小さくすれば、高インピーダンスとなって昇圧率を高くでき、電極15と16bの面積を大きくすると、低インピーダンスとなって、昇圧率が低くなるが、大きな電流出力を得ることができる。そして図5(A)に示すように、縦振動と屈曲振動との結合振動モードを用いれば、入力インピーダンスを低くでき、低電圧駆動が可能になる。
【0031】
【発明の効果】以上のように、本発明の圧電トランスでは、支持体の部分を支持できるため、支持構造が簡単になる。特に三脚音叉型では、全体がバランスの良い動作を生じるため、支持体の部分を剛体支持することも可能である。また、前記支持体の部分で電極にリード線を接続することにより、リード線へ作用する応力を小さくでき、接続不良や断線が生じにくくなる。
【0032】さらに、各振動腕の振動モードにより駆動周波数を選択することができ、また入力インピーダンスを低くしたり、出力インピーダンスを高くすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は本発明の第1の実施の形態の圧電トランスを示す平面図、(B)はその裏面図、
【図2】図1(A)に示す第1の実施の形態の圧電トランスのII矢視の端面図、
【図3】(A)(B)はそれぞれの振動腕の縦振動モードを示す平面図、
【図4】図1に示す圧電トランスが縦振動で駆動される場合の等価回路図、
【図5】(A)は本発明の第2の実施の形態の圧電トランスの平面図、(B)はその端面図、
【図6】図5に示す圧電トランスが結合振動を生じる場合の等価回路図、
【図7】振動腕の縦と幅の寸法比と振動周波数との関係を示す線図、
【図8】従来の圧電トランスの斜視図、
【符号の説明】
10 振動体
11 支持体
12a,12b,13 振動腕
14 入力側電極
14a ランド部
15 出力側電極
15a ランド部
16a,16b アース電極
16c ランド部
21a 入力側電極
21b,23a アース電極
23b 出力側電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電材料で形成された支持体から平行に延びる入力側の振動腕および出力側の振動腕と、前記入力側の振動腕に形成された入力側電極と、この入力側電極に交流駆動電圧を与えて前記各振動腕を振動させる交流駆動電源部と、前記出力側の振動腕に形成されてインピーダンスに応じて変圧された発電電圧を取り出す出力側電極と、が設けられていることを特徴とする圧電トランス。
【請求項2】 入力側電極に与えられる交流駆動電圧によって、入力側の振動腕に、横効果モードにより腕の延び方向に伸縮する縦振動が励起され、これにより出力側の振動腕が同様に縦振動を生じるものであり、出力側電極から、出力側の振動腕の縦振動により発電された電圧が取り出される請求項1記載の圧電トランス。
【請求項3】 入力側電極に与えられる交流駆動電圧によって、入力側の振動腕に、横効果モードにより腕の延び方向に伸縮する縦振動が励起され、これにより出力側の振動腕に縦振動と屈曲振動との結合振動を生じるものであり、出力側電極から、出力側の振動腕の縦振動により発電された電圧が取り出される請求項1記載の圧電トランス。
【請求項4】 出力側の振動腕の出力インピーダンスが、入力側の振動腕の入力インピーダンスよりも高く、出力側電極から昇圧された電圧が出力される請求項1ないし3のいずれかに記載の圧電トランス。
【請求項5】 入力側電極と出力側電極とが支持体に延び、この支持体の部分に、前記各電極とリード線との接続部が形成されている請求項1ないし4のいずれかに記載の圧電トランス。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate